自分はかつて主人公だった   作:定道

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前後編になります


21話 トラストゆー

 悪の組織、言葉にするとチープな響きで間抜けさすら感じる。

 

 しかしそれは、僕が前世?の感性を持っているからだ。この世界の人々にとっては笑い話でも冗談でもない。人間だろうとポケモンだろうと平気で傷つけて奪う、極めて邪悪な行いをする集団だ。

 

 ゲームの中ではコミカルに描かれている部分もあった、だが現実には違う。明らかに騙されている下っ端も確かに居たが、基本的には悪人と狂人の集まりだ。

 

 当然一般の人は彼等を恐れる、トレーナーだって恐れるだろう。奴等は平気で一線を超えて来る、対抗できるポケモンがいたとしても普通は自分で立ち向かう事などしない。見かけてもその土地の治安維持を担う組織に通報するのが常識だ。

 

 残念ながら昔の僕にその常識は無かった。見つけたら倒して捕縛して警察に輸送していた、積極的に探してすらいた。

 それは、愚かな行いだったと思う。確かに自身とポケモンの安全は超能力によって保証されていたが、危険な行為には変わりなかった。

 

 そう考えると彼等はやっぱりおかしいのかもしれない、かつて共に悪の組織と戦っていた本物の主人公達。

 だって、彼等は超能力を持っていなかった、強力なトレーナーではあったが、トレーナー本人はそこまででもない、自身の安全は担保されていないのだ。

 それなのに、彼等は果敢に立ち向かっていた。当時の僕はそれを当たり前と認識していたがそれは違う、当たり前のはずがない。

 

 彼等は別に狂人とか恐怖を感じないとかそんな人物ではなかった、トレーナーという肩書を外せば年齢相応の振る舞いをしていた。

 なのに、彼等は立ち向かった。恐るべき悪に、恐怖と震えを抱えながらも立ち向かい勝利したのだ。

 

 それを無謀と呼ぶ人もいるだろう、結果的に上手くいっただけだと言う人もいるだろう。

 だけど、今の僕はそうは思わない。彼等のその行いは勇気と呼ばれ、結果は正義を成したと称賛するべきだと。

 

 超能力にあぐらをかいて何も考えていなかった僕とは違い、彼等は自らとポケモンの危険に恐怖し、葛藤して、それすら呑み込み勝利を得たのだ。

 

 高潔な精神だ、葛藤を乗り越える強いココロ、困っている人やポケモンをを見過ごせない優しさ、その両方を兼ね備えている。

 

 だからこそ、彼等は本物の主人公なのだろう。正しい力を正しく使い、正しい結果を導く英雄達だ。

 

 やはり、僕は主人公ではない。僕の傲慢な振る舞いが間違った結果を導いてしまった、そのツケが僕以外の人々を巻き添えにしてやって来た。

 

 スパイクタウン、ジムチャレンジ7番目の街。

 

 そこが今、悪の組織によって占拠されている。大勢の人達が人質になっている。

 

 僕のせいだ、傲慢の報いがやって来たのだ。

 

 

 

 

 

 9番道路の水上をスイクンごっこしながらレックス達と共に抜け、スパイクタウンに近づき異変に気がついた。街のシャッターの前に人だかりが出来ているのだ。何故か地面に拘束されている人もいる。

 

 その集団は何故か皆道路の方を向き、異様な雰囲気だった。

 

 1割の超能力の警戒で彼等より先に気が付いた僕は道路から外れ、レックス達と共に超能力によるスパイクタウンの探知を行った。

 

 結果は最悪だった、プラズマ団にアクア団とマグマ団、3つの組織が協力して街を支配下に置いていたのだ。

 

 狙いは僕だった、正確には僕の持っているポケモン。プラズマ団はジラーチのキラを、アクア団はカイオーガのアルファを、マグマ団はグラードンのオメガを狙っているようだ。

 

 見たところ僕の知っている幹部やボスはいないが、取り仕切っている幹部がそれぞれの団に1人ずついる、3組織合計で106人の構成員で街を支配下に置いている。

 

 スパイクタウンは他の街と比べると、規模の大きい街ではない。

 しかし、それでも住んでいるトレーナーの数を考えれば正面から奴らに立ち向かえば勝利できるだろう。

 

 それができない理由、爆弾と人質だ。街全体に爆弾を設置して脅し、さらに10人の女性と子供の人質をスタジアム替わりのライブ会場に拘束している。

 

 そして街の人間、エール団と呼ばれるジムトレーナー、ジムリーダーのネズさんを脅迫している。要求は僕だ、もうすぐこの街に来る僕をジムチャレンジを装って誘い込めと命令している。

 

 彼等はそれに渋々ながらも従っている、ネズさんは妹を人質に取られていて逆らえないようで、エール団もそれに従っている。街の精神的なリーダーであるネズさんがあの様子なら街全体はそれに倣うだろう。

 

 入口の集団もエール団だった、僕以外に街に訪れた人間を拘束して情報を遮断しているのだろう。そして僕が訪れたら誘い込む為の見張りも兼ねている。

 そして、電子機器による連絡手段も封じられているようだ、街全体がジャミングされている、プラズマ団がよく使う手だ。

 さらに、モンスターボールの作動を抑える超能力兵器、サイジック会に1度使われた事がある、あれではモンスターボールからポケモンが出せない。街の人達のポケモンの姿が見えないのはボールに入れるように命令されたのだろう。

 

 用意周到、準備万全で僕を街全体で待ち構えている。

 

 だが、破綻している、破滅的な作戦だ。

 

 当たり前だが、街の通信を完全にシャットダウンすれば当然他の街は異変に気付く、完全封鎖など長くは続かない。

 そして、警察やリーグから戦力が送られ、事態は収集するだろう。僕はここで隠れているか、引き返すだけで事件は解決する。

 

 それは恐らく、奴らも理解している。理由はわからないがこのタイミングで決行しなければならなかったのだろう。実際に僕の到着した時間を考えればタイミング自体は間違っていない。

 

 探知から奴らの焦りと怒鳴り声が聞こえる、道路に出て僕を探索しろと怒鳴り散らしている。早く見つけ出せと怒りと興奮をあらわにしている。

 

 それだけならよかった、僕が本気で隠れれば見つかるはずはない。

 

 最悪なのは奴らが次に発した言葉、見つからなければ30分後に人質を殺すと宣言したのだ。

 

 普通ならそれは悪手だ、死人を出せば街の人間は怒り狂って反抗して来るかもしれないし、警察との交渉にも悪影響が出るだろう。

 

 だが、奴らは時間的に追い詰められている、テレパスじゃなくても奴らの怒りと焦りは明らかだ。宣言を実行してもおかしくはない。

 

 ここで僕が出て行き要求に従えば、この場で死人は出ないだろう。僕自身は連れて行かれるかもしれないが、犠牲は0だ。

 だが、奴らにキラ達を渡せばこの街の人口以上の犠牲者が生まれる可能性はある。もしも覚醒めさせて操る術を手に入れていた場合、街1つではすまない犠牲が生まれるかもしれない。

 

 客観的に見て、僕がすべき行動はこの場を離れて通報する事だ。余計なことはすべきではない。

 だが、どんなに急いでも30分以内に助けは来ないだろう。ジャミングの影響範囲外まで逃げて通報、連絡を受けた警官達が事実を確認して戦力を派遣するまでどのくらいかかる?

 

 その間に、何人の人質が殺されるのだろう。

 

 吐き気がして来る、胸に嫌悪感がこみ上げ、ココロの中は罪悪感で一杯になる。

 

 多分、誰も僕を責めないだろう。それどころか同情して慰めてくれるはずた、お前は悪くないと。

 だが、僕は知っている。歪んでしまう前の未来を、本来辿るべきだった道を。僕が余計な事をしたからこんな事態に陥った。

 

 解決方法はある、僕が奴らを倒せばいい。

 

 それが、怖い。かつては鼻歌交じりで行っていたヒーローごっこが、こんなにもたくさんの命を左右していたなど、こんなにも恐ろしい物だとは気づきもしなかった。

 

 コウキとヒカリは、トウヤとトウコは、カルムとセレナはこんな恐怖に打ち勝ったのか?なんて強いココロなんだろう、そんな事もわからず彼等と共にいた僕は本当に愚かだ。

 

 ふと、ユウキを思い出した。僕のかわいい弟のユウキの顔が頭に浮かんだ。笑顔で僕を見つめる本物の主人公の顔を。

 

 ユウキにはラティアスのラティが付いている、ラティは闘いを嫌うので僕は一緒に旅しててもバトルには出さなかったし、シロガネ山にも連れては行かなかった。

 

 だが、ラティは強い。バトルはせずとも育ててはいた、ラティがそばにいれば家族は安心だと思って、旅の後半ラティは殆ど家で留守番だった。本人もユウキと仲がよかったのでそれを喜んでいた。

 

 そんなラティと共にいる弟は、主人公であるユウキは、今ホウエンで旅をしている。ジムを巡りチャンピオンを目指している。

 もしも、その道中にユウキは悪と出会ったらそれに立ち向かうのだろうか?

 

 決まっている、あの子は絶対に立ち向かうだろう。虐げられている人やポケモンを見逃す様な子ではない。

 そして、僕はそれを危ないからやめろとも思うし、良くやったと誇らしくも思うのだろう。

 

 ユウキから見て僕はどうだ?ユウキは僕ならこんな時どうすると思っている。

 

 答えは決まっている、それでも怖い。

 

 身体の震えが止まらない、最悪の想像を止められない。

 

 どうすればいい?僕はどうするべきなんだ………

 

「ユーリよ!!しっかりしろ!!」

 

「レックス………」

 

 レックスの一喝に思考から目覚める、みんなが僕を見つめている。

 

「ユーリ、逃げたいなら逃げても良い。我らも共に行こう」

 

「れ、レックス………」

 

 それは、それは………

 

「だが我らにはわかる!!ユーリ!!お前は彼等を救いたいと思ってる!!」

 

 そうだ、でも僕1人ではできない。レックス達を巻き込んでしまう、僕の傲慢の報いをレックス達にも背負わせてしまう。それがたまらなく怖い。

 

「ユーリよ!!お前は我らを見くびっている!!お前は我らを信じきれていない!!」

 

「ち、違うよ……そうじゃ……」

 

「我らはお前となら責任を背負う!!お前となら命をかけるのに悔いはない!!」

 

「レックス……」

 

「我らは友だ!!我らは仲間だ!!違うのか!?ユーリよ!!」

 

 レックスを見る、リーザを見る、イースを見る、エレンを見る、ふわふわちゃんの暖かさを胸に感じる。

 

「違わない、違わないよレックス……僕らは友達で仲間だ」

 

「うむ!当然である!!」

 

 レックスの笑顔に僕も笑顔を返せたと思う。

 

「レックス、みんな、力を貸して欲しい。僕と一緒に街を救って欲しい」

 

「任せよ!!我ら冠四天王の力!!奴らに見せてやるのだ!!」

 

 行こう、レックス達となら僕も勇気を示せる。

 

 自分は信じられなくても、レックス達を僕は信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日ほど最悪な一日はないだろう、今まで不幸を嘆いていた自分を殴ってやりたいくらいに最悪の気分だ。

 

 立ち向かわなければいけない自分が、トレーナーとして力を持っているはずの自分が、震えて動けずに人質になり、アニキやみんなに迷惑を掛けている。スパイクタウンが街のみんなが危険に晒されてしまった。

 そして、ユーリも危険に巻き込んでしまうかもしれない。

 

 私達という人質、それと街に爆弾を仕掛けているという宣言。後者は真偽は分からないが無視できる内容ではない。アニキもみんなも奴らの言いなりになっている。

 

 アクア団とマグマ団と呼ばれる組織はしらない、奴らの会話からホウエン地方の組織だとわかるが、それ以上の情報はない。

 ただ、もう一つの組織プラズマ団はよく知っている、3年前に家族旅行でイッシュに行った時も襲われた。あの時もポケウッドを占拠したプラズマ団の人質になった。

 

 あの時、ユーリに助けられて私は彼の強さに憧れた。自分もトレーナーとしても人間と強くなろうと決意して、服装も髪型も強く見える物に変えて、モルペコ達とも一緒に強くなった。

 

 そのつもりだった、だが実際はプラズマ団に迫られると、私は何もできずに捕まり人質となった。凄まれた時に身体が震え、言葉が出て来なかった。

 

 そんな事実に、人質となり何もできずに震えている自分が情けなくて、目頭が熱くなる。その行為がアニキ達の心配を煽る行為なのがわかってもどうしようもなく涙が溢れる。

 

「まだか!?ユーリはまだなのか!!もしや貴様ら隠しているのか!!我々を舐めているのか!!」

 

 プラズマ団をまとめている男が周囲に怒鳴りたてる、ユーリが見つかっていない事実に、私の心が少しだけ軽くなる。

 だが、安心は出来無い。もしも、ユーリが見つかったらこいつ等に殺されてしまうかもしれない。

 

 今、ライブ場には私を含めた10人の人質。それを取り囲む十数人の銃で武装したプラズマ団達とその構成員。

 その前に立ち塞がるそれぞれの団のリーダーの3人、それに対峙するアニキとエール団のみんな。

 そして、それらをさらに数十人のプラズマ団達とポケモンが取り囲んでいる。

 

 私がここで暴れても、直ぐに撃ち殺されてしまうだろう。それに意に沿わない動きをしたら爆弾を起爆するかもしれない。ここにいる以外にも大勢のプラズマ団達が街中を見張っている。

 

 外部への連絡は封じた、ポケモンもモンスターボールからは出せないから無駄な抵抗は止めろとも言っていた。

 それは、恐らく事実なのだろう。街が占拠されて数時間は立つが救援が来る様子もないし、ポケモンが出せないのはアニキが実演さてせられていた。私達の後のステージに設置させた機械が原因だろう。

 

「今こそみんなで必死に探していますよ、もう少しすれば……」

 

「ふざけるな!!奴が海を抜けたのは目撃されている!!あれから何時間だ!?この街に寄らないはずがないだろう!!」

 

「ええ、だからみんな周辺を懸命に探して……」

 

「黙れ!!時間稼ぎのつもりか!?時間さえ稼げば助けが来ると思っているのだろう!?」

 

 男は怒鳴ると、縛られている私を乱暴に地面に倒す。

 

「ぐっ……」

 

「マリィ!?」

 

 突然の衝撃に、思わずうめき声がでる。顔を擦りむき、頬に血が滲む。痛みをこらえる私の後頭部に硬い感触が伝わってくる、冷たい感触に私の頭が白くなる。

 

「我々の覚悟を見くびるなよ!!退路が断たれているのは百も承知だ!!貴様の妹を殺せば!!この街は本気になるのか!!」

 

「待って!!待ってください!!嘘などついていません!!お願いだからやめてください!!」

 

 アニキが泣きそうな顔で懇願する様子が、地面に押し倒され、何も見えない私にも伝わってくる。

 

 悔しい、悔しくてたまらない。アニキにそんな事をさせてしまっている自分が情けなくてたまらない。縮こまっている自分が情けない。

 

「30分だ!!30分だけオマケしてやる!!30分経ったらまず貴様の妹の頭を吹き飛ばす!!それからは10分事に人質を1人ずつ殺す!!早くユーリを連れて来い!!」

 

 その宣言に、私の身体が竦む。

 

「わかりました!!連れてきます!!お願いだからやめてください!!」

 

 アニキがみんなに怒鳴る様に指示を出し、誰かが慌ててそれを伝えに行く。

 

「ジムリーダーだけではない!!モニターで見ているだろう!!お前ら街の人間全員に言っているのだ!!早く行動に移れ!!」

 

 後頭部の圧力が強くなる、地面を伝わり大勢の人が走って行く振動を感じる。ここは、ライブ会場だ。街中の至る所のモニターにこの場の様子は中継されている。

 

 自分の命の恐怖の他に、ユーリへの不安も感じる。こいつ等は言っていた、ユーリの超能力は弱くなっていると、それに加えてジムチャレンジ中と偽り首輪を付けてしまえばただの子供であると。

 

 そんなはずはない、私を助けてくれたユーリは無敵だったと思う気持ちと、ガラル地方でのユーリのジムチャレンジの様子にそれは事実なのかもしれないという気持ちがせめぎ合う。

 

 仮にユーリを騙してジムチャレンジを装い誘いこめば、ユーリはポケモンを全てボールに入れて来るだろう。超能力とポケモンの両方を封じられたユーリに抗う術はないのかもしれない。

 

 こいつ等はポケモンを受け取ったらユーリは始末しても構わないと言っていた、見つかってしまったらユーリの命も危険にされされる。

 だが、私は心の中で、ユーリに見つかって欲しくないという気持ちの他に、ユーリにここまで来て欲しいと願ってしまっている。

 

 3年前に私を救ってくれた様に、この場に颯爽とユーリが現れて、私を救ってくれるそんな甘い期待を抱いてしまっている。

 

 そんな女々しくて弱い自分に腹が立つ、こんな奴らに自身の行く末を握られる自分が情けなくなる。

 

 ふと、ユウリの顔が浮かんだ。私の友達でライバルでもあるユウリの顔だ。私の相談に乗ってくれる優しいユウリ、私の一歩先にいるライバルのユウリ。

 

 ユウリならどうだ?私と同じ状況ならどうする?

 

 私と同じで泣いてしまうだろう、震えもするだろう。

 

 だけどその後、絶対にユウリは立ち上がるだろう。

 

 震えが止まり、心に勇気が戻って来る。手足に力が戻り、奴らへの怒りが燃え盛る。

 

 私は勢いよく身体をおこす、その衝撃に驚き男が銃を暴発させる。弾丸は私の髪留めにかすって地面に突き刺さる。

 

 突然の銃声に、その場全員が驚きの表情でこちらを見る。銃弾を放った本人も呆けた様にこっちを見る。

 

 立ち上がって男を睨んだので、間抜けな顔がよく見える。思わず私は笑ってしまう。

 

「なっ何だ貴様は!!大人しくしていろ!!」

 

「しぇからしか!!!こん卑怯もんめ!!!」

 

 自分を超える大声に男はまた間抜けな顔になる、

 

「こんなして恥ずかしゅうなかと!!?そげんでも大人か!!?」

 

「ば、馬鹿にしてるのか!?殺してやろうか!!」

 

「やってみぃ!!!どうせできなか!!あんたらはユーリが怖かね!!」

 

「なっ……」

 

「あんたらはユーリば本気にしたくかなとね!!やけん大勢で卑怯な真似ばする!!」

 

「そげんでも無駄や!!ユーリが来たらおしまいやけんね!!!」

 

「私も!!アニキも!!みんなも!!あんたらなんかには!!負けない!!スパイクタウンはあんたらなんかに屈しない!!!」

 

 私が言いたい事を言い終えると、場には沈黙が流れた。

 しばらくして、男が正気を取り戻す。

 

「クソガキが!!そんなに死にたいなら殺してやる!!

 

 男が向ける銃口を、私は精一杯睨む。視界の端でこちらに駆け寄って来るアニキが見える。それが少しだけが申し訳ない。

 

「ユーリが!!ユーリが来ました!!この場に向かっています!!」

 

 ライブ会場に走って来たエール団の1人の叫びに、その場は再び沈黙に包まれる。

 

「クソが!!全員配置に付け!!早くしろ!!!」

 

 男は銃をしまい、私から離れて行く。アニキが私に抱きついてくる。

 

「マリィ!!なんてコトを!!」

 

「アニキ、持ち場につかなきゃ、ユーリが来るよ」

 

 もう迷いはない、私はユーリを信じると決めたのだ。

 

「ですが!!」

 

「大丈夫、信じてアニキ」

 

 そうだ、信じるのだ。ただ流れに身を任せるのではない、身勝手でも強引でも想いを託して信じるのだ。勝利を信じて。

 

 信じる限り、諦めない限り、ポケモントレーナーに敗北はない。


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