イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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※妄想が酷い
※オリジナル設定がありすぎる
※もはやこれはイナイレか?

ってくらい原作が破壊しております。


第四十七話 空虚

 世の中、知らなくてもいいことだってあるかもしれない。

 だけど、知らないままでいたら、ダメな気がしたんだ。

 

 

「あのさ」

 坂野上に言われた通り、アーロンは七光咲の過去を彼に話そうとした。だがそのとき、彼が声を上げたのだ。

「これは監督から聞いたんだけど……咲さんには零儚っていう狐の怪異が取り憑いていて、その怪異が咲さんに能力を与えているんだって。それも、歌を聴いた人の精神世界に入り込んで、脳を麻痺させちゃうっていうので、さっきの君の作戦の目的でもある天戴無窮の稼働に利用されているんだってことを聞いたよ」

 坂野上は、自分の知っていることがアーロンにとっては知らない事実かもしれないと考え、アーロンが話そうとしたその横から口をはさんできたのだ。

 それにアーロンは、坂野上の話した内容に「なるほど」と言いたげに顎を拳の上に乗せ、その腕を空いた手で支える。

「そのようなことを、貴方のチームの監督さんから聞いたんですね」

「俺たちからすれば、ただ咲さんの歌が稼働に利用されているってことしか知らないけど……アーロンは何か知ってる?」

 坂野上の問いに、アーロンは少し口を閉ざしてから言った。

「そうですね、教えましょう。いいですか? 咲さんの能力は、先ほど貴方の仰ったように、歌を聞いた人の精神世界に入り込んで、脳を麻痺させてしまうというものです。しかし、これだけでは具体的ではありませんよね。ですが、こう言い換えればどうでしょう。もしもその能力が、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「魂の一部を吸い取る……」

 坂野上の中で、戦慄が走った。

「といっても、これは僕の仮説であり、たらればの話ですけどね。ですが、坂野上さん。人の魂には力があります。魂がなければ、人は生きていませんし、心もありません。だからこそ人は生きようと抗い、その力はそのまま魂の力となります。天戴無窮は、その魂の力を利用して、天界を壊そうという寸法なのでしょうね。ですがそれは、一部ながらも人の魂を削ってしまうことになる。あとは、わかりますね」

 魂の力。そういうアーロンの言葉には、重みを感じた。

 生きていたい。だからこそ抗う。仮説にすぎないだけなのに、今の坂野上には空から降りそそぐ雷のように響いた。

「この話は終わりにしましょう。仮説を考察しても、意味はありませんので。では、改めて彼女のことを話しますね。ですが、一応言っておきます。彼女はあまり自分のことを他人に話したがりませんし、なんなら僕が今話そうとしていることにも矛盾や相違があるかもしれません。あくまで参考程度にどうぞよろしくおねがいいたします」

 そうしてアーロンは話し始めた。

 七光咲。ななみつさき。

 年齢は13歳。性別は女。種族は人間。

 芸名は憑坐柑奈。よしましかんな。由来は芸名を考えるときに、休憩として図書館でてきとうに読んだ二つの本のタイトルからだとのこと。柑奈の部分は本当は神名にしたかったらしいが、それでは堅苦しくファンがとっつきにくいとのことで柑奈になったらしい。

 アイドルになった理由は、幼い頃から歌を歌うことが好きで、いつかは自分の歌を世界に広めたいと考えたからだという。

 性格はアーロンから見たら天然。しかし隠れて泣いているところを何度も彼は見ているため、本当は泣き虫ではないかとアーロンは考えているとのこと。

 彼女は学校の送迎の際に事故に巻き込まれ、両親が死亡。病院で3か月に渡る入院生活をしていた。その後はミラージュ社団法人が運営している孤児院で暮らしており、彼女がアイドルになった理由の一つには、孤児院に住む子供たちの援助がしたいというのもあった。(ちなみに今もギャラの一部を孤児院に寄付している)

 彼女の親はいわゆる自分の価値観を子供に押し付ける毒親であり、アイドルになりたい彼女の意志を否定し、公務員になれと迫ってきたという。しかし、その両親も先ほどの事故で死んでしまう。小学2年生の時に。

 彼女は必死に歌の練習をし、小さなオーディションに合格したことがきっかけで、音楽活動をスタートさせた。

 

 

「……と、以上が僕の知っていることになります」

 彼が話したことを要約すると、前述したような文書にはなるが、実際にはかなり長い時間を費やして話したと思われる。語り始めた間にも、坂野上が質問することだってあったり、喉も少し乾いたのだろう。彼はすっかり冷めてしまったお茶を飲みほした。

「そうなんだ……」

「話しておいてなんですが、大丈夫ですか?」

「平気だよ、ありがとうアーロン。咲さんのことを話してくれて」

「お礼を言われるほどのことはしていません。それよりもそろそろ寝た方がよろしいのでは? 決行は明日の夜8時ですが、作戦決行のための準備もありますし」

 すっかり時計の針は12時を指しており、すっかり日付は変わってしまっていた。それにアーロンが坂野上に寝るように諭すと、彼は食べ終えたお菓子のごみや飲み干したお茶のカップなどを片付け始めた。

「そうだね、お茶ありがとう。おやすみ」

「おやすみなさい、よい夢を」

 坂野上はソファから立ち上がり、部屋の扉に向かって歩いた。そして扉を開けて廊下に向かうところで、坂野上はアーロンに夜のあいさつを済ませた。そして彼の返事を聞いたところで部屋を退室し、すぐさま近くの化粧室に向かった。自分の部屋には灰崎と一星がいるため、自分の目の中に溜まっている涙を見せたくはなかったのだ。

「う、ううっ……」

 ジャージの袖で涙を拭ったものの、涙は歯止めをきかずに目から零れ落ちる。今まで人の過去を知ろうとしなかった反動がきてしまったのだろうか。

 いや、覚悟はできていた。大切な仲間の事情を知りたいと思ったから。

 だが、知ったところでどうする?

 彼女の過去を聞いて、同情でもするのか?

 結局、過去を聞いたところで、自分にできるのはそれくらいしかない。

 だが、純粋な彼女が自分の能力と怪異について知ってしまったら、どう思うのだろうか。

 過去を話すよりも、過去を知ってしまったときのことが一番恐ろしかった。

 それが一番彼女を傷つけてしまうような気がして。

 

 ***

 

 どこかでそう思っていたのかもしれない。

 七光咲の過去を知っているのは自分だけだと。

 坂野上が退室したあと、彼は寝る前に済ませておこうと思い、部屋近くの化粧室に向かったのだ。だが、アーロンはそこで涙を流している坂野上を見つけてしまった。

 彼は泣いているのだ。

 自分のことではなく、七光咲のことで。

 彼女、七光咲とは、自分が11歳の頃に知り合った。特別なコンサートのボーカルとしてマネージャーから紹介されたのが彼女であり、コンサートの練習のためにと連絡先を交換しあったのがきっかけだった。咲とはお互いに音楽が好きだということで意気投合し、コンサートが終わった後もプライベートで何度か会うことも増え、関係を2年近く続けていた。

 しかし、アーロンはある時に彼女の過去を思いがけない形で知ってしまうことになった。それは子供タレントの親にインタビューするというバラエティー番組のよくある企画を彼女が断ったため、アーロンは疑問に思いながらメールでその理由を聞いたのだ。すると彼女は、自分には親がいないということをアーロンに教えた。そして、親がいない理由、自分は今どこに住んでいるのかをアーロンに話してくれたため、彼は彼女の過去を知ることになったのだ。

 坂野上が咲を純粋だと思うように、アーロンも思っていた。

 坂野上が部屋に来た時に言われた、「君は咲さんの『何』なの」という問いには、アーロンも言葉を詰まらせた。思わずただの知り合いだと答えてしまったが、坂野上のいうように、自分は彼女の何であろうか。

 そう考えてしまって、しばらくは眠ることができなかった。

 

 ***

 

 その翌日の夜、明日人たちはそのほかの人物をホテルに残し、作戦の実行のためにピサの斜塔の広場に来ていた。ピサの斜塔の広場は、式典のための飾りやイルミネーションで夜空の星は光で霞んでおり、また式典を生で見に来た多くの人々やカメラマンによって広場に詰めかけていた。

「あれ、坂野上目が腫れてるけど、大丈夫か?」

 斜塔近くの建物の影に身を潜めていた明日人たちだったが、明日人は昨日見た時にはなかった坂野上の顔の変化に気づき、心配の声を上げた。

「あ、あぁ大丈夫です明日人さん。今日の作戦にはなんの支障もありません」

 昨日泣いてしまっていたことを悟られぬよう、坂野上はえへへと明日人を誤魔化した。

「皆さん聞いてください。咲さんの居場所がわかりました」

 明日人たちを呼び寄せたアーロンは、スマホの画面に表示された翻訳済みのページを彼らに見せた。

「SNSで、ゲストとして咲さんがピサの斜塔の屋上で稼働前の歌を歌うと公式ホームページのプログラムに書かれています。昨日まで、咲さんの居場所はわからなかったのに、これは怪しいと思いませんか?」

 スマホにはピサの斜塔に関するニュースが表示されており、その中のイタリア語のサイトでは、『ゲストとして日本の中学生アイドル、憑坐柑奈が出席。『天戴無窮』稼働前の余興として一曲歌う』と書かれていた。昨日まで、そんなページはなかったはずだ。

「つまり、咲の居場所を特定はできたが、それには何か裏があるってことだよな。そもそも監督から聞いた話によれば、天戴無窮は政府が勝手に咲の能力を当てにして作ったものなんだろ。ということは、今になって俺たちを試しているってことか?」

 ヒロトが今になって突然表示された、咲の居場所に関する考察をしている中、明日人たちの中には不穏な空気が漂っていた。

「それって、まるでゲームみたいじゃないですか! 俺たちが咲さんを取り戻せるかっていう……」

「チッ、趣味がわりぃぜ」

 まるでゲームみたいだ、と一星がこの状況を表現する中、灰崎は苛立ちを覚えながら横目で周りを見渡していた。

「くそっ、じゃあ作戦通りにはいかないってことか……」

 円堂は、歯を食いしばって悔しさに心を抑えていた。このままでは咲を助けることなどできない。ましてやそれをゲーム感覚のように楽しむ政府の人間に、いつもはおおらかな円堂も憤りを覚えたのだろう。

『明日人、どうする?』

 作戦が破られた今、ここからは臨機応変に動かなくてはならない。そのような状況に、アカツキが脳内で明日人に問いかけてきた。

「……よし」

 それに明日人は、目を瞑った。そして少し経った後に明日人は目を開け、新たな決意を心の中に満たす。

「皆……咲さんは俺たちの仲間だ。絶対に助けなきゃいけない。そのために俺たちができることは、みんなで力を合わせることだ! この状況がゲームだというんだったら、ゲーム以上のことをすればいいんだ!」

 胸に手を当てながら、明日人は彼らの中にある不穏な気持ちを取り払う。

「……あぁ、そういうこった。キャプテン」

「助けなきゃ、いけませんね」

 その明日人の決意の言葉を聞いた彼らは、忘れかけていた仲間の存在を思いだした。そして、たとえどんな状況下にあろうと、この身を削って助け出すという決意をする。

 それに____ヒロトと一星が答えた。

「一星、ヒロト……」

「明日人くん、俺たちがあそこにいる警備員たちをひきつけます。その間に、明日人くんたちは中に」

 一星は持っていたサッカーボールを右手に、左手でピサの斜塔の入り口を指さした。入り口は警備員と立ち入り禁止のテープで張られており、いかにもそこに咲がいるという雰囲気を醸し出していた。

「____わかった。お願い」

「はい……ハーツアンロック!」

「ハーツアンロック!!」

『リライズ!』

 二人がハーツアンロックの発動を宣言すると、彼らの体は水色と金色とそれぞれの光に包まれ、その光がはじけた瞬間、彼らの衣類は普段とは違う容姿に変わっていた。

「派手にぶっ飛ばすぜ!」

 蛇の怪異の影響で元の髪の白と灰が逆転し、服も昭和の改造制服のようになったヒロトは、足に取り付けられたロータースケートで、瞬きひとつで建物の影から式典の真上に跳んだ。そして持っていたサッカーボールを蹴り上げ、その先のボールをまた蹴ってボールのパワーを溜めた。

 そして、

『ビッグバン・エクスプロージョン!!』

 そのボールはまさに宇宙が誕生した瞬間のビッグバンに相当するほどの大爆発を起こし、日本でいうところの花火を表現した。(にしては音がでかい)そのため、式典を見に来た人々は大盛り上がりであった。

『見てー! すごーい!!』

『オー! ジャパニーズファイアワークス!』

『なんだなんだ?』

 プログラムにない突然の花火に警備員も驚いたのか、一斉にヒロトが打ち上げた即席の花火に視線を向け、その方向へと走り出した。

「今です!」

 ヒロトの誘導によって一か所に集まった警備員に、一星はハーツアンロックの走りによって風を警備員の周りに創り出し、竜巻を発生させた。それは警備員たちからすれば周りに何も見えない状況であり、まさに風という名の壁を作っていた。

「よし、今のうちだ!」

 警備員たちがその壁の存在にうろたえ、周りが見えていない瞬間に、明日人たちは一斉にピサの斜塔への入り口に向かい、立ち入り禁止のテープを潜り抜けて中に入った。

「あとは頼みましたよ……!」

 それを見送った一星は、明日人たちの健闘を祈った。

 

 ***

 

 ピサの斜塔の内部は、石畳でできた柱に壁、そしてその床を敷き詰める絨毯と、明日人たちをまるで遺跡内にいるのではないかと錯覚させた。

「あとは階段を上り、七光を助け出すだけだが、警戒を怠るな。みんな」

 鬼道は警備員がいなくなった後も、警戒心を薄めることはせず、柱の影に皆を誘導し、敵がいないかを確認した。

「……問題ありませんか?」

 明日人が少し頭を出した瞬間。

『危ないッ! 伏せろ!』

 こちら側に飛んでくる飛来物に鬼道がいち早く気づき、頭を出した明日人を含め、皆を広げたマントの中に隠した。その直後に、マントの裾が謎の白い物体によって切れ、それは壁へと突き刺さった。

「いってて……って鬼道! 大丈夫か!?」

「あぁ、幸いマントが切れただけのようだ」

 突然押し倒されたが、円堂は痛めた尻を気にすることなく、鬼道の体を心配した。

「まじかよ、まだ気が抜けねぇってのかよ」

「さすが、重要な人間を隠しているだけのことはあるね……」

 灰崎とフロイは、これからもこのような罠が続くのであれば、咲を助けるどころか、自分たちがけがを負ってしまい、咲を助け出すことはできないのではないかと考えていた。

「……あれ、これって……紙?」

『君たちも来ていたのか』

 明日人が壁に突き刺さり、重力に従って垂れ下がっている白い物体の正体に気づくや否や、先ほどの飛来物が飛んできたあたりの柱の影から、見覚えのある姿が現れた。

「れ、レン!? エレン!?」

「それにメリーまで……一体なんの用なんだい」

 柱の影から現れたのは、明日人たちの敵であるユースティティアの大天使、レンとメリー。そして熾天使でもあり天使たちの統率者のエレンもいたのだ。レンの右手にはお札があり、先ほどの飛来物はレンが放ったものだと明日人は瞬時にわかった。

「なるほど、君たちも目的は違えど、ここに用があるというわけだな」

 レンは一目で彼らの目的を判断すると、右手に持っていた札をしまい、戦闘態勢から解除した。

「まさか、お前たちも咲を助けにか!?」

「まぁ……本当はそうしたいのだけれど、違うわ。今の私たちの目的は、()()()()()()()()()()の回収よ」

 円堂に目的を話す間、エレンは積み重ねられた石畳の壁の中のひとつの石に右手を当て、それを押し込んだ。その直後、右手のスイッチの左隣の石畳が上に上がり、中から地下に続く階段が現れた。

「ちなみに、もう天戴無窮なら壊してあるわ。だから、貴方たちはあの子の救出に専念なさいね」

 一時休戦よ。と告げながら階段を降りていくエレンたちに、明日人たちは怪しさを感じざるを得なかった。

「……どうする?」

「まずアストは行っちゃだめだよ。これは決まっているからね」

 どうしようかと皆に相談した明日人に、フロイはすぐに明日人に釘をさした。明日人のことだから、きっとエレンたちについて行ってしまうのではないかとフロイは考えたのだ。

「では、僕が行ってまいります」

「待てよ、だったら俺も行くぜ」

「灰崎だけでは心配だ。俺も行こう」

 アーロンはレンの言ったウルティムス・ステラというものが気になったのか、エレンに着いて行ってしまった。それを追いかけるように、灰崎と鬼道もアーロンについていってしまった。

「僕も行くよ」

 フロイも灰崎達が心配になったのか、小走りで隠し扉の方に行ってしまった。

「円堂さん……」

 円堂も彼らと同じように離れてしまうのではないかと考え、坂野上が不安そうに彼の名を呼んだ。その時だ。

『これより、稼働前のお祝いとして、ゲストの憑坐柑奈による独唱になります』

 式典はいつの間にか進んでしまっており、いよいよ咲の歌によって天戴無窮が稼働してしまうという寸前までに至っていた。

「嘘だろ!?」

「もう進んでいたんですか!?」

「急ぐぞ!」

 円堂たちは、フロイたちのことが心配になったものの、咲を助けるために急いで屋上への階段を走った。

 

 ***

 

「おい、お前がさっき言ったウルティムス・ステラっていうのはなんだよ」

 明日人たちが屋上への階段を登る中、反対に灰崎たちは隠し扉の階段を降りていた。その道中で灰崎は、階段を降りる前にエレンが言った『ウルティムス・ステラ』という単語の詳細を本人に聞いていた。

「……()()()、といった方がいいだろう」

「神遺物だって!?」

 しかし、エレンの代わりにレンが灰崎の質問に答えた。エレンでは彼らに喋りすぎてしまうと考えたのだろう。横から口をはさむ。まぁ、エレンたちの目的の一つであるウルティムス・ステラが、まさか怪異と同じ神遺物であるということに灰崎達は驚きを隠せず、思わず声をあげてしまってはいたが。

「人には星力という魂の原動力がある。その星力から、無尽蔵のエネルギーを創り出せる神遺物。それがウルティムス・ステラだ。最近になって北極で見つかったらしい」

「ちなみにそれは、お父様が教えてくれたの!」

 レン曰く、10年前に北極の探検隊が雪の中にあったウルティムス・ステラを見つけ、博物館に寄贈したのがきっかけだという。しかし、それがなぜこのピサの斜塔にあるのかは謎だが、エレンたちがその神遺物が目的であることだけはわかる。

「(ウルティムス・ステラ……? なんでだ、初めて聞いたってのに、懐かしい……)」

 鬼道たちが衝撃の事実を知って驚いている中、灰崎はエレンの言う神遺物の単語にデジャヴを感じていた。今までそんな単語、聞いたことすらないのに。

「ここよ。あの機械に刺さっているのがウルティムス・ステラよ」

 階段を降りた先には、台座のような機械があった。その機械は淡く青色に光っており、部屋を少しだが照らしていた。

「あれが、ウルティムス・ステラ……」

 灰崎の目に映っている神遺物は、台座に突き刺すような形で保管されていた。日本刀の形状によく似た剣であったが、その剣は今や刃も柄も鍔も黒く染まっており、神遺物とは一見思えなかった。

「なるほど……あれが神遺物というわけか」

「…………」

 灰崎達は、しばらくその剣を見つめていた。その間にレンがエレンとメリーを待機させて、ウルティムス・ステラの回収をしようと動き出そうとした。

『うわっ!』

 だがレンが一歩前へ踏み出したその時だ。

「大人しくしろ!」

「ぐあっ!」

「灰崎!」

 階段から大勢の武装兵士が現れ、灰崎たちを後ろ手に拘束したのだ。この斜塔の警備員たちは、今外で一星とヒロトが引き付けてくれているはずだ。それなのに、今は自分たちを押さえつけている。いったい何故なんだと鬼道が考えていると、今度はゆっくりと階段を降りる音が響き、鬼道はその音の方に首を動かした。

『まさか、ユースティティアの天使までもがこのウルティムス・ステラを狙うとはな』

 階段から現れたのは、タイで灰崎たちを処刑しようとしていた王様であり、その後ろには親衛隊らしき少年たちが揃っている。

「……貴方にはつくづく失望しますよ」

 その姿を見たアーロンが、王を蔑むように呟く。

「ふん、裏切り者が何をほざくか。……おっと動くな、貴様らが一度でも儂に攻撃を与えようものなら、お前の部下の頭に風穴があくぞ」

 王は親衛隊を裏切ったアーロンを睨みつけたかと思えば、今度は武器を構えようとしたレンとエレンの方を向く。

「エレンお姉さま……レンお兄さま……」

「くっ……」

 メリーは兵士に後ろ手で拘束されており、頭には銃口が当てられていた。おまけにメリーの腕には謎の腕輪が装着されており、その腕輪のせいで力が出せず、クロスハートもできないという状態になっていたのだ。

 このままでは、メリーが危険な目に遭ってしまう。そう考えたエレンは、目でレンにサインを送ると、饒舌に喋り始めた。

「あら、本当にそんなものでメリーの頭を貫けると思っているの? 私は知ってるわ、メリーの強さが。今はどうやらその力を行使することはできないみたいだけど、そんなことは予想済みなのよ。それに、私にはそれを実行するだけの力がある。私が今ここでサインを示したら、きっとメリーは力を取り戻して、貴方たちを殺すと思うわ」

 もちろん、今エレンが話していることは、嘘も混ぜた真実だ。だが、時間を稼ぎ、なおかつメリーを離すであろう方法はこれであった。確かにエレンにはメリーを戒めている手錠を外すくらいは簡単だ。おまけに、技を出さずしても人間側がメリーに怯えて放してくれるかもしれない___そう考えていたのだ。

「ふん、そんな嘘が通じると思うか」

「嘘かどうかはこの目でしっかりと見てはどう? あぁそれと、貴方たちも下手な動きはしない方がいいわ。もしメリーに一回でも傷をつけたら……ウルティムス・ステラを破壊するわ」

 するとエレンは、日傘の先をウルティムス・ステラに向けた。まあ、破壊なんてしないが。

 だが、これでだいぶ時間は稼げただろう。エレンの行動の意図は、レンの術式の完成までの時間を稼ぐためであったのだ。現に、今もレンは少しずつ札による術式を構成している。

「それはどうかな」

「あら、どうしてそう思えるの?」

「こうだからだ」

 王は、右手に持っていたスイッチを押す。すると、石畳の壁の中から、大量のカプセルが現れた。それも、人が容易に中に入れる程の大きさであり、カプセル内にはなにやら緑色の液体も入っていた。

「あれは、カプセル……?」

「待てフロイ! 中に人がいるぞ!」

 フロイがそのカプセルの用途に疑問を持っていると、鬼道が大声を上げた。指をさして『それ』を示すことはできなかったが、フロイと灰崎も、それがなんなのかがわかったようだ。

『ウルティムス・ステラよ! 我の思いに答えよ!』

 王がウルティムス・ステラにそう叫ぶと、カプセルの中は光りだし、中に入っていた人間の肉体は消滅した。だが、その肉体の中から白い結晶が現れ、それはカプセルのチューブからウルティムス・ステラを収めている台座に送られる。しかも、それは一つではない。およそ十個の結晶が台座に送られていたのだ。

 その瞬間。

「______レン、メリー……?」

 エレンの口から、声にならないほどの小さい声が聞こえた。しかも、エレンの表情はいつもの余裕そうな微笑ではなく、目を見開き額に汗をかいていた。

 それもそうだろう。なぜなら王がウルティムス・ステラに叫んだあと、瞬時にして二人の身体の中から血が噴出したのだから。それも、大量に。そのためレンは札を散らばせながら、メリーは何もできないまま、その場に倒れたのだ。

 

 ***

 

 式典も、そろそろラストスパートに入ってきた。その舞台となるピサの斜塔の屋上では、咲が上等なドレスを着て、ちゃんとしたおめかしをして椅子に座っていた。しかし、咲の表情は暗く、目に光がなかった。それに、まるで抜け殻のように、少しの動きもなかった。

『おやまぁ、可哀想に……多くの感情を持つ人間が、こんな簡単に人形とかしてしまうのは驚きましたが、この子がもう何も感じれなくなってしまったというのには、少し寂しい思いがありますね……』

 その椅子の横に立っているのは、狐の耳を生やした成人女性の容姿をした怪異であった。高価で芸術的な振袖を身にまとってはいるが、背中には九尾の尾が生えており、彼女が怪異であるということをはっきりさせていた。

「咲さん!」

 怪異がしばらく微笑していると、屋上の入り口から人の声が響いた。怪異がその方へ向くと、そこには明日人と円堂、そして坂野上が立っており、怪異の存在にも気づいているようであった。

『おやまぁ……来客ですか。ここは立ち入り禁止のはずですがねぇ……』

 怪異は意識のない咲を立たせ、椅子をどこかに消しながらそう言った。そして怪異が咲をこの斜塔のステージに立たせたあと、そのステージと怪異との間に、見えない壁を創り出した。

「……君は、零儚?」

 明日人は、先ほどから咲との距離が近い怪異を見て、零儚と怪異に呟いた。すると、零儚と言われた怪異が口元を歪ませ、瞬時に明日人の方へ走った。明日人がそれに気づくもすでに遅く、零儚はその右手で明日人の首を持ち上げ、さらに絞め始めた。

「あ、明日人さん!」

「明日人!」

 円堂と坂野上が明日人を助けようと走ったが、突然彼らの前に炎の壁が造られた。その炎の壁は、円堂のハーツアンロックの力でも消すことはできず、坂野上はただ明日人の名を呼んでいた。

『そうです、私こそがあの子の怪異、零儚です。ですが、もう遅いです。とっくにあの子の心はありませんから』

「……それってどういう意味ですかっ!」

 炎の壁の向こうで、坂野上が零儚にどういうことかと問い詰めると、零儚は彼に向けて嗤う。

『とっくにあの子はこの世界のために、()()()()()という意味です。そのため、今のあの子はもう何も感じない何も言えない、哀れな人形とかしてしまったのです』

 続けて、零儚は言った。

『あの天戴無窮は、私が造りました。私がこの世界のお偉いさん方に詰めかけて、そして怪異の力を貸して造ったのです。しかし、それには一つ問題点がありました。エネルギーです。あの天戴無窮を稼働させるには、それこそ電力とかのエネルギーではいけなかったのです。ですが、つい最近になって見つかった、ウルティムス・ステラ……いえ、明確には『イルミナーレ・ステラ』ですね。その神遺物は人の魂を莫大なエネルギーに変換させるため、天戴無窮のエネルギーに使われました。そのエネルギーの元として、あの子が選ばれたのです。それも、自ら志願して』

「……咲さんは、なんて……」

『……「私の魂で、昇くんが幸せにサッカーできるなら、私はどうなっても構わない」。そう言っていましたよ』

 

 

 

「……レン、メリー。お願い、目を覚ましてよ。こんなの、きっと私を驚かせるためのドッキリなのでしょう? 貴方たちは、そんな簡単に死ぬはずないものね。そう……よね」

 エレンは地面に膝をつき、血の池を作っている二人に声をかけた。その声は震えており、かなりの動揺を示していた。

「……なぁ」

『なんだ?』

「なんであいつらを殺したんだよ」

 その光景に、鬼道たち三人が絶句していた中、灰崎は王に問いかけた。

『そんなの、決まっておろう。これからは人がこの星を統治する時代なのだからな。天使などという人間の上位互換が存在しては、メンツが立たなくなるのだよ。それに、天使の魂は人間の物と比べて高貴で美しく、なおかつこのウルティムス・ステラがエネルギーに変換できる星力も大量にあるからな。人の新たな発展のための尊い犠牲というわけだ』

「……………………」

 灰崎は、ただその答えを聞いていた。

 なんて自分勝手で、愚かなのだろうか。

 そんなの、今まで人と天使との共存を思い描いていたエレンの理想を、真っ向から否定するようなものだった。

 しかし、エレンは二人が殺されたことによる絶望感から、何もいえないでいた。

『まぁ、お前たち天使も今から消える。それも、お前の部下の魂によってな。さぁ、ウルティムス・ステラよ、この天使どもの魂をエネルギーに変え、天戴無窮に注ぐのだ』

 そして、王は何事もなかったかのようにウルティムス・ステラに命令した。鬼道たちは、この王の傲慢さに引いていたが、だからって何もできなかった。

 それは灰崎も同じ_____ではなかった。 

 尊い犠牲? 自分が殺したのに?

 メンツが立たない? 他の種族を受け入れないというのか?

 天使の魂の方が美しい? 人間の魂は穢れているとでもいうのか?

 気が付けば、自分は立ち上がっていた。

 そして、

『それは私のものだ。返してもらおう』

 気が付けば、灰崎以外の()()()が、灰崎の身体を乗っ取っていたのだ。

 

 ***

 

「(歌が、聞こえる! 咲ちゃんの歌だ!)」

 その頃、夜舞は待機していたホテルから抜け出して、ピサの斜塔に向かっていた。その理由は、どうしようもない嫌な予感を感じ取ったからであり、いてもたってもいられなくなっていたのだ。そして夜舞が走りに走って、ピサの斜塔にやっと辿り着いた頃には、咲が歌を歌っていたのだ。

「や、夜舞さん!?」

 すると、ハーツアンロックを解除して休んでいた一星たちが、夜舞を見つける。

「一星くん、ヒロトくん、式典は!?」

「もうカウントダウンだ! まさか、失敗しちまったのか……っておい!」

「……止めなきゃ!」

 ヒロトが言い終える前に、夜舞は天戴無窮があるであろう人込みへと入った。

 天戴無窮には、咲の歌が利用されている。自分たちが今知っているのは、それくらいだ。

 だが、それでも、止めなくてはならなかった。

 止めなかったら、もっと恐ろしいことになってしまう気がしたから。

 広場に集まっている人込みを抜けると、そこには国の偉い人たちが、天戴無窮のカウントダウンを始めている頃だった。

『5!』

 

 早く。

 

『4!』

 

 急がなきゃ。

 

『3!』

 

 止めなきゃ!

 

『2!』

 

 止めなかったら……まずいことになる。

 そんな気がした。

 

「やめてぇぇぇええええええぇぇぇっ!!」

  

 天戴無窮には莫大なエネルギーが使われる。そのため、離れてでのスイッチオンとなったが、稼働のスイッチが押される瞬間、夜舞はそのスイッチを持っている大人の男性を突き飛ばした。

 しかし、スイッチが手から離れたものの、地面に衝突したのがスイッチを押すプッシュ側だったのがまずかった。おまけに、天戴無窮はエレンがアンシャルの剣で壊している。

 そのため、ウルティムス・ステラが生み出したエネルギーは放出されず、おまけにそのエネルギーの強さに機械が耐え切れなくなり_________。

 

 ピサの斜塔付近が光に包まれた。

 

 

 

 

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