PRINCESS ART ONLINE ※更新停止 作:日名森青戸
17時16分。SAO内。
茂みと剥き出しの地面が点在する草原にて。
体長4メートルほどもあるゴブリンが巨大な斧を振り降ろす。
「おら来いやぁ!」
攻撃に合わせて突出した30代近いガタイ体格の男が、手にしている両手剣に光を纏わせた縦の斬撃――コラプスを放つ。
ベストなタイミングでソードスキルと斧が激突し、通常攻撃をしていた巨大ゴブリンが身体を大きくのけぞらせる。
「お前ら!」
「お任せを!」
掛け声と共に男が下がり、斧槍を手にした紳士風の女性が前に出る。
突進の勢いを殺すことなく駆け抜け、中段突きのスキル――ブレオンが巨大ゴブリンの腹部を直撃。
短い悲鳴を上げる巨大ゴブリン。男が勝てると確信した時、彼の背後から1.5メートルほどの、小ぶりなゴブリンが野太刀を手に襲い掛かってくる。
「危ない!」
刹那、赤い髪を揺らしながら男の背後に回った少女が、曲刀の突進系ソードスキル、リーパーを放って切り裂き、ポリゴン片へと変えていく。
もう1体には突如飛来したダガーがもう1体の背中に突き刺さり体勢を崩して地面に激突する。
そこへ短髪の少女がダガーを手に倒れたゴブリンの身体に突き刺し、ポリゴン片へと変えた。
「マコトさん、よそ見厳禁です!」
「悪い悪い。んじゃあトドメいくぞウィスタリアぁ!」
「まかせなさい!」
男と共に同じく両手剣を手に、全身真っ赤といわんばかりの女性が駆け抜ける。
ゴブリンの振るう斧を避け、最上段からの2連撃コラプスを叩き込んだ。
2連撃のソードスキルを直撃された巨大ゴブリンは、悲鳴と共に消滅していった。
「ほーっほっほっほっほっほっほ!!大勝利ですわぁ!」
「即席パーティにしちゃ上出来だったな。クーナもサンキュー」
「別に。気にする必要もありませんから」
大男が少し離れた所にいる少女に礼を言うが、当人はどこ吹く風といわんばかりにそっけなく返した。
「じゃあとっとと向かいましょう。そろそろ時間だしさ」
そう言って次の村へと駆けていく少女。彼女の後を追うように、5人も走り出す。
短髪の少女、【
大柄な両手剣使いの【
槍使いの青年【
《投剣》を操るダガー使い【
お嬢様風の言い回しが特徴的な両手剣使い【
そして直剣使いの剣士【
いつの間にか6人というSAOでのパーティ最大人数になってしまった。
しかしいざ戦ってみるとこのパーティ、すぐに慣れが来てしまって今しがた【ゴブリン・
そして10分後、目的地であるホルンカの村に到達した。
入り口の門をくぐった所でノゾミが戦闘から解放され、30分ぶりの園内に入って伸びをする。
「着いたー!」
「今日中にここに来られたのは良かったわね」
「では今日はここで解散、明日はこの村の広場に集合ですね」
チカが提案する明日の予定に4人とも賛同するようにうなずく。
「あー、ごめん。私明日は出られるかどうかわからないかも」
先にノゾミが一行から抜けてセーブポイントへと向かう。
「それにしても、初版1万人分を入手できたのはラッキーでしたね」
「おいおい、それを言うなら1千人のβテスターがもっとラッキーじゃねぇのか?購入優先権があって、真っ先にタダ同然で購入できたんだろ?友人がベータに選ばれたって喜んでたからな」
「そうだったんですか。あ、聞いた話だと本来の購入優先者は999人らしいんです」
メディが頷きながら補足を付け加える。
SAOのベータテストは今から3ヶ月前、8月に1千人の選別者が選ばれ、SAOの世界を一足先に体感した。
たった2ヶ月のテストで選ばれた1千人はSAO攻略に励み、フルダイブの世界を堪能していった。
だが、その中にはNFC――フルダイブ不適合症状という症例の重い患者がいた。
不適合というと、五感の機能不全や肉体操作のラグというイメージが強いのだが、そのテスターはむしろ逆。聴覚の異常発達によって、周囲の音を集めすぎていたということだ。
当然ろくに操作もできず、その人物は近くに居たプレイヤーにログアウトさせてもらったのだ。当然それからそのテスターは2度と足を踏み入れることは無かった。
ベータテスト2日目にてその人物から、自分の購入優先権を返上したいとNFCの診断書のコピーの郵送と共にアーガスへとメールで相談してきた。
当初はアーガスも困惑したが、翌日にはGM直々の返信メールに次のように送られた。
『あなたの症状は理解できました。あなたの購入優先権は本品発売の1週間前に、日本国内にいる1人に抽選で選択することとなります』
「――なるほど。1千人のテスターの内、たった1人のリアルラックの人がいらっしゃると言う訳ですね」
事情を聞いたクーナに「そういうこと」と相槌を打つメディ。
話もそこそこに、そろそろお開きとログアウトしようとした時、
「……ん?」
「マコトさん?どうしたの?」
「……なぁ、ログアウトってどうするんだ?」
「どうって、簡単じゃないですか。右手でこうしてメインメニューの一番上を――」
素っ頓狂な質問をするアキに、メディが呆れ半分で右手でメインメニューを開く。
だが、次の瞬間自分の目を疑った。
「……あれ?」
「メディさん?」
「ログアウトボタンが……無い」
メディに続き、他の3人もメインメニューを表示する。
その3人のメインメニューにも、【ログアウト】の項目だけが失せていたのだ。
「ど、どうなってるんですの!?何かのバグ!?」
「解りませんよ!」
突然消失したログアウトボタン。
5人がパニックになっているにも拘わらず、音が聞こえてくる。
ゴォーーーン……!
ゴォーーーン……!
ゴォーーーン……!
「なんだ、この音?」
「これって、始まりの街の鐘だよね?」
「は?なんでこんなに遠い場所に?」
聞こえるはずの無い地にて、始まりの街の鐘が鳴り響いた。
†
始まりの街。
「……あれ?」
5人は、いつの間にか始まりの街へと転送されていた。
5人だけではない。困惑したプレイヤーが右に左に……そう、SAOのプレイヤー全員が招集されているようだった。
「みんなー!」
「ノゾミさん?帰ったんじゃないんですか?」
「大変なのよ!なんかログアウトできなくなっていて、えーっと……!」
「落ち着いてください。でも、プレイヤーを集めて一体何を……?」
パニックになりかねないノゾミを落ち着かせるスヴァだったが、彼も内心パニックの限界値が錯乱寸前にまで高まっている。
周囲を見回していると、突如空から液体が垂れ流れた。
粘度の高い液体のようにドロリ、と落ちたそれは空中でグラスに受け止められたかのように一点に集まり、やがてローブを纏った巨人へと変えていく。
『――プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。私は茅場明彦。この世界、ソードアートオンラインを創造した者だ』
「茅場……明彦!?ナーヴギアの開発者ではありませんの!」
『諸君らは既に、メインメニューからログアウトボタンが消失していることに気付いていると思われるが、これは不具合ではない。これがソードアートオンライン本来の仕様なのだ』
ローブの巨人はプレイヤーと同じように操作してログアウトボタンの無いメインメニューを見せる。
そして困惑するプレイヤーたちを他所に続ける。
その内容は、自発的なログアウトや外部からの強制切断が不可能ということ。そして、それらが試みられた場合、高出力マイクロウェーブによって生命活動を停止させるということ。そして、現時点で180人が犠牲となっていること。ニュース映像を見せていることから、ハッタリの類ではない事が嫌というほど思い知らされた。
『十分に留意してもらいたい。今後、ゲームのあらゆる蘇生手段は機能しない。アバターのHPが0になり消滅した瞬間、同時に脳はナーヴギアによって破壊される――』
――それは即ち、現実の死。
その意味を知ってしまった者たちが、残らず息を呑む。
『諸君らが助かる方法はただ一つ。第100層に存在する最終フロアボスを討つことでクリアされる』
「100層って……!?ベータでも10分の1も登れなかったのよ?それに、とんでもなく強くてまともに攻略できた試しが無かったんですよ!」
メディを含めたベータテスターの言葉を無視し、ローブの巨人は続ける。
『では最後に、諸君らのストレージに私からのささやかなプレゼントを用意した。確認してくれたまえ』
その言葉に一行は訝しさを露わにしつつ操作すると、アイテムの中にはこれまで集めたアイテムに交じって一つだけ、『手鏡』が入っていた。
ストレージ内での説明文を見ても何の効果もないただの道具。取っ手の無い長方形のそれを実体化させたメディがそれを良く調べようとした瞬間、周囲から悲鳴が上がる。
「うおわぁぁッ!?」
「マコトさん!?」
鏡を出現させたプレイヤーが青白い光に包まれ、次第に連鎖爆発の如くプレイヤーを、メディを包む。
やがて光は広場全体を覆いつくし、一瞬で霧散していった。
「な、なんだったんだ今の……?」
「ねえ、みんな無事?」
「あ、ああ。なんとか――」
不意に呼ばれた声に振り返ったマコトが、振り返った先にいるメディの姿に絶句する。
メディの姿はアバターとしてのロングウェーブの少女――ではなかった。
ショートヘアの、あどけなさを残す少女。それは、マコト自身が良く知る人物と重なって……いや、違う。
「――優衣……?」
「ま、真琴ちゃん?」
草野優衣――もといメディに自分の姿を言われた時、マコトは思わず手にした鏡を見る。
鏡に映っていたのは歴戦の戦士とも呼べるような厳つい男――ではない。
狼のような毛並みを思わせるウェーブのある肩までのロングヘアの少女。
マコトの現実の姿である――安芸真琴の顔だった。
「な……なななななななな……!?」
思わず叫びそうになったが、寸での所で悲鳴を飲み込んで周囲を見渡す。
集められた全員が自分達と同じ状況だった。
アバターが解除されたことにより、女性が男物の装備品を着ていたり、男性が女性ものの装備品をしていたりとパニックが生じている。
「ちょちょちょ、ちょっと待て!いったん集まれ!」
慌ててパーティメンバーを集める。
マコトの号令により集まった5人は全員女性だった。
「と、とりあえず確認だ!チカ!」
「は、はい!」
紳士風の女性――もとい腰まで伸ばしたロングヘアを揺らす少女が答える。
「次、ツムギ!」
「いますよ!」
小柄なダガー使い――ではなく幼さを残すツインテールの少女が答える。
「ウィスタリア!」
「いますわ!」
真っ赤な20代の令嬢――否、色合いの特徴をそのままに10代半ばの少女が答える。
「ノゾミ!」
「ここだよ!」
ショートヘアの剣士――じゃない。腰まで伸ばした濃い目の茶髪の少女が答える。
「……でも、どういうこと?」
「確か、ナーヴギアってヘルメットみたいに頭をすっぽり覆っているから、ひょっとして起動した時にスキャンされて、顔を把握できたのかもしれない」
「で、でも身体は?潜水服じゃあるまいし、どうやって?」
「確か、キャリ……なんたらで自分の身体をあちこち触ったんですよね?その時のデータを基にしたのでは?」
それでも6人の理解に及ぶものではなかった。
広場の困惑は未だに収まることは無く、渦中のローブの巨人をただ見上げるだけだった。
何故、自分達はこのデスゲームの虜囚にされたのだ?
何故、開発者たる茅場明彦はこんな真似をしたのだ?
様々な疑問が渦巻く中、ローブの巨人は彼らの胸中を見透かしたように答える。
『私の目的は既に達せられた。この世界を作り出し、干渉する為にこの《ソードアート・オンライン》を創造したのだ。そして今、全ては達成せしめられた』
「……」
巨人の言葉に困惑が渦巻く中、彼らはローブの巨人をただ見上げる。
『以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君、健闘を祈る――』
直後、けたたましいノイズと共にローブの巨人から煙が上がる。
次第に巨人の姿が崩れていき、煙が中空に吸い上げられた。
後に訪れるのは、現実を直視できないことに困惑しているプレイヤーたちの沈黙。
全員が石化でもしてしまったかのように、水を打ったかのような沈黙が、広場を支配していた。
「嫌……嫌ぁ!」
手鏡を落とした少女の悲鳴が、純白のシーツにワインが浸み込んでいくように混乱を拡散させた。
次々と起こる、そこにしないGMへの罵倒。現状を受け入れられない者の悲鳴。出してくれと懇願。
「ねぇ、真琴ちゃん……私達、死んじゃうの……?」
へたりと座り込んでいるメディが、乾いた声でつぶやく。
その声は周囲の喧騒にかき消されそうな、弱弱しい声だった。
「ばッ……馬鹿野郎!死ぬ訳ねぇだろ!!クリアして、絶対に生き残る……優衣だけでも絶対にあたしが……!」
マコトの叱咤でメディを立ち直らせようとするも、彼女も内心不安や困惑でいっぱいだった。
もし茅場明彦の言葉がすべて真実なら、強靭なボスどもを打ち倒し、100層のラスボスを倒す以外方法は無い。
そしてHPが0になった瞬間、訪れるのは――死。
「マコトさん、メディさん!こちらに!」
突如としてウィスタリアがアキの肩を掴む。
彼女は混乱する広場から2人を連れて、喧噪を後にした。
2022年11月6日――SAO事件、開始。
次 回 予 告
ノゾミ
「やばいやばいやばいやばい!ちょっとした息抜きにSAO始めたのは良いけど、よりにもよってデスゲームになっちゃうなんて!」
ノゾミ
「始まりの街は大混乱。ウィスタリアさんが言う情報アドバンテージの修正とかを思いついてるみたいだけど、それよりもみんなのメンタルが最悪すぎる!!自殺者も出かねないじゃない!!」
ノゾミ
「……本当は息抜き程度って考えてたけど、こうなったら私の出番ね!見てなさい!」
ノゾミ
「次回、【進む人、迷う人、導く人~鼠とβテスターの行進曲~】」
ノゾミ
「……あなたも、βテスターなの?」
感想お願いします。