メギド72オリスト「茨を駆ける十二宮」   作:水郷アコホ

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1-2後半「マグナ進行形タウルス・カリュビス」

 アブラクサス道中。

 幻獣を退治した一行が馬車に乗り直し、つい先程発車しなおしたばかり。

 

 

ハーゲンティ

「ふいー、思ってたより結構たくさん居たねー」

 

バルバトス

「もしかしたら、元々はアブラクサスへ消えた幻獣達の縄張りだったのかもね」

「生活に適した土地が手放されたから、残った群れが居座って繁殖してるのかも」

 

ソロモン

「アブラクサスのせいで幻獣が増えてるって事か?」

 

バルバトス

「いや、逆に減ってるはずだ。こう考えてみてくれ」

「25匹の群れが4組あって、その内2組がアブラクサスに消えた」

「残る2組は競争相手が消え良好な縄張りも獲得。それぞれ20匹増えたら合わせて何匹だい?」

 

ハーゲンティ

「はい! 90匹! 前より10匹減ってる!」

 

バルバトス

「正解。流石に勘定には抜かりないねえハーゲンティ」

「基本的には、生き物ってのは別々の場所に別の共同体が居たほうが効率よく増えるものだ」

 

ソロモン

「確かに、ヴィータにしたって幾つも村を作って繁栄してるしな」

「実際に数えたわけじゃないけど、王都一つで全ヴィータの半分……みたいな事はないだろうし」

 

バルバトス

「つまり、幻獣達もその辺の事情は変わらない」

「『餌取り係』の頭数が増えたから、出会ってみると大量に見えるだけって話さ」

 

ハルファス

「じゃあ、他の領地も幻獣の被害が減って、むしろ助かってるのかな?」

 

ソロモン

「え、そ、そう……なのか?」

 

バルバトス

「恐らくね。人里まで行動半径を伸ばしてる群れが減った可能性はある」

「あくまで元の縄張りを中心に生活してるはずだから、余り遠出はできない」

「それにヴィータを襲わなくても、縄張りの拡大で食料も安泰だろうしね」

 

ソロモン

「なるほど。そういえば確か──」

「一部の領地はアブラクサスと怪しい取引してるって話だったな」

「じゃあ、もしその幻獣被害の抑制も、シュラーの計画の内だったら……」

 

バルバトス

「ますます、周辺領はアブラクサスを甘やかさずにはいられないだろうね」

「つまり、普通にメスを入れようとしても周辺領が結託、口裏合わせる恐れが強い」

「遠い元締めの王都が、第三者の俺達を遣わしたくなるのも無理ないな……」

 

ハーゲンティ

「ほへー……」

 

エリゴス

「おいおい、2人きりで小難しい話で盛り上がんな。見ろよこのハーゲンティを」

「あたしらも口の挟み時が見当たらねえったら。それよりさっきの喧嘩の話に戻そうぜ」

 

ザガン

「そうそう。あの数を誰が華麗に捌いてあげたと思ってるのさ?」

 

ソロモン

「ご、ごめん、お礼も無しに……本当に、いつも助かってるよ」

 

バルバトス

「数で押してくる相手には本当に強いよな、ザガン。集中力も並大抵じゃない」

 

ザガン

「よしよし、許してあげよう……なんてね♪」

 

エリゴス

「全く、リジェネのあたしで呼んでもらうよう頼んどいて正解だったぜ」

「ザガンと一緒だと、いつもの『技』じゃ立場を食われちまうからな」

 

ザガン

「ふふん、エリゴスには悪いけど、これだけは譲れないからねぇ」

 

エリゴス

「分かってるよ。プロにやっかみ入れるほど、あたしも野暮じゃねえ」

 

バルバトス

「プロか……改めて考えてみると、ザガンの戦い方は、ある意味『異色』でもあるね」

「闘牛って、確かに強力な獣と戦いはするけど、どちらかと言えば『芸能』の領域だし」

 

ザガン

「むぅ?」

 

バルバトス

「あーいやいや! あくまで一般論としての話だよ、悪意は無い」

「一つの真剣勝負である事は俺も論を俟たないよ、気に障ったなら本当に済まない……」

 

ザガン

「まあ、良いけど。私も、傭兵とか剣闘士とかってお仕事とは、ちょっと違うとは思うよ」

「お客さんも、血や殺し合いが見たくて来てるわけじゃないって、私はそう信じてるし」

 

ソロモン

「自分の仕事を戦闘に活かしてるって事なら、珍しくも無いんじゃないか?」

「バルバトスだって、吟遊詩人として音楽で戦ったりもするし」

 

バルバトス

「あれはあくまで、フォトンの力を得ての事だろう?」

「エリゴスやイポスみたいな指輪の支援無しで戦うって意味合いで考えると……だ」

「闘牛はどうしても、ショーとしての側面がある」

 

ソロモン

「それが、何か問題なのか?」

 

バルバトス

「ショーとしての戦い方を身につける以上、その部分は、その……『実戦向き』じゃないだろ?」

「闘牛の戦い方を実践にそのまま活かして見せるっていうのは、何て言えば良いかな……」

 

エリゴス

「あー……何となく、分かる気がする」

「鍛錬のための素振りやヴィータ同士の喧嘩殺法は『それ用』って所あるしな」

「どんなに慣れてたって、『そのまま』で幻獣とゴロ巻くのには使わねえな」

 

ソロモン

「ケンカサッポー……ゴロマく……?」

 

バルバトス

「例えばソロモン、君が王都騎士団仕込みの投げや蹴りの動作を学んだとする」

「そしてある時、街中で不意に暴漢がナイフを抜き襲ってきたとしよう」

「その時、教わった通りの動作で対処できるかい?」

 

ソロモン

「それは……かなり難しいな。絶対、焦っちゃうだろうし」

 

ハルファス

「多分、キックを当てるだけでも難しいんじゃないかな?」

「練習の時は、ナイフ持った人を蹴ったりは、あんまりしないと思う」

 

バルバトス

「そう。それらは言ってしまえば、訓練用の『型』にはめた技だ」

「闘牛もまた、牛と派手に戦うための『型』が、より複雑に定まっている」

 

エリゴス

「台本無しの勝負には違いなくても、ルールとか『運び』とかもあるだろうしなぁ」

 

バルバトス

「『実戦』と『対戦』は別物だからね。敢えて暴論を言ってしまえば──」

「戦場に立つなら、布を振り回して翻弄するより、盾や鎧を纏う方が効果的だ」

「さっきの例えで言えば、型通りの攻撃で暴漢を撃退してしまえるなら、それはもう、たつ──」

 

ハーゲンティ

「それ言ったら、あたいはどーなんですか!? これ、拾い物ですけど!?」

 

 

 唯一の実戦装備、ピッチフォークをズイとバルバトスに突き出すハーゲンティ。

 

 

バルバトス

「いや、君は元々、戦いの中に生きてるタイプじゃないだろ……」

 

ハルファス

「でも……この話、続けちゃって大丈夫なのかな?」

 

一同

「あ……」

 

ザガン

「……」

 

 

 一斉にザガンを見る。

 ザガンは軽く俯き、ハットの鍔に指をかけて目深に被り直しており、目元が伺えない。

 

 

ザガン

「……」

 

バルバトス

「(し、しまった……勢いに乗って、つい……!)」

 

エリゴス

「(実践向けじゃないだの布振り回すだの……あたしもちょっと話にノッちゃったし……)」

 

ハーゲンティ

「(これ……あ、あたいの出番? な、何かウマいボケとか考えないと的な……!?)」

 

ソロモン

「あ、あの、ザガ……ん?」

「……ザガン、見間違いだったら本当に済まないけど──」

「何か、ニヤニヤしてないか?」

 

 

 ポーズはそのままに、ザガンの口元が不敵に微笑んでいる。

 こうなると、夕日でも浴びれば鯔背な風情が出てくる。

 

 

ザガン

「ふっ ふっ ふ~……」

「気になる……? 私が闘牛で戦うって決めたワケ!」

 

 

 ハットをテンガロンのように指先で僅かに持ち上げ、隙間から一同を上目遣いで射抜くザガン。その瞳が一等星のように熱く瞬いた。

 

 

バルバトス

「え~っと……少しホッとしたのも事実だけど……」

「これから何を始めてくれるにせよ、俺の矜持として言っておくよ」

「君への配慮を欠いた事は事実だ。改めて謝罪させてくれ」

 

ザガン

「いいっていいって、むしろ嬉しくてムズムズしちゃうくらいだったし!」

「それに、盾役としての私がそれだけ目立ってるって事でもあるじゃない?」

 

 

 言葉通りの喜色満面で応えるザガン。照れくさそうですらある。

 

 

エリゴス

「(『実戦向き』じゃないとか、とっくに分かってて……多分、何か言われもしたんだろうな)」

「(きっと、それでもそれを覆して、逆に『自信』にできるくらい努力したんだ)」

「(まあ、あたしらが本物のザガンの技量を知ってるからってのもあるんだろうけど)」

 

 

 ソロモンの隣の空席に人影が近づき、存在を誇示するように遠慮なく腰を下ろした。

 

 

グレモリー

「邪魔するぞ」

 

ソロモン

「おわっ!? グ、グレモリーいつの間に?」

 

エリゴス

「(絶対、ザガンが気にしてないの分かるまで様子見してたな……)」

 

グレモリー

「興味深い話が聞こえてな。私も、つとに気になっていた所だ」

「ザガンの出身が興行を催せる規模の街だったなら、普通はあるはずだ」

「駐屯騎士団、領主の私兵、その養成所……『対幻獣』を学ぶに相応しい設備が」

 

ソロモン

「言われてみれば、ザガンはソロモン王……俺と戦うって、かなり前から決めてたって聞いた」

「それなら、闘牛の合間に剣術を学んだりとかも出来たかもしれないよな……」

 

グレモリー

「にも関わらず、ザガンの『技』は闘牛一筋で磨き抜かれている。しかも『対幻獣』のためにだ」

「この機会に是非聞いてみたい。ザガン、貴様は何故、他の選択を蹴って闘牛を選んだ?」

 

ザガン

「おお、良いね良いねー。注目集まっちゃってるねー♪」

「私が強くなるために闘牛を選んだのは、それはね……」

 

ソロモン

「それは……?」

 

ザガン

「……ま、殆どたまたま選んだってだけなんだけどね」

 

一同

「……」

 

 

 脱力に包まれる一行。

 

 

バルバトス

「うーん……そういうオチなら、もう一手ほど引っ張った方が落差でウケを取れただろうに」

 

ソロモン

「いや、ツッコミたいのはそこじゃなくて……」

 

ザガン

「ゴメンゴメン、バルバトスみたいにお話が上手いほうじゃ無いからさ」

「ちゃんとマジメに話すから。たまたまってのも嘘じゃないけど……まず、歳の問題かな」

 

ソロモン

「歳……?」

 

グレモリー

「ああ、体験指導の制限か」

「騎士団や由緒ある領地の私兵の間では、指導を受けるにも身長や年齢で制限が課されている」

 

ザガン

「そう、それ。私がメギドの記憶を取り戻したの、本当に小さい頃だったからね」

「いつかソロモンと一緒に戦うんだって思っても、戦い方を教えてくれる所が無かったんだよ」

 

ソロモン

「制限なんてあったのか……」

「まあジズとか、もっと小さい子に剣の振り方教えるってのもナンだしな」

 

バルバトス

「幼い内に過激な運動させると、後遺症が残ったり、成長を妨げちゃったりするからね」

「更に言えば、基本的にその制限は、女性に対してより厳しいものになる」

「例えばセーレなら問題なし、コランもいけるかもしれない。けど、ジズはまず無理だろうね」

 

ハーゲンティ

「えー、何それフコーヘー……」

 

ソロモン

「今どき、騎士団どころか野盗でも女性が戦ってるのは珍しく無いのにな……」

 

グレモリー

「追放メギドなら鍛えれば幾らか強靭になれるが、ただのヴィータはそうもいかん」

「特に女はどうしても筋骨に劣るし、比例して体も脆くなる」

「本人にどれほど熱意があろうと、杖を突かせるようにしては本末転倒だ」

 

ソロモン

「そうか、もし指導中に大怪我させて、生活に支障が出たりしたらって考えると──」

「教える側としても、責任を負いきれないか……」

 

バルバトス

「今は『対幻獣』の戦力も重視されるからね。相手は人類の限界の遥か上だ」

「必然、装備も訓練も、限界に挑むような負荷の高いものになっていく」

 

ハルファス

「女の人が男の人と全く同じ武器や鎧着けたら、歩くのも大変そうだもんね」

 

ハーゲンティ

「ハルちゃんがそれ言っちゃうと、何だか……」

 

グレモリー

「(事実、ハルファスの斧一つで、馬車の足取りが如実に落ちているな……)」

 

バルバトス

「ついでに言うと、鉄火場に女性が当たり前と認識され始めたの、意外なほどごく最近の事だよ」

「貴族のご婦人の伝統的なドレスとか、飛んだり跳ねたり出来るように作られてないだろ?」

「一昔前までは、世間一般の女性へのイメージは──」

 

エリゴス

「まあ、そのくらいにしようぜ。その手の話、続けるとロクな事にならねえし」

 

バルバトス

「ああ、うん。もっともだね……この話は流そう」

 

エリゴス

「とにかく、まともな所じゃ幼すぎて相手してもらえなかったと……で、ザガン、続きは?」

 

ザガン

「ナイスパス、エリゴス♪」

「それで……闘牛なら自分の足で立てれば真似事くらいは教えてもらえたからね」

「後から考えると、お陰で親も道具代とか気前よく出してくれたし」

 

ソロモン

「道具代……ああ、立派な衣装だし、借りるってわけにもいかないもんな」

 

バルバトス

「街の花形イベントの衣装だからね。さぞウケも良かったろうさ」

「しかも可愛い娘が進んで着飾ってくれるなら、もうメロメロだねえ」

「無骨な騎士の鎧なんかと違って、ご両親もむしろ進んで財布を開きたくなるってものだ」

 

ハーゲンティ

「って事は、闘牛で戦う事にしたのは、お金の事情……?」

 

ソロモン

「いやいや、ちゃんと一人前の闘牛士としての稼ぎもあるだろうし……」

「でも、ザガンの話し方だと、『実戦向き』な戦いはその後も学んでないっぽい?」

 

ザガン

「うん。齧ってみた事もあるけど、すぐやめちゃった。闘牛より熱くなれないし」

 

ソロモン

「熱くなれない……って、そりゃあ地道な訓練とかは、そういうものだと思うけど」

 

グレモリー

「さては、魅入られたな? 舞台の熱に」

 

ザガン

「えへへ……旅に出るちょっと前まで、少しだけ目的すり替わっちゃってた」

 

バルバトス

「戦うために始めたはずの闘牛が、すっかり生き甲斐になっていた、と」

「だから、地道な訓練に見向きも出来ないほど、闘牛に邁進していったわけか」

「良いじゃないか。ヴィータとして生まれたなら、それもまた理想の生き方の一つだと思うよ」

 

ザガン

「よ、よしてよ、変にフォローされても却って恥ずかしいって……」

「それにさ……後から調べても、闘牛の他に無かったしね。私の『憧れ』に近い戦い方」

 

ソロモン

「『憧れ』?」

 

ザガン

「そう。力強い相手をいなして、翻弄して、トドメの一撃! ずっとやってみたかったんだよね」

 

ソロモン

「ああ、それでか。説明したそうにノリノリだったのは」

「さっきから本当にザガンが話したかったのは、その『憧れ』についてだったんだな」

 

エリゴス

「ん……あれ?」

 

バルバトス

「幼い頃に記憶が戻って、闘牛に出会って、『憧れ』の戦い方に近かった……という事は?」

 

ザガン

「うん。メギドだった頃から、そういう戦い方してみたかったんだ」

「戦い方を教われないって知った時は、最初はとにかく木に体当たりとかしてたけどね」

「『だったら戦える歳まで、体だけでも自力で鍛え抜いてやる』って。でも──」

「闘牛を見てビビっと来てさ。鍛えるだけなら他にもあったけど、もう『これしか無い!』って」

 

ハーゲンティ

「木に、体当たり……?」

 

バルバトス

「メギド体になった時の戦い方そのままか……」

 

ソロモン

「闘牛みたいな姿だから、確かに闘牛士みたいな戦い方は難しいよな……」

 

バルバトス

「ソ、ソロモン、だからメギド体についてそういう話は……!」

 

ソロモン

「あっ……!」

「(メギド体は『個』の象徴みたいなものだから、軽々しい事言うと怒られるんだった……!)」

 

ザガン

「そう! 闘牛士としても闘牛としても戦えるなんて、もう格好良さ独り占めって感じだよね!」

 

ソロモン

「え……あ、はは、そ、そうだな。闘牛には詳しくないけど、何だか羨ましくなって来ちゃうなー」

「(セーフだった……いつかの時みたいに怒られずに済んだ……)」

 

バルバトス

「(すごいポジティブだなあ、ザガン……)」

 

エリゴス

「(……まあ、何が『バカにされてる』と感じるかは人それぞれだしなあ)」

「(あたしも総長やる以前は『メスゴリラ』なんて呼ばれてたけど褒め言葉だと思ってたし)」

「(後から悪口だったって知ったけど、今も全然気にならねえし……ゴリラの何が悪かったんだろ?)」

 

グレモリー

「では、語りたかった本命とやらを聞こうか。闘牛に見出したという『憧れ』の正体を」

 

ザガン

「オッケー。私も、ようやく自分の言いたかった事が分かってきた気がするよ」

 

バルバトス

「(ここまで勢い任せで話してたのか。まあ、らしいっちゃらしいけど……)」

「(会話でもある意味、見事な一直線だな、ザガン。小まめに軌道修正してかないとかも)」

 

ザガン

「メギドだった頃、何度も何度も戦った相手が居てね。戦い方が少し似てたんだよ」

 

ソロモン

「闘牛と、そのメギドがか? 闘牛士みたいなメギド……?」

 

ザガン

「いやー、流石に丸ごとそっくりってわけじゃないよ。でも本当に凄くってさ」

「私がメギド体で突っ込んでも、ヴィータ体のそいつに傷一つ付けられないの」

 

バルバトス

「メギド体相手に、ヴィータ体で……!?」

 

ザガン

「うん、もう何度挑んでもブン投げられて、まるで闘牛士なんだよ、それが」

 

ソロモン

「メギド体のザガンをブン投げた!?」

 

ハーゲンティ

「ていうか、闘牛士って牛を投げる仕事だったっけ……?」

 

エリゴス

「どんだけ怪力だよ……」

 

ザガン

「いや、力は弱いらしいよ。あいつが自分から言ってたし」

「本当は下級メギドよりも弱くて、単純な力比べじゃ部下の誰にも適わないって」

 

バルバトス

「ますますわけが分からない……」

 

グレモリー

「ザガン、流石に私も要領を得ない。少し落ち着いて、順を追って話してみろ」

「まずは……メギドラル時代、貴様の戦法の手本になったメギドが居た事は分かった」

「そのメギドとの関係を語る上で、かつての貴様の事から聞かせてくれ」

 

ザガン

「あ、ごめんごめん、ちょっと興奮して突き進みすぎちゃった……」

 

バルバトス

「ま。そのまっすぐな魅力も、たまには空回りする事だってあるさ」

「(やっぱり誘導する必要がありそうだけどね)」

 

ザガン

「フォローありがと。じゃあえっと、まず私の事からね──」

「メギドラルの頃の私は……取り敢えずまず、軍団長だった」

「真正面から皆でメギド体で突っ込んで速攻でなぎ倒してくの、爽快だったなあ」

 

エリゴス

「フォトン不足のメギドラルで、随分豪快にやったもんだなあ」

 

ザガン

「だって、その方が派手だし格好いいじゃない? 罠も陣形も踏み越えれば良いんだし」

「そのためにも携帯フォトンは欠かせないし、携帯フォトン作るには領地も必要だし──」

「そのためには戦争しなきゃだし、だったら派手にやらなきゃだから──」

 

ソロモン

「派手な戦争の準備のために、戦争してた……?」

 

エリゴス

「ははっ、良いねえ。フォトンは『ついで』たあ、実に健全メギドじゃねえか」

「こりゃあ今も昔も余り変わってなさそうだな」

 

グレモリー

「そのザガンが軍団長として挑み続けて来たのなら、『憧れ』のメギドとやらもまた軍団長か」

 

バルバトス

「とすると……ちょっと妙だな」

 

ソロモン

「ああ。ザガンの軍団は、メギド体での正面突破が定石だった──」

「でもさっきの話だと、ザガンは軍団長同士で対峙して、しかも何度も投げ飛ばされたって……」

 

エリゴス

「軍団総出でカチ込んどいて、いつの間にか頭同士でタイマン張ってる事になっちまうな」

 

バルバトス

「一斉突撃しておいてそんな状況になる場合って言うと、その……」

 

ハルファス

「ザガン、追い詰められちゃったの?」

 

ザガン

「違う違う、あいつとは殆ど一騎打ちばかりだったよ」

「私が負け続きなのに部下達じゃ相手にならないってのもあったけど──」

「あいつの領地、殆ど棄戦圏ばっかりだったから、戦争自体がやりにくくってさ」

 

バルバトス

「あー、なるほどなるほど。戦争というより決闘や私闘に近かったわけだね」

 

ソロモン

「えっと……?」

 

バルバトス

「棄戦圏じゃ、まともなフォトンは手に入らないのは知ってるだろう?」

「つまり携帯フォトン頼りでも無ければ、メギドらしい戦争は望めない」

 

グレモリー

「水も食料も無しに遠征に出るようなものだな」

「肉体となけなしの武器頼みで、ヴィータのようにヨタヨタと争うのがやっとだ」

 

エリゴス

「ヴィータになった今じゃあ話は別だが、メギドとしちゃたまったもんじゃねえ」

「やって苦しい、勝って虚しい、名誉も侘しく成果も無し。いっそ首括る方がマシなくらいだ」

 

ソロモン

「確かにそんな戦い、ヴィータだってやりたくない……」

 

バルバトス

「だから多分、ザガン一人で攻め入って、それに向こうも応じたって具合さ」

 

ソロモン

「じゃあ、ザガンは棄戦圏での決闘を、それも何度も?」

 

ザガン

「うん。最初の頃は、『あんなヤツに負けたなんて何かの間違いだ』って思ってね」

「でも、その内に何だか、あいつと戦うのが……うーん」

「楽しいともちょっと違うし……とにかく夢中になっちゃった」

「適当に理由付けちゃあ携帯フォトン持てるだけ持って、あいつの領地に通いまくってたよ」

 

バルバトス

「それはそれで何というか……」

 

エリゴス

「向こうさんにゃあ良い迷惑だなあ。その度に迎え撃ちに駆り出されて──」

「しかも領地は殆ど棄戦圏だろ? 応戦の度に貴重な携帯フォトン使わなきゃならねえし……」

 

ザガン

「ふっふっふ……そこなんだなぁ、私が『ヴィータの』闘牛とあいつを重ねた所」

 

エリゴス

「へ?」

 

バルバトス

「『ヴィータの』って……まさか、ヴィータみたいにフォトンを使わず……とかじゃ無いだろうし──」

 

ザガン

「あったりー♪」

 

バルバトス

「え……?」

 

ソロモン

「ん……?」

 

エリゴス

「な……?」

 

グレモリー

「む……?」

 

ハーゲンティ

「ほ……?」

 

ハルファス

「フォトンを使わないで、メギド体のザガンを投げたりしてたって事で、合ってるかな?」

「だとしたら、すごいね」

 

ザガン

「でっしょー?」

「闘牛を見て、ヴァイガルドにもあいつみたいな戦い方する文化あるんだって知ってからもう──」

 

バルバトス

「い……いやいやいやいやいやっ! すごいねって次元じゃないからっ!?」

 

ソロモン

「あ……ほ、ほら、ヴィータ体でもメギドは力も強いし、『技』とか使えるし……」

 

エリゴス

「ありゃフォトンがあるから出来る事だ!」

 

バルバトス

「そもそも、俺達だってメギド体を切り札にしてるし、侵略に来るメギドも幻獣体を使う──」

「ヴィータ体との落差はそれだけ『桁違い』なんだ。フォトン使ったってメギド体とじゃとても……」

 

グレモリー

「……ザガン、確認するぞ。そのメギドはまず、メギド体の貴様と幾度も戦っている」

「終始ヴィータ体で応じ、フォトンをほぼ使わず、無傷で貴様を返り討ちにし続けた……」

 

ザガン

「合ってるよ。あいつが私と戦うのにフォトン使った所、見た覚え無いし」

 

グレモリー

「……」

 

 

 グレモリーが片手で自分の両こめかみを押さえ、頭痛を耐えるように黙り込んでしまった。

 

 

ハーゲンティ

「すごいっていうか……なにそれコワイ」

 

バルバトス

「ザガン、君を疑うわけじゃないけど──」

「それは何か手品的なものに騙されたとか、だいぶ話を盛ったりしてるとかじゃなく……?」

 

ザガン

「うんうん。私が納得いかなくて何度も挑戦した理由、ちょっとは分かってもらえたかな?」

 

ソロモン

「ほ、本気で言ってる……」

 

エリゴス

「そりゃあまあ……そんな負け方したら、昔のあたしでも屈辱どころじゃねえかも知れねえけど」

 

ハーゲンティ

「あたい達がフォトン使えないヴィータってだけで、攻めてくるメギドにナメられる事あるしね……」

 

バルバトス

「……ダメだ、闘牛と重ねて考えてみても、ザガンが負ける理屈が全然思いつかない」

「精々、君の突進を横へ飛び退いて逃げ続けるのがやっとのはずだ」

「ザガン、君はメギドラル時代、一体何を見たって言うんだ?」

 

ザガン

「うーん……馬車の中だけど、ちょっとくらい大丈夫かな?」

「バルバトス、答え教えてあげるから、ちょっと立って」

 

バルバトス

「え? あ、ああ」

 

 

 バルバトスが席から立つとザガンも立ち上がり、向かい合って設えられた座席の外へと出て、通路部分で振り返る。

 

 

ザガン

「口で言うより、実感してみた方が早いと思うんだよね」

「バルバトス、ちょっと私に殴りかかってみてもらえる?」

 

バルバトス

「な!? い、いやそれはできない!」

「君の方が力で勝るだろう事は確かだが、女性に手を挙げるのは俺のプライドが許さない」

 

ザガン

「あ、そっか。ごめんごめん」

「じゃあさ、ハイタッチはどう? ちょっと狭いけど、できるだけ走って、すれ違いざまに」

 

 

 ザガンが片手を、頭よりやや高い位置に掲げた。

 

 

バルバトス

「……それなら、まあ」

 

ソロモン

「実感って……何をする気なんだ?」

 

グレモリー

「まさか……な」

 

 

 着席組が足を引いてバルバトスのためにスペースを作った。

 ザガンに至るまでの3歩ばかりの道のりを小走りで進むバルバトス。ザガンがすれ違いやすいように、片手だけ残して少し横に移動した。

 2人の手の平が打ち合わされる瞬間──。

 

 

ザガン

「せいっ」

 

バルバトス

「え、はっ──!?」

 

 

 バルバトスの両足が宙に浮いた。

 

 

エリゴス

「(ハイタッチしようとした手を、直前でかわして、蛇みたいにバルバトスの腕に絡めた……!?)」

 

ソロモン

「(バルバトスの腕を引っぱり下ろしたと思ったら、腕を軸にバルバトスが宙返りした……!)」

 

 

 ザガンは深く腰を落としながら、空いたもう一方の手も添えてバルバトスの腕をしっかり捕えている。

 そのザガンの頭上を、天地逆転して飛び越えていくバルバトス。足先が弧を描いて──。

 

 

バルバトス

「ぐはぁっ!!?」

 

ザガン

「わっ!?」

 

 

 ザガンの背後へ落下しかけたバルバトスが、前後真逆の軌道で、しかも更に勢いを乗せてソロモン側の座席の方へ帰ってきた。

 ザガンにも予想外だったようで呆気に取られている中、馬車の床板に膝から激突しかけたバルバトスをグレモリーが片腕で受け止めた。

 

 

グレモリー

「おっと」

 

 

 バルバトスはグレモリーに支えられながら靴で着地できたが、それどころでない様子だった。震える手を背中に添えて、顔面から脂汗を滲ませ、表情には恥も外聞も捨てた深いシワが刻まれている。

 

 

バルバトス

「ぐっ……お、が……うぅ、ぬ……っ!!」

 

ハーゲンティ

「な、なな何が起きたんです!?」

「バルバトスのダンナ、タンスの角に小指ぶつけたみたいな切ない顔に……」

 

ハルファス

「ぎっくり腰になったおじいさんみたい……」

 

グレモリー

「腰椎に入ったな。骨に異状はなさそうだが、後で『技』で治療しておけ」

 

ザガン

「あわわ、ご、ごめんバルバトス! サ、サルガタナスも!!」

 

 

 ザガンが慌てて前後に慌ただしく謝罪している。行動の後に何が起こるかの想定がすっぽ抜けていたらしい。

 サルガタナスが座席に座り書物に目を落としたまま、片腕を鉤型に曲げて高々と掲げている。

 あのままサルガタナスの眼前か頭上に落下しかけていただろうバルバトスを、サルガタナスのアッパーが打ち返した構図だった。

 

 

サルガタナス

「次やったら、あんたら全員二度と自分の足で歩けなくしてやるわ」

 

ザガン

「ほ、本当にごめん、はしゃぎすぎちゃった……」

 

 

 改めてサルガタナスに頭を下げつつ、遠慮がちに自分の席へ帰るザガン。

 着席後、バルバトスが同じく着席したまま、前かがみになって背中を擦っている様子にオタオタするザガン。

 

 

ザガン

「え、えっと……バルバトス、お詫びにマッサージとか……どう?」

 

バルバトス

「う、ぐ……とても心躍る提案だけど……遠慮するよ」

「今やってもらったら……実年齢相応の気持ちになっちゃいそうだ……」

 

ソロモン

「バルバトス、長命者だもんな……取り敢えず、フォトン送るよ」

 

バルバトス

「うん……ザガンも、怒ってはいないから楽にしててくれ」

 

ハーゲンティ

「そ、それより、今、何やったんスか!?」

 

ハルファス

「ハイタッチしに行ったバルバトスが、フワって……何が起きたか、全然分からなかった」

 

ザガン

「あ、うん……ハイタッチしてくる勢いを利用して、腕を引いてバランス崩して、転ばせたの」

「同時にちょっと押して、私の肩に引っ掛けて、向こう側へ転がるようにしたんだ」

「要は、走ってくる人に足払いかけるのと似たようなものだよ」

 

エリゴス

「勢いを利用……じゃあもし、バルバトスが全力で殴りに行ってたら?」

 

ザガン

「腕の軌道を下にズラして引っ張って……うまく行けばそれだけで一回転させられたと思うよ」

「無理そうならさっきみたいに、私の方から動いたり背負って投げたりして後押しかな」

 

グレモリー

「その時は、バルバトスの腰もタダでは済まなかっただろうな」

「つまり相手の力、スピード、重量──」

「あらゆる破壊力を、丸ごと相手に『返す』……それが今の『技』なのだろう」

 

バルバトス

「ふふ……やはり、人徳は己をも助ける……と、いう事さ……」

 

ハルファス

「燃え尽きたみたいになってるね」

 

ザガン

「本当にごめんなさい。私ってば……」

 

グレモリー

「気に病むな。若い内の失敗は宝だ、次に活かせば良い」

「お陰で、貴様が何故、フォトンを使いもしない相手に負かされたかも大体分かったしな」

 

ソロモン

「そうだった、そういう話だった……」

「えっと、つまり……今みたいな『技』を、ザガンと戦ったメギドが使ってた?」

 

ザガン

「うん。私が出来るのは、頑張って修行して、やっと今のやつだけなんだけどさ」

「あいつは、今のを牛の角でやるくらいは朝飯前だったよ」

 

グレモリー

「なるほど、一つ合点がいった。本来なら闘牛は、牛がムレータを狙って飛び込んでくる」

「だから基本的に闘牛士はムレータを自身の脇に構える。だが、幻獣相手でそうはいかない」

 

ハルファス

「赤い布に興味持たなかったら、普通にザガンを襲って来ちゃうね」

 

グレモリー

「ああ。その問題を、ザガンは今の動きを応用して対処しているのだろう」

「投げ返すまでは行かずとも、武器で敵の攻撃の軌道を逸らす……ヴィータの剣術にもある技術だ」

 

エリゴス

「だが、例のメギドは避けるだけじゃなく相手の力を利用して、そのまま返して倒しちまうわけか」

「速攻でキメる昔のザガンとじゃあ、相性最悪だなあ。勝てねえわけだ」

 

ソロモン

「しかも戦場は棄戦圏……フォトンを必要としない『技』にとっては独壇場だな」

 

ザガン

「私もずーっと、おんなじ戦い方ばっかり仕掛けてたから連戦連敗だったよ」

 

バルバトス

「しかし今の技、確かにフォトンを使わなくても出来るのは分かったけど──」

「つまり、肝心なのは呼吸とかタイミングだろ? それも相手が強力であるほどシビアになる」

「メギド体が相手となると、今度はフォトンも無しに成功させる『集中力』が計り知れないな」

 

ハーゲンティ

「でも、フォトンを使わない『技』だから普通のヴィータにも出来るって事だよね?」

「アジトの皆で練習すれば、あたい達、もしもの時にも最強じゃないッスかね!」

 

ソロモン

「できるとしても、俺はハックやアマゼロトの鍛錬だけで、もう……」

 

ザガン

「流石に幻獣相手とかは無理だと思うよ? 多分、あいつが特別だったんだよ」

「あいつは、フォトンや力の流れが『視える』って言ってたし」

 

ソロモン

「フォトンと……力の流れ?」

 

ザガン

「体のどこに力を入れてるかを『視る』だけで、相手が何をしようとしてるか分かるんだって」

「どこにどう力を加えるとどうなるかも分かるから、ちょっとの力で転ばせたりできるみたい」

 

グレモリー

「『特性』か。なるほど。それなら本当はフォトンが必要だとしても、体内の僅かな量で賄えるな」

「それにしても、その『特性』は戦士としては垂涎モノだな。敵を先読みし放題だ」

 

ザガン

「私以外にも勝負仕掛けたヤツを何度か見たけど、どれも凄かったよ」

「一斉に取り囲んで組み伏せようとしたら、逆に全員地面に押さえつけられて起きれなくなったり」

「山くらいある岩の塊みたいなメギドが転がって突撃したら、空高く放り投げられたり」

 

バルバトス

「山くらいある岩みたいなメギド体……? どこかで会ったか聞いた気がするな」

「確か、将来の議席持ち最有力候補って話だったとおもうけど……?」

 

ザガン

「もしかして、私よりも勢い任せで、いかにもガンコオヤジって感じ?」

「あいつと戦ってるの見た時には現役の議席持ちだったよ。その時の戦いで死んじゃったけど」

 

バルバトス

「あー、多分、同一人物だ」

「すると……とんでもないな。フォトン無しでメギド体の議席持ちを……」

 

エリゴス

「しかもヴィータ体だろ? 本当にとんでもねえとしか言えねえな」

「あたしらなんか、良くてちょっと大きめの幻獣と渡り合える程度なのに……」

「けど、そんなに力があって、領地が殆ど棄戦圏ってのは……よっぽど権力に興味無かったのか?」

 

バルバトス

「攻め込む敵を疲弊させる天然の要塞……と言う使い方してそうな話にも聞こえなかったしな」

 

ザガン

「そもそもだけどさ、強いって事になるかな? 議席があるってだけで」

「私も議席持ってたけど、戦ってりゃ勝手に押し付けられるってイメージしかないよ?」

「地味でつまんない話するばっかりで、あんなの何が良いんだか……」

 

ソロモン

「まあ、ザガンの性格的には合わないだろうけど、議席って戦争でちゃんと……え?」

「ザガン、議席持ちだったのか!?」

 

ザガン

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

 

 全員の顔に「初耳だ」と書いてあるのを確認するザガン。

 

 

ザガン

「あっ……言ってなかったみたいだね。いやー、とっくに説明した気になってた」

「まあ、面倒な仕事は全部部下に任せてたし、有っても無くても一緒だよ」

 

ソロモン

「議席の扱いが軽すぎる……」

 

バルバトス

「今では現役や元・議席持ちの仲間も結構居るけど……」

「不死者でも純正メギドでもない議席持ちは、そういえば余り例が無かったね」

 

ハーゲンティ

「ダンタリオ嬢様と……後、誰いたっけ?」

 

エリゴス

「議席持ちのヤツに聞いても、ザガンの議席を知ってるかどうか微妙かもな」

「さっきの口ぶりからして、議会にも殆ど顔出さずに戦争ばっかしてただろうし」

 

バルバトス

「しかし、ますます底知れなくなるな……並の戦績じゃないぞ、そのメギド」

「議席持ちメギド2軍を敵に回して、片方の軍団長を自ら討ち取って……」

 

グレモリー

「うむ……かつての私は、戦場から離れていた分、情報網もそれなりにあったが──」

「そんなメギド、噂ですら覚えがない。議席持ちを討てば中央からも睨まれたはずだろうに」

 

ハーゲンティ

「負けたのが悔しすぎて、みんな秘密にしてたとか?」

 

エリゴス

「あー、それ有り得るな。あたしのヴィータの地元でも似たような話あったし」

「特別喧嘩の強えヤツが居ると、適わなかった連中が組んでコスいマネ始めやがんだ」

 

ソロモン

「具体的には?」

 

エリゴス

「そいつの家族や友人が一人でいる所狙ってイビったり、家の壁やら屋根やら落書きしていく」

「バレないようにコソコソやって、疑われたら知らぬ存ぜぬで逃げ通しやがんだ」

「それで逃げ切れりゃ『あいつは俺にビビッて手出しできないんだ』と笑い飛ばす」

「ぶん殴られりゃ『身内も護れない自分が撒いた種のくせに』と笑い飛ばす」

 

ソロモン

「うわあ、悲しいくらいみっともない……」

 

グレモリー

「見下げ果てた品性だが、それがメギドに有り得ないとも言い切れんしな」

 

ザガン

「そういう事かも……実際、変わった戦い方するから散々言われてたし」

「『卑劣な術を使ったんだ』とか、『あいつをメギドと呼んじゃいけない』みたいな」

 

バルバトス

「悪評が有ったなら、本来なら尚更、人口に膾炙しそうなものだけど……」

「試しに、そのメギドの名前、聞いても良いかい?」

 

ザガン

「結構、勝負しに来るメギドも居たと思ったんだけどなあ……」

「『セルケト』っていうメギドなんだけど、皆も知らない?」

 

ハルファス&ハーゲンティ

「え……?」

 

バルバトス

「セルケトか……ダメだ、記憶にない。俺が居た頃は随分前だしね」

 

グレモリー

「生憎と、私もだ。そんなにも『個』の際立ったメギドを見落とすとは……」

 

エリゴス

「知ってたらあたしも一度は吹っかけてただろうなあ、もったいねえ」

 

ハルファス&ハーゲンティ

「……」

 

ソロモン

「ハルファス、ハーゲンティ、どうした?」

「急に顔を見合わせたりして……何か心当たりあるのか?」

 

ハルファス

「あ、うん……」

 

ハーゲンティ

「ど……」

「どうしよう……話しちゃって良いのか、分からない……」

 

ソロモン

「それハルファスのセリフじゃ……?」

 

バルバトス

「言いにくい形で見聞きした事があるって事かな?」

 

ザガン

「何か知ってるなら聞かせてよ、色々誤解されてる事くらいは私も分かってるから」

 

ハーゲンティ

「いやあ、そのお……」

 

ソロモン

「……ハルファス」

「何か面倒が起きたら俺が何とかする。だから、教えてくれないか?」

 

ハルファス

「ソロモンさんがそう言うなら、そうする」

「でも……もしかしたら、人違いかもしれない」

 

ハーゲンティ

「あたいもそう思う……」

 

バルバトス

「勘違いだったとしても、情報は情報だよ」

「俺からも頼む。セルケトというメギドの知名度のギャップは気になる所だからね」

 

ハルファス

「わかった」

 

ハーゲンティ

「じゃあ、あたいも言っちゃうけど……」

 

ハルファス

「セルケトってメギドは聞いた事あるけど……『卑怯なメギド』って言われてた」

 

エリゴス

「まあ、さっきの話の通りだな」

 

ハーゲンティ

「それに、『強い』って話も『誰かに勝った』って話も、全然聞いたことなかったよ?」

 

ザガン

「そんなバカな、セルケトは私の他にも、沢山のメギドと戦ってたはずだよ?」

「メギド体の軍勢を一人で積み上げて山にしたの、私も見てたし」

 

バルバトス

「(むしろ信憑性が落ちそうな偉業だけどね……)」

 

ハルファス

「でも、私もザガンの言ってるような話、聞いたことない」

「セルケトは、口先だけでメギドを騙して従えてた……って」

 

ハーゲンティ

「よそのフォトンの無い土地ばっかり、勝ち取ったって嘘ついて領地が広いアピールして……」

 

ハルファス

「うん、本当の持ち主が怒ると、ちょっぴり持ってる棄戦圏まですぐに逃げて……」

 

ザガン

「は? ええ……」

 

ハーゲンティ

「悪口とかで誘い込んで、罠しかけたり石投げてばかりで直接戦おうとしないで……」

 

ハルファス

「付き合ってられなくて帰ったら、『尻尾巻いて逃げた』って言い触らして……」

 

ソロモン

「さ、さっきのエリゴスの話に出てきた連中そのまんまみたいなヤツだな……」

 

ハーゲンティ

「でしょ? 部下や領地持ってたのも、たまたま強いメギドの弱み握ったからとかで最後は──」

 

ザガン

「な……」

「なんだよソレっ!!!」

 

 

 座席から立ち上がり、怒鳴るザガン。

 

 

ハーゲンティ

「おひゃあぁっ!?」

 

ザガン

「全然話が違う! 確かにあいつは、棄戦圏ばっかり集める変なヤツだったさ!」

「でも、領地はちゃんと戦争で勝ち取ってきた! 敵が攻めてきた時だってそうだ!」

「敵も棄戦圏で戦うのを見越して色んな手を打ってきたよ、それでもあいつは正々堂々──!」

 

ソロモン

「お、落ち着けザガン! どんなに酷くたって所詮は噂だ!」

 

グレモリー

「そうだ。座れ、ザガン。ハーゲンティ達に当たった所で何の意味もない」

 

ザガン

「っ……ごめん……」

 

 

 我に返って、ゆっくり腰を下ろすザガン。

 

 

ハーゲンティ

「はえぇ……頭突き殺されるかと思った……」

 

ハルファス

「あの……これ、私も謝った方が良いのかな?」

 

ザガン

「ううん、ハルファス達は悪くないよ。カッとなっちゃった私が悪い」

「でも……私、本当に見たんだ。セルケトが沢山のメギドに勝ち続けた所を」

「例え全部が見間違えでも、私が……私が戦った。それだけは間違いないのに……!」

 

エリゴス

「誰もザガンを疑いやしねえよ、強えヤツがやっかみ受けりゃ、どこでもそんなもんだ」

 

ソロモン

「でも、ますます不自然な気がする」

「メギドの寿命で考えたら、ここ百年くらいの時間は、大した差じゃ無いと思うんだ」

「なのに、バルバトス達は全く知らなくて、ハルファス達には酷い噂ばかり事細かに……」

 

バルバトス

「……何か有ったんだな。両者の『空白』の間に」

 

ソロモン

「『空白』?」

 

バルバトス

「ザガン、無礼は承知だけど、君の年齢を確認しても良いかい?」

 

ザガン

「……17だよ。っていうか、まだそういうの気にする歳じゃないと思うけど?」

 

バルバトス

「ありがとう。まあ、人それぞれというものだからね」

「さっき2人が言ってた通り、ハルファスとハーゲンティは15歳なら……2年の『空白』だ」

 

グレモリー

「なるほど。確かに、メギドが追放されてからヴィータの子として生まれるまでの期間は短い」

「記憶のあるメギドの身の上を聞いた限りでは、その期間は長くとも1年以内だったな」

 

ソロモン

「そういえば、追放から転生まで、1日と経ってないんじゃないかみたいな出来事が何度か……」

「つまり、ザガンが追放されてから、ハーゲンティ達が追放されるまでの2年──」

「この間のメギドラルの出来事を、ザガンが知る術は無いって事か」

 

ザガン

「そっか、その間に、急にセルケトの『功』まで無かった事にされて……」

 

エリゴス

「問題は、その2年間に何が起きたかじゃねえか?」

 

グレモリー

「大体察しは付くが……」

「丁度、そういった事に詳しい顔が居るじゃないか。なあ、サ──」

 

サルガタナス

「知らない」

 

グレモリー

「やれやれ、また即答か」

 

 

 余裕そうに肩をすくめるグレモリー。通路向こうの座席のサルガタナスは読書の姿勢を崩さない。

 

 

グレモリー

「だが、仮にも中央所属だろう。中央がメギドラルの情勢を見逃すはずがない」

「それに研究畑とはいえ、情報が全く入ってない事はあるまい。余程、軽んじられて無ければな」

 

サルガタナス

「安い皮肉しか言えないなんて、頭まで筋力頼みのヴィータはいっそ哀れね」

「知らないものは知らない。知ってた所で下等生物どものために脳を無駄遣いしたくないの」

 

ソロモン

「機嫌悪いなあ……」

 

エリゴス

「本当なら今頃、酒場で一杯やってたんだろうしなあ」

 

ハーゲンティ

「そ、そこを何とか、おねげえしますだ~!」

「ザガン姉さん怒らせたままなんて、あたいこのままじゃいたた、た……たまれないんです~!」

 

ハルファス

「(噛んだ?)」

 

バルバトス

「(『た』の回数が分からなくなったな)」

 

ザガン

「い、良いよハーゲンティ、私ももう頭冷えたし……」

 

サルガタナス

「知ったこっちゃないものはないわ」

「その三流道化芝居みたいなクサイ台詞聞いてると、必要な記憶まで遠のきそう」

 

ハーゲンティ

「そんな~、これもあたいの『個』ってやつですよ~……」

 

ソロモン

「ま、まあ、いいんじゃないかな。無理にサルガタナスから聞き出すのも悪いし」

「それに、セルケトに良くない事が起きたんだろうって事は、もう察しがつくし……」

 

ハルファス

「でも……ちょっと残念だね」

「中央の頭の良いメギドでも、私達と同じくらいしか知らない事もあるんだね」

 

 

 ……。

 

 

一同

「……」

 

サルガタナス

「………………………………」

 

 

 馬車内の空気が変わった。今、ここが戦場だったなら、戦列の中心に立っているのは間違いなくサルガタナスだった。

 穏やかな陽気が馬車に射し込んでいた。

 サルガタナスの無表情な眼鏡が光を全反射している。

 

 

ハーゲンティ

「ハ……ハ、ハハ、ハル……ハル、ちゃ……さん……?」

 

ハルファス

「……あれ?」

「えっと……私、何か変なこと言っちゃったみたい?」

 

ソロモン

「い、いや……そんな事は、無い……よ、多分」

「ハルファスは、セルケトの事を詳しく知れなくて残念って言っただけだもんな……」

「気にするような、事は……何、もない……かも、しれない……か、な?」

 

エリゴス

「(ソロモンまで優柔不断に……)」

 

 

 頼りないフォローを入れながら、横目にチラチラとサルガタナスの反応を伺うソロモン。

 

 

ソロモン

「(サルガタナスのページ持つ手が震えて、ページにどんどんシワが……!)」

 

ザガン

「(バ……バルバトス、空気、空気!!)」

 

バルバトス

「(無茶言うな! 幾ら女性の頼みでもこの世にはどうしようも無い事だってある!)」

 

エリゴス

「(でもどうすんだよ!? まだアブラクサスの影も見えてねえんだぞ!)」

 

バルバトス

「(最悪の場合でも、今は任務中だ。グレモリー辺りが強引に諌めてくれれば──)」

 

グレモリー

「フッ……ククク……っ!」

 

一同

「(グレモリーが吹いた!?)」

 

グレモリー

「どうした、サルガタナス。言われっ放しで終わるつもりか?」

 

一同

「(煽った!?)」

 

エリゴス

「(何考えてんだよ! 何でこんな時に限って火に油注いでんだ!?)」

 

ザガン

「(サルガタナスを笑った事、隠そうともしてない……2人って、仲悪かったっけ?)」

 

バルバトス

「(いや、逆かもしれない。サルガタナスを高く評価してるからこその態度だ)」

「(こんな状況で決定的に場を壊すまで、身勝手なやつではないと思ってるんだよ)」

「(多分、冗談で怒りの矛先を自分に向けつつ、笑い話で流させようって魂胆さ)」

「(その冗談が、絶望的に分かりにくいってだけで……)」

 

ソロモン

「(グレモリーとサルガタナスって、戦闘でも余り組ませないしな)」

「(相性が悪いって事はないけど、お互いもっと良い組み合わせもあるし)」

 

エリゴス

「(『能力』と『性格』は知ってても『人となり』までは……ってか)」

 

バルバトス

「(実力と下調べに裏打ちされた自信がある分、踏み抜く足場も大きいな……)」

 

ザガン

「(っていうか、サルガタナスからグレモリーにメッチャ殺気飛んでるよ!?)」

「(眼鏡の下で絶対に全力で睨んでるよアレ!)」

 

ハーゲンティ

「(死にかけで幻獣に追われた時を思い出すぅ……マム、肝座りすぎぃ……)」

 

エリゴス

「(このままじゃ爆発しちまうかもな……バルバトス、骨は拾ってやるから……)」

 

バルバトス

「(お、俺は……俺は無力だから……)」

 

 

 タン、と軽い音がして、それひとつだけで一同が肩を強張らせる。

 恐る恐る、音のした方──サルガタナスを見ると、顔の前で本を閉じた音だと分かった。

 

 

サルガタナス

「スゥーー…………ハァ…………。『セルケト』──」

「公式には中央に属さず、けどまつろわぬ諸王と違って中央にフォトンも納めてた奇妙な距離感」

「棄戦圏を好んでかき集めていたから、中央からも目的が分からず気味悪がられていた」

 

ソロモン

「あ、あの……サルガタナス?」

 

サルガタナス

「セルケトが中央に認知された頃から幻獣管理の厳格化が促進。原因は蛹体」

「非力なままに戦功を上げるセルケトの噂に幻獣が感化され増長しだしたから」

「その点ではウチの部署も少なからずセルケトの迷惑を被ったと言えるわね」

 

エリゴス

「ヤケクソだな、ありゃあ……」

 

サルガタナス

「部下の反乱で中央に突き出されデッチ上げ丸出しの醜聞と共に中央に処分を一任された」

「軍団は間もなく内部分裂で消滅し遺された領地を回収したメギドにマラコーダの名があった事だけ覚えてる」

「後の事は本当に知ったこっちゃ無いどうせ即刻処刑でしょうねえっ!」

「マ・ン・ゾ・ク!?」

 

ハーゲンティ

「あ、ありがと、ござます……」

 

ソロモン

「なんか、ほんとごめん……」

 

サルガタナス

「フンッ!」

 

 

 本を乱暴に座席に叩きつけ、サルガタナスは窓の外の景色へと顔を背けた。

 

 

ザガン

「な……何だかんだ、教えてくれたね?」

 

バルバトス

「あのままキレてたら、グレモリーの掌で踊るようなものだと踏み止まってくれたんだろうね……」

 

グレモリー

「ふふっ……仲間内はどいつもこいつも、素直でないやつばかりで困るな」

 

一同

「(絶対そういうことじゃない……)」

 

バルバトス

「と、とにかく、粗方は予想してた通りと言えるかな」

「ザガンが追放された後、何か大きな事件で、セルケトの軍団で蜂起があったようだ」

「その結果、不幸にもセルケトは遅れを取り、中央へ『戦果』として差し出された」

 

ザガン

「あいつが負けたなんて考えられないけど……それしか無いよね、やっぱり」

 

ソロモン

「身内が相手だった分、不意を突かれたのかも知れないな……」

 

エリゴス

「負けたメギドの扱いなんて決まりきってる……その後は処刑か、でなきゃ追放か」

 

バルバトス

「何気に、ベヒモスみたいにプーパの上昇志向にも火を点けちゃったみたいだしね」

「中央どころか、幻獣を擁する全ての軍団にとって迷惑極まりない……詰みだね」

「それにそうなると……ハルファス達が脚色されたセルケト像だけ知ってた理由も説明がつく」

 

ハーゲンティ

「え、そうなんすか?」

 

エリゴス

「中央に突き出す時に部下が有る事無い事ほざいたって言ってたし、それが広まったとか?」

 

バルバトス

「いや違う……ザガン、セルケトはもしかして、戦争には消極的な方じゃ無かったかい?」

 

ザガン

「あ、うん。他のメギドが興味なくした棄戦圏を、形の上だけ略奪してるって印象だった」

「私を殺さなかったのも、戦争しないために利用してる……みたいに言ってた気がする」

 

ソロモン

「気がする?」

 

ザガン

「いやあ、あの頃は、難しい話とかちゃんと聞いて無くって、記憶も曖昧でさ……」

 

ハーゲンティ

「うんうん、分かる分かる」

 

ハルファス

「うん」

 

バルバトス

「まあ、細かい理由はさておき……それなら間違いなさそうだ」

「つまり、セルケトに挑んだメギドの大半は、領土以外の目的で攻め込んだという事になる」

 

エリゴス

「ザガンがまさしくそうだったしな」

 

ソロモン

「領土と関係なく戦争するって事は……『功』が必要か、単に腕自慢なメギドって事か」

 

バルバトス

「そう。そしてそんなメギド達にとって、フォトン無しの相手に負けたなんて醜態も良いとこだ」

「しかも、『セルケトと戦って生きて帰ったメギド』達の間には暗黙の了解ができる」

「本物のセルケトを知っているという事は、セルケトに負けたという事……ってね」

 

グレモリー

「なるほど。セルケトを知る者同士、下手な口を利けば互いの恥を晒す事になる」

「単なる陰口以外の情報が交わされず、知らぬ者には全く知られなかった理由がそれか」

 

ソロモン

「セルケトに負けた事を指摘すれば、相手にも言い返されて、どっちもセルケトに負けた事がバレる」

「別のメギドにセルケトの事を知られたら、実態を調べられて、やっぱり負けがバレるかもしれない」

 

エリゴス

「だから負け犬同士で声高にこき下ろし漫才ってか。メギドの誇りの欠片もねえな」

 

バルバトス

「その誇りを、セルケトに打ち砕かれた後だからねえ……」

「プライドを守るために、あらゆる手段で箝口令を『強いて』た可能性もある」

「もしセルケトに陰口を知られて攻め込まれたら、今度こそ敗北を証明されかねないからね」

 

ザガン

「あいつは、そんな事しないと思うけどなあ」

 

エリゴス

「本物がやらなくたって、そいつの中で『それが当たり前』なら、そう決めつけちまうもんさ」

 

バルバトス

「真相がどうあれ、ザガンの追放後、何か大きな変化があった事は間違いないね」

「セルケトを臆面なく貶める事が出来て、それを正す事も封じる事も無くなるような、ね」

 

ザガン

「うーん……残念だけど、仕方ないかあ。なんたってメギドラルだし」

「あーあ、元気だったら、ソロモンにも一度会わせてみたかったのになあ」

 

ソロモン

「ザガンがそんなに気に入ってるくらいなら、俺とも話の合うメギドだったんだろうな」

 

ザガン

「うん、それはきっと間違いないよ。戦争しか頭になかった私にも、いつも礼儀正しいやつだったし」

「私がヴィータの生活を楽しめてるのも、あいつのお陰って言っても良いくらい」

 

バルバトス

「そう言えば、いつだったかアジトの女子会で似たような事言ってたね」

「ザガン、君は記憶を取り戻した時も特に悩む事もなく、むしろ喜んでさえいたとか」

 

ザガン

「あ、聞いてたの? やーらしー」

 

バルバトス

「流石に悪びれてはやれないねえ、広間に居合わせた連中、全員に聞こえてたはずだよ?」

 

ハルファス

「私も居たけど、最後はブネに怒られちゃった」

 

ザガン

「あはは、分かってるってば」

 

ソロモン

「あの……悩むって、どういう事だ?」

 

エリゴス

「メギドの記憶ってのは大体はそれなりに自我ってもんが固まってからやってくるからな」

「自分がメギドで、今は弱っちいヴィータなんだと理解すると、落差にガクッと来んのさ」

 

グレモリー

「大概のメギドからすれば、ヴィータは所詮フォトン袋だからな」

「幼い内に目覚めたなら、弱く愚かに生きてきたヴィータの過去と今を恥とさえ思うかもしれん」

 

ハーゲンティ

「あたいはあんまりそういう事無かったけど、やっぱ貧乏がキツかったなあ」

「メギドの頃には思いも寄らなかった、お金とご飯の日々……今はもうすっかり慣れたけどね!」

 

バルバトス

「5歳児並の知能で生き続けたある男性が、40歳で急に年相応の知性に目覚めた感じかな」

「39の中年男が、『一人でお使いできて偉い』みたいな生活して、それが自分だと気付き……」

 

ソロモン

「ふ、不憫過ぎる……」

 

ザガン

「そ、そこまで言う事ないと思うよ……?」

 

バルバトス

「失礼、ちょっと極端だったかもしれない。だが、要点は外れてないはずだよ」

「それが元で、ヴィータとしての自我と折り合いを付けるのに苦労したメギドも居るはずだしね」

 

ソロモン

「ザガンにはそういう事が殆ど無くて、それが珍しい事だった……?」

 

バルバトス

「途端に『え~~っ!?』って声が響き渡って、昼食中のフォラスが釘刺したくらいにはね」

 

グレモリー

「女3人とガチョウ1羽で市が立つ……か。私も昔はそうだった」

 

一同

「(そうだったのか……!?)」

 

グレモリー

「ザガンに悔いる所が無かった理由もまたセルケトか。不躾だが、そこも気になる所だな」

 

ザガン

「気になっちゃう? 良いよー、せっかくだしジャンジャン──」

 

 

 外から大声で呼びかけられた。

 ソロモン達の馬車と並んで進む、ガブリエルの馬車からだ。

 

 

騎士ヒラリマン

「ソロモン王とメギドの皆様ー! そろそろアブラクサスが見えてきますので準備をー!」

 

 

 窓を見ると、ガブリエルの馬車から童顔の騎士が呼びかけていた。

 

 

バルバトス

「おっと、どうにか場を繋げられたようだね」

 

グレモリー

「うむ。ザガン、興味は尽きないが続きは一旦お預けだ」

 

ソロモン

「森に幻獣が出るなら、周囲も充分危険なはずだ。皆いつでも戦闘に出られるよう頼む!」

 

ザガン

「はいはーい、それじゃあ、お楽しみはまたの機会に♪」

 

 

<GO TO NEXT>

 

 

 




※ここからあとがき

 期日ギリギリでバラキエルイベを読んできました。

 イベントの内容とは関係ありませんが、 
 適当に1-2前半、馬車内でバナルマを説明するときのやり取りをタップ数で数えた結果、数え間違いを考慮すると約103~105回。
 セリフ欄は約45文字なので、仮に全セリフギリギリまで使ったとすれば4500文字ちょっと。
 同じく1-2後半は68~70回なので3150文字弱。
 1-3前半は約85回で3825文字前後。
 1-3後半は約87回で3915文字前後。
 会話文のみでの文字数がこの範囲で、1チャプターの目安といった所でしょうか。
 折角なら原作に合わせて行きたいので、長くても総文字数6000~7000文字あたりで収まるよう心がけていければと思います。
 早速オーバーしてますが、描写を省いて分かりにくくなってはお粗末すぎるので、あくまで努力目標という事で……。


 フルカネリ、潰れてしまうん……?
 二次創作的にも便利で楽しい組織なので、存続して欲しいものですが……。
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