メギド72オリスト「茨を駆ける十二宮」   作:水郷アコホ

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1-2前半「数え錯綜年月日」

 アブラクサスへの道中。馬車内の言葉が暫し失われる。

 

 

バルバトス

「と……取り敢えず、一息入れよう」

 

 

 小さく咳払いしながらバルバトスが、人数分のカップにお茶を注ぎ始めた。

 カップと言っても、形状はボウルに近い簡素な器。お茶も予め水出しでストックした、行きで飲みきる事前提の品。

 イーバーレーベン領主の好意で用意されたものだけあって、野趣な運用をされながらも上質な香りが生きている。

 

 

ハーゲンティ

「あ、あーそうだ! 領主さまがお菓子も積んでくれたって言ってたよね!」

 

バルバトス

「そ、そうそう、よく思い出してくれたなハーゲンティ」

「確かこの辺りに……」

 

 

 近くの物陰に手を伸ばしたバルバトスが、小さな麻袋を幾つかひとまとめにした束を取った。

 袋の1つを解いて口を開け、中身を手の上に転がり出させると、天日で乾かしたネクタルの実だった。糖分が結晶化して粉を吹いたようになっている。

 

 

バルバトス

「出先でしばらく駐屯するとあって、日持ちの良い物を選んでくれたようだね」

「ひとまず、1つ目の袋はハルファスとハーゲンティに。どうぞ」

 

ハルファス

「袋ごと? 良いの?」

 

バルバトス

「もちろん。残りの袋も、手応えからして殆どネクタルだろうしね」

「仲良く分け合うと良い。ハーゲンティが満足するくらい存分に」

 

ハーゲンティ

「ぜひっ!」

 

バルバトス

「というわけで……はい、ハルファス」

 

ハルファス

「あ、うん。ありがとう」

 

ハーゲンティ

「ハルちゃんハルちゃん、まずは一個ずつ、一個ずつ一緒に食べよう! ねっ!?」

 

 尻尾が生えて振り回しそうなほど興奮するハーゲンティにハルファスを巻き込ませ、その隙に袋をもう一つ解きながら小声で残りのメンバーに呼びかけるバルバトス。

 

 

バルバトス

「で……皆、どう思う?」

 

ザガン

「どうって……ハルファスの『旅』の事だよね?」

 

エリゴス

「特に面倒事が無かったのなら別に……と、思いてえが」

「そもそも、旅のイロハも知らねえ身で何で旅なんかしてたんだっつー疑問が……」

 

バルバトス

「恐らくハルファスが旅に出た頃は、イーバーレーベンの治安も悪かったはずで……」

 

ソロモン

「そういえば、ガブリエルから依頼の説明受けてた時──」

「ハルファスがイーバーレーベン出身って聞いてガブリエルが確認取ってたけど──」

「その時ハルファス、さり気なく『身寄りは居ない』みたいな事を……」

 

ザガン

「ま……まあ、今が元気ならそれで何も問題ないよ、きっと。うん!」

 

ソロモン

「そ、そうだよな! 元々、お互いの私生活は詮索しない方針だし……!」

 

バルバトス

「やれやれ、何だか持ち出す話題が片っ端から重苦しくなるな……」

 

エリゴス

「その話題の1つを振ったの、あんただけどな」

 

 

 微妙な空気の輪に足音が近づき、バルバトスの手の中で解かれる袋を覗き込んだ。

 足音の主を見上げる一行。

 

 

グレモリー

「ほう、ネクタルか。私にも貰えるか?」

 

バルバトス

「あ、ああ、グレモリー。もちろんだとも。お茶もどうだい?」

 

グレモリー

「頂こう。ネクタルは2,3粒ほどでいい」

 

 

 グレモリーへの一抹の疑念は変わらないが、それでも他愛ない応対に少し場が和む。

 

 

ソロモン

「何か、グレモリーにお菓子って、少し珍しい組み合わせな気がするな」

「贈り物で気に入ってもらえるのも、大体は武器とかインテリア的な物だし……」

 

バルバトス

「こらこらソロモン。冷やかしてるみたいな言い方になってるぞ?」

 

ソロモン

「あっ、ごめん。別に他意は無いんだ……」

「(軽い話題を膨らませようと思って、少し軽々しくなっちゃったかな……)」

 

グレモリー

「構わん。自分が人にどう見られているかくらい、認識しているつもりだ」

「別に菓子類を嫌っている訳では無い。ただ──」

「食いたくなる時が稀でな。食うとしても、こういった物がもっぱらだ」

 

ソロモン

「こういった……ドライフルーツってやつか?」

 

グレモリー

「うむ。世間一般に言う菓子といえば、持って2、3日が精々だからな」

「屋敷に置いた所で、痛む前に秘書や使用人に与える事になるのは目に見えている」

「かと言って、いちいち取り寄せたり作らせたりでは手間の無駄遣いだ」

 

ザガン

「領主様なんだし、そのくらい人にやらせてもバチ当たらないと思うけどなあ」

 

グレモリー

「そもそもが大した欲求ではない。私にとっては、充足感と労力が釣り合わん」

 

エリゴス

「その点、乾きモンなら期限も気にせず、食いたい時にサッと食えるってわけか」

 

グレモリー

「それだけでは無いぞ。水気を抜いた果実は滋養にも優れている」

「特にネクタルは疲労回復の効能も知られている。仕事の合間に喫するにはうってつけだ」

 

バルバトス

「薄々予想はついてたけど……見事に兵士の糧食みたいな着眼点だ」

 

グレモリー

「実際に兵糧としての実用化を試みている領地もあるぞ」

「味や香りも極端に落ちはしないから、兵の精神的充足も得られる。実によくできているよ」

 

バルバトス

「(全肯定で返されるとは……)」

 

ソロモン

「グレモリーって、生活の全部を、こう……『活かしてやるぞ』って感じがあるよな」

「正直、尊敬してるよ。真似するのは……ちょっと難しいけど」

 

グレモリー

「ああ。私の生きる価値は私自身で照明せねば気が済まんからな」

「まだまだ寿命だって半分もある。この程度で驚いてくれるなよ?」

 

ソロモン

「ああ。頼りにしてる」

「(そういえば、いつだったか聞いた気がする……)」

「(グレモリーは、転生してから考え方が変わって、今みたいになったって)」

「(今の生き方がグレモリーの『個』……? 昔と違うのに?)」

「(『個』が不変って確証も無いけど……あるいは『ヴィータとしての』?)」

 

グレモリー

「それに、要は慣れだ。あやかりたいなら、いつでも指導してやるぞ?」

 

ソロモン

「……えっ!? あ、いや、それは、その……!」

 

グレモリー

「ふっ、冗談だ」

「貴様のためになるとは言え、軍団長を何ヶ月も私物化するわけにもいかん」

 

ソロモン

「月単位!?」

 

グレモリー

「当然だ。一朝一夕で真似できるほど易い生き方をしてきたと思うか?」

 

ソロモン

「い、いや、そういうつもりは無いけど……」

 

グレモリー

「メギドラルと決着が着いても、貴様には役目に相応しい立場が残る」

「そして立場には相応しい品格というものがある。楽しみにしておけ?」

 

 

 グレモリーが、着席しているソロモンの頭上にずずいと詰め寄る。

 

 

グレモリー

「その暁には、私が直々に貴様を磨きあげてやるからな」

 

バルバトス

「(磨くっていうか、しごかれるな。間違いなく……)」

 

ザガン

「(これ、絶対『そうだったっけ』で済ませてくれないやつだ……)」

 

ソロモン

「う……うん……お、お手柔に頼むよ」

「(何で……何で今日は話題が出てくるたびにこんな事に……!)」

 

 

グレモリー

「まあそう身構えるな。意気込むのは良いが、その日はまだ当分先だ」

「今は目の前の問題を、1つずつ片付ける時だ。さて──」

 

 

 バルバトスから茶とネクタルを受け取ったグレモリー。自分の席に戻らず、隣の座席を覗き込む。

 

 

グレモリー

「貴様も、いつまでも我関せずを決め込んでないで、1つどうだ?」

 

 

 ソロモン達と距離を置いて座る「仲間」へ、手の中のネクタルを差し出すグレモリー。

 横目でネクタルを一瞥した「仲間」は、すぐさま視線を戻して淡々と答えた。

 

 

サルガタナス

「お構いなく。そんなシワクチャなカタマリ、見てるだけで気分が悪い」

「読書中なの。そこの連中にもっと静かにするよう言い聞かせて頂戴」

「でなけりゃ邪魔にしかならないから、とっとと席に帰るか死んで」

 

グレモリー

「相変わらずのようだな」

「確かに、今回は少し余計な世話だったかもしれん。済まなかった」

 

 

 余裕の笑みで陳謝し、自分の席へ踵を返すグレモリー。

 歩きながら、ソロモン達の席へ振り向く。

 

 

グレモリー

「聞こえたな。貴様達も、余り自分本位が過ぎぬようにな」

 

ソロモン

「あ、う、うん」

 

 

 去っていくグレモリー。

 先程より音量を絞り、しかし見目よろしくないヒソヒソ話にならぬよう、恐る恐る口を開く一行。

 

 

エリゴス

「サルガタナスが居るって事すっかり忘れてた……」

 

ザガン

「例の『監視組の増員』として、だよね?」

 

バルバトス

「こういっちゃ何だが……よく了承してくれたな、サルガタナス」

 

ソロモン

「うん。普段からメギドラルと直接関わる仕事以外は乗り気じゃないし……」

「俺もダメ元のつもりで声かけたんだけど、依頼内容話す前からオーケーくれて」

 

エリゴス

「心境の変化……って様子じゃねえよな。完璧に平常運行だし」

 

ソロモン

「後から分かったんだけど……」

「声かけた日、たまたまコラフ・ラメルが休みでさ」

 

バルバトス

「あー。行きつけの店が休みで、だからアジトに居たわけか」

 

ソロモン

「で、ウェパルもほら、今、里帰り中だろ?」

 

ザガン

「つまり、すごくヒマだったんだね……」

 

ソロモン

「ちゃんと長期の仕事なの説明したら、露骨に嫌そうな顔されたよ」

 

バルバトス

「でも、結局ついてきた……と?」

 

ソロモン

「俺が対メギドラルで動かない内は、サルガタナスもやる事が無いから仕方なく……って」

「それに、その場の勢いとはいえ『約束』したからには……って言ってた」

 

バルバトス

「『約束』ね……それなら、こちらも誠意を持って尊重するべきか」

 

ザガン

「ど、どういうこと?」

 

バルバトス

「彼女の言う『約束』は、俺達が用いるソレよりとても重いものなんだよ」

 

エリゴス

「へえ~。案外、義理堅い所もあるんだな」

 

ザガン

「私、メギドも真っ青なドライなやつかと思っちゃってた」

 

バルバトス

「(どちらも間違いでは無いんだけどねぇ……)」

 

 

 ソロモン達とは離れた座席から、一行を呼ぶ声がした。

 

 

グレモリー

「ソロモン、外を見ろっ!」

 

ソロモン

「外? グレモリーのあの声の感じ……もしかして!」

 

 

 一部、仲間たちも粗方見当がついたようで、表情を引き締めて窓の外を見渡す。

 空気の変化に気付いて、干し菓子を摘みあっていたハルファス達も顔を上げた。

 

 

ハルファス

「あれ? 皆、どうしたの?」

 

ハーゲンティ

「この雰囲気、すごく良く見る気が……ハッ!」

 

エリゴス

「ご明察のようだぜハーゲンティ」

「ソロモン、あっちだ。だいぶ遠いが見落とすほどじゃねえ!」

 

 

 エリゴスが進路側斜めの方角を指差した。

 ハーゲンティがハルファスを連れて窓を覗き込むと、なだらかな平地の彼方に不自然な影が群れを作っていた。

 

 

ソロモン

「やっぱり、幻獣か!」

 

ザガン

「もしかして、アブラクサスで出たり消えたりしてるっていう?」

 

グレモリー

「可能性は低いな。現地とはまだ距離がある」

 

バルバトス

「それに周囲の自然も豊かだ。元からこの辺りを徘徊してる野生って所だろう」

 

ソロモン

「それでも見逃すわけにはいかない。皆、戦闘準備だ!」

 

 

 

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