メギド72オリスト「茨を駆ける十二宮」   作:水郷アコホ

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プロローグ

 いつかのメギドラル某所。王族の私邸の如き館。

 広い広い部屋に人影が1つ。身長の何倍も高くそびえる豪奢な窓から景色を眺めている。

 

 

気品漂うメギド

「……」

 

 

 艶めく黒髪を後ろに撫で付けたヴィータ体。国事に出席しているかのような格調高い衣服を着こなしている。

 窓から伸びるバルコニーのその向こう。雲ひとつ無い空で雷が光った。

 轟音と共に、光源と真っ黒な影の強烈なコントラストに部屋が染まり、光が去った頃に扉が閉じる音がした。

 落雷と同時に誰か入室していたようだ。

 

 

従者のメギド

「失礼します」

 

気品漂うメギド

「ああ。待っていたよ」

 

 

 窓を眺めるメギドが振り向く事無く答える。

 この対応がいつもの事らしく、入室したメギドは窓へと歩み寄り、2人並んで窓の向こうを見た。

 新たに現れた方のメギドも、貴族のパーティーに立ち会う近衛兵のような整った出で立ちだった。

 

 

従者のメギド

「区画『ミラビリス』に侵入者です」

「伝令のメギドの速度と距離から計算して、既に1時間ほど経過しているかと」

 

気品漂うメギド

「ああ。そこまでは、ここからでも『視え』ていたよ」

「既に攻撃を仕掛けた者もいるようだ」

 

従者のメギド

「でしょうね。報告では、侵入者は『鋼蹄の雄牛』との事ですので」

 

気品漂うメギド

「勇敢な部下を持てた事は、幸運だったよ」

 

従者のメギド

「『だった』……ですか。彼らも本望だった事でしょう」

「『鋼蹄』を発見した場合に限り、独断の撤退を認め、これを『功』と見なす」

「また当事者単騎に限り独断の戦闘行為も認め、これもまた『功』と見なす」

「ただし、独断の戦闘行為にかかる損失について、長は責任を負わない……」

 

気品漂うメギド

「取り決めて以来、『独断の群れ』となっても、『鋼蹄』に勝利した者は居ない……」

「……私以外は、ね」

 

 

 雷が光った。光が失せると、窓が開かれていた。

 

 

気品のあるメギド

「生憎の天気だが、『鋼蹄』は変わらず盛んなようだ」

「行ってくるよ」

 

従者のメギド

「詳細な座標はよろしいので?」

 

気品のあるメギド

「ありがとう。だが、すぐに『視え』てくる」

「それに、ミラビリスに『鋼蹄』の目当ては1つしかない」

 

従者のメギド

「仰る通りです。では、行ってらっしゃいませ」

 

 

 雷が光った。光が褪せると、主人らしきメギドの姿が消えていた。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 メギドラル某所。「ミラビリス」と名付けられた、とあるメギドの領地。

 死に絶え乾き切った土が砂漠同然に広がっている。誰が確かめるまでもなく棄戦圏だった。

 稲光も無いのに、どおん、どおんと、落雷のような音が繰り返し鳴り渡る。

 光がミラビリスに轟き、遅れて本物の落雷が音を弾けさせ、大地を駆け巡った。

 光が萎えると、死の地平に立っていた影の一つが、メキメキと倒れた。

 ヒビ割れを通り越した大地に、茎とも幹ともつかない緑色の植物の塊が点在していた。

 低いものでも2メートルほどの高さに育っている、そのブヨブヨした植物の塊が一本、根本から折られ、積み重なった埃のように砂漠土を舞い上げた。

 植物をへし折った元凶が、横たわった植物に歩み寄り、ガブリと食らいついた。

 暫し植物を貪っていた元凶が、何かに気づいた様子ですかさず頭を上げ、遠くを見据えた。同時にまた一声、雷が辺りを白黒の世界に染め上げた。

 

 

???

「待たせたかな、『プレアデス』軍団長──『鋼蹄の雄牛』殿」

 

 

 元凶が見据えていた先、いつホロホロと崩れ去ってもおかしくない小高い丘の上に、例の気品漂うメギドが立っていた。

 植物伐採の元凶こと、『鋼蹄の雄牛』と呼ばれた四足獣型のメギドが雄叫びで出迎えた。

 

 

鋼蹄の雄牛

「前置きはいらん! さあ、オレと戦えっ!!」

 

気品漂うメギド

「急ぐ事はない。むしろ済まなかった。食事中と気付くのが少し遅すぎた」

「せっかく私の領地に出向いてくれたのだ。何もない所だが、ゆっくりしていってほしい」

 

鋼蹄の雄牛

「こんなものはついでだ。お前と戦うまでのツナギだ。お前の部下共と同じにな!」

 

気品漂うメギド

「そうかい? 存外に気に入ってくれたと思っていたよ」

「それに、君も知っての通り、その植物は地中のフォトンを徹底的に吸い上げる」

「しかもその植物たちは弱った土地を好んで根を伸ばし、土地にトドメを刺す」

「その植物達の数が減るなら、この地も棄戦圏返上が望めると、そう考えていてね」

 

鋼蹄の雄牛

「お前の都合など知った事か!」

 

気品漂うメギド

「君が望むなら、その暁にはミラビリスを君に割譲しても良い。君が活かしたも同ぜ──」

 

鋼蹄の雄牛

「要るものか! オレは戦いに来たのだ! 領土など今どうでもいい!」

 

気品漂うメギド

「即答か。だが分かる気がする」

「私も、君になら領土の一つくらい、惜しくはないのだから」

 

鋼蹄の雄牛

「いつまでも日和っているつもりなら、こっちから行くぞ!」

 

 

 馬のように上半身を跳ね上げ、二つ名通りの金属質の蹄で地面を踏みしめる『鋼蹄』。

 それだけで、地平線の向こうまで長大なヒビが新たに走った。蹄の真下にはクレーターが刻まれ、凹んだ分を形成していた砂漠土は砂煙になって『鋼蹄』の周囲を曇らせた。

『鋼蹄』が足元を引っ掻くたびに、ますます砂煙が濃くなる。しかし、眼光だけは少しも霞む事無く、丘の上のメギドを見据えている。

 

 

気品漂うメギド

「そちらから来なかった日は、一度として無かった気がするがね」

「所で、フォトンは足りているかな? 携帯フォトンなら持ち合わせがあるが」

 

鋼蹄の雄牛

「余計なお世話だ! 丁度こっちは戦争の帰りだ!」

「近くを通りかかったから、部下の携帯フォトンの残りをまとめて喰らって来た!」

 

気品漂うメギド

「そして部下達は本拠へ帰し、君一人が棄戦圏ミラビリスへ……か」

「こうして今日も戦う、それだけのために……」

「君のそういう所に、私は敬意と愛おしさを覚えずに居られない」

 

鋼蹄の雄牛

「弄ぶなぁっ!!」

 

 

 雷が光った。光が絶えると、既に『鋼蹄』がスタートを切っていた。

 脚の一つ一つが一歩ごとに、地面に蹄の跡と、そこから迸る大小のヒビを形成していく。

 軌道は清々しいまでの一直線。丘に立つヴィータ体のメギドへ、この棄戦圏に居ながら全力のメギド体を叩きつけようとしていた。

 今の『鋼蹄』に真正面から対峙するなら、ヴァイガルドの幼子でも容易に確信できるだろう。

 そのスピードと重量感の前で、足元の丘などおがくずのように飛び散り、ヴィータ体は骨一片でも残れば驚嘆に値する。

 そんな『鋼蹄』を、相対するメギドは涼しい笑顔で見届けていた。

 

 

気品漂うメギド

「……」

「君を見ていると、つくづく思う。明日にでも、嘘なるものに見放されても本望だと」

「心から応えよう……『ザガン』」

 

 

 雷が光った──。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

ザガン

「う~ん……」

「はっ……?」

 

 

 いつものアジト。ザガンの個室。

 目を覚ますと、外はすっかり朝だった。

 ベッドから降り、2,3歩部屋の中央へ移動しながら、ゆっくりと伸びをするザガン。

 

 

ザガン

「ん~~……よく寝た」

「……それにしても、懐かしい夢みたなぁ。まだ『オレ』なんて言ってた頃だし」

「最近はソロモンもメギドラルで派手にやってるし、元気してたらまた会えるかな?」

「……お?」

 

 

 部屋のどこかで甲高い音がした。

 辺りをキョロキョロしてみると、ベッドの枕元で何かが動いた。

 曖昧な輪郭と動作の影だけで、それがヴィータ的に気味の悪い類の物でないと瞬時に把握できた。

 

 

ザガン

「見ーつ・け・た♪」

「昨夜はちょっと暑かったからなぁ。ほーら、こっちおいで」

 

 

 顔を綻ばせたザガンが、ゆっくりと枕元に近づく。

 窓から差し込む朝日から丁度陰になる所にそっと手を差し出すと、侵入者は呑気に指へ飛びついてきた。

 

 

ザガン

「ふふっ、期待してたよりもずっと人懐っこいね、キミ」

「小鳥なんて、こんな山の中でも居るものなんだねぇ」

「もしかして、ヴィータなんて知らないだけだったりして?」

 

 

 返事など来ないと分かっていながら語りかけてみるザガン。

 小鳥はお誂え向きにザガンを見上げ、首を傾げたりなどしている。

 部屋のドアが軽く叩かれた。

 

 

ソロモン

「ザガン、起きてるか?」

 

ザガン

「おおっと」

「うん、おはようソロモン。準備するからちょっと待ってて」

 

ソロモン

「ああ、急がなくても大丈夫だよ」

「依頼でさ、今、他の仲間にも声かけてる途中なんだ」

「済んだら広間で朝食でも摂って待っててくれ」

 

ザガン

「はいはーい、超特急で終わらせるから」

 

ソロモン

「はは、ゆっくりで良いってば」

 

 

 扉の向こうで足音が遠ざかって行く。

 

 

ザガン

「ふふっ、すっかりキミに夢中になってた」

 

 

 手の上の小鳥の頬を、もう一方の指でチョンと突くザガン。

 そのまま軽く撫で回してみたりもするが、小鳥は余裕の表情だ。

 

 

ザガン

「ほら、私はこれからお仕事だから。キミももうお行き」

 

 

 窓の外へ手を差し出し、軽く振って小鳥を羽ばたかせた。

 

 

ザガン

「……鳥って、怖くないのかな。地に足ついてないのに」

「こんな所、ヴィータだったらちょっと登り下りするだけでも命がけだし」

「私のメギド体なら……いや、それでも滑って落ちたらマズイなあ」

「そんな所を、フワフワ飛んで行っちゃうんだもんなあ」

「何かにぶつかったり、急にめまい起こしたり、歩くより危なそうだけど……」

「ま、鳥がそんな事気にするわけないか。それで生きられるのが鳥なんだから」

 

 

 小鳥を見送って、いそいそと着替え始めるザガン。

 

 

 

 

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※ここからあとがき

 ザガンさんは寝る時は下着派な気がします。
 全くどうでもいい話ですが、しかし大切な事な気もしたので。

 作品情報にも注意書きしましたが、今回は一部キャラの過去を勝手に空想して話を進めています。
 その点を強調する一環として、執筆時点まで考えて無かったメギド時代の軍団名なども急遽考えてみました。どんな感じに捏造が挟まるのか初っ端から示した方が、オリ設定回れ右派な方に余計なお時間取らせずに済みますし……。
 オリ設定は今回の話のテーマに沿うように考えてはいますが、あくまでも、該当キャラのキャラストーリーや設定を優先して筆者なりに真剣に練っています。関連オリキャラがストーリーの主軸に関わると言っても、主役は必ず原作キャラとなるよう、注意しています。言ってどうなる事でも無いかもしれませんが、念の為。

 メギド時代のザガンさんの一人称を変えたのは、現在のザガンさんとは多少違うというのを強調するためのものなので、筆者のように「ザガンさんに『オレ』はちょっと引っかかるな」という方は、お手数ですが脳内でお好みの一人称に置き換えて下さい。

 パラレルワールドのメギド72とでも思って大目に見ていただけると助かります。



 筆者のイメージでは、「山間の要塞」のようなアジトは、岩肌があちこちむき出した険しい場所に建っていると考えています。
 落ち着いて鍛錬が出来る広い中庭があるのを考えると土壌もそこそこありそうですが、余り自然が多いとフォトンが多いという事でもあるはずなので、幻獣が住み着く一因になってしまうのではと。
 ガブリエル辺りは「フォトンが少ない土地なら、万一ソロモン一派がハルマに蜂起を企てても、充分なフォトンを確保させずに鎮圧できる」とか考えそうですし。




 それと少し真面目な話ですが、ハーメルンの必須タグの基準は毎度悩みます。
 流血程度でもあれば「残酷な表現」を付けたほうが良い気もしますし、今どきは往年の少年誌サービスシーンみたいな描写があるならR15が必要かもとも思います。
 しかし例えばメギド72はIphone版でも推奨年齢12+ですが、バトル物かつハードな世界観だけにしょっちゅう人が死にますし、幼女が執拗な暴行の末に生死の境を彷徨いますし、おじさんが肋骨の裏側をペロペロされます。
 エイルが子作りを迫って来ましたし、最近ではカマセイン達がいやらしい事しか思いつかなくて悩んでいました。
 そしてどれも、ほぼ文章上の表現においてです。
 メギド72原作での描写を決して逸脱していないと考えてメギド二次創作を書いた場合、これらの必須タグは必要になるのか否か、非常に難しく感じられます。

 問題が起きてからでは遅いのだからサクサク追加してしまえば良いと思う反面、こういったタグは目につくと「ハッ」とせざるを得ない所があるように思えて、余計な警戒を与えやしないか、もしも原作より遥かに生ぬるいものだった場合、それはそれで読者を不当に焚きつけるものになってしまってはいないか、つい考えてしまいます。

 要するに、メギド原作程度の事は、必須タグ無くても普通に起きるので、予めご了承下さい。
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