PRINCESS ART ONLINE ※更新停止 作:日名森青戸
【リザードマン・ルテナント】。
かつて6人1組の攻略組パーティで挑んだところ、配下の数は2体しかいなかった。だが、次に挑戦した9人2組のパーティが挑戦した時には配下が3体に増えていたのだ。それからは配下の数が4体だったり、2体だったりと挑戦者が潜入する度に配下の数が異なっていることが多数報告された。そのことに疑問を感じたプレイヤーが、情報屋を営むあるプレイヤーに検証を依頼した。すると、あることが判明されたのだ。
挑戦者数が6人までは配下の数は2体。そこからは挑戦者が3人増えるごとに1体、配下が増えるシステムとなっている事が判明したのだ。つまり、挑戦者数が多ければ多いほど、ボスのステータスが強化されていくのだ。
今挑戦中のプレイヤーは13人。つまり……。
「6人から相手の数が増えてくなんて聞いてねぇよ!?」
「文句があるなら
今現在、親睦会参加者は7体にまで増えた【リザードマン・ゾルダー】の戦闘と、【リザードマン・ルテナント】の妨害に必死になっていた。
【月夜の黒猫団】は【レジェンド・ブレイブス】と共にゾルダーを個別で戦闘し、キリトとウィスタリア、マコトの3人でルテナントの攻撃を受け止めている。
ルテナントのステータスは、現在は約1名を除いて全員のステータス平均を軽く上回っているだろう。
「俺達が攻撃を受け止めるから、みんなはセンチネルの討伐に集中してくれ!」
3人で、というには語弊があるが、正確には3人はスイッチを多用して完全フリーなゾルダーに攻撃を仕掛けている。
一応彼らを除いた10人は【リザードマン・センチネル】相手に前衛と後衛に分けた2対1の状況を保っている。が、よそ見をしていたらすぐに残った2体が援護に駆け付けられるかもしれない。
現に今はウィスタリア、マコト、キリトの順でローテーションをしており、ゾルダーを相手にしている他のメンバーよりも相当ハードスケジュールである。
「キリト、こっちは倒し――うわっ!」
「ダッカー!マコト、少し頼む!」
「お、おい!」
ダッカーの危機にキリトが攻撃の回避と同時に彼の元へと駆け付ける。
「――らぁッ!!」
レイジスパイクで一気に間合いを詰め、ダッカーに迫っていた【リザードマン・ゾルダー】の喉を刺す。
たまらず悲鳴を上げた【リザードマン・ゾルダー】は標的をダッカーからキリトへと変えて襲い掛かる。
「今だ!」
爪の攻撃を回避した直後、ダッカーと【レジェンド・ブレイブス】のメンバーと共にソードスキルを叩き込み、キリトを襲っていた1体を倒す。
直後にルテナントの大斧の攻撃を受け止めたウィスタリアが異変に気付いた。
「……?攻撃が弱くなった?」
「言ったろ、配下の数だけ強くなるって!2人は他奴らの援護に回ってくれ!」
的確な指示を出すと再びキリトはルテナントの攻撃を防ぎに戻る。
そこからはサチ&オルトランド、ケイタ&ネズハがセンチネルを倒したのを筆頭に次々とゾルダーを倒していく。
「ぐっ……!って、なんだ、軽いぞ?」
「ゾルダー全滅させた。後はボスを叩くだけだ!」
ついに最後のセンチネルがポリゴン片となって消え、ルテナントのステータスも元の数値へと調整された。
ここぞと言わんばかりに残る11人が取り囲む。
「よし、次の攻撃を弾いたらスイッチで入れ替わるぞ」
そのマコトの一言の後、ルテナントの斧がライトグリーンの光を帯び始める。左足を踏み込み、腰を低く据える。その状態から背が見えるほど胴を捩じった構えは両手斧の《エラディケーション》だ。
こちらも《リミック・エルプション》で迎え撃とうとウィスタリアと共に構える。
そして同時に放たれたソードスキルが衝突する。
「「――重ッ!?」」
体重を乗せて振り下ろされた斧は、想像以上に重い一撃となっていた。
2人同時の《リミック・エルプション》が押し返されそうになる。
いや、むしろこの場合は……。
「2人とも、下がれ!押し負けるぞ!」
両手剣の光がだんだんと薄れ始めている。2人のソードスキルの発動時間が切れ始めたのだ。
「チィ……ッ!だったら合図で1、2の3で下がるぞ!」
「分かりましたわ!1、2の……」
――3!!
合図と共に身を引いて、同時に衝撃波をまともに食らって吹っ飛ばされる。幸いにもダメージは浅く、全体の一割弱しか減っていない。
すぐに身を起こすと、疑問を口にする。
「おい、配下ゼロでも十分強くないか?」
「いや、そんなはずはないけど……」
ありえない。
キリトは目の前のボスモンスターに疑問が生じていた。既に取り巻きは全滅しており、ステータスも元の数値に戻っているはず。頭数もこちらが有利で、突入直後ほどではないとはいえどもあんなパワーは見たことが無い。けど、配下のゾルダーは倒した。もう配下はいないはず……。
「……ん?」
ふと、奥のほうで何かが光った。
目を凝らしてよく見ると、何かがこちらに迫ってきている。
四足歩行の爬虫類、【キャバルリィ・リザード】だ。いや、これまで戦ったそれとは若干異なる。
背には鞍、顔に手綱。乗馬の時に馬に取り付けるのと同じものを取り付けた【キャバルリィ・リザード】にまたがる、それまでとは異なるリザードマン。
「……【リザードマン・ライダー】だと!?」
「増援のイベントとは。GMもやってくれますわね」
「いや、増援なんて話聞いてない!」
「あれが出たおかげで2体分のバフが出たって訳か」
「……クソッ!」
突然キリトが【リザードマン・ライダー】目掛け駆ける。
「キリト!」
「ライダーは俺が倒す!みんなはルテナントを倒してくれ!」
「でも……!」
「キリト氏、こちらは任せされよ!」
キリトを止めようとするサチに対し、オルトランドが応じる。
「良いんですか!?幾らキリトが強くても、あんな相手じゃ危ないんじゃ……!?」
「何、こちらは牛の大佐を討ち倒してきた身。今更トカゲ風情に遅れは取りますまい」
剣を構えてルテナントと対峙する【レジェンド・ブレイブス】。彼らをキリトの身を案じるような言葉を発するサチに対して、オルトランドは言う。
「それに、奴をすぐに倒して向こうに回るというのも同じ事!早々にこのトカゲを倒しにゆくぞ!」
「その通りですわ。では私、マコトさん引き続き前衛で攻撃を防ぎますわ」
「ならダッカーは2人の援護を。俺とテツオとサチは、オルトランドさんと一緒に隙を突いて攻撃に回ります」
「ネズハ!ササマル氏と共に後衛で相手の行動をよく見て援護に回ってくれ!ソードスキルが来たら合図を頼むぞ!」
それぞれのギルドマスターが自分のギルドメンバーに指示を飛ばし、行動する。
ボスの攻撃を防ぎ、攻撃の隙を突いて攻撃し、ソードスキルが来たら全力で退避して、直後の硬直時間には全力で攻撃する。
幾らステータス上昇のスキルがあったとしても、幾ら相手がボスだったとしても、幾ら自分達が中層域のプレイヤーだったとしても、12対1という戦力差はひっくり返らない。
3本あったHPバーが1本、また1本と全損し、3本目のHPバーが赤色に染まる。
「よし、あとはこれで!」
好機と見たウィスタリアが、重心を低くして両手剣を構え、突進する《サージ》を発動した。
そのソードスキルはルテナントの腹部を貫き、HPバーから色が消える。
「よっし!」
手ごたえからして完全に決着した。そう思った矢先、ギラリと、ルテナントがウィスタリアに眼光を光らせて睨んだ。
「――あれ?」
「ミリ残し!?」
決着したかと思えばまさかのミリ残し。つまりHPが数値的に1残った状態で生き延びたのだ。逆にルテナントが好機と言わんばかりに斧を高く振り上げる。
《サージ》の硬直時間はとっくに終わっているとはいえ、このままでは頭から両断されて終わりだ。マコトが迫る最悪の未来を予感して駆け――直後に彼女の横を何かが通り過ぎた。
「え?」
さっくりと。飛来したそれはルテナントの両眼の間――人間でいう人中に刺さった。それまでわずかに残っていたHPはそれで今度こそ、完全に全損し、振り上げたまま硬直していたルテナントはそのままポリゴン片となって消滅した。
直後に《congratulation!》の文字が現れ、今度こそボスが倒されたことを知らせた。
「大丈夫ですか?」
飛来物――チャクラムを投げたネズハがマコトに続いて駆け寄る。
「た、助かりましたわ。けど、今のは何ですの?」
「《投剣》によるチャクラムのソードスキルだ」
「そんなスキルもあるんですね」
テツオが珍しそうにウィスタリアから返してもらったチャクラムを見つめる。
「そうだ、キリト!キリトを助けに行かないと!」
「誰を助けるって?」
ふと思い出したサチがキリトの援護に行こうと振り返る。しかし、そこに居たのは今しがた【リザードマン・ライダー】と戦っていたキリト本人だった。
「キリト、大丈夫だったのか?」
「ああ。向こうで戦っていたら、ライダーが急に逃げ出してな」
どうやらボスが倒れたら逃げるようプログラムされてたんだろうな、とキリトは推測を述べる。
「そっちも終わったんだな」
「凄いんだよ!ネズハさんのチャクラムのソードスキルってのを使って、ボスに止めを刺したんだ!」
「いえ、そんなことは……」
バシバシとネズハの背を叩いて興奮気味に語るケイタに対し、ネズハは謙遜したように言葉を濁す。
キリトは知っているのだ。かつて【レジェンド・ブレイブス】が手を染めていた事件を。
「あの、オルトランドさん。さっきキリトを知ってるような口ぶりでしたけど、あれは……」
「ん?ああ、彼は《「マッハパンチ」ゴルーグォっ!?」
しかし彼はその件に関しては何も言わない。この親睦会を開いてくれたウィスタリアの為にも、何よりギルドの為にも昔のことをえぐり返して不和を広める必要なんてないのだから。
「さあさあ、祝勝ムードはここまで。親睦会は帰るまでが親睦会ですわ」
すっかり迷宮区フロアボス攻略直後の祝勝ムードのような雰囲気をウィスタリアが手を鳴らす。
今度も迷宮区のボス部屋前までと同様【月夜の黒猫団】が先頭に立って進み、ものの十数分で主街区に到着した。
「さて。これで今回の親睦会は終了といたします。今後とも皆様には、様々なプレイヤーと交流を重ね、精進していくよう願います」
「それじゃあこれで、ギルド間親睦会を終了だ。解散!」
†
親睦会から10日後。
「へぇ。そんなことがあったんだ」
「ああ。優衣も参加させようと思ったんだけどな」
「ううん。仕方ないよ。私もあの時はちょっと忙しかったし」
ギルドホームの一角であの時の親睦会を、客を交えてメディに伝えるマコト。外の景色には、始まりの街から出ずにここでクリアを待つ、通称『居残り組』というプレイヤーが今日の狩りへと出かけていく光景が見える。
今はまだその日の宿代や食事代を稼ぐだけで精一杯だが、その顔には不安や恐怖は感じられない。初日当初では信じられないような光景だ。
「んデ、オレッチを呼んだのは何なんだ?マーちゃんよ」
その客――アルゴが欠伸交じりにマコトに訊ねる。どうやら朝早くからメディ経由でマコトに呼び出され、わざわざ始まりの街まで戻っていったようだ。
「あぁ、悪い悪い。一応確認がてらにな」
そしてマコトはあの親睦会の迷宮区攻略の経緯を――特にボス攻略の話を事細かにアルゴに伝えた。
マコトの話を聞いていくうち、アルゴは次第に普段のおちゃらけた態度から真剣なものへと変わっていく。
「ボスに増援、か。そんなイレギュラーな話、聞いた事無いナ」
「やっぱりか。フロアボス以外でもそういった修正――というか、これもう罠の類だな。そんなのあるのか?」
「アア、あったよ。序盤が特にナ。ベータの時とは微妙に調節がされてるみたいだったヨ」
1層のボス【インファング・ザ・コボルトロード】はタルワールから野太刀に変えられ、当時の攻略組リーダーが死亡。2層のボス【バラン・ザ・ジェネラルトーラス】は当時ロードの名を関していたが、ベータ時代には存在しなかった【アステリオス・ザ・トーラスキング】が登場。ネズハが居なかったら確実に壊滅していたとアルゴは語った。他にも10層までの各階層でベータテスト時代と異なっていた。
ベータ版以上の階層でこういうことが起きるのであれば、これから先攻略組はイレギュラー性を孕んだモンスターや迷宮区に挑まなければならないということになる。
「ありがとナ。朝っぱらから呼び出された甲斐があったってもんダ」
アルゴは席を立つと、小さな袋をテーブルの上に置く。
「ん?この金は?」
「情報提供料って奴サ。これくらいあれば十分ダロ?」
「いや、別に金取る為に渡したんじゃないんだけど」
「良いから貰っとけヨ」
ソレジャーナ、とアルゴは去って行く。今の彼女は情報屋を生業としている。いつまでも第1層に居る必要はないはずだ。
自分達も朝食をとって今日の仕事に取り掛かろうとした時、また来客が訪れた。
「ああ、こちらに居ましたか!」
「ユースさん?」
現れたのは居残り組の一人であり、【ゴスペル・メルクリウス】の協力者たるユースだった。彼の手には新聞が握られている。
「どうかしましたの?」
「いや、新聞にこんな記事が……」
すぐに新聞を広げ、見出しの面を見せる。
このSAOにおける
【キジバト記者会】は【鼠の知育会】に並ぶ情報やギルドだ。【鼠の知育会】が攻略情報を主とし、【キジバト記者会】は基本中層、下層向けの情報を配布している。価格もニーズに対して低めに設定してある。
ともあれユースから渡された新聞の一面を見ることに。
――瞬間、3人とも言葉を失った。
「は?」
「え?」
「……嘘」
『【月夜の黒猫団】27層迷宮区にてMPKによって潰滅。犯人は悪名高き《ビーター》のキリトである説が濃厚』
次 回 予 告
チカ「ギルド活動を続けていたある日、ノゾミさんがあるスキルを手に入れたそうです。その名は【連刃剣舞】」
チカ「その検証も行われないまま、後日行われた救助作戦。順調に思われたその時、とんでもない異変が私達を襲ってきたのです」
チカ「次回、【プリズンブレイクinジェイレウム~踊れ、優しい吟遊詩人よ~】」
チカ「止めて下さいユナさん!死ぬつもりですか!?」
(・大・)<感想をお願いします。
(・大・)<次は本編時系列10月。
(・大・)<またもや時間が一気に飛びました。