「死死累累って、呪術屋の名前としては何かが違う気がする」
私は思わず呟いた。
呪術屋は、人々の病をまじないで癒やしたり、人の運命を占ったりと、基本的にプラスなことをする仕事だったはずだ。
なのにこの店は死死累累とかいうかなり不吉な言葉を店の名としている。
店の建物は廃屋が如き様相で、壁には苔が生え、所々ひびが入っている。
触ったら壊れそうなほどボロボロなその看板に触れたら、半分ぐらいが砂のように崩れ、店名が「累累」になってしまった。
不吉さも店名と共に半減したように思った。
腐った木製のドアを開けて中へ入っt ───────
あるところに、一つの戸があった。
彼は元は扉ではなかった。
彼は元は壁であった。
彼が今玄関を務めているこの建物はとても古く、いってしまえばボロボロのおんぼろでとても住めたもんじゃなかった。
彼がまだ扉だった頃、そんなぱっと見お化け屋敷なこの建物に、一人の女がやってきた。
女はお化け屋敷の主(所有しているだけで管理はしてくれない。無論手入れもしない。)を連れていた。
女は、扉(今ある扉とは別の扉)を開けてボロ屋の中に入ろうとした。
が、女が取っ手をにぎり、引いた途端───────
「バキャァッ」
扉が壊れた。
具体的には、戸板が縦に真っ二つに割れ、蝶番がくっついていた壁の一部を巻き添えに地面に落ち、その衝撃で「累累」の看板が更に半分に割れ、、「田田」になってしまった。
私が地面に落ちた「糸糸」をあっけにとられて見ていると、
「あ~、ま~たぶっ壊れた~。」
と店の奥から声がした。
驚いて顔を上げると、そこにいたのは、8歳位の小さな女の子だった。
一人の老人が湖を満たす黒い液体を見つめていた。
湖面には、上った三日月が映っていた。
白梟のような白く長い髭を蓄え、頭を禿頭に剃ったその老人は、この黒い湖がずっと昔からここにあったことを知っていた。
だが、彼はその自分の記憶が偽りの物であることを知っていた。
彼はおもむろに地面に手を伸ばし、石を一つ拾い、湖に向かって投げ込んだ。
石は放物線を描きながら宙を舞う。
くるくると回りながら湖へとんでいく。
ずっと昔からそこにあって、これからもそこにあり続けるその湖に。
石はやがて下降を始める。
重力に引かれ、落ちていく石は、湖面に触れ、鏡のような水面に波紋がひr ─────────
彼はおもむろに地面に手を伸ばした。
しかし、そこに彼が求めていた石は無く、彼の手は空を切る。
その手を握り締め、老人は憎々しげに湖を睨んだ。
老人はしばらくそうした後、踵を返し、その場を去っていった。
湖面に映った三日月が、その後ろ姿をあざ笑っていた。
お粗末さまでした
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