アブラクサス内部。正門を通され、門前広場で入国審査を受ける「潜入組」の4人。
老朽化した正門は、しかしまだ現役で機能を果たしている。
潜入組の4人は入国審査担当と思われる数十人規模の女性たちに囲まれ、好奇心や警戒の眼差しを向けられている。
ザガン
「(正門も中もだいぶ寂れてるけど、思ったほど酷い状態じゃないね。遺跡みたいな感じ)」
グレモリー
「(長年、幻獣の被害も無かったからな)」
「(真に出入りの少ない場所には埃もさして積もらん。ましてここは潮風を始め万全の対策がある)」
ザガン
「(手入れがされてないってだけなら、結構キレイに残るってわけだね)」
小声で語らう2人に、いかにも人の落ち度を好んでいそうな声が飛ぶ。
アマーチ
「こらソコっ、私語は謹んで! もうすぐ責任者が来るのよ!」
声の主もまた、底意地の悪さが滲み出たような雰囲気の女だった。
ザガン
「うわっ、聞かれてた……」
???
「あらあら、随分はしたない『亡命』希望者が来たみたいね」
アマーチの背後から数人の女性たちがやって来た。
その中から、今しがた嫌味を投げてきた声の正体を見つけ、4人は大体が同じ感想を胸中で呻いた。
ザガン
「(うっわ……こんな所だってのに、服もアクセもケバいしメイクも盛りまくり……!)」
身寄りのない者達の一員にはとても見えない、マフィアの愛人そのもののような女だった。
ハーゲンティ
「(想像以上に金持ちそうな人が来た……)」
グレモリー
「(見るからに、アレが幹部の1人だな)」
「(だが、まず『シュラー』ではない。こっちの女は敵を作って潰す方が得意な手合だ)」
ザガン
「(ケバい女と、取り巻きっぽいのが2人、割と普通な人が1人、あと……ちっちゃいお婆ちゃん?)」
「(合わせて5人か。どれもシュラーっぽく無さそうだなぁ。まあ初日から会えるはずもないか)」
小柄な老婆
「…………」
新たに現れた5人組の中で、樹皮と腐葉土を捏ねて作ったガマガエルのような酷い容貌の老婆が先んじて前に出て、潜入組を品定めするように何度も何度も睨めつけて来る。
だが、先程グレモリー達を咎めた女・アマーチは、老婆を露骨に無視して、ザガン評するところのケバい女に向かっていく。これで合わせて6人組。
アマーチ
「ご足労すみませんサイティ様、『亡命』希望者は4人、名前と身分は先ほど確認済みです」
サイティ(ケバい女)
「ご苦労さんね、アマーチ。で、今回はどんな感じ?」
取り巻きアマーチ
「はい。距離の近い者から順に──」
「元・ペープカンプ領の私兵『ギーメイ』」
「闘牛士『カリナ』」
「剣闘士『チータ』」
「そして──住所不定無職です」
サイティ
「あらまたなの? 面白い顔ぶれだと思ったのに、毎回1人は住所不定無職が──」
「って、ちょっとマジ? 住所不定無職すぎない!?」
取り巻きバーズレー
「あそこまで住所不定無職なやつ、初めて見た……!」
取り巻きレディス
「住所不定無職みが後光になって見えるくらいだわ……」
アマーチ
「あれだけの住所不定無職のためには、きっと眠れない夜もあったんでしょうね……」
潜入組の内の1人を憚りもせずジロジロ見ながら、何のためにやって来たのかも分からなくなるほど雑談に興じ始めるサイティと取り巻き達。
ハーゲンティ
「これってもしかして……」
「あたい、何だか好印象? 一発目からハート鷲掴みっすか!?」
ザガン
「違うの……すっごく、バカにされてる……」
当事者でないザガンの方が情けなくて泣きたくなっている。
小柄な老婆
「…………」
サイティ達がケラケラ笑っている間に、老婆が順繰りに4人を間近で観察している。そして最後の1人を真正面から見上げた。
ハルファス
「……?」
小柄な老婆
「…………フン」
鼻息1つ鳴らして、老婆がプイと背を向けて離れていった。
ハルファス
「(あ、行っちゃった……私たち、何か怒らせちゃったのかな?)」
グレモリー
「(あの老婆、見かけに反して相当身軽だな)」
「(顔貌から察せられる歳の割に、身のこなしが若々しすぎる。警戒しておくべきか……?)」
仲間内で比べるならダンタリオンほどの背丈しかない老婆の足取りが、飛び跳ねる事すら容易いだろうほどに軽い事をグレモリーは見逃さなかった。
背は曲がって足取りもゆったりとして見えるが、そうと気付けば明らかに、脱力して姿勢が悪い程度のそれだった。
老婆はサイティ達の元へ引き返し、5人組の最後の1人──彼女らの中にあってはむしろ異質なほどにごく自然体な女性に何か指示した。
指示された女は、直前までグレモリー達を取り囲んでいた多数の女性たちから報告を受けていたが、老婆の指示を受けるなりグレモリー達の元へ駆けてきた。
ライア
「始めましてぇ皆さん、ライアと申しまぁす!」
「先程ぉ、『秘書』さまからOKいただけましたのでぇ、これで皆さん、入国が認められましたぁ!」
ザガン
「え……も、もう?」
元気ハツラツとして、しかし少し間延びした声の女・ライアが、先ほど周囲の女性の1人から受け取った書類を読み直しながら続ける。
見てるだけでこっちまで頬が緩みそうな、太陽のようなニッコニコ顔が印象的だった。
ライア
「いっえ~すざっつら~い! 今週の入国審査担当はぁ、私と秘書さまとサイティさまなのでぇ」
ザガン
「ざっつらい……?」
グレモリー
「三者で『決』をとる方式か。先程の老婆……『秘書』と、貴様が入国を認めた、と」
「あの『サイティ』なる人物が反対したとて、これで2対1だからな」
ライア
「そうなんですよぉ! ついでに言えば3人全員賛成でぇす!」
「先にアマーチさん達が取って下さった調書にも変わった所は無さそうでしたしぃ──」
「それに基本、ウチは訳アリが大体ですからぁ、来るモノまずは拒まずですのでぇ!」
ハーゲンティ
「いや~良いトコだねぇー、身分怪しくても住まわせてくれる職場なんてそうそう無いよ?」
ザガン
「いやぁ……『良いトコ』、かなぁ……」
口をへの字にしながら、ザガンがサイティ達を見やる。
運悪く、サイティ達の目線とザガンの横目がバチリとぶつかった。
それに気づいたサイティと取り巻きが目元を醜く笑ませて、顔を寄せ合い声のトーンを高めた。
バーズレー
「クスッ、見てよあの『汚い別物』見るみたいな目」
アマーチ
「居るんですよねえ、落ちぶれてここに来たクセに、昔の立場を振りかざして自覚も無い女……」
レディス
「しまいにゃ『自分以外の女はクズしか居ない』とか偉そうに喚いて自爆するタイプね」
ザガン
「(なっ……何こいつら、勝手に人の事知ったみたいに……)」
サイティ(ツッコミ待ちのように)
「やーねー、ちょっと派手なもの着てるってだけでお高く止まっちゃって」
ザガン
「(あんただって人の事言えないだろッ!)」
バーズレー(一回り大きめの声で)
「よしましょうよサイティ様、ああいうタイプに限って根は陰湿なんですよ?」
アマーチ(聞こえよがしのヒソヒソ声)
「しかもあの女、仕事にイカサマ仕込んだのバレて故郷追われたんですってよ?」
ザガン
「……」
レディス(ニヤつく口を覆いながら)
「やだ、怖ぁい……後で何されるか分かったもんじゃないわ……」
ザガン
「……ちょっと訂正させてくる」
ザガンの声から熱が失せた。幻獣相手でも見せないような目つきをハットに伏せて、脚に余計な力を込めながら歩き出した。
ライア
「ちょちょちょ、ま、マズイです、相手が悪すぎます……!」
ハーゲンティ
「初日でケンカは針のムシロコースだよぉ、抑えて、抑えて……!」
グレモリー
「ふむ……」
ザガンの地面にヒビを入れんばかりの重々しい前進を、グレモリーが眼前に腕を差し込んで制した。
ザガン
「邪魔しないでよ! あんなにムチャクチャ言われて黙ってろっての?」
グレモリー
「容易く乗せられるんじゃない。どの道、恫喝如きで改まる品性ではあるまいよ」
「『目的』を忘れるな、『カリナ』。今すべきは突撃ではない、受け流し、利用する事だ」
「華麗に……貴様のようにな」
ザガン
「え? あ、ちょ……」
ザガンをその場に留まらせて、優雅にサイティ達へ歩み寄るグレモリー。
昂ぶる仲間を抑えつけて、冷静なリーダー役がやって来る絵面にほくそ笑むサイティ。
サイティ
「(手下に代わって頭でも下げて見逃してもらおうって魂胆ねぇ、賢いじゃない?)」
「(これであいつらのウチでの立場も決まりね。新入りには誰が上か、ちゃ~んと躾けないと)」
グレモリー
「……」
グレモリーの日頃から鋭い目つきが、サイティ達の動向を監視するかのように真っ直ぐ向いていた。
それでいて、隣に友人を並べて語らうかのようなリラックスした歩みでグレモリーは……剣を抜いた。
しかもほんの一瞬だが、素人の肌も痺れさせるほどの殺気を叩きつけながら。
取り巻き3人
「ひっ!?」
涼しく上品な音で抜かれた刀身の煌めきに灼かれるかのように、身を寄せ合い露骨に後ずさる取り巻き達。
グレモリー
「……ふっ」
抜剣の動作のまま、弧を描いて掲げられた剣先の軌道が、宙で弧から円となり、次の瞬間にはグレモリーの足元に埋まっていた。
突きを想定した細身の剣ではあるが、踏み固められた地面に対し、剣はたった一撃でキレイに聳え立った。
捨てるように剣を傍らに置き、腕組みしながらサイティ達の方へ向き直るグレモリー。
綺羅びやかな微笑みにどこからともなく風が訪れ、髪や衣服の裾をなびかせまくり、既に勝利したかのような風格を惜しみなく撒き散らしている。
グレモリー
「驚かせて済まんな。だが見ての通り、こちらに争うつもりは無い」
「どうも我々に『怯えていた』様子だったのでな。ひとまず武器を手放してやったまでだ」
まだまだ風を受け続けているグレモリー。取り巻き達が感じ取った殺気は失せていた。
その場を一歩も動かないグレモリーを見て、本当に襲いかかる気が無いと認識し始めた取り巻き3人が、自分たちの醜態に気づき、ワナワナ震えだした。
バーズレー
「な……な、な、な~~~にが『驚かせて済まんな』ぁよ! ムキになっちゃってバッカみたい!!」
レディス
「しし、新入りのクセによお、アテェらに武器抜くって事がどういう事か分かってんのかオォン!?」
アマーチ
「アンタの連れのイカサマ女が勝手にキレたのが悪いんでしょ!?」
「さっさと2人揃って頭下げなさいよ! それがスジってもんでしょうが!」
サイティ
「(ッ、このバカ共が……!)」
口から出るままに三人がかりでグレモリーを罵る取り巻き達。グレモリーは涼しい視線で、好きに言わせている。
リーダー格のサイティだけは先程の殺気にも動じる事なく、一瞬だけ取り巻きに非難の視線を向けかけたが、すぐさま冷静にグレモリーを睨み返した。
サイティ
「(そこは虚勢でも『カッコ付けて勘違いかましたイタいオバン』を笑い飛ばすとこでしょうが!)」
「(『私は話も聞かずに片っ端から言い返すだけの三下です』って言ってるようなもんじゃないの……!)」
ザガン
「うわあ……何か急にメチャクチャ言いまくってる……」
ハルファス
「剣を抜く前、グレモリーが凄く怖い感じがした気がするんだけど、そのせいかな?」
ザガン
「多分ね。あんな殺気、普通のヴィータじゃ死ぬまで縁が無いだろうし」
取り巻き達の狼狽えように、ザガンの頭もすっかり冷えてしまった。
サイティ
「(クソッ……バカ共が返事したお陰でもうペースも掴まれた)」
「(これじゃ迂闊に言い返した所で、私まで『怯えて喚いたバカ女』の仲間入りだわ)」
アマーチ
「大体ねぇ! ヘタこいて居場所も無いようなヤツが何様のつもりなのよ!?」
「サイティ様はここの財務を一手に担うお方なのよ! 相応の態度ってモンがあるんじゃないの!?」
サイティ
「(ほーらバカ。私を自分の盾にする事しか考えられなくなったバカ)」
「(私はお前の安心のために生きてるわけじゃないっての。コイツもそろそろ切り時かしらね)」
表情を崩さず目もくれず、胸中で取り巻きに見切りを付け始めるサイティ。
グレモリーは、まだサイティと取り巻き達の様子を伺っている。
グレモリー
「(ほう。サイティという女だけ、我関せずとばかりに取り巻きの値踏みを始めているな)」
「(私は驚かせた『だけ』……浮足立った者が勝手に墓穴を掘っている。それを理解している)」
「(無法の地で人の上に立つ程度には『もの』が違うという事か)」
「(しかし、かえって好都合だ……『噛み合っていない』のだからな)」
レディス
「おい聞いてんのかババア!!」
グレモリー
「ククッ……ああ、失礼した。話が終わったようなら、ちゃんと返事をしてやろう」
苦笑を堪えて、敢えて褒めてやるかのようなニュアンスで返答するグレモリー。
ようやく、グレモリーをはためかせていた謎の風も収まっていた。
グレモリー
「そうだな……確かに、私達は『かつての居場所を追放された』者達だ。それは認めよう」
「だが相応の態度というなら、先程から見せているのだがな」
「この通り、武器は捨てた。まだ『怖い』なら、後ろ手でも組んで歩み寄ろうか?」
バーズレー
「ふざけないで! そんなに『ふんぞり返った』どこが相応の態度よ!」
「それが人を敬う態度だとでも言いたいの!?」
グレモリー
「当然だ。『良き関係』を築くなら、上辺の『へつらい』など捨てて、腹を割って語らうべきだろう」
バーズレー
「良き……はぁ?」
グレモリーが取り巻き達に一歩、歩み寄った。
ただし、先程グレモリー自身で言ったような、手を頭の後ろで組むような事はしていない。至ってリラックスした姿勢だった。
グレモリー
「何がおかしい? これからの新生活を共にする上で、まとめ役と顔を合わせる機会を得たのだ」
「生憎と、これが着飾らないありのままの私だ。故に、偽りも打算も無い」
「それとも『卿ら』の文化では、これ以上に誠意ある姿勢があるとでも?」
バーズレー
「そ……──!」
サイティ
「へぇ……。あなた、私と『お友達』になりたいって事?」
グレモリー
「流石に、話が早くて助かる」
穏やかな声で応えるサイティの目は露骨なほどに、笑っていない。
グレモリーもまた、剣を構えている時と全く同じ顔で唇だけを笑ませている。
サイティ
「でも私達、会って間もないのよ? そんなにあなたに気に入られる事したかしら?」
アマーチ
「サイティ様! こんなやつの口車に乗っちゃ──!」
割り込んできたアマーチに、サイティがニッコリと微笑み、小声で囁いた。
サイティ
「(テ・メ・エ・ガ・ダ・マ・レ・ヨ)」
アマーチ
「ひっ……!? す、すみ……すみ、ません……」
一言で青ざめるアマーチ。見る間に震え、呼吸も荒れ始めた。
空気を察して残る取り巻き2人がアマーチを連れて一歩下がった。
グレモリー
「(あの怯えよう、何か『裏』があるな……まあ、今は確かめる時ではない)」
「話は済んだか?」
サイティ
「ええ。『お陰様で』手早くね」
グレモリー
「『心当たりは無い』が、素直に感謝として受け取ろう」
「先程の続きだが、私もこう見えて目がないタチでな……『噂話』というものに」
サイティ
「あぁら、可愛らしいこと」
グレモリー
「恥ずかしながら、幾つになってもやめられんというものだ」
「その点、『卿』となら話題に事欠かなそうだからな。だから『剣を向ける事は無い』と示した」
「流石に仲間の風聞をとやかくされる事には思う所あるが、何事も棲み分けというものがある」
サイティ
「なぁるほど、『兵士流』の礼儀だったって事ね」
「ごめんなさい私ったら、思わず足が竦んじゃってたわぁ。すこぉしばかり粗野だったものだから」
グレモリー
「それは失礼した。少々『貴族流』の剣技に浸かりすぎて、視野を狭めていたかもしれんな」
サイティ
「まぁ、お盛んな事」
「あなた『気に入っちゃった』わぁ。あなたの『ご趣味』は?」
グレモリー
「興味をそそれば選り好みはしない。聞き手になるなら尚の事、つまらなかった話題など1つもない」
「そう、例え……人目憚る『醜聞』だろうと、忌避する事は無いと誓おう」
「無論、この場に居る者らへの『愚痴』でも良いぞ」
サイティの前でグレモリーが、周囲の人だかりに紛れた秘書とライアへと視線を逸らした。
ほんの一瞬、横目で同じ方向を確認するサイティ。
すぐさま視線の移動など無かったかのように笑うサイティ。
サイティ
「やぁだ、遠慮のない『兵士様』だこと」
グレモリー
「躊躇うことはしない。私の全てを曝け出す。それが私の『誠意』だ」
「それに、『社交界』で随分と慣らされたものでな」
サイティ
「クスッ……」
グレモリー
「フッ……」
2人が笑みを漏らしたのを最後に、一帯を静寂が包んだ。
ハルファス
「……あれ? グレモリーが、あの人の仲間になっちゃうって事?」
ハーゲンティ
「ハ、ハルちゃん……今ね、多分……何も喋らない方が……イイトオモウノ……」
ザガン
「な、何だろ……初めて感じる空気だけど……胃袋の辺りが、寒い……?」
暫しの沈黙の後、口を開いたのはサイティだった。
サイティ
「フフッ、『良い』わねえ。『対等の』お友達って♪」
「あなたになら何でも話せちゃいそう。でも……秘密のお話は言いふらしちゃイヤよ?」
グレモリー
「無論だ。謀りは苦手な性分だが、口の堅さについては実績だってある」
サイティ
「良いわ、『信じて』あげる」
「また『今度』、一緒にお話しましょうね……ようこそアブラクサスへ。歓迎するわ」
グレモリー
「こちらこそ、楽しみにしている」
サイティ
「それじゃ……」
バーズレー
「あ、サ、サイティ様……!」
互いに気安い手振りを交わして、背を向けて歩き出すサイティとグレモリー。
グレモリーは仲間たちの元へ。サイティは取り巻きを引き連れてアブラクサスの奥地へ。
ザガン
「……あ、あの……グレモリー?」
グレモリー
「フフ……」
引きつった顔の仲間たちを前に、グレモリーの顔には「してやったり」と言いたげな笑みが浮かんでいた。
レディス
「サイティ様、どうされたのです? 何であんな女とにこやかに──」
「ヒィィッ!?」
サイティ
「……ッ……~~~~~ッッッ……!!!」
親分の行動に納得が行かず心配する取り巻きに脇目も振らず、サイティの顔は死者の国の悪魔もかくやという形相に歪んでいた。
ハーゲンティ
「マ……マム、い、今のって……?」
グレモリー
「ああ、説明はしておいた方が良いだろうな。特に今回の仲間は純情な者が多い」
「先に言っておくが、私が言葉通りに、あの女と手を組む事は『ありえない』」
ザガン
「いやまあ、それはいつものグレモリー見てたら分かるけど……」
「でも、グレモリーがあんな、心にもない事をペラペラと……」
グレモリー
「いや、嘘偽りは全く無いぞ。多少、言葉遣いが『訛り』はしたがな」
「だがサイティには良く伝わっていた。お陰で『話』も面白いように進んだよ」
ザガン&ハーゲンティ
「???」
一方、取り巻きがオロオロしているのも無視して、鼻息荒く速歩きでアブラクサスを往くサイティ。
寂れた町並みの中、進む道に雑草があれば踏み潰し、小石があれば蹴り飛ばし、アリンコの列があれば列攻撃で薙ぎ払っていく。
サイティ
「(……クソッ! やられたッ……!!!)」
「(バカ共を一発で手の付けようも無いほどパニクらせて、恥かかせて高みの見物だあ!?)」
「(何が『良き関係』よ! 手打ちにさせるにゃ話に乗ってやるしか無い状況作っといて!)」
「(あのオバン……最初っから『コレ』が狙いだったのね……まんまと『吐かされた』!)」
バーズレー
「サ、サイティ様、足元、足元!」
サイティ
「あぁん!?」
サイティが地団駄まじりに踏み下ろしかけた足元に、通りすがりのガマガエルが居た。
ちょうど日が差し込む時間帯で、日向ぼっこの最中のようだ。
サイティ
「ガマ……ふふ、ふふふ……」
「こんな……ものぉっ!!」
素手で鷲掴みにして、ガマガエルを空の彼方に投げ飛ばすサイティ。
レディス
「ああ、いけませんサイティ様、ヌルヌルで汚いです!」
バーズレー
「ガマガエルは毒があるんです! 帰ったら手を洗ってください! 死んでしまいます!」
アマーチ
「……」
終始無言のアマーチは、まだサイティの不興を買ったショックから立ち直れていないようだ。
てんやわんやのサイティ達はさておき、正門前。
サイティとグレモリーのやり取りが終わってから、未だに周囲の女性達のざわめきが収まらない中で、悠々と仲間たちに説明を始めるグレモリー。
グレモリー
「上流階級の界隈には、一種の『訛り』がある。気に入らん事だがな」
「その『訛り』に従って、言いたい事を表現するにも単語と文法を置き換えねばならん」
ハーゲンティ
「いやあの~……何の事だかサッパリ……」
ザガン
「『訛り』って言うと、カスピエルの喋り方とかの事だよね?」
「語尾がちょっと変わったり、たまーに物の名前変わったりする事もあるけど、それのこと?」
グレモリー
「有り体に言えばそういう事だ」
ハーゲンティ
「もしかして、パンの『耳』を別の地方だと『かかと』って呼んだりするのも?」
ザガン
「え、なにそれ? 普通に『コストラ』って言わない?」
ハーゲンティ
「こ、こす……はい?」
ハルファス
「イーバーレーベンでは『クラスト』って言ってた気がするけど……違ったかも?」
グレモリー
「フフ……まあ、そういう事だ」
「同じ意味を表現するにも、言葉が違えば、意味が通じる者にしか通じない」
「今、私とサイティが交わしてきたモノが、その『訛り』を用いたものだ」
ザガン
「じゃあ、サイティってヤツも、結構いいトコの人間ってことか……」
ハーゲンティ
「如何にもっちゃ如何にもだけどねぇ」
ハルファス
「私達が知ってる『言葉』通りのお話じゃなかったって事で合ってるかな?」
「だとしたら、本当はどんな話してたんだろう……」
グレモリー
「まず、『怯えた』取り巻き共が騒ぎ出し、収拾が付かなくなっていたな」
「そこで私が、『強引にでもこの場を切り上げてやるから要求に応じろ』と持ちかけた」
ザガン
「え? でも、『仲良くしたいだけで争う気は無い』とか言ってなかった?」
グレモリー
「単語の上ではな。だが、あの状況で、『訛り』の通じる者同士ならそういう意味になる」
「潜入中はサイティも情報を得るための『調査対象』だ。いずれ『交流を持つ』だろう事に嘘はない」
ハルファス
「『あなたの望みを叶えてあげるから、仲良くお話しましょうね』……って感じ?」
グレモリー
「うむ。中々呑み込みが早いじゃないか、『チータ』」
ハーゲンティ
「おっへえ……何か急に胸焼けが……」
ザガン
「朗らかな会話に見せかけた、結構な『駆け引き』だよね……しかも悪い意味で大人な世界の」
グレモリー
「あくまでも『訛り』だ。私の『受け入れ方』としてはな」
ザガン
「あっ……はい」
グレモリー
「だが、『訛り』が『上流階級』の玩具なのも事実だ。綺麗事だけで済むものではない」
「迂闊な言葉1つが言質になる業界。しかも市井より遥かに下世話な噂好きが力まで持っている」
ザガン
「上辺を取り繕った話し方が進化していったんだね……言いたい事、分かった気がする」
ハーゲンティ
「何だっけ……玉ねぎ色?」
ハルファス
「あ、焼くと飴色になるから……!」
ザガン
「違う違う……玉虫色、ね」
グレモリー
「先程のような会話も、暇を持て余した連中の集まりであるほど日常茶飯事だ」
「自分で言うのもなんだが、私も婚期を過ぎた独り身……冷やかしが来ないわけがない」
「『意味』に『偽り』さえ含めなければ、私とてあの程度の口八丁は嫌でも身に付くという事だ」
ザガン
「えっと……何か、ごめんね。私がカッとなった後始末であんな事……」
グレモリー
「貴様が謝る謂れは無い。遅かれ早かれやる必要のあった事だ」
「むしろ奴らが早々にこちら接近したのは好機だった。流されたとはいえ、良い働きだったぞ」
ザガン
「え……?」
グレモリー
「お陰で先んじて聞き出す事が出来た」
「おぼろげにだが、サイティを基準としたアブラクサスの力関係を」
ザガン
「力関係って……い、今の会話で?」
ハーゲンティ
「でも、『また今度お話しましょうねー』みたいな流れでお開きになってやせんでした?」
グレモリー
「それが既に答えだ。私が提示した条件を奴が理解したからこそ、あの形に話が進んだ」
ザガン
「条件……? あの話のどこにそんな……」
「『噂話』……の事とか?」
グレモリー
「そうだ。正確に言い換えれば、『情報』だな」
「私はあの場を収めてやる事を条件に、サイティに『情報』を払い出すよう求めた」
「サイティが、カリナの『情報』を取り巻きから回収したのと逆に、な」
ザガン
「カリナ……私の情報……あー、そうか。私が怒ったのもそれが原因だったね」
「私の八百長の話、ちゃんと聞いてたクセにあの取り巻き、わざと悪く言って……」
グレモリー
「そうやって日々、住民達の『醜聞』……『弱み』を探っているだろう事は想像に難くない」
「『醜聞』が事実かなど問題にならないからな。社会の庇護の無いここでは体裁が全てだ」
ザガン
「うわ、最低……それ、気に入らないやつを追い込み放題って事じゃんか……」
グレモリー
「うむ。故に、私はその聞きたくもない『醜聞』から一部を開示するよう仕向けた」
「ターゲットは、『ライア』と『秘書』だ」
「『秘書』は取り巻きに邪険にされていたし、ライアもサイティ側と一定の距離を置いているように見えた」
「サイティの性格上、この2人の『醜聞』を得ようとしていないとは考えにくい」
「だから2人の『醜聞』を知っているなら、ここで吐けと求めたのだ」
ハーゲンティ
「え、えげつねぇ~……」
ザガン
「こんな大勢の前で悪口暴露なんかしちゃったら、サイティの方が立場無くなっちゃうんじゃ……」
グレモリー
「向こうも愚かではない。応じていたなら、『訛り』に包んでそれとなく吐いていたろうな」
「だが、奴は『黙り込んだ』。これが奴と他者の相対的な力関係の答えだ」
ハーゲンティ
「ああ、急に静かになっちゃった時間があったような……」
ザガン
「『社交界』がどうとか言ってたやつ?」
グレモリー
「そこはただの『決まり文句』だ。まず一方が相手の立ち居振る舞いを卑しく醜いと皮肉り──」
「言われた側は『中途半端な貴様には高貴すぎて理解できないだけだ』と遠回しに皮肉を返す」
「それ自体に何の価値も無い、やんごとなき者共の陰湿なゲームだ」
ザガン
「貴族の人たちって、あんなの当たり前に言い合うの? 何かこわい……」
グレモリー
「あくまで『一部』だがな。貴様たちが実際に見てきたろう、真っ当な貴族の方が大半だ」
ザガン
「だ、だよね……イーバーレーベンの領主様とか、とてもそんな人に見えなかったし」
ハルファス
「じゃあ、『醜聞』とか『愚痴』が好きって言葉で、サイティさんは黙っちゃった?」
ハーゲンティ
「そもそもマムって、そういうの悪口とか、好きでしたっけ……?」
グレモリー
「まさか。『訛り』に沿えばそう呼ぶというだけだ」
「『噂』は『情報』、『醜聞』や『愚痴』なら、その中でも『危険』や『不審』と言える類だ」
「例えば、『どこそこの森は肥えたネズミで溢れかえって薄汚い』という『噂』なら──」
「『森に野党が跋扈し、あまつさえ環境を破壊している』と言った具合だ」
ザガン
「あー、そういう『情報』ならグレモリーが聞きたがってもおかしくないか」
「さっきの話もそんな感じに置き換えると──」
「『私は怪しい情報が無いか探しに来たから、手始めにあの2人のそういう情報を出せ』?」
グレモリー
「そうだ。そして口を噤んだという事は、『情報はあるが出せない』と態度に現してしまった事を意味する」
ハルファス
「『情報が全く無い』って事もあるんじゃないかな?」
グレモリー
「それならば、あの空気の中だ。サイティが返す反応は決まってい
る」
「『下調べも無く勝手な期待で探りを空振りした女』を、遠回しな『訛り』で嘲って終わりだ」
「穏当なものなら……『私は他人を大切にしているから、そんな話題は好まない』と言った具合か」
ザガン
「結局、遠回しに人を悪者扱いしてくるのは変わらないんだね……」
グレモリー
「それをしなかったという事は、やつは『迷った』のだ」
「衆人環視の場で私に『情報』を明け渡すか、交渉を蹴って取り巻きの暴走を再燃させるか」
「どちらが少しでも損が少ないかをな」
「最後に己の沈黙が十分な『情報』になってしまった事を悟り、選択の余地が無くなった」
「そして余裕を装って立ち去る他なかったという次第だ」
ハーゲンティ
「だ、黙ってたのに、話しちゃった事になるんです?」
グレモリー
「それとなく『ライア』と『秘書』を指名したのがポイントだ」
「恐らく、サイティにとって価値のない『ただの女』を指名していたら、こうはならなかったろう」
ザガン
「あ、分かった。その2人の両方かどっちかが、サイティと同じくらい力があるって事じゃない?」
グレモリー
「うむ。ついでに言えば十中八九『両方が』だ。片方がハズレなら、そちらだけさっさと吐けばいい」
「あの場で不特定多数に2人の『醜聞』が聞かれる事で無用な面倒を起こしかねない──」
「もしくは私達が『弱み』を得ていると知られたら、己の立場が危うくなる」
「それだけの実力か、あるいはバックボーンが2人にはあるという事だ」
ザガン
「シュラーだね……?」
グレモリー
「もしくはサイティと同等に、アブラクサスの根幹に携わる『専門家』か……」
「ともかく、サイティはアブラクサスで大いに幅を利かせているが、牛耳るに至っていない」
「恐らくサイティとシュラーとの間で、アブラクサスの頂点を巡って暗闘が渦巻いている」
「そしてライアと秘書はいずれもサイティの側でなく、易々と揉み消される立場でもない」
ザガン
「仲間にするなら、この2人のどっちかって事だね」
グレモリー
「当座はな。だが、最終的にサイティ側に付く事も考えたほうが良い」
ハーゲンティ
「え~……あたい、ああいうタイプはちょっと……」
ザガン
「ああいうの好きになる人の方が珍しいんじゃないかな……」
グレモリー
「全く同感だが、我々には果たさねばならない目的がある」
「少なくとも、『シュラー体制』を打ち破る気があるのはサイティ側の方だ」
ザガン
「あ……最後にはここの人たち、外に出さなきゃいけないんだったね……」
グレモリー
「『いつも通り』とはいかん可能性を、何度でも覚悟しておけ」
「王都の威信と、ヴァイガルドの治安がかかっているのだからな」
ハルファス
「でも……それじゃあ、さっきの話をしたのって、危なくないかな?」
ハーゲンティ
「だよねぇ……初日からキツそうな上司に目ぇ付けられちゃって……」
ハルファス
「それもあるかもだけど、情報を聞く代わりに、私達の目的バレちゃったりしてないかな?」
ザガン
「あっ……!」
「そうだよ、サイティに情報出せって言っちゃったって事は──」
「私達がアブラクサスの情報探ってるって明かしちゃったようなものじゃん!」
グレモリー
「安心しろ。サイティがどう足掻こうと『そういう事』にはならん」
ザガン
「でも、あの会話はそういう意味だってグレ……『ギーメイ』が!」
グレモリー
「あくまでそれは『本質』の話だ。人と人との間には『上っ面』しか残らん」
「私とサイティは、互いに『噂話が好き』という話を交わしたに過ぎない」
「同じ言葉を同じ意味あいで理解しあって、たまたま向こうが勝手に敗北感を味わった──」
ザガン
「そ、そんなの屁理屈だよ!」
「実際には、サイティは『ギーメイが情報を欲しがった』って理解しちゃってるんでしょ?」
グレモリー
「だが今後、そのつもりでサイティが私に何か『ちょっかい』を仕掛けた所で──」
「『何か探っている』という確かな証拠が出てこない限り、それは『妄想』でしかない」
「私にしたって『とぼける』のは苦手だが、『自白』も『漏洩』も断じてしない」
「『事実』は明け透けにならない限り、『疑惑』の粋を出ないのだ」
「偉ぶった連中ほど『訛り』を好む理由の1つがこれだ」
「清廉潔白を装ったままで、選ばれた者にだけ牙を剥けるのだからな」
ザガン
「グ、グレモリーって、意外と……」
無意識に上半身だけ、僅かにグレモリーから距離を置くザガン。
グレモリー
「『やった』からには、軽蔑の眼差しも甘んじて受けよう」
ザガン
「ち、違うよ! ちょっとだけ驚いちゃっただけで、そんなつもりは本当に……!」
グレモリー
「いずれにせよ、だ。私自身、気に入らん『手』を使った」
「だが、『女々しい』ようだが言っておくぞ」
「個人的には唾棄すべき物事でも、好悪で『手』を拱くほど私も『淑女』ではない」
ザガン
「(グレモリー……ガブリエルと何か隠し事してるって、少し身構えちゃってたけど……)」
「(この任務自体は、いつも通り、本当の本気で、全力で向き合うつもりなんだ)」
「(私達がそういう事に未熟な分、嫌われるような役まで進んでやるつもりなのかも……)」
「あ、あのさ、グレモリー……何ていうか……私達も、ちゃんと頑張るからね」
グレモリー
「フッ……なら名前を間違えるな。私は『ギーメ……」
???
「オマエら、いつまでペチャクチャやってんだい」
潜入組
「!?」
明らかに自分たちに向けて声が飛んできた。
振り向くが誰も居ない……かと思ったが、少し視線を落とすと四人の間近に、例の小柄な『秘書』が立っていた。
秘書
「フンッ、いい年のモンがどいつもこいつも……」
4人と目が合ったのを確認してから、秘書は去っていき、また別の女性の集まりへ向かっていく。
秘書
「オマエらも、とっとと仕事に戻りな」
住民の女
「は、はい、ただいま!」
ライア
「す、すみませぇん! わ、私が審査の確認取り直してたものでぇ~!」
秘書
「だったら言い訳の前にやる事あんだろよ」
ライア
「は、はぁいッ! 『案内』の準備してきまぁす!」
秘書
「フンッ」
注意されたライア含む女性達が不格好な「気をつけ」の姿勢で応答し、散り散りになっていく。
女性達を見送った『秘書』は、また鼻を鳴らして、別の女性の群れの方へと歩いていった。
ハーゲンティ
「い、いつまでもお喋り終わんないからお叱りに来たのね……」
グレモリー
「ライアと『秘書』では、『秘書』の方が立場は上か」
「(なるほど。近付くには『やはり』ライアからだな)」
ザガン
「い、意外と、かわいい系の声だったね、お婆ちゃん」
「何か、演劇で若い人がお婆ちゃん役やってるみたいな……アハハ」
ハルファス
「……」
「(どうしよう……言った方が良いのかな……?)」
「(あの『秘書』さん、『訛り』の話始めた頃から、ずっと私達のこと見てたけど……)」
「(それに、『秘書』さんのあの声も、どこかで……?)」
グレモリー
「しかし『入国』を済ませたばかりで、我々にはまだ『持ち場』がない」
「忠告を受けたは良いが、何から行動すべきか……」
「いや、考えるまでもないか。『案内』と言っていたからな」
ライア
「みなっさぁ~~~ん! ぷっり~ずひあみ~うぃっめ~ん!」
よく通る声と共に、ライアが手を振って駆け寄ってくる。
手振り&全力疾走のまま、一行と足指一本分の距離まで迫ってから急停止し息を整えるライア。
ライア
「はっふぅ……いや~すいませぇん!」
「『秘書』さま気難しい方なのでぇ、私の不手際でとんだとばっちりを~……」
ザガン
「あはっ、良い走りっぷりだったねえ」
ハーゲンティ
「ぷりずひあ……何かの呪文?」
グレモリー
「見ての通り、誰も気にしてはいない」
「さっき言っていた『案内』だろう? よろしく頼むぞ。話の続きは歩きながらにしよう」
ライア
「あ、聞こえてましたぁ?」
ザガン
「君ってば、声も一際大きいからねえ」
ライア
「話が早くて助かりますぅ! それじゃ、まずは向こうに見える『学舎』まで、移動願いまぁす!」
ライアがやや遠方の、大時計の嵌め込まれた廃墟を指差し、4人を連れ立って歩き出した。
・ ・ ・ ・ ・ ・
一方、アブラクサスのとある場所。
???
「……」
どこか高所の屋内から、窓の景色を見下ろす人影。
眼下には、ある種の芸術を匂わせる建物群が居並ぶ。
人影の背後に女が1人立っている。
女は布で包んだハンドバッグ程の大きさの何かを両腕で抱き抱え、瞳に磨りガラスを貼り付けたような、清楚で輝きの無い目をしている。美しく穏やかな面持ちだが、風が吹けば無色の砂となって消えそうな雰囲気を纏っていた。
儚げな女
「どなたか、おいでになりましたか?」
???
「ああ……偶然では無さそうだ」
儚げな女
「待ち焦がれていらした方ですか?」
???
「少し違う……いや、『真逆』と言っても良いかも知れない」
「だが、間違いない……近い内に『本命』も来るだろう」
儚げな女
「それは良うございました」
「ご用意するのは、先日の物でよろしいでしょうか」
???
「やはり『お見通し』か……済まない。折角の物を」
儚げな女
「勿体ないお言葉です。私どもは、既に有り余る程に頂いております」
「では、しばし用立てて参ります。『シュラー』様」
「間もなく訪れる『その日』に、心からの祝福を……」
シュラー
「ありがとう。『その日』までには、埋め合わせをさせてほしい」
儚げな女が離れていく。
2本の足で、ごく健康的な足取りで歩いているだけなのに、幽霊のような、魅力とも不気味ともつかない雰囲気を漂わせていた。
人影の正体ことシュラーは、一度も振り向く事なく窓の外を見下ろしていた。
アブラクサスの出口を遮るかのように入り乱れる建物群が無ければ、正門広場が見えていただろう地点をジッと見つめている。
シュラー
「この巡り合わせが必然ならば、私は誰に感謝すべきだろう」
「事ここに及んで……か」
※ここからあとがき
・本編について
どうにもグレモリーの「貴様」呼びは下に見ているニュアンスが筆者の中で抜けきらないので、角を立てない時だけ使っているという事にして、原作で使ってない二人称「卿」を使わせました。ご了承ください。
幸か不幸か、「あの手の会話」はフィクション以外で出くわした事すら無いもので、ちゃんと雰囲気が出せているかどうか今ひとつ自信がありませんが、大目に見ていただけると幸いです。
リアル会話能力がトーポで無かったら、一度くらいは戦場の風を感じた事もあったのかも知れませんが……。
・ベレトイベントの感想
メギドだけを殺す毒かよぉっ!(言ってみたかっただけ)
私事ですが、ストーリーも固まってない思いつきメギドの中に「アハズ」が居るので、今後書く機会があったら名前を変えないとですね。
現在のメギド72にはまだ居ないはずの薬師メギドとして考えてました。
・質問箱の感想
フォラス、そんなに視力悪くなかったんですね。
まあ前作でクラゲに手こずったのは視力だけの問題でもありませんし辻褄は大丈夫かと。
ハルファス、育ちが良い枠か……うーん……。
余りよろしい育ちで無い事にしたのは既に描写済みですが、路線変更なしでこじつけられる範疇に解釈できそうなので、まあ……。
しかしこのハルファスの仄めかしっぷり、ハルファスのリジェネや過去編が近かったりするんですかね。楽しみやら恐ろしいやら。
・他
デカラビアと騎士イベとヴェルドレが、今回の話の大体を持っていってくれてる感が……何だこの間の悪さは……。
何にせよ、しっかり完結まで書いていきたいと思います。
ウァサゴがメギドラルでも名実共に貴族だったのが一致してたのは幸いでした。
書きながらも本編を消化していたら、ザガンさんがメギド体を牛扱いされて抗議してましたね……。
言葉の綾とか文脈という事で何とか……。
一方、本編のシャックスも地層に知識があって助かりました。
今、本編はチンタラ進めて例のラスカル達と決着した辺りです。
ザガンさんの出番もありますし、この先でハルファスの活躍もあると聞いてるので、ちゃんと読み進めないとですね。
その前にバレンタインイベントも来ちゃいましたが……アラストールさんも推しの1人ですし……。