いつかのメギドラル。
セルケトが支配する棄戦圏。ミラビリスとは異なる場所。
地平線の彼方まで、ネトネトした黒い泥水に地表が覆われている。
見渡す限りの泥濘に、ヴィータ体のザガンとセルケト、2人だけが立っている。
薄汚く黒々と染まった大地とは裏腹に、空には満天の星がかかり、泥よりも高い彩度で美しい夜空の黒を移していた。
ザガン
「やああーーーーっ!!」
ヴィータ体でセルケトへ突撃するザガン。泥に足を取られてスピードが乗っていないが、気にする様子は全く無い。
いかにも取り敢えずな塩梅で鉤爪のように曲げた指を、真正面からセルケトめがけて振り下ろす。
まだ武器という発想を持っていないザガンは丸腰で戦っている。
セルケト
「良いね」
余裕の声と共に、動いたかも怪しいほど最小限の動作で回避するセルケト。
同時にザガンの肩を指先でチョンと突いた。
ザガン
「おおっ!?」
それだけで、泥で滑って跳ね上がるザガンの足に、今しがた振り下ろした腕力が上乗せされ、月面宙返りのような姿勢でセルケトの脇を通り過ぎていくザガン。
ザガン
「ぬわぷっ!」
そのまま泥に顔から滑り込んだ。数十cmほど顔面ドリフトして停止したザガンがすぐさま起き上がる。
肩で息をしながら、口に入った泥を吐き捨てるザガン。
周囲の気温は低く、ザガンの吐息が白い。
ザガン
「ぺっ、ぺっ……げほっ、ハァ、ハァ……」
「何が『良いね』だ! 勝負にすらなってないだろうが!! ハァ、ハァ……」
セルケト
「そうでもない。確実に君の動きは良くなっている」
「それに、君には黒もよく──」
ザガン
「『似合う』はもう沢山だ!」
セルケト
「『お詫びの品』、気に入ってくれて何よりだよ」
ザガン
「オレじゃない! 副長が『着ろ』『着ろ』って何度もしつこいから仕方なくだ!」
今のザガンは上等なドレスに身を包んでいる。
ただし、既に粘度の高い泥に全身まみれて、影絵のような有様になっている。
一方、セルケトは足元の靴と裾の際、そしてザガンに直接触れる指先以外、飛沫の一滴すら浴びていない。
ザガン
「クソッ……ヒラヒラするし、泥がしみて無駄に重いし、やっぱり服なんて無駄なだけだ!」
「挙げ句に薄汚れたザマをお前に冷やかされる始末……!」
セルケト
「悪く言うつもりは全く無いよ。しかし……それでも脱ぐ気は無いように『視え』るね」
ザガン
「こんなだだっ広い所に捨てたら、絶対あとで見つからなくなるからな」
「何でか知らんが副長がこの服に執着してるんだ。これを失くしたらあいつ、絶対キレる」
「(『着て見せろ』って目ぇ血走らせて詰め寄ってきたからな……)」
「(オレがハッキリと誰かを『怖い』と思ったのは初めてだ……)」
セルケト
「『副長』には、さしもの君も我を通しきれないのかな」
ザガン
「長い付き合いだから……なぁっ!!」
息を整え、「ガオー」とでも吠えそうに両腕を掲げた姿勢で再び突撃するザガン。
ザガンが攻撃に移る直前にセルケトが懐に滑り込み、ザガンの片側の腋窩に指先、肘に手刀を軽く打ち込む。
すると、ザガンの腕が自ら軋まんばかりにピンと反り返った。
ザガン
「おわっ、あ、わ、わ、ああっ!?」
自分の突撃を自分の片腕に引き止められるような錯覚を覚えるザガン。
踏み止まろうとするが片腕だけ重心制御に協力せず、泥で滑ってバランスを崩し、倒れ込む上半身を無事な方の腕で支えようとすると、その腕も泥で滑り、散々に弧を描きながら最終的に大の字で泥に飛び込む。
回るザガンがこれでもかと撒き散らした泥の飛沫を、踊るように残らず避けるセルケト。
ザガンが顔を手で押さえながらヨロヨロと立ち上がった。
ザガン
「くっ、ぐぅ~~~……この泥、目に沁みる……!」
ザガンが無意識に顔を覆っている腕は、先程セルケトに突かれた方の腕。不随意の反射を利用した一時的な拘縮に過ぎず、ダメージは皆無だった。
セルケト
「その泥はヴィータへの毒性があるらしい。メギドと言えど無害とはいかないだろう」
「小休止しよう。その場を動かないで」
ザガン
「休みなんか要らん! どっからでもかかって来い!!」
セルケト
「では……私はこれから君の真正面に歩み寄る」
呼びかけと同時に、足音が泥を小さく鳴らしながら近づいてくる。
ザガンが泥まみれの顔を泥まみれの腕でひと拭いして、すかさず目を閉じたまま身構える。
ザガン
「(正面……こいつの事だからバカ正直に言った通りにするはずだ)」
「(目が見えなくても、耳がある。音を拾え! 音から大体の距離を掴んで──)」
考えている間に、ザガンの顔にフワリとした物が触れた。
ザガン
「(全然拾えてないじゃないかっ!!)」
反射的に飛び退こうとしたザガンの背中に腕が回され、抱き寄せられた。
ザガン
「(捕まった! 今度は何を仕掛けて──)」
「(ん? 顔のこれ……布?)」
セルケト
「じっとして。目に入った分は涙で流すしか無いが、少しはマシになるはずだ」
セルケトに顔と、ついでに掌を拭われるザガン。
開放されたザガンは、拭われた指で瞼を押さえながら瞬きを繰り返し、間もなくセルケトを睨み返した。
泥で白黒模様になったハンカチをしまうセルケトの服は、躊躇いなくザガンを抱き寄せた事で同じくベッタリと泥が付着している。
セルケト
「大事ないようで良かった」
ザガン
「跳ねた雫が、ちょっとかかっただけだからな……いや、それより!」
「休みは要らんと言っただろうが!」
「それに、敵に情けなんかかけるな! お前からすればチャンスだったはずだ!」
セルケト
「君を討ち取るだけなら、チャンスはいつでもあるよ」
ザガン
「ならとっとと討ち取れば良いだろう! お前はいつもいつもオレを弄びやがって!」
セルケト
「君こそ、今日は何故、わざわざ慣れないヴィータ体で決闘を?」
ザガン
「そ、それは……お前が言ったんだろ、オレの力を利用してオレを倒してると」
「だったら、力が強すぎてメギド体が砕かれるなら、逆に力を落とせば、と……」
「お前自身はみっともないくらい脆いようだからな。倒すだけならヴィータ体でもきっと……!」
セルケト
「工夫を試みても、勝負はあくまで正面突破、か……やはり君は素敵だ」
ザガン
「くっ……またそういう……!」
「そう思うなら、一発くらいまともに食らって……見ろっ!」
至近距離に立つセルケトに予備動作たっぷりのハイキックを振り上げるザガン。悠々とかわされた。
セルケト
「……」
ザガン
「まだまだぁっ!!」
セルケト
「……確かに」
ザガン
「!?」
空振りのハイキックから、すかさずタックルを仕掛けたザガン。
セルケトは一声つぶやくと、棒立ちのまま直撃をもらい、押し倒された。
気付くと、ザガンがマウントポジションを取り、泥に横たわるセルケトは漆黒の長髪をほぼ同色の泥に揺蕩わせていた。
不利な体勢に陥っても笑顔を崩さないセルケトを、ザガンは呆然と見下ろしている。
ザガン
「……お前……『眼』、閉じて……」
「『眼』に、泥が……?」
セルケト
「つい、初撃は避けてしまったが──」
「君との本当の力量差を知らないままというのも、お互いに良くないのではと思ってね」
「おめでとう。君の勝ちだ」
安らかに笑むセルケトの顔面には、夥しい量の泥が跳ねた跡があり、両目は閉じられていた。
ザガンの油膜でツヤのかかった顔に、冷や汗が一筋伝った。
ザガン
「お……おい、答えろ! 『眼』に泥が入ったんだな!?」
「オレが蹴った時に服から泥が跳ねて、お前、それを避けないで……!」
セルケト
「ああ。確かにこれは、想像以上に沁みるね。とても目を開けていられそうにない」
「『眼』が使えなければ、力を『視る』事もできない。君の工夫が、ついに私に勝利した」
ザガン
「……!」
目が痛むと語る割には相変わらず穏やかな笑顔のセルケト。
何やら一気に血の気の失せた顔になるザガン。
ザガン
「ふ……ふっざけるなこのぉ!!」
ザガンがセルケトの襟元を掴み、そのまま衣服の前をこじ開けた。
ボタンが跳ね跳び、セルケトの胸板を顕にさせて尚も引き裂かんばかりに生地を握りしめ、シャツの裏地を殴るようにセルケトの顔に押し付けた。
セルケト
「ム……? 顔を拭ってくれるのは、さっきのお返──」
ザガン
「拭いてる時に喋るな! 鬱陶しい!」
「お前にどう『視え』たか知らんけどなあ! 今のはただの『事故』だ!」
「こんなのは勝ちじゃない、ちっともオレの『功』になんざならない!」
セルケト
「だが、先程の君の動きは、泥が跳ねる事も織り込み済みの──」
ザガン
「だから! 黙れって!!」
「どうせ避けると思って気にも留めなかっただけだ!」
セルケト
「ふム……」
ザガン
「お前も、いつまで寝そべってるつもりだ、この……っ!」
セルケトの前髪を掴んで乱暴に引き起こすザガン。
両手でセルケトの顔をガッシリと掴んで、閉じられた瞼の隙間を探して覗き込もうとするザガン。
星空に照らされた二人の顔に、気温に冷やされた互いの吐息が靄になってかかっている。
ザガン
「ほら、『眼』を開けろ……ちゃんと『視え』るか?」
セルケト
「直ちに視力を損なうほど強力な毒では無いらしいが……」
「っ……!」
薄っすらと目を開けたセルケトが、眉を僅かに顰めて再び瞑目した。
その一瞬でザガンには、セルケトの白目に広がる薄黒い油膜が見て取れた。それだけでなく、目尻からも黒い涙が溢れていた。
ザガン
「お前、そんなモロに浴びて……!」
「どこまで『おかしい』んだよお前は! 目の周りも真っ赤になってるぞ!」
セルケト
「それは、今しがた君に拭われたからだよ」
ザガン
「え、あぁ……そ、そんな脆いのかお前……」
セルケト
「ヴィータが弱いんだよ。特に眼球やその周辺はデリケートでね」
「ヴィータ体と言えど、メギドの力で押さえつけられては、容易く傷になってしまう」
ザガン
「な、なら弱いヴィータが悪いだけだな。オレがヴィータ体の力加減に慣れてないのは関係──」
「って……そうじゃなくて……!」
苛立ちと溜息を含みながら、ガクリと顔を落としてプルプルするザガン。
一呼吸ほどタメを挟んでから、風を切りそうなほど勢いよく顔を上げて怒鳴るザガン。
泥の油分で照り焼きの如くテカる2人の顔は、ザガンの唾が十中八九かかるだろうほど近い。
ザガン
「ただの『お決まり』の挑発を真に受けてんじゃない!!」
「しかも何で簡単に『諦める』んだ! お前、今日だって携帯フォトン持ってきてるんだろ!」
「そうでなくとも敵も同じヴィータ体なんだぞ! 少しはメギド『らしく』抵抗しろよ!」
セルケト
「どんなつもりの言葉だったとしても、私自身が『その通りだ』と思ったからそうしたまでだ」
「それに、『眼』を塞がれた瞬間、私は己の『恐怖』を自覚した」
「正直、君の体当たりを受けた理由の大半は、『恐怖』に竦んで、避ける余裕も無かったからだ」
「私は心までも君に『屈服』した。抵抗は無意味だよ」
ザガン
「オレのせいにするな! お前が『屈服』したのは、お前自身の勝手な『恐怖』にだろうが!」
セルケト
「……!」
ザガン
「オレはなあ! お前が何を考えてようが、全力のお前を踏み越えなきゃ気が済まないんだ!」
「オレに勝ちを譲るなんて偉そうな口利きたけりゃ、お前からオレに立ち向かってからにしろ!」
「『眼』が潰れても、手足をもがれても、泥臭くオレを殺しにかかって、それからだ!!」
セルケト
「……」
ザガン
「……おい、聞いてるのか……?」
「そもそもなあ、こんな中途半端で『降参』なんて、一周回り込んでバカにしてるも同然だぞ?」
「そんな選択、オレには今の今までこの世に実在するとすら思って──」
セルケト
「……」
ザガン
「ん……? 何だよ、オレの手なんか撫でて。邪魔なら口で言えって」
セルケト
「いや……そうじゃない」
「手は、ここ……手首、前腕……」
目を閉じたままのセルケトが、手探りで伝うようにザガンの腕の根本へ指を這わせていく。
泥で覆われた互いの肌に摩擦は殆ど無く、スルスルとセルケトの指が肩へ到達する。
セルケト
「肩がここ……鎖骨、首……」
ザガン
「何やってんだ……? 『眼』が利かないなら、『技』ってわけでも無いんだろ?」
「あっ、それとも戦う気になったか!? ヴィータは首を絞り上げると簡単に死ぬんだってな?」
嬉しそうにやる気を表情に出すザガン。
セルケト
「それも違う」
「……そうか。これが、君の顔……」
即答されて「なーんだ」と言った顔になるザガン。
セルケトが、自分がされているのとは比べ物にならないほど優しくザガンの顔を両手で取り、頬を絹のように撫でる。
少し前に拭ったばかりの顔に、再び泥が塗りたくられていく。
セルケト
「……今頃、私の手が、君の顔を泥で汚してしまっているのだろうね」
ザガン
「?? だから……何だよ?」
セルケト
「ふふっ、何でもない。いや……私にも、よく分からない」
ザガン
「はぁぁ???」
「お前……泥の毒が『眼』から頭まで回ったんじゃないのか?」
セルケト
「大丈夫。純然たる私の意思だ。それは間違いない」
ザガン
「それはそれで、ますますヤバいだろお前……」
「それに、そんなベタベタやってるより……も、もう一度、開けてみろって、『眼』!」
「痛みはしても……み、『視え』るんだろ? ちゃんと……!」
何やらヘドモドしだすザガン。
セルケト
「泥はだいぶ流れたはずだが、痛みが引く様子が無い。まだ暫くかかりそうだ」
「だが、さっき開いた一瞬、『視え』た視界に大差は無かったよ」
ザガン
「そ、そうか! ハァ……良かった」
「…………」
「…………『良かった』……?」
セルケト
「?」
いつの間にか綻んでいた口元の残滓を引きずりながら、呆然とするザガン。目を見開くというより、閉じる力を失ったような表情になっている。
不意にセルケトの顔から手を離し、セルケトの上から退いて立ち上がるザガン。
手放した勢いが無駄に強すぎて突き飛ばし同然になり、セルケトの上半身がバシャーンと盛大に飛沫を叩き散らした事にも気付いていない。
セルケト
「……ザガン?」
自分の扱いの雑さをまるで気にする事も無く、セルケトが再び上体を起こし、手探りでザガンを探す。
ベチャベチャと粘性の泥をかき回すこと数回、ザガンが纏うドレスのスカートにセルケトの手が触れた。
スカートの裾を軽く引いて呼びかけるセルケト。
セルケト
「どうかしたかい?」
ザガン
「……オレは……オレは……?」
セルケトからは、ザガンが何やらブツブツ漏らす声しか感じ取れない。
ザガンが背を向けて両手で頭を抱えている有様も、泥で塞がれた「眼」には映らない。
そのまま暫く何事か呟いていたザガンが、不意に震え気味の深呼吸を一回挟んだ。
ザガン
「……手、どけろ。座るから邪魔だ」
セルケト
「分かった」
セルケトが手を離すのと同時か、それより少し早く、ザガンが重力に任せて腰を落とし、同時に膝を畳む。
身軽な子供が原っぱやボールプールでやるように盛大に尻で着地して、畳んでおいた足もバシャリと放り出して座った。
そのまま暫し、俯いて黙るザガン。着水音の余韻が完全に消え去った頃、口を開いた。
ザガン
「……オレは今、何て言った?」
セルケト
「手をどけろと」
ザガン
「その前だ。お前の『眼』が『視え』てるって聞いた時……」
セルケト
「『良かった』……と」
ザガン
「……怒らないのか?」
セルケト
「……? 君に怒りを覚えた事など一度も無いよ」
ザガン
「嘘つけ……まあ、そんなの今、どうでもいい」
「さっき、オレの口から言ったばかりじゃないか……『敵に情けなんかかけるな』って」
セルケト
「言ったね」
ザガン
「『言ったね』じゃないだろ! 『おかしい』どころか矛盾してる!」
「オレと戦ったお前に、『残った』ものがあって、『良かった』だぁ!?」
牙を剥くように振り向いて、自問まじりで怒鳴るザガン。
セルケト
「事故だったのなら、自然な事だろう」
「望まない方法で負わせた傷で、私の力を恒久的に殺す事を、君の誇りが──」
ザガン
「オレはっ!! オレは……ザガンは! 敵の得になる事なんか喜びやしない!!」
「知略も暴威も、敵の全力を正面から蹂躙して全てを奪う! いつだってそうしてきた!」
「生き延びたメギドが居れば、従属を望もうが何を貢ごうが、オレは残らず踏み殺した!」
「倒すと決めたのに倒していない事が、何より許せない……それがザガンなんだ!」
「奪うはずの領地も戦利品も踏み壊してパアにしたって、オレは後悔なんてした事無かった!」
セルケト
「……」
ザガン
「こんなの……こんなのは、オレ『らしく』ないんだ!」
振り向けていた顔を戻して、片手で八つ当たり気味に自身の前髪を握りしめるザガン。
セルケト
「ザガン?」
ザガン
「オレは……オレは、『どうなってる』んだ……ちっとも、『思わない』んだ」
「オレが、オレじゃ有り得ない事して、それに気付いてもまだ……」
「お前に『良かった』って感じた事を……オレは全然不愉快に思ってない……思えない……」
セルケト
「ザガン……」
ザガン
「周りが『おかしい』なら『当たり前』だ。けど、オレがオレにとって『おかしい』って……」
「何だよこれ……何なんだ……」
セルケト
「……」
「君は……ザガンでは無いという事かな?」
ザガン
「オレはザガンだ! 絶対にザガンだ!」
セルケト
「だが君は、君の感情を、君の行いを、『ザガンではない』と言う。なら……君は誰なんだ?」
ザガン
「……ハンッ、お前、意外とそういう皮肉も言えるんだな」
自嘲気味に鼻で笑うザガン。
セルケト
「皮肉……? 言葉通りの意味で言ったつもりだよ」
「君は、ザガンの行いを『自分ではない』と否定している」
「ならば君は別の『何者か』だ。さもなければ、『何者か』になろうとしている」
ザガン
「オレは他の何者でもない。なりたくもない」
「なのに……なのに、体も心も、勝手に……!」
語らう間、セルケトが再び手探りでザガンを探す。今度は割と早くにザガンの手に触れた。
手を伝ってザガンの肩と背中に触れると、セルケトが立ち上がった。
セルケト
「……これで、同じ方向を向けているかな?」
軽く方向転換して、ザガンの隣に再び腰を下ろすセルケト。同時に、泥に置かれたザガンの手に、自らの手を重ねた。体重は一切かけず、あくまで添えるように。
ザガン
「……ああ。だからどうした」
セルケト
「私にも分からない。ただ、こうした方が良いと思った」
ザガン
「何だそれ……」
ザガンは、いい加減セルケトの奇行に文句を言うのも億劫だと言った様子だった。
セルケト
「ザガン。君の言う『ザガン』とは、何者なんだい?」
ザガン
「……どういう意味だ?」
セルケト
「先日、君は言った。君『が』ザガンだと」
ザガン
「……ああ、あれか。あの……クソっ、思い出す度に無性にイライラする」
「その次の日にお前の領地ど真ん中に突撃して、いつも通りに追い返された、あの日だろ」
セルケト
「そうだ。あの時の君の言葉に偽りが無ければ──」
「君が思い、君が行う全てこそが『ザガン』なはずだ」
「ここに居る君とは異なる、『良かった』と思うはずが無い『ザガン』とは、誰なんだ?」
ザガン
「『逆』だって言ってんだ! そっちの『ザガン』がオレなんだ!」
「『良かった』なんて言ったオレだけが『おかしい』! だからそこだけがオレじゃない!」
「こんなのは、オレの魂に小さく浮いた錆みたいなものなんだ!」
セルケト
「その錆は、抗えないほど君の心と行動を覆っている。錆の無い『残り』はどこにある?」
ザガン
「そ…………」
「~~~~っ!!」
セルケトの掌に覆われた自分の手を引き抜き、セルケトの背中を殴るザガン。
セルケト
「ごふっ!?」
殴られた衝撃で前方へ吹っ飛びかけるセルケトを、ザガンが襟を掴んで引き止める。
ザガン
「弄ぶなって言ってんだろ!」
「オレの考えに口出ししたいなら、言いたい事から先に言え!」
セルケト
「ごほっ……えふっ……」
「……『視え』ない今、結論から告げても、君に届くか自信が無いんだ」
ザガン
「やってる事が結局いつもと全然変わってない!」
セルケト
「確かに、そうかもしれない。君が望むなら言おう」
「……君が『ザガン』だと呼ぶソレは、形の無い『誰かの理想のザガン』でしかない」
ザガン
「理想……は、違うとは言えない。だが、『誰かの』ってどういう事だ?」
「そもそも、理想だったとして何が悪い? 今のオレも理想のオレも『ザガン』に変わりはない」
セルケト
「君『が』ザガンだ。唯一無二の『個』だ。今ここに居る君以外は、全て『ザガン』ではない」
「例えそれが、理想の姿だとしてもだ。君の言葉を借りるなら──」
「『全』に植え付けられた知識から、君が勝手に見出した影、虚像……偽物の『ザガン』だ」
ザガン
「そんなわけあるか。誰にだって理想くらいある」
「己の『個』を、『個』が望むままに示せる世界、そして自分……お前にだってあるだろ」
セルケト
「そっくり返そう。そんなわけがあるものか」
「今この時を生きる君自身でない、理想という幻影に、君の『個』を委ねるのは何故だ?」
ザガン
「委ねる……? オ、オレが……理想に『振り回されてる』って言いたいのか!?」
セルケト
「答えてくれ、ザガン」
「君は何故、今の君に無い……君の外にある何かを己の『個』と呼ぶ?」
「『ザガン』が片時でも敵が益する事を望まないと、誰が決めた?」
「『ザガン』とは『そういうものだ』と、誰が君に教え、君は何故、そうだと信じた?」
ザガン
「……」
「っ……!」
しばらく、セルケトの言葉に不服を顕にしていたザガンだったが、段々と表情に困惑が優っていき、とうとう頭を覆った。
セルケト
「君に心当たりがある……だが、口にしたくない。そんな所かな」
ザガン
「うるさい……」
セルケト
「私にも心当たりがある」
「君が何かを選ぶ時、君が心に立ち会わせる、深い存在。時に君を変えさせるだけの──」
ザガン
「うるさい!」
セルケト
「分かった」
ザガン
「……え……ほ、本当に黙るなよっ! 散々ベラベラ捲し立てといて!」
セルケト
「?」
ザガン
「こっの……! ああそうだよ! 副長だ! 心当たり!」
セルケト
「だが恐らく、『副長』が君の方針を変えさせた前例は、そのドレス程度……かな?」
ザガン
「……そうだ。副長が何か言ったわけじゃない……オレが勝手に理想を作った」
「副長が気に入りそうなオレを勝手に考えて、居もしないオレの後ろについて回ってた……」
「良かったなぁ! 全部お前の言った通りだ!」
セルケト
「ああ。本当に良かった」
ザガン
「んだとっ──! ……ハァ~…………」
意気消沈したザガンが、倒れ込むようにザブリと横になった。
セルケト
「ザガン?」
不意な音に反応して、セルケトがもう何度目か、泥をかき混ぜながらザガンを探す。
ザガンは横目でセルケトを見やると、小さくため息をついて、セルケトの手を取った。
ザガン
「やってらんな過ぎて、座ってるのもダルくなっただけだ」
「……で、何が『良かった』ってんだ?」
セルケト
「『視え』なくとも、君の声は明らかに苦悩していた」
「己を罰するための理想なら、それは『隷属』しているのと変わらない」
ザガン
「オレが『隷属』から解き放たれて、『わー良かったねー』か」
セルケト
「少し違う。選ぶのは君なのだから」
「理想の所在を知って、それでも君が理想の『ザガン』を目指したいなら、そうするべきだ」
「悩みぬいてでも、誰かのための『ザガン』でありたいなら、それが君の『個』だ」
ザガン
「……まーた長ったらしく弄びやがった」
「一言で良かっただろ。『生きたいように生きるのが一番だ』って」
セルケト
「言葉だけでは、簡単に伝わらないものもある……君に出会ってから、そう思うようになった」
ザガン
「何でこのオレに会って『回り道』したくなるってんだよ、ったく……」
セルケト
「それがどうしても、言葉にならないんだ」
そう答えるセルケトは、何の根拠があってか、誇らしげに微笑んでいた。
ぼやくザガンの眉は顰められ、歯は噛み合わされ、しかし口は不敵に笑んでいた。
粘性の泥に沈みながら、暫し沈黙が流れる。
ザガン
「……空に星があるなんて意識したの、何十年ぶりだろうな……」
セルケト
「そう言えば、私の『右腕』に曰く、『拒絶区画』では星の解析が試みられているらしい」
ザガン
「そんな無駄な事して、よく中央に文句言われないな」
セルケト
「星が、空の遥か彼方で燃える物体だと、古代の記録から判明したそうだ」
「ならば星からフォトンを回収する方法も模索できるのでは、と考えたらしい」
ザガン
「で、どうなったんだ?」
セルケト
「音沙汰なし。理術研究院に回収されたか、あるいは立ち消えたか……」
ザガン
「じゃあダメだろうな」
「そもそも火の点いた土地はフォトンまで燃え尽きる。回収以前の問題だ」
「火傷した土地の方も循環する力が失われる。向こう数十年は棄戦圏も同然らしいぞ」
「どっかの領地が急に一面焼き払われる事件が続発してるって聞いて、最近知った事だけどな」
セルケト
「らしいね。私もそう聞いている」
「だが、空に見える星の多くは、少なくとも数百年前から光り続けている」
「数百年分を賄っている燃料の正体がフォトンなら──」
ザガン
「この臭くてベタベタの泥のド真ん中で言われたって説得力ゼロだな」
セルケトと繋いだ手を、ビチャビチャと泥から離して落としてを繰り返すザガン。
ザガン
「燃えるんだろ、この泥。しかもえらいこと長く。オレでもそのくらい知ってるぞ」
セルケト
「ふっ……確かに、返す言葉もないな」
「燃料の正体が泥だったなら……メギドラルからは、土ほどの価値も見出されない」
ザガン
「こんなの『道具』にするより、火なんざ『技』で起こせば良いしな」
「んで、お前はそんな役立たずの泥が湧く、しかも棄戦圏をわざわざ略奪したヘンタイだ」
セルケト
「『ヘンタイ』?」
ザガン
「意味は分からんが、副長がお前をそう呼んでた。お前みたいなのを言うらしいぞ」
「このドレスがお前の使者から届いて真っ先に、『あのフラチなド『ヘンタイ』め』ってよ」
セルケト
「語彙に堪能なんだね。ますます会ってみたくなった」
ザガン
「会わせないからな。それに絶対、褒め言葉じゃないと思うぞ」
セルケト
「どんな意味だろうと、私は嬉しいよ」
ザガン
「お前、やっぱ何か気持ち悪いな……」
セルケト
「ありがとう。もちろん、君の言葉も嬉しい」
ザガン
「うぅ~……ヴィータ体だと何か背中にゾワッと来る……!」
セルケト
「ここは冷えるからね。携帯フォトン、使うかい?」
ザガン
「要・ら・ん。それに、これも絶対に気温のせいじゃない」
「しかし……あんなに怒ってた副長が結局、お前の言う通りになったってのが分からない」
「本当にお前との外交を考え始めるし、文句言ってたくせにドレス着せてくるし……」
セルケト
「日々回収されるヴァイガルドの品を時折、『右腕』に頼んで集めてもらっていてね」
「そのドレスも、その中の1つだ。ヴァイガルドでも上等な品らしい」
「しかし私の軍団に、寸法の合う者が居なくてね。『副長』が気に入ってくれて良かった」
ザガン
「副長までヴィータの『値付け』に感化されたのか……」
セルケト
「ドレスは『飾り』だよ。君の美しさに感化されたんだ」
ザガン
「チッ……ヴィータ体の『個』の話は、今は呑み込んでやる……」
セルケト
「『副長』が外交を視野に入れてくれた理由は恐らく、先日話した通りだよ」
「彼女は軍団を運営する立場として、私への好悪と利害とを切り離して考えてくれたのだろう」
ザガン
「そんな話はもう忘れた。『まつりごと』は嫌いなんだ」
「……そもそもお前、何がしたいんだ?」
「棄戦圏ばかり集めるわ、決闘でメギド殺しも普通にするのに、オレだけは殺さないわ……」
「そうだ……うん、そうだ。副長以前に、ウチを『まつりごと』の狙いにした理由は何だ?」
セルケト
「そうだね……まず棄戦圏は、単なる私の作戦……いや、趣味だ」
「『眼』だけが取り柄の弱い私は、か弱い土地に自分を重ねているのかもしれない」
ザガン
「そんな事を考えるのはお前だけだ。普通は諦めて捨てたくなる」
「メギドに見向きされなくなった途端、野良の幻獣が害虫みたいに『たかる』しな」
セルケト
「だがミラビリスのように、棄戦圏となった原因が『視え』ている土地もある」
「それらは原因の排除さえ目処が立てば、フォトンの再循環も期待できる」
「幻獣の隠れ家になるなら、幻獣を回収すれば、土地に頼らず軍団のフォトンや食料を賄える」
「できれば幻獣も『生かして』活用したいが、こればかりは生態系と割り切るしかない」
ザガン
「みすぼらしい『やりくり』だな。考えるだけで惨めな気分だ」
セルケト
「私の軍団は本来、『まつろわぬ者』の集まりだからね。これでも存外に回せているよ」
「この泥も、有効活用している。言わば棄戦圏の資源は、中央による庇護の代替だ」
「君を殺さない理由の1つも、似たようなものだよ」
ザガン
「オレの軍団が幻獣か棄戦圏だとでも?」
セルケト
「いや。一言で言えば、『橋頭堡』として」
ザガン
「チッ……結局『まつりごと』か」
セルケト
「議席持ちの軍団長自ら、中央勢力外への幾度もの決闘……」
「本来なら採算の取れない戦争だ。中央からも良い顔はされていないんじゃないか?」
ザガン
「あーあー、オレの知ったこっちゃない。『個』の戦いを止めたきゃ殺しに来ればいいんだ」
セルケト
「だが君を支える『副長』は、そうは考えなかった。事実、私との外交を考え始めた」
ザガン
「……」
セルケト
「『副長』に負担をかけている事なら、気にする事は無いと思うよ」
ザガン
「お、お前、本当にまだ『眼』閉じてんのか!? 薄目あけてんじゃないだろうな!?」
セルケト
「ふふっ……私でなくても『視え』るよ」
「君の様子からして、『副長』は今まで一言も、君の戦いに物申していない」
「君にドレスを着るよう迫れる立場にありながら……だ」
「君を支え抜く覚悟が無ければ、簡単に出来る事じゃない」
ザガン
「(……本っ当に、副長と会った事ないのか、こいつ……? こんなサラッと言い切っといて)」
セルケト
「だが『副長』も、妥当な『落とし所』を求めているはずだ」
「恐らく彼女と私の展望は一致する。同盟の形で私の軍団を監視下に置く……あくまで表向きに」
「中央の自由ならぬメギドに鎖を繋いだ事にすれば、体裁はひとまず埋め合わせられる」
ザガン
「『トリック頼りのエセメギド』と組んで、ウチに何の得があるんだか、オレにはさっぱり」
セルケト
「ふっ、噂はこちらにも届いているよ。尚更、君にも『副長』にも好都合だろう」
「同盟を理由に君の軍団を中傷する者があれば、それを大義に戦争が出来る」
「時には同盟軍に加勢を要請して、ね」
ザガン
「お前を倒すならともかく、お前とツルんで戦争なんてオレはゴメンだけどな」
セルケト
「私は楽しみだよ」
「そして、私の軍団も君達を経て、道筋が拓ける」
「『拒絶区画』との交流。そして、ゲートの確保」
ザガン
「ウチを踏み台にしてまで欲しいのが、『拒絶区画』とゲートだぁ?」
セルケト
「興味があってね。だが、君を殺さないのは何より……君の『高み』が見たい」
ザガン
「たかみ……?」
「あ……ああ、ミラビリスで戦った時に言ってたやつか」
セルケト
「さっき言った通り、君の動きは確実に良くなっている……出会った頃から今まで、着実に」
ザガン
「『当然』だろ。お前に投げられるだけの毎日じゃないんだ。他の戦争だってこなしてる」
セルケト
「そうじゃない。純粋な強さだけでなく君は、私の『眼』に少しずつ……追いついている」
ザガン
「『眼』に、追いつく……?」
セルケト
「『力』なのか『技』なのか、私にもそこまでは『視え』ないが──」
「君の攻撃を『視』て、操るまでの……言わば『手間』が増し続けている」
「君自身では気付かないだろうほど僅かずつだが、一度も停滞すること無く……だ」
ザガン
「それは、つまり……」
セルケト
「明日かも知れないし、100年を優に超えるかもしれない。だが──」
「いつか、私は君の猛進に手出しできず、直撃に覚悟せざるを得なくなる」
「君が『高み』に至る日……必ず来ると、私は信じている」
ザガン
「……」
呆気にとられた顔になるザガン。繋いだ手を見て、セルケトの顔を見上げなおす。
ゆっくり体を起こすザガン。長く浸かっていたせいか、泥が糸やら膜やらのようになってザガンの背面に纏わりつき、一拍おいてドロリと地面に溶けていく。
ザガン
「お前さ……」
繋いでいた手を解いて、スッと、セルケトの顔に伸ばすザガン。
ゆっくりとセルケトの髪を……鷲掴みに引き寄せ、カツアゲかメンチ切るような構図で顔を突き合わせるザガン。その表情は猜疑と警戒に満ちていた。
セルケトは、そっと抱き寄せられたかのように余裕の表情のままだった。
ザガン
「副長と会った事……ないんだよなあ?」
セルケト
「そうだが?」
ザガン
「本っ…………当~~~にだな?」
セルケト
「ああ。何か、気にかかる事でも?」
ザガン
「……ハァ。勝ち誇る所なのか、嘆く所なのか……」
セルケトを開放して、再び泥に寝そべるザガン。
今度は肘枕を立てて、片足を大きく開いて三角形を作った、カウチポテトでテレビを眺めるような粗野な姿勢になっている。
ザガン
「……副長が昔、似たような事を言ってたんだよ」
セルケト
「へえ……なるほど。つまり私に『視え』た『高み』は、もしかすれば君の『個』が──」
ザガン
「副長は、オレに軍団長を明け渡した時に、その言葉を言ったんだ」
「その言葉を軽々しく真似されたと思うと、副長を『汚された』みたいで気分が悪い」
セルケト
「ん? 君は、元は軍団長では無かったのかい?」
ザガン
「『渡り』だった副長が、発生してすぐのオレを拾ったんだよ」
「オレさえいれば無敵だって言って、副長はすぐさま2体だけの軍団を立ち上げた」
「軍団が大きくなって、ノウハウが身に付いたら、副長は誇らしそうにオレに座を譲ったんだ」
セルケト
「道理で、彼女の理想に応えたくなるわけだ」
ザガン
「そんな話は全くしてない!」
セルケト
「そうかもしれない」
「では……『副長』は、かつて君に何と?」
ザガン
「……『ひとたび走れば、技も仕込みも意味をなさない』」
「『敵は逃げる事も許されず、丸裸の命で向き合うのみ』……」
セルケト
「……よく似ている」
ザガン
「会わせないからなっ! 絶対にっ! お前は今、オレの触れちゃならないモノに触れた!」
「もう完璧キレたからな! 副長が同盟組んだって、お前とは絶対、顔も見させない!」
ザガンは寝っ転がりながら、セルケトを指差したり、泥を何度も殴り散らしたりして怒りを表明している。
セルケト
「ん……? 『副長』ではなく、私の話をしていたのでは無かったのかい?」
ザガン
「お前が話を逸らしたんだろうが! また『お前と副長が似てる』って話に!」
セルケト
「ああ……失礼、似ていると言ったのは、君と私だよ」
ザガン
「あン?」
セルケト
「私も、『右腕』に拾われて今の立場がある。私の場合、最初から軍団長だったが」
ザガン
「お……おう。ま、まあ確かに、お前みたいなのが子育て旅団から出てくるとは思えないしな」
セルケト
「他に異なると言えば、私の場合、『右腕』の方が遥かに若い」
ザガン
「へぇ……ん? 拾ったメギドの方が、お前より若い……?」
セルケト
「『右腕』はバナルマが明けたその日に、少し『やんちゃ』を働いたらしい」
「メギド体を剥奪され、『拒絶区画』を追放された彼は、私と巡り合った」
「その日までの私は……『右腕』が発生するずっと以前から、ただ生き続けていた」
ザガン
「お……お前、まさか……『野良』だったのか!?」
「子育て旅団にも、別の軍団にも見つからないで、何も知らずにずっと……!?」
セルケト
「ああ。ヴィータ体という発想すら無く、ずっと」
「そういったメギドの殆どが処刑か私刑で死ぬと知ったのも、『右腕』に教わってからだ」
ザガン
「大抵はメギド体ってだけで土地のフォトン浪費するし、軍団や領地も潰すからな……」
「よく生きてたな、お前……学ばない『野良』は長生きしても2,3年とか言われてんだぞ?」
セルケト
「私のメギド体は、余りにも弱かったからね。出来る事はヴィータ体と大差ない」
「メギドの『常識』で考えるような『大活躍』は出来ず、捕捉に足る痕跡さえ残せなかった」
「弱い故に、必要とするフォトンも少なく済んだのだろう。土地への影響も気付かれない程に」
ザガン
「情けなさ過ぎる……」
セルケト
「それに私のメギド体の特徴は、自然界で言う『分解者』に似通っていた」
ザガン
「何だその……分解者って?」
セルケト
「幻獣……は、少し幅が広すぎるな」
「ヴァイガルドの生物で挙げるなら、ハエ、ミミズ、キノコなどの役目だ」
ザガン
「キノコ」
セルケト
「つまり屍肉を啜り、枯れた土地や淀んだ環境で生きる生物の特徴を備えていた」
ザガン
「メギドラルのルール知らなくても、陰でコソコソやってけるメギド体だったって事か……」
「何か……お前を見る目がだいぶ変わったぞ……」
セルケト
「それは光栄だよ」
ザガン
「いや、褒めてない。本当に、全くもって、良い意味じゃない……」
セルケト
「尚のこと嬉しいよ。等身大の私を、君が見つけてくれたんだ」
ザガン
「いやいやいやいや……」
「そういえば……お前のソレも、本当に何なんだ?」
セルケト
「?」
ザガン
「その何を言われても『嬉しい』だの『光栄』だの言ってくるソレだ」
「決闘中もそうだ。負けそうって時点で、悔しそうにもせずに降参して『おめでとう』だ」
「その話し方、何かの『回り道』か? なんのつもりがあるのか全然分からん」
セルケト
「言葉通りの意味だよ。称賛を受けるなら『嬉しい』と思い──」
ザガン
「皮肉で『下等生物』って言われたら、それでも『嬉しい』……だったか?」
「どういう理屈なのか、何度考えても分からなくてムシャクシャする」
「オレでなくたって、誰でも悪口を言われれば『腹』が立つ。だから『悪口』って名前なんだろ」
セルケト
「ふむ……一理ある」
ザガン
「一理どころか摂理だ、このヘンタイが!」
セルケト
「悩ませてしまっていたなら……改めて説明しよう」
「想像してほしい。君が、一生分のメギド体を保証するフォトンを手にしたとする」
ザガン
「ん……まあ、そういう想像なら難しくないが?」
セルケト
「君は『一般的』なメギドにとって、『個』を示すに最高だろう状態にある」
「……それは、幸福かい?」
ザガン
「そりゃあまあ、そうだろうな」
セルケト
「では、君は同時に、たった1体で、無限に続く穴へと落ち続けている」
「……君は、幸福かい?」
ザガン
「き、急に難易度あがったな……」
「……取り敢えず、余り面白そうには思えないな」
セルケト
「君の『個』を約束するフォトンがあるのに?」
ザガン
「他に相手が居ないんじゃ、『個』の示しようがないだろうが」
セルケト
「私も同感だ。ならば私の言葉は、きっと君と分かち合える」
ザガン
「……?」
セルケト
「私が、君の勝利を認めた経緯から説明しよう」
「君に押し倒された時……確かに、君に遅れを取った事実を信じられない自分も居た」
「『眼』を失った恐怖で竦んでいながら、直撃を受ける自分をそれでも信じきれなかった」
ザガン
「それが『普通』だ。ついでに『何かの間違いだ』って抵抗するもんだと思うが?」
セルケト
「ああ。だが、そうはしなかった。単純に、そうしたくなかったからだ」
ザガン
「だから、そこが何でだって聞いてんだよ!」
セルケト
「遅れを取った事実より、あの時点で君が勝利していないという解釈こそ『おかしい』と感じた」
「あるいは驚きよりも遥かに、君の健闘を讃えたいという、喜びの方が優っていた」
ザガン
「お前……決闘の意味、分かってるか?」
軽く侮辱されたような不愉快さを表情に滲ませるザガン。
セルケト
「君の勝利が、私の死に繋がりかねない事なら理解している。それでもなお……だ」
「私は君への感動に包まれ……君に命を捧げる事に、一片も惜しいとは思わなかった」
ザガン
「……どうかしてる……」
下水管から這い出た物体を見るような顔をしたザガンは、諦めの溜息をついて、頭を掻いて苛立ちを散らした。頭も手も泥まみれでヌルヌルで、全く意味のない身振りだった。
ザガン
「そんなのはただの弱腰だ。諦めが早すぎるだけだ」
「例えそれがお前の『個』だったとしても、いつか絶対、そいつで自分の身を滅ぼすぞ?」
セルケト
「その時は、その者に心からの経緯と感謝を送りたい」
「私を倒すべき敵と認め、私を打ち破る術を用意してくれた、その者の『誠意』へ」
ザガン
「ッハァ~~~~~~…………ん?」
特大のうんざりを込めた長く大きい溜息の後、何かに気付くザガン。
ザガン
「お前を敵と認めて……お前を……んんん?」
「お前の正体は、『眼』が無けりゃ下級メギドよりも……下手すりゃ幻獣よりもザコで……」
セルケト
「そう。その私に、メギドとして全力を注いでくれる。私を見つけ、評価してくれる」
「私を称賛して『下等生物』と呼ぶなら、それは私が言葉の主と明確に異なる『個』という事だ」
「私を挑発するなら、私が『闘志』を投げかけるに値する『個』と認めているという事だ」
「ごく率直に私の『個』を否定する言葉だろうと、私が私の『個』を知っている」
「だから私は、その否定を『嬉しい』と思う」
「それは『宣戦布告』という、私が己の『個』を確かめられる、またとない栄誉なのだから」
ザガン
「……そんな受け取り方、考えた事もない……」
「っていうか、最後のは普通に『怒った』って事で良いんじゃないか?」
セルケト
「そうだろうか……私は嬉しいよ?」
ザガン
「あぁそうかよ……」
「とりあえず、弱っちいお前を『対等』の敵だと思ってくれて嬉しいなー……って事か?」
セルケト
「敵に限らなくとも、私を見て、私を口にしてくれる事は、私の『個』を証明する」
「私が『セルケトだから』向けてくれる全てが、私には『嬉しい』んだ」
ザガン
「言いたい事は少し分かったけど、お前のセンスは更に分からなくなってきた……」
セルケト
「ふむ……」
「ではザガン。先程の、穴に落ちる例え話を一度、思い返して欲しい」
ザガン
「あ? そのくらいはちゃんと覚えてるが……今度は何だ?」
セルケト
「思い出してくれたなら、少し話は変わるが──」
「ヴィータは『全』を尊ぶ一方で、『個』である事も求めるらしい」
ザガン
「ヴィータが、『個』ねぇ……って、ヴィータが『個』ぉ?」
「あの幻獣未満で『群れ根性』のフォトン袋がか?」
「オスだのメスだのくらいならヴィータ以外にも幾らでもあるし……」
「何の冗談だ。どのへんが『個』だって言うんだ?」
セルケト
「『普通』のメギドからは『視え』ないだろう……と、これは『右腕』の受け売りだ」
「何故なら……ヴィータは私達より『全』の側であり、だからこそ『個』を確立している」
ザガン
「おい言ってること矛盾してるぞ」
セルケト
「していない。さっきの想像を思い出して欲しい」
「『個』だけが存在する落とし穴は、落ちる『個』だけが世界の『全て』だ」
「究極の『個』である事は、『個』を証明できないに等しい」
ザガン
「……!?」
セルケト
「つまり私達は……」
ザガン
「……おい、まさか……!」
セルケトを睨みつけ、襲撃に備えるかのようにジワジワと体を起こし、中腰から、いつでも飛びかかれるような姿勢になるザガン。
セルケト
「そのまさかだ。断言しよう」
「『個』の証明は、『全』の内に無ければ決して果たせない」
「『個』を示す事を求める限り、私達は本質的に『全』を尊び、支配されている」
ザガンの目がカッと見開かれ……俯いて数秒後、ザブンと腰を落としてあぐらをかくザガン。
ザガン
「……ムカついて『頭』が吹き飛びそうだが……どうしてやれば良いか分からない……!」
セルケト
「それは『軽蔑』かい?」
ザガン
「オレにも分からんからムカつくんだ!」
「……もういい続けろ。殴りたくなってきたら殴る」
セルケト
「分かった」
「ヴィータの件の結論は、彼らが『全』を受け入れている事に尽きると、私は考えている」
「『個』を共に証明し合える他者を得るために、積極的に『全』を形成しているからだ」
ザガン
「群れの内でじゃれ合って、粗末な『個』を褒めて満たされた気になってるだけだ」
「で? すっかり『当たり前』になったヴィータは、必要も無い『個』を示したがるんだと?」
セルケト
「ああ。ヴィータは我々よりも『個』が脆弱な故に、『個』の条件に拘る事がない」
「背が高い、足が速い、頭脳に長ける、他者を手伝える……そこに『味方』が付くだけで良い」
「ヴィータは、メギドのように『個』に飢える事が無い。悩む事も無い。充分に『個』だからだ」
ザガン
「……は、はっはっははは……大真面目に認めやがって……」
「中央で抜かしてたら、とっくに処刑されてるぞ、お前……!」
「メギドが目指してる場所を、とっくにヴィータが通り過ぎてるとでも言いたいのか!?」
セルケト
「そうとも。だが……これはまだ仮説だ」
ザガン
「仮説?」
セルケト
「全ては、メギドラルに流れ着いた『断片』から類推したに過ぎない」
「『右腕』が所属していた頃の『拒絶区画』や、中立である夢見の者から得た所詮は情報」
「だが、私が知る限りの『ヴィータ』は、メギドが求める答えの大半を宿している」
「私は仮説を確かめるために、より深く、『偉大なる』ヴィータを知りたい」
ザガン
「……『拒絶区画』やゲートが欲しいって、そういう……」
「ヴィータなんざ……ただのフォトン袋じゃないのかよ?」
セルケト
「君の言葉を借りるなら、それは『全』側の『値付け』だ」
「私のヴィータは私が『視』定める」
ザガン
「……!」
「は……はは……」
「今の一言だけ、妙に納得しちまった……クソッ」
セルケト
「私の感性は、発生した時から大きな変化は無い」
「多少は自覚があるつもりだが、生憎と、結局は『これ』が私にとっての自然体だ」
ザガン
「それはもう何となく分かってる……」
セルケト
「それは良かった」
「『右腕』が私を理解してくれた。そして、私に代わって言葉にしてくれた」
「曰く……私達は『全』だ。私達は『全』に見出されて、初めて『個』で在れる」
ザガン
「……な、何の話だ?」
セルケト
「1つとして同じ星は無いとても、幾億と散れば『個』は星空の一部でしかない」
「混沌たる『個』の海の中、互いが互いを見出さねば、我らは『個』にはなれない」
ザガン
「おい、返事……」
セルケト
「私に『視え』る世界、私にとっての『全』と『個』……君の言う、私の『センス』だ」
ザガン
「……」
「いっぺん死んでみなきゃ分からんレベルで分からんって事は、分かった」
セルケト
「分かり合う必要は無いだろう? 唯一無二の『個』なのだから」
ザガン
「む……」
セルケト
「私の話はここまでだ……そろそろ君は、選べそうかい?」
ザガン
「選ぶ? 何を?」
セルケト
「『副長』に応えたい君を、君は見つけた。これから君の『個』は、どう生きる?」
ザガン
「あ……ああ。急に話が戻ったな」
セルケト
「そうだったかな? 星の件からずっと、同じ話題だと思っていたよ」
ザガン
「いや、オレが寝っ転がった所で、もう話は切り上げたも同然だったろ」
セルケト
「生憎と、『視』ていなかった」
ザガン
「お前なあ……」
「まあ良い。そうだな……結局、お前に呆れて考えるの『後回し』にしてたし……」
あぐらに頬杖ついたまま、視線を暫し泳がせるザガン。
ザガン
「……ダメだ、分からん」
「お前の『眼』が無事で『良かった』と思ったオレを、やっぱりオレはまだ認めたくない」
「だからって、『副長のために』で勝手に決めたオレなんてのも、何だか気に入らない」
「……いや、待てよ?」
頬杖がズルズルと顔を登り、頭を支える姿勢になるザガン。
ザガン
「そもそも、オレは……今までのオレは、本当に『ザガン』だったのか……?」
「今までのオレが、心のどこかで副長を『背負って』たんだとしたら、それは……」
「オレの『個』の生き方って……ああクソッ! 考えるほどわけが分からなくなる!」
セルケト
「今……たった今、君はどうしたい?」
ザガン
「好きにやりたい! 何も考えずに、当たり前に『ザガン』として生きたい!」
「……いっそ、今日の事なんて全部忘れた方が……だが、それじゃ意味が無い……!」
セルケト
「なら、選んだ通りで良いんじゃないか?」
ザガン
「は……? 選ぶアテが全く無いって言ってんだぞ?」
セルケト
「一言で済むと、言っていたじゃないか。『生きたいように生きるのが一番だ』」
「無いなら選ばなければ良い。考えたくないなら、考えなければ良い」
「『副長』と重ねた君でも、己の在り方に揺れる君でも、その時々を望むままに生きれば良い」
ザガン
「獣みたいに後先考えずに生きろとでも? そりゃオレは権謀術数だとか向いてないが……」
セルケト
「昨日『醜い』と感じたモノを、今日に『美しい』と感じる事もある。逆もまた然りだ」
「今から悩むしかない先行きなら、行き着くまで駆け抜ける方が、君には向いていると思う」
「君が、言葉で表せる『何か』でなくてはならないなどと、誰が決めたわけでも無いはずだ」
ザガン
「……『獣みたいに後先考えず』は否定しないのかよ?」
セルケト
「何か不服な所でも?」
ザガン
「『当たり前』だ──いや、何でも無い」
「(メチャクチャ不服だが……何が『おかしい』と思ってたか、よく分からなくなってきた)」
セルケト
「望む事を、望むままに成そうとする限り……どんな姿でも、それが『個』だと私は思う」
「私達が世界という『全」の一部である限り、『個』に終点など無いのだから」
ザガン
「……」
ザガンが黙ったまま、鬱陶しそうに頭を掻く動作をした。
そしてゆっくりと立ち上がり、両腕を真上に高く掲げて『伸び』をした。
ザガン
「んっ~~ん……ハァ」
幼児の如く無防備に座るセルケトに歩み寄り、上半身を屈めて足を肩幅大に開き、片手を腰にあて、もう片方の手をセルケトの顎に添えて軽く持ち上げた。
ザガン
「ヴィータみたいに、『全』の中でユルく生きてるだけで『個』だってか?」
「オレが……メギドが、『所詮は全だ』なんて考えを受け入れられると、本気で思ってるのか?」
セルケト
「もちろん」
「所詮は仮説だ。だからこそ、ヴィータに出来る事が、メギドに出来ないという証拠も無い」
「届くと『思えた』なら、空の星を追って泥沼を駆ける。それが『知性』だ」
ザガン
「『思えた』……なら……」
「フ、フンっ……本当に『知性』なら、羽の作り方でも考えると思うけどな」
セルケトの顎からフイと手を放して、中腰から直立に戻るザガン。
ザガン
「だが、それなら、まあ……やりたい事が1つ見つかった」
セルケト
「是非、聞きたい」
ザガン
「……『お前』だ」
セルケト
「?」
ザガン
「お前の言ってる事は、やっぱりよく分からないし、文句言ってやりたくて仕方ない」
「だが、お前と話してると、何が『良い』で何が『悪い』だったかさえ分からなくなる」
「だから、当分はお前を『追う』。もちろん隙があれば踏み越える」
セルケト
「これまで通りに?」
ザガン
「全然違う。少なくともオレの中では、今日までのオレなら絶対しなかった事だ」
「お前の口から出てきたんじゃあ、『生きたいように生きる』も胡散臭いままだ」
「お前の口車を勝手に『オレの言葉』にして、後から馬鹿を見る事だけはゴメンだからな」
セルケト
「つまり……一言で言えば、『セルケトを理解してみたい』?」
ザガン
「違うっ! うまく言葉が出てこないだけだ! それは絶対に違うっ! 絶対にだ!」
セルケト
「分かった。動機など何でも良いさ。君が君を認めてやれるならば」
泥に腰を下ろしたままのセルケトが、斜め上に手を差し出した。
その手を何気なくザガンが取ると、繋いだ手を頼りにセルケトが立ち上がった。
ザガンは半目で小さく溜息を吐き、握られた手を振り払った。
ザガン
「立つくらい自分で出来るだろうが……」
「『自分で』……そう言えば、お前さあ」
セルケト
「うん?」
ザガン
「『眼』の泥……携帯フォトンでメギド体になれば落とせるんじゃないか?」
「メギド体からヴィータ体を再構成すれば、泥が付く前の状態に戻るだろ」
セルケト
「……………………」
「なるほど」
長考の末、掌を拳の小指側で軽く叩き、よくある「よし、分かった」の前半動作を示すセルケト。
ザガン
「な、何だ、その無意味にしか見えない体の動きは……?」
セルケト
「意味は無いよ。うちは公的には『中央』の外だから、言行に大した制限が無い」
ザガン
「ああ……まあ今更、驚きもしないな……」
「……で、変身しないのか?」
セルケト
「ああ。実の所、もう『眼』を開けるだろう程度には痛みも引いている」
ザガン
「じゃあいま何やってんだよ、お前……」
アホを見る目を向けるザガン。
セルケト
「『視え』るものを失ったのに……今、とても心が安らいでいるんだ」
ザガン
「やすらぐ?」
セルケトが、だいぶ慣れてきた手探りで、向かい合ったザガンの背に腕を回し、向かって反対側の肩に手を置いた。
更にそのまま抱き寄せ、ザガンの頬にもう一方の手を添えて上を向かせ、ほぼ真上と真下を向いて見つめ合う形になる。ただしセルケトの双眸は未だ閉じ合わされている。
セルケト
「『眼』から隔てられた世界……余りに頼りなく、闇と静寂に染められた空間……」
「なのにこうして、君が何より近くに居てくれる事を実感できる」
「今、何より、生まれてきて良かったと思えている……この気分を、もう少し味わっていたい」
ザガン
「……」
数秒、セルケトの瞼を見つめるザガン。不意に何かを確かめるように目を細め、視線を横へ下へと泳がせ、もう一度セルケトと向かい合い……。
セルケトの横っ面に強烈なフックをお見舞いした。
大旗を振るように腰の入った、爽快なフォームだった。
セルケト
「ぶぐぉっ!?」
セルケトはハグを慣性に引っぺがされて吹っ飛び、錐揉み状に泥を二度三度跳ねて転がっていく。
いつの間に覚えたのかヴィータ体がそうさせるのか、脇を大きく開いて肩を怒らせ、指を盛大にバキボキ鳴らすザガン。首をやや傾げている。
ザガン
「よおしっ! 治ってんなら丁度良いな、もう一勝負だ」
セルケト
「ぐ、がふっ……ふふっ、これが君の『力』か。味わえて良かった」
ザガン
「バカ言え、不意打ちは嫌いだ。それなりに手加減はして──」
「おい、お前……膝に来てないか?」
問いかけるまでもなく、起き上がろうとするセルケトの両足は無様にガクガクと揺れている。表情と口調だけなら相変わらずの落ち着き様だが、モーションだけなら棺桶に片足突っ込んだおじいちゃんだった。
セルケト
「尚更、幸運だったよ。万一この先、私が驕り、君を侮るような日を迎えないためにも」
ザガン
「本当に弱すぎるんだな、お前……」
「ハァ……オラとっとと『眼』ぇ開けろっ! でないと全身2倍に膨れるまでブン殴る!」
セルケト
「ああ、もちろん……手加減でさえ、二度は受け止められそうにない」
ザガン
「でぇやあぁぁああーーーーーーっ!」
セルケトの容態に構わず、ザガンが腕を大きく振りかぶりながら駆け出した。
※ここからあとがき
前回に引き続き今更な話ですが、特に今回はメギドラル関連の考察とか、「せっかく思いついたなら」と書いてみたい事ばかり書きすぎて、我ながらゴチャゴチャしすぎた感が少々。
まあ、例によって今後の課題という事で。
「野良」のメギドはオリジナル解釈です。
ネタバレ情報を確認した限り、セルケトと似たような出自のメギドは、「まつろわぬ者」か野垂れ死にかが殆どのようで。
「野良」は現状のメギドラルに対して、ヴィータ体を構成するなどの最低限の学習・適応の機会なく生きているので、「野垂れ死に」組に入る感じです。
必ず居ると思うんですよね。回収される前にやらかして何も分からないまま処刑されたメギドや、たまたま誰にも拾われなくてもメギドラルに適応して結果的に負けもせず戦いもせず単独で活動し続けたメギドが。
通り魔的に戦場に乱入して「ワタシキレイ?」とか言いながら幻獣一匹生かして帰さないメギドが後にマグナ・レギオに拾われたりとか。
(この冗談書くためにネタバレでしか知らなかったキャラスト確認したら、今回の話で書きたかった事の半分近くを簡潔にまとめられてて崩れ落ちました。しかし、メギドラルにもノック≒配慮の文化があるとか三人称を『あの人』と呼んだり等、とても興味深いですね)
現実には土地が燃えると、焼き畑の例があるように灰などが肥料となって鎮火後の植物の育ちが良くなり、山火事を前提として繁殖する植物も居るくらいで、恐らくフォトンも循環してると捉えられるかと。
(などと書いた後から、モフイベでヴァイガルドに焼き畑の概念がある事を確認しました)
擦り合せとしては、ザガンさんやメギド達の理解に若干の齟齬があり、実際は燃焼した土地のフォトンは、自力で循環できない「不活性化したフォトン」とでも言うようなものに置き換わるという感じで。
後から植物などが根付いて地中の不活性フォトンを吸い上げれば再びフォトンが活性化しますが、環境が天外魔境なメギドラルでは、基本的に自力で移動する(根を下ろさない)幻獣ばかりが環境の覇権を握るし、フォトン不足で長期的な計画も立てられないので植樹や自然保護も行われず、フォトンのリサイクルがなされず、幻獣の死体などから地道にフォトンが充填されなおすのを待つ以外の対処法が発見されてないのが現状とか、そんな具合です。
ウァプラが追放されていなければ、焼き畑された土地の活用法も少しくらい見つかったかも知れません。
モフイベを読みました。嬉し悔しの答え合わせが今回も。
ウァサゴの母親は亡くなられていましたし、父親が重く後悔していますし、それをちゃんとウァサゴが確認しましたし、貴族に返り咲く意思を固めていますし、本作の時系列がますます怪しく……。まあ二次創作ですが。
あと、アジト近辺にちゃんと森があるようですね。
ついでにヴァイガルドで共存の可能性のある幻獣についても妄想していたので、モフらが先達となったと言うか、先を越されたと言うか。
そしてウァサゴリジェネが来ましたか。
サバトの結果はCインキュバスとスコルベノトが奥義Lv5になり、怪馬ヴァルが来ました。キャラストはお預けとなりました。
カウンターウァサゴを妄想していたりしましたが、フルフル同様に答え合わせと共にウソロモン化の足音が。
このダメージと、ヨッシャア的な公式供給カタルシスがたまりません。
ただ「辺境の花」とかがカウンターウァサゴの構想と重なる部分もあるので、もし書ける余地があったら書いてみたいと思います。
あくまで自分ルールに基づいて、本編中はリジェネの片鱗程度で済ます形で。
メギド質問箱に、去年から書き溜めた質問をまとめて送ってみました。1つくらいは採用されますようにと願うばかりです。
特に、「ウァサゴが髪を解くとどのくらいの長さになるのか図解付きで見たい」が採用されますように。
余談ですが、今回の話と、いずれ書いておきたい話に関して、根幹に纏わる質問を用意しているのですが、万が一の採用&答え合わせがちょっと怖いので今年は先送りに。
日々のつぶやき級のしょうもない話ですが、5月23日、テレビ中継に「ユーバーレーベン」というお馬さんが映っておりました。ググってみれば、なるほどやはりこのお名前……。
ついでにお父上が、お馬さん素人の私も聞き及んでいる例の有名なお馬さんとの事で。
1着以外は立場が厳しいと小耳に挟んだお馬さん業界で未だ大きな活躍も無く……これが多分、地下アイドル等を推したくなる気持ちなのでしょうか。
最近、お馬さんも流行ってますね。時間が最低もう9時間欲しい毎日なので触っていませんが。
↑と、書いたのが当日昼頃。そして同日に優勝の速報が。おー。
縁もゆかりも無い場ですが、おめでとうございます。