罪人イベント前に考えた内容のため、原作とはハルファスの出自が大きく異なります。
予めご了承下さい。
※ここまで前書き
いつかのメギドラル。名も知れぬメギドの領地。
辺り一面を、つい最近まで個々の姿形を持つ有機物だったろう煤が一様に黒く塗りつぶし、焦げ臭さと息苦しさだけが横たわっている。
その片隅にメギドが3体。
周囲にも何か、薄茶色の塊が点々と散らばっている。
1体はメギド体の姿で地に這いつくばっている。
もう1体はそのメギドを何度も踏みつけ、叫び、涙を撒き散らしている。
最後の1体はその様子を険しい顔で見届けている。
ドーコック
「くそッ! くそォッ! うぅ……ちくしょう! お前のせいでよォッ! グス……っ!」
「何だよ! 何だその目はよォッ! いっちょ前に被害者ヅラできる身分かテメェは!」
「『当たり前』だろうがッ! テメェみたいなのがブチのめされなきゃならねえ事くらい!」
叫びながら、延々と、実に延々と、執拗に、熱心に、繰り返し、最愛の人の不貞を知った人妻のように絶え間ない嘆きを足に乗せている。
見届けていたメギドが静かに口を開く。
ゼタイ
「もうそのくらいにしておけ、ドーコック」
「コイツ自身を証拠として中央に処分させる方が絶対、多少の得になるはずだ」
「軍議でもあらかじめそう取り決めて──」
ドーコック
「分かってるよ、そのくれえ! でも、ヒック……我慢できるか、こんな……!」
「見ろよ、この一面の焼け野原! 草木一本残らずコンガリじゃねえか!」
「ここだけじゃねえ! もう何ヶ月も毎日のように! 全部コイツがやったんだ!」
「どこもフォトン不足で喘いでんのに、物理的に土地ぃ殺しやがってどうしてくれんだよ!」
「なあッ! どうしてッ! くれんだってッ! 言ってんだよォォッ!」
渾身の踏みつけと同時に、どこかの骨をへし折る音がした。
ハルファス
「がっ……ぅ……」
ゼタイ
「そこまでだ、ドーコック。それ以上はソイツの命に関わるだけじゃない」
「私の『技』で治療するにも、間違いなく不要なフォトンを費やす事になる」
ゼタイが両者の間に入って暴行を止めた。
ドーコック
「……くそ、分かったよ……うぅ」
「ヒッ、エグ……この土地を獲る戦争で、俺は今の地位を手に入れたのに……」
「『必ず一緒に勝つぞ』って約束した仲間が、ここで死んだのに……」
「これじゃ……これじゃもう、棄戦圏にしかならねえじゃねえか……ちくしょ……うぅぅ」
相方が引き下がったのを確認してから、ゼタイがハルファスに振り返る。
ゼタイ
「貴様のやった事は、間違いなく許されざる行いだ。私だって正直、我慢の限界だ」
「だが、それでも私達は貴様とは違う。絶対にな。だから、無駄な事だが聞いてやる」
「『対話』だ……貴様は、何のために私達の領地を焼いた?」
ハルファス
「……かふっ……」
「わ……わた、し……み……きの、み……たべに、きた、だけ……」
ゼタイ
「きのみ……そこに転がっている、燃えて膨れ上がった茶色の汚らしい木の実か?」
「この土地では、この付近に数十本ほど生えてるだけの誤差のような木だぞ?」
「それが領土丸ごと消し炭にする理由になど、絶対にならない。バカバカしい嘘をつくな」
ハルファス
「で、も……きのみ……どこにあ、るか……わた……わか……らな……」
ゼタイ
「…………フゥ~~」
長いため息の後、ゼタイがハルファスに爪先を突き刺した。ハルファスのメギド体の大きな瞳に狙いを定めて。
ハルファス
「い……ぎぃ……」
ゼタイ
「……間違いない。このザマでもヴィータ体にならないから、そんな気はしていたが……」
「……『野良』だ」
ゼタイの隣で真っ赤な瞼を拭い鼻水だらけで泣き崩れていたドーコックが顔を上げた。
ドーコック
「の、『野良』ァ!? じゃ、じゃあ……」
ゼタイ
「ああ。今時、ヴィータ体の取り方くらい、まつろわぬ民でも例外なく知っている」
「だがコイツはメギドラルの情勢も、『攻め込む』時の不文律も、全く分かっていない」
「断言できる。こいつは発生から今日まで、拾われず、戦争もせず、ただ生きていただけだ」
ドーコック
「じゃあ……落とし前付けさせるための、このクズの軍団は……」
ゼタイ
「無い。100%」
ドーコック
「そん、な……そんな事が……あぁぁ……!」
ドーコックが力なく真っ黒の大地に膝をついた。
煤と、火力で水分の抜けきった土が、粉になって舞い上がった。
ドーコック
「何で……何でだよぉ……地道に、少しずつ……軍団長とここまで頑張ってきたのに……」
「何でこんな、イカれたクズ1体のせいで、こんな゛……グスッ……」
ゼタイ
「確かな事は……こんな所で泣き喚いた所で、時間さえも無駄に消えるという事だけだ」
ドーコック
「だっで……ヒッグ……こんな゛の゛……こ゛ん゛な゛の゛ぉ゛ぉ゛……!」
ゼタイ
「口より手と足を動かせ。コイツを運ぶぞ」
「中央にコレを叩きつけて、必ず陳情も入れてやろう」
「奴らの方針上、『野良』という存在は『見落とし』だ。つまり中央の完全な落ち度だ」
「拒絶区画を間に噛ませれば、『中央に文句つけたから殺す』なんて事にも絶対にならん」
ドーコック
「ズズッ……あっだりめえだ……」
「俺達メギドを『管理』しようなんてやつらなんだ……文句の1つも言わにゃやってらんねえ」
「こんな『社会のゴミ』を、1日たりとものさばらせるなって……」
「『誰も得しない存在』を、俺達の世界に住まわせんじゃねえってな……!」
ゼタイ
「世界全体の問題がある今、中央の多少の横暴は目を瞑るが、それとこれとは別だ」
「せめて私達が安心して戦争できるよう、『最低限』の仕事くらいはするべきなんだ……」
「こんな思い、絶対に誰にもさせちゃならない。例えどんなに憎い敵だろうとだ」
「こんな……こんな惨い事だけはな……」
遠い目で、漆黒の地平を見渡すゼタイ。
ゼタイ
「(……何か、遠くで風に揺れている? 茶……黄色……金髪?)」
「(それに、その下に漆黒……獣に乗ったヴィータ体?)」
「(いや、あり得んな……きっと、そこの木の実が向こうまで飛ばされたんだ。違いない)」
ドーコック
「ゼタイ、クズを運ぶ準備は出来た。グス……いつでもいけるぜ」
ゼタイ
「ああ、分かった。すぐに出よう」
「憎らしいだろうが、丁重にな。私の『技』でギリギリの状態で延命させねば──」
???
「よお、ちょっと良いか、オマエたち」
ゼタイ&ドーコック
「!?」
2人の視界の外から声がした。振り向くと、メギドが1体、立っていた。
黒一色に身を包んだ男性ヴィータ体で、派手な雰囲気のメギドだった。
少なくとも、前線働きのゼタイとドーコックには見覚えが無い。
ゼタイ
「(さっき遠くに見えたもの……見間違いでは無かった……?)」
「(いや、私が見た方とは別の方角から来たのだろう。私に間違いは無い。絶対に!)」
黒衣のメギド
「なに怖い顔で黙りこくってるんだ。そっちの得になる話かもしれないんだぜ?」
ドーコック
「な、何だよ急にテメエは?」
黒衣のメギド
「いや何、あちこちで土地が1日たらずで焼き払われるって事件を耳にしてな」
「俺も興味があって、俺なりのルートで調べてた所だったんだ。ソイツが原因か?」
ドーコック
「(……お、おいどうするゼタイ? 急に来て、怪しいぞコイツ。何か馴れ馴れしいし)」
ゼタイ
「(落ち着け。少なくとも、『野良』のコイツの仲間という事は絶対にあり得ない)」
「ああ、コイツだ。間違いない」
「土地が焼かれた後、土地から逃げ出る者は皆無だった。そして現場にはコイツだけ」
「さらに言えば、ついさっき、自分でやった事を認めた」
黒衣のメギド
「ほう。ちょうど居合わせられるとは、俺も運がいい」
ゼタイ
「興味が満たされたなら帰ってくれ。忙しいんだ」
ドーコック
「そうだ。早くコイツを中央に突きつけて、文句つけて、処刑させなきゃならねえ」
黒衣のメギド
「ほほう! ますます運がいい」
「俺とオマエ達の目的を一度に果たす良い方法がある。一戦二議席とはこの事だ」
ゼタイ&ドーコック
「……?」
黒衣のメギド
「このメギド……俺に譲ってみないか?」
ドーコック
「な、何だとぉ!?」
「ふざけてるのか! やっとの思いで捕まえたメギドを、何で見も知らねえ奴に──!」
黒衣のメギド
「まあ落ち着けって。ここらが領地って事は──」
「オマエら、ナモシレンの所の軍団だろ?」
ゼタイ
「な……何故、ナモシレン軍団長の名を!?」
ドーコック
「同盟相手にさえ己が存在すら悟らせない、隠密と秘密主義のお方なのに……!」
黒衣のメギド
「なあに、ただのちょっとした顔見知りだ。コネの広さには自信があるんだ」
「犯人の始末が着いたって話は俺の方から通しておく。むしろ好都合のはずだ」
「俺が認めれば、オマエらが適当な犯人をでっちあげて『功』を狙ってるだとか、ヤツも考えまい」
「なにせ疑り深いだろう? ナモシレンのやつ。俺の古い知り合いにも負けないくらいだ」
ドーコック
「(あ、当たってやがる……あのお方は、敵も味方も等しく信用なさらねえ!)」
ゼタイ
「(確かに、軍団長が私達を信じるに足る証拠だけが懸念材料だったが……)」
「(こいつ、本当に軍団長と交流があるのか……!)」
「(しかも、一言であの軍団長を信用させるほどの影響力を……!?)」
黒衣のメギド
「俺が信じられないなら、担保として俺の大切な部下を何体か、オマエらに預けても良い」
「俺が確かにオマエらから犯人を譲り受けたという証拠にもなるしな」
ゼタイ
「……そこまで言うなら、ひとまず話くらいは聞いてやろう」
「貴様に、この『野良』を預けると、私達に一体どんな得がある?」
黒衣のメギド
「ソイツのやった事は、どう転んでも重罪だ。極刑は免れないだろうが……」
「オマエら、『追放刑』って知ってるか?」
ドーコック
「追放……聞いた事くらいなら」
ゼタイ
「重罪を犯したメギドを、魂だけにしてヴァイガルドへ放り出すというやつだろう」
「実直に前線で殺し合う俺たち軍団員には、丸っきり縁のない話だがな」
黒衣のメギド
「そうとも限らんぜ。現に、こうして1つ縁が出来た」
「俺の方で手を回せば、その『野良』を追放刑にしてやれる。それがオマエらのメリットだ」
ドーコック&ゼタイ
「!!?」
黒衣のメギド
「まあ、ちょっと派閥が違うんでな。絶対とは保証できんが……」
「だが、追放された者はメギドらしく死ぬ事も許されず、下等生物達の世界で大地に消える」
「時にはヴィータの魂と融合して『転生』する事もあるそうだ」
「そうなりゃ、弱いヴィータの身でハルマゲドンの恐怖に怯えながら過ごす事になる」
「オマエらにとっちゃ、ただ殺すより魅力的……試す価値はあると思うが、どうだ?」
ゼタイ
「それは……確かに」
「私にも、この『野良』に焼き払われた土地の1つ1つに思い入れがある」
「それを思えば、ただ殺して楽にさせてしまったのでは、どう考えても飽き足らない……!」
ドーコック
「待てよ? 追放されたメギドは『大地に消える』って事は……」
「このゴミクズがヴァイガルドで死ねば、『彼の世界』に帰る事も無いって事か!?」
黒衣のメギド
「そういう事だ。それが追放刑の目的の1つでもある」
「こいつの処遇が決まったら、俺からナモシレンに伝えておくよ」
「いくら疑り深いアイツでも、部下の手柄のその後くらい教えてやるだろう」
ドーコック
「そいつは……決まりだな、願ってもねえ!」
パートナーの考えを聞く前から、ドーコックが確保したメギドをいそいそと黒衣のメギドに明け渡す。
ドーコック
「何としてでも追放刑にしてやってくれ! このメギドラル全てのためにもだ!」
「こんなメギドのクズ、ただブチ殺したんじゃ『彼の世界』が穢れちまうからな!」
黒衣のメギド
「……任せな。やれるだけの事はやってやる」
「──で、相方の方はどうだい? 乗ってみるか?」
ゼタイ
「……仮に、貴様の言葉が全てデマカセだったとしても、だ」
「破壊を撒き散らすしか能がない『野良』に、有益な使い道などあろうはずがない」
「せいぜいどこかの軍団へ向けて、生きた爆弾として投げ込むくらいだ」
「なら、結果は同じだ。私たちだけでは殺す他の処遇は思いつきもしなかっただろう」
「コレをメギドとして『終わり』にしてさえくれるなら、コレをどう使おうと妥協してやる」
黒衣のメギド
「交渉成立、だな」
ゼタイ
「願わくば、『転生』とやらを果たしてもらいたいものだ」
「それもとびっきり弱く、汚く、無様なヴィータ個体としてだ」
「メギドの最低限の気高さも失い、汚らしく足掻く、報われぬ生。そんなザマなら──」
「私達の魂に刻まれた傷も、少しは痛みを和らげてくれるだろう」
ハルファス
「……た……し……」
拘束されたハルファスが小さくもがく。逃げるための挙動で無い事は、その場の誰にも見て取れた。
ハルファス
「わ……たし……だ、れか……きず……つけ、る……つもり、なんて……な、かっ……」
ドーコック
「あぁん……!?」
ゼタイ
「……」
ドーコックとゼタイが、虫の息のハルファスに詰め寄る。
黒衣のメギド
「おっと、こらえてくれよ。追放前に殺したんじゃ元も子もない」
ゼタイ
「死なないようにすれば良いのだろう?」
ゼタイが「技」を使い、ハルファスの傷の特に深い部分を僅かに治療し、延命した。
ドーコックに折られた骨が歪に繋がり、ゼタイに蹴られた眼窩の真っ黒い内出血が失せていく。
その上で、ドーコックがその骨を折り直し、ゼタイがその目に蹴りを突き入れた。
今度は折れた骨が肉を突き破り、眼窩から夥しく溢れる黒ずんだ血で眼球がまたたく間に染まった。
ハルファス
「あ、ぐ……」
黒衣のメギド
「なるほど、差し引きがマイナスじゃないなら俺も文句はない」
「すぐ近くに部下を待機させてるんだ。より早く、安全にコイツを運べるような部下をな」
「急がせる必要があると思ったが、これなら余裕で何とかなりそうだ」
ゼタイ
「それなら私達にも好都合だ。道中、何度も延命し直す事を覚悟していたからな」
「さて……」
ゼタイがハルファスの頭の毛を乱暴に掴んで顔をあげさせる。
ドーコックも今にも唾を吐きそうな顔で、ハルファスのまだ白い方の目玉を見下ろす。
ゼタイ
「……良いかよく聞け、この『害悪』。どんな特別な『個』だろうとな──」
「『ソレ』が『世界』をダメにするようなものなら、存在してはならないんだ」
「分かるか? 貴様が『ソレ』なんだ」
「どうやって運ばれるにせよ、僅かな揺れがその骨と目玉に激痛を刻むだろう」
「そのたびに、思う存分、『後悔』するがいい」
「貴様が『何かした』、『考えた』、『求めた』事を。『そんな貴様』に生まれた事をだ」
ドーコック
「おうさ。テメェは必要でもないメギド体でわざわざ飯を食いたがった『侵略者』だ」
「テメェは『ただそれだけで』、何もかも奪って、傷付けて回る、それだけの存在ってこった」
ゼタイ
「貴様が考え、選び、行動するたびに、貴様は間違う。絶対にだ」
「何故なら、貴様という存在が世界を苦しめるように出来ているからだ」
「そして世界もまた、貴様のような存在に苦しめ苛まれるモノだけで出来ているのだ」
「貴様は世界の敵だ。この先、死のうが生きようが絶対に忘れるな。永久に魂に刻め」
「今この時も、貴様に息ひとつさせたばかりに、明日の希望さえ見えず惑う者が必ず居る」
「本気で、誠心誠意、誰かを傷付けたくないというなら……まず理解しろ」
「『貴様が貴様である』事が1番の原因……最大の『迷惑』だという事を」
ハルファス
「……」
ドーコック
「テメェはなぁ! 何も考えねえ、知識もねえ、欲求だけ底なしの、蛆虫以下のクズだ!」
「テメェに本当にメギドの誇りってもんがあるっていうなら、テメェ自身に言い聞かせろ!」
「今からテメェが死ぬまで、1億、1兆……もっとだ! 無限だ! 1秒だってサボるなよ?」
「テメェのやる事1つ1つが、何を『振り撒く』事になるかを、この世の誰より徹底的にだ!」
ゼタイ
「……ふぅ。済まない、時間を取らせた」
「やっと頭が冷えてきた。後は頼む」
黒衣のメギド
「構わんさ、任せな」
「オマエらも早く帰投すると良い。余計に時間が空くと、ナモシレンの疑りのタネになるぞ」
ゼタイ
「イヤというほど分かっている。行くぞ、ドーコック」
ゼタイとドーコックが去っていくのを確認してから、黒衣のメギドが遠方に手で合図する。
すると、黒い地平に擬態するようにして伏せていた黒い犬が一匹駆け寄る。
命令通りいい子で待っていた黒い犬をひとしきり撫で回してから、黒衣のメギドはハルファスの拘束を解いて、そっと抱き上げた。
黒衣のメギド
「……よし。この調子なら、気絶くらいはしても簡単に死にゃすまい」
「ク・ク・ク……しかし、『考え、選び、行動するたび』……だとよ」
「ムチャクチャ言ってくれるよなあ? オマエからすれば」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「実はな。オマエの事は、ずっと前から捕捉して、足取りを追い続けてたんだ」
「ナモシレン達が本格的に捕獲に乗り出すよりも、ずっと前からな」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「ちょっと、オマエに興味が湧いたんだよ」
「オマエは、生き方を学ぶチャンスさえあれば、その『火力』で大活躍できだだろうってな」
「それこそ、ナモシレンとの事なんぞチャラにさせて、逆に軍団ごと取り込めるほどにだ」
「だが……自力でそれを成し遂げる事はついぞ無かった」
「オマエを見てきてよく分かったよ。今日のそのザマを見て確信に変わった」
「……オマエ、あの2人と『戦わなかった』んだろう?」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「オマエはいつも、そこに転がってるような木の実を食うためだけに『砲撃』していたな」
「木の実が生っていそうな土地に目星を付けて、絨毯を敷くように隙間なく、徹底的に」
「ならつまり、木の実を食いに空から降りてきたオマエは無傷だったはずだ」
「それなのに、オマエがそこまでボロボロになってるのに、抵抗の痕跡は全く無い」
「オマエの活躍を拝めないのと同じ理由だ。オマエ……『選べなかった』んだな?」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「ああ、無理に答えなくて良い。違うならオマエの中で好きに毒づいてくれて構わん」
「だが俺の推測は結構、的を射ているはずだ。確かにオマエは『野良』で、学ぶ機械も乏しい」
「だが、それはゼロじゃなかった。だのにオマエは機会を前にしても『選べなかった』」
「今を生きられるように生きるだけで手一杯なんだ。その場の流れに頭の中が攫われちまう」
「戦争社会に転向する機会を見つけても、餌を取って今日を生きる事が優先順位で並び立つ」
「敵に見つかっても、食う・逃げる・戦う、全部一緒くたに頭になだれ込む……」
「まごついてる内に全ては過ぎ去って、後にはオマエに不利な事ばかり……そんな所か」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「まるっきり小動物だな。知ってるか? あいつらは驚異に過敏な個体が生存に有利なんだ」
「すると、咄嗟の感情に流され逃げるようなヤツが生き残り、世代を重ね続けると──」
「逆に何も『選べない』個体が増えてくる。驚異と鉢合わせた途端に固まっちまうのさ」
「高ぶり過ぎて、些細な選択でパニクるらしい。頭が一瞬、感情に占拠されて停まるんだ」
「オマエじゃきっと、戦争社会に入る事を選べても、何者にもなれなかっただろうな」
「毎秒が椅子取りゲームの『新生活』なんて馴染めず、疎まれ蔑まれ、同じ結果を辿ってた」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「正直、憐れなもんだよ。メギドらしくもないが皮肉じゃなく、本気でな」
「……ま、俺の私情はどうでも良いんだ。これから俺がオマエにする事とも、全く関係ない」
ハルファスをおぶって、黒い犬の背に乗るサタン。
黒い犬は誇らしげにビシッと4本足で立ち上がり、尻尾を振っている。並の大型犬よりも強く、ヴィータ数体分くらいの重量は余裕なようだ。
黒衣のメギド
「これからちょっと揺れるぞ。アイツらが言った通り傷が痛むだろうが、そこは我慢だ」
「まずはオマエを俺の領地に匿う。中央に送った後の最低限の礼儀をそこで覚えてもらう」
「その間に俺は根回しをして、オマエが追放刑になるよう取り計らう」
「運が良けりゃ、オマエはヴァイガルドでヴィータに転生し、第二の一生の幕開けだ」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「そういやオマエ、多分ヴァイガルドも知らないだろ。とりあえず、こことは全く違う世界だ」
「オマエでも、少しくらい生きるアテのある世界……のはずだ」
「もし転生して、生き抜いて、万一にもまた俺か、この黒い犬に出会ったら……」
「そしてヴァイガルドにも馴染めないようだったら、その時はまた俺がオマエを引き取ってやる」
「追放刑になったメギドは死者扱いだからな。目くじら立てる物好きも居ないはずだ」
「ヴィータの体でどこまで使い道があるか分からんが、悪いようにはさせんさ」
ハルファス
「……」
黒衣のメギド
「少なくとも、『ハルマゲドン』のちょっとした邪魔くらいには役立てるはずだ」
「そうか、『ハルマゲドン』も知らんかもな……おっと、まだだ。もうちょっと『待て』だ」
跨った黒い犬が辛抱たまらなそうに走り出したがっていたので、黒衣のメギドがこれを制する。
黒い犬は高くか細い声を小さく漏らしてから腰を落ち着け直し、しきりに黒衣のメギドをチラ見しながら次の命令を待っている。
黒衣のメギド
「揺れが傷に響いたら、声もまともに出せんかもしれないからな」
「まだ意識はあるな? 俺の領地に持ち帰ってからでも良い事なんだが……」
「喋れる余力があるなら、早い内に聞くに越したことはない」
ハルファス
「……?」
黒衣のメギド
「オマエの名前だ」
「それが『証明』になる。俺がオマエを、この世界に存在して良いと認めた『証明』──」
「オマエがダレカに『見つけてもらった』という、世界に刻むオマエの『証明』だ」
ハルファス
「……」
「……」
「…………ハ、ル……ハルファス……」
黒衣のメギド
「ハルファス……よし、覚えた」
「俺は、サタンだ」
「よく覚えておけよ、ハルファス。これからオマエが生き延びる保証は無いが……」
「まあ、『持ち合わせ』は多いに越した事はないだろうからな」
「よし、行け!」
命令を受けて、黒い犬が一声吠えて軽やかに走る。
サタン
「ク・ク・ク……ハルファス、上手くいきゃ、オマエは俺に『恩』ができるわけだ」
「『恩』は分かるな? まあ実の所、俺も講釈垂れるほど分かっちゃいない」
「とにかく、オマエは何でも良いから、この先の事をどうするか考えろ。それがオマエの仕事だ」
「俺のトコで手当て受けて、ヴィータ体の作り方でも教わりながら、その片手間で良い」
「だが、転生が失敗するかもとかは捨て置けよ。死んだ後なんて考えるだけ無駄だからな」
ハルファス
「……」
ハルファスからの返事は無いが、黒衣のメギドは、満足のいく返事を得たかのように前を見据えた。
ハルファス
「…………」
「(…………)」
「(私の、やる事……1つ1つが……何を『振り撒く』……なるか……)」
「(『私が私である』事……1番、『迷惑』……)」
「(メギドの誇り……は、よく分からないけど……サボっちゃダメって、言ってた……)」
「(私の、やる事、……1つ、1つ……)」
「…………」
ハルファス
「(私……私は、生きていくための方法、ご飯の取り方……これしか知らなかった)」
「(この生き方しかなくて、それで誰かの『迷惑』になって……)」
「(それで罰を受けるしかないなら…結局、何をしても『後悔』することになるのかな)」
「(……そうなのかもしれない。どうしたらいいのかな……どうすればよかったのかな……)」
「(私が何か『して』……何かが良い結果になる事、無いのかな、絶対に……)」
「(……無いのかも……無さそう、かな……)」
「(……あ、サボっちゃダメって、言われてたんだ)」
「(えっと……私……私、で……私、だから……『迷惑』……)」
「(私、メギド……で……だから、私……)」
「(私は……して……だから、ダレカの、『迷惑』……メギド、だから……『害悪』……)」
「(……………………)」
揺れるたびに眼窩で膨れ脳を潰さんばかりの鈍痛も、風に晒される折れた骨髄の激痛も、それでも衰弱で暗転するハルファスの意識を繋ぎ止めるには、そろそろ限界だった。
※ここからあとがき
構想当初のハルファスは二人組のメギドに捕まってそのまま中央に直送される予定でしたが、後にサタンと面識があると知り、互いに顔と名前を覚える機会を描写した方が良いかなと、急遽サタンを登場させました。
ハルファスの性格上、議会に出席するような大層なメギドとして活躍するのは難しい気もするので。
現在まだ、9章2節クリアから先に進んでいないので、サタンの性格やヴァイガルド関連の知識について食い違いも多いと思いますがご容赦ください。
プルソン達の素材も集めなければ……。
・優しさイベについて
答え合わせにより、渡りのメギドとか昔から性格に変わりなく守りが得意だったとか所々覆りもしましたが、追放を気にしてない所とか微妙に重なる部分もあり、ほぼほぼ解釈一致でとても滋養になりました。
ザガンさんのご家族の描写については、ろくに考えてなかった部分で気づきもありました。母親は筋肉イベで言及されてましたものね……。
むしろ牛は殺さないなどの、ヴァイガルドにおける闘牛の位置づけに「そうきたか」となる所が多かった印象です。
こちらの世界では昔は娯楽に乏しくバイオレンスなものが人気だった時代が多々ありますが、ヴァイガルドはもしかしたら、ハルマあたりが精神的な充足を重視し推進してたりするのかもしれません。
メタ的な事を言ってしまえば、動物愛護とかの昨今の事情が絡むのでしょうけれど。