メギド72オリスト「茨を駆ける十二宮」   作:水郷アコホ

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EX「捏造キャラストーリー:ザガン編 第4話」

 約17年前のメギドラル。マグナ・レギオ懲罰局にて。

 処分待ちのメギドを収監する房の一室。

 カツカツと足音が響き、ある地点で止まった。

 足音の主である女メギドが、獄に繋がれた元・上司に冷ややかな目を送った。

 

 

女メギド

「気分はどうだ? 元・軍団長サマよ」

 

???

「……」

「まずは……」

 

 

 ヴァイガルドの地下牢のような石造り。獣同然の檻から向こうに床は無い。

 収監者は手首に枷を強いられ、そう高くない天井と鎖で繋がれ宙吊りにされている。

 文字通りに立場を失った全裸の女メギドが、弱々しく、困ったように微笑んだ。

 

 

ザガン

「まずは……メッッッッチャ肩が痛い」

「明日あたり外れてるよコレ。追放される事より、先にこっちでメゲそう……」

 

女メギド

「……」

 

 

 苛立ちを隠さず、女メギドが足元の石畳をガツンと踏み鳴らした。

 檻の格子のすぐ下で、ヒュッと風切る音が走った。

 

 

ザガン

「ぐぅっ……!」

 

 

 どういう仕掛けか、檻の内側直下に設けられた射出口から鉄杭が飛び出し、ザガンの足を貫いた。

 既にザガンの足は、女メギドが訪れる以前に放たれたのだろう数多の鉄杭で剣の森のようになっていた。

 

 

女メギド

「効くだろう? この独房、元は『物好きな拷問担当』の『執務室』なんだとよ」

「その檻も『拷問担当』の置き土産だそうだ。杭も特別『痛む』ように削られてる」

「……だから真面目に答えろ。突っ走る地べたも、足も失くして、どんな気分だ! えぇ!?」

 

 

 全身から冷や汗が珠になって浮くザガン。

 震わせながら呼吸を数回挟み、体の所在を確かめるかのように、ゆっくりと口を開く。

 

 

ザガン

「……お陰で、君にここまで来てもらう事になっちゃって──」

 

 

 石畳が、砕けんばかりに二度、三度と踏み込まれた。

 足踏みの数だけ、互いに場所を奪い合うように、ザガンの足に鉄杭が分け入っていく。

 

 

ザガン

「ッッ……が、ぁ……!」

「……っくは、ぁ……っは、ぐ……ハッ……!!」

 

 

 激痛で呼吸もままならないザガン。痛みの余り冷や汗は一挙に噴き出し、髪、顎、鼻先を伝って垂れ落ちていく。

 ヴィータ体が反射的に目を見開かせる。腹筋を固めて痛みを紛らそうとするが、吊るされっ放しの腕はとうに痺れて感覚が無く、伴って背筋を引き上げられず、故に腹を収縮させる事もままならない。

 足を引き上げようとすれば、筋肉の収縮で埋まった鉄杭が削れ合う。

 心を保つ全てを妨げられ、ただただ無防備な激痛に神経を焦がすしか無かった。

 

 

女メギド

「いい加減にしろよ、お前……」

「自分が今どんなザマなのか、分かってんのかよ!?」

 

ザガン

「ぁぅ、あ……ふぅぐ…………ふ、ふふ、ふ……」

「君に蜂起されて、私は、追い落とされた……君の華麗な大勝利……有ってる?」

 

 

 ヴィータ体の防衛機構が、意思と無関係に顔中から体液を垂れ流している。

 ザガンは顔のあちこちに髪をへばり付け、それでも、みっともないくらいに笑んでみせた。

 

 

女メギド

「『ザガン』が笑って言う事かぁっ!」

 

 

 石畳が踏み鳴らされた。

 射出の度に角度を変えて飛び立つ鉄杭は、今まで取っておいていたかのように、ザガンの膝を真正面から抉り、皿を砕き、関節を押し外して貫いた。

 

 

ザガン

「ぎぃ!? ぃっぎぃ……ひ……!」

 

女メギド

「セルケト如きに執着しだしてから、お前は『おかしく』なるばかりだった……!」

「陳腐なセルケトの真似まで始めて、お陰で部下どもの支持は右肩下がり!」

「議会なんぞにまで首突っ込んで、大恥かいて逃げ帰って……これ以上付き合えるか!!」

「お前に責任取らせないで、これ以上軍団なんて続けられるかよっ!」

 

ザガン

「うぷっ……ぐっ……はっ……はっ……」

 

 

 苦痛の余りにこみ上げた物を胃袋に押し戻し、呼吸を整えるザガン。

 

 

ザガン

「……凄かったよ。副長の攻め……『電撃作戦』って言うんだっけ」

「メギド体にさせる暇も与えず、しかもとんでもない火力で……格好良かったなあ」

 

元・副長(女メギド)

「お・ま・え・はぁ……!」

「いつまで『繕う』気だザガン! 追放刑だぞ!? この期に及んでふざけるな!!」

「悔め! 嘆け! 恐れろ! 憎め!!」

「お前を堕落させたセルケトを! まんまと誑かされた自分自身を……!」

「お前を裏切り、こんな所に放り込んだ、この、オレをぉ!!」

 

ザガン

「……」

「……私さ……私、『決められた』んだよ」

 

元・副長

「……?」

 

ザガン

「セルケトの言葉に動かされて、今こうしてるのは間違いないと思うよ。けど……」

「今も『こんな私』を続けたいと思ってるのは、私が『そうしたい』って、選んだからだよ」

「喋り方とか、考え方とかさ。探せばどんなメギドでも、どこかしら似てる所はあるもんだろ?」

「『っぽい』とは自分でも思うけど、今の所は、『コレが気に入ってる』って、それだけ」

 

元・副長

「自分の『おかしさ』に気付かないヤツは、いつだってそう言って──」

 

ザガン

「……副長の前では、私が『見せたい私』で居たいしね」

 

元・副長(女メギド)

「!?」

 

ザガン

「……これは結局、最後まで変えれなかったなあ。私の『個』は、君なしじゃ語れないのかもね」

 

元・副長

「そんな……そんな『なよっちい』ザマが、オレに『見せたい姿』だと!?」

 

ザガン

「……君こそ、さ。それが、私に『見せたい姿』なの?」

「部下たちのために『繕った』、2代目軍団長としての君が」

 

元・副長

「……!」

 

ザガン

「君の『技』、隠れた敵とか罠を探すのが得意だったよね」

「このタイミングなら2人きりで話せるって分かって……だから来てくれたんじゃない?」

 

元・副長

「……つ……『繕った』お前なんかに、会うためじゃ……ない……!」

 

ザガン

「……」

 

 

 暫し沈黙したザガンは、一瞬、笑みを悲しそうに歪めた後、俯いて、また数秒。

 そして顔を上げた。

 かつて、戦争を前にするたびに見せていたような、勇ましく不敵な笑みだった。

 

 

ザガン

「……」

「……」

「……悪いな、スヴァル。オレはもう……『ザガンの真似っこ』は飽きちまったんだ」

 

元・副長スヴァル

「……!!」

 

 

 そして、またすぐにザガンの笑顔は、柔らかく弱々しい物に戻った。

 スヴァルはザガンの言葉を聞いた途端、上ずった声をあげ、よろめいた。

 そのまま膝から崩れ落ちかけ、途中でハッとなって、落下する自身の体を手で支えようとした。

 掌を石畳に突いて、肘を曲げ、終いには全身で石畳に寝転んで、少しでも着地の衝撃を和らげようとした。

 スヴァルが、不安に似た何とも言えない顔でザガンを見上げた。

 直後にヒュッと、例の風切り音が聞こえ、スヴァルは目を瞑り、顔を背けた。

 

 

ザガン

「ぐあっ、ぅ……ぐ、ぅぅう……!」

 

 

 ザガンの悲鳴が獄を彩る。スヴァルは、ザガンと苦悶を分かち合っているかのような面持ちで、耳まで塞いだ。

 たっぷり間を置いてから、スヴァルはヨロヨロと身を起こした。石畳に刺激を与えないよう、慎重に。

 そして、舞台の上で悲劇を嘆く女優のように座り込んだ。如何にも「女々しい」姿勢で。

 

 

スヴァル

「……分かる……分かって、しまう……」

「上辺だけ真似たって……もう、あの頃の『ザガン』と、決定的に違う……」

「何故……何故、そんな姿に……こんな事に……!」

「なって……しまったのですか……軍団長ぉ……」

 

 

 ザガンが痛みで堰き止められた呼吸を整え直し、スヴァルを見つめ直した。

 

 

ザガン

「……」

「軍団の皆の立場を悪くした事、君に辛い仕事をさせた事……本当に悪いと思ってる」

「けど……それでも私は自分を、自分の『個』らしくしたかった」

「皆を巻き込んででも、そうある事を選べちゃう……それが『私』だったんだ」

 

スヴァル

「違うっっっ!!!」

 

 

 怒声とも悲鳴ともつかない声で遮るスヴァル。

 

 

スヴァル

「そんなもの、絶対に違う! あなたの『個』だなんて、絶対に……!」

「あなたは……『ザガン』というメギドは、そんな曖昧な笑い方はしない!」

「笑う時は腹の底から! 怒る時は前置きも無く本気で!」

「そんな……そんな『真っ直ぐ』なメギドだった!」

 

ザガン

「今も、私は『そう』してる」

 

スヴァル

「してないっ!」

「どうか……もう、やめてください。そんな、無理矢理な、儚い『ザガン』は……!」

 

ザガン

「『ハカナイ』、か……転生したら、調べてみようかな。なんて──」

 

スヴァル

「そうやって!!」

 

 

 再び遮るスヴァル。

 

 

スヴァル

「そうやって、また誤魔化して……私にまでっ!」

「今の『ザガン』が、どれほど成れ果てても……あなたは『回り道』なんてしない!」

「あるはずでしょう。本音が……弱音が! 私を……私を憎いと言いなさいっ!」

「2人だけなんです……最後なんですよ!? 私にくらい……打ち明けてくださいよ!」

「私が見初めた頃の、『本物』のあなたを! 汚さも、不条理も、全てっ……!!」

 

 

 ザガンを睨み付けるスヴァルの目は、威圧するようにも、縋りつくようにも見えた。

 

 

ザガン

「……」

「私に思いつく『一直線』、これしか無かったんだけどな……」

「でも……うん、最後だもんね。1つだけ……」

 

 

 求めに応じるようなザガンの言葉に対し、スヴァルの表情は些かも和らぐ様子は無かった。

 何故なら、ザガンは未だ以て、脂汗でドロドロの、激痛のストレスで土気色に塗りたくられたその顔を、泣き出すのをこらえるかのように頼りなく、どうにか綻ばせていた。

 

 

ザガン

「君には……君にだけは、笑って送り出して欲しかった」

「それが叶わないなら……いっそ、心の底から、見捨てて欲しかった」

 

スヴァル

「何を……?」

 

ザガン

「『付き合いきれないバカなヤツ』って。それでも、『無様に生きてみな』ってさ」

「でなきゃ、『こんなのを信じた自分がバカだった』って……」

「君に、私への未練とか罪悪感とか……そういうのを抱えさせるのだけ……やっぱり辛くって」

 

スヴァル

「そ……それ、だけ……? たった今、私に『お道化て』見せた言い訳、だけ……?」

「もっと、もっとこう……あるでしょう!? メギドとしての意地とか、無念とか……!」

「私が……私が求めた言葉は、『そんなの』じゃあ──!」

 

ザガン

「『そんなの』しか、無いんだよ。スヴァル」

 

スヴァル

「……!?」

 

ザガン

「上手く言えないけど……君は、私よりも軍団の皆の事を大事に思ってくれた」

「私なんて、部下も大事って思ってたクセに、結局やりたい事だけ突っ走っちゃって……」

「だから君には、嬉しいって気持ちと……謝りたい気持ちで、それだけで一杯なんだ」

 

スヴァル

「……ぁ……」

 

ザガン

「ありがとう、スヴァル。私の敵になってくれて」

「私ってさ、どんな壁が立ってても、進みたい方へ突き進んじゃうから、だから……」

「互いに本当に大切に思えていたから……君は私を討ち取って……止めてくれたんだと思う」

「そして……私は追放刑に『なれた』」

 

スヴァル

「ぁぁ……ぁ……」

 

ザガン

「あ、ちょっと待って。別に、こうなる事を『狙ってた』とかじゃないからね。私、頭悪いし」

「『落ちぶれたかった』とか、『ヴィータになりたかった』とかじゃ無くて……」

「私が、私の望むままの事をして……その『向こう』が見たかった。そんな感じかな」

「スヴァルと私とで、2人で選んで行き着いたなら、これ以上の事は無いよ。本当に」

 

スヴァル

「(軍団長が……)」

 

 

 体を小刻みに震わせながら、スヴァルがゆっくり立ち上がった。

 

 

ザガン

「軍団は……『プレアデス』の事は、よろしくお願いね」

「私のやり方をいつも陰で支えてくれた君なら、『このまま』にも『新しく』もしていけるよ」

「私みたいに突き進む事も、『カーブ』を曲がる事も。だから、軍団もまたすぐに大──」

「……? スヴァル?」

 

 

 スヴァルが亡者のような足取りで檻に近づく。

 床を刺激しないよう、両足を引きずらせながら、ゆっくりと。

 

 

スヴァル

「(ザガンが……)」

「(……『壊れた』……)」

 

 

 こじ開けんばかりに檻を握りしめるスヴァル。

 俯いた表情は、奥歯が砕けんばかりに食いしばった口元だけが辛うじて伺える。

 

 

スヴァル

「……ヤツ、さえ……アいツさえ゛……!」

「セルケトさえ、居なければ……こんな……こんな……ッ!!」

 

ザガン

「……」

「ちょっと言いづらいけど……どっち道、時間の問題だったよ」

 

スヴァル

「(……違う……)」

 

ザガン

「セルケトと戦ってる内に『気づいた』のは、ただの切っ掛けだよ」

「『私が理想の私と違う』って……セルケトに会わなくても、いつかはきっと、破綻してた」

「私はどこかで、『副長のための私』を演じようとしてたんだよ」

「ソレを苦しいと思った事は無いけど……ソレは私の脚を縦に貫く『軸』なんだ」

「ただ走るだけなら私を支えてくれるけど、少しズレれば私を傷つけ、躓かせる」

 

スヴァル

「(違う……!)」

 

ザガン

「多分、切っ掛けがセルケトじゃなかったら、もっと悲しい事になってたと思う」

「『ひとまずの目標』へ進もうなんて思えなくて、ズレてく理想しか見えなくなって……」

「あ、でも、セルケトに会って『変わった』って事自体はその通りかも?」

「『ただ私だっただけ』の私から、ずっと『私だ』って思えるみたいな……」

「明日の私がもっと楽しみになるみたいな……『格好良い』ってやつかな?」

「ハハッ、その辺は確かに『変わった』かも。昔は『格好』なんて言葉──」

 

スヴァル

「チ ガ ウ ッ !」

 

 

 全身全霊のスヴァルの拳が檻を殴った。

 ヴィータ体の腕力如きでは、脱出を許さぬ設備が揺らぐはずもない。

 逆にスヴァルの拳が割れ、夥しい血が噴き出し、伝い落ちた。

 

 

スヴァル

「あなたは……狂わされたんだっ……セルケトに……絶対にっ!」

 

ザガン

「……うん。そうかもしれない。私は、『そういう事でも良い』と思ってる」

 

スヴァル

「認めるな!! 弄ぶな!! 私の……私の『ザガン』をぉ!!」

 

ザガン

「セルケトが許せないなら、遠慮なく攻めに行くと良いよ。あいつも君に会いたがってた」

 

スヴァル

「うるさいっ! うるさぁいっ!!」

 

 

 ザガンが口を動かすたび、駄々っ子のように、檻で自分の拳を叩き潰して妨げようとするスヴァル。

 ザガンはその行為に驚く様子も見せず、笑顔で言葉を続けた。

 軍団立ち上げから互いに隣に在り続けたザガンには、スヴァルが「こうさせて欲しい」のだと分かっていた。

「そうする」ためにザガンの言葉が建前に必要だから、ザガンはゆったりと、散歩するようなペースで、さして必要でもない言葉を紡ぐ。

 

 

ザガン

「セルケトとの外交でさ、君が文句言っても、あいつの領地に君だけは遣わさなかったろ?」

「私さ、絶対にセルケトとスヴァルは会わせないって、決めてたんだ。どんな無理やりでも」

「あいつが副長を気に入ってるって聞いた時、何か……ムッとなっちゃって」

「何でか、君をあいつに『とられてる』みたいな気がして……でもさ」

「君が自分からそうしたいなら文句はないよ。きっと、あいつも『喜んで』応戦してくれる」

「だから……」

「……」

「……ね、スヴァル。もう、やめよ?」

 

スヴァル

「……ぐ……ぅう、ぅぅ……!」

「ぬ゛ぅぅうぅぅぅうぅぅ……っ!」

 

 

 打ち付ける拳の音は、ザガンが語る間に、情けないほどか細くなっていた。

 武闘派で無いスヴァルには、ヴィータ体の脳が訴える生存本能を振り切って、身を砕き続ける意志は保てなかった。

 痛みに勢いを躊躇う拳が、無意識に痛みのより少ない部位で檻を形骸的に叩き、それでもとうとう耐え兼ねて随意を失い、グチャグチャの手がダラリと垂れた。

 無事なもう一方の手で、悪足掻きのように檻を掴んで、苦痛にへたろうとする足腰を留まらせるスヴァル。

 

 

ザガン

「……」

「……スヴァル。ザガンはオレなんだ。オレが『なる』ザガンだけが、ザガンなんだ」

「オレは、『ザガンになりに行く』。連れてってやれるのは、思い出だけだ……」

 

スヴァル

「……追放は……ヴァイガルドは……『行く』所じゃない……『果てる』所です……!」

 

ザガン

「そうかも知れない。けど、私は自分の意志で、『そこ』へ行けるんだ」

 

スヴァル

「……そんな……モノを……そんなモノをぉっ!」

 

 

 スヴァルが言葉を呑み込み、顔を背けて歩き去っていく。

 足音が遠ざかり、獄の扉が一往復響いて、静寂に包まれた。

 ザガンの目には、スヴァルが立ち去る瞬間、その頬から水滴が散っていくのが確かに見えていた。

 

 

ザガン

「……ハ~ァ……」

「……弱音は君だけ、ここ一番だけ……そうは決めてたけど──」

「私……自分で思うより、ヤな奴なのかもなあ」

 

 

 天を仰ぐザガン。

 見えるのは、手枷と鎖でザガンを支配する、真っ暗な石塊の集まりだけだった。

 

 

ザガン

「もう、これからの事が楽しみで、それしか頭になくなってる。……ごめんね、スヴァル」

「追放されたからって、必ず転生できるって決まってるわけでもないのに……」

「だって、できなきゃどうせ死んで消えるだけだろうし。今から考えたってしょうがないよ」

 

 

 自問自答するたび、ザガンの笑顔に僅かずつ生気が戻っていく。

 

 

ザガン

「本気で、こっちでソロモン王を作ろうとしてるって事は……何か『知ってる』んだ」

「メギドラルの『外』で、ソロモン王が生まれるかもっていう根拠……」

「メギドラルがソロモン王を道具にする気なら、ヴァイガルドのソロモン王とは必ず敵対する」

「絶対見つけ出さなくちゃね。『弱い』のにメギドが放っとけないっていう『ソロモン王』を」

「きっと狙われる。だから私が守ってみせる。そして……『今度は』私が見せつけるんだ」

「例えどんなに弱くても、愚かでも、『力』を1つ見つければ、必ず『勝算はある』って……!」

 

 

 一生と引き換えに見出した、「強さ」の形を思い描くザガン。

 

 

ザガン

「ヴィータの私って、どんなのかな……セルケトより弱かったりするのかな?」

「幻獣ともロクに戦えないって話は多分、間違いないんだろうから……」

「まずはセルケトみたいな『技』を探してみよう。同じ体だし、多分何とかなるでしょ」

「それで、セルケトの『技』を借りて、まずは幻獣を倒せるだけ倒そう」

「ソロモン王に『印』とか有るか分からないから、ヴィータは片っ端から守らないとね」

「あ、でもヴィータは獣みたいに繁殖して、幼体で発生するんだっけ。なら、その前に……」

「ふっふっふ……弱っちゃったなあ。ソロモン王よりも前に、やりたい事が多す──」

「あっ……ヤバい、この感じは……あ、あっ、あぁあイダダダダ……!」

 

 

 肩甲骨の裏に、決定的な鈍い痛みが広がるのを感じるザガン。

 呻く内に、淑女が人目憚るようにじっくりと、時間をかけて肩が脱臼した。

 

 

ザガン

「ぁが……うぅ……ホントに心にクるなコレ……お陰で、ちょっと頭冷えたかも」

「うん……一旦、全部白紙にしとこう。転生したら、後はその時の勢いで決めれば良いや」

「先の事を今から考えたって、それで世界が実現させてくれるわけでも無いし」

「それに、『私が勝手に決めた私』なんて目指したんじゃ、そんなの『私』じゃないよね」

「……追放されても、『メギド』を失っても、『ザガン』はまだまだ終わらない……」

「ううん、逆だよね……そうだろ?」

 

 

 心の中の誰かに、答えの決まりきった真偽を投げかけ、期待と決意を新たにする。

 

 

ザガン

「『力』さえ脱ぎ捨てた、私だけの『ザガン』のスタートだ……!」

 

 

 

<GO TO NEXT>

 

 




※ここからあとがき

 ザガンさん編はこれにて終了です。次話から本編に戻ります。
 大雑把にまとめると、ザガンさんはメギド時代、反抗期入り始めの男子みたいな魂してたという独自設定です。

 セルケトという”けったい”なサブカルに触れて、最初は「オレは自分を持ってるからこんなの何とも思わねえ」と突っ張ってましたが、軽く格の違い分からせようと思ってたら格好悪く負かされ、しかもフォローまで入れられる始末。
「嫌い」から入って、真面目にサブカルについて調べたり、図らずも助言を受けるなどしてる内にすっかりハマってた感じです。
 喧嘩無敗のつもりでいたゴツい兄ちゃんが、自分より体格で劣るボクサーやら柔道家やらにノされてライバル意識燃やすようなアレです。

 思春期に気に入ったジャンルや人物を盲信して、世界の真理みたいに誰彼構わずアピールして冷ややかな目を向けられるように、その勢いで議会にまで乗り込んでフルスイング三振見せつけた次第です。
 好きなアニメやマンガの話を、両親を始め、作品を全く知りもしない興味もない人にまで滔々と早口講釈するような塩梅で。

 昔から知る身内にとっては「ガテン系がすっかり板に付いた兄ちゃんが突然退職してバレエダンサーで食っていくと言い出した」みたいなもので、次々に愛想を尽かしてしまいました。
 副長は強火のザガンさんオタクとか、解釈違いの我が子を持ったオカンとかそんな立ち位置です。
 どんなザガンさんでも支えて、立派な軍団長にしてやるつもりでしたが、誰より強くギャップを感じていましたし、世間様の目まで痛々しく、とうとう限界が来た、と。

 ザガンさんは「自分で自分の人生を決める」という事に強い生き甲斐を感じつつ、ちょっと自分に酔っ払いながら、周囲を引っ掻き回した挙げ句に追放された形です。
 セルケトの影響で生き方がガラリと変わって、結果として積み上げてきたもの全部ダメにしたとザガンさんも自覚していて、反省すべき所もあると頭では分かっています。
 しかし引き換えに得た、身一つで真っ暗闇の荒野を走る快感と、その先への期待が遥かに優っていて、当分それどころではありません。誰のせいにして恨むとかなんて、発想すらありません。
 議席を持つ程度に長く生きて古い価値観持っていても、魂は若々しい全力少年だったという事で。



 一時期、主人公側のキャラが失敗とか苦悩とか修行とかするのはとても不評を受けると聞いた事がありまして、今でも風潮に変わりないとすれば、余り面白い話じゃなかったかも知れません。

 下地にしている作品群の関係で、「憧れ」が1つのテーマであるとだけ言い訳しておきます。



・ザガンさんの考察について
「スコルベノトのような新世代にギャップを感じている」
「ソロモン王と共に戦う運命を自覚している」
 といった描写が読み取れたので、その辺を織り込んだ結果、
「新世代以前から実績のあるメギド≒元・議席持ち」
「何らかの形でヴァイガルドでのソロモン王誕生と、ソロモン王がメギドラルに対立する可能性を感知していた」
 というイメージが出来上がりました。
 後は、「幻獣退治に夢中になってる」的な原作プロフ文の描写とか、キャラストーリーにて命を賭けた戦いの場でもセルケト絡みの話なんて出てこなかった事の辻褄合わせを、副長退席後に少々。
(二次創作なんですから後者は当然ですが、それはさておき)
 ザガンさんはいつでも今現在と真正面に向き合っているという事で。

 全く個人的な裏設定的なアレですが、転生後のザガンさんは幼少期は髪を伸ばしてたけど、闘牛に「コレだ」と思ってからは躊躇いなくバッサリ切って今の髪型にしてるとかだったら、何となく良いなと個人的に思ってます。

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