PRINCESS ART ONLINE ※更新停止 作:日名森青戸
(・大・)<ソードスキルを纏めたサイトを見てみたら、踊るような動きが多かったのでノゾミにはピッタリかと。
デスゲームから始まったその日の夕刻。
メディは小冊子作成の為の情報提供でアルゴと同行。
ウィスタリアは始まりの街の治政の為に他のプレイヤーの協力を仰ぐ為に奔走。
残る4人。マコト、ツムギ、チカ、ノゾミは現在始まりの街周辺の狩場を歩いていた。
「……あのさ。一ついいか?」
「なんですか?」
「お前なんで付いて来たんだ?」
マコトが振り返り様に後方を歩いていたツムギに訊ねてきた。
昨日の一件でツムギの動機を知っていた3人からすれば、ツムギは始まりの街に居てウィスタリアの補佐をしていてもおかしくないと3人は予想していただろう。
そんな彼女が自分達と共に攻略についていくなんて、始まりの街の門の前まで来た時には3人とも驚いた。
「仕方ないでしょう。生産職になろうにもスキルスロットが全然足りませんからね。メダイまではついていきますよ」
「頑固な奴。ま、危険な場所には近寄らないようにな」
「解ってますよ」
ぼやきつつも一行は脚を止めることなく、時に現れるモンスターを相手に一対多で挑み、まっすぐに昨日メディと共に歩いたルートを歩きなおしている。
彼女らは既にこのエリアの適正レベルを超えている。モンスターのリポップするとはいえ、自分達がこの狩場を独占するわけにもいかない。
途中、HP全損する危険のあるプレイヤーには、ツムギがモンスター相手に投擲スキル《シングルシュート》を使ってタゲを取り、マコトとノゾミが攻撃を防ぎつつ、チカがポーションを救助相手に差し出す。だが一応ラストアタックはそのプレイヤーに任せている。
そんな救助とモンスターとの戦闘を繰り返し、危険地帯を迂回しながら進むこと数十分。やっとホルンカの村に戻ってきた。
「着いたー!」
「2度目ですね、それ」
入り口の門をくぐった所でノゾミが戦闘の緊張感から解放され、園内に入って伸びをする。
因みにこれ、2度目である。
ノゾミとツムギのやりとりを傍目に、マコトは始まりの街でアルゴの元にいるメディにメッセージを送っていた。
「……これでよし。この後どうする?」
「武器をメンテした後で、私ちょっと装備を変えてきます」
チカが一向に向けて挙手をする。
彼女の持つ両手槍は別段戦闘を避けていたので、別段耐久値はそれほど減ってはいないのだが。
「何だ、両手槍じゃ不満だったのか?」
「いえ。今後の為に取り回しやすい片手槍と盾にしようかと」
チカの考えに3人は納得できた。
このデスゲームと化した今、一度でもHPが尽きればそこで何もかもが終わってしまう。HPやVITは高いに越したことはない。
盾は基本攻撃するスキルは存在しないが、初期の盾でも固定値でダメージを削るパッシブスキルを持っている物が多く、タンクには必需品といっても過言ではない。
――最も、小盾に属する物は盾以外の箇所を攻撃されたら元も子もないが。
「あー、でもここって耐久値低いみたいだよ。どうするの?」
「え?」
意を決したものの、ここの武具は耐久値が軒並み低いことに気付かなかった。
不幸中の幸いだったのはこの時はまだ槍を売却していない事である。もし購入した後だったら、予備の購入など金銭面で泣きを見る羽目になっていただろう。
因みにこの時、しょんぼりとしたチカの顔がお預けを食らったプードルみたいな顔をしていたと一行は思ったのだった。
†
それから20分後。武具のメンテナンスや宿の確保、素材売却を終えた一行は森の中を歩いていた。
「で、何で森に?」
「えっと……“危険な珍味”ってクエストだな。“ランナーバード”って奴が落とす食材を回収すれば、5層まで使える曲刀が手に入るって」
「そっかー。曲刀獲得のクエストかー」
メディからのメールを読み上げるマコトにノゾミも納得したように声を上げ――直後に突っ込んだ。
「いやそれとっとと次の拠点へ行けば済むことじゃない?」
ここでメンバーの武器を思い出してほしい。
ノゾミが曲刀。
マコトが両手剣。
チカが両手槍。
ツムギが短剣。
――そしてこのクエストで得られるのは曲刀。
要するに、ノゾミ以外このクエストを受けるメリットが存在しないのだ。オマケに“ランナーバード”はかなり出現率が低い。
ノゾミからすればこのクエストを受けるよりとっとと次の村で装備を買ったほうが何倍も手っ取り早いのだ。
「何、あたしらもレベル上げておきたいからな。手は多いほうが良いだろ」
要するにレベリングを兼ねたノゾミの手伝いらしい。だがこのクエストでは“実付き”のリトルペネントも現れるのだ。ある条件で倒すと『危険な香り放つ果実』というアイテムをドロップし、それを持って帰ることで食材を手に入れられる。アニールブレードと呼ばれる片手剣を手に入れる“森の秘薬”というクエスト同様、クエスト限定のモンスターだ。
“実付き”というのは本来のリトルペネントの亜種のようなもの。“実付き”も胚珠を落とす“花付き”と呼ばれる亜種同様出現率は低いが、生っている実を部位破壊してしまった時、周囲のリトルペネントを全て引き寄せてしまう初心者狩り同然の能力を持っている。
数百……とまでは流石にオーバーだが、下手をすれば数十体ものリトルペネントからのリンチでHPを全損され、脳髄のレンジ焼き4名様分の完成である。
「それじゃあ宜しくね」
渋々彼女も諦め気味に同行を承諾。
早速森の中を探索を再開した。
「――ねぇ、やっぱ次の村に行ったほうが早かったんじゃない?」
「言わないでください……私だって――いえ、多分この4人全員が思ってることです」
「優衣の奴……あんなキモグロモンスターだったなんて聞いてねぇぞ……!」
マコトの、ここにいないメディへの恨み節は他の3人にも共通するものだった。
対象のモンスター、リトルペネントは一言で言えばたらこ唇のウツボカズラ。見た目のグロさが更に彼女らの足取りを重くしていた。今更ながら、ノゾミの提案を素直に次の拠点へ行けば良かったんじゃないかと後悔し始めている。
そんなグロモンスターとの戦闘をかれこれ7時から2時間。普通のリトルペネントを軽く100匹以上狩り続けてもクエストクリアには至らない。補足を付け加えると、ランナーバードは基本“花付き”や“実付き”と比べたらポップ率は高いのだが、その分逃げやすいのだ。だがその苦労に見合った【剣舞のサーベル】は5層のモンスターまで適応する破格の性能を持つ武器である。
出ないレアモンスターになかなか上がらないレベル。挙句の果てには……
「見つけました!あの鶏ですね?」
「おっしゃあッ!!とっとと倒してクエストクリアすっぞ!」
「KIEEEE!?」
「えっ!?ちょっ、何あれ足速ッ!?」
「あー!逃げられたー!」
これだ。
ランナーバード――でっぷりと太った鶏のようなモンスター――に出会ったは良いものの、ある程度牽制の如く距離を保った動きをした後、一目散に逃げられる。今の4人の俊敏性では到底追いつけない。
ついでの補足として、ランナーバードはクエストを受けたプレイヤー1人につき、または1パーティにつき1体にしかポップしないのだ。
強いられるグロモンスターとの戦闘。連戦での疲弊。デスゲームのプレッシャー。見つかっても逃げる標的。ゲーム初心者同然の4人の心を色んな意味で圧し折るには十分な材料だろう。
「さ、索敵の様子は……?」
「あー……向こうに何匹か居るわね。でももうやる気にはなれないわ……」
「どうしますか?一旦耐久値を回復させて、やり直します?」
「いやもう普通に次の拠点に行ったらぁ……?」
ノゾミが半ば諦め気味に提案する。
ここまで効率が悪いと思っていなかったらしく、3人も諦めて提案に乗ろうと村の入り口まで帰還しようとした時だった。
「……あれ?」
「どうした?」
「リトルペネントに交じって変な鳥がいます。あれは……ランナーバードです!!」
「マジで!?」
ツムギが森の奥、一行から見て3メートル先の開けた場所にリトルペネントの群れの中にランナーバードがいるのを発見したとの言葉に、疲弊も吹っ飛んだマコトを始めとした3人は千載一遇のチャンスを逃すまいと飛び起きた。
奇跡に等しい幸運に、その場所へと大急ぎで駆ける。
「――あれ?まだ誰かいます。2人!」
「ハァッ!?こんなに苦労してんのに横取りする奴がいるってのか!?」
「いや普通に次の村行ったほうが早いってば」
「うるせぇ!もうこうなりゃ意地でもクリアしてやる!」
グロテスクな植物と疲弊とアホみたいに低いポップ率に摩耗されたマコトには、ノゾミの言葉なんて聞いていなかった。
もたもたしてたら森の奥に逃げてまたリトルペネント狩りに逆戻りだ。
一刻も早くこんな非効率的なクエストをとっとと終わらせてしまおうということしか頭にない。
「なんっ――!?」
「――だぁ!?」
「KIEEEE!?」
「いい加減イラついてるんで、あとうるさいから黙っててください!」
2人の少年が突然茂みから現れた4人に絶句するも、4人はどこ吹く風。
まず、クーナが《シングルシュート》で踵を返して逃げようとしたランナーバードの逃げ道を塞ぐ。
その隙にチカが更に逃げ道を塞ぐようにディラトンの突進を応用してランナーバードの前に出て逃げ道を塞ぎ、ツムギが黒髪の少年の前に出て、更に逃げ道を限定する。
「おらぁ!」
そこから更にマコトが追撃に足元を狙った突きを繰り出す。その攻撃をランナーバードは、跳んで回避し、そのまま両手剣とマコトの腕を、丸々と太った見た目からは想像できない脚力で駆け抜けて跳び上がった。
いや、跳んでしまったのだ。
「せいやぁ!」
マコトの背後からノゾミが跳躍した後、空中にいる《カーム》で胴体を斬り付ける。
ランナーバードは始まりの街周辺のフランジーボアよりもHPが低く設定されている。つまり、空中のように身動きが取れないようにしてしまえばソードスキル抜きでも一撃で倒せてしまうのだ。
「マコト、アイテムは?」
「――あったぞ!」
素早くストレージを確認する。アキのストレージには確かに“引き締まったもも肉”がストレージ内に入っており、これでこのグロテスクなモンスターから解放されると内心安堵した。
しかし、最後の1体が倒して浮足立っていたのか、アキの背後からリトルペネントが触手をうならせながら迫ってくる事に反応が遅れてしまった。
「危ない!」
チカがすかさずその肉体を“生っていた実ごと”貫いた。HPは前もって誰かが削ってくれていたらしく、ソードスキル抜きの刺突一撃でポリゴン片へとなって消滅した。
「わ、悪い。助かった」
直後、九死に一生を得たアキの感謝の言葉と、
「おい、何やってんだ……」
顔を青くした黒髪の少年の呟きが同時に聞こえた。
直後、その少年とは別の少年が踵を返してそのまま茂みを突っ切っていき、5人の視界から消え失せた。
その行動に黒髪の少年が「そういうことか……!」と理解した呟きを発した後、4人に向けて叫ぶ。
「おいアンタら!今すぐ逃げろ!!」
「は?」
少年の怒号にノゾミは理解できずにただ疑問符を浮かべるだけだった。
直後、甘ったるい臭いが鼻腔を突き抜け、異変に気付く。
「え?何この臭い……?」
「良いか、これからヤバくなるから端的に説明する。これからとんでもない数のリトルペネントが俺らを殺しに来るから、全速力で逃げるぞ」
矢継ぎ早に告げられた説明に更に理解不能に陥る4人。
だが、茂みの奥からがさがさとかき分ける音を耳にした時、彼が先ほど言った通りにヤバい状況に立たされていることが理解できてしまった。
「――全速力で走れぇ!」
少年の絶叫と共に駆け出し――直後に茂みの奥から消化液をまき散らしながらリトルペネントの群れが襲い掛かってきた。
†
死に物狂いの逃走劇は、時間からすれば10分にも満たないものだった。
ノゾミの《索敵》で周囲を探り、チカと少年が迎撃。振り回しに難のあるマコトはツムギを連れて戦闘をひた走る。
途中、HPがレッドゾーンになって、ポーションを呑んで回復して、迫るリトルペネントを狩って、ひたすらにひたすらに走り続けることを繰り返して――。やっとホルンカの村の入り口を潜り抜けたのだった。
「い……生きてるっぽいですね……?」
息切れして肩を震わせるクーナ。
全員武器の激しい戦闘の影響で耐久値がほぼゼロ。アキに至っては両手剣が折れて一時は本気で死を覚悟していた。
それでも全員何とか生き残れて――いや、違う。1人の犠牲で5人が助かったのだ。
「そういや、さっき突き飛ばした人は?貴方の連れ?」
「連れ……という訳でもないな。多分今から助けに行ってももう手遅れだ」
連れの少年の救助へと赴こうとした時、少年の冷徹な声が引き留める。
4人には言っていないが、彼は少年――コペルが消滅するのを音で確認した。
4人は直接コペルの死を見ていない。だが、少年の言葉でスヴァの身体が僅かに震えだす。
「……それは……それはつまり、私が彼を……彼を間接的に殺してしまったということになるのでは……?」
「違うな」
人を殺した。その事実に気付き、今にも爆発しそうな恐怖に呑まれそうになったチカは、少年の一言で引き戻される。
「アイツは、コペルは最初から俺を、他人を蹴落としてでも生き残るつもりだったんだ」
「どういうこと?」
「俺が“花付き”を倒して胚珠を手に入れた時、あいつは“実付き”の実に攻撃しようとしていたのが見えた。けど“実付き”が急に標的をコペルからお前らに向けてきたんだ」
「それってつまり、私達が首を突っ込まなくても実行してたって事?」
むしろ、MPK――モンスター・プレイヤー・キル――を考えていたコペルからすれば戦利品が増える嬉しい誤算だったのだろう。
少年は頷き、結論を述べた。
「だけど、《隠蔽》はプレイヤーのように視覚に頼った相手には効果が高いが、リトルペネントは触覚で周囲を探知する。
コペルが生き残れたかどうかの分岐点はそこだった。もしそれを知っていたのなら、MPKで少年を始末できたかもしれないし、自分も生き残れたかもしれなかった。
ノゾミは、頭では理解はしているつもりだ。だけど、
「――どうして、あんな真似を?」
「……それは、俺がコペルを見捨てたことか?」
「それもあるけど、そのコペルって人がどうして私――いや、あなたを狙ったの?」
「……あんたら、VRゲームは
「ええ。というか、私達4人」
少年の問いかけに、眉をひそめながらも頷くノゾミ。
少年は深く息を吐くと起き上がり答える。
「MMOってのは他人を蹴落としてでも強くなるような奴はいる。少なくとも俺はSAO以外でもそういう奴に会った事はある。コペルは単にそうして生き残ろうとした判断が早かった――いや、早過ぎただけだ。それは生死の瀬戸際で他人に見限られる要因にもなりうる」
「でも、今はHPが尽きたら死んじゃうんでしょ?私達はこれまでも何人か死にそうな人達を助けた!だから――」
「それでも限界はある。というか、今はそんな奴らまで助ける余裕なんて無い」
「だからって――」
「それに、アンタらは悪意やエゴで、他人を陥れようとしたり殺そうとする奴も助けるのか?」
冷徹な少年の問いかけに、ノゾミは言葉を詰まらせた。
答えが出なかったと判断して、少年はホルンカの村へと向かう。
「兎に角俺はクエストを終わらせて寝るから、アンタもクエストを終わらせてこい」
「――最後に一つ、いいかしら?」
ノゾミの声に、少年は振り返る。
「名前を教えてくれる?私はノゾミ。それと今パーティを組んでいる3人がツムギ、チカ、マコトよ」
「俺は……」
少年は一瞬迷った。
これからまた会えるとは思いたくないが、この状況で先のコペルのようにいつ誰が死んでもおかしくない。
けど、彼女らはまたどこかで会うかもしれない。少年はそんな気がしてならなかった。
「俺は……キリトだ。覚えなくていい」
マコト
「ギルド結成も済み、第3層のボス攻略が開かれるそうだな」
マコト
「今度は3ギルド合同によるボス攻略だそうだ」
マコト
「けど、だからってあたしらは弱いままじゃいられない。今後も続くデスゲームの為にもこのボスを攻略しないとな」
マコト
「次回、【ギルド結成~大連合のダンシング・フィア―~】」
マコト
「おーい、だいじょぶかー……?」