PRINCESS ART ONLINE ※更新停止 作:日名森青戸
(・大・)<本年度1発目はPAOから。
2023年6月3日。
【アインクラッド解放隊】が潰滅し、【血盟騎士団】の台頭してきて3ヶ月。
【血盟騎士団】を筆頭にした攻略はこれまでの攻略とは桁違いのペースで進んでいき、現在33層の攻略に差し掛かっていた。
そんなある日。攻略とは関係の無い始まりの街の、【ゴスペル・メルクリウス】の仮ギルドホームの小さな屋敷のリビングでメモ帳とにらめっこしていたマコトが、ウィスタリアの提案に素っ頓狂な声で返した。
「親睦会ぃ?」
「ええ。【ゴスペル・メルクリウス】主催の親睦会ですわ!」
その提案者、ウィスタリアはバン!と壁を叩く。本来ならホワイトボードにでも叩きつけたいのだが、残念なことにSAOにはそんなものは存在しない。
「今後、ギルド同士での連携も必要になってくると思いますの。ある程度ギルド間での交流はしておけば、いざという時に役に立ちますわ」
「そういや優衣は前のゲームで色々なギルドと交流してたっけな。レジェンドオブアストルム……だっけ?」
「ゲームでも現実でも、相手とのコミュニケーションは必要不可欠!他のギルドとの連携も交流なくして始まりませんわ!それに、ギブ&テイクにゲームも現実も関係ありませんわよ?」
ウィスタリアの自信満々に張り上げる声にマコトは「どこから来るんだよその自信は」と思いつつ、幾分か納得した。
デスゲームに在らずとも、ゲームの攻略で孤立してしまったらその場で詰みだ。ギブ&テイクはどの世界においても無くてはならない交渉手段といえよう。
もしもの時に孤立してしまった時を想像すると、目も当てられない。
「んで、どうするんだ?」
「そうですわね。流石に大規模ギルドにいきなり声をかけるのもアレですし、まずは中小のギルドからお誘いをしてみましょう。メモの機能は……あぁ、使えますわね」
ウィスタリアはしきりにメモ帳の機能を試して張り紙を出す事を確認する。
「私は色々な主街区を巡ってNPCショップにこの張り紙を貼りに行きますわ。マコトさん、後を頼みますわよ」
「え?あ、おい!」
マコトの制止も聞かず、そそくさと仮ギルドホームを後にする。
後に残されたマコトは……。
「ったく、あいつは……。それにしても、味覚再生エンジンって難しいな」
そんなことをぼやきながら、またメモ帳とのにらめっこを再開するのだった。
†
翌日。
17層主街区の転移門広場には、マコトの予想を裏切り人だかりが集まっていた。
「お集りの皆さま、本日は我が【ゴスペル・メルクリウス】主催のギルド合同会に参加していただき、誠にありがとうございます」
昨日のウィスタリアのチラシに目を止め、合同会に参加したギルドは2つ。
ケイタ率いる【月夜の黒猫団】と、オルトランド率いる【レジェンド・ブレイブス】。合計11人。ウィスタリアとマコトを含めれば13人だ。
集まったのはどちらも小規模ギルドだ。主催者側も、均等に成果を分配するにもあたってこれくらいが丁度良いだろう。
「今回は17層迷宮区。既に攻略してありますが、十分危険性のありますので、注意は怠らないように!」
主催者のウィスタリアが2ギルド全員に行き渡るような大声を張り上げる。傍から見れば引率の先生のようにも見えたが、そんなシュールな絵面も存外似合ってるとマコトは内心思ってしまった。
「それで、お前はここに居て良いのか?」
ウィスタリアと参加者たちのやり取りを尻目に、集団から距離を置いているキリトに話しかけるマコト。今、彼のレベルは最前線で活躍できる筈なのに。
「良いだろ、俺がどんなギルドに入ろうと」
彼女に対してキリトはぶっきらぼうに返すだけで、真相は語ろうとしない。
2人の間に沈黙が包む。数十秒間の合間の後、マコトが溜息を吐く。
「ま、そんなに語りたがらないなら無理強いはしないけどさ、早々にあいつらにホントの事はいたほうが良いんじゃないのか?」
「……そうしとく」
そこからはポーションを分配し、準備も整った所で17層へと転移していく。
†
17層、迷宮区。
「おっさん、スイッチ!」
「任されよ!」
攻撃を受け止めたマコトが下がり、入れ違いにオルトランドが【リザードマン・ゾルダー】に剣戟を叩き込む。
今ウィスタリア達が挑んでいるこの迷宮区は、モンスターのレベルは外のモンスターと比べて一回りレベルが低いものの、いかんせんモンスターの数が多いのだ。しかしドロップするアイテムはそれなりに使えるものも多いので、当時は美味しいダンジョンとしても有名だったのだ。
その為4人、4人、5人の3組のレイドを組み、交代制で雑魚モンスターと戦闘を繰り返していた。
「これだけの数でも全員に十分戦闘ができるとは。入れ食い状態とは正しくこのことだな」
「本当にすごいですね。あ、テツオ。敵が来てるぞ!」
「おぉっと!」
更にこの迷宮区は罠の類は少ない分、物量で攻める傾向にある。
安全エリアにいないとものの20分程度でリポップが再開してしまうといわんばかりに、今まで自分達が通ってきた入り口付近の通路に青白い光が現れ、それが消えると同時に【キャバルリィ・リザード】が現れた。
「あと、おっさんは無いだろ?一応こっちは今年で20だからな?」
「あぁ、悪い」
先の戦闘でおっさん呼ばわりされたオルトランドにマコトが軽く謝罪を入れる。
「早く安全エリアに向かいましょう。合同会に来てくださった皆様を、トカゲの餌にさせる訳にはいきませんわ」
ウィスタリアが冗談めいた――いや、下手したら本当になってしまうのだが――ことを言いつつ先頭に立って奥へと進んでいく。
そんな後姿を追いつつ、ササマルが訊ねる。
「あの、ここをどうして知ってたんですか?」
「情報屋から聞きましたのよ。本当は迷宮区のほかにフィールドで1時間ほど狩りをする予定でしたが、こちらのほうが実入りが良いらしいですわ。罠も少ないから予想外な目に遭う危険性もありませんわ」
確かにこの大所帯ならダンジョン1つでの報酬では割に合わないだろう。だがここならモンスターも多く、ドロップアイテムも豊富。虫系のモンスターの多いフィールドでは、大した素材にはならないドロップ品が多い。
これから装備を強化していくには、十分と言っていいだろう。ここまでは良かった。ここまでは。彼らは誰一人気付く事無く、一つミスを犯してしまったのだ。
彼らが犯したミス。それは道案内を主催者のウィスタリアに任せたことだ。
この、全身真っ赤と表現しても可笑しくないこの女性プレイヤーに。
†
3つのギルドでボスを倒し、ダンジョンを制していく中で交流を深めていく。その筈だった。
ダンジョン潜入から30分。疑問に思ったケイタが疑問を口にした。
「あれ?ここさっき通ったっけ?」
「そうだったかしら?」
更に30分経過……。
「……行き止まりだな」
「結構広いんですのね。このダンジョン。なら、今度は先程の角を左に曲がりましょう」
更に1時間半経過……。
「……おい、ここさっきも通らなかったか?」
「そうでしたっけ?」
更に2時間経過……。
「……」
「……」
「……」
「……」
潜入から5時間。
意気揚々と入ったはずなのに、いつの間にか出口の見えない迷宮に放り出されてしまっていた。
いつの間にかダンジョンの中で誰も喋らなくなってしまった。
そして何度目かわからない安全エリアに入ると、サチががっくりと膝をついた。
「もう嫌だ……!いったい何時になったらこのダンジョンから脱出できるの……!?」
「このダンジョン、下層域にしちゃ複雑すぎない……?」
「ひょっとして、バグか何かに引っかかったとか……?」
サチに続いて次々と参加者の殆どが倒れ込む。開始したのは午前8時。今現在午後1時。
一向に出られないダンジョンを彷徨い続け、精神的なダメージが大きく、HPに換算すればミリ残しの状態と大差ないだろう。
「仕方ありませんわね。時間も時間ですし、お昼にしましょうか」
「さ、賛成……」
唯一平然としているウィスタリアの提案に賛成し、死体に鞭打つかのように起き上がった一行。
昼食はボア肉や野菜を使ったボリュームたっぷりのサンドイッチと、ミネストローネ風スープ。肉汁滴るボア肉が食欲をそそり、トマトの酸味とコクが味わい深いミネストローネ風スープ共々あっという間に平らげてしまった。
しかし、一人だけ食事を終えても不満を抱えている者が。
「……」
「あの、マコトさんどうしました?さっきから不満そうな顔をしてますけど……」
「あのさ、SAOに欲しい調味料があるか?」
「調味料?」
唐突な質問にサチは疑問符を浮かべた。
SAOには基本、現実世界での調味料は殆ど存在しない。実際に料理する際、見たことも無い食材を使うので料理経験者でも最初は勝手がわからず失敗してしまいがちだ。
現に今のサンドイッチのソースも、既存の調味料を使って試行錯誤を繰り返し、つい最近食べられるレベルにまで仕上げられたのだが、マコト自身は納得していないらしい。
「んー、俺はソースかな」
「僕はマヨネーズ」
「いやいや、ここは醤油であろう!」
「何言ってんですかオルトランドさん!味噌忘れてますよ!」
素朴な疑問から始まった調味料論争は、次第にパーティに飛び火し、いつの間にか参加者全員を巻き込んだ論争へと発展していった。
やれ照り焼きソースやらやれタルタルソースやら。発端であるマコトにも止められなくなってしまっていった。
「ふふ、親睦会は成功のようですわね。さぁ、休憩もここらで終わりにしましょう。探索を続けましょう」
パンパンと手を叩いて出発を促すウィスタリア。
横槍を入れてしまった感は否めないが、調味料論争で精神ダメージもあらかた回復した一行は重い腰を上げる。
そして再びダンジョン探索が再開される……。
「――ちょっと待て!!」
……瞬間、先頭を行くウィスタリアに対してキリトが声を張り上げた。
「あら、どうかなさいまして?」
「キリト、どうした?」
「……なぁ、ケイタ。今度は俺らが先頭で進んでみないか?」
「……?構わないけど」
「と、いう訳だ。頼む」
「え?ええ、私も異存はありませんわ」
キリトの案で今度は【月夜の黒猫団】が先頭に出てダンジョンを探索することとなった。
それからものの数分もしない内にボス部屋へと到達した。
「……うそん」
全員が信じられないといった表情をする中、扉の前でキリトが振り向かずにウィスタリアに訊ねた。
「……なぁ、ウィスタリア」
「如何なさいまして?」
「アンタこのダンジョン、ひょっとして下見してないな?」
「下見?これだけのメンツなら初見でも踏破は可能だと思い至っただけですわよ?」
あっけらかんとした様子で返すウィスタリアに、一同は思わず彼女に顔を向ける。
嘘偽りも悪意も無い返答にキリトは振り返り、ウィスタリアの元に近づく。そして、差し出された彼女の手を優しく握る。
「ちょっ、何を……?」
まだ恋愛に関しては
だが次の瞬間、キリトが背に回していた剣を、鞘ごと地面に放り投げた事で思わず顔の赤らみも消えた。一瞬だけ地面に落ちた剣を見て、キリトへと視線を戻した瞬間――。
「――滅べ!!」
鬼気迫る表情をしたキリトが自身のSTR任せに、ウィスタリアの手を握り潰さんと力を込めた。
「ひぎゃぁぁぁぁぁッ!!手がッ、手があああぁぁぁぁ!!!?」
「何やってんだオイィィィィ!?」
「ちょっ、キリト!痛がってる痛がってる!ウィスタリアさん痛がってるから!!」
「いやぁごめんごめん。つい力を籠めちゃった」
キリトを引きはがして宥める【月夜の黒猫団】の面々。若干キリトの顔から殺意が滲み出ているのは気のせいであってほしいと後のメンバーもドン引きである。
「だからってなんでいきなり……」
「いや、コイツの方向音痴のせいで散々迷ったんだからこれくらいは良いかと思って……」
「だからって手を潰すことは無いでしょう!?あと、今滅べって言いませんでした!?」
首以外のアバターの部位欠損は2分で元に戻る上に、ペイン・アブソーバーは働いているので実際の痛みは無いのだが、流石に自分の手が握り潰されるのを目の当りにしたら悲鳴を上げるのも当然である。
サチ達が懸命にキリトを宥めている中、マコトは迷宮区の天井にまで届きそうな巨大な扉を見上げながらキリトに訊ねる。
「キリト。ここのボスはどういった奴だ?」
「ん?ああ、確かここは【リザードマン・ゾルダー】数体と、奴らを束ねる【リザードマン・ルテナント】がいる。周囲のリザードマンの数だけステータスが上がるスキルを持ってたはずだ」
「じゃあ、最初壁役は防御に専念して、他はゾルダーの掃討。その後ボスを全員で叩くってところかな?」
「さっすが、何でもかんでもお見通しだなぁオイ」
「あれ?キリトの事知ってるんですか?」
「知ってるも何も、コイツは攻略――げふぉぅ?!」
刹那、マコトの腹部にキリトのストレートパンチが叩き込まれた。
鳩尾にまでめり込んだスキル抜きの拳に思わず呻き声をあげて倒れ込む。
「な、なにしやがるブラッキー……!?」
「黙れザシアン。俺は攻略組じゃない。OK?」
容赦ない一撃に沈んだマコトを尻目に、改めて扉に手を当てる。
「じゃあ、作戦はテツオの言った通りセンチネルを潰して全滅させた後、ルテナントを潰す。これだけの数なら負けはしないが、十分注意してくれ」
キリトの説明の後、一斉に参加者が応じるように武器を掲げる。
「……よし、みんな行くぞ!」
その期待に応えんと主人公ムーブよろしく扉を押し開ける。
そして一行の視界に飛び込んできた光景を見て、サチが訊ねた。
「……キリト。“数体”って、大体は何体を指したっけ?」
「……2、3体くらいかと」
ざっと6体はいる【リザードマン・ゾルダー】と、中央で両手斧を地面に突き刺し、腕を組んで仁王立ちで佇んでいる【リザードマン・ルテナント】と一斉に目が合った。
次 回 予 告
ウィスタリア「まさか、ボスの取り巻きが増えてるなんて思いもよりませんでしたわ」
ウィスタリア「ですが、交流会を締めくくるには丁度良い相手。さぁ、お覚悟はよろしくて?」
ウィスタリア「次回、ギルド合同ダンジョン攻略~共闘、混合、交響曲~」
ウィスタリア「……なんですって?あの方が?」
(・大・)<今回は連続投稿でっせ。