時間を遡る。
潜入組が自由行動の時間を与えられ、各々に別れてアブラクサスを散策していた頃。
アブラクサス周辺。フォトン欠乏の影響が届かない程度にはアブラクサスから離れている地点。
海岸沿いの某所にポツンと佇む一件の民家。エルプシャフトでは余り見慣れない幾つかの木や花に彩られている。
青空に朧に溶け込んだアブラクサスが幻想的な、景勝地にして穏やかで目立たない、理想的な立地。
居住スペースは標準的な民家に比べると若干手狭なくらいだが、馬車小屋を始めとした上等な設備がコンパクトに一通り揃っている。
窓越しに、霞んだアブラクサスの外観を眺める人物が1人。
ウァサゴ
「……ふぅ」
肩の力を落とすようにため息を1つ付いて、視線を窓から外し、椅子から立ち上がるウァサゴ。
柄にもなく、つま先まで立てた大きな伸びをした後、テーブルの上に視線を落とす。
ウァサゴ
「……物置小屋を開けてみて、正解だったようですわね」
テーブルの上に並べられた幾つかの品々に、慈しむように指を這わす。
ウァサゴ
「(アリアンを思い起こさせる物は全て、物置に押し込めていたんですのね)」
「(私とアリアンと、最低限の使用人のみで暮らす……そのためだけに建てられた、玩具代わりの別荘)」
若干の埃臭さを漂わす品々の中から2つ、手元に寄せるウァサゴ。
一つは布に包まれた板状の物体。一辺が50cm強、もう一辺が45cmほどの長方形。
もう一つは、革靴のような質感の、流線型の細長い小箱。
ウァサゴ
「……」
「板」と「小箱」の内、「板」を手にとって日陰に立て掛け、丁寧に布を取り去る。
現れた中身に向けて、ウァサゴは痺れを堪えるような複雑な笑顔を浮かべる。
ウァサゴ
「貴女のお顔を見るのは、本当に久しぶりですわ……アリアン」
布を取り去った下には、一枚のキャンバスが収まっていた。
貴族の家が所蔵するには明らかに不釣り合いな、悪い意味も含めてどこにでもある、ごく普通の油絵用の品。
幼い少女が2人並び、こちらに微笑みかけている絵だった。
年下と思しき少女は、顔から飛び出さんばかりの大きな眼鏡をかけている。
ウァサゴ
「まだ無名で駆け出しの……それも風景画を志す女流画家でしたのに、貴女ったら……くすっ」
「僅かに世に出された絵を、ひと目で気に入ったからと聞かなくて、マンショ様に招聘させて──」
「そして、私と貴女の肖像画を……子供心に、少しだけ気の毒でしたのよ」
「日雇いで日銭を繋いでらした新人画家が、いきなり貴族の家に招かれて愛娘の絵を描けなんて」
「覚えてまして? 貴女のお陰で彼女、画家なのに彫像のように固くなり通しで……ふふふ」
ひとしきり絵と語らい話題が一段落してくると、今までそうする事を先延ばしにしていたかのように、遠慮がちに「小箱」を手に取った。表面に金のレリーフで水仙が象られている。
箱を開くと、眼鏡が一つ入っていた。レンズが非常に分厚い。
ウァサゴ
「……痛ましい皮肉ですわね」
「ひと目見ただけなら、瓜二つなんですもの……貴女への『最愛』と……」
「……『手切れ』が」
開いたままの小箱を傍らに置いて、懐を探るウァサゴ。
取り出したのは、いかにも頑丈そうな薄い直方体の小箱。表面に金の待雪草のレリーフが施されている。
流線型の小箱の隣に置いて開くと、こちらも中身は眼鏡だった。
フレームもレンズも、色から形まで良く似た2つの眼鏡が並ぶ構図となった。
ウァサゴ
「……ごめんなさい、アリアン」
「あの時、本当は私……どう接する事が貴女のためになれたか、分かりませんでしたわ」
・ ・ ・ ・ ・ ・
ウァサゴの回想。
イーバーレーベン領主マンショとの話を終えて退室し、別荘への帰りの馬車に乗り込んだ直後。
見送りの使用人が、ウァサゴに小箱を手渡した。
ウァサゴ
「これは……?」
使用人
「マンショ様から、アリアンお嬢様への贈り物です……『最後』の」
ウァサゴ
「……開けても?」
使用人
「ぜひ」
小箱を開いたウァサゴ。
ウァサゴ
「眼鏡……」
使用人
「アリアンお嬢様は生まれつき、目を悪くされておりましたから」
ウァサゴ
「存じております。それはもう……」
「日を経る度に、視力の衰えは留まる事を知らず、その度に新調せねば日常生活も心許なかった」
使用人
「はい。無論、あの日も……賊に踏み入られた日も、お嬢様は身につけておられました」
「貴族の娘に相応しいようにと、特注した物を」
ウァサゴ
「ええ。私も、事件の少し前に見た覚えがあります」
「あの頃には、視力の低下も落ち着いて、細工に拘る余裕も出来て──」
「『つる』に微かに星屑が煌めいて、細やかな飾りやチェーンを提げた、マンショ様の自慢の一品……」
使用人
「2年前……再開したアリアンお嬢様は、眼鏡を身につけておられなかったと、マンショ様から」
ウァサゴ
「……でしょうね。愛する娘のため、贅を凝らした逸品……賊が奪わずには居られないはずですもの」
小箱を閉じるウァサゴ。手が微かに震えている。
ウァサゴ
「だから……私を介して、アリアンに施せと……これを『最後』に?」
「心から愛していると……それでも、もうこれ以上は愛せないと……だから、これで『手打ち』に?」
使用人
「……私の役目は、主人の言いつけと言伝を、可能な限りありのまま、形にするまでです」
「『例え今日を限りに、エリザ嬢と物別れに終わるとしても、これだけは託すように』……と」
ウァサゴ
「……」
・ ・ ・ ・ ・ ・
回想終わり。
2つの眼鏡と、肖像画のアリアンとの間で無意識に視線を行き来させるウァサゴ。
ウァサゴ
「(私が今日受け取ったのは、賊の目利きに捕えられぬよう、素材の質だけを拘り抜いたもの……)」
「(そして別荘に残されていたのは、アリアンの視力に合わせた『最終版』のレンズを嵌めたもの……)」
「(この『度』で問題ない事を確かめるための……アリアンに見合う眼鏡を作る前の、いわば試作品)」
流線型の小箱の中の、古い方の眼鏡を取り出し、手慰むように様々な角度から見つめ直すウァサゴ。
ウァサゴ
「(現代のヴァイガルドで流通するレンズは全て、職人が手作業で緻密に加工する物)」
「(大量生産品でも、決して気安く生み出される事は無く、ましてやアリアンのような場合は──)」
「(『常識』の視力を大きく下回る者のためのレンズは、工期も価格も比べ物にならない)」
「(ようやく、アリアンに合うレンズを作れる職人に出会えはしましたが、『子供用』とまでは……)」
眼鏡を持った手を膝元に降ろし、肖像画を見つめるウァサゴ。
絵の中のアリアンが身に着けている眼鏡は、淑女が装うには、垢抜けないと呼べればまだ良い方だった。
無骨な上に今にもずり落ちそうな大仰なフレームは、それはそれで愛らしさもあるがどうしても、芋っぽいとか間抜けとかを意味する類語が脳裏を過る。
ウァサゴ
「(ひとまず姿形は妥協して、アリアンに『人並の』世界を見せる事を、ご両親は選ばれた……)」
「(眼鏡の『度』が合わなくなるたび……私がアリアンの元へ赴くたび、眼鏡は買い換えられていた)」
「(アリアンの視力が安定してきたと分かったのは、アリアンが拐かされる数年前)」
「(その頃にこの眼鏡を注文され……やがて新たに『子供用』の眼鏡が作られ……)」
「(それ以降は予備として、ずっとここに……)」
眼鏡を身に着けてみるウァサゴ。
ごく自然に「つる」がウァサゴの耳にかかり、フレームの野暮ったさを除けば何ら問題なく収まった。
ピントのズレきった視界に、反射的に眼球の奥から、締め上げられるような微かな痛みを覚える。
ウァサゴ
「ふふっ……あの頃、興味本位で借りてみたら、今にもズリ落ちそうになっていたのに」
「(特別なレンズを支える特別な眼鏡……『子供用』のそれを扱う職人は前例がなかった)」
「(だから、大人用の眼鏡を着けて過ごして……そんな不恰好もどこか愛くるしくて……)」
「(根強く交渉していた子供用の眼鏡の製作が決まって……晴れやかな装丁を依頼して……)」
「(ようやく届いた眼鏡に、貴女も飛び跳ねて喜んで……)」
「(そして……)」
「そして……身も心も、奪われて……」
しばらく、ぼやけた視界を宙に泳がせてから、眼鏡を外し、小箱にしまう。
ウァサゴ
「……いけませんわね、私ったら」
「貴女との事なら、もっと楽しい思い出が幾らもあるのに……そう、例えば──」
「貴女の視力の安定が分かり、『最終版』の眼鏡の製作が決まった日……忘れたとは言わせなくてよ?」
「丁度、私ども一家もイーバーレーベンを訪れていて、朗報を知った私がお祝いにと──」
・ ・ ・ ・ ・ ・
ウァサゴの回想。いつかの別荘。
別荘の寝室。幼い頃のウァサゴとアリアン。どちらも寝間着姿。
ベッドに撃沈しているウァサゴと、シャンと立ってウァサゴを揺り起こすアリアン。
アリアン
「『ウァサゴ』お姉さま! もう一曲、もう一曲だけですから! ね?」
ウァサゴ
「モ~~ゥ勘弁なさって! さっきから同じ事を言って何度付き合わされている事か……」
「それに窓の外をご覧なさい、一体何時だと思ってますの?」
アリアン
「だってたまの夜ふかしですのよ、まだまだ夜はこれから──」
「あら、空が素敵なスミレ色に……?」
一方、窓の外には野生のポピーが慎ましやかに咲いていた。
今日のポピーは薄明に浮かび、普段の見慣れた姿とは違った一面を感じさせ、ミステリアスな魅力があった。
ウァサゴ
「モ~太陽が昇ろうとしている頃でしてよ。こんな時間に起きてるなんて生まれて初めてですわ……」
「確かに『お祝いに1日何でも付き合ってあげる』と言いましたけれど──」
「本当に夜通し踊り明かす人がありますか! 全く、貴女はダンスの事になると……」
アリアン
「ではお姉さま、最後は寝際に丁度いい、ゆったりとした──」
ウァサゴ
「あ~モゥ……!」
ズルリと起き上がるウァサゴ。
ベッドの上で膝立ちになり、アリアンの肩を掴むと、一息に引き寄せて、アリアンをベッドに押し倒した。
アリアン
「きゃっ……」
アリアンの、まだ大人用のフレームのために緩い眼鏡を易々と取り上げて枕元に起き、抱きしめて動きを制するウァサゴ。
ウァサゴ
「そもそもメギドは本来、ダンスなんて嗜みませんの。私のステップは『礼儀』に過ぎなくてよ」
「付き合ってあげただけでも感謝して、今日はいい加減にお眠りなさい」
アリアン
「もう、ウァサゴお姉さまったら……」
ウァサゴ
「徹頭徹尾、一片の余地なくこっちの台詞ですわ」
アリアン
「だって、もう私、抱かれて眠るほど小さくありませんわ」
ウァサゴ
「そ、そっち? まあ、ちゃんとダンスを切り上げてくれるなら結構ですけれど……」
「今さら大人ぶっても遅くてよ。文句は、私がこうしてあげないと眠れないと言ったご自分に仰って」
「昔から毎晩でも貴女の方からしがみついて来てたのに、説得力の欠片もございませんわ」
アリアン
「では、いつごろ申し上げればよろしかったのですか?」
ウァサゴ
「う……ご、ご自分で考えなさい、そのくらい」
「それに今日ばかりは、こうでもしないと貴女、眠りながらシャッセの1つでも舞いかねませんもの」
アリアン
「まあ、それでは手を繋いで休みましょう、お姉さま!」
「夢の中でもワルツを踊れるかもしれませんわ」
ウァサゴ
「だから勘弁なさって! ほら──」
フラットシーツとブランケットを一掴みに、殆ど頭まで被るウァサゴ。
布団に埋もれたアリアンを、赤子を宥めるように等間隔で撫で続ける。
・ ・ ・ ・ ・ ・
回想中断。
落ち込みかけた気分を少し持ち直しながら、現実に帰るウァサゴ。
ウァサゴ
「……私も、やっぱりヴィータですのね」
「あの頃は、本当は私の方が……」
「なのに幼い心でムキになって、無理やり誤魔化して貴女のせいにして……」
「ふふっ、今は反省してましてよ」
「一緒に見つけましたの。コレを使ってた頃から私ずっと、貴女の『おねむ』を手伝っていて──」
肖像画のアリアンに語りかけながら、テーブルに置いた品々からトイピアノを手元に寄せるウァサゴ。
鍵盤の1つを叩いてみるが音は鳴らず、手応えもスカスカだった。
ウァサゴ
「……流石に、このままではもう、使えそうにありませんわね」
「貴女は、覚えてないかも知れませんわね。これで貴女に音楽を教えてあげましたのよ」
「講師に習ったばかりの拙い曲を、ご自分の指をしゃぶってばかりの貴女に、それはもう得意げに……」
トイピアノをアリアンの代わりのようにそっと撫でて、テーブルに戻す。
ウァサゴ
「……何だかんだで、貴女も良く付き合ってくれていましたのね」
「そんなに小さい頃から見知った私が、急に『ウァサゴと呼べ』なんてふんぞり返って……」
「なのに貴女ったら驚くどころか、間を置く事さえ無く『はい』だなんて、いつも通りの笑顔で」
トイピアノを置いた手で、続いて色あせた宝石箱らしきものを取るウァサゴ。
開くと甲高い音が次々に奏でられた。
ウァサゴ
「……!」
「オルゴール、まだ動く……!」
数秒ほど、音楽の宝石箱に目を奪われた後、砂の像を運ぶように慎重に、開いたオルゴールをテーブルに置くウァサゴ。
また数秒、オルゴールを見つめる。巻かれたネジがまだ当分残っていそうだと把握したウァサゴは、スッと椅子から立ち上がった。
ウァサゴ
「……」
腕を空中に伸ばし、手のひらを見えない何者かと繋ぐように柔らかく閉じるウァサゴ。
そのまま3歩ほど滑るように進みながら、ナチュラルターンを舞う。
ごくごく初歩的なステップで構成されたダンスを1人で踊るウァサゴ。
ウァサゴ
「(まだ、体が覚えていますわね……)」
「(私とアリアンとで作った、思い返せば恥ずかしいほど稚拙な曲──)」
「(それを私達の両親が、娘かわいさにオルゴールに仕立て──)」
「(感激に舞い上がって、稚拙な知識で考えた、稚拙なダンス……)」
「(それでも私たちが舞う時には、いつもこの曲から始めて、内訳も少しずつ変化を加えて……)」
「(いつまでも、いつまでも単調な曲のまま、複雑なフィガー、高等なルーティンに……)」
曲に乗せて踊りつつ、流れるように自分が座っていた椅子を机の下に押しこみ、空間を確保するウァサゴ。
元からそれがステップの一部だったかのように、無駄のない動きでダンスを再開する。
ウァサゴ
「(やんちゃ盛りのアリアンには、体を動かす楽しみといえば、ダンスしか無かった)」
「(心配するご両親が、屋敷の庭を歩く時さえ使用人に付きっきりにさせていたから)」
「(事実、あの子は眼鏡の『度』が合わなくなるたび、どこかしらにぶつかってばかりで──)」
・ ・ ・ ・ ・ ・
回想再開。
別荘の庭先。ウァサゴとアリアンと、使用人が1人。
現実においてはウァサゴへ厳かに眼鏡を託していた例の使用人が、回想のこの場ではしめやかにオロオロしている。
アリアンはシュンとしながらクルクルしている。
アリアン
「はぁ~……折角ウァサゴお姉さまがいらして下さったのに、私ったら何て間が悪いのかしら」
「お姉さまと舞える事が一番の楽しみなのに、足を傷めてしまうだなんて……」
ウァサゴ
「本当にそう思っているんでしたらおとなしくなさい」
「新調した眼鏡が届くというその日に、見えもしないまま踊りだすに飽き足らず──」
「タンスに足の小指ならぬ親指ぶつけて爪を縦に真っ二つなんて、貴族のやらかす事ですか……」
使用人
「アリアンお嬢様、『エリザ』様の仰るとおりです。どうかご安静に──」
ウァサゴ
「『ウァサゴ』です! メギドの大貴族ですのよ、礼をわきまえて下さいますこと?」
使用人
「は、はい、そうでした。失礼しましたウァサゴ様……と、とにかくアリアンお嬢様──」
「傷が塞がるまでは歩くにも難儀なはずです、今回ばかりはダンスはお控えに……」
アリアン
「ですけどホラ、怪我をしたのは片足だけですのよ?」
爪を割った方の足を上げ、バレエのアラベスクの姿勢で回りながら、きょとんとした顔で応えるアリアン。
ちなみに当時、アリアンにバレエの知識は全く無かった。勘とセンスと必要の賜物だった。
ウァサゴ
「片足でも鼻先でも、傷めた時くらいはレディらしくなさって!」
「せっかく今回は貴女のお見舞いに、こうして珍しい東国の花を──」
庭先に降ろした荷物の中に幾つかそびえる、朝顔の鉢植えを指差すウァサゴ。
これを植え替えるために庭先に出ていた。
アリアン
「見て見て、お姉さま、最近はこんな事も出来るようになりましたのよ」
軽々とビールマンスピンして見せるアリアン。もちろんアイススケートリンクなどではない土の上だった。しかもいかにもお嬢様らしいドレス姿である。片足に引かれて頭より高くなったスカートの裾がはためいている。
ウァサゴ
「踊らないっ! 話を聞いてっ! はしたないっ!」
「モウッ……普段は淑やかな子なのに、どうしてこう……」
使用人
「ウァサゴ様を別荘にお迎えするたび、ついつい『はしゃいで』しまうのでしょう」
「親元の目を離れ、ご友人とのびのび過ごせる場所……『秘密基地』とでも申しましょうか」
「ウァサゴ様も、そういった気持ちが全く無いとまでは仰れないと思われますが?」
ウァサゴ
「そ、それは……ま、まあ……」
使用人
「ここで過ごす間は、家柄も立場も忘れ、『ただの2人』として……それでよろしいのでは無いかと」
「私にしても、お嬢様方の暮らしをお手伝いするだけで、何を見聞きするという事もありません」
ウァサゴ
「わ、私は……使用人と言えど、あなたもこの別荘の立派な一員として……」
使用人
「加えて私、お嬢様から繰り返し頼まれていますので」
「ここでの事を『色々と』、マンショ様には内緒にするようにと」
ウァサゴ
「なっ……ちょっと、まさかそれは私の与り知らぬ所でもアリアンが何か仕出かしていると!?」
「あなた、使用人としてちょっと甘すぎや……って、だからアリアンも足を降ろしなさいっ!!」
アリアン
「あぁ、でもこの足を地に着けると痛みが……」
ウァサゴ
「いい加減、怒りますわよ!?」
使用人
「まあまあ……アリアンお嬢様も、杖をご用意致しておりますので、ここはひとまず──」
・ ・ ・ ・ ・ ・
回想中断。
未だオルゴールに合わせて、繰り返し繰り返し踊り続けるウァサゴ。
ウァサゴ
「うふふ……」
「(別荘の思い出だけだと、とてもメギドラルの貴族にお目通りとはいきませんわね)」
「(不便を抱えたアリアンには旅行もままならず、歳の近い知り合いも私くらいしか……)」
「(外の世界を知れなかったせいで、少しズレた所もあって──)」
・ ・ ・ ・ ・ ・
回想再開。またある時の別荘。
別荘の屋外。丁度、現実のウァサゴが居る部屋の窓の前。
窓の脇にぶら下げられた物体を見上げる幼い日のウァサゴ。
アリアンと使用人も一緒だが、ウァサゴは眼前のソレに釘付けになっている。
ウァサゴ
「こ……これは……!」
使用人
「仮にも貴族の住まいにこのような……驚かれたかも知れません」
「しかし、アリアンお嬢様が是非にと、大層目を輝かせて仰るもので……」
幾分の冷たさを帯び始めた風に悠然と晒されていたのは、ワタを抜かれて下処理済みの魚類だった。
同じく窓際に幅を利かせ始めているイタドリなど気にするどころでない様子で、ウァサゴはハングドなフィッシュだけを見つめている。
ウァサゴの視界の隅で、アリアンが何やらしきりに上下左右に動き回っているが、全く気づいていない。
アリアン
「ほっ……やっ……!」
「この時期になると、遠い海から一斉に川を遡るという不思議なお魚だそうですのよ……せいっ」
「無敗の旅剣士という方が偶然、我が家に滞在なされて、記念にと一匹とらまえて下さいましたの」
「……うーん、ここはもっと……むん!」
ウァサゴ
「……」
アリアン
「お姉さま?」
ウァサゴ
「ハッ……! そ、そうでしたの」
「き、急にこんな所にナマモノが添えられていたものですから、理由に思いを馳せてしまいましたわ」
「(何故かしら……見るからにただの魚なのに、魂を蠱惑的にくすぐられるような……)」
使用人
「漁獲なされた剣士様に曰く、故郷ではこの魚を、このように塩に漬け外気で乾燥なされるとかで」
「保存食でありながら、現地では一等の祝いに供される高級品なのだそうです」
「特にこうして丸干しした物を指して現地では、『アマラッキ』とか『ビキーショ』と呼ぶそうです」
「余談ですが、こちらとは別の魚類を同様に加工した場合は『グホーティ』と呼ばれるとか」
ウァサゴ
「な、なるほど。それで実際に作ってみようと──」
「で……それよりアリアン」
アリアン
「こうして……はいっ、はいっ、はいっ!」
「……あ、ハイお姉さま。素敵なお魚ですよね、勇敢さと逞しさが伝わって来るようで」
「剣士様から郷土のレシピも教えていただけましたのよ、『チャンチャン』という──」
ウァサゴ
「魚どころじゃございませんわよ。さっきから何をなさってますの?」
「落ち着きが無い上に、そんなみっともない身振りばっかり……」
アリアンは、ウァサゴらと共にこの場に立ってからずっと、上品とは程遠い掛け声をあげながら全身を躍動させ続けていた。
重い踏み込みに、かと思えば軽やかかつケレン味を醸す小刻みな横っ飛び、しゃがみ込みつつ大綱を引くような所作……エルプシャフトでは余り例を見ない躍動の数々だった。
アリアン
「そうなんですお姉さま、このお魚を見た時、ダンスの新境地が開けた気がしましたの!」
「閃きが止まらないと言うか、体が勝手に動くと言うか、踊らなくてはいけない気持ちになって!」
「こうして勇ましいお魚を見ていると、ウァサゴお姉さまも、こう……『感じ』ませんか!?」
ウァサゴ
「何一つ! 少なくとも貴女の言わんとする事だけは!」
「動きが小うるさくて下品です。足踏みも粗野で大げさすぎて土が跳ねてるじゃございませんの!」」
「何より大股開いて腰を落とすなんて、断じて淑女がなさって良い事ではありません!」
抗議されている真っ最中にも、アリアンは肩幅大に開いた足の間から、アミかロープの類を両手で巻き上げつつ持ち上げるような動作でキレよく踊り続けている。
アリアン
「ですがお姉さま、これは、この熱い気持ちはもう、お魚への敬愛と言っても過言ではありませんの」
「無敗の剣士様が一目一息に狂いなくお魚を捕え、しかし尚も生きんと藻掻くお魚の命の熱情!」
「私、名前も考えたんです。剣士様が仕留めなされた時の凛々しい掛け声に因んで『必中ソウラ節』と──」
ウァサゴ
「後生ですから封印なさって! ダンスはダンスでもレディにあるまじきものです!!」
使用人
「ま、まあまあ……」
・ ・ ・ ・ ・ ・
回想頓挫。
眉をしかめて、ダンスの途中の姿勢のまま硬直しているウァサゴ。
丁度、オルゴールのネジも止まっていた。
ウァサゴ
「(……今にして思えば、少しどころじゃ無くズレた子だったかも知れませんわね……)」
「(ああもう、いけませんわ! これではアリアンがダンスおバカの愉快な娘みたいじゃありませんの)」
「(もっと……もっとこう、きれいなアリアンを──)」
「ハッ……!」
何気なく肖像画を見るなり、慌てて駆け寄るウァサゴ。
ウァサゴ
「いけない、日光が……!」
いそいそと肖像画を布で包み、ひとまずテーブルの陰に立てかける。
ウァサゴ
「ダンスに夢中で、日の傾きを忘れていましたわ……」
「絵に直射日光は大敵……名残惜しいですけれど、他の物と一緒に戻しておきましょう」
物置小屋へ運び直すため、テーブルの上の品々をまとめ直すウァサゴ。
もう間もなく、太陽が黄色とも赤ともつかなくなる頃だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
ウァサゴの回想。
夜の別荘の一室。幼い日のウァサゴとアリアン。
傍らに侍る使用人が淹れたハーブティーが、2人が寝室へ去るまでの合間を繋いでいる。
テーブルに添えられた、黄色い花の植木鉢を見つめるウァサゴ。
ウァサゴ
「素敵な花ですわね。きらびやかで、それでいて慎ましくて……」
使用人
「はい。この時期に咲く東の花で、『ツイタチ』などと呼ばれるそうです」
「現地では丁度、今日のような雪に粧われて咲く姿が見られるのだとか」
窓を見るウァサゴと使用人。
海岸に面した夜景に、今夜の内にも積もりそうな大粒の雪が降り注いでいた。
窓の端で、頭から下がキレイに骨だけとなった塩漬け魚類が微かな風に揺られ、チラチラ映り込んでいる。
ウァサゴ
「あら、でしたら家に持ち込んだのは、少し失敗でしたかしら?」
「雪に花……思い浮かべるだけでも溜息が出てしまいそう」
使用人
「でしたら時期を見て、私どもで植え替えておきましょう」
「丁度、しばらくは別荘やお屋敷の庭整備が盛んになるでしょうから」
ウァサゴ
「先だっての『誕生祝い』ですわね」
「アリアンのためにと、東の草花を『わんさ』と仕入れたと聞いておりますわ」
「まあ? メギドには誕生日も暦も有ってないような物ですから、毎度理解に苦しみますけれど!」
使用人
「ふふ、何しろメギドの大貴族であらせられますからね」
「マンショ様は先祖代々から、東の商人達と懇意になされておられますが──」
「以前、ウァサゴ様からお見舞いの花をいただいてから、アリアンお嬢様が特に興味を示されまして」
「新たに植物専門の商人をお探しになられ、『ツイタチ』もそうして、ここにある次第です」
ウァサゴ
「あ、あぁ……な、なるほど。悪い気は、しませんわね」
「思えば、ここを建てて間もなく、庭先に撒いたという木の種……あれも東国の品でしたわね」
「確か、『サーサンクア』に『ロクアット』……今ではすっかり根付いてますわね」
「あれらもこの時期に花開くのでしたかしら?」
使用人
「ええ。もうじきかと」
ウァサゴ
「ここはいつでも草木に恵まれて……というか、『植え過ぎ』じゃございませんこと?」
「ここに来る度に新しい花が増えている気がしましてよ。花壇も随分前から一杯ですし」
「こないだなんて、木陰にまで種を撒いてたではありませんの。少しはスペースも考えませんと」
使用人
「ああ、あの種なら心配ありません。元より日陰を好む品種との事で、敢えてあそこに植えました」
「そういえば、あの種もひと月と少し前に開花しまして。黄色の花に広く艷やかな青葉が壮観でした」
「良ければ、明日にでもご覧になりますか?」
ウァサゴ
「興味はありますけれど……それはそれです。僭越ですが、くれぐれも限度にはお気をつけなさいな」
「アリアンの『勢い』に流されていたら、別荘が密林になりかねませんから」
使用人
「ええ、痛み入ります。マンショ様にも、私からお伝えしておきましょう」
ウァサゴ
「アリアンもですわよ……って、さっきから珍しく静かですわね」
見るとアリアンは、ウァサゴ達のやり取りに目もくれず、窓の外をジッと眺め続けている。
特に驚く様子もなく、ウァサゴが再び呼びかける。
ウァサゴ
「ア・リ・ア・ン! 聞いてますの?」
アリアン
「はっ……あら、すみませんお姉さま。つい、景色に見とれていて」
ウァサゴ
「全くこの子は……貴女のために用意された花より、見慣れた窓の外の方が良いなんて」
使用人
「アリアンお嬢様は花そのものよりも、草木の世話をなさる事を楽しまれておられるようです」
「花壇の手入れの時などは、いつも生き生きとお手伝いを申し出て下さいますから」
「いつぞやも、お屋敷にて庭師顔負けな程、終日パンジーやビオラなど掘っては植え、掘っては植え──」
ウァサゴ
「貴族の娘が土いじりが好きだなんて、美しくありませんわ……」
使用人
「まあまあ。アリアンお嬢様の年頃なら、むしろ似つかわしい事ですから」
ウァサゴ
「そうは言っても、アリアンだっていい加減レディの自覚を──」
「ほら、アリアン! また窓ばかり見て!」
アリアン
「だって、こんなに綺麗で……」
窓に目を向けたままため息まじりに呟くアリアン。
さっきも「ツイタチ」を添えて眺めていた風景を、改めて鑑賞してみるウァサゴと使用人。
ウァサゴ
「……」
「雪が降っている以外は、いつも貴女と見ている景色と何ら変わらなくてよ?」
使用人
「それに、別荘から見る雪景色も、今では珍しく無くなりましたが……」
アリアン
「だってほら……今宵の海は、光が天へと昇っていくのがよく見えますわ」
ウァサゴ
「光が、昇って……?」
「言われてみれば確かに、今夜は雪だと言うのに空にチラホラ星が覗いていますけれど……」
使用人
「ふむ……雪が海へと舞い散る姿が、逆に海から星へと昇っていくよう……という事ですかな」
ウァサゴ
「そんな……アリアンったら、いつの間にそんな詩的な感性を……!?」
アリアン
「お、お姉さま、そんな言い方はあんまりです!」
ウァサゴ
「冗談ですわよ。不服に思うのなら、別荘に居る時も少しは淑女らしさを心がけなさい」
アリアン
「む~~……」
ぷっくり膨れてみせるアリアン。
ウァサゴ
「でも……何だか、貴女はここに来る度に、別荘の新しい魅力を見つけている気がしますわね」
「私と違って、年中でもここに通える身なのに……まるで生き物の日々の変化を見守るかのように」
使用人
「近頃のお嬢様は、星にも大層、興味を示されておいでですから、尚の事でしょう」
「眼鏡が『合う』ようになり始めたのもあって、この間も見事な『走り込み』でしたし」
ウァサゴ
「は、『走り込み』……?」
使用人
「はい。瞬く星を見上げながら、『追いかければきっと捕まえられるかも』と、それはもう」
アリアン
「もうちょっとで『いける』気がしましたのに、お父様たちに止められてしまいまして……」
ウァサゴ
「『いける』わけ無いでしょう、空の上ですのよ……?」
アリアン
「いいえ、『何人も願えば必ず届く』と、いつか読んだ本にも書かれていましたもの!」
「そうですわ、もっと沢山の雪が降るくらいウンと冷えた日なら、凍った海の上を駆けて──」
ウァサゴ
「届きません! そんな蛮行を『いける』とは言いません!」
「そもそも海が凍るわけが無いでしょうが」
「幾ら外に出る事に不便があるからって、貴女は少し世間知らず過ぎます」
アリアン
「そうなんですの? 川や滝が凍るお話は聞くのに、なぜ海は凍らないのですか?」
ウァサゴ
「えっ……そ、それは……ねえ?」
助けを乞うような目で使用人を見るウァサゴ。
使用人
「これは一本取られてしまったかと……私も理由は存じ上げません」
ウァサゴ
「で、ですが、海が凍る事など『常識』ではあり得ない事です! そうでしょう?」
使用人
「確かに、池や湖が凍るという話はよく聞きますが、海までは……」
「しかしながら、『凍らない』という確かな理由を見聞きした事も無く、それが絶対とも……」
「例えば、余りに広大で、しかも常に波打っている分、冷えてしまいにくいのかもしれません」
アリアン
「まあ、そういう事でしたのね! とっても納得です!」
「こんな季節なのに、海はあんなに暖かに輝いていますもの」
ウァサゴ
「冬の水面の煌めきを『暖かい』……やっぱり変わった感性ですわね。嫌いではありませんけど」
使用人
「ですが、もし凍りついてしまったら、アリアンお嬢様はますます気が気でないでしょうね」
「昔、旅先で凍った湖を踊るように滑り、楽しむ人々を見た事がありますから」
ウァサゴ
「あら、ではきっとそれが海が凍らない原因ですわね」
「アリアンが海の上で舞い続けて、水平線の果てまで迷子になってしまわないために」
アリアン
「わ、私でもそこまで『やんちゃ』は致しません!」
ウァサゴ
「うふふ……本当にぃ?」
アリアン
「むむ~~……ウァサゴお姉さま、時々いじわるです」
ウァサゴ
「あら、ありがとう。私、『悪魔でメギド』ですもの」
アリアン
「……いいえ。いじわるですけど、悪魔じゃありません」
ウァサゴ
「え?」
アリアンは、むくれて目を背けて口を尖らせ、他愛ない口喧嘩の延長のままぶつくさと続ける。
アリアン
「たまにいじわるでも、メギドでも、お姉さまは『天使』のようなお方です」
「だから……お姉さまは、お姉さまを『悪魔』とか言っちゃダメです!」
ウァサゴ
「……くすっ。それ、もしかして仕返しなさってるおつもり?」
「お気持ちだけありがたく受け取っておきますわ。でも『天使』はいただけません」
「私は誇り高きメギドであり、ヴィータの語る所の『悪魔』です」
「ならば誇り高き『悪魔』であってこそスジというもの。『天使』とはハルマであり、メギドとハルマは──」
アリアン
「でも、『悪魔』は『悪魔』です!」
「『悪魔はメギド』だなんて言い伝えは聞いた事がありません!」
ウァサゴ
「何を仰いますの、確かにこの地域では独自の神話もありますが……」
「貴女もお勉強なさってるでしょう? 他の伝承には、しかとメギドの名が──」
アリアン
「そうじゃありません! ウァサゴお姉さまの仰る『メギド』の事です!」
ウァサゴ
「は、はい……?」
アリアン
「お姉さまが『メギド』でも、ヴィータの『悪魔』なんかじゃ無いんです」
「お姉さまはお姉さまで、私の『天使』です。お姉さまが『悪魔』だなんて絶対にイヤです!」
ウァサゴ
「あの、アリアン? 仰ってる事がよく……」
ウァサゴが説明を求めようにも、アリアンは顔をそっぽに向けてしまってプンプンするばかりだった。
使用人
「差し出がましいようですが、よろしいでしょうか」
「アリアンお嬢様……こう仰りたいのではないでしょうか?」
「『悪魔』とはヴィータにとって『悪いもの』に使う言葉で、人を良くするものではない……と」
「なので、どのような意味合いでも、ウァサゴ様に己を貶めるような物言いはしてほしくない」
アリアン
「そうです!」
むくれたまま即答するアリアン。
ウァサゴ
「ああ……もう、ですからそうではなくて……!」
「私は、かつてヴィータに悪魔と恐れられたメギドであり、己の種族と出自に誇りを──」
使用人
「ウァサゴ様……ここは、どうかお聞き入れ下さい」
「アリアンお嬢様のお言葉は恐らく、メギドという『命』を尊重なさるが故のものです」
ウァサゴ
「な……そ、尊重?」
使用人
「我々ヴィータは詰まる所、『実在するメギド』を身近に知悉しているわけではありません」
「漠然と思い描く『悪なる魔の者』……ヴィータはソレに『メギド』の名を託けたに過ぎません」
ウァサゴ
「あ……確かにそれは、私も常々思っていましたわ」
「歴史を紐解けば、やれ悪魔が村中の子供を攫っただの、取り憑いて蛮行を働かせただの──」
「今のメギドには、そんな力をヴァイガルドで振るう事は不可能ですもの」
「確かにヴァイガルドを狙ってはいますが、アレもコレも『メギドのせい』など、不愉快です」
この頃のウァサゴに、後に似たような力がヴァイガルドで振るわれる事など知る由もない。
使用人
「全くです。即ちヴィータが『メギド』と呼ぶものは所詮、ヴィータが仮想した『敵』です」
「ヴィータの呼ぶ『メギド』と、ウァサゴ様の誇る『メギド』との間には大きな断絶があります」
「事実、例えば死者の国……ウァサゴ様の語られる『メギドラル』の伝承などはごく僅かです」
「世界の姿形ならまだしも、『貴族』や『議会』……即ち『社会』の有り様などは全くもって」
ウァサゴ
「あ……」
「ヴァイガルドで、メギドの何たるかを知る者は無く……」
「つまりヴィータの言葉で、『メギド』とは『悪魔』の類語でしかなく、本質は別物……?」
使用人
「『悪魔の所業』などとも言います通り……『悪魔』は人が在って初めて成り立つ『言葉』です」
「恐らく、アリアンお嬢様は幼くして……『見抜いて』おられるのでしょう」
「『悪魔』とは、人の悪性を『押し付けた』言葉に過ぎないと」
「同時に、ウァサゴ様の語る『メギド』が、ただ同じ名を持つだけの、誉れある『命』なのだと」
ウァサゴ
「……!」
「(この子は、神話や常識も関係なく、私をメギドという『個』として……!?)」
「では……ハルマなど関係なく、ヴィータが『天使』という言葉に託したモノ……」
「それが、アリアンにとっての、私……」
使用人
「さて……かような次第ですから、ウァサゴ様」
「分別ある年長者としても、ここはウァサゴ様から仲直りされるべきかと。天使の如く寛容に」
ウァサゴ
「……ハァ」
「し……仕方ありませんわね」
「ア、アリアン……貴女の仰りたい事はよく分かりました。今回はわたく──」
「ぅ……」
言いかけて、苦い顔で固まるウァサゴ。
向き合ったアリアンは、さっきまでの膨れっ面はどこへやら、目を輝かせてニコニコとウァサゴを見つめ、続く言葉を待っていた。
アリアン
「さ、ウァサゴお姉さま……さあさあ!」
ウァサゴ
「……」
使用人
「ま、まあまあ。日頃、お嬢様は『教えられる』側ですから、多少舞い上がってしまっても……」
ウァサゴ
「……はぁ~」
「貴女だって大概でしてよ、アリアン……」
・ ・ ・ ・ ・ ・
回想終了。
夜の別荘。回想と同じ部屋から窓越しに、月を見上げるウァサゴ。
物置小屋から出した品々を片付け終わった頃には、すっかり日が暮れていた。
ウァサゴ
「(メギドは……ヴィータが願うような『悪魔』ではない)」
「(ヴィータが『メギド』という言葉に込める思いと、私が『メギド』に込める思いは違う)」
「(私は、『メギド』であり、『悪魔』でなく、『ハルマ』でもなく……貴女の『天使』……)」
唯一、かつてのアリアンの眼鏡とケースだけは戻さなかった。
今も手に抱いたそれを撫でるウァサゴ。
ウァサゴ
「(暗闇が啓けた心地でしたわ……)」
「(そうですとも。私は、ヴィータが憎み、蔑むような『悪魔』とは違う)」
「(遥かに強く、気高く、美しい『メギド』です。言葉だけの『悪魔』になど己を託さない)」
「(真に高貴なる者が、高貴の『証明』に飢えたりなど、するものですか)」
眼鏡を手にしたまま、ウァサゴは寝支度を始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
同じ頃、アブラクサス学舎。グレモリーの個室。
ライアの協力で最低限の掃除と備品の搬入は済ませたが、急拵えの机は木目に沿って幾つもヒビが入り、体重をかける度にガタガタと揺れる。
それでも待機組への手紙を問題なくしたため終え、一息ついて窓から月を見上げるグレモリー。
個室の扉が叩かれた。
グレモリー
「誰だ?」
ザガン
「ザガ……じゃない、『カリナ』だけど」
グレモリー
「入れ」
ザガン
「ありがと」
個室の扉がガタンと鳴った。
ザガン
「ん? あ、あれ……?」
困惑するザガンの声と共に、扉が幾度も揺れる。
グレモリー
「(む……そうだった。この部屋だけ引き戸なのを失念していた)」
席から立ち、扉へ向かいながら呼びかけるグレモリー。
グレモリー
「少し待て、カリナ。その扉は──」
ザガン
「せえっ……のぉっおおわっ!!?」
グレモリー
「!?」
グレモリーが言い終わる前に、ザガンの正面突破が引き戸に勝利した。
レールを外れた扉が室内へと倒れ込み、代わりに扉を開けてやろうとていたグレモリーの額に直撃した。
ザガン
「や、やば……壊しちゃった!?」
何かに引っかかった扉を慌てて引き剥がし、その下からドアノブに手をかけようとしたポーズのままのグレモリーが現れ、思わず手にした扉をブン投げそうになるザガン。
ザガン
「グ、グレモリー!? ゴメン、大丈夫?」
グレモリー
「やれやれ……気にするな、大事ない。それと『ギーメイ』だ」
「この扉も、横に滑らせて開くように出来ている。はめ直してやれば問題なかろう」
ザガン
「そ、そう……次は気をつけるね、『ギーメイ』」
グレモリー
「それより、用があるのだろう? 手短に扉を戻すぞ」
「腐っても一等建築か。戸締まりさえしておけば、隣室の生活音など全く聞こえん」
「本名で会話したとて、外には漏れんだろう」
ザガン
「あ、うん。任せて」
引き戸を直し、2人はこれでもかと軋みを上げるパイプ製のベッドに隣り合って腰掛けた。
グレモリー
「パーティーの件は、少しは落ち着いたか?」
ザガン
「あ、うん。それはもう大丈夫。ありがと」
「まあ、気にしてないっていうより、色々と雰囲気に持ってかれた感じだけど……」
グレモリー
「それは私もだ。あのシュラーという少女、大物なのか、ただの変人なのか……」
ザガン
「はは……本当にね」
グレモリー
「……」
ザガン
「……」
グレモリーが敢えて黙って様子を伺う。
ザガンも黙りこくっている。喉元で出かけた話題を何度も引っ込めているような様子で、落ち着きがない。
グレモリー
「……用件は、待機組への手紙の内容か?」
ザガン
「うーん……半分くらい?」
グレモリー
「私に疑問符を投げてどうする」
「私が全員の手紙を回収し、日付変更までに提出。まだ時間はあるが──」
「私と同じタイミングで執筆に入ったはずの貴様が手ぶらで訪れた……他に理由があるのか?」
ザガン
「それはまあ、そうなんだけど……」
「……あ、ハルファスとハーゲンティは?」
グレモリー
「ハルファスは先程、何とか手ほどきが済んで、自室で手紙を書き始めた所だ」
「ハーゲンティは未だパーティー会場で、後片付けの手伝いをしている」
ザガン
「そ、そういえばそうだったね! それでハーゲンティと一旦別れたんだもんね」
「後片付けする人は、料理の残りを部屋に持って帰れるからって物凄い張り切って──」
グレモリー
「ザガン」
少し低く、ゆっくりと呼ぶグレモリー。
ザガン
「な……なに?」
グレモリー
「『回り道』とは、らしくないな」
ザガン
「……」
玩具を買い与えてもらえなかった子供のように俯いて、組んだ足の一方をぶらぶらさせるザガン。そのたびにベッドが頼りなく揺れ、高い音を立てる。
ザガン
「……私の中でさ」
「私同士が喧嘩してるみたいな感じで……自分でも、よく分かんないんだ」
「『絶対こうだ』って言う自分と、『そんな事ない』って言ってる自分っていうか……」
「メギドの私と、そうじゃない私……? あーもう、自分で言っててこんがらがってくる!」
「だから、その……モヤモヤして、誰かに聞いてもらいたくて……」
「なのに、口に出しちゃったら、自分で自分の言葉を信じ込んじゃいそうで……えっと……」
グレモリー
「……くっ」
ザガン
「へ?」
グレモリー
「ふっふふ、はははは……!」
おざなりに口を隠しながら、静かに笑みを溢すグレモリー。
ザガン
「な……何で笑うのさ!?」
グレモリー
「ふふ……いや済まん。悪気は無かった」
「だが、そうだったな……確か貴様は17だったか」
ザガン
「歳……? それが何なの?」
グレモリー
「相応に、微笑ましい所もあるじゃないか……とな」
ザガン
「……何さそれ、やっぱりちょっとバカにしてない?」
頬を膨らませたそうな顔のザガン。
グレモリー
「客観的に考えれば……そう思われても文句は言えん」
ザガン
「ちょっとぉ!?」
グレモリー
「だがな……今の貴様は、私には輝いてすら見える……とだけ言っておこう」
柔らかな笑顔を向けるグレモリー。
一瞬、その表情に瞳を奪われるザガン。
ザガン
「グレモリーって……そんな顔もするんだ」
グレモリー
「んん? それこそどういう意味だ?」
冗談交じりに詰め寄るグレモリー。
ザガン
「あ、や、いや違う、悪い意味とかじゃなくて……!」
グレモリー
「ふっ……私が貴様を笑ったのも、今の貴様と似たような理由だ」
ザガン
「……何となく分かった気がしそうで、やっぱり全然分かんない」
グレモリー
「それで良い。むしろそうであるべきだ」
「さておき……そうだな、少し、私の話をしてやろう」
ザガン
「え?」
グレモリー
「相談に来ておきながら、切り出す決心がつかんのだろう?」
「全てに答えは出せんとしても、物の足しくらいにはなるかもしれんぞ」
ザガン
「あ、うん……」
グレモリー
「まず、そうだな……」
「私は転生してこの方、『弱い自分』を疎んじ続けている」
ザガン
「弱い、グレモリー……? グレモリーに弱点なんてあるかなあ?」
グレモリー
「あるとも。弱点だらけだ」
「ヴィータとしても、メギドとしても、それ以外のあらゆる意味でもだ」
「特に、ヴィータとしての弱さが最も厄介だ。何故だか分かるか?」
ザガン
「うーん……メギドと比べて体は脆いし、技術とか足りないし、パニックにもなりやすい?」
グレモリー
「そんなものは問題にならない」
「正解は……私には『弱いヴィータ』しか『残らない』からだ」
ザガン
「残らない……?」
グレモリー
「私は『メギド』であり、『戦士』であり、『領主』でもある」
「メギド72の『軍団員』とも言えるが……こんなものは全て『飾り』だ」
「如何に燦然と私が『何者』なのかを掲げた所で、全て故あれば剥がれ落ちていく」
ザガン
「まあ、仕事は失くす事もあるし、戦えなくなる事が万一にも──」
「って、いや待ってよ! 『メギド』は『飾り』じゃないだろ!?」
グレモリー
「『飾り』だ。違うというなら問おう」
「貴様は、この場で自分がメギドだと証明できるか?」
ザガン
「そんなのかんた──!」
「……そ、そんなの……えっと……」
グレモリー
「理解したな……私達は追放メギドだ。不死者のような『例外』でもない」
「転生した時点で、我々の『本質』はヴィータの側にある」
「私達がメギドで『あった』事など、ヴィータ『ごとき』の私達には『証明』できない」
「フォトンを施されねば、メギドの名残すら示す事はできんのだからな」
「貴様も一度くらい無いか? ヴィータとしての力しか扱えぬ己を思い知った事が」
ザガン
「……ある」
グレモリー
「自分1人で『証明』できないものは全て『飾り』でしかない」
「現に今、私はヴィータのギーメイ……『メギド』でなく、『領主』でもない」
「強さは老いや病で……知性は疲労や焦りで……度胸は一時の感情で──」
「全て剥がれ落ちて最後に、私一人で『証明』出来る『自分』は1人だけだ」
ザガン
「……『弱さ』しかない、ただの1人ぼっちのヴィータ……」
グレモリー
「そういう事だ」
「ヴィータの私には『弱さ』しか残らず、そして『弱さ』だけ必ず残り続ける」
「それに比べれば、『強み』ごと消え去る他の『弱さ』など他愛もない」
「だが……この最も疎ましい『弱さ』を、私は決して捨てたいとは思わない」
ザガン
「そりゃあ、捨てられないよね。もし本当の本当にそれしか残らないとしたら……」
グレモリー
「そうじゃない」
「例えどれだけ都合よく生まれ変われる日が来ようとも、これだけは変えぬだろう」
「『弱いヴィータのまま』を恥じながら、私は『弱いヴィータのまま』であり続ける」
ザガン
「な、何で? 『弱さ』はイヤなんでしょ?」
「その『弱い自分』を変えたいから、グレモリーもそんなに強くなったんじゃないの?」
グレモリー
「一側面としてはな。だが真に強き者が、強さに飢えたりなどしない」
「寝返り程度の労力で全てに勝利できる者が、更なる強さに励む事も無い」
「とんだ皮肉、逆説だがな……『弱く』なければ、私もまた『強く』在れないのだ」
ザガン
「そ……!」
「それ、分かる! うまく言えないけど、すごく分かる!」
グレモリー
「(この反応……言い出せない『相談』の琴線に触れたか)」
「ところで、少し話を戻すぞ。さっき貴様は言ったな」
「メギドの自分と、そうでない自分とが、胸中で争っていると」
ザガン
「う、うん……今まで、こんな変な気分、全然無かったのに……」
グレモリー
「そこに関わる話だ」
「私が『弱い私』を捨てない理由……もう一つある」
「それは……例えば今、私は貴様を見て話をしている。だがもしかしたら──」
「『弱い私』は今、貴様に適当な妬みを見出して、足元に唾でも吐いてるのかもしれん」
ザガン
「えぇ……グ、グレモリーがぁ?」
グレモリー
「ふふっ、その顔を見られただけでも、日々の研鑽が報われるというものだ」
「だが、真剣に考えろ。遠慮は無用だ……『有り得ない』などと誰に言い切れる?」
「『力』も『知性』も『品性』も『自信』も欠落した私が、『そんな事』はせんなどと」
ザガン
「それは……待って。それ、何か……『違う』と思う」
「そんなに何もかも無くなって『変わり果てた』グレモリーって、想像つかないよ」
「それはもう、グレモリーと似た形した、『別の何か』みたいって言うか……」
グレモリー
「いいや。そうなった時にどれほど浅ましく成り果てようと、それは紛れもなく『私』だ」
「仮に私が全てを失ったら、貴様は『こいつはもうグレモリーじゃない』と幻滅するか?」
ザガン
「なっ……!?」
「わ、分かったよ……そんなズルい訊き方しなくてもいいじゃんか……」
グレモリー
「よろしい。だが、『別の何か』ではないにしても、『違う』所は確かにある」
「その『弱い』私は、今こうしている私とは常に違うものを見ている」
「私が貴様の目を見ている今、『弱い私』は足元に何か見つけているかもしれん」
「私が持論を語る間、『弱い私』は私の傲慢さに付き合う貴様を哀れむかもしれん」
ザガン
「ご、傲慢とかそんな事、これっぽっちも思ってない! そんな事思われる方が不愉快だ!」
グレモリー
「貴様ならそうだろうな。まあ、あくまでものの例えだ」
「どうあれ『弱い私』は、強くあらんとする私には決して得られないモノを得ているのだ」
「どんなに見たくても見えず、分かりたくても分かれないものをな」
「私の中の『私でない私』は、貴様が知るグレモリーには得難いモノを得ている」
「裏を返せば『弱い私』は……私の最後の『希望』だ」
ザガン
「……」
「『希望』……グレモリーならそういうの、『多様な視点』とか言いそうなのに──」
「そうじゃなく、グレモリーにとっての『希望』……?」
グレモリー
「今はまだ分からなくて良い……」
「……さて、以上の私事を踏まえてだ」
「もう一度聞くぞ。『メギド』の自分と、『そうでない』自分と言ったな?」
ザガン
「え、あ、うん。そうだけど……そこ、そんなに大事?」
グレモリー
「もちろんだ。『ヴィータ』の貴様はどこへ行った?」
「貴様にとって『ヴィータ』である事は、『そうでない』自分もろとも、十把一絡げか?」
ザガン
「そ、そんな乱暴に考えてるつもりは無いよ、私だって追放メギドだし……」
グレモリー
「『それ」だ」
「追放『メギド』じゃない。私は『ヴィータ』の話をしているのだぞ?」
ザガン
「?……???」
「いや……あの、言いたい事は、何となく分かるよ?」
「私だって一応、ヴィータの一員って自覚あるし、ヴィータらしく生きてるつもりだし──」
「さっきグレモリーも『追放メギドの本質はヴィータ側』って言ってたし──」
「純正メギドと違って本物の肉体だし、魂が肉体に影響されちゃうのも見たことある」
「私の魂だって、今はヴィータの魂と1つになってるみたいに聞いてるけど……」
「けど……それでも、私もグレモリーも『メギド』でしょ?」
「『自分』ってのは『メギド』で、ヴィータの体は、要は『脱げない服』みたいな──」
グレモリー
「それだけ知識を得ているなら、全て理解できるはずだ」
「もし貴様の魂が憑依しなければ、その『脱げない服』はどうなっていた?」
ザガン
「……!?」
グレモリー
「『力』がなくとも、メギドのような精神性、行動力はヴィータから見れば『稀』だ」
「シトリーが最たる例だ。メギドがヴィータのために働けば、英雄足り得ぬ方が難しい」
「そしてそのシトリー自身から聞いた事がある」
「記憶が戻って以降は時折、『人間性』が喪われている自分を自覚する時があるとな」
ザガン
「うしな……」
「ね、ねえ……それって、もしかして……」
グレモリー
「当然と言えば当然だな」
「何故ならヴィータは本来、兎や虫のように数で種を保つ脆弱な生物だ」
「群れて、逃げて、恐れて、迎合する……それが元来のヴィータの生存戦略」
「有り体に言って私も貴様も、『個性』で済む範疇に収まっているに過ぎない」
「『メギド』らしい部分……即ち到底『普通のヴィータ』とは言えん部分がな」
ザガン
「や、やめてよ、それじゃまるで……!」
「じょ、冗談だよね!? 私がバカだから話に流されてるだけだよね!?」
「今の話のどっかに、嘘とか例えとかがあって、無理やり膨らませて──!」
グレモリー
「生憎と冗談でも例え話でもない」
「『誰』かは伏すが、我々の軍団にも『実例』が居るらしい」
「その問題を軸に、追放メギドとは何かを哲学しているメギドも複数名な」
「貴様も同じ『戦場』に立つ時だ。貴様が『ザガン』だと言うなら、先陣を切ってみせろ」
血の気が引き始めたザガンに、呼吸を1つ挟んで問いかけるグレモリー。
グレモリー
「……貴様が憑依せずに生まれた『少女』は……『ザガン』になれたと思うか?」
ザガン
「…………」
「そんなの……それじゃ……」
「私、自分が転生するために……生まれてもいない子を、わた……私……」
グレモリー
「ザガン……」
俯いたザガンの肩に手を添えるグレモリー。
今一度、ゆっくりと息を吸い込むグレモリー。
グレモリー
「馬鹿を言え! 大間違いだ!」
「貴様が『メギド』なら、『そんな事』にそうやって動揺などするものか!」
ザガン
「!!?」
やれやれと言った風に小さく溜息を挟むグレモリー。
グレモリー
「そもそも、『ヴィータ』の貴様の所在を問うているのだぞ?」
「『そんな事』になる話だったら、こんなタイミングで語るものか」
ザガン
「そ……そう、だよね……そりゃそうだよね……はは」
引きつった笑みを浮かべるザガン。
2人同時にゆっくりと息を吐く。
グレモリー
「だが……シトリーの例えの通り、『喪う』モノがあるのも、ほぼ間違いない」
「私が貴様を笑った理由をごく一部だけ教えてやる……心から『安堵』したからだ」
「若い貴様には、目を背けられるという『力』がある。だから自分で気付けぬのだろう」
「この部屋を訪れた時から今まで、貴様は『ヴィータ』だった」
「私は出会えたのだ……『メギド』でも『闘牛士』でも無い、『ヴィータ』の貴様に」
ザガン
「『メギド』でも、『闘牛士』でも無い、『ヴィータ』の私……?」
「……やっぱり全然分かんないよ、私はちゃんとメギドだし、闘牛士だ」
グレモリー
「それは『飾り』だ。生まれ落ちてから後付けで貼り付けた『自分』に過ぎん」
「この部屋を訪ねてからの自分を思い返してみろ」
「無様な『回り道』、堂々巡りの自分語り、そのクセ自分を笑う私への文句は欠かさない──」
「どれが『メギド』で、どれが『闘牛士』だ?」
ザガン
「いや……それは……だって……」
「どっちでも無いなんて……それじゃ、そんなの……」
足の上に置いた拳を震わすザガン。
ザガン
「そんなの、ただ生きてきた『だけ』みたいじゃないか!」
「力も無い、戦いもしない、目指すものも、やるべき事もない!」
「『格好悪い』どころじゃない、そんな私なんて、みっともなさすぎて──」
「あっ……」
グレモリー
「そうとも。『格好悪い』どころではない。『弱さ』しかないのだからな」
「だが『ヴィータ』の一生に思いを馳せてみればどうだ?」
「『全』に馴染み、誰かと同じように、同じ事を繰り返すだけの『平和』が尊ばれる」
「仕事をこなす程度の体力、誰とも争わず、酒や友人で日々の余暇を紛らす生涯──」
「自宅と畑と家族、後はたまの行商人だけが世界の全てなヴィータなど珍しくもない」
「無知で無力で無欲、世界の毒にも薬にもならず、生きている『だけ』……」
「『格好悪い』か……『みっともない』か?」
ザガン
「……そんな事ない。そういうのも、良い事だと思う」
「『私』には……もしかしたら『格好悪い』と感じちゃうかも知れないけど──」
「でも、ダメだなんて事は絶対ない……それは分かる」
グレモリー
「……私が今夜出会ったのが、そんな『ヴィータ』だ」
「貴様が『メギド』として誇る全てと比べて、愕然とするほど程遠い存在──」
「およそ『メギド』としての『ザガン』に何一つ結びつかない貴様だ」
「『弱い私』と同じ……貴様のセリフを借りるなら『格好悪い』だけの『ザガン』だ」
ザガン
「グレモリーにとっての、『弱いままのヴィータ』……って事は……」
グレモリー
「今も目の前に居るぞ?」
「貴様が『ザガン』として生まれ、動かなければ、今日を生きていたはずの『少女』──」
「『個』の名前すら与えられず、何者にもなれない『ヴィータ』の貴様だ」
ザガン
「私の中に、『今の私』になれない、『弱いヴィータ』の私が居て……」
「それが、『飾り』を全部外した、最後に残る『私』?」
「メギドの記憶が戻って、メギドとしての私を生きてきて──」
「そんな『飾り』の下の、メギドの魂と混ざった『残り』みたいな『弱さ』……?」
「私は……私が、今までの『メギドの自分』を演じてたって事?」
グレモリー
「間違いだらけだ青二才め」
言葉の厳しさとは裏腹に穏やかに語るグレモリー。
グレモリー
「『生きている』のだ。我々追放メギドの中に『ただのヴィータ』が」
「ヴィータの『普通』が分からなくなろうと、メギドとして生きるために何を失おうと──」
「メギドとならず生まれるはずだったヴィータは、一側面として『生きている』」
「それも、そうやってメギドの精神性の足を引っ張るほど『弱く』、泥臭く、懸命にな」
ザガン
「??」
グレモリー
「『メギドだ』という『美意識』を後生大事に抱え過ぎるから分からんのだ」
「追放メギドの私達は、どこかで『ヴィータだ』という事実から距離を置こうとする」
「2つの魂を共有し、混ざり合い、少なからず『ヴィータ』に染まって、それでもだ」
ザガン
「それは……例えば、ブネとか?」
「大酒飲みだし、結婚してるって噂も聞いたけど、メギドとしての意識は強い方だし」
グレモリー
「そんなところだ」
「そして『ヴィータの魂』も同じようにして生きている……単純な話だ」
「『メギドなど関係ない』と、ヴィータらしい自分へと変化し、貫こうとしている」
「メギドの魂に思考を、行動を、感情を侵され、幾ばくかの人間性を喪おうともな」
ザガン
「そういえば……メギドの魂がヴィータの魂を取り込んだら『不死者』なんだっけ?」
「じゃあ、私達の魂って、言ってみりゃ2つあって──」
「ぶつかったみたいにお互いが『欠けて』て、それを補い合うみたいに生きてる……?」
「メギドの私が考えたり戦ったりしてる陰で、ヴィータの私もおんなじように……」
「それで今、メギドの私の考えと、ヴィータの私の考えが噛み合ってないのかも……?」
グレモリー
「私には貴様が、転生した自分を受け入れ『過ぎて』いるように思える」
「時折、貴様がヴィータという『縛り』を面白がっている節さえ感じる程だ」
「恐らく、『転生しても自分は完全にメギドだ』と確信……いや、思い込んでいたのだ」
「それが却って、『ヴィータでもある』という事実を見落とさせていた……」
「更に言えば、思い込みが『メギドらしくない』部分を疎ませていたのかもしれん」
ザガン
「自分で気付かない内に私が、『格好悪い』私を『居ない』事にしようとしてた……?」
「でも本当は、『メギド』としての私にとって『格好悪い』ように見えてただけで──」
「別々の考え方してるどっちも私で、2つで1つ……?」
「(そう考えると、追放メギドってシャミハザみたいな状態なのかな……?)」
グレモリー
「『弱い私』の正体は……『ありのままの私』だ」
「何一つ高く見せない、必要最低限の等身大……本当なら、弱くも醜くも無い」
「人並に弱く、人並に闘争を恐れる『ザガン』が居たとて、断じて悪でも恥でも無い」
「仲間内で例えるなら、ブエルやアンドロマリウスを誰も責めなどしないのと同じだ」
「だが、生存競争では『必要』は『当然』であり、『最低限』は『最低』となる」
「力で測れば『等身大』は『弱さ』であり、理想で測れば『ありのまま』は『格好悪い』」
「全くもって『弱さは罪』だな……否応なく『罰』を浴びせかけられるのだから」
ザガン
「(そっか……グレモリーの言う『弱さ』って、そういう……)」
座り直して姿勢を変えるグレモリー。
グレモリー
「……話はここまでだ。『相談』に話を戻す。いいな?」
ザガン
「あ……うん。だいぶ落ち着いたし、今度はちゃんと話せそう」
「『どっち』の私も、心からの私の考えだって、そう思える気がする」
「もし真逆のこと考えてても、『どっち』もまとめて信じられると思う」
「私も、『格好悪い』私はイヤだけど、『格好悪い』私を無視したりしない」
グレモリー
「ふっ、言うじゃないか……」
「よし……だが『片方ずつ』説明しろ。こんがらがっては話にならんからな」
ザガン
「ん~……なるべく頑張る!」
グレモリー
「当然だ。それで……メギドの貴様は、いったい何を思った?」
「そしてヴィータの貴様はどんな異議を抱えて、私に助けを求めてきた?」
ザガン
「じゃあ、『メギドの私』の方から──」
「話したかったのは……シュラーの事」
グレモリー
「シュラーが本題か……だが、手紙に纏わる事かという質問も、否定しなかったな?」
ザガン
「うん……さっきも言ったけど、私の中で『考え』が食い違っちゃってさ」
「それじゃあ、『どっち』の私が言う事に合わせて書けば良いのかってなっちゃって……」
「どっちかが『間違い』だったら、手紙読んだソロモン達を変に混乱させちゃいそうで……」
グレモリー
「ふむ……ぜひ聞かせろ」
「内容によっては、『相談』も何もなく私に『報告』すべき事柄かもしれん」
ザガン
「言葉にしちゃうと、そんな複雑な事でも無いんだけど──」
「シュラーってさ……絶対、『セルケト』だと思うんだ」
グレモリー
「セルケト……貴様が馬車で語っていた、例のメギドか?」
ザガン
「うん。私が知ってた頃のセルケトとはだいぶ『違う』けど」
グレモリー
「『違う』というのは、もしや?」
ザガン
「『ヴィータ体』が、全然違う」
「昔のセルケトは、ヴィータなら20歳か、もっと上くらいで、背もウンと高くて──」
「それに昔のセルケトは……『男』だった」
グレモリー
「ふむ……」
「ヴィータ体の年齢はともかく、性別を意図的に変える話は殆ど聞かん」
「仮に本当にシュラーがセルケトなら、可能性は2つ……実質1つだが──」
「何らかの目的でヴィータ体を作り変え、メギドラルからアブラクサスに……」
ザガン
「まず、無いよね。サルガタナスの話じゃ、『中央』に捕まってるし……」
グレモリー
「万一、サルガタナスの情報に齟齬があり、難を逃れていたとしても──」
「尚更、顔見知りが居ない『はず』のヴァイガルドで2年も姿を変え続ける必要がない」
ザガン
「やっぱり……『転生』しか無いよね?」
グレモリー
「うむ。転生で性別が変わるなら、既にダンタリオンの例がある」
「それに背格好からして、年齢と追放された時期の辻褄も合う」
「だが……これはあくまでも、本当にセルケトだった場合の話だ」
「貴様がシュラーをセルケトだと思った根拠は?」
ザガン
「まずは……もう、ひと目見た時から『セルケトじゃんか!』ってなった」
グレモリー
「一手目から勘を持ち出してくるか……」
ザガン
「でもセルケトを知ってる私からしたら、これが最強の理由だよ」
「ほら、『ヴィータは第一印象が九割』って言うし、闘牛でも大事な事だし」
「シュラーは女の子だから顔立ちも少し違うけど、セルケトの面影はハッキリ残ってた」
「それにあの『喋り方』。それに『仕草』だって、歩き方ひとつ変わってない」
「あいつのヴィータ体の何もかも、記憶にバッチリ刻み込まれてて間違えようがないよ」
グレモリー
「そこまで熱弁されると、少し信じてみたくもなるな」
ザガン
「昔の私がイヤんなるほど味わわされたからね」
「私が知らないあいつなんて、余裕なくしてる時くらいじゃないかな」
喜色を滲ませて語るザガン。
グレモリー
「だが、それだけで本気で信じてやるわけにもいかん」
「シュラーの方は、貴様に対して『らしい』反応を見せていないしな」
「『個』だけが滲み出て、『記憶』までは戻っていない可能性もある」
ザガン
「分かってる。シュラーが私を見て普通にしてたのは……正直、そこは私も分かんない」
「記憶が無いなら仕方ないけど……少なくとも『気付かなかった』ってのはないと思う」
「昔の私のヴィータ体は、今の私と、見た目も年頃も殆ど同じなんだもん」
「シュラーとしての立場があったから知らないフリしたとか……って、私は思いたい」
グレモリー
「建前上、シュラーは全住民を愛する指導者だからな。確かに堂々と『贔屓』はできまい」
「だが、この辺りは現状、考えても無駄そうだな……他に『セルケト説』の根拠は?」
ザガン
「今夜のパーティーの、あの『ダンス』」
グレモリー
「貴様が『踊らされた』アレか? ハルファス達も随分と見入っていた」
ザガン
「うぅ……まだちょっと恥ずかしいけど……」
「とにかく、その『踊らされた』事だよ。グレモリーもおかしいと思わなかった?」
グレモリー
「確かに、『出来すぎている』とは思っていたが……」
「む? そういえば確か、馬車で語っていた話では、セルケトは──?」
ザガン
「うん。力の流れを『視る』事ができる」
「その『流れ』に、ほんのちょっとの力を加えるだけで好きに操る事も」
「言わなくても分かるだろうけど、私、ダンスの時『それどころ』じゃなくてさ──」
「流石に『セルケトに会えたかも』なんて後にして、ずっと突き放そうとしてた」
グレモリー
「だが、社交界の娯楽を見慣れた私が見ても、あのダンスは『一流』だった……」
「ペアで舞うには本来、両者の協調と信頼が不可欠……であるにもかかわらずだ」
ザガン
「『動くもんか』って踏ん張ってみたり、ちょっと本気で抵抗もしてたはずなんだけど……」
グレモリー
「……恐れ入ったな。頭からつま先まで、私にはこれっぽっちも『そう』は見えなかった」
ザガン
「やっぱりかぁ……」
「全部、ダンスの一部に『利用』されちゃうんだよ。最初から予定されてたみたいに」
グレモリー
「そう考えると、確かに『普通』に考えればヴィータの芸当ではない」
ザガン
「私さ……あいつとヴィータ体同士で取っ組み合った事もあるんだ」
「その時は投げられるか、関節キメられといて無傷で解放されるかばかりだったけど」
グレモリー
「『一本取り』で済ませていたのか? メギドとは思えん紳士ぶりだな」
ザガン
「だからもう、疲れ果てて動けなくなるまで何度でもやりあえたよ」
「お陰で『体』が……『魂』が? とにかく覚えてる」
「もう、ちょっとシュラーに引っ張られただけで記憶がガンガン湧き上がって来たから」
グレモリー
「その『技』をダンスでも流用している……そう考えれば説明も付くな」
「未経験の上に運動自体が苦手な住民も、優雅に『踊らされた』らしいからな」
「念の為に聞くが……セルケトは『新世代』か?」
ザガン
「ううん。そもそも私、あの頃は『新世代』なんて言葉も知らなかったし」
「『右腕』が『拒絶区画』出身とは聞いてたけどね」
グレモリー
「『右腕』? ああ、副官か」
「『個』を重んずるメギドでは余り好まれない表現のはず……」
「少なくとも『ヴァイガルドかぶれ』には違いないようだな」
ザガン
「うん、物資として流れてきたヴィータの服とか集めてた」
「『右腕』を通してヴァイガルドの事も知りたがってる風だったし」
「でも私もそこそこ古い方のメギドだったけど、多分、私と同じくらいの『世代』だよ」
「『昔話』が通じてたし、自分の領地が100年で棄戦圏になるまでの事とか話してた」
グレモリー
「ふむ……『拒絶区画』自体との交流は?」
ザガン
「『それが無いのが悩み』みたいに言ってたのは、何となく覚えてる」
「あいつ、『あんな』だから他のメギドと外交もロクにさせてもらえなかったらしいし」
グレモリー
「『あんな』と言われても実物を知らんのだが……まあ想像はつく」
「他には?」
ザガン
「無い。この2つだけ」
グレモリー
「つまり、根拠は全て『主観』か……」
ザガン
「そうだけど……でも充分じゃない?
「私達が何か見つけて『昔の仲間かも』ってなったら、大体は記憶頼りだし」
「それに、あの『ダンス』が『普通』じゃないのは、どっちかって言えば客観てき──」
「……グレモリー?」
グレモリー
「……」
ロダンの彫刻さながらの姿勢で黙り込むグレモリー。眉間に深い皺を作っている。
グレモリー
「……いや、確かに貴様の言う通りだな」
「これは『好都合』な情報かもしれん。続けよう」
ザガン
「全然『好都合』って顔に見えないよ?」
「凄く怖い顔になってる。いつも以上に」
グレモリー
「一言余計だ……いや、私に『余裕』が足りてないだけか」
「とにかく、まだ『ヴィータのザガン』の話が終わってない。今はまず話せ」
ザガン
「……いいけどさ」
「(私が話した事が、例の『隠し事』に関係あるって事なのかな……)」
「(でも、今は『隠し事』の事に突っ込むのはよそう)」
「(私から『相談』に来たのに、偉そうに聞き出そうとするのは『格好悪い』し──」
「(『隠し事』の中身が良くない事なら、嘘が嫌いなグレモリーが無理に黙り通すはずない)」
天井を見上げて軽く深呼吸を挟むザガン。
ザガン
「……『私』の中では、『シュラーはセルケトに間違いない』って思ってるんだ」
「口に出しちゃったから、ますますそれしかないと思ってる。でも──」
「それでもまだ、『あれがセルケトならおかしい』って言ってる『私』がいる」
「多分、その『私』が『ヴィータの私』って事なのかな。だから、もし──」
「『ヴィータの私』に手紙を書かせるなら、セルケトの事は伏せて書くと思う」
グレモリー
「個人の感想でも、情報は情報だ。伏せる必要までは無かろう」
「自前で反論が立っていようと、『セルケト説』を報告する意義は充分にあると思うが?」
ザガン
「そんなわけ無いでしょ? 『あれがセルケトならおかしい』んだから」
「セルケトと全く関係ないのに、『セルケトかも』なんて人に言うのは変だ。そうだろ?」
グレモリー
「む……?」
「いや……そうか、理解した」
「つまり、『ヴィータのザガン』が訴えている事は言い換えるなら──」
「リンゴの実を見たのに、『薔薇の花を見た』と吹聴するようなものという事か」
ザガン
「だから、そう言ってるじゃんか?」
グレモリー
「あ、ああ……そうだったな」
「(馬車でもそうだったが、会話が純真なまでに一直線すぎるきらいがあるな)」
「(『さばさば』と表現するのだったか……裏表が無い事は長所だが──)」
「(同時に、独自の『解釈』が先んじて、誤解や失言も招きやすいタイプだ)」
「(大抵の人間が、ザガンよりも『ひねくれ』がちなせいで……な)」
小さく溜息をつくグレモリー。
グレモリー
「間違いなくリンゴだと知っているのに、同時にリンゴで無いと確信している矛盾……」
「言いたい事は理解した。なるほど、堪りかねて私を頼りにも来るわけだ」
ザガン
「でしょ? 『やった方が良い』と『絶対やっちゃいけない』がセットになったみたいな……」
「セルケト以外を『セルケトだ』って思わせたら、セルケトにもソロモン達にも『迷惑』だ」
「あいつだったら、絶対に『言わない』んだ……だから、絶対違う」
グレモリー
「『言わない』……何をだ?」
ザガン
「パーティーの時、私の方に歩いてきながら言ったんだ」
回想。
シュラー
「格好が付かないが……雨に打たれて、体が冷えてしまった」
回想終わり。
ハテナマークが溢れた顔を浮かべるグレモリー。
グレモリー
「……それが、どうかしたのか?」
ザガン
「あいつは、一度だって『言った』事ない、気にした事さえなかった」
「『格好』がどうとか……自分がどう見られてるか気にするような言葉は、ただの一度も」
グレモリー
「……?」
「確かに、格好云々の『くだり』は私も聞こえていたが──」
「シュラーはあの時、ザガンがどういう立場にあるかを察していたはずだ」
「半ば強引にダンスの相手に選ぶ事で、立場の回復に助力したものと私は理解している」
「ならばあれはただの『前置き』……言葉のアヤだろう。本質的な美醜とは──」
ザガン
「それでも『言わない』んだよ!」
「セルケトならああいう時、そんな『建前』すら使わないんだ!」
「あいつなら、もっとこう……!」
ベッドから立ち上がって力説するザガン。
グレモリー
「……落ち着け。私の認識が甘かった落ち度は認める」
「だが、感情を『直』で投げ込むだけでは、伝わらんものもある」
「理解の差は、可能な限り私の方で埋め合わせていく……だが、それが精一杯だ」
「どうしても、私はセルケトという『変わり者』を知らな過ぎる……」
ザガン
「……ごめん」
座り直すザガン。
グレモリー
「貴様の知るセルケトなら……どうしていたんだ?」
ザガン
「もっとこう……自分の事より、相手を立てるっていうか……」
「だから、えっと……」
「……だ、だから、そう、とにかく『そんな感じ』!」
グレモリー
「『そんな感じ』では分からん。もう少し具体的に頼む」
「今しがたのやり取りを繰り返すような事はこちらも避けたいからな」
ザガン
「うぅ……」
グレモリー
「……?」
ザガン
「わ、私は、あいつと全然違うから、本当に、無理やり例えればだけど……」
「た、例えば……わ……」
「私に君を見つけさせてくれたその悲しみを、私にも……い、抱かせて欲しい……とか?」
グレモリー
「────」
目の前を黒猫が安来節踊りながら錐揉み回転で横切っていったような顔で、ザガンを見るグレモリー。
ザガンはグレモリーから視線と顔を気持ち逸らしてプルプルしている。
ザガン
「……な、何か言ってよ!」
「ほ、本当に『例えば』だからね! 中途半端はヤだから、結構無理してるんだからね!」
グレモリー
「ああ……それは、見れば分かる」
「だが──」
真剣な顔で、数秒ほど考え込むグレモリー。
そして真剣に疑問を口にするグレモリー。
グレモリー
「メギドが……『殺し文句』か?」
ザガン
「だから、言ってるだろ!? シュラーとセルケトの喋り方、全く一緒なんだよ」
「ヴィータになってから思い返すとこっちが恥ずかしくなるセリフ、あいつ素で言うんだよ!」
「もう日常会話どころか独り言感覚でサラッと!!」
「『行動』もだ。1人でベッドでゴロゴロするみたいな気楽さで何もかも『完璧』に……!」
グレモリー
「分かった分かった……この話が終わったら、今の『殺し文句』は忘れてやる」
ザガン
「絶対だからね……!」
「あと……もしあいつが私と踊った事に思惑とかあったら、絶対に全部教えてくれてる」
「相手がどんなやつでも、それが自分にどんなに不利でも、当たり前みたいにそうする」
「『正直』とか『フェア』とか、そんなのより、こう……うまくいえないけどさ」
グレモリー
「メギドにあるまじき、分け隔てなき『敬意』と『美学』……」
「あるいは『高貴』……いずれにせよ、それがセルケトの『個』というわけか」
ザガン
「うん。あれは『個』だったよ……それは間違いない」
「『おかしい』って思ったのは、それ1つきりだった。だけど──」
グレモリー
「分かっている。『メギド』として、『個』を出されては無下にはできん」
「僅かだが、確実にセルケトの『個』に反する行動があった……か」
「……良いだろう。私は信じる。隙を見てハーゲンティ達とも共有しておく」
ザガン
「グレモリー……!」
グレモリー
「だが、セルケトとシュラーを結びつけ過ぎないようには気をつけろ」
「『ヴィータのザガン』の意見を決して忘れぬよう心がけるんだ」
「『普段』を生きている貴様には知り得ぬ事を、ヴィータの貴様は知る事ができる」
「『ヴィータ』として見たセルケトとシュラー……」
「そこに『何か』を見出したからこそ、『メギド』を押し退けてまで訴え出たのだろうからな」
ザガン
「うん。結局、まだセルケトがどうとかは私の中だけの話だしね」
「でも……それでもやっぱり、本当にセルケトだったら良いなあ」
「昔の顔なじみに会えたのなら、単純に嬉しいしさ」
「きっと、話せばすぐ分かってくれて、私達にも良い事だらけなはずだよ」
グレモリー
「そういえば馬車でも、ソロモンと話が合いそうだと言っていたな」
ザガン
「あいつは昔から、メギドらしくないくらい『いいやつ』だったからねえ」
「ヴィータ風に言ったら……おとぎ話の理想の『王子さま』みたいな?」
グレモリー
「ふっ……この組み合わせで語らうには、似合わん言葉が飛び出したな」
ザガン
「えっ!? 私が『王子さま』とか言うの似合わない? どういう意味!?」
グレモリー
「ふふふ……済まん言い過ぎた、単なる悪ふざけだ」
「さて……話は充分だな。戻って手紙を書け。『両方』をだ」
「とにかく、片っ端にだ。シュラーとセルケトの事、自ら疑問を持った事
──」
「ついでに昔のセルケトの事でも、伝えるに値すると思えば思いつく限り書き出せ」
ザガン
「り、両方とも? でも、さっきも言ったけど……」
グレモリー
「『セルケト説』は検討に値する。少なくとも私はそう判断した」
「ならば貴様の『悩み』は、任務に携わる全員で分かち合うべきだ」
「私の手紙に、『ザガンから重要な報告がある』とだけ書き添えておく」
「後はソロモンやバルバトスが、貴様が懊悩している『矛盾』を汲み取ってくれるはずだ」
ザガン
「……そうだね。もうグレモリーに『相談』してるんだしね」
「じゃあ、全速力で書き上げてくる!」
ベッドから腰を前にスライドさせるように、関取のスタートダッシュのように、立ち上がる時間さえ惜しいとばかりに個室の扉へ小走りに移動するザガン。
グレモリー
「今度は『外す』なよ。それと最低限、他人が読める字で書け」
ザガン
「分かってるってー♪」
今度はちゃんと引き戸を開けて退室するザガン。
ザガンを見送った後、1つ溜息をついて、机上の手紙に視線を泳がすグレモリー。
グレモリー
「手紙の内容以外は何も片付いてないも同然なのに、雰囲気だけで肩の荷が降りた……か」
「眩しいな……皮肉でなく、心から」
窓の外に視線を移すグレモリー。
アブラクサス外壁周辺に、転々と黒い影がノミのように蠢いている。
考えるまでもなく幻獣だが、退治しに出ていくわけにもいかない。
そして夜闇の遥か彼方に、待機組が潜む森が一際に黒い塊となって浮かんでいた。
グレモリーの面持ちは極めて険しい。
グレモリー
「ザガンは……自力で気付けるだろうか」
「シュラーがセルケトであった時、それが何を意味するかを……」
「よしんば気付いたとして、向き合えるのか……」
「『似たような事ならあった』と、『きっと何とかなるはず』と……『逃げる』事なく……」
・ ・ ・ ・ ・ ・
同じ頃、アブラクサス近辺の森での待機組。
バルバトス
「……」
ゲルから少し離れた木に背を預けて、指先につまんでいる何かを月にかざすバルバトス。
ゲルの方から足音が近づく。
気付いたバルバトスが振り向くと、今や家族同然に見慣れた青年が姿を表した。
ソロモン
「あ、いたいた。こんな所に居たのかバルバトス」
「一応、任務中だからさ。少しでも離れる時は伝えておいてくれよ?」
バルバトス
「おっと、そう言えば忘れてた……俺としたことが、つまらないミスしちゃったな」
ソロモン
「どうしたんだ? 今日はもう休むって時に皆と離れて……」
「もしかして、まだ幻獣の『匂い』が残ってないか気にしてる……?」
バルバトス
「いや、そうじゃないって……もう匂いは感じないし、ジョーシヤナのアドバイスも信頼してるよ」
「ちょっと、月明かりと『相談』してただけさ」
ソロモン
「??」
バルバトス
「ゲルは遠目にバレないよう、立地も薄暗いし灯りも最小限しか使わないだろ?」
「『気になる物』を見つけたんだけど、騎士団の資源を借りる程か……少し確証に乏しくてね」
ソロモン
「ああ、だからその『気になる物』を月光で照らして確かめてた……って意味か」
バルバトス
「ふっふっふ、職業病でね」
「で……来てくれたのなら丁度良い。君も見てくれ」
改めて、バルバトスが「気になる物」を月に掲げる。
頬を並べるようにしてソロモンも、バルバトスの指の間にあるソレを慎重に観察する。
ソロモン
「これは……葉っぱ、だよな?」
バルバトス
「そう。言ってしまえばただの木の葉さ」
「さっき騎士団から確かめた。この森を構成している樹木の大半は、賢者のリンゴの木だ」
「この葉っぱも、『リンゴ』の葉さ」
ソロモン
「へえ、そうだったん……ん?」
「俺、植物に詳しくなんて無いけどさ、それでもリンゴの葉って、もっと……」
バルバトス
「そう。『リンゴ』の葉は、馴染みすぎて特徴の挙げようも無いほど標準的な形だ……本来はね」
「俺が持ってるコレみたいに、色も厚みも薄っぺらで、干したように小さくクシャクシャじゃない」
「騎士たち曰く、ここのリンゴの木は皆、こんな頼りない葉っぱを茂らせてるみたいだよ」
ソロモン
「そ、そうだったのか? どこもかしこも葉っぱだらけで全然気づかなかった……」
「あっ、俺たちが今居るこの木も、よく見たら同じ葉っぱが……!」
バルバトス
「見ての通りってわけさ」
「原因は恐らく、この辺りがアブラクサスのフォトン欠乏の影響を受けているからかな」
「さっきまでの幻獣退治も、フォトンは2人分でようやく普段通りって具合だったし」
ソロモン
「そうか……それで『普通』に育つ事が出来なくて、こんな歪んだ葉っぱが……」
バルバトス
「あるいは、100年のフォトン欠乏に『順応』したのか……まあそこは今、問題じゃない」
「今、俺が持っているこの葉っぱなんだが……実は、俺の髪に絡まってたんだ」
ソロモン
「まあ、バルバトスの髪は長い方だから、あり得るかもな」
「葉っぱが生えてるのは俺達の背よりかなり上だけど、何かの拍子に落ちてくるくらい──」
バルバトス
「と……ただ見つけただけなら、俺も同じ事を思って捨てるだけだった」
「だが、葉っぱが絡んでるのに気付いたのは、水浴びを終えた直後だった」
ソロモン
「水浴び……あー、匂いを落とすために色々やった後、最後に全身丸洗いしたな……」
バルバトス
「そう。この俺が全身全霊、くまなく洗い終え、新品の服に着替えたその直後だ」
「何気なく髪を掻き上げたら、この1枚が指に引っかかった」
「もちろん、髪を洗い忘れたなんてオチじゃあないよ」
ソロモン
「つまり、何ていうか……『奥』に引っかかってたって事か?」
「念入りに洗ったつもりでも、たまたま手櫛に引っかからないと気づかないくらい、髪と髪の間に……」
バルバトス
「そんな所だろうね。髪を丸ごと何度も水に晒したりしたはずなんだが──」
「自慢のボリュームと滑らかさが、今回ばかりはアダになってしまったかな」
「ま、冗談はさておきだ」
バルバトスは月にかざしていた手を降ろし、もう一方の手で自身の髪を手繰り寄せた。
ソロモンと向き合い、木の葉と、己の金の髪束とを隣り合わせて見せる。
バルバトス
「考えてみてくれ、ソロモン」
「この指先大あるか無いかの小さな葉……どんな状況なら、俺の髪の奥深くに入り込めると思う?」
ソロモン
「え……そりゃあ、普通に葉っぱが落ちた拍子に髪に刺さったりして……」
バルバトス
「『こんなの』がかい?」
リンゴの葉をソロモンに手渡すバルバトス。
触れるなり、怪訝な顔をするソロモン。
ソロモン
「うわ……これ、本当にあの賢者のリンゴの……?」
「フニャフニャじゃないか……花びらみたいだ」
「これじゃ、頭に乗っても──」
自分の髪で実験してみるソロモン。
むしろ髪に絡ませるように押し込んでみたつもりでも、手を離して少し体を揺するとハラリと落ちてしまう。
砂を詰めた箱にピンポン玉を沈めて箱を揺らせばピンポン玉が自然と浮いてくるように、比重差がありすぎて生半可な「仕込み」ではすぐに髪の表面まで滑り出てしまう。
ソロモン
「ダメだ……降ってきただけじゃ髪の中まで入りようが無い」
バルバトス
「しかもだ。さっき、適当なリンゴの葉を毟ってみたんだ」
「見た目通りに頼りなく毟れたけど、少なくとも風が吹いた程度なら耐えられる丈夫さはある」
「というかそこまでひ弱だったら、こうしてる間も『葉吹雪』に見舞われてるはずだしね」
「そして髪に絡まってたのは、充分に若い部類の葉だった」
ソロモン
「じゃあそもそも、枯れたとかで自然に落ちたわけでもない……」
バルバトス
「落葉の時期だったなら、森の景色もこんな青々とはしてないはずだしね」
「幻獣との戦闘のドサクサという線も薄い。幻獣は地を這うネズミばかりで枝に触れようが無い」
「おまけに幻獣達が『ものぐさ』なお陰で、木を揺らすような大立ち回りも全く無かった」
ソロモン
「じゃあ、葉っぱがバルバトスの髪の深くに絡む方法なんて……」
バルバトス
「あったじゃないか、1度だけ……」
ソロモン
「え……?」
バルバトス
「髪が風とかになびいている最中なら、葉が初手から『奥』に触れる事も可能だ」
「そして触れた直後、俺の髪が葉を『閉じ込める』ような動きをしたなら、絡まる可能性もある」
「つまりだ。俺の髪が舞い上がり、そこに葉っぱか、葉っぱを纏った物体が『飛び込んだ』んだ」
「そして舞い上がった髪がまとまって、葉を内に『閉じ込めた』……」
ソロモン
「それなら、あり得るかもしれないけど……」
「でも、今日は大して風も無いし、バルバトスに『飛び込んだ』何かなんて……」
「……あっ!」
「『影』か!? 俺達を取り囲んだ『音』の正体!」
バルバトス
「そう。俺の記憶にある限り、髪に葉が絡まる機会はあの一件しかない」
「脈絡もバッチリだ。『影』は四方八方を踏み鳴らして俺達の警戒を煽っていた」
「夜空の広がる真上以外、『全方向』だ。葉っぱどころか枝が折れる音も聞こえた覚えがある」
ソロモン
「目にも留まらない速さで飛び回ってたなら、葉っぱなんて幾らでも飛び散るだろうから……」
バルバトス
「ガブリエルの背後から飛び出して、俺のすぐ脇を通り抜けるまで、ほんの一瞬だ」
「その一瞬の間だけなら、俺に『かする』まで葉を纏っていた可能性は充分にあり得る」
「脇や指の間に挟まるとか、前進する勢いで体の前面に貼り付いてたとかね」
「あるいは、幻獣なら体毛、メギドなら服の繊維に絡む事も考えられる」
「『影』が通り抜け、風に髪が舞って、そこに葉が入り、風が収まると共に『閉じ込められる』」
ソロモン
「じゃあ……待てよ? 『影』はそのまま誰も見えないような速さで撤退したから……!」
バルバトス
「何気なく歩いていた地面だが、青い葉は全くと言っていいほど落ちてない」
「そしてこの森はリンゴ以外の低木も多い」
「『影』は間違いなく猛スピードで枝葉を掻き分けて去っていったはず。それなら……」
ソロモン
「『影』の足取りを詳しく辿れるかも知れない!」
「完璧には難しいだろうけど、最悪でも森を出た方角くらいなら掴めるはずだ!」
バルバトス
「君も同じ結論に達したか……なら、俺の取り越し苦労って事もなさそうだ」
「すぐにゲルに戻ろう。手がかりが手がかりだ。風で散ったりしない内に確かめないと」
ソロモン
「ああ!」
全速力で拠点へ駆け戻っていくソロモンとバルバトス。
・ ・ ・ ・ ・ ・
ほぼ同時刻、アブラクサス定例パーティー会場。
すっかり人が失せた会場を、掃除道具片手に駆け回るハーゲンティ。
遠くからミーナの声。
ミーナ
「サシヨンちゃーん、もう皆も上がったし、部屋に戻って大丈夫よー」
ハーゲンティ
「あんがとー! でも、あたい手伝うからには最後までやっときたいからー!」
パーティー会場正門の方へ走っていくハーゲンティ。
それを見送るお目付け役3人。こちらも掃除道具を持っている。
フォロア
「料理の残り、私たちで詰め替えておいてあげたからねー」
ワレミア
「後片付け担当の人は毎回こんなだから、気にしないで仲間の人たちと食べてねー」
ハーゲンティ
「いやっほぅ、約得ぅー!」
お目付け役たちの隣のテーブルに、簡素な箱や革袋などの容器が幾つか並んでいる。
フォロア
「一時はどうなる事かと思ったけど──」
「シュラー様が今日もシュラー様だったお陰で、何とか無事にお開きにできたわね」
ミーナ
「シュラー様、どんな修羅場の真っ只中でもにこやかよねえ……」
「まだ若いのに、ほんと大した肝っ玉だわ」
ワレミア
「料理の余りの『持ち帰り』も、思ったより多く確保できて良かったわね」
フォロア
「面子潰されたサイティ派の担当がサッサと返ってくれたお陰で取り分増えたものね」
ミーナ
「後片付けまでほっぽり出してくれたお陰で、だいぶ時間食っちゃったけどね……」
「でも……これでサシヨンちゃんに、少しでも多く美味しいもの食べさせてあげられるわね!」
フォロア&ワレミア
「それね……!」
ミーナ
「よっし! サシヨンちゃんに早く休んでもらうためにも、もう一息、パパッと済ますわよ!」
フォロア&ワレミア
「おー!」
散開するお目付け役たち。
一方、会場正門前のハーゲンティ。
彩りのカーテンの陰にしゃがみ込んで、何かを拾い上げた。
ハーゲンティ
「あれ……?」
「確か、ここでシュラーが自分で水差し被ったって、ミーナ姉さんが……」
「『これ』、水滴付いてるから……シュラーが身に着けてたのが、水かぶった時に落ちちゃった?」
「いやいや、でも流石に『これ』あたいが見ても明らかゴミだし……でも、万一って事も……?」
「うーん……よし、決めた!」
「おーーーい、ミーナ姉さーーーん!」
カーテンから出て、手を降ってミーナを呼ぶハーゲンティ。
だいぶ遠くに散り散りになっていたお目付け役全員が一斉に振り向いた。
そしてミーナがハーゲンティの元へ駆け寄る。
ミーナ
「はーい、なーにー?」
ハーゲンティ
「この『葉っぱだか花びらみたいなクシャクシャの』、何だか分かるー!?」
※ここからあとがき
当初の構想では、マンショの家が仕入れている植物の買い入れ先には1人、東国の植物を専門に栽培して卸している業者が居て、ツイタチを始めとした幾つかの野草品種は、『山で狩人をしている巨人』が保存食や薬の材料として持っていた故郷の実や種を、弓矢や罠の材料と引き換えに譲り受けた物……という設定も考えていたのですが、必要な描写では無いですし、差し込み所も上手く用意できなかったのでカットしました。
些細な問題ですが、使用人の性別は筆者の中で定まっていません。
どちらかと言えば老執事のイメージが大きいのですが、ウァサゴとアリアンのやり取りに立ち会うのが男性でも女性でも、別々の良さがあるように思えたので。
当初は執事と女中で分けて登場させようかと思いましたが、出番のバランスとか面倒なのでボツにしました。
よって、使用人の台詞は中途半端に男女どちらとも取れそうに口調を変えたりしてるので、少し不自然に見えるかもしれません。
読まれた方の好みに合わせて脳内補完していただけると幸いです。
現実には、海も普通に凍るようです。(現象を結氷、結氷した海を氷海と呼ぶそうです)
ただ、オホーツク海とかカスピ海とか南極とか、本当に容赦ない環境で起きる現象のようですので、エルプシャフトの住みよい地域では、冬場でも見る事は無いかなと。
一方で完全な結氷ではなく、流氷が浮かぶ程度なら、いわゆる北国イメージが無くとも珍しくないようです。
ヒートアイランドが云々される東京にある払沢の滝や、東京より南に位置する岡山あたりでも結氷が観測されるとか。
悪魔=メギドであるかについては、実の所、余り調べ直さずに書いています。
メインクエスト初期に「伝承に伝わる悪魔がメギドの正体」みたいな話をしていたような記憶があるのですが、どの辺りを読み直せば良いかの範囲がちょっと広すぎて……なので読み返さずに記憶だけを頼りに書いています。
ただ、コラフ・ラメルのマスターがメギドを自称していた事を考えると、ある程度は悪魔とメギドが紐付けされて認知されているのだとは思います。
「ヴァイガルドで『メギド』とは悪魔の総称」なのか、「文化によって悪魔を『メギド』と呼称する言い伝えがある」のか、違いはあるかもしれませんが。
なのでひとまず、その辺の擦り合せは騙し騙しで描写しています。
個人的に2-3後半で最も重要なザガンとグレモリーのやり取りを、投稿予約してから書き忘れているのに気付いて突貫工事で書き足しました。少し読みづらい&分かりにくい所もあるかも知れません。
プロットではセルケト関連の話だけする予定だったのですが、話の運び方に悪戦苦闘する内に何だかおかしな展開に。
下地にしている某作品群の関係もあって、ハッキリ言えば今回、ザガンさんを少しだけ「愚か」になるよう意識して動かしています。
「派手で格好良く」を好むザガンさんですが、ソロモンと同じ17歳で精神的に若い部類ですから、思春期の潔癖さとか自尊心とかから、見落としが多くなっても仕方ないって事で。
本来ならより自意識が強く、稚拙でもある、ハルファスやハーゲンティくらいの迸る熱いパトスな年頃が適任かもですが、2人ともそういうキャラになりにくいですし、今回はザガンさん主役なので。
まあ、主役が本編を経て人間的に成長するのがお約束ですし……映画でハッピーエンドした主役が、作劇上の都合から2で落ちぶれた所から再スタートしてリベンジしたりしますし……。
あと、「姿が似ているヴィータに憑依する」のか、「個性まで似ているヴィータに憑依する」のかが自分の中で結論出なかったのでボカしてます。
記憶が目覚めると同時に人当たりや性格が変わる例があったはずなので、外見だけが基準になってるとは思うのですが……。
余談ですが、毎回ミーナをよく「ミーア」と書き間違えて、気付いては直してを繰り返しています。
お気づきの際は語字報告いただけると助かります。
ウコバクイベを読みました。
悲劇イベで創作意欲的な意味でも結構な打撃だった分、今回はだいぶ和やかに読みすすめる事ができました。
処刑イベから続いて、メギドなりの愛と恋を描いている所に、どことなく趣を感じました。その辺りをメインストーリーで絡める予定があったりするのでしょうか。
今回イベのBGMは、ステージ選択も攻略中も、初代プレステ時代のファンタジーゲーム辺りを彷彿とさせる私好みなものでした。詳しくないですが、アイリッシュってやつですかね。
通常のヴィータでも高密度のフォトンは光として知覚できる可能性がある点は、大変ありがてえ情報でした。
ただフォラスの件は若干「答え合わせ」を食らった感じです。
前作でのフォラスの振る舞いをイベ中のフォラスと照らし合わせると、何となく怪しい所もありそうな……家族愛に一直線になれるようになるのは灯火イベの後とも読み取れそうですし……。
今作でも、「メギドの記憶を取り戻した時、ヴィータ体に不満やショックを持つ者が多い」、「幼いメギドなら自身の弱さや愚かさに落差を受ける」と描写し、そんな会話で大騒ぎしてた女子をフォラスが嗜めてますが、そのフォラスこそ出生後間もなくに記憶を取り戻している事になるので、ちょっと難しい感じに……まあ、女子トークを余りちゃんと聞いてなかっただけとか、そんな具合で誤魔化しておきたいところです。
何にせよ、こういう答え合わせもまた楽しみの1つです。
共襲、前回よりはやりにくいながらも、似た超幻獣も居るので結構やれてます。
有り難い事に6ターン終える前に決着してばかりなので、編成やフォトン配分が未熟でも何とかなってるってのもあるのでしょうが。