PRINCESS ART ONLINE ※更新停止 作:日名森青戸
(・大・)<感想からプリコネキャラが誰なのかわからないという指摘があったので、優衣=メディ以外のプリコネキャラを原作に変更しました。
(・大・)<MHCP01と被ってしまうのは何としても阻止したかった。
突如
始まりの街の広場では今もなお混乱が続いていた。
しかし、一部のプレイヤーは広場から抜け出し、先の攻略の為に次の村へと進んでいる者もいた。
「一つ、質問しましょうか」
夕闇が影を落とし、表の街並みを紅く染めるのを傍らに路地裏に集まった5人。
デスゲームからほどなく、混乱の渦中だった広場から抜け出したウィスタリアが一向に質問する。
とはいえ、ウィスタリアを除けばこの場にいる全員が先の宣告を受け入れられず、未だショックで動転しているように静まり返っていた。
「質問?質問だって?こんな状況で何言ってやがるんだよ!?」
その質問にマコトが食って掛かる勢いで返す。
その表情はまるで獰猛な肉食獣を思わせるものだった。
「死ぬかもしれないような時に、状況だなんだとほざいてられるかよ!」
「あ……マコトさん、落ち着いて!」
「チカは黙ってろよ!大体なんでこんなことに巻き込まれなくちゃならねぇんだよ!?」
「そ、そうですよ!」
マコトの怒号につられ、ツムギもウィスタリアに食って掛かる。
「私は……私はただ、SAOの中に裁縫関係のスキルがあるって聞いたからちょっと無理をして買ったんですよ!それなのに!どうしてこんなことに巻き込まれてしまったんですか!?」
「2人とも、落ち着いてってば!下手にパニくっても解決しないって!」
「うるせぇ!呑気に落ち着いてられねぇって言ってんだよ!!」
ノゾミもマコトを宥めようとするも、当人は全く聞く耳を持たない。
チカとメディもあわあわと喧嘩の仲裁に止めようとするが、アキの苛烈な怒りを抑えられそうにない。
「――狼狽えるのはお止めなさい!」
背負っていた両手剣を抜き、ガンと足元の石畳を叩いた直後、凜と張った声を放つ。
その一言で、パニックになっていた5人がぴたりとを静まった。
「確かにこの状況、狼狽えるなというのは不可能でしょう。ですが、今だからこそすべきことがあるのでは?」
「そりゃ……最速でクリアすることだろ?」
ウィスタリアの一言で冷静になったマコトが、思いついた答えを述べる。
一方でウィスタリアも「確かにそうですわね」と一度は肯定する。
「ですが、彼らの武器を造る者は?防具は?回復アイテムは?」
「え?あ、ちょ、えーっと……」
ずけずけと質問を繰り出すウィスタリア。怒涛の質問攻めにマコトはおろか、他の4人も口ごもってしまう。
だが、冷静に考えれば当然なのかもしれない。
だがもし、この1万人全員が攻略組となったとしよう。NPC産の武具で生産数に上限は無いのか?モンスターのようにリポップするのか?ポーションのようなアイテムは全員十分に揃えられるのか?
はっきり言って、それは不可能だ。
他のゲームにも武具の生産や強化を生業に憧れるプレイヤー、調合で回復アイテムを生成することに興味を持つプレイヤーがいるように、最前線で戦う以外の行動を取るプレイヤーもいるのだ。全員が全員、攻略一辺倒になったらそれこそ1万人が全滅してしまうのは目に見えている。
そして同時にこの時点でウィスタリアは思案したのだ。自分達は最前線で戦うのではない、そこで戦う彼らを支援する行動をすべきだと。
「ですが、支援のほうはまだまだ手探り状態。こちらは今は後回しにしておきましょう。もっと可及的速やかに解決すべきは……あなたですわ」
「わ、私?」
ビシリ、と彼女が指したのは優衣――もといメディだった。
一行が、メディを含めた5人が疑問符を浮かべているが、その中でアキだけがすぐに理解できた。
「――ベータテスト」
「その通り。察しが良くて助かりますわ」
マコトの一言でようやく他の4人も納得できる。
8月から10月の間に行われたベータテストを体感した1千人は、このゲームを有利に進められる。
普通に考えれば、の話だが。
「もしかして、ベータテスターとそうでない人での情報の差を埋めたい、ということ?」
「その通りですわ。彼らは第8層までの危険なルート、効率のいい狩場やクエストなどを知っています。普通なら9千人と違って効率よく進められるでしょう。ですが――」
「その1千人は、9千人の恨みの的になる……?」
嫌な予感を口にしたメディに、ウィスタリアは重く自らの首を縦に動かして肯定する。
例えこのSAOがデスゲームを開催していなくても、βテスターはより効率よく攻略が進めるというものだ。おまけに正規版の優先購入権をテスト終了時に得ているため、SAOを手に入れるのは容易だっただろう。
半面、そのアドバンテージを持っていない一般プレイヤーからは恨みを買いやすく、このデスゲームにおいてはそれが顕著に表れてしまう危険性もある。
「約9千対1千未満……下手をすると、園外でリンチにされるという事も考慮されるということですか?」
「!!」
チカの指摘にメディは思わず身震いした。
今は園内故に安全だが、もし「自分はβテスターだ」と口外してしまえば一般プレイヤーの憎悪の矛先は真っ先にその人物に向けられ、園外に出た途端一般プレイヤーたちからの数の暴力で殺されてしまうだろう。
幸い、メディの周りには現実での幼馴染のアキと、それを承知で受け入れてくれた5人がいるのでその心配は無いのだが。
……ん?
「話は分かっタ」
その声は路地裏から聞こえてきた。
その人物は、顔の両頬に鼠のひげのようなペイントを施した女性だった。
一行が警戒している中、メディだけは心当たりがあるように彼女に話しかける。
「アルゴさん?」
「ようメーちゃん。2ヶ月ぶりだナ」
「知り合い……となると、あなたもベータテスターなのね」
「まぁナ。さっきの立ち聞きは謝るヨ。けど、一般プレイヤーにオレっち達の情報を提供するのは賛成ダ。オレっちも何人か集めテ、情報提供型ギルドを起ち上げようと思っていたからナ。情報提供者も多いほうが良イ」
アルゴも情報アドバンテージを埋めたいという思いはあったようだ。彼女もまたベータテスターであり、その際には情報屋として行動していたのだ。
メディも噂を聞いて彼女の元に足を運んだことで知り合っている。
「この姉ちゃんは、クリアまでに犠牲者を1人でも多く減らそうって事なんだロ?」
「その通りですわ」
「といってもどうするんですか?広場のほうは収まったみたいですが、まだ状態は最悪ですよ」
広場のほうではどうやら騒ぎは一応収まったらしい。
早々に次の拠点へと向かった者。ここに留まると決めた者。しかし、それが最悪な状況を覆すかどうかは……否である。
方針が決まったとはいえそれではいそうですかと動けるほど、1万人弱のプレイヤーたちは、今もこの状況に絶望のどん底にある。いつ自殺者が出てもおかしくない。
(確かに、犠牲者を抑えるにはまずこの混乱をどうにかしなければなりませんわね……。とはいえ呼びかけに応じるかどうか怪しい物ですわ。この街にいる全員が私達の話を聞いてくれる訳でもない。ましてや攻略なんて、危険に最も近い場所に身を置くなんてマネは強要できない……)
ウィスタリアがどうにか混乱を鎮めようと仮作する中、それより先にノゾミが動いた。
「私、行ってくる」
「ノゾミさん?何をするつもりですの?」
「あの混乱を少しでも鎮めに行くのよ」
あっけらかんと答えたノゾミに、全員が息を呑む。
「おい待て正気カ!?死ぬことは無いが下手すりゃ奴ら総出でボコられるゾ!」
アルゴが思わずノゾミの手首を掴んで制止しようとする。
確かに普通なら、彼女の選択は正気の沙汰とは思えないだろう。
それでもノゾミはアルゴの手を振り払うことなく、彼女のほうへ振り替える。
「大丈夫よ。こういうのには憧れてたから」
「あ、憧れ?」
「ちゃんと見ていてね」
「あ、おい!」
制止を振り切ってノゾミが広場へと行く。
そんな彼女の顔は、無謀と呼ぶには明るく、楽観的と呼ぶには決意に満ちていた――。
†
「おい……本当に自殺したのか……?」
始まりの街の縁、宙へと身を投げたプレイヤーが消滅する様を目の当たりにして、誰かが呟いた。
「ふざけんなよ……あの野郎の言った事が本当だっていうのかよ?」
「あぁ!?冗談じゃねぇよ、ただログアウトしたんだろ!?」
「ログアウトできないのにどうしてそんなことが言えるんだよ!!」
「嫌よ、私死にたくない!!」
一人が呟いた途端、まるで飛び火していくかのように怒声、罵声が集団に感染していく。
言葉での罵声の飛び交いから、誰かが手を出し、ついには殴り合い蹴り合いの乱闘へと発展していく。
「――何、この声?」
路地裏に隠れ、乱闘から避難していた少女が突然声を上げた。
声――というよりは歌に近い。
少女は声を頼りに路地裏を通って広場へと戻る。
「~♪~♪~♪」
夕焼けから夕闇へと変わる広場の中心で、歌っていた。
広場に残っていたプレイヤー、少女のように歌に釣られてふらふらと足を運んだプレイヤーは、思わずその歌に聞き入っていた。
声を伝えるマイクも、バックに歌を彩る音楽やそれを奏でる楽器も、ステージを飾る演出も無い。
それでも、少女たちはノゾミの歌に聞き入らずにはいられなかった。
「~♪~♪」
「何だあれ……?」
「綺麗……」
後ろからの声にふと我に返った少女は振り返ると、乱闘をしていたプレイヤー達も歌につられて広場にやってきた。
やがて歌が終わると、静かな拍手が少女に送られる。
「みんな!私の歌を最後まで聞いてくれてありがとう!」
拍手を受けてノゾミが深々と礼をする。
「確かに、この状況は最悪かもしれません。だけど、私のギルドマスターはゲームクリアの他に犠牲を減らす方法を今考えています。私には歌うことしかできないけど、これからここに残る人たちに、攻略に進もうとする人たちに、この街にいるみんなに、これだけは心に留めてください」
「生きるのを、諦めないで」
それだけを言い残し、ノゾミは広場から去って行った。
観客となったプレイヤーたちはその後も暫く呆けていたが、やがて動き出す。
ある者は殴り合っていたプレイヤーと謝罪を交えて真剣に会話し、ある者は武具屋へと向かう。
「――私も、こんなところで死んでなんかいられない……!」
その筆頭、後に攻略組筆頭ギルドに所属し、「閃光」の二つ名を得る少女もまた、決意を胸に歩き出していった。
†
「すっげぇナ。あの状況を歌一つで鎮めやがっタ」
「……うん。アイドルのライブみたい」
遠くから広場を見ていたメディ達もノゾミの歌を聞いていた。
歌のレベルの高さに思わず聞き惚れていたが、ノゾミが帰ってくると同時に自分の役割を思い出すように我に返った。
「おっと。聞きほれてる場合じゃなかったナ。とっととオレっち達も行動を起こすゾ」
「そうですわ。こちらでも準備を進めないと。ある程度進んだら自分で狩りができるようにならなければなりませんわ。その為にも、こちらも中層域程度のレベルを上げなければなりませんし……」
ウィスタリアは攻略とは異なる問題を見ている。
メディもまた、意を決してアルゴのほうへ歩み寄った。
「それでは、私からも情報を提供させていただきます。私の知ってる限りの情報をお伝えします」
「ああ、オレらも情報提供者が多いほうが良い。8層ボスまで宜しく頼むゾ。メーちゃん」
アルゴとメディががっちりと握手を交わす。
ウィスタリアはそれを見てくるりと踵を返す。向かう先は園外――ではない。
「私も急がなければなりませんわ。暫くはレベルアップに努められませんけど、そちらはお願いしますわ」
「ああ。任せとけ」
握手の代わりといわんばかりに突き出された拳に、ウィスタリアも自分の拳合わせる。
「あ、真琴ちゃん」
ふと思い出したように、メディがアキに駆け寄る。
「もし街に着いたり、次の街に行こうとするんだったらこまめに連絡してね」
「ああ。それだけで十分だよ」
メディが掴んだ手が僅かに震えている。
その理由がマコトには理解できた。
――コイツは、自分やメディが死ぬかもしれない事態が来ることを、恐怖している。
「大丈夫だ。あたしは死なないし、優衣も死なせない。また5人でバカやれる日がきっと戻ってくるさ」
和らげるように、彼女なりの精いっぱいの笑顔を咲かせる。
その笑顔でメディも安堵したのか、手の震えも治まっていた。
「……ありがとう」
「よし、じゃあ行ってくる」
メディはアルゴと共に攻略情報を纏めた小冊子の作成。
ウィスタリアは混乱の只中にある始まりの街の治政と組織の拡大に。
そして残る4人は――攻略への足掛かりを掴む為にと動き出す。
†
1層の始まりの街で起きた、デスゲーム開催と直後に起きた突然のゲリラライブ。
その歌は恐怖に沈んでいた人々を奮い立たせてくれた。
しかし、それが犠牲者が即座に0になるということに――繋がる訳でもない。
第1層攻略までの1ヶ月に1600人――それが、命を落としたプレイヤーの総数であった。だが不思議なことに、その中で自ら命を落とした者は初日以降現れることは無かった。
後にこのライブは、生還者の口からある種の伝説として語られる。
――【黄昏の歌姫】と。
次 回 予 告
チカ
「始まったデスゲーム。私達は3手に分かれて攻略、治政、攻略補助へと動き出しました」
チカ
「まずはノゾミさんの武器の為に、ホルンカでレア武器の獲得をします」
チカ
「……って、なんですかあの気味の悪い怪物は!?あれを倒せと言うのですか!?」
チカ
「次回、【始まりの次の日。~植物共のコーラス~】」
チカ
「え……?何ですかこの数……?」