自分はかつて主人公だった   作:定道

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18話 深淵を覗くと暗いのだ

 エンジンシティのジムチャレンジをクリアした僕は、ナックルシティを目指してワイルドエリアの北側に足を踏み入れた。

 

 ナックルシティまでの道のりはそれなりの距離がある、大体歩いて1日ぐらいだ。ホップからの情報なので間違いないだろう。

 

 ジムチャレンジャーがエンジンシティからナックルシティへ向かう際に1度はアーマーガァタクシーを使わずにワイルドエリアを踏破しなければならない。それぞれの入口にいるリーグ協会員のバッジチェックを受けなければならないのだ。

 

 その際に認められている移動方法は徒歩、手持ちポケモンへの騎乗、自転車の3つだ。超能力は禁止、また首輪をつけられた。

 

 得意のホバー移動も封印され、超能力を封じられたシティボーイの僕には徒歩も少し厳しい。自転車は乗れない、乗る必要がない。

 

 そうすると答えは一つ、幸運な事に僕には乗ってくださいと言わんばかりの仲間がいる。ブリザポスのリーザとレイスポスのイースだ。

 

「ふむ、雪原以外の野を愛馬と共に駆ける。心躍るな」

 

 レックスも乗り気だ、ふふっ競争でもしようかな?

 

 そんな風に思っていた時期が僕にもありました。

 

 残念ながら超能力の無い僕には乗馬というエレガントなスキルは備わっていなかった、そもそも鞍も鐙もなしに乗馬しようとするのが間違いだろう。

 

 これは非常に困った。ゆっくり歩いて行くのも悪くはないが、そろそろジムチャレンジの期間は半分を過ぎようとしている。少しペースを上げたいと思っているのだ。

 

 困った時は皆で話し合う。

 

 ワイルドエリアで第57回円卓会議の始まりだ。

 

 

 結論は直ぐに出た。くまきちがイースに騎乗、それにふわふわちゃんが同乗。レックスがリーザに騎乗、それに僕が同乗。

 

 ただ問題が一つ、僕とレックスのサイズの違いだ。レックスは馬上で僕がしがみつくには小さ過ぎる。

 

 結局僕をレックスの超能力で浮かし、紐で引っ張って移動する事になった。

 

 ふわふわと青いオーラを纏いながら浮かび、レックス達に引っ張られる僕。

 

 風船か?この状態を同乗するとは言わないだろう。

 

「うむ、やはり愛馬達と駆けるのは爽快であるな。これからの道中はこの方法でゆくか?」

 

「べあーま!」

 

 ワイルドエリア限定にしてくれ。

 

 途中で3回程休憩を取り、日が暮れる前にはナックルシティにはたどり着いた。門でバッジ確認する時のリーグ協会員からの視線が辛かった、やはり地に足付けて生きねば。

 

 たどり着いたナックルシティ、大きな街だ。ガラルの伝統的な建築様式の建物も多く、散策のしがいがありそうだ。だがまっすぐジムチャレンジャー用のホテルへと向かう、今日はもう寝ようぜ。

 

 そして次の日、昨日の疲れからか遅めの起床をした僕達は、ホテルでの朝食の最中に今後の方針を話し合う。

 

 ナックルシティを見て回るか、すぐにラテラルタウンに向かうかだ。ナックルシティはキルクスタウンに向かう時と、最後のジムチャレンジで再び訪れるのは決まっている。つまりは楽しみを後にするのか先にするのかという話し合いだ。

 

 円卓は割れた、今すぐ観光したいよ派がリーザとイース、それにレックスだ。観光は今度にしようよ派はくまきちにエレン、そして僕だ。ふわふわちゃんはよくわからないけど皆一緒ならどっちでもいいよ派だ。

 

 僕達6匹と1人で構成される冠鎧四天王の意見がここまで真っ二つに割れるのは初めてだ、第58回円卓会議は荒れるぞ………

 

 と思ったが、結論は直ぐにでた。今すぐ観光したいよ派がそろって意見を翻したのだ。

 

 エレンがネット上で得た情報、ラテラルタウンの掘り出し物市に劇場版ポケカノ1作目の特典が売られていると伝えると、レックス達は手の平を返したのだ。

 

「ゆくぞ!ユーリ!」

 

 やたら凛々しく僕に声をかけるレックス、何だか釈然としないが良しとしよう。

 

 6番道路はなかかな楽しめる道中だった。巨大なディグダ像をはじめ、古い遺跡や石像が多い、実に見応えがある。レジ関係?とエレンに聞いたがよくわからんとの答えが帰って来た。ネットには強いけど神話や伝承には疎いレジだ。

 

ここでは超能力は禁止されていないので僕は移動には困らなかった。ただ、超能力を禁止されていたらかなり日数がかかっていただろう。高低差がえぐい道中でもあった。

 

 本道は坂道ばかり、近道はほとんど崖だ。ロッククライミングしろとでも言うのか?これを近道とは呼べない気がするが、トレーナー達は身体能力が高い人が多い。トレーナー用の近道って意味かな?

 

 そして道中にやばい人がいた。ポケモンのカセキを研究しているウカッツという女性研究員、彼女はマッドだった。化石を合体させて復元とか悪魔の発想だろ、カセキポケモンの改造とかプラズマ団か?

 

 彼女はこれが本来の姿と言っていたが怪しい物だ。ウオノラゴンと呼ばれる凄いビジュアルのポケモンは彼女に凄い懐いていたから、ポケモンへの愛自体は本物なんだろうけどさ。

 

 通報するか?と考えてたら本人から通報しても違法な事はしてないから意味ないよと言われた、普通に思考を読んでくるのが怖いし、合法なのも逆に怖い。君も合体好きでしょ?とか意味不明な事を言ってくるのも怖い。がっちゃんこー♪がっちゃんこー♫と歌ってるのも怖い。

 

 逃げる様にラテラルタウンにたどり着いた僕達は掘り出し物市に向かった。特典は普通に売っていた、そこまで貴重な物なのか?ネットでも買えそうだと思ったけど言うのは止めた。喜びで踊っているレックス達にそれは無粋だろう。

 

 そしてジムチャレンジの申請をスタジアムで済ませた、挑戦は次の日のトップバッターというか僕しかいない。現時点でのジムチャレンジジャーはカブさんの壁が超えられない者と、スパイクタウンで詰まっている人が多数だ。

 

 1人しかいないのはやだな、僕の理想はその日の3番手だ、後ろに3人くらいチャレンジャーが控えてればなお良し、初っ端もトリも勘弁だし、あまり後ろの方なのもやだ、中間が1番落ち着く。

 

 そんなこんなを考えながら、その日はホテルで少し早めにくまきちとふわふわちゃんと共に眠りについた。レックス達は遅くまで盛り上がっていた。明日起きれなくても知らんぞ。

 

 

 

 そして、問題は起こった。

 

 ジムチャレンジではない、ジムチャレンジ自体は成功した。あの絶叫マシーンの様なチャレンジは2度とやりたくない、正直叫んでいたらいつの間にかクリアしていた、もう一度やれと言われても無理だ、攻略した気がしない。

 

 ジムリーダー戦の事でもない、また仮面?とは思ったがバトル自体は予定通り終わった。ダクマの現在のOPは5160程度、レベルにして52だ。ほぼ成長の限界に達していてさらに最近では拳にあくタイプの力を込められる様になってきたのでゴーストタイプへの有効打も持っている。

 

 問題はバトルの後、向こうからやって来た。くまきちと勝利記念のミツハニーパンケーキを食べている最中にそれはやって来た。

 

「久しぶりですユーリ、元気そうですね」

 

 マスタード道場での姉弟子であり、ガラル地方のかくとうタイプのマイナートレーナーのサイトウさんがやって来たのだ。

 

「ど、どうも……さっきぶりですユーリさん」

 

 サイトウさんの後ろに隠れながらこちらに挨拶してくるジムリーダーのオニオンさんを連れて。

 

 

 

 

 

 失礼しますよと僕の返事も聞かずにサイトウさんはスルリと相席してくる。オニオンさんは申し訳なさそうにオドオドしながら席に着く、親近感を覚えるムーヴだ、もちろん後者の方。

 

「さてユーリ、実はあなたにお願いがあります」

 

 実に単刀直入、流石サイトウパイセンだ。

 

「何でしょう?僕に出来る事なら力になりますよ」

 

 本心だ、確かにサイトウさんは僕に散々腹パンを決めてくれたが、それ以上にお世話になっている。この人に頼まれれば僕が力になるのは当然だと思うほどには。

 

 マスタード師匠の指導は門下生に自由にやらせる事が多い、さらに僕が教わったのはどちらかというと心構えの方だ。実際の格闘の修行はサイトウさんに教わった事の方が多いだろう、痛みを伴ってはいたが。

 

 無表情で厳しく容赦がない、だけど面倒見はいい、そんな人だ。成長の負担にならない筋力トレーニングとか正しいストレッチなんかを丁寧に教えてくれた。やたら距離感が近かったが。

 

「お待たせしましたーご注文のラテラルスペシャルでーす」

 

 店員さんがサイトウさん達の注文を持ってくる。デカイな、スペシャルを名乗るだけのボリュームはある。彩りも美しく甘いもの好きにはたまらないだろう、サイトウさん甘党だしな。

 

「来ましたか、やはりラテラルタウンに帰って来たらこれを食べなくては」

 

 無表情を少しだけ崩したサイトウさんはスペシャルの攻略にかかった、会話を途中で放り投げないでほしい。

 

 助けを求めてオニオンさんを見ると、仮面を付けたままエネココアをストローでちゅうちゅう飲んでいる。君もか?君も外さないのか!?

 

「べあーま?」

 

「くまきち?ああ、もっと食べたいの?」

 

 うーん、もう1個は多すぎるから、僕のを分けてあげよう。

 

「くまきち、あーんして」

 

 僕が差し出すパンケーキをくまきちは嬉しそうに食べる。夢中で食べる様はかわいいけど口がベタベタだ、拭いてあげよう。

 

「なるほど………オニオン、あーんしてください」

 

「えっ、ええ………?」

 

 サイトウさん、また突飛な事を、オニオンさんが仮面キャラを崩す訳ないだろう。

 

「あっ、あーん?」

 

 と、思った僕の期待をオニオンさんがあっさり裏切り、普通に仮面を外してあーんしてる。しかし、頬を染めながらぷるぷる震える素顔のオニオンさんはかわいいから許そう。

 

「おや、ユーリ?そんなに見つめて焼きもちですか?仕方ありませんね」

 

 サイトウさんは何か勘違いして、僕にもフォークを差し出してくる。こうなったサイトウさんは恐らく僕の拒否を受け入れない、サブミッションを決めてでも僕の口にラテラルスペシャルをねじ込んでくるだろう。

 

 僕も少し赤くなりながらサイトウさんのフォークを受け入れた、しかしサイトウさんにあーんされるよりもオニオンさんと間接キスという事実の方が恥ずかしかった、やばいな………これが恋か?

 

 

 

 僕が未知の感覚を感じ、デザートタイムも一段落。ようやくサイトウさんは本題に入った。どうやら僕にお願いがあるのはオニオンさんの方でサイトウさんは付き添いらしい、昔からの知り合いというか姉のようなものですとサイトウさんは主張していた。

 

「あ、あの………実は最近ラテラルタウンのゴーストポケモン達が困っているんです、それを助けてあげたくて……」

 

 ゴーストポケモンか………力になれるかな?

 

「ゴーストポケモンですか、エキスパートであるオニオンさん以上に役に立てるとは……」

 

「お、オニオンと呼び捨て構いません、そ、それにユーリさんならきっとゴーストポケモン達を救えるはずです!」

 

 うーん、確かに超能力者はゴーストタイプとも親和性が高い、攻撃を食らえば効果抜群ではあるが、姿を隠す彼等が見えたり、声を聞いたり出来る者も多い。

 

 僕も昔は無駄に溢れるサイコパワーを無駄遣いして、無理矢理ゴーストポケモンとコミュニケーションをとったりは出来た、今はどうかな?確かめてないからわからん。

 

「ではオニオン君と呼ばせてもらいます。オニオン君、ゴーストポケモン達は具体的に何に困っているんですか?」

 

 まあ話を聞いてみない事には分からない。昔僕がゴーストポケモンに頼まれたのは他所から強力なポケモンが来て縄張りが荒らされているとか、悪徳ゴーストバスターに困っているとかそんな感じだったな。

 

「さ、最近、ここ2週間前くらい前からです、ラテラルタウン全体にゴーストポケモン達だけが聞こえる声が響いてるらしいんです」

 

「ゴーストポケモンだけに聞こえる声?それは………」 

 

 死者の声、残留思念とも呼ばれる物や土地に染み付いた思念、その可能性が高い。それ等の声を聞き取れる者は少ない、だがゴーストポケモン達には可能だろう。彼等は良くも悪くも強い想いに感応性が高い。

 

「うーん、もしかして強い残留思念?しかし街全体に及ぶ程のものとなると」

 

 普通はありえないし、普通の人やポケモンでも無理だろう。そうすると最悪のケースが考えられる。伝承災害級のポケモン、いわゆる伝説のポケモンの仕業の可能性がある。

 

「か、彼等が言うには今まで感じた事がない感覚だそうです、ポケモンと人が混じった様なおかしな声だそうです………その声が恐ろしくて安心して暮らせないと………」

 

 ポケモンと人が混じる?そうなると話が違って来る。

 

 恐らくは人間の仕業、より正確に言うなら悪と呼ばれる組織に属している人間の犠牲者の声なのかもしれない。ああいった組織に属している科学者や研究者は倫理観など容易く飛び越える、人間とポケモンの合成なんかも平気でやるだろう。昔そういう人種を何人か見たことがある。

 

 思っていたより深刻な問題の可能性がある、だが無視は出来ない。

 

「わかりました、1度調べてみましょう。この街を一望出来る様な高い場所はありませんか?」

 

「高いところとなれば、芸術の高台ですね。壁画……ではなく今は石像があるところです」

 

「ではそこに行ってみましょう、そこで僕の超能力で探知を試して見ます。声の発信源がわかるかもしれません」

 

「さ、流石ですユーリさん。ミオシティを襲った集団悪夢の謎を解決したユーリさんなら、ここの街も救ってくれると思ったんです」

 

「あ、ああ……よく知ってますね」

 

 正直解決したのは殆ど、コウキとヒカリだ。僕はダークライの居場所を感知して、2人を運んだだけだ。ダークライも別に悪いポケモンじゃないし、自分が悪夢を見せてると知ってめちゃくちゃ凹んでいた。意外にナイーヴな奴だった、コウキに慰められてそのまま彼のポケモンになっていた。

 

「じ、実はボク、ユーリさんのファンなんです。活躍は雑誌やネットなんかで色々知ってます」

 

 オニオン君に期待されるとユウキを思い出してちょっと嬉しい、でもあまり期待されるのも怖い。

 

「私もオニオンから色々聞いてたので詳しいです、実際に会ってみると想像とは違いましたが」

 

 ネットや雑誌には誇張しまくった僕の活躍が乗っているのだろう、そりゃ実際とは違うはずだ。今の僕は地に足付けてるしね。

 

「ゆ、ユーリさん、お礼はしますのでお願いします。ゴーストポケモン達をこの街を救ってください………お願いします」

 

 いや、あんまり大事なら普通に通報するつもりなんだけど………

 

「オニオンは骨董品を集めるのが趣味なので、ユーリの気に入る物を持っているでしょう。私もお礼にトレーニングに付き合いますよ」

 

「と、とりあえず高台に行きましょう、まずは確かめて見てからその先について話合いましょう」

 

 あんまり話が大げさになりすぎても困る、僕が主人公の真似事をしてもろくな事にはならないだろう。

 

 

 

 

 

 そしてたどり着いた高台、大きな石像を目にして僕は衝撃を受けた。

 

「こ、これは!ポケモンの石像!?見たこともないポケモンだ!」

 

 剣と盾を持っている?なるほど………なるほど!なるほどなあ!

 

 これは絶対に伝説のポケモンだ!恐らくパッケージに載るレベルのポケモン!オオカミか犬か!?つまりポケモン第7世代はポケモン剣と盾!!そして、恐らく………

 

「ふむ、ふむむ………これは?」

 

 石像を見てふむふむ言ってるレックス!レックスは恐らく冠、つまりクラウン!マイナーチェンジの3本目!全てがわかったぞ!

 

 ポケモン第7世代はソードとシールド!それにクラウンの3本!なるほど!なるほど!色や宝石じゃなくてそっちに行ったのかーいいねえ!子供心にはガツンと響くね!絶対ソードの方が人気が出るね!

 

 うんうん!後に騎士っぽいのもいるしそういうモチーフか!なるほどねー後は鎧モチーフの伝説のポケモンかな!?

 

 あっ!ヨロイじま!!まずいぞ全てが繋がってしまった!!かなり冴えてるな僕は!!今度マスタード師匠に聞いて見るか!?まさかの4本目のアーマーが出てたりして!?

 

「どうしましたユーリ?随分と楽しそうですが」

 

 サイトウさんの声に我に帰る、いかんぞ本来の目的を思い出そう。

 

「すみません、興味深い像だったので」

 

「なるほど、つい最近発見された像です。あるジムチャレンジャーが壁画を破壊して見つかりました」

 

 壁画を破壊?穏やかじゃないですね?

 

「そんな事するジムチャレンジャーがいたんですか?危険な奴ですね」

 

「ええ、危険な男です。ジムチャレンジは失格になりましたが、今はピンクへ魂を売り渡しました」

 

「ピンク?」

 

 何だ?なんかの隠語か?

 

「あ、あの……ユーリさん……そろそろ……」

 

「あっ、ごめんオニオン君。レックス始めよう、手伝って」

 

「ん、うむ?いつでもよいぞユーリ」

 

 

 

 

 

 

 この高台、いい感じだ。ラテラルタウンが一望できる。

 

 レックスから僕にサイコパワーが流れ込んでくる、それを燃料にして僕の第六感を強化する。かつては自前で可能だった技だが、今ではレックスの力を借りないと広範囲を探知するのは不可能だ。

 

 研ぎ澄まされた第六感が、世界に溶け込み音なき音を収集する。人々の雑多な無意識、ポケモン達の心の内、土地に染み付いた歴史の叫び、様々な想いが音を発して僕の中に流れ込む。

 

 その中に見つけた、確かにおかしな声だ。ただ、人とポケモンが混じったと言うよりはポケモンと………機械か?人工物なのは間違い無い、それが混じった声だ。

 

 しかしこの内容は?助けを求めると言うよりは何かを探してる?何かに呼びかけている様な反応だ、かなり悲しみの感情が混じってはいるがポケモン本人に危機が迫っている感じではない。

 

 発信源は?わかりにくいな、恐らく機械で声を増幅させて、さらにめちゃめちゃに乱反射させている?

 

 もっと研ぎ済ます………心を声を捉える為に、心をもっと世界に溶け込ませてゆく…………………………あそこだ。

 

 6番道路の遺跡の上、巨大なディグダ像があった遺跡。あの上部が発信源だ。

 

 意識を現実に戻して覚醒する、感じる重力と失う浮遊感。駄目だ、自分があやふやで視界が戻らない。

 

 誰かに抱きしめられる感覚、僅かに感じる鼓動に視界が戻ってくる。

 

「ユーリ!!ユーリ!!しっかりしてください!!」

 

「………あれ?サイトウさん?」

 

 サイトウさんが珍しく表情を歪めている、その様子に何故か笑顔になってしまう。

 

「ユーリ?目覚めましたか?身体は?痛いところはありませんか?」

 

 なんか母さんみたいだなあ、と思いつつ周囲を見ると、オニオン君もレックス達も心配そうに僕を見ている。

 

 まずいな探知に集中し過ぎた、皆に心配をかけてしまったを。

 

「あー大丈夫ですよ、サイトウさん。身体は大丈夫ですし痛みもありません、集中し過ぎるとたまにこうなるんですよ」

 

 半分は嘘だ、昔の僕なら覚醒時に前後不覚にはならなかっただろう。

 

「ゆ、ユーリさんすみません……ぼ、ボクがお願いしたせいで……」

 

 オニオン君は半泣きだ、もの凄い罪悪感。

 

「い、いえ、久しぶりで加減が分からなくて………それより場所がわかりました」

 

「ユーリ、それは良かったが今は休もう。お主が心配だ」

 

 むう、必要以上に心配をかけてしまってる。寝起きでふらつくぐらいの物なんだけどな。

 

「レックス大丈夫だよ、場所は6番道路の遺跡の上だ。恐らくポケモンが何かを探している、声が変なのは拡声器……みたいな物を使ってるんじゃないかな?行ってみよう」

 

「ですが………」

 

「とても悲しそうな声でしたよ、何を探しているのかはわかりませんが早く助けてあげたいです」

 

 渋る皆を説き伏せ、6番道路の遺跡へと向かう。

 

 

 

 

 

 6番道路、レックスのねんりきで運んでもらった遺跡の上に、それはあった。

 

パラボラアンテナが8つも付いた謎の装置、その上部にはガラスケースの様なものが付いている。

 

 そのガラスケースの中には紫色の液体の様な………ポケモンかな?

 

「あ、あれは………ポットデス………かな?」

 

 ポットデス?聞いた事がないポケモンだ、ガラル固有のポケモンかな?

 

「ポットデスならゴーストタイプ、オニオンなら話を聞けるでしょう」

 

 ふーん、ゴーストタイプ?液体ポケモン?エクトプラズムポケモン?

 

「がっちゃんこー♪がっちゃんこー♫」

 

「ひいっ!?」

 

 この歌は!?

 

「がっちゃんこーっと、君たち、何か用ですか?」

 

 ウカッツさんだ、6番道路のヤベーやつだ。後ろにはウオノラゴンもいる。

 

「あなたがこの装置を作ったのですか?」

 

「いや、作ったのは私ではありません。使っているのは私ですが」

 

 友達から借りたのですと呟くウカッツさんに、オニオン君が話しかける。

 

「あ、あの………この装置から出る声でラテラルタウンのゴーストポケモン達が困っています……と、止めてくれませんか」

 

 オニオン君勇気あるな………僕もちゃんと話さなきゃ駄目か?

 

「えっ?そうなんですか?すぐに止めますね、ポットん!ちょっと止めるね」

 

 めちゃめちゃ素直に止めてくれた、話は通じるのか。

 

 ガラスケースに入っていたポットデス?がぬるぬると這い出て来て、ウカッツさんの白衣の中に隠れてしまう。

 

「あ、あの、ウカッツさん、そのポットデスは何かを探していたみたいですが、それから一体何なのかわかりますか?」

 

「おお!そこまで読み取るのですか!流石ユーリくんです」

 

「は、はあ?」

 

 流石?何で?そんなにこの人と話してないぞ?

 

「このポットんとは1か月前ほどにルミナスメイズの森で出会いました、自分のポットを失くして泣いていたのです」

 

「ポット?」

 

「ユーリ、ポットデスはポットの中に潜むポケモンなのです」

 

「ああ、物に入るタイプのポケモンなんですか」

 

 なるほど、エクトプラズムポケモンじゃないのか。

 

「ポットんが少しポットを離れた隙に、人間に持ち去られてしまったそうです」

 

「それは………可哀想に………」

 

「そうです、なので私はこの装置でポットんのポットを探していたのです。ポットにはポットんの残留思念が残っているはず、声にそれが反応するのを待っていたのです」

 

 なるほど、大事に使っていたゴーストポケモンの身体の一部みたいなポットなら残留思念も残っているだろう。

 

「あ、あの……そのポット、もしかして真作ですか?」

 

 シンサク、しんさく、ああ、真作か。

 

「そうらしいです、心当たりが?」

 

「こ、これ掘り出し物市で買ったんです……声が聞こえて気になって……」

 

 そういってオニオン君は一部が欠けたポットを取り出した。ウカッツさんの白衣からポットんが飛び出すとポットには勢いよく入って行く。

 

「ピィー!!ピピイー!!」

 

 ポットんは嬉しそうに泣きながら飛び回っている、その様子を見ていると心が温かくなる。

 

「良かったねポットん、皆さんありがとうございました、お代はこれで足りますか?」

 

 ウカッツさんも柔らかな笑顔だ、ポケモンの為にここまでするこの人は少し変わってはいるが優しい人だ。マッドなんて思ってすみません。

 

「お、お金は結構です………ポット自体は他の買い物のおまけでお金はかかってません」

 

 タダと聞いてポットんがショックを受けている、感情表現が豊かなポケモンだな。

 

「お金がいらない?困りましたね、迷惑をかけたゴーストポケモン達への伝言もお願いしたいのですが………」

 

「そ、それはボクがちゃんと説明しておきます……仲間の為だったと言えば彼等はわかってくれます」

 

 そうなの?ゴーストポケモンは仲間意識が強いのかな?

 

「しかし、それでは私の気がすみません。何か………何か返せる物は………」

 

 凄い悩んでいる、真面目だな。

 

「わかりました、ならばせめて私とあなた達の心を がっちゃんこ しましょう!」

 

 前言撤回、この女はマッドだ。

 

「すみません、がっちゃんこ……とは?」

 

 聞かないで逃げた方が良い気がする……

 

「端的にいえば、私が大人としてとても良い話をします、あなた達はそれに感動して精神的に成長する。それが がっちゃんこ です。」

 

 自分で凄いハードルを上げてる、この前置き聞いて感動する人はいるのか?

 

「なるほど、それで行きましょう。オニオン、ユーリ、いいですね」

 

「は、はい……」

 

「…………はい」

 

 聞く流れになっちゃった………

 

「では………まず私は超能力者でありますが、1つの能力しか使えません、サイコメトリーです」

 

 サイコメトリー、物に宿った記憶を視る能力。僕にとっては苦手な能力だ、繊細な調整が難しい。

 

「そのせいで、私は幼少の頃から友達がいませんでした。物の記憶がわかるのが当然だった私は、価値観の違いで周囲に馴染めませんでした」

 

 それは……それは悲しいな……

 

「でも私はそれを悲しいと思っていませんでした、周りには記憶が溢れているのです。自分が寂しい奴だと考えてもいませんでした、物を触れば誰かを感じられるのです、わざわざ他者と交流なんて必要ないと思っていました」

 

 でもそれは……

 

「しかしある日、ふとした瞬間に同じスクールの生徒のギアルにふれた時、私に記憶が流れ込んできたのです」

 

 ギアルに?

 

「どうやら物限定だと思っていた私のサイコメトリーは、はがねタイプのポケモンや物質に性質が近いポケモンに親和性が高く、彼等の記憶も読み取れたのです」

 

 擬似的なテレパス能力って事かな?

 

「そしてそのギアルは、悩みを抱えていました。ギギアルに進化出来ないという悩みです。原因は彼らがちびギアとでかギアの構造をイメージ出来ていないからです、稀にある先天的な疾患の1つですが、ギアルのトレーナーはそれに気付けていませんでした」

 

「それに気付いた私は、何故かモヤモヤした気持ちを抱えて日々を過ごしました、生まれて初めての気持ちです。」

 

「私はそのモヤモヤを解消するために、ある日ギアルとそのトレーナーの元に向かいました。同じクラスなのに一度も話したことがない彼等に、私は話をするために家まで会いに行きました」

 

 行動力があるな、僕ならスクールでコッソリ声をかける。

 

「そして私はギアルとトレーナーに伝えました、進化出来ない理由を、ギアルの記憶を読み取ってそれを知った事を」

 

「いきなりやって来て、記憶を読んだという一度も話をしたことがないクラスメイト。彼等は私を気味悪く思う、私の力を知った両親のように。私はそう思っていました、そしてスッキリしたいだけなのでそれをどうでもいいとも思っていました」

 

 ………父さん、母さん、ありがとう。

 

「ですが私の予想に反して、彼等は私の手を取り部屋に引っ張っていました。そしてトレーナーは部屋で図鑑を取り出し、ギアルはそれを食い入るように見つめる、私は彼等の部屋でその様子を眺めていた」

 

「そして、その場でギアルはギギアルに進化しました。共に喜ぶ彼等を見て私のモヤモヤはさらに深くなりました、スッキリしに来たはずなのに」

 

「しかしモヤモヤは簡単に消えました、トレーナーが私の手を取ってありがとうと言ってくれた時に、ギギアルが私に触れてありがとうの記憶を伝えてくれた事に」

 

 そっか、良かった。

 

「その時私は泣いていました、モヤモヤ消えてスッキリしたはずなのに涙を流しました。」

 

「泣いた私を見て慌てる彼等を見て、私は知りました。私が自分の心を知らなかった事を、私は本当は寂しがっていた事を彼等を通して知ったのです」

 

「ウカッツさん………」

 

「周りと違う力を持っている自分を特別だと思い、周りを見下して、自分を誤魔化して、自分を守っていた私に、ようやく気づけたのです」

 

「自分のココロは、自分と触れ合った誰かを通じて初めてわかるものなのです、自分のココロは自分だけで知る事が出来ない」

 

「あなた達も、特別な力を持っているでしょう。超能力に霊能力に身体強化能力者、人とは違う能力を」

 

「その能力のせいで、悲しむ事もあるでしょう、傷つく事もあるでしょう、その力を恨む時が来るかもしれません」

 

「だけど特別な力は、使い方によって人やポケモンを幸せにできます、誰かを笑顔にできます、誰かの感謝をもらえます」

 

「だから人と、ポケモンと関わることを止めてはいけません、彼等と触れ合わなければ自分を見る事が出来ません、自分を見て初めて自分の力を好きになれるのです」

 

「以上で私の話は終わりです、がっちゃんこ できましたか?」

 

 ………悔しいが少しだけ がっちゃんこ した。

 

「す、少し がっちゃん こしました」

 

「はい、がっちゃんこ しました」

 

「ぼ、ボクも、がっちゃんこ です」

 

「それは良かった、がっちゃんこ して私とあなた達は自分自身と見つめ合ったのです」

 

 綺麗な笑顔だ、今の僕なら同じぐらい綺麗に笑えるかな?

 

「はい、質問です。さっきの話のクラスメイトは男の子ですか?」

 

 サイトウさん………無粋だなあ、やっぱり女の人はすぐそういう方向に……

 

「はい、男性です、最近ガラルに来たらしいので会う予定があります」

 

 なに?無粋……じゃないのか?

 

「なるほど、素敵です。楽しみですね」

 

「ええ、彼とギギギアルに会えるのがとても楽しみです」

 

 うーん、にっこりだ。

 

「あ、あの……僕も質問です、なんで がっちゃんこ なんですか?心が重なるからですか?」

 

 オニオン君まで質問しだした。

 

「それもありますが、ギアルを切っ掛けに、私は複数の個体が一つになるポケモンに興味を持ち、遂には研究するまでになったのです。だから がっちゃんこ です」

 

 なるほど、タマタマとかコイルとかダンバルとか結構いるよな。

 

「そのウオノラゴンもですか?」

 

「ええ、カセキをサイコメトリーして望んでいる子達同士を組み合わせて復元しています、のらごん のこの姿は彼等自身が望んだ姿、本来の姿なのです」

 

 ウオノラゴンは甘える用にウカッツさんに顔をすり寄せる、慕われているなあ。

 

「さて、がっちゃんこ も終わったので私は失礼しますね。ナックルシティに用がありまして」

 

 そういってウカッツさんは、がっちゃんこ と歌いながらウオノラゴンとポットデスと共に去っていった。

 

「事件も解決し、心も がっちゃんこ させた。学びの多い日でしたね」

 

 サイトウさんが少し微笑んで僕らに問いかける。

 

「は、はい……サイトウさんとユーリさんのおかげです、本当に、ありがとうございました」

 

 オニオン君が僕らに深々とお辞儀をする、その光景にウカッツさんの話を重ねる。

 

「オニオン君の力もあってこそでしたよ、ポットを持っていたのもナイスです」

 

「そ、そうですかね………あっお礼は、どうしましょう……」

 

 あたふたとカバンを漁るオニオン君に、思わず笑顔になった。

 

「じゃあお礼としてオニオン君のスマホのコードを教えてください。そして………」

 

「は、はい!?」

 

「お互い敬語はやめよう、オニオン君」

 

 右手を差し出す、新しい関係の始まりとして。

 

「は……う、うん、ユーリ……君」

 

 オニオン君は仮面を外し僕の手を取った。

 

 仮面を外した彼は恥ずかしそうにしているが、僕の顔をまっすぐ見ている

 

 これも、がっちゃんこ かな?

 

「なるほど、いい機会です私にも敬語をやめませんか?」

 

「いえ、サイトウさんは先輩であってほしいので」

 

「なるほど、残念………でもないですね」

 

 サイトウさんははっきりと笑っていた、

 

 

 

 

 

「がっちゃんこー♪がっちゃんこー♫」

 

 今日はとても良い日になった、ポットんのポットは見つかり、ユーリ君達とは がっちゃんこ 出来た。

 

「オン!オオン!」

 

「どうしたの?のらごん?ああ!電話ね!」

 

 そうだ、あの装置の使用の必要がなくなった。彼に報告しなくては。

 

 ロトムフォンを起動し、彼に電話をかける。

 

「もしもし、私だよ。………うん、装置はもう大丈夫。ポットんのポットは見つかったよ」

 

 彼は相変わらずだ、私がポケモンを助けようとするのを、助けてくれる。

 

「そうそう、ユーリくん達のおかげだよ。………聞いていた通りの優しい子だったよ」

 

 本当にいい子達だった、自分の力をポケモンの為に使える優しい子供達だ。

 

「うん、ナックルシティのスタジアムだよね、今日の夜にはそっちに付くから………え?迎えに来てくれるの?」

 

「わかった、復元場で待ってるね、うん、片付けもあるからゆっくりでいいよ」

 

 楽しみだな、直接会うのは彼等がイッシュに行く以来だったかな?

 

「うん、また後でね、アクロマ君」

 

 アクロマ君とギギギアル、元気にしてるだろうか?彼等は研究に夢中になると食事も忘れる程没頭してしまう、そこが心配だ。

 

 これからは彼の研究を手伝う、私が注意してあげなきゃ。食事を作ってあげるのも良いかもしれない。

 

「がっちゃんこー♪がっちゃんこー♫」

 

 ついつい歌ってしまう、浮かれているのは自覚しているが、止められない。

 

 彼が研究しているムゲンダイナというポケモン、彼等も一つになりたがっているそうだ。

 

 ポケモンの望みを私の力と研究で叶えてあげる、批判する人達もいるが、それが私の生きる意味だ。

 

 アクロマ君とギギギアルが教えてくれた。

 

「がっちゃんこー♪がっちゃんこー♫」

 

 それがみんなの笑顔につながると、私は信じている。

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