自分はかつて主人公だった   作:定道

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20話 素敵なステーキ

 アラベスクタウンのジムチャレンジが終わった次の日の朝。僕は部屋で寝てる皆を次々とボールに収めていく。レックスだけは起きていないと“サイコキネシス“で拒否って来るので、自分の頭に乗せて部屋を出る。“じばそうさ“でサイコマグネットだ。そのままホテルのチェックアウトを済ませて朝イチのアーマーガアタクシー乗り場へと向かう。

 

早朝でも夜でも明るさの変わらない街だが、朝の冷たい空気で吐く息が白い。息を切らして走っているのでそんな朝の空気をなおさらに感じる。急ぐのは一刻も早くこの街から離れないと僕もピンクの狂気に侵されてしまう、そんな予感があったからだ。

 

 そしてたどり着いたタクシー乗り場、意外でもないがそれなりに人がいる。僕はナックルシティ行のタクシーへと急ぐ。頭で寝てるレックスは重いがそれでも急ぐ。相席になるとのおじさんの確認に同意してタクシーの席に着く。

 

「思ったより遅かったねえ、やっぱりピンクじゃないよアンタは」

 

「ぴぃ!?」

 

 何故かピンクの親玉ポプラさんが既にタクシーの席に座っていた。

 

「ええ、待ちくたびれましたよ。ようやく出発できます」

 

 ピンクバーサーカーのビートも一緒だ、昨日より理性的には見えるが油断できない。

 

「運転手さん、出しておくれ」

 

「えっ、まっ」

 

 ポプラさんの言葉にタクシーは空へと舞う。ナックルシティまではおおよそ1時間、地獄のピンクタクシー空の旅が始まった。

 

 

 

「いやあ、アラベスクタウンは実に幻想的な街でした。それにフェアリータイプポケモンの歴史館、ジョウト出身の僕には非常に勉強になりました。あっちにはフェアリータイプは少ないですからね」

 

「……………」

 

「……………」

 

 くそ、何で何も喋んないんだ?ポプラさんは目を瞑ったままだし、ビートは昨日はピンクピンク言ってた癖に今は黙って僕の頭の上のレックスをじっと見ている。間が持たないから何故か僕が世間話をペラペラと披露する羽目になっている。

 

「そういえばあのキノコ料理、斬新な見た目でとても美味しかったです。アラベスクタウンの名物らしいですね、僕の出身で有名なのはパラス鍋です。実際にパラスのキノコを使う訳じゃなくてパラスが生息する所によく生えてるキノコを使う料理でしてね、見た目は毒々しいんですが味はなかなかですよ」

 

「……………」

 

「……………」

 

 何か試されているのか?それともタクシーの中ではお喋り禁止か?そっちの方がピンクか?僕のピンクはこの人達の足元にも及ばないのか!?

 

「そうだ、ポプラさんのリーグカードなんですが………」

 

「ユーリ、アンタの事が少しわかったよ。アンタはやっぱりピンクが不足している」

 

「はっ?はあ……やっぱりそうですかね……」

 

 そもそもピンクが何なのかを教えて欲しい。

 

「少し前までのアンタはかなりピンクを尖らせていたみたいだね。でも今は違う、アンタはピンクを鮮やかにしようとして別の色になっちまった」

 

「あ、鮮やかなピンクに?僕が?」

 

 何だ?精神性の話なのか?ピンク以外もあるのか?

 

「他の色が悪いんじゃないよ。ただアンタは少し自分のピンクから逃げすぎてるね、もう少し昔のピンクを取り戻さないにしても思い出しはしてあげな」

 

「は、はい?」

 

 よくわからないが頷いておこう。これ以上の理解は僕には無理だ。

 

「まあ私から言えるのはこれくらいさ。マスタードの奴に頼まれてね、アンタに少しアドバイスさ」

 

「えっ、マスタード師匠からですか?」

 

 そうか、長くガラルにいてポケモンバトルに携わっていれば当然顔見知りだろう、年齢も……多分同じぐらい?

 

「さてビート、アンタはどうなんだい?ユーリに言いたい事があるんじゃないかい?」

 

「いえ、ユーリにはありませんよ。僕は敗者です、言いたい事は勝利した後で言う事にします」

 

「えっ?言いたい事があるなら今言っても僕は」

 

「これは僕の矜持です、僕のピンクに関わる問題です。アナタの許可なんて関係ありませんよ」

 

「はい」

 

 やめよう、この人達には逆らうだけ無駄なのだ。

 

「ただ一つ、アナタの頭の上で寝ているポケモンに伝えおいてください」

 

「えっ、レックスに?」

 

 何だ?面識は絶対ないはずだし。

 

「はちみつは自分で集めろ、そう伝えてください」

 

「はい」

 

 レックス、このピンキストとフレンドなのか?

 

 

 

 ピンク師弟はナックルシティに着くと挨拶もそこそこに僕から去っていった。言いたい事だけ言われて去れれる、謎の敗北感を感じる。

 

「むう?ここは……ナックルシティ?夢か?」

 

「夢じゃないよレックス、そろそろ起きてよ」

 

 いい加減頭が重い、首の筋トレにはなるかもしれないが身長が伸びなくなりそうだ。

 

「おお、すまんなユーリよ。しかし、タクシーを使ったのか?」

 

「そうだよ、みんなはボールの中だ。そろそろ起きて貰おう」

 

 僕は手持ちのボールを全て投げる。皆が次々とボールから出てくる…………

 

「ん………んん!!?」

 

「なんと!!ふわふわよ!!その姿はもしや!?」

 

 ふわふわちゃんが進化していた!まったくふわふわじゃない見た目だ!?何だろう?宝石というかアクセサリーみたいな見た目だ。

 

「あれ?ふわふわちゃん?おーい………ふわふわちゃん?」

 

 返事がない、寝ているのか?心配になって地面のふわふわちゃんを持ち上げようと近づく、レックス達も心配そうにふわふわちゃんを囲む。

 

「あれ?………ふん!!重!?めちゃくちゃ重いよ!?」

 

 しょうがないのでレックスに協力してもらってふわふわちゃんを浮かす、そして倉庫から取り出したポケモン体重測定用のシートの上に乗せる。5トンまで測定できる優れものだ。

 

「えっ、999キロ!?1トンあるの!?凄いなふわふわちゃん!!」

 

 ゲンシカイキしたグラードンのオメガとほとんど同じ体重だ、しかも大きさは元のふわふわちゃんと殆ど変わっていないのに。何が詰まっているんだ?ブラックホールか?もはやふわふわさんと呼ぶべきかもしれない。

 

「ふむ、次の進化の為に寝ている状態だな。触れればテレパスで意思の疎通はできるが………」

 

 レックスがふわふわちゃんに触れてそう言う。なるほど、エネルギーを蓄える形態という事か。トランセルとかサナギラスみたいなものか?

 でも、ここまで深く眠ってしまうのは伝説のポケモンらしさもある。彼等は自分の強すぎる力を維持する為に必要時以外は休眠状態で過ごしたりする。

 しかしこの状態だとふわふわちゃんはボールに入ったまま旅する事になる、旅の風景が1人だけ見られないのは寂しいよな。

 

「よし、ユーリよ!これを使え!これでふわふわを首から下げるのだ!」

 

 僕の懸念を察したのかレックスは予備のキズナのタズナを渡して来た。確かにこれでふわふわちゃんを僕が首からかけてアクセサリーの様に常に身に付けていれば、意識を同調してふわふわちゃんにも僕の視界を通して周囲の様子を伝えられるだろう。僕の首の負担を無視すればの話だが。

 

「うっ……まぁ1トンぐらいなら追加しても大丈夫かな?」

 

 僕は今サイコパワーの配分をくまきちの育成に5割、リース、イース、エレンを小さくするのに1割、周囲の警戒に1割、身体能力の強化に1割使っている。残りの2割は非常時の保険だ。常に1トンの負荷を浮かすのは出力自体は1割も使わないが、常に持続させるのが割とキツイ。

 だが、キツくてもやるしかない。ふわふわちゃんの為だ、超能力の訓練だと思って頑張ろう。

 

「べあーま……」

 

 うん?くまきち?なるほど、進化がうらやましいのか。だけどくまきちの進化は少し特殊な方法じゃなきゃいけない、進化させるタイミングは決まっている。

 

「くまきち、もう少しだけ待ってね、スパイクタウンのジムチャレンジが終わったら1度ヨロイじまに戻って、そこでマスタード師匠に進化させて貰おう」

 

「べあ……」

 

「そうだ、ふわふわちゃんの進化記念に皆でミツハニーパフェを食べに行こっか?」

 

「べあ!!」

 

 ちょろくてかわいい、ふわふわちゃんを首にかけて出発だ。

 しかしふわふわさんや、この大きさのアクセサリーは目立つな、千年パズル並に自己主張が激しい。

 

「ユーリよ、似合っておるぞ。なかなかに都会的な装いとなった」

 

「ありがとう、レックス」

 

 後は腕にシルバーでも巻くか?

 

 

 

 皆でおやつタイム中に今日の方針を決めた、このままキルクスタウンへと向う。早く進化したいくまきちの意思を尊重した。

 

 正直、僕の中にはこの街でミカンを待ちたい気持ちもあった。ミカンとは一緒にドッジボールをした日から1度も会えてないし連絡も取れていない。ナックルシティでよく会うとダンデさんから教えて貰っていたので、この街に留まれば会えるかもしれない。

 だが、僕はミカンを信じる事にした。別れの時にミカンは僕に返事をしてくれた、今更避けたりはしないだろう。きっとリーグ関係の仕事が忙しいか少し気恥ずかしいのだろう。ダンデさんもミカンに会ったら伝えてくれると約束した、心配はいらない。

 

 キルクスタウンへの道中8番道は最初の遺跡群を抜けると、どんどん気温が下がっていった。カンムリっ子であるレックス達、超能力でエアコントロール可能な僕には問題ないが、ヨロイっ子であるくまきちは寒さに弱い。

 結局くまきちは僕の背中にしがみついて寒さをやり過ごす事となった。ここまで密着すれば僕の超能力の範囲内だ、後ろにも重りが付いてバランスが取れたと思う事にする。

 

 サイコ筋トレをしつつも何とかキルクスタウンへと到着する、割と急いで来たのでまだ空は明るい。とりあえず何時通りにスタジアムへジムチャレンジの申請、挑戦は明日の午後からでチャレンジャーはやはり僕だけだった。

 そして、ボールガイにガンテツボールを返却しようとするが知らないと拒否される。何人いるんだこいつ等は?

 

 モヤモヤを抱えつつステーキハウス“おいしんボブ“へと向う。ソニアさんオススメの店で晩ごはんだ。ステーキなんて久しぶりなので楽しみだ。

 

「うむ!絶品である!やはりステーキはレアに限る!」

 

 レックスが何やらこだわりを主張しているが、ステーキは初体験のはずだ。きっとアニメで見た知識だろう。

 しかし美味しいのは事実だ、肉汁滴る焼き加減に香ばしい特性のソース、値段はそれなりにするが大満足だ。

 ちなみにふわふわちゃんの食事はどうするのか迷っていたら、思念が伝わってきた、水晶部分に押し付けてくれと。ステーキをふわふわちゃんに押し付けた瞬間吸い込まれる様に消えていく、ちょっと面白い。

 

 ホテルに帰る前に広場の温泉に寄った。レックス達が強く主張したのだ、温泉回は重要だと。ちなみにここは足湯しかないから微妙に違う気がする。本人達が満足ならいいけどさ。

 

 皆で揃って足湯に浸かる。エレンも足を入れてるので微妙にビリビリする、電気風呂だな。他のお客さんに迷惑だから僕らの周辺だけに“バリアー“でお湯を区切っておく。

 そしてリーザは足の氷を解除してるけど徐々にお湯がヌルくなる、しょうがないので“ねっとう“で温度を戻す。

 

「うーむ、いい湯だ。旅の疲れが溶けてゆくようだ」

 

 レックスは足湯に御満悦だ、しかし足湯するのにベストマッチな足の長さだな………

 

「べあーま!」

 

 くまきちも満足そうだけど足湯と言うよりは半身浴だ、身体のサイズ的にしょうがない。ふわふわちゃんなんか全身浴だ、浸かりたいというから“ねんりき“でお湯に入れてるが少し心配になる。息はどうなんだ?そもそも呼吸してるのか?思念では大丈夫と返ってはくるけどさ。

 そしてイース、4本の足を湯につけているけど…………

 

「イース、気持ちいい?」

 

「バクロッス」

 

 肯定が返ってくる。だけど、足の先っちょ感覚あるのか?そのモヤモヤは実体なのか?

 

 色々疑問はあったが僕達は温泉を堪能し、ホテルでゆっくりと休んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キルクススタジアムでジムチャレンジを観戦する。スタジアムではダウジングを持った小僧が何度も穴へと落ちている。無様な姿だ、あの頃と比べて随分と腑抜けたものだ。

 

「あはは、ユーリ君全部の穴に落ちてるじゃん」

 

「結果的には正解の道が解かるから、ある意味正しい攻略法だね」

 

「時間制限がなければでしょ?間に合う?」

 

「ユーリめちゃくちゃ走ってるから間に合うんじゃないの?」

 

 連れ共ものんきに観戦している、ガラルに飛んでくる前にあれ程事の重要性を説いたのに緊張感が見受けられない。

 まったく、小僧を始めとする力を持った子供達は何故こうなのか。

 

「おい!貴様ら!もう少し真面目に見定めろ!来る前に散々説明しだだろ!」

 

 4人がこちらを振り向く、全員何処か不満気な表情だ。

 

「そうは言ってもさ、僕達は超能力の感知なんてできないよ?」

 

「そうそう、ジムチャレンジ中は超能力抑える首輪付けてるしさ、余計わかんないよね」

 

「それにあんまり真剣に見てると怪しまれちゃうでしょう?」

 

「認識を歪めてるけど極力目立つなって自分で言ったじゃん」

 

「ぐっ……貴様ら……」

 

 反論しようとするが、言葉が出てこない。しかし黙っているのは自分が間違っているようで納得がいかない。

 

「だ、だがトレーナーとしては感じられるものがあるだろう!小僧のOPの流れを見定めるのだ!」

 

「それはジムリーダー戦で見ればいいでしょ?今は周りの観客みたいに笑いながら応援しなきゃ」

 

「ぐっ…ぐう………」

 

 くそ、私が間違っているのか!?この私が間違っている!?

 

「だけどユーリは変わったね、見た目だけじゃなくてさ」

 

「うんうん、昔だったら絶対穴に落ちなかったよね」

 

「そもそもユーリ君って常に浮いてたよね?」

 

「でもジム戦でポケモンを一匹しか使わない所は変わってないね」

 

 小僧はいつの間にかジムリーダーまでたどり着いていた、ようやくポケモンバトルしているアイツを確認できる。

 そしてポケモンバトルが始まる。小僧の使うポケモンはダクマ、ガラルから遠い地の山岳地帯に住まうポケモンだ。進化すればかなりの強力なOPを保有するポケモンとなる。

 だが、それは進化すればの話だ。進化前のOPでは、いくら限界まで鍛えても6つ目のジムを単騎で攻略はできないだろう。

 しかし現実として、小僧のダクマは1度も攻撃を受ける事は無くたった今、2匹目のポケモンを沈めた。

 

「本当に弱くなってるの?ユーリ君の超能力」

 

「少なくとも未来視は健在だね、相手の攻撃はかすりもしてない」

 

「やっぱり気のせいだよね、キラキラはしなくなったけどさ」

 

「まあユーリも成長したって事でしょ、もうすぐ13歳だし」

 

 こいつ等では感じ取れないのも無理はないかもしれない、私ですら直接見て何とかわかったぐらいだ。

 それに、小僧は超能力者としては弱くなったがトレーナーとしては成長している。強大過ぎるサイコパワーによる各種の無茶を抑えたために、OPそのものの扱い方を学んだのだろう。

 

「いや、やはり超能力は弱体化している。小僧の未来視と呼ばれる能力はそもそも超能力に依るものではない。かつてはサイコパワーで補強していたがな。」

 

「へえーなら聞きたいな、どういう力なの?」

 

 4人が先程とは違う顔付きで私を見ている、声音も真剣をおびる。

 やはりこいつ等はポケモントレーナーだ、自身も得られるかもしれない新たな力を貪欲に学ぼうとしている。こちらの表情は私の好みだ。

 

「貴様らも使っているものと同じだ、相手のトレーナーとポケモンのOPの流れを読み、自身のポケモンとのOPを同調させている。それらを非常に高精度かつ高深度で行う事で小僧はそれを未来視と呼ばれる程の技能へと昇華させているのだ」

 

 だからこそ、相手の攻撃を1度も食らわずに自分の攻撃は全て当てる事ができる。相手のトレーナーにとっては悪夢の様な出来事だろう。

 

「なるほどね、修行あるのみか………」

 

「それが分かっただけでも収穫だね、お隣さん」

 

「うーんOPの流れを読むねえ、何となくやってるから鍛えるって言ってもなあ」

 

「OPの同調、やっぱりキズナって奴が大事なのかな?」

 

 キズナか………あまり好きな言葉ではない。否定するつもりはないが人とポケモンの関係性をその言葉だけで表すのは適切とは思えない、人とポケモンにはそれぞれの繋がりのカタチがあるのだ。

 

「キズナという言葉に囚われるな、呼び方などに意味はない。貴様らがそれぞれポケモンと向き合えば自ずと自分達だけの言葉が見つかる。誰かと比べる様なものではない」

 

 …………何だ?何故驚いた顔で私を見る?

 

「優しい所もあるんだね?依頼なんて断ってやろうと思ったけど考え直そっか?」

 

「そうだな、シンオウで偉そうに要請してきた時は嫌な奴だなと思ったけど一考の余地有りかな?」

 

「急にガラルまで付いて来いだもんね、こっちの事情も無視してさあ、リーグ本部誤魔化すのにカルネさんに迷惑かけちゃったしさ」

 

「まあまあみんな、許してやってくれ。この監視者は素直じゃないんだ、性格が“てれや“なんだよ」

 

「き、貴様ら!!」

 

 散々事情を説明して、同意してではないか!?報酬としてカロスの隠し財宝まで引っ張り出したというのに!!

 

「冗談だよジガルデ、僕達はちゃんと理解している。ユーリが危険何だろう?協力は惜しまないよ」

 

「くっ!分かっているならそれでいい!茶化すな!!」

 

 くそ、カロスの監視者である私をからかうとは!無礼な奴らだ!

 

「貴方があまりにも焦っているからね、そんなに深刻な事態なの?今でも詳細は話せない?」

 

「………駄目だ、貴様らが認識する事それ事態が因果を複雑にする可能性がある」

 

 可能性、此処とは違う可能性。強い因果を持ったこの子供達がそれを認識してしまったら、事態の収集が不可能になる。

 やはり黒き夜だ、あの日に、因果が6つの道に絞られるまで小僧とこの子供達を接触させる訳にも可能性を教える訳にもいかない。

 

「まあ、ユーリが危ないのには間違いないんでしょ?ブラックナイトって奴が始まるとさ」

 

「ああ、それだけは確かだ。どの道を通るとしても、あの小僧には試練が訪れるだろう」

 

 最悪なのは果たしてどの道か?

 神の愛に殺される道か?

 神すら退け世界を歪める道か?

 狂気の犠牲となり世界に進化を撒き散らす道か?

 カロスが生んだ邪悪な魂に身体を奪われる道か?

 全てに絶望し破壊の化身と化す道か?

 それとも自身を消滅させる道か?

 

 どの道の先にも小僧の幸せはないだろう、どの因果の果てにも必ず嘆きと悲しみが存在する。

 

「それならやっぱり俺等の答えは決まっている、協力するよ」

 

「借りがあるもんね、貸した方も、返す方も」

 

「そうだね、ライバルとして、勝ち逃げされちゃ困るしね」

 

「友達として返してあげなきゃ、今度は私達が助けてあげよう」

 

「ふん……最初から素直にそう言え」

 

 シンオウの地から召喚したディアルガとパルキアを従える2人。

 

 カロスの地から連れ出したゼルネアスとイベルタルを従える2人。

 

 そして私、カロスの監視者たるジガルデ。

 

 これらの力を束ねれば、か細い道だか見えてくるやもしれない。試練の先、因果の果てに七番目の未来への道が。因果すら乗り越えた未来への道が。

 

 この4人の力を借りれば、ユーリならたどり着けるはずだ………

 

「よし、ジムチャレンジも終わったし皆でステーキを食べに行こう」

 

「もちろんステーキハウス“おいしんボブ“この店に決まりだね」

 

「雑誌でも紹介されてたし、楽しみだねー」

 

「行こうジガルデ、奢ってくれるんでしょう?」

 

「ぐっ!?300グラムまでだ!!」

 

「ええー!?ケチじゃない!?」

 

「文句を言うな!!行くぞ!!」

 

 カルムの肩に乗り、ステーキハウスへと向かう。あの店はカロスのテレビ番組でも紹介されていた程だ、味は期待できる。

 

 ………何だ?何を見ているカルム?

 

「ジガルデさあ……随分縮んだよね?残りはどこに行ってるの?」

 

 小僧が首から下げている星の子、あのポケモンこそが第7の道への鍵となる。その鍵を覚醒めさせる術を手に入れるために、私の9割以上はあの地へと向かっている。

 

「異次元への扉が開く南国の地アローラ、そこへ向かっている」

 

「へえー?観光?」

 

「違う!!」

 

 黒き夜は近い、急がなくては………


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