PRINCESS ART ONLINE ※更新停止 作:日名森青戸
※1/30:キャラネーム等の修正を行いました。
「……遅いですわね」
同刻、所変わって【ゴスペル・メルクリウス】の本部。
視界に映る時計は既に彼女らが出てから3時間以上経っていることを告げ、未だに返らない3人に気をもんでいた。
「気にし過ぎじゃないのか?目当てのモンスターが見つからなかったりとか、武器の熟練度を上げてたりとか、道に迷ってたりとかしてるんじゃねーの?」
「流石に道には迷いませんわよ。子供じゃあるまいし」
ウィスタリアの発言にマコトは口にはしなかったが、内心「お前が言うな」とツッコミを入れた。
「ただいまー。あれ?2人ともどうしたの?」
「優衣。なぁ、ノゾミ達と会わなかったか?」
「え?まっすぐ帰ってきたけど会わなかったよ?」
丁度そこにポーションの委託販売から帰ってきたメディも交じる。
マコトがノゾミ達に関して尋ねてみるが、メディは首を横に振る。
「ちょっと良いかしら?」
「アシュレイさん?」
2度目の来訪者はアシュレイだった。
今日はやけに来客が多いなと内心ぼやきつつ、ウィスタリアが対応に出る。
「如何なさいましたか?」
「ツムギちゃんと衣装について相談したいことがあったのだけど、まだ帰って来てないの?」
「いや、まだ帰って来てないけど……」
「そう?始まりの街でゆっくりしてるって言ったけど」
ここまでくると、流石に嫌な予感がしてくる。
「あのさ、もしなんだけど……ノゾミちゃんが昨日、ユナさんやノーチラスさんの力になりたいって相談してたの。ひょっとしたら……」
「最前線のダンジョンに潜ってんのかアイツら!?」
†
《吟唱》のスキルには、幾多のバフ能力のアクティブスキルや、範囲拡張のパッシブスキルの他に、それ以外の用途を持つ数種のアクティブスキルがある。
そのうちの一つである《焦点の唄》。能力は、周囲のモンスターのヘイトを集め、自分に集中させる。
デスゲームと化した今、そのスキルは余程準備をしていなければ自殺行為に等しいもの。スキルを得た者たちからは次第に日の目を見ることは無くなっていった――。
もし、百歩譲ってそのスキルを使うとするならば……使用者はほぼ確実に、死の道を辿る。
†
10月18日。 40層フィールドダンジョン、ボス部屋内部。
《焦点の唄》の発動により、ボス以外の全てのモンスターがユナの元へと歩みを進めていく。
「な、なんだ……?」
次々と、ユナの唄に釣られるように歩み寄ってくるモンスター達。
「まさか、ヘイトを集めて自分だけ犠牲になろうっていうの!?」
確かにそれなら他のプレイヤーは救える。それはつまり、ユナを犠牲にして生き延びるということ。
付きつけられた事実に、ノーチラスと3人は全身が石になったように立ち尽くす。
「それが……それが貴女の選んだ答えなの……?」
ようやくといった風に、ノゾミが擦れたような声を出す。
ただ立ち尽くすしかできない。身体を動かすことができない。
「駄目……ダメ……」
擦れるような小声でチカが呟く。手にした片手槍がカタカタと穂先を振るえる。
ツムギがそれに気付いた直後――。
「そんなのダメえええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
悲鳴と共にチカが群れの中へと《コメット》を用いて突撃していく。
策なんて無い。ただユナを喪う恐怖に耐えきれなかったが故の行動だった。
悲鳴を上げながらこちらに突撃してくるチカに、ユナも思わず歌を中断してしまう。
「何やってんですかあの人!?」
「ユナを止めるつもりなんだ……きっと……」
「無策で突っ込んで!?そんなの、余計に犠牲を増やしてるようなものじゃないですか!!」
ツムギの言う通りだ。このまま2人のHPが全損するのも時間の問題。しかし、助けに迎えるのは自分とツムギ、そして体を硬直させたまま動かないノーチラスの3人のみ。
この状況を打破する方法は……存在しない。
†
(どうする、どうするの?このままじゃユナどころかチカまで犠牲になる……!)
ノゾミの頭は、既に真っ白と言ってもいい状態だった。隣で叫ぶツムギの声も、何重にも布を被せたうえでスピーカーから流れる音楽ほどのくぐもった音声のように小さく感じる。
攻略における実戦経験の乏しさがここで痛手を負ってしまったことが大きい。
加えて旧友とギルドメンバーをいっぺんに喪う。その恐怖心も思考を鈍らせていた。
(考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ……!)
ただでさえ窮地に陥った経験の乏しい彼女の思考は、何度命じてもロクに動くはずがない。
換言すれば、ガス欠状態のトラックを無理矢理運転しようという状況に等しい。
それでもロクに動かない頭で、ふとある記憶が鮮明に映し出された。
(……もしかして、あのスキルがあれば?)
それは2日前に得たばかりの謎のスキル《連刃剣舞》。
アルゴに直々に調べて貰ったが、思い当たる節は無いと呼ばれたスキルは、彼女から下手に使うなと釘を刺され、ウィスタリアからも攻略に参加しないよう説き伏せられた。
もし、これを使えばユナを助けられるかもしれない。
だが同時に、そのスキルはノゾミ自身どういったものか検証もしていない。何が起こるかは全く予想がつかないスキルだ。
(これを使えば助けられる?でも、もし私が望んだスキルじゃなかったら……?いや、それ以前にこんな人目のど真ん中でこんなの使ったら……)
不安と期待が鍔競り合いするかの如く揺れ動く。
刻一刻と秒針が進むにつれチカとユナを助ける可能性も削れていく。
――貴女のその迷わず行動するところ、私好きだよ!
――そのスキルは、きっともっと別の場所で使う時が来ますわ。
(……)
再び彼女の脳裏に、ユナとウィスタリア、2人の言葉が浮かび上がった。
その途端、ノゾミの持つファルシオンの切っ先の震えが収まっていく。
(……そうだ。ここで戸惑ってたら全部失っちゃう……それなら……)
(それなら、迷ってる暇なんて無い!!)
†
「1分……いや、10秒だけでいい!」
漸く振り絞った決意に満ちた声。誰もが目の前のモンスターに集中している中、ノゾミは必死に声を張り上げた。
「ユナを……ユナを助けて!!!!!」
悲痛な悲鳴が、ボス部屋の中に響きわたった。
†
ノーチラスには、軽度のNFCが団長のヒースクリフの口から告げられた過去がある。
症状の詳細はまだ解明されていないが、時折アバターが硬直するという。戦闘では特にそれが顕著に表れ、戦闘での交代がうまくかみ合わず、度々他の団員と衝突が絶えなかった。
本来なら休暇と共にその対策を考ようとしていたのだが、直後に救出の任務が飛び込み、やむなくユナと共に40層のフィールドダンジョンに足を運んでいった。
相手は自分も良く知る相手だった。行動パターンの変化は前々から情報屋から聞いていたが、そのボスに対してはそれは無いと確信していた。確かにボスにパターン変化は無かった。その代わりにギミックに変化が現れた。
脱出不可能になったボス部屋。突然の増援。予想だにしなかった事態を皮切りに、優位に進んでいたボス攻略だったはずなのに、瞬く間に全滅の窮地に立たされた。
†
――何をやってるんだ、僕は!!
ノーチラスは内心、自分を叱咤した。
守るべき相手であるユナが自らの命を犠牲にして、モンスターを一点に集めているのに、自分は
その間にも彼女の後輩のチカが、モンスターの群れに飛び込んでいった。
ピクリと、ほんの僅かだが身体が動く。
――ユナを……ユナを守るって約束はどうしたんだよ!?
デスゲーム開始を宣言されたあの日、泣きじゃくるユナに誓った筈だ。
内心恐怖していないと言えば、嘘だ。パニックになりそうだった。それでも、誰かが守らなければならなかった。
「ユナを……ユナを助けて!!!!!」
硬直した身体を動かそうと抗っていたその時、聞こえてきた少女の悲痛な叫び。
【血盟騎士団】に入団して暫くして出会った、ユナの親友であり、自分も面識のあった少女のものだった。
――動け……動けよ……!アイツだって必死に助けようとしてるじゃないか!!
僅かな動きが、次第にギチギチと、身体を引き千切らんばかりに音を立てる。まるで、杭に刺された腕を貫いて拘束から逃れるかのように。
「――動けって言ってんだろうがあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
†
「――動けって言ってんだろうがあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
咆哮と同時に、弾かれたようにノーチラスが動く。同時に片手剣の突進ソードスキル《ソニックリープ》で拷問吏の1体の背中を刺す。
激痛に悲鳴を上げる拷問吏が暴れまわり、周囲を巻き込んで暴れまわる。すぐに剣を引き抜いてノーチラスを床に叩きつけたが、それでもノゾミからすれば十分に時間を稼げた。
「下がって!」
駆けだし、取り巻きの1体にステップインで懐に飛び込み、回転斬り上げの《デヴォート》で斬り裂く。
「よし――」
可能性を見出し、追撃を放とうとした瞬間、タルワールに帯びていた剣から光が消えた。
それはつまり、スキルの失敗ということ。
「――え?」
呆けた次の瞬間、拷問吏のパンチを腹に直撃し、壁まで吹っ飛ばされる。
「げふっ!?」
その衝撃で、満タンだったHPが一気に3割削られる。
「な、なんで……!?」
「ノゾミさん、今のは?」
「あのスキルよ!剣舞技と関係があるって言ってたのに、なんでいきなり……!?」
「それが、どうしていきなり失敗したんですか?」
「それが分からないのよ!!スキルの失敗なんて思っていなかったのに!」
再びスキルを使おうにも、まだクールタイム中で使いようがない。
それに、忘れてはいけないことがもう一つ。ユナが
「Guuuuuu……」
「まずい、モンスターが……!」
《焦点の唄》によって集められたモンスターの中に、周囲にいるプレイヤーに標的を変更する者が現れ始める。
一旦は助かったものの、今度は背後からの紀州で再び全滅の危機に立たされる。
「ねぇ、剣舞技がどうとか言ってたけど、どういうこと?」
「解りません。ノゾミさんはいつも《連刃》を使っていたのですが……」
「剣舞技に、《連刃》……」
チカからその話を聞いたユナは、考え込むように2つの言葉を呟く。
そして何か閃いたのか、
「ユナさん!?」
「大丈夫。今度はあんな真似はしないから」
そうして再び演奏を奏でる。今度はバフも何もない、ただの演奏。窮地である現状には不釣り合いすぎる弾むようなアップテンポな曲。
なんでこんな時にこんな曲を!?声には出さなかったが、チカとノーチラス、ノゾミ以外の誰もが思わずそう思った。
だが、ノゾミにはユナが奏でるメッセージを読み取れた。曲の中にあるユナからの声なきメッセージが。
――剣舞って事は踊るんでしょ?どうせなら、曲にノったほうが楽しいじゃない。
「――よし!」
再びノゾミが地を駆け、1体の拷問吏の懐に飛び込み、回転斬り上げを放つ。ここまではさっき同じだ。
攻撃を受けた拷問吏が反撃に刀でノゾミに斬り付けようとした瞬間。目を斬られる。《カットダウン・シックル》だ。着地と同時に肩に掲げるように構え、別の拷問吏に突進斬撃を放つ《リーバー》を叩きつけ、斬り払いと斬り上げを左右組み合わせながら繰り返す4連撃剣舞、《ダルード・ルーネイト》で追撃する。更に突進系剣技《ディパルチャー》で別の拷問吏に迫る。
3体目は流石に反応して先手を打ってノゾミに刀を振るう。スライディングで刀の範囲ギリギリ外に出て回避すると、そのまま脚を斬り付け、起き上がると同時になぞるように腰、脇腹、そして首へと斬り裂き、囲むように紅い剣閃が走る。《ルミナス・ルーネイト》だ。
ただダメージを与えるだけでなく、多くの相手にHPを僅かでも削る。ノーチラスやチカもまたユナの演奏の意味を理解し、彼女が相手にしているのとは別のモンスターを斬り付け、ダメージを稼いでいく。
ツムギは鞭で刀を振り上げた拷問吏の腕を背後から拘束し、3人がダメージを与えやすいよう援護する。
その時、ボス部屋の中心で光の爆発が起きる。ボスであるフィーラル・ワーダ―チーフが倒されたのだ。
「よっしゃあ!オメェら、あいつらに続くぞ!!」
クラインの威勢のいい雄叫びに続き、他のプレイヤーが残るモンスターに雪崩れ込む。
幾ら頭数で勝っていても、最早勢いに乗ったプレイヤーを止める術は無く、次々と放たれる剣技に1匹、また1匹とポリゴン片となって消滅していく。
突入から30分。ついに最後の1体が消滅し、決着した。
40層フィールドボス、取り巻き及び増援を含め全滅。
プレイヤー死亡人数……ゼロ。
†
ボスを討伐した後、HPをポーションで回復しつつ生き残れた事を喜び合う時間は、一つの音で中断された。
「ユナさん……あなた、自分が何をやったのか分かってるんですか?」
「そ、それは……」
「あなたの夢はッ!自分の命を捨てても良いほどに軽々しいものだったんですかッ!?残された人たちの事は考えなかったんですかッ!!?」
「おい、落ち着けって!」
噴火の如く怒声を上げながらユナに喚き散らすチカ。命の危機が去ったことで、先のユナの行動に関しての感情が爆発し、普段の大人しい彼女からは考えらえない怒号に、クラインも思わず彼女を押さえつけて宥めようとする。
「……ごめん」
ユナにはそれしか言えなかった。壁に背を預けて力尽きたように座るノーチラス、床に仰向けに倒れたままのノゾミ。2人を見て、チカの怒号を受けた彼女にはそれしか言えなかった。
「なぁ、今のは何だったんだ?」
そんな折、曲刀使いがノゾミに疑問を投げかけた。
「あんなスキル、見たことが無い。どうやって手に入れたんだよ?」
「スキルって……ひょっとして、《連刃剣舞》の事?」
「ああ。どうやって手に入れた!?」
食い気味に肩を掴み、上体を起こしながら揺さぶって尋ねてくる。
「あばばばばば!わ、私も一昨日入ってきたばっかだから、私も良く分かんないよ!」
「条件みたいなものなら知ってるぞ」
そんな時助け舟を出したのは、意外にも遭難したパーティの1人だった。
全員――ノーチラスやノゾミを含めて――が彼のほうへと視線を向ける。
「本当かよ!?どこで!?」
「25層だよ。昨日また石板のひとつが崩れてスキルが現れたんだ」
思い返すと、確かにあの広場には10メートル台の巨大な石板が広場を囲むように
「なんでそれを教えてくれなかったんだよ!?」
「いや、でも、俺だって半信半疑だったんだ。まともにプレイしてたら絶対に手に入れられない条件だったから……」
そうして口ごもりつつも、彼は《連刃剣舞》の条件を語りだした。
†
その剣舞の名は《連刃剣舞》。
幾多の剣舞、幾多の剣技を極め、流水の如く剣技を繋げ切り裂く曲刀剣技の極致。
1つ。
1つ。《連刃》で繋げた剣舞技を、一度も相手に防御、回避される事無く1千回以上命中させる。
1つ。以上2つの条件を、
†
「……〈
口を開いたのはオブトラだった。誰もが提示された条件に開いた口が塞がらない様子だった。
最初は……まだ楽なほうだ。3つ目もパーティプレイならば防御を任せられるので、立ち位置さえ間違えなければ何とかできる。ソロで挑めとはどこにも書いていない。
言葉を失っている理由は2つ目の条件だ。
「《連刃》でって……無茶苦茶すぎるだろ!?」
「どういうこと?あれ結構便利だよ?」
《連刃》を愛用するノゾミにとって彼の叫びは理解できなかった。
「どうもこうもねぇよ!《連刃》は繋げたソードスキルの全部の硬直時間が、連撃の直後にいっぺんに自分に跳ね返ってくるんだぞ!」
例えば《アドマイアー》の硬直時間を3秒、《ダンス・マカブレ》を2秒とする。
それを《連刃》で繋げ連続で放った場合、合計5秒の硬直時間が2つのソードスキルを放った直後に襲ってくるということ。
仮にノゾミ以外が手に入れたとしても、休むことなくソードスキルを連発するのは常軌を逸しているし、何より途切れた途端、確実な死が待っているのだ。
「普通なら、ソードスキルの硬直時間に攻撃を受けないように盾を装備するんだが、それ抜きでやれって……とんでもねぇスキルだな」
嘗て曲刀を使っていたクラインが言うのも最もだ。
普通のプレイングでも命の危機があるというのに、そのスキルを使いこなすには自分の命をなげうつ前提に躊躇しないような、頭のネジが外れているヤバい奴くらいだろう。
「ノゾミさん、ボス戦が終わるまでに20回近くソードスキル使ってましたよね?《武器防御》にもマイナス補正が掛かっていますから、下手すると確実に死にますよね、これ」
今も動けないのはいっぺんに使ったソードスキルの硬直時間が、未だに過ぎていないのだろう。《連刃》の予想外のデメリットに望みも顔を青ざめる。
「まあ、俺が見たのは《動物系モンスターの喉を噛み千切ってトドメを刺す》とか《四足歩行で移動した距離が10キロ以上》とかいうのもあったし」
その言葉に全員軽く引く。それはもうバーサーカーの類ではないだろうか。
「とてもじゃないが、まともな奴だと使いこなせないのかもしれないな……このスキルの条件だけでも情報屋に伝えておくよ」
「お願いしますね。無茶やって死人が出たら、こちらも寝覚めが悪いですか、らッ!」
そう言ってツムギはメタルウィップを器用に扱い、ノゾミの胴体に巻き付ける。
「とっとと帰りますよ。今頃ウィスタリアさんカンッカンに怒ってると思いますし」
「確かにそうですね。何も言わずに勝手に行ったから相当ご立腹「チカさんも同罪ですよッ!!!」はい……」
「じゃあ俺らも。助けてくれて、本当にありがとうございました」
ツムギに続き、遭難パーティ、曲刀使い達、【風林火山】の面々が次々とダンジョンを後にする。後に残ったのはノーチラスとユナ。
「……エーくん、ごめん。私、あれしか方法が思いつかなくて……」
「……いや、いい。君は先に帰ってくれ。俺も少ししたら帰るから」
一瞬だけノーチラスの一人称が変わっていたことに子首を傾げたが、彼女も一行に合流しようと歩いていった。
そして、一人残されたノーチラスは……。
†
第40層【血盟騎士団】仮本部。
仮本部のある廊下をズカズカと、他の団員を押し退けん勢いである団員が歩く。
そしてある一室の扉を乱暴に開ける。
「副団長、いったいどういうことですか!!」
「いきなりなご挨拶だな」
副団長と呼ばれたプレイヤーは、女性だった。年齢はクラインとさほど変わらないだろう。ウェーブのかかった金髪をポニーテールのように纏め上げ、団員服のマントを肩に掛けた独創的な着こなしをする女性の名は『
対して怒鳴り込んできたほうは30代の男性で、伸びきった髪を後ろでまとめ、前衛特有の白い鎧に身を包んだプレイヤーの名は『
「いきなりアスナ様の護衛を取り下げるとはどういうことですか!?」
「貴様では護衛にふさわしくないと判断したまでだ。最も、貴様のストーカー染みた行動にアスナも辟易していたと愚痴っていたぞ?」
レジーナの言い分は事実だ。
クラディールは護衛の任務を勤勉にこなしていたが、次第にエスカレートしていき、一日中アスナの傍を着け周り、果てはアスナの仮自宅付近にまで来たという。最早ストーカー以外何でもないようなほどに。
「それでなぜ私の後任がユナとかいう小娘なのですか!!」
「アスナもあれで年頃の女。30代半ばの男より、年の近い小娘の護衛のほうが心労も少ないだろう?」
尊大な態度を崩さず次々と正論を並べる副団長にクラディールも次第に反論する余裕を失い、歯ぎしりして聞き及ぶだけになる。
やがてダン!と机を叩き、踵を返す。
「どこへ行く?」
「ノーチラスの所ですよ。今回の件、あの男が告げ口したんでしょう?今から問い詰めてやるのですよ」
「そうか。なら一足遅かったな」
その一言でクラディールは足を止め、振り返る。
「彼ならもう【血盟騎士団】を脱退させたよ」
「なん……だと……?」
†
その日の夜。
「……」
自室でユナは一人、ベッドの上でうずくまっていた。
あの後レジーナから聞かれた話では、ノーチラスは懲戒免職同然に【血盟騎士団】を抜けたそうだ。理由は『周囲のプレイヤーの提案を無視したボス討伐の強行』を行った事。
あらゆる危険性を想定して、犠牲をゼロにして攻略を進める彼らにとって、彼の行動は許されるものではなかった。
だが、真相を知るユナは必死に副団長に抗議をしたものの、結局通ることは無く、当人も救助メンバーの代表であるクラインもその事実を肯定した。
その翌日にはノーチラスと衝突していたプレイヤーがノーチラスに対しての心無い暴言が続いた。夕方頃には彼のことなど忘れ去られたみたいに無くなったが、ユナの心を抉るには十分すぎた。前衛だったら感情を抑えきれずに根幹たるクラディールに斬りかかっていただろう。
――ピピ。
「……?」
その時、アラームが鳴ってギフトボックスのアイコンが点滅した。
アイテムギフトが届いたことを通知させるそれに、心当たりは無いもののユナはアイテムをオブジェクト化する。
両手に収まったのはよく見る四角柱型の結晶ではなく、正八方面体の結晶《録音結晶》だった。
いったい誰が?一瞬だけ疑問がよぎったが、彼女の中にあるわずかな可能性が、彼女の指を動かして結晶に触れた。
『あー、あー、マイクテスマイクテス。聞こえてるか?』
起動エフェクトによる光と共に、ノーチラスの声が発せられた。
――悠那、これを聞いている時俺は……。あー、やっぱやめだ。こういうの自分が死んだみたいで縁起でもない。
――とりあえず言っておくが、俺は死んでないし、死にに行くこともしない。
――俺が【血盟騎士団】を抜けたのは、もうこれ以上悠那を危険に晒す訳にはいかなかったんだ。副団長補佐の護衛の件は、俺がお互いを護衛し易いかと思って提案したら承諾してくれたよ。
――ちゃんと対策を立てて、自分の戦力も分析して準備万端って時に、とんでもない予想外で頭の中がパニックになって、何も考えられなかった。あの時はノゾミ達が勝手に付いて来たから本当によかったと思っている。
――けど……これから先、あの時みたいに助けに来てくれるとは限らない。あの時も君を喪うんじゃ無いかって思ったら、身体が硬まって動けなくなってしまっていたんだ。
――そのことを考えていく内に、このままで良いのかって思ってね。副団長らには、自分が強硬策で周囲に迷惑をかけたって報告して脱退することにした。クラインにはその件で口裏を合わせてほしいって頼んでおいたから、彼のことは許してやってくれ。
ノーチラスの独白を聞いていく内に、ユナの双眸からボタボタと大粒の涙が零れ落ちてくる。
自分を犠牲にするという選択は間違ってはいない。だが、チカの言う通り残された面々はどうなるのか?生き残れたことを実感して安堵するのだろうか?
答えは否だ。必ず守るという彼の誓いを、自分から破って、目の前で自分が死んで、彼らが立ち直れるのだろうか?クリアの瞬間まで自分の死を引きずって、立ち直れなくなってしまうだろう。それこそ、ノゾミやチカに至っては2度と歌や音楽に関わることが無くなるほどに。
――兎に角、俺はもう一度自分の戦い方を組み直したりして、1から鍛えなおすよ。けど、多分【血盟騎士団】には戻らないかもしれない。
――最後になっちゃったけど、必ず守るとか言っておいて勝手にいなくなってごめん。次に会う時には、もう少しマシになってからにするよ。
――それで2人で、みんなでゲームをクリアしていこう。それじゃあ、またな。
※《連刃剣舞》
(・大・)<作者が考えたオリEXスキルの説明です。
(・大・)<曲刀の剣舞ソードスキルの出だしを設定できる上に、更にソードスキル終了からのわずかな一定時間内に追加で他のソードスキルを使うことができる。
(・大・)<《二刀流》、《神聖剣》とは違い明確な所得方法とデメリットもあり、盾が装備できず、《武器防御》が0.75倍になり、更に上記のタイミングを僅かでもズレるか、一定時間が経過すると、失敗したソードスキルも含めて出だしから使い続けたソードスキルの全硬直時間を受ける。
(・大・)<素人目からすれば強そうに思えるが、要は『一度使いだしたら敵が全滅するか、自分の集中力が切れて死ぬまで止めることのできないスキル』ということである。
(・大・)<なお下位互換の《連刃》は2つ3つの剣舞系ソードスキルを繋げて連続で放つという独自設定のスキル。自動でアシストするが、こっちも連撃の後で設定したソードスキルの硬直時間を受ける。
次 回 予 告
キリト「事件勃発から2年目に突入したSAO。だが、未だゲームクリアまでは遠い」
キリト「俺はエギルからの勧めで、1層の始まりの街へと下って行った」
キリト「そこは、攻略組の俺からすれば異様な光景が広がっていた」
キリト「次回、【黒の剣士、始まりの街へ~黒の夜想曲~】」
キリト「ほんと、変わったよな……」
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