イナズマイレブン テミスの正義   作:暁月の太陽

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第七話 天真爛漫な魔女の強さ

 鬱蒼とした森の中を歩く少女の血を吸おうと近寄ってきたやぶ蚊は、少女の白い肌に触れたその直後に、炭になって細々とその生涯を終えてしまった。死ぬまでの生涯色んな人から吸ってきた血も残さずに。

「あの時に見えた村が、お父様の言っていた幻想の村だとするなら、ひょっとしたら私の記憶も幻想としてそこに残っているのかもね、と思って森の中に入ったのだけれど……妙に懐かしさを感じる光景ね……まぁ、懐かしいと思うのなら、迷うことはないでしょうね♪」

 それに少女、いや天使は気づかず、何やら独り言を呟きながらその幻想の村の正体である花伽羅村に向かって歩き続けていた。見たことがあるからという理由で、地図も、スマホのナビも使わずに。しまいには森を抜けるだなんて私一人で十分と余裕に思っているのか、花伽羅村の村民直属の案内人も待たずに。

「それにしても__ここは本当に森なのかしら? 他の場所で見た森よりかは木々が鬱蒼としていて暗いけど_生命を感じるわね。人の居住区から遠く離れてて、おまけにあまり見えないところで、熊や狐、狸などの動物が生きている。まるで動物たちの楽園ね」

 木々の隙間から入る日光の紫外線や木々の葉に付いた雨の水滴を、愛用の白い日傘で防ぎながら歩いていると、足元に警戒心の薄い狐が寄ってきたのがわかった。

「私が天使だということに気づいていないのか、まるで飼い主を見つけた猫のように近づいてくるのね。貴方は」

 狐を優しく撫でていると、狐は心地よさそうに元々細い眼をさらに細め、その可愛さから少しだけ天使の顔がほころびていた。

 その後も天使が狐を撫でていると、向こうの道で大衆の声がしたのを聞いた。

 細めていた青い目を開け、その大衆の声へと耳を澄ませると、そこには前を歩く長い黒髪の少女と、以前自分と会話をした聞き覚えのある少年たちの声がした。

「聞いた感じだと、あの子たちはあの幻想の村に向かっているのね。………ふふっ、今日はついてるわね」

 花伽羅村へ行く明日人たちを見つけ、何かを思いついたかのように微笑みながら、天使はその身一瞬にして消した。

 なお、その場を取り残された狐は、夢でも見たかのように顔を洗ったあと、その場を去って行ってしまった。

 

 ***

 

 七不思議の舞台にもなりそうな木造の旧校舎によく似た花伽羅中の校舎の中に、花伽羅中サッカー部はあった。倉庫として利用されていた空き教室を部室として、メンバー集めや部費の管理などを全て夜舞一人で行い、やっと部活として活動が出来るようになったのだ。つまり、今日は花伽羅中サッカー部成立して初の試合となる。筈だったのだが…

『夜舞先輩!! あのイナズマジャパンと試合って、どういうことですかぁー!?』

 これからあのイナズマジャパンと戦うことを成立者兼キャプテンの夜舞から告げられたものの、休暇中に急遽部室に集められた上にその報告をされた為、当然受け入れるわけにもなれず、メンバー全員が夜舞に問い詰める。

「いやぁ~これには訳が色々あって…」

「訳もこうしたもありませんよ!」

「あのイナズマジャパンとですよ!? 今からおよそ二か月前にFFIで優勝したあのチームと戦うってことですよ!?」

「今からでも断ってきて下さい!」

 二か月前にFFI優勝を果たしたイナズマジャパンと、ついこの間出来たばかりのそこんじょらのサッカーチームとの力の差なんて歴然としており、無謀にもほどがあると思った部員達は、その選択にYesを出した夜舞に全力でやめようと訴えてきた。

 花伽羅村の人達は基本おおらかな性格な為、状況を呑み込んではくれるだろうと思って伝えみたはいいもの、まさかここまで言われるとはと額に汗をかきながら、夜舞はなぜ彼のイナズマジャパンと戦うことになった経緯を話した。

 

 

 

 

「監督、夜舞と勝負ってどういうことですか?」

 探していた人物は見つかり、あとは仲間に入れるだけだというのに、なぜ勝負を申し込むのかと疑問に思った明日人が、趙金雲に質問した。

「それはですねぇ…夜舞さんの力を試させていただく為ですよ」

「私の力?」

 夜舞は自分を指さしながら、困惑気味に趙金雲に質問する。

「そうですよ夜舞さん。貴方はその鋭さと強さ、そして美しさと優しさを買われて、私達の仲間、いえ第三者になることが決まったのですよ~」

 一見理解しがたい理由に、夜舞は疑問を述べる。

「う~ん…第三者というと、外からの視点、目線という意味だよね。鋭さと強さはサッカーに関係するからなんとなくわかるけど__………なんでそこに美しさと優しさが?」

 やはり、夜舞もそこに目がいったらしい。

「買われたと言っても、私…」

「そんなに強くもないと言いたいのですか?」

「そういうわけじゃ」

「それでもいいので~す! とにかく試合をするので、皆さんを集めにきてくださ~い!」

 拒否などさせないというように夜舞の言葉に被り、ましてや試合を行うという横暴な判断に、夜舞とはいえ呆れていしまった。しかし、自分がチョウキンウンズの第三者であること、そして試合のことを夜舞は少し考えたあと、すぐに顔を上げ、こう言った。

「…わかった! じゃあ早速皆を集めに行ってくるね!」

 と、夜舞は趙金雲の言われた通りにサッカー部の部員たちを集めにいった。

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけ!」

「というわけ! じゃない!!」

 全員にわかりやすいように説明したが、予想通りツッコまれた。

「夜舞先輩。先輩はいつも俺達を元気づけたりする優しい面もあれば、少し一直線な所も会ったりするなぁとは思ってましたけど…本当にあのイナズマジャパンと戦うつもりですか?」

 ストライカーである証の十番のユニホームを着た、いかにも田舎の中学一年生の雰囲気を漂わせている男の子が、先輩である夜舞に気を遣いながら問いかけた。

「そういうことになるね、蛍くん。でも、これって凄いとは思わない?」

「え、それってどういう意味ですか? 夜舞先輩」

 夜舞の発言に、思わず呆気にとられる蛍。

「昨日さっきまで無名サッカー部だった私達が、今あのイナズマジャパンと戦おうとしているんだよ! これって、すごい話だとは思わない!? 裏はあると思うけど!」

 話しているうちに、少しずつ興奮が高まっている夜舞の格言らしき何かに、蛍は少し引き気味で共感していた。

「それに今こそ…この幻想の村である花伽羅村の凄さを、外の世界の人達にその名を知らしめることが出来るんだよ?」

 ロッカーに入れられた、たった少数しかないボロボロのサッカーボールを手に持ちながら、夜舞はサッカー部成立から活動開始までの思い出を思い返した。

 その間に、部室の窓を通して伝わった太陽の光に夜舞は照らされ、夜舞に妖美という魔女の特徴が滲み出ていた。

「さ、もう試合が始まるし、皆気を引き締めていこー!」

 気が沈んでいる蛍たちの気持ちを次に切り替えるために、夜舞は手を叩きながら蛍たちを制し、ストレッチを始めた。

「相変わらず、キャプテンは自由奔放ですね。線香くん」

 FWの[[rb:翠嵐 風鈴 > すいらん かざすず]]が、花伽羅中サッカー部のエースストライカーの座を持つ[[rb:線香 蛍 > せんこう ほたる]]を見つめながら、独り言のようにぼやく。

「そんなに見つめないでくださいよ翠嵐さん…」

 いくら俺がサッカー部活動開始から今に至るまでの間夜舞先輩と付き合いが長いからって。と蛍は両手首を振りながら答える。

 [newpage]

「明日人くん。夜舞ちゃんがリベロやキャプテンの他に、何か知っていることは無いかい?」

 二階の誰も居ない教室で試合の準備をしていると、ユニホームに着替え終えた野坂が明日人に話しかけてきた。

 しかし、明日人が花伽羅中サッカー部のことで知っているのは、夜舞がリベロでありキャプテンでもあるということしか知らず、明日人は正直に野坂に話すことにした。

「知ってること? 知っていることといっても、花伽羅中のことはあまり知らないよ。氷浦や万作も一緒に調べてたけど、情報はあまり入ってこなかったし、父ちゃんも知らなかったみたいだよ、野坂」

「サッカー協会に入っているシンジョウ、いやタクマが知らないとなれば、新しく出来たサッカー部の可能性だって捨てきれないよ、アスト」

 明日人の父親である稲森琢磨、元・新条琢磨をよく知っているフロイが、明日人たちの話の中に入ってくる。

 …イナズマジャパンのユニホームを着ているフロイを見ていると、なんだか違和感が湧くのだが。

「フロイは、花伽羅中のこと知ってる?」

「いいや、チョウキンウンから花伽羅中のことを聞いて、僕も改めてオリオン財団の力を使って調べてみたけど、詳しい情報はなかったよ」

「そうなんだ。僕として気になったことと言えば、夜舞ちゃんのスピードだね」

 野坂の意見を聞き、明日人は夜舞のあのスピードのことを思い出す。

 入り乱れた森の間を潜り抜けるその姿は、まさに風のごとし。

 だが、逃げる子供も夜舞と同じく風のようだった。

 子供は風の子ともいうが、住む場所が違うだけでこれほどまでに差が出てしまうのか。

 森を走り抜け、固い土に張る大きな根を飛び越え、相手がどこにいようと見つけ出すほどの素早さを持つ夜舞は、これこそまさに趙金雲の言っていた夜舞の「鋭さ」なのだろうか。

「(もしかして、監督の言っていた鋭さって、このことなのかな…)」

「そういえば、僕も一つ気になったことがあってね。これは特に花伽羅中のこととは関係ないんだけど…」

「構わないよ。フロイくん」

「花伽羅中に行くと遊、僕が目を覚ましたら、光が青ざめた顔をしていたんだ。何でもないって言ってたけど、ユウマもアストも気を付けてくれないかな」

 そうフロイに伝えられ、二人はストレッチをしている一星を見つめる。

 見た所、一星に体調が悪そうな感じはない。

 車酔い…だったのだろうか。

 

 ***

 

「さぁ、ロシア代表のパーフェクトスパークのキャプテン、フロイを加えたイナズマジャパ…いえ、チョウキンウンズと花伽羅中サッカー部との試合が始まります! チョウキンウンズは、花伽羅中サッカー部キャプテンの夜舞月夜の実力を測る為に試合を申し込んだらしく、これは夜舞月夜選手の実力に胸が高鳴ります!」

 いつの間にか花伽羅村に来ていた実況者の角馬王将が、チョウキンウンズのベンチと花伽羅中サッカー部のベンチとの間で実況席を取っており、試合を見に来ていた人達に解説と実況の役割を果たす。

「よし! 皆いくぞ!」

『おおー!!』

 今目の前にある試合に向けて、円堂達が意気込んでいる最中、花伽羅中サッカー部も、同じように意気込んでいた。

一味同心(いちみどうしん)、、戮力協心(りくきょくきょうしん)! 七転び八起きでいこー!」

 黄色のキャプテンマークを腕に巻き、たった十人の選手を携えて、夜舞という月の魔女はフィールドに降り立った。

 しかし、夜舞の言っている四字熟語の意味が、いまいちよくわかってない者も居た。

「えっと、りくきょくきょうし…なんですか? これ」

「戮力協心というのは、全員の力を集結させ、物事に取り組むことだよ。坂野上くん」

「そうなんですか!? 難しすぎる言葉ですから、わかりませんでしたよ!」

「まぁ実際、戮力協心なんて四字熟語は、結構知らない人も多いんじゃないかな。一蓮托生や一味同心と比べたら、結構マイナーで誰も使わないな四字熟語だとは思うよ」

「マイナーって、野坂さん…」

 戮力協心なんて言葉、人生で一度も聞いたことが無い。聞いたことはあっても忘れてしまうくらいだろうねと、野坂は坂野上に言った。

 坂野上はまだわかってない様子だったが、野坂は気づいていた。

 なぜ夜舞がそんな難しい言葉を知っており、皆はその四字熟語を理解できているのかについての理由を。

「玉石混交…花伽羅中は、その玉石混交の中の玉に入るだろうね…」

 野坂が一人で考え事をしていると、グラウンドの外で数少ない観衆が巻き起こった。

 花伽羅村の全村人の高齢者や子供、大人たちが揃っている。

 しかし、その声援はほぼすべてが花伽羅中サッカー部を応援するものであり、チョウキンウンズへの声援は全くといっていいほどなかった。

「お姉ちゃんお兄ちゃんたちー! 頑張れー!!」

「楽しみじゃのう…」

『月夜ー! 儂たち花伽羅村の維持を見せてやるんじゃー!』

 その中で一人の老人が、まるで子供が描いたような校章と花伽羅村イレブンの顔を急遽描いた大旗を、今までにない力で振っていた。

「も、もうおじいちゃん! 体が弱いんだから無理しないでよー!!」

「大丈夫じゃ大丈夫じゃ、儂もまだまだ現え…ぐほっ、腰が…」

「おじいちゃん!」

 夜舞はすぐにグランドから祖父らしき老人の元へと駆けだし、ユニホームのポケットに常備していた湿布を取り出し、それをすぐに祖父の腰に貼りつけた。

 それをみて明日人たちは、夜舞の祖父の行動に思わず苦笑い。

「夜舞さんのおじいちゃん、すごくハッスルだなぁ…」

「夜舞先輩のおじいちゃん、相変わらずハッスルだなぁ…」

『え?』

 坂野上と蛍の思ったことが一致し、思わず顔を見合わせる。

「ごめんごめん! じゃあ始めよっか!」

 夜舞の祖父に湿布を張り終えた夜舞はすぐにグラウンドに戻り、蛍たちと共に配置に着くと、すぐにキックオフの開始となった。

 なおスタメンは先ほどユースティティアと戦った時のメンバー、

 GK 円堂守(キャプテン)

 DF 吹雪士郎 風丸一朗太 坂野上

 MF 鬼道有人 野坂悠馬 一星光 稲森明日人

 FW 吉良ヒロト 豪炎寺修也

 で、灰崎は明日人の嘘の理由をつけてベンチスタートとなり、代わりにフロイが出ることになった。

「フロイ…」

「あぁ、リョウヘイのことだね。…大丈夫、僕がなんとかする」

 明日人の声かけに何かを感じたフロイが、声と表情から明日人の気持ちをくみ取り、それに見合った返事を返す。

「フロイ、またこうして同じフィールドで、同じ仲間として戦えるとはな」

「当然、力は衰えてねぇんだろうな。パーフェクトスパークのキャプテンさんよ」

 現在チョウキンウンズのスタンティングメンバーのFW陣、豪炎寺とヒロトがフロイに声をかける。

「そこは安心してよヒロト、僕だってこの二か月間、練習をさぼっていたわけじゃないからね」

 仲間に指示を出す夜舞を見つめながら、フロイは答える。

 しかし、夜舞たちがフォーメーションにつくと、そこで驚くべきことが起きた。

「う、嘘だろ…」

 なんと、花伽羅中サッカー部のフォーメーションはとても特殊で、FWは三人、MFは五人で、なんとDFは夜舞を含めて二人しかいなかったのだ。これではあまりにも守備が薄く、おまけに相手はいつかのイナズマジャパン。攻撃はよくても防御が出来ていなくては、点を取っても意味がないのだ。

 何か策があるとは思うが。

「これでは守備が薄すぎます…」

「まさか、花伽羅中のフォーメーションが、こんなにも特殊だとは思ってもいなかった…」

「そうですね……____うっ!」

「一星くん!?」

 先ほどまで調子よく話していた一星が、急に頭を押さえながら苦しみだし、野坂はそれに驚きを見せる。

「どうしたんだ!? 一星!」

「どうしたんですか!?」

 突然に起きた一星の体調不良に、さっきまでポジションについていた明日人たちも、マネージャーの大谷たちも、ベンチスタートの選手たちも一斉に、一星に駆けだす。

 しかしその間にも一星の頭痛はさらに深刻化し、一星はその頭痛あまり思わず地面に膝をついてしまう。

「風邪でしょうか…」

「でも、一星くんが風邪みたいな感じはなかったし…」

「うーん、他の病気の可能性もあるし、光には休んでて…」

 

『大丈夫!?』

 

 折谷が一星の判断を下そうとしたその時、向こうから夜舞の声がしたかと思えば、夜舞はすぐに一星の元へと座り込み、藍色の髪で隠された一星のおでこに手を当てる。

「大丈夫? 辛かったら、休んでていいからね」

 と、まるでマネージャーのように夜舞は一星に受け答えしていた。

 自分たちの選手の管理は自分達でするというのに、すぐに駆け込んだ夜舞を見て、明日人はふと感じた。

 もしかして、これが夜舞の優しさなのか……? と。

「なぁお前、別にお前が一星の相手をする必要はねぇだろ。俺達のことは俺達で…」

 

「これから試合する相手が急に苦しんでたら、誰だって心配するよ!!」

 

 男に対してはっきりとした物言いに、不動は思いもよらずに驚き、同じように周りも驚いた。

「だ、大丈夫です…」

「一星くん?」

「夜舞さんの力を見極める為にも、試合には出なくちゃいけませんし…」

 頭を押さえながら、ゆっくりと立ちあがった一星は、夜舞の手を振り切り、一星はポジションに付いた。

「豪炎寺、もし一星に何か変化があったら、すぐに休ませてくれ」

「あぁ、そのつもりだ」

 円堂が豪炎寺に一星のことを頼んでいる中、試合を今か今かと待ち構えているギャラリーの中に、一人だけ怪しく微笑む少女の姿があった。

「あらあら…飲まれないといいわね…」

 

 ***

 

 次の瞬間キックオフのホイッスルが鳴り、豪炎寺がフロイにボールを回す。

 相手を撹乱する為にパスを回していると、突然パスの軌道上でボールが奪われた。

 蛍だ。一気に前に走ってボールを取ったのだろう。と、フロイはすぐに花伽羅中の様子を見渡した。

「(なるほど…基本的に足は速いみたいだ…なら!)」

 足の速い蛍たちの前にフロイが立ちはだかり、蛍はすぐにフリーの選手にパスしようとしたところをつけ、フロイは蛍からボールを奪った。

「ま、まさかDFでもあるんですか!?」

「僕は、全てのポジションを極めているからね!」

 三人のFW陣を中心にボールを運び、試合は少しずつチョウキンウンズ側が有利になっていく。

 それを、ベンチから暇そうに眺めている人物がいた。

 灰崎だ。

 茜の為とはいえ、こうして一人でベンチに座っているとどうしても暇になってしまう。

 いっそのこと、さっさと自分差し出して茜を救うか…と考えていると、自分の座っているベンチの左側から、声がした。

「煩(わずら)わしいかしら?」

「あぁ、茜の為とはな…____は?」

 自分の座っている席は、壁のある一番端。隣に誰かが居るはずがないのだ。皆は試合に夢中だし。

 びっくりして自分の左右を見渡すも、そこに誰かが自分に話しかけてきたという人物はいない。空耳か? と呆れたように背もたれに体を預けようとしたその時。

「茜って、貴方の恋人かしら?」

 とまるで自分と茜の関係をからかうような声がし、灰崎は光の速さで壁の向こう側へと走った。

「あら速い」

 左手の指先を口の下側に当てながら、「天使」は灰崎のあまりの速さに思わずきょとんとしていた。

 青いグラデーションがかかった黒い髪、白いワンピースの上には白いケープ、右手には白いレースが施された日傘を持っている。仮面から見える青い目は、まるで太陽が出ている時の青空のようだった。

「貴方が一人で寂しそうにしていたから、つい声をかけてしまったの。悪いかしら?」

「いや、悪くねぇけどな…んで、ユースティティアの天使が俺に何をしにきた?」

「いいえ、私はユースティティアの天使ではないわ。今は___ね」

 曖昧な返答に、灰崎の機嫌が害されていく。

「(こういう奴が一番苦手なんだよ……)矛盾してる答えだな…んで? 何しに来た? 茜のことなら俺が…」

「そうやって、なんでも自己犠牲で解決できるとは思わないでほしいわね」

 回答なんて受け付けないというように、天使は灰崎の言葉にかぶさるように言い放つ。

「貴方の経歴と行動を全て見てきたけど、自分を大切にしない人間が大切な人を守ろうとするだなんて、それこそ矛盾してるとは思うけどね、私は」

 自分の後ろで声がし、おまけに視線も感じた為灰崎は後ろを振り向くも、そこには誰もおらず、目線を元に戻すと、そこに天使は居なかった。

「…うさんくせぇ奴だな…」

 

 ***

 

 灰崎が天使と会話している間に試合は進み、いよいよチョウキンウンズたちは花伽羅中のゴール前へと向かっていた。

 DFが二人という不安定な陣形でも、黒く長い髪を靡かせた風は、フロイの前に立ち塞がる。

「それにしても、DFが君ともう一人だけとは、少し心細いね」

「それなら大丈夫だよ。だって私は、速いからね!」

 と、夜舞に先ほどよりも強いプレッシャーをかけられ、危機を感じたフロイは、フリーの明日人けとループパスをする。なお、明日人とフロイとの距離はフィールドの横線の端から端というDF二人ではとてもカバーしきれず、このまま明日人がシュートをして決まるかとフロイが思った矢先に、夜舞は瞬時に明日人の方向へと走った。

 かくれんぼの時に見せた速さで。

 そして、明日人の足元へとボールが着く前に、夜舞が足の爪先でフロイのループパスをカットしたのであった。

「なっ!」

「ね、私は他の誰よりも速いんだ! 天ノ川ちゃん!!」

 明日人にとられる前にMFの天ノ川へとパスし、夜舞は定位置に戻る。

「なるほど、選手の足が基本的に速く、そして夜舞ちゃんの機動力も高いチームということだね。一星くん」

「はい、___ッ、見た感じだと、夜舞さんはスピードの他にかなりのスタミナを持っていることがわかります。」

「足が速いならば、俺たちも速く走ればいいだけのことだ。いくぞ野坂!」

 夜舞が明日人からボールを取った瞬間から、チョウキンウンズと花伽羅中との中にある闘争心がお互いに高まりあっているのか、互角のスピードで戦いあっている。

「すごい! お互いにお互いを高めあってますよ!」

「夜舞さんって、どこか円堂さんに似てますしね」

 花伽羅中との試合をビデオカメラに収めながら、大谷と神門は花伽羅中とイナズマジャパンを賞賛していた。以前はユースティティアに惜しくも負けてしまったが、相手が強ければ強いほど自身の力も同じように高まるのが、本来のイナズマジャパンなんだと大谷は目を輝かせている。

 とその時、監督の声がベンチに響いた。

「ほーっほっほっほ! 夜舞ちゃんの凄さはここからですよ~」

「ん? 他にも秘密があるというのか?」

 夜舞のポジションであるDF的に、敵の進行を防ぐという役割しか与えられていない上に、リベロであっても攻撃に準じてしまえば守りが薄くなってしまう。その二つ以外に何か戦術があるのだろうかと疑問に思った砂木沼が、監督に疑問を投げかける。

「よくぞ聞いてくれました、砂木沼くん。皆さんは、キャプテンと聞いて何を思い浮かべますか?」

 質問には質問で返すように、趙金雲はベンチに居る大谷たちに問いかけた。キャプテンとは何かと。

「キャプテンですか…円堂さんみたいな人のことです」

「皆を引っ張っていく人っていうのかな…」

「神門さんの言う通り、キャプテンとは皆を導く存在のことです。常に誰かのことを思い、誰かの進む道を正すのがキャプテンです。円堂くんを例えるなら、マーチングバンドで

いうドラムメジャーで、円堂くんの[[rb:号令 > コール]]で常に皆さんは動かされています。しかし、夜舞ちゃんは円堂くんと似ていて、少し違う所があります。夜舞ちゃんは、いわゆるオーケストラの指揮者です。タクトを振るい、共に曲を創りあげ、奏でる指揮者のような人です。時に激しく、時に緩やかにと、その曲の素晴らしさをお客さんに伝えていく人のようにね…」

 指揮者__ですか。と、大谷と杏奈は、オーケストラの会場で指揮棒を振るう夜舞を想像したが、そこから何が読み取れるかはわからなかった。

 相変わらず自分達にはわからない意味深な発言をする趙金雲に、思わず呆れていた。

 だがその時、フィールドでは変化が起きていた。FWの翠嵐がボールをキープしたまま、明日人たちを突破していっているのだ。大谷からしてもこの子は特段で速いと思っていたものの、まさかここまでとは…と、仰天している。

「君の好きにはさせないよ! アイスグランド!」

 これ以上進めさせないと、吹雪がアイスグランドを繰り出す。しかし、吹雪を待っていたのは、翠嵐『達』の驚くべき戦術だった。

「なっ! 後ろに潜んでた!?」

「____いきます!」

 吹雪の出した氷に当たる瞬間、翠嵐がボールを打ち上げたのである。そして、それを受け止めたのは、翠嵐の後ろでスタンバイしていた蛍だった。

 宙に浮いた蛍がボールに近づくと、辺りは一気に暗闇になり、その瞬間蛍のあたりで優しい光を放つ数十匹の虫の蛍たちが現れ、暗闇を照らす。そして、蛍が両手を添えて優しく灯した灯火を優しく吹きかけると、その灯火は火の粉となり、蛍たちは優しい緑色の光から強い赤い炎へと変わった。

「『閃光のファイアフライ』!!」

「ダイヤモンドハンド!」

 猛火の蛍たちは一気にボールへと纏わりつき、赤い球となった瞬間に蛍がボールを蹴ると、ボールに纏わりついていた蛍たちが暗闇を自由自在に駆け回りながらゴールへと向かう。それをすかさず、円堂はダイヤモンドハンドを繰り出す。

 蛍の猛火とダイヤモンドがぶつかりあい、激しく火花を散らすそれは、まるで花火の如く。そしてボールは勢いを失くし、円堂の手にはなんの変哲もないボールが握られていた。

「ここで円堂、持ちこたえたーっ!!」

 実況の声が響く中、蛍と翠嵐は夜舞に状況を報告しに向かった。

「すみません夜舞先輩、ゴール決められなくて…」

「俺もキャプテンの戦術みたいに裏をかいてみたのですが…」

 せっかくのゴールチャンスを無駄にしてしまった二人は、その場でしょげてしまう。

 しかし夜舞は、大丈夫だよと二人を励ました。

「大丈夫大丈夫! またゴールを決めればいいよ! それより二人共すごいよ! 翠嵐くんのフェイントはあのイナズマジャパンを欺いたし、蛍くんもここにきて新必殺技が完成したじゃん!」

 そして夜舞は、自分達がゴールを決めることよりも、二人のコンビネーションと必殺技が完成したことを指定し、そこをいやという程に褒めたたえた。

「…夜舞先輩。俺たち先陣を切ってわかりました。あの人たちの実力は、本物です。さすがFFIで優勝しただけはあります。特にイナズマジャパンのキャプテンの円堂守さんのプレッシャーには、思わずシュートを緩めてしまいそうになります」

 蛍からの証言を聞き、夜舞は顎に手を当てながら考えこんだ。

「(でも、あのイナズマジャパンを圧倒したっていうユースティティアのことも気になるよね…)」

「どうかしましたか?」

「あ、ううん、何でもない! ほら、そろそろ始まるから、準備してて!」

 蛍の声かけに何でもないとはぐらかし、夜舞の傍から離れさせたうえで、夜舞は再び考え込んだ。

「(かくれんぼの時で見たけど、イナズマジャパンの走力はだいたい私達と同じくらいだった…。それよりもイナズマジャパンがユースティティアに負けた理由ってなんなんだろう…)」

 実力の違い?

 それとも何か人質を取られるなどの事情があったから?

 出せるだけの理由を、夜舞は外の声も気にしなくなるほどに出しつくす。

 しかし、その間夜舞は外の状況が全く見えておらず、やっと夜舞の意識が外に向いたのは、自分の真横を掠る「炎のシュート」だった。

「爆熱、スクリュー!!」

 花伽羅中への小手調べとして放たれた豪炎寺の爆熱スクリューが、真っすぐ花伽羅中側のゴールへと向かってくる。GKの餅付はそれに反応出来ず、ボールが指先に当たっただけで止めることは出来なかった。

 だが。

 そこに一陣の風が舞った。

 黒い髪を靡かせながら、夜舞は、ゴールの前へと立った。

『ライトチェーン&ダークロープ!!』

 二つの手のひらと空間の裂け目から、夜舞はそれぞれ光に包まれた鎖と闇に覆われたロープを大量に創りだす。その直後に手のひらと体全体で数十本の鎖を瞬時にその二つをボールに絡みつけ、夜舞が鎖を引っ張ったと同時にボールは空中で固定され、ストンと夜舞の足元に落ちた。

「大丈夫? 餅付くん」

 餅付と呼ばれたゴールキーパーに一言かけながら、夜舞はチョウキンウンズ側を向いている。

「そろそろ…本気を出すよッ! みんな!」

 周りに喝を入れるかのように大声を出し、合図を出すと、花伽羅中の選手たちは一斉に体全体に力を籠め、夜舞の向いている直線の道が開くような陣形を取った。

 なんだと明日人たちが困惑していると、夜舞は長い髪を振りみだしたかと思えば、先ほどのかくれんぼで見せたスピードを軽く超えるような速さで、一気にボールをドリブルしながらゴールへと走っていく。

 夜舞の行動に我に返った明日人たちは、すぐに夜舞を止めようとするも、それは蛍たちのディフェンスと一人で三人を相手する機動力で遮られてしまう。

「まさか、夜舞以外にもこれほどまでの機動力を持っていたのか!?」

「まるで、多方面からプレッシャーをかけられているみたいです!!」

「守りを固めろ!!」

 風丸たちが夜舞の前方を遮るも、夜舞の足は止めることを厭わなかった。

「まずい! このままじゃぶつかるよ!」

 吹雪が思わず右足を後ろに下げた瞬間、夜舞は飛び上がった。

 それは一瞬の出来事であり、風丸たちはその一瞬の間に夜舞を視認することが出来なかった。

 夜舞は空中で前方一回転をしながら、夜舞より身長が少し上の風丸と吹雪のディフェンダー二人を飛び越えていたのだ。

 そして、空中を飛んでいる一瞬の間に夜舞は。

「___『ムーンライト・メテオッッ!!』」

 『空中で』、必殺シュートをしたのであった。

 夜舞の技を叫ぶ声で、円堂は意識を戻し、ダイヤモンドハンドでボールを取ろうとするも、時すでに遅し、ボールはゴールに突き刺さっていた。

 あまりに一瞬すぎるその光景に、趙金雲も大谷たちも開いてしまった口を閉じることを忘れてしまう程だった。

 そう、明日人たちは試合が始まる前に、夜舞のその柔軟性、素早さ、機動力に翻弄されていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔女の扱う魔法とは、強さでもあり、優しさでもあるのだ。』

 

 




キャラ説明

夜舞月夜
『常に前向きで意志の固い一直線な考えを持っている。なお、『鋭さ・強さ・美しさ・優しさ』の四面を持つと言われている。』
年齢 14歳(中学二年生)
性別 女
一人称 私
ポジション DF
二つ名『月光の魔女』
なおCVは悠木碧だと思ってる。


花伽羅中
『キャプテンの夜舞による指揮によって、走力と攻撃力を高める戦法を用いる。夜舞自身他の選手よりも瞬発力と機動力が高いため、DFは多くても二人ということになっている。』

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