いつかのメギドラル。
メギド・セルケトの領地、ミラビリス。
ザガン
「う……ん……」
「……ハッ!?」
薄っすらと目を開いたザガンの視界一杯に、セルケトの柔らかい微笑みが映り込んでいた。
瞼を見開き硬直するザガン。
セルケト
「やあ。目が覚めたようだね」
「雷も去ったようだ。今なら帰投するのも難しくないだろう……ん?」
「どうかしたかい。ヴィータ体に異常は無さそうだが……酷く動揺しているように『視え』る」
ザガン
「ど……どうしたも、こうしたも……」
「何だ、この状況……!」
「何でオレはミラビリスに居て、お前の足なんて枕にしてるんだ!?」
セルケトが砂漠に足を投げ出し、ザガンがセルケトの腿のあたりに頭を預けている構図だった。
セルケト
「それは、君がここに攻め入り、私と戦っていたからだ」
「今は、少し恐怖しているように『視え』る。不意打ちの心配ならいらない。2人きりだ」
ザガン
「恐怖なんてしてない! 少し混乱しただけだ!」
「今、言われてようやく思い出した……クソッ!!」
跳ね起きるザガン。
立ち上がろうとはせず、二日酔い明けのように片手で頭を抱える。
ザガン
「そうだ……私はお前にブン投げられて、地面が近づいてくると思ったら……」
「思ったら……その後の記憶がない! 思って、目が覚めたら、お前に見下されてた……!」
「何だこれは! これもお前の『技』か!?」
セルケト
「私に記憶を操るような『技』は無いよ」
「もしかすると……君は、気絶を経験するのは初めてだったかな?」
ザガン
「気絶……? あの、死んでる訳でも無いのに大人しくなるヤツか?」
セルケト
「そう。ヴィータ体で気絶すると、そのように一時的に記憶が混濁するものらしい」
「自分が何故、今こうしているのか……倒れる前の記憶との連続が断たれるそうだ」
「私もまだ経験が無いが……負傷した部下が、ある時そう教えてくれたよ」
ザガン
「気絶……これが、気絶か……」
セルケト
「倒れた君のメギド体が崩れ、そして今の君が現れた──」
「初めて、ヴィータ体のザガンに出会えた。私は、今日という日を永遠に忘れないだろう」
ザガン
「クッ……また弄んだ口をききやがって……!」
気味悪そうにキッと眉をしかめてセルケトに振り向くザガン。
ザガン
「ああそうだな! いつもは気絶なんてする前に、オレの四肢が砕けているものな!」
「そのたびに再構成用の携帯フォトンを投げて寄越して勝手に逃げて……本当にムカつくヤツだ!」
セルケト
「君にとってやるせない事だと、今ではよく分かっているよ」
「けれど、勝負は着いた。なら攻撃を加える理由がない。捨て置く気にもなれない」
「君のためにも、対等でない戦いはしたくないんだ。済まないね」
ザガン
「勝ったヤツが敵に謝るな!!」
「クソッ……心まで生殺与奪を握られたって事なのか、オレは……!」
セルケト
「私は『利用』したに過ぎない。君を気絶に導いたのは君自身の『力』だ」
「初めて出会った頃の君には、そこまでの『力』は無かった……傷つく程に君は強くなっている」
ザガン
「嫌味ったらしい情けをかけるな! お前がいつでもオレを殺せた事に変わりは無い!」
「あるのは、お前の手で『生かされた』という無様な結果だけだ……!」
セルケト
「誓って、私は君を殺すつもりはない。少なくとも今は……ね」
「それに、もしそのつもりがあっても……今日の君にだけは、絶対に適わなかっただろう」
ザガン
「……?」
セルケト
「ところで、『鋼蹄の雄牛』と言う二つ名……改めるべきかな?」
ザガン
「は? 何で急に二つ名の話に……」
セルケト
「ヴィータには獣と同様に雌雄があると聞いている」
「『雄牛』とはオスの獣を指す言葉らしい。だが──」
「ヴィータ体の君の特徴は、ヴィータのメスが持つそれとよく似ている」
ザガン
「?? それがどうした?」
セルケト
「メギド体に雌雄は無い」
「なら雌雄を示す名称は、ヴィータ体に沿って使うべきかと……そう思ったんだ──」
セルケトが言い終わるか終わらないかの内にザガンが飛びかかり、セルケトの胸ぐらを掴んだ。
微笑んだまま眉ひとつ変えず、無抵抗で引っ張られるセルケト。
ザガン
「ふざけるなっ!!」
「お前は、ヴィータ体がメギドの本当の姿だとでも思ってるのか!」
「メギド体に与えられた二つ名を、ヴィータ体を理由に変えるだと!?」
「それもヴィータの雌雄が理由だと!? 最大級の侮辱だ、そんなもの!」
「ヴィータの『値付け』なんかに振り回されてたまるか! 一度でもそんな事やってみろ……!」
「今度こそ正真正銘、何としてもお前をブチのめして、殺すより恐ろしい目にあわせてやる!!」
セルケト
「……」
全く笑みを崩さないまま、間を置いてからセルケトが口を開いた。
セルケト
「……分かった」
「済まなかった。この『眼』でも、心まで『視る』事はできない」
「君にとって、そんなに許せない事だとは思っていなかった」
ザガン
「『それ』が許されるなんて思ってるのは、メギドラル中さがしてもお前だけだ!」
セルケト
「間を取って、部下たちには『ザガン』とだけ呼ばせるのは、どうだろう」
「無意味な名乗りを挙げない戦場で、互いの名を知らぬまま呼び合う。それが本来の二つ名だ」
「もう互いの本名を知っている今、『ザガン』と呼ぶ方が、むしろ適切じゃないかな」
ザガン
「ハァ……勝手にしろ」
「……帰る」
ウンザリした様子で立ち上がり、荒野を歩き去っていくザガン。
セルケト
「退くのなら……今日は、ちゃんと聞こうか。携帯フォトン、使うかい?」
ザガン
「要るか! 断りなんか入れるならますますゴメンだ!」
「普段だって、お前の施しで生きて帰ったと思うだけで惨めで仕方ないんだぞ!」
セルケト
「分かった。それが君の誇りなら、止めはしない」
「ただ、この一帯はヴィータ体には過酷だ。服くらいは構成した方が良いと思うよ」
ザガン
「服ぅ?」
よほど意外な言葉だったのか、数メートルほど歩いた先で足を止め、胡乱な顔で振り向くザガン。
メギドだからこそ自然に会話しているが、ザガンのヴィータ体は気絶中からずっと、一糸まとわぬ姿だった。
ザガン
「本物の軟弱ヴィータじゃないんだぞ。布切れなんか無くても同じだ」
セルケト
「ふむ……」
「気絶の弊害として、衣服を構築できなかったと思っていたが、『視た』ところ……」
ザガン
「ああ、そうとも。オレは普段から、服なんて余計な物で『個』を隠したりなんざしない」
「そんな物を構成する習慣が無いんだ。気絶して出来たヴィータ体に付いてくるわけない」
「軍団で突撃する時くらいだな。部下の士気が上がるから仕方なく着飾ってやってる」
セルケト
「なるほど。言われてみれば、魂の『個』を象っているのはヴィータ体『のみ』のはずだ」
「着け外し出来る『服』という物は、少なくともヴィータ体ほど重要たり得ない」
ザガン
「『たり得ない』どころか全く無意味だ。そうだろう?」
「ウチの副長もしつこく文句を言って来るが、どうかしてるのは他の連中の方だ」
「『裸のヴィータはヴァイガルドでも嘲笑と軽蔑の的』だとか何とか、全く……」
「ヴァイガルドが何だ、オレ達はメギドだぞ? そもそも服は鎧と違って戦争にも全く関係無い」
セルケト
「そうか……確かに、一理ある」
「ありがとう。君にはいつも学ばされてばかりだ」
ザガン
「敵に礼なんて言うな! そもそもお前に何か教えた覚えなんて一度も無い!」
セルケト
「そんな事は無いさ。君を『視せ』てくれる……それだけで、星の数ほども」
「今だって、初めて気付かされた」
「メギドラルは、無意味としたはずの一部文化に既に順応している……考えもしなかった」
ザガン
「お前まで『そっち側』だったのか!? 勝ち誇る所なのか、嘆く所なのか……」
「『学んだ』って言ったなら分かるな? メギドラルじゃあ服が『当たり前』になってる」
セルケト
「メギドラルの、特に『中央』勢力下では、戦闘にも生存にも繋がらない行為を禁じている……」
「いわゆる『芸術』。あるいは論証無視や詭弁で成り立つオカルト、『予言』の類」
「これらを嗜む者には最悪、処刑も辞さないと聞いている」
「だが服飾は『中央』に関係なく、メギドラル全体で受け入れられている……合ってるかな?」
ザガン
「分かったのなら、お前も少しは、その『格好』がおかしいって思えて来たんじゃないか?」
セルケト
「生憎と、そこまでは」
ザガン
「あぁ~もう、どいつもこいつも……!」
「『中央』はなあ、罰則こそ設けてないが、服装にも注意喚起を出してるんだぞ!」
「最低限の防御効果を認めるから大目に見ているが、いつ『芸術』判定されても恨むなとな!」
「なのにメギドは皆、ヴィータ体に思い思いの服を着せたがる!」
「防具の役割も果たせない裸同然の格好のヤツが居ても、誰も文句を言わない!」
「アッチはダメでコッチは良いなんて言い訳すらせず、誰もおかしいとさえ思ってない!」
「こんな訳の分からない話があって良いはずがないんだ!」
セルケト
「制度への疑問は同感だ。だが、それでも今はまだ、着衣に疑問は覚えないな」
「例え気付いたからと言って、私がどうするかは私次第。そうだろう?」
ザガン
「『それでも』だ! 『おかしい』なら『おかしい』を失くそうとするのが『当然』だ!」
「戦うと決めたら戦う! 勝つと決めたら勝つ! 良いものは良い! 悪いものは悪い!」
「こんな簡単な事なのに……何で揃いも揃って『遠回り』したがるんだ!」
セルケト
「この世界で、まだ君の『個』にしか『視え』ていない道なのだろう」
ザガン
「あ?」
セルケト
「私に『視え』なかった答えを、君は考えるまでも無く見出していた」
「この広大なメギドラルで君だけが、世界をあるべき形に変える力を持つのかもしれない」
ザガン
「……それさあ、一言でまとめられるんじゃないのか?」
「『お前が勝手にそう決めつけてるだけだ』……って」
セルケト
「未だ世界に君だけが……という点では同じかもしれない」
「しかし、君が間違っているとは、私にはとても思えな──」
ザガン
「っだ~~もう! そういう『回り道』が嫌いだってオレは言ってるんだ!」
セルケト
「私は君を軽んじる事も、孤立させるような物言いもしたくないんだ」
ザガン
「『する』ような言い方なんて全然無かっただろうが!」
「メギドは『個』だ。『個』が感じ取るモノが世界の全てだ! なら『それ』で充分だろ!」
セルケト
「……?」
笑顔のまま小首を傾げるセルケト。
頭の角度以外、余りにも困惑の類が伺えない落ち着き払った佇まいは、見ようによっては小馬鹿にしているようですらある。
ザガン
「あ゛~ったく……オレの部下もお前も、何で大事な話ばっかり中途半端に通じない……」
「いいか? オレが『正しい』、周りが『おかしい』……当たり前だろ、『個』なんだから」
「オレ達は、自分の『正しい』で『おかしい』を消して、自分の世界を生きたくて戦うんだろう」
「『あるべき』とか『決めつけ』とか、そんな『飾り』が欲しくて戦ってるんじゃない」
「生きたいように生きたいから今、生きてるんだ。お前だってそうだろ!」
セルケト
「……!」
セルケトの微笑が薄れた。
ザガン
「それに『孤立』なんてのは、ヴィータみたいな『群れ根性』が使う言葉だ」
「社会とか権威とか、形の無い『全』の力に『あてられた』奴らの戯言だ」
「言いたい事があるなら、言いたい事だけ言えばいい。そうやって言葉を選ぶのは気に入らない!」
セルケト
「……そうか。始めから、問題では無かったのか」
「自分が世界にとって『正しい』かも、誰かに理解される事も……」
「君はただ純粋に、看過できない事に物申し、それでよしとしていた」
「お互いがメギドで、決して2つとない『個』であるが故に」
ザガン
「だから最初からそう言ってるだろ……何の話だと思ってたんだ?」
心底から怪訝そうな顔でぼやくザガン。
セルケトが少しの間ザガンを見つめて、それから再び顔を綻ばせた。
セルケト
「ふ……ふふふ……全く、君の言う通りだ。本当に、何を考えていたんだか……」
「負けたよ。やはり、君には教えられてばかりだ」
ザガン
「勝手に勝負を決めるな。『口喧嘩』なんかしてないだろ」
「とにかく言いたい事は言ったからな。私は服など着ないで帰る」
セルケト
「分かった。もう文句も無い。では──」
「ザガン、投げるよ?」
ザガン
「は? 何を──おおっと!」
セルケトが軽く放り投げたソレを反射的にキャッチしたザガン。
ザガン
「これは……携帯フォトン?」
セルケト
「私は、ここを去るのに多くのフォトンは必要ない。使わないとしても、持っていってくれ」
「君がメギド体を維持して長距離を移動できるだけの量……『戦利品』としても充分だろう」
ザガン
「な……何が『戦利品』だ! 決闘に負けたのはオレの方だぞ、ふざけるな!」
「それに差し出されて手にするなんて、『贈り物』と一緒じゃないか!」
「オレはお前の部下になった覚えは無いし、フォトンなんて今、ちっとも欲しくない!」
セルケト
「『贈り物』……それも良い。だが、それは『戦利品』だ。今日の私は、君に適わない」
ザガン
「……???」
セルケト
「それに先程の口ぶりから『視て』……まだ『副長』には話していないのだろう?」
「君が日頃、私の携帯フォトンで帰還している事を」
ザガン
「うっ、そんな事まで分かるのか……!」
「……じゃない! お前には関係ない!」
セルケト
「もっともだ。だから、これは勝手な推測だが──」
「君の『副長』は、その携帯フォトンを『戦利品』として大いに気に入ってくれる」
「帰還用のフォトンを受け取っていた事も、複雑に思いつつも、好機と解釈してくれる」
ザガン
「知ったような口を利くな! 副長は……あいつはオレに『期待』してるんだぞ!」
「負けた挙げ句に敵の施しを受けて逃げ帰ってたなんて知って、あいつが喜ぶものか!」
セルケト
「『副長』は、君の一直線な方針の調整役を担っている」
「『副長』は、君にとって『期待』に応えなければと思うほど、深い関係を持つ存在だ」
「『副長』は、君に代わって知識や軍略を学び、軍団内の政治を司っている」
ザガン
「ッ……!?」
「い……いつ、会ったんだ……!?」
セルケト
「顔も名前も知らないよ。君を通して『視え』た、大体の『メギド像』に過ぎない」
「更に言えば、『副長』のヴィータ体も恐らく、メスの特徴を有している」
「君がヴィータ体の雌雄に、際立って無頓着に『視え』たからという、あくまで推理だが」
「身近なメギドのヴィータ体だけ見慣れ、ヴィータ自体にも無学なら珍しくない」
ザガン
「……!」
一歩、後ずさるザガン。
セルケト
「驚かせて済まない。ヴィータ体相手の方が特徴が似通う分、よく『視え』るんだ」
「特に君は、感情が『力』に出やすい。私でなくとも察しのつく者は少なくないだろう」
ザガン
「お、おいそれ今、オレをバカにしたろ!? 『遠回し』に!」
セルケト
「言いたい事は分かる。だが、君のそれは覇王にのみ許される気質だ。純粋に讃えているよ」
ザガン
「敵を讃えるな!」
「クソッ……だが、悔しいが副長の事は全部当たりだ……」
「お前は……どういうつもりで、携帯フォトンを副長に見せろって言ってるんだ?」
セルケト
「『副長』は、君の連敗の事実を余り気にしていない。君がそう『安心』できる程度には」
「そして軍団の『舵取り』を担う『副長』は、軍団としての戦略的思考を持っている」
「私から君に、積極的に生存と再戦の機会を与えている事を『副長』は、恐らくこう考える」
「セルケトはザガンに多大な好意を持っている……チャンスだ、と」
「少なくとも殺すつもりはない。ならば、異彩を放つ戦歴のセルケトと、ツテを築ける」
ザガン
「(『まつりごと』か……私が一番、興味のない戦いだ)」
「(けど……あいつなら、考えかねない……)」
セルケト
「否定できないように『視え』る。『副長』とは気が合いそうだ。一度会ってみたいな」
ザガン
「誰が会わせるか! やっぱり『視え』てるんじゃないのか、心!?」
「それに、そうやって偉そうに言ってるけどなあ──」
「オレがお前の言葉に『ハイそうですか』なんて従うとでも思ってるのか?」
「仮に従ったとして、お前の思惑通りに事が運ぶ保障なんて無いだろう?」
セルケト
「もちろん。だからこそ、これは『戦利品』だ。どうするかは始めから君の自由だ」
ザガン
「……フン」
手に提げた携帯フォトンの束を暫し見つめて、三度目の正直とばかり背を向けるザガン。
セルケト
「『副長』によろしく」
ザガン
「伝えるもんか。こんな物、帰りに使い切ってその辺に捨ててやる」
首だけ振り向いて応じるザガン。
セルケト
「『副長』の『期待』に応えられないのが、『格好悪い』からかな?」
ザガン
「違う!! 『格好』がどうだとか、『全』側の『値付け』ありきの理由とは絶対違う!」
セルケト
「『副長』が君に見出しているのは、『格好良いザガン』なんじゃないかい?」
ザガン
「あいつまで弄ぶなら本気で怒るぞ」
「この携帯フォトンでメギド体に戻って、今すぐお前に突っ込んでやっても良いんだからな?」
セルケト
「決して、からかうつもりはないよ」
「しかし……今から戦うのは、君にとって得策なのかもしれない」
「容易く勝てるだろう。今日は、君とこれ以上は戦えそうにない」
ザガン
「またソレだ……」
「何なんだ、さっきから勝手に『適わない』だの『戦えない』だの」
「私を気絶に追い込んだクセに、何で急にそんな弱腰になってるんだ?」
セルケト
「『傷付けたくない』んだ。今、こうしている間も冷めやらない」
「ヴィータ体に転じた君を見た時、思考を置き去りに君を抱きとめ、言葉を探していた」
「ようやくそれらしい言葉を見つけたと思った瞬間、呟いていたんだ──」
「『素敵だ』……と」
ザガン
「……」
「……す・て・き……」
セルケト
「……」
ザガンが振り向けていた首を戻し、セルケトの言葉を繰り返した瞬間、その背を見つめるセルケトの顔から笑みが消えた。
喜色だけでなく、先程までの柔和さが失せていた。
セルケトの面立ちに残ったのは、透き通るような、それでいて妖艶な、真剣そのものの表情だった。
ザガン
「……それは、ヴィータの言葉か?」
セルケト
「ああ。一単語で表す中でも、最大級の称賛だと理解している」
「ヴィータは、己よりいと高き事物に魂を揺さぶられる時、その情動を『素敵』と──」
「……ザガン?」
ザガン
「……」
ザガンの手から携帯フォトンが滑り落ちた。
携帯フォトンを捨て置いて、ザガンは無言で歩き去っていく。
セルケト
「……ザガン、聞いてくれ」
ザガン
「……」
止まらない。ここに始めから何もなかったかのようにザガンは全てを無視している。
セルケト
「ザガン……」
ザガン
「……」
セルケト
「そこ、崩れるよ」
ザガン
「……」
「え……?」
ザガンがセルケトの声に反応したのと、そのザガンの足が何の変哲も無い砂漠土に着地したのは同時だった。
まるで木の葉に隠された穴や沼を踏み抜いたように、ザガンの足が落っこちていく。
ザガン周辺の地面が轟音を立てて陥没していく。
ザガン
「(なっ、地面が……凹んで……!?)」
「(脱出……無理だ! メ、メギド体で!? ダメだ! 足場が緩すぎて支えきれない!)」
「わ、わ……わああああああっ!?」
大量の砂煙を巻き上げながら、直径深さ共にメートル単位のクレーターが形成された。
クレーターの底ではザガンと……セルケトが横たわっている。
ザガンがヨロヨロと起き上がった。
ザガン
「ゲッホ、ゲホッ! ぶへえっ!」
「な、何で……」
セルケト
「がふっ……ミラビリスは、地下深くまで風化している……げほっ、ぐっ……」
「一見して特徴は無いが、僅かな衝撃で崩落する『点』が数限りなくあるんだ」
「ピンポイントで踏み抜くルートを進むとは、流石に歩き出すまでは『視え』な──」
ザガン
「『そっち』じゃないっ!!」
「何で私の下敷きになりに来たんだ! 『視え』てたクセに!」
「しかもヴィータ体ひとつ受け止めたくらいで何だそのザマ!? 弱すぎるだろ!」
ザガンがセルケトの腹辺りを尻に敷いて、セルケトは未だ横たわっている。喉まで砂を被った口を押さえる余裕も無さそうだ。
咳き込む理由の大半は砂煙よりも、ザガンと地面との間に挟まれて衝撃を一身に受けたためだった。
ザガンが退くと、セルケトがようやく起き上がる。落下のダメージが抜けきらず、腕が頼りないほど震えている。
生粋のヴィータなら身動きどころでない重傷必至な状況だった事を考えれば、ヴィータ基準では充分に頑丈と言えた。
しかし、力を有する純正メギドが姿を変えたヴィータ体としては、ヴィータ1人分の荷重と共に数メートル落下した程度でヨロめくようでは、下級メギドも良い所だった。
セルケト
「力が『視え』た所で……私の力そのものは、脆弱だからね」
「それより……」
片膝「突いて」姿勢を整えたセルケトが、片膝「立てて」座るザガンの顔に手を添え、砂まみれの指で、砂まみれの頬と髪を優しく拭った。
セルケト
「怪我は、無いようだね。良かった……君を傷付けたくなかったんだ」
ザガン
「……」
セルケトの言葉を聞いた途端、ザガンが冷ややかな顔でセルケトを睨んだ。
セルケト
「やはり、『視』間違いではなかった。未だ君から『視た』事のない表情、身振り、瞳──」
「『軽蔑』だね。かつて私が知ってきた同じソレよりも、深く、もっと深く……」
ザガン
「……」
ザガンは面持ちを変えないまま、手を置いた地面の砂漠土ごと拳を握り込み、セルケトの頬からこめかみ辺りめがけて打ち込んだ。
……が、拳は直撃したが、振り抜かれる事はなく、そのまま静止した。
セルケトの頭は微動だにしない。その代わりとばかり、ブワッと周囲の砂が舞い上がった。
二人の居るクレーター、更にその外側まで、同心円を描くように波紋の如く。
怪現象に気を取られ、流石に動揺が顔に出るザガン。
ザガン
「……!?」
「(攻撃の力を……地面に逃したのか? ヴィータ体はピクリともしてないのに……!)」
セルケト
「……」
度肝を抜かれている間にセルケトの手が、そっとザガンの拳を包んだ。
反射的に拳を引き戻そうとするザガンだが……。
ザガン
「(う、動かない……!? オレの手が……!)」
「(何だこれ、引き抜こうとしてるのに、くっついたみたいにビクとも……しかも──)」
「(抵抗するほどオレは、自分で自分の身体を地面に押し付けてる!? 何が起きてるんだ!)」
もがくザガンと対象的に、セルケトは彫像のように、あるいはザガンの抵抗の力など微塵も受けていないように、静かに座ったままだった。
セルケトは水晶の原石のような視線で真っ直ぐとザガンを見つめている。
セルケト
「ザガン。君を知りたい。君の声を聞きたい。その『軽蔑』の裏にあるものさえも」
ザガン
「(拒否権は無い……って事か……!)」
「クッ……オレの……オレのヴィータ体が、その『すてき』で構成されてるとでも言いたいのか」
セルケト
「構成要素、外見、あるいは別の何か……私にも故は知れない」
「だが、私の魂が……『個』が、君に熱く震えた。それだけは確かだ」
ザガン
「……オレも……」
「オレも、こんな時、どんな言葉を使うのか見つけた……」
「お前は……『おぞましい』……!」
「『おかしい』やつだとは思ってたが……ここまでイカれてるとは思わなかった!」
セルケト
「気に入らなかったかな?」
ザガン
「当たり前だ! 怒りを通り越して吐き気がする!」
「こんなヤツに執着してたのかと思うと、今日までの自分を踏み潰してやりたいくらいだ!」
「何が『すてき』だ! ヴィータ体だぞ!? フォトン不足でやむなく真似た下等生物だぞ!」
セルケト
「だが、君のヴィータ体は君の魂から形作られる、唯一無二のものだ」
ザガン
「だから何だ! 魂が反映されていれば聳える糞山になって鼻を摘まれても喜べってのか!」
「オレはメギドだぞ! 『ヴィータ』に染められていく全てが我慢ならない!」
「メギドの戦争まで『ヴィータ』になっていってるのに、誰が『ヴィータ』を喜べる!?」
セルケト
「戦争が『ヴィータ』に……とは?」
ザガン
「とぼけるな! お前だって分かってるクセに!」
「やれ陣形だの罠だの地の利だの、伏兵、兵站、外交……!」
「『個』の力をぶつけあうのがメギドだ! 獣同然の『群れ戦術』なんて『個』の否定だ!」
「『ヴィータ』は、戦争というメギドの存在意義さえ侵しているんだ!」
「そこに来て、『ヴィータ体がすてき』だと? 『すてき過ぎて怪我させられない』だと?」
「『眼』だけで運良く成り上がっただけの弱小メギドが何様のつもりだ!」
「どんなに『眼』が優れてようと、その狂った『頭』だけでもう、お前の全てが汚らわしい!」
セルケト
「二つ名の時もそうだった。君にとって、『ヴィータ』である事は汚らわしいか?」
ザガン
「二つ名の時もそう言った! 『許される』と思ってるのはお前だけだ!」
「こ、の……いい加減、離せ!」
全身を反らせて脱出を試みるザガン。
もしここに第三者が居れば、ザガンが自ら力ずくで地面にめり込もうとしているようにしか見えない有様だった。
ザガン
「チッ……これだけは私がどうとか関係ない、紛う事ない『常識』だ!」
「それともお前は嬉しいのか!?」
「『下等生物そっくりですてきですね』なんて言われて──!」
「毒虫みたいな弱者に『すてきで怪我させたくないから守ってあげます』なんて言われて!!」
セルケト
「それが私を純粋に称賛しているように『視え』れば、心から『嬉しい』と思う」
「そして、それが私を挑発するために口にしたように『視え』れば……」
「やはり、とても『嬉しい』と思う」
ザガン
「……」
怯えるような、不潔な物を見せつけられたような顔になるザガン。
ヴァイガルド風に置き換えるなら、心から尊敬する恩人がある日、奇声を張り上げて全裸で往来を駆けずり回り、所構わず排泄物を垂れ流しているのを目の当たりにしたような顔だった。
力なく項垂れ、ポツリと呟くザガン。
ザガン
「……離せよ……」
セルケト
「君の気持ちは、しかと『視』届けた」
「……だが、私がどうするかは、私次第だ」
ザガン
「何でだよ……」
「もう、言いたい事は言った。何も聞く事なんて無い」
「これっきりだ……もう会う事も無いだろうさ」
セルケト
「3つ、問いたい」
「その3つ全て、君に確かな答えがあるなら、君を解放しよう」
「望み通り、私が君を見送る事もない」
ザガン
「……さっさと済ませろ」
セルケト
「1つ。メギドの本質はメギド体にあり、ヴィータ体には皆無か」
ザガン
「そうだ。魂の反映だとかはただの結果だ。むしろ魂を侵す、下等で汚れた器だ」
セルケト
「2つ。メギドをヴィータ体に基づいて評価する事は、決して行ってはならないか」
ザガン
「当たり前だ。型にはめたみたいに似たものだらけのヴィータ体は、『個』の体現じゃない」
セルケト
「それが揺るぎない君の『個』であるなら、聞き入れよう」
「最後に3つ目だ」
「いつ、私のメギド体に『頭』があると知った?」
ザガン
「そん──」
「……は?」
思わず調子外れの表情でセルケトを見上げ直すザガン。
セルケト
「聞こえなかったか? いつ、知ったかと聞いたんだ」
「私は君に出会うより数十年は前からヴィータ体で過ごし続けている」
「ごく時折、勘を忘れないため、領地にてメギド体で食事をする程度だ」
「『頭』がある事を、どうやって知った?」
ザガン
「『頭』……『頭』なんて、そんなもの……そもそもそんな話、一言も──」
「あっ……!」
つい先程の回想
ザガン
「その狂った『頭』だけでもう、お前の全てが汚らわしい!」
中略。
セルケト
「2つ。メギドを、ヴィータ体に基づいて評価する事は、決して行ってはならないか」
ザガン
「当たり前だ。型にはめたみたいに似たものだらけのヴィータ体は、『個』の体現じゃない」
回想終わり。
ザガン
「ち、ちが……! あ、あれは、あの……言葉のナントカいうヤツで……!」
セルケト
「『言葉の綾』なら、それもヴァイガルドの言葉だ」
「綾とは『色彩』を意味する。即ち『芸術』に根ざす言葉だ」
「メギドに由来するメギドラル独自の単語も慣用句も、幾らでもあるはずだろう?」
ザガン
「そ、そうだったのか……」
セルケト
「君の『個』は、言葉を『ヴィータ』にする事だけは許すのか?」
ザガン
「そ……そんなんじゃない! オ、オオオレは、ただ、知らなかった……だけ、で──」
セルケト
「今、知っただろう。だが君は改めていない」
ザガン
「なっ……」
「何なんだよ急にぃっ!! オレがお前を『軽蔑』したのが『頭に来てる』のか!?」
「あっいや……と、とにかく言いたい事があるならハッキリ言えよ!!」
セルケト
「別に怒ってはいないよ。君の『軽蔑』に応えているだけだ」
「ヴィータの君が私に敵意を届けてくれた。だから君の礼儀に沿って出迎えている」
「『敵に謝るな』、『礼を言うな』、『讃えるな』……ならば君のために、君の要求は呑まない」
「この『口喧嘩』……決闘として、敬意と感謝をもって君を打ち倒す」
ザガン
「やっぱり絶対怒ってるだろ……」
セルケト
「怒ってはいないよ。だが、そう思うなら、その『怒り』の話をしよう」
「以前、『命を持った憤怒』と呼ばれるメギドが居ると、聞いた事がある」
ザガン
「(……携帯フォトンも捨てた。半端に抵抗するだけ無駄、か……)」
「ハァ……ああ、オレも聞いた事がある。とんでもない大軍団の『王』らしいな」
セルケト
「『命を持った憤怒』は、かのメギドへの畏怖と敬意から付けられた二つ名らしい」
ザガン
「だろうな。『名前』は『個』を示すものだ。下衆や雑魚に『与えて』いい安物じゃない」
セルケト
「君が同意する事は『おかしい』」
ザガン
「はぁ?」
セルケト
「『ヴィータ』は侮辱で、『怒り』は敬意になると?」
ザガン
「な……お前、『ヴィータ』と『怒り』を一緒くたに扱うつもりか!?」
セルケト
「どこが『おかしい』? 『怒り』は、『ヴィータ』にも獣にも普遍的に存在する」
「その点で『怒り』とは、『ヴィータ』以上に『全』の概念と言える」
「メギドが絶対の『個』なら、果たして相応しい二つ名だろうか。君の言葉を借りるなら──」
「『どこにでもあるソレそのもので素晴らしい』と……それはメギドとして名誉な事か?」
ザガン
「い、いや、言い方ってものが──」
セルケト
「『回り道』は嫌いなのだろう?」
ザガン
「ぐぐっ……!」
「う、うるっさいなあ!! さっきからオレの揚げ足ばかり取って偉そうに!!」
セルケト
「『力』を利用するのは得意でね」
ザガン
「何の自慢にもなるもんか! 嫌味ったらしいだけだ、そんなのは!」
セルケト
「私の言葉が君にとってただの嫌味止まりなら、答えられるはずだ」
「先程の君の『軽蔑』は、『何』のために生み出されたのか」
ザガン
「だから……!」
「……だか、ら……」
無意識に目を泳がせるザガン。
するとセルケトが、視線に軌道をピッタリ合わせて顔をヌルヌル移動させ、ザガンの瞳を見つめ続ける。
ザガン
「ッッ!!?」
驚いて視線を真逆の方向へ逸らしても、全く同じ速度でセルケトの上半身が追いかけてくる。諦めて元から向けていた方向へ戻しても結果は同じだった。
セルケトはあくまでも真剣そのものだった。
ザガン
「(何か気持ち悪……っ!!)」
セルケト
「答えられないなら、私が攻める」
「私が君を『素敵だ』と言った時……私には、君が君自身を否定したように『視え』た」
「それが分からない。『個』を具現化させた姿を、何故メギド自身が否定するのか」
ザガン
「オレが、オレを……否定?」
セルケト
「君のメギド体が『敵意』よりも『愛着』を向けられたら、メギドである己を呪ったか?」
「逆に君のメギド体が『下等生物』の似姿だったなら、君を慕う部下を『軽蔑』したか?」
「なぜ君にとって、己の『個』以外の評価が、心を揺るがすほど重大なものとなる?」
「ただの『言葉』は、君の『個』を脅かしなどしないのに」
ザガン
「オレ、が……オレは…………?」
「ぅ……ぅぅ……」
「……らぁぁぁああああああっ!!!」
拳を引き抜くのを止め、逆に地面を押し出してセルケトに頭突きを打ち込むザガン。
セルケトとザガンの額が接触した直後、セルケトの足元から深いヒビが駆け巡り、クレーターの縁が波立つように砕けて砂嵐となり、その半径を倍近く広げた。
そのまま額をねじ込むようにしながら、ゼロ距離でセルケトをギリギリと睨み付けるザガン。
セルケトの額から、血が一筋流れた。
ザガン
「はぁーっ、はぁーっ……! オレは……!」
「オレはザガンだ! だからお前の『回りくどい』話なんざ全然分からん! けどなあ!」
「『無し』だ! ここまでグチグチ言い合ってたの、一旦ぜ~んぶ、『無し』だ!」
「お前に何を言われようが、オレは最初っから『知ったこっちゃ無かった』!」
「何故なら……オレ『が』ザガンだからだ!!」
セルケト
「……」
「事実が無かったのなら……済まない事をした」
少し前までと全く同じ微笑みを浮かべるセルケト。
セルケトがザガンの拳からスッと手を離した。
頭突きと共に突き破らんばかりにセルケトの背後へ押し込んでいた拳がブレーキを失い、持ち主の全身を引っ張っていく。
ザガン
「ぬっ、おっ!?」
バランスを崩した拍子、何をどうしたのかセルケトが流れるようにザガンを操り、次の瞬間には、セルケトがザガンの膝裏と背中に腕を通して抱え上げる形になっていた。
セルケト
「君に無意味な時間を過ごさせてしまった。後日、お詫びをしよう」
ザガン
「詫びるな! オレはお前の敵だ! 今にお前を踏み越えていくメギドだ!!」
「と言うか何だこの体勢! 完全にお前の手の内じゃないか! 何だか無性に不愉快だし!」
「降ろせ、この……ユラユラさせるな! バランス崩れて起き上がれないだろ!」
セルケト
「お気に召さないのは残念だが、少しの間、我慢していてくれ」
「足元の地盤が、もう限界でね。空でも飛べなければ、100年かけても這い上がれないだろう」
セルケトが片足の先で地面の一点をトンと突いた。
セルケトの背後から向こう、クレーターの底を構成していた地面の殆どが、メギドラルのものとすら思えない音を立てて更に沈下していった。
後には無尽蔵の暗闇だけが広がっていた。深すぎて砂煙さえロクに昇って来れない。
ザガン
「(うわ)」
セルケト
「私の『眼』にはまだ、安全に脱出できる道筋が『視え』ている」
ザガン
「……わ、分かった」
「どうせ、お前に『生かされた』のもこれが初めてじゃないしな……」
セルケト
「『生かされた』んじゃない。最初から私に殺すつもりが無いだけだよ」
ザガン
「それを『生かされた』って言うんだ。少なくともオレにとっては」
セルケト
「言葉を選んだ結果でしか無いと思っているなら……嬉しいよ。きっと、君にとっても」
ザガン
「何でそうなる……」
上等な靴を履いたまま、セルケトがザガンを抱えて、滑らかな靴底でクレーターの斜面を捉えて登り始める。
念入りに崩され解された蟻地獄も同然の斜面だが、傍目にはちょっとした砂丘をエッチラオッチラ踏破している程度にしか見えない。
セルケト
「初めて君と出会った時……ひたすら猛進を繰り返す君から、朧げに『視え』たんだ」
「いつか本当に私の『眼』を超える『高み』……言葉で説明し難い、一種の可能性を」
「それまで私の『視る』世界に、不確かなものは1つとして無かった」
「私は『高み』の正体を確かめたい。願わくば、『高み』へ至った君と、全力で戦いたい」
ザガン
「高く買われているのはまあ、嬉しいと言うか、誇らしいが……それがどう関係ある?」
セルケト
「『鋼蹄の雄牛』は、私の軍団でいつの間にか普及していた二つ名だ」
「そして君は、『鋼蹄の雄牛』という名に不満を持たず、『認め』てくれていた」
「なら、私と君とは『認め合える』関係にある。私はそう確信している」
ザガン
「話が飛び跳ねすぎだ! 別に文句を付けるような二つ名じゃ無かったってだけだぞ」
セルケト
「『だから』さ、ザガン。私の元にはこれまで、実に多くのメギドが勝負を挑んできた」
「君のように、携帯フォトンを使ってメギド体を『視せ』てくれた者も多い」
「四足歩行のメギド体も、金属質のメギド体も、両方を併せ持ったメギド体も幾らでも」
「『鋼蹄の雄牛』は、君だけに相応しい二つ名ではない。理屈では君も分かっていたはずだ」
ザガン
「他の誰にでも付けられそうな二つ名と分かってて、それでもオレは『認め』たとでも?」
「そりゃそうかも知れないがなあ……本当に『理屈では』の話だぞ、それ」
セルケト
「ふふっ……」
ザガン
「今度は何だよ?」
セルケト
「1つ、伝え忘れていた事があったのを、思い出してね」
「ザガン──」
丁度、クレーターの縁を超え、脱出成功の第一歩を踏みしめたセルケト。
2,3歩進んで安全を確保した上で、セルケトが腕の中のザガンを覗き込むように見つめた。
セルケト
「君のヴィータ体を一目見た時から……ずっと思っていた」
「……『素敵だ』と」
歯が浮いたような「うへー」といった顔になるザガン。
ザガン
「ボケてんのかお前……それついさっき──」
セルケト
「一度聞いたと思うのは気のせいだよ。そんな事実は『無い』のだから」
ザガン
「ぬ゛……」
セルケト
「ザガン……『鋼蹄の雄牛』の名は、それでも君にしか受けられない」
「互いに挑み、求め合い、生き続けなければ、この名が生まれる事は無かった」
「ザガン。君は素敵だ。今まで他の誰にも、こんな気持ちになる事は無かったんだ」
「今でも君に見惚れている。この心が落ち着くまで、私は君と戦えない」
ザガン
「(何でオレは、こんなにもコイツをちょくちょく『気色悪い』と思うんだろうか……)」
「ハァ……これ言うのは絶対『二度目』だけどな──」
「本当にもう勝手にしろ。牛でもオスでも『すてき』でも、それがザガンの『証明』だ」
セルケト
「気に入ってくれて何よりだ」
ザガン
「んな事は一言も言ってない! それでも『すてき』だけは絶対に『おかしい』からな!」
セルケト
「だが、怒っているようには『視え』ないよ」
ザガン
「覆るくらいに呆れてるだけだ!」
「やっぱり、お前のその『眼』は気に入らない! いや、『耳』も『口』も全部だ!」
セルケト
「私のメギド体に『耳』は無いよ」
ザガン
「あ゛~~も゛うっ!!!! 『無し』なんだろソレはよおっ!!!!!」
セルケトの頬をグニッと押しのけながら腕から逃れ、大地に降り立つザガン。
ズカズカと砂を踏み鳴らしながら、先程捨てた携帯フォトンを拾い上げ、振り向いてセルケトをビシリと指差した。
ザガン
「覚えてろよ! 明日にでもお前の領地のド真ん中、全力でお礼参り叩き込んでやるからな!!」
肩を荒々しく揺すりつつ、「ったく」とか「クソッ」とか溢しながら、適当な方角へと歩いていくザガン。
小さくなる背中を笑顔で見送るセルケトが独り言ちた。
セルケト
「ふむ……」
「帰ったら、『右腕』に用意させるべきかな」
「もし本当に辿り着けたなら、盛大に歓待しなくては……今から楽しみでならない」
※ここからあとがき
少し本編から寄り道しまして、本編中では尺的にもタイミング的にも挟み所の無いザガンさんのオリジナル過去話を番外編的に書いていきます。
原作イベントクエストだったら、キャラストの一部が本編のどこかしらで回想されてる感じのアレです。
4話構成の予定なので、敢えて有耶無耶にしてる部分がありますが、後ほど回収しますので暫しお待ちを。
(それでも回収されない部分は単純に筆者の見落としですので、容赦なくご一報いただけると幸いです)
段々、ザガンさんが「自分の意見に説明が足りない」とかキャラを原作から付け足され気味というか乖離し始めてますが、二次創作としてはまだ許容範囲であると願いたいです……。
メギド時代のザガンさんの描写は、自分の価値観第一な所とか、それを他者に理解「してもらう」つもりがない所とかは、(最低な例えですが)コシチェイ並に己の道を生きてる感じを意識してます。
コシチェイも立派になってきたもので、今後の活躍が楽しみです。
セルケトの人物像もといメギド像は、いわゆるスパダリを意識しているのですが、筆者には余り造詣が深くないジャンルなので、ただのクサいキャラに思えるかも知れません。どうか大目に見ていただきたく……。
後、わりとどうでもいいですが、セルケトの外見設定は余り固めていませんが、髪型だけは「ロードス島戦記(OVA版)」のアシュラムくらいボリューミーなやつをイメージしてます。もしくは幽遊白書の黄泉(あっちは盲目ですが)。
アガシオン、強化解除無効か……。
Bプルソンは強化効果の差額で威力が上昇……。
構想していたオリメギドの中に、性能まで考えた一部メギドに似た能力があり、これは烏滸がましくも先を越された感があり、同時に公式で採用されうるアイディアだったのだなとツケ上がりたくなる気持ちもあり。(基本的に驕り高ぶる)
まあ、構想していたのは「○ターン強化解除無効」とか「強化効果及び特殊効果の数で技のレベルが上昇」で微妙に構想の方が贅沢な仕様なので、結局ゲーム面の考え方はてんで甘ちゃんですが。
いつもの悪い癖でネタバレ情報をごくごく一部読みました。
書きたい欲が先立つのに、読む事が……読む事が多い……!
キャラストーリーまで含めるととんでもない文章量が目の前に横たわっている事を言い訳にさせてください。
先駆者の感想を読んだだけなので、かなり断片的な理解ですが、なるほど、7章開始前にイベント時系列が集中してるのって、そういう……。
今更ながら、ライトノベル一冊当たりの文字数を調べてみたら、10万~12万文字強ほどが大体だとか。
つまり、実際のイベントとまでいかずとも、1作10万文字ほどで片付けるのが1つの目安と考えても良さそうな。
規格は大事ですし、尺にも1つの指針があった方がプロット練るにも良いでしょうし。
まあ、本当に今更ですので開き直って、少なくとも今作までは書きたいだけ描写を書きまくるくらいのつもりで行ってしまおうと思ってます。