自分はかつて主人公だった   作:定道

25 / 55
22話 トラストみー

 スパイクタウンのシャッターは簡単に開いた、僕が狙いだから当然とも言える。街の入口付近に集まっていたのエール団達は、みんな僕を見つめていた。縋る様な目で僕を見ていた。

 

 助けを求める視線、祈るような眼差し。かつて軽々しく答えていたそれは、正面から見据えると実際の重量を伴っているような錯覚すら感じる。

 

 その中に、ボールガイを見付けた。表情は分からないがいつもより真剣な雰囲気を纏っている気がする。その様子が何だか可笑しくて、少しだけココロが軽くなる。意外にマスコットの効果は馬鹿にできないのかもしれない。後で彼にガンテツボールを押し付けてやろう、きっと受けとってくれるはずだ。

 

 ジムトレーナーに、超能力を封じるA.S.Dと呼ばれる首輪を装着される。独特のピリッとした感覚が全身を巡る。気持ちいい様な締め付けられる様な不思議な感覚、やっぱり慣れない。

 

「ポ、ポケモンは全てモンスターボールに入れて身体の見える所に装着してくれ………頼む」

 

 明らかに動揺しているジムトレーナーの言葉に従い、胸のふわふわちゃんとくまきち達をを目の前でボールに収めて、腰のベルトに装着する。これでいい、ここまでは予定通りだ。

 

「確認した、スパイクタウンのジムチャレンジはとにかくライブ会場までたどり着けばいい………それだけだ」

 

 僕の腰の6つのモンスターボールを確認して、そう説明する。そんな訳ないだろうと思ったけどホップ達もそう言っていたから普段と変わらない内容なのだろう、ダイマックスもなければ特別なチャレンジもない寂れた街。だから狙われたのだろうか?

 

「そ、それではユーリ選手!ジムチャレンジ……開始だ!」

 

 気が付くと先程よりも人が増えている、そして誰もが僕を見つめている。超能力を使わなくてもわかる、彼等は求めているのだ。この状況を僕が解決するのを、未来視のユーリが噂を現実にする事を。

 

 誰1人として、街の外に逃げ出したりはしていない。爆弾が街にあるとわかっているのにここに留まっている。

 それは、人質達を思っての行動なのだろう。我が身可愛さに逃げ出す人が1人もいない。小さくても、寂れていても、この街の住人は仲間を見捨てて逃げ出したりはしないのだ。

 

 自分とは縁もゆかりもない街なのに、何故か誇らしい気持ちになってくる。アサギシティのチーム仲間達を思い出す。

 

 そんな彼等に求められている、音のない助けを求める声を精一杯に視線に乗せて僕に注いでいる。

 

 重い、重くて潰れそうだ。期待を裏切るのが怖くて逃げだしたくなる。

 だけど、今だけは、今日この日だけは、彼等の願いを、彼等の期待を自分の力へと変えるのだ。

 

 捨てた名前を!!未来視のユーリを!!主人公だった自分を!今だけは甦らせろ!!自分を信じて主人公を演じきるのだ!!

 

「辛気臭い街ですね!!どうやらみんな僕が負けると思っている!!」

 

 僕の突然の叫びに、周囲に困惑の気配が漂う。

 

「でも残念ですね!!僕は勝ちますよ!!未来視のユーリは常に勝利を見据えている!!」

 

「僕の未来視は!!勝利を捉えた!!」

 

 ほんの少しだけ、周囲の気配が柔らかくなった気がする。

 

 歩き出す、勝利を具現するために。

 

 望んだ未来を掴み取るために。

 

 

 

 不自然にならない程度に、ゆっくりとスパイクタウンを歩く。時間を稼ぐ必要はあるが、勘付かれてもいけない。細心の注意を払ってジムチャレンジを続ける。

 

 人はまばらに見かけるが、誰もバトルを仕掛けては来ない。モンスターボールの動作を封じられている以上当然の対応だ。仕舞うことはできても出す事ができなくなるトレーナー殺しの超能力兵器、当時は珍しいくらいの感想だったが、改めて考えると恐ろしい兵器だ。トレーナーの牙を容易く折ってしまう。

 

 ふと街中のモニターを見る、そこにはモニターを見る僕が映っている。この街の至る所に設置された全てのモニターが僕を映しているのだろう。

 

 だからこそ、胸を張って歩く。身体から自信をあふれさせる様に、自身の勝利を疑わないあの頃の自分を少しでも取り戻すのだ。

 

 風を切って歩く、肩を鳴らして歩く、真っ直ぐに前を見据えて歩く。

 

 強い僕を、最強の僕を、無敵の超能力を、少しでもこの身に宿らせるのだ。

 

 堂々と、しかしゆっくりと歩いた僕は、ライブ会場へとたどり着いた。中央でジムリーダーのネズさんが真剣な表情で僕を見詰めている。

 

 ステージ上の2つの機械、あれがジャミングとモンスターボールの動作を抑制する装置だろう。壊してやりたいが、まだ手を出せない。

 

 ゆっくりと周囲を見回す。エール団より大勢の奴らの構成員がポケモンを従えて私服でこちらを睨んでいる、殺気がバレバレだが、気づかない振りをする。

 

 合図はまだない、もう少し時間を稼ぐためにネズさんと対峙する。

 

「よく来ましたね………貴方を待っていました………私はスパイクタウンジムリーダーのネズです」

 

 ネズさんの表情に葛藤が垣間見える、その様子に奴らへの怒りがじわじわと胸にこみ上げてくる。

 

「スパイクタウンでは、ダイマックスは使えません。ポケモンは通常の状態でバトルする事になります」

 

「へえ、僕には関係ありませんね。ネズさんには不利な条件じゃないですか?」

 

 軽口を挟んで、少しでも時間を稼ぐのだ。

 

「ふん、口の減らない奴です………自分が勝てると思っているのですか?」

 

「ええ、当然でしょう?貴方も知っているはずです、僕はポケモンバトルに負けた事がありません」

 

 自分でも笑ってしまう嘘だ、たけど今日だけはレッドさんに許して貰おう。

 

「そうですか………貴方の言葉を信じるべきか迷ってしまいますね……」

 

 ネズさんは少しだけ微笑んでいる、彼の期待に少しだけ重さが生まれた。

 

「もういい!!茶番は終わりだ!!行くぞ!!」

 

 男の怒声が観客の方から聞こえて来た、探知で聞いた声と同じだ。合図はまだだ。

 

 観客の集団の奥から、十数人の男達がライブ場の中央へと歩いてくる。入れ替わる様にネズさんは歩き出し、すれ違いざまに呟いた。

 

「信じます」

 

 静かな声だが、今までで最も重い期待が込められていた。

 

 

 

 僕の前に並んだ3人の男、後ろには銃を構えた十数人程の集団が並んでいる、銃口の先はもちろんボクに向いている。

 

「ユーリ!!私はプラズマ団においてガラル地方の指揮を担っているものだ!!貴様は完全に包囲されている!!我らの指示に従え!!」

 

 つばを撒き散らしながら、プラズマの指揮官が僕に呼びかける。完全に勝利を確信しているのか非常に興奮している。

 まだ合図はない、刺激しすぎない様に時間を稼ごう。

 

「へえープラズマ団ですか?懐かしい名前ですね、イッシュから遥々とご苦労様です。僕にお礼でも言いに来たんですか?」

 

「ぐっ……!!まだ自分の立場かわかっていないらしいな!!いいだろう!!教えてやる!!」

 

 挑発に簡単に乗ってくる、扱いやすくもあるが、激高した時の行動が読めない危険もある。気持ち良く勝ち誇らせてやろう。

 

「この未来視の僕に?貴方達が?ぜひともご教授してほしいですね」

 

「馬鹿が!!貴様の虚勢!!我々にはお見通しだ!!かつて我らを蹂躙した貴様の超能力が!!すでに失われているのは知っているぞ!!」

 

 僕の弱体化、高ランクの超能力者でなければ僕の力が弱まっているのに気付けないだろう。この男は超能力ではなさそうだ、大柄で筋肉の付方から多少の身体能力強化者ではありそうだが。

 

 直上的すぎる物言いにこの性格、現場の取りまとめには適していそうだがこの作戦を立案した様には見えない。

 ならば、後ろの2人か?アクア団とマグマ団、実物に会ったのは初めてだが、知識の中にも心当たりがない。知らない奴らだ。

 やはり、作戦内容も破滅的だしこいつ等は捨てゴマな気がする。成功すればそれでよし、失敗しても僕の現状を探れる、そんな意図を感じる。少しつついて見るか?

 

「ふーん、誰にそんなデタラメを吹き込まれたんですか?アクア団とマグマ団と仲良くガラルまで来るなんて、道中で騙されている事に気が付けなかったんですか?」

 

「何を!!」

 

 プラズマ団の男は聞く耳を持っていない、後ろの2人は自分達の正体がバレている事を驚いている。

 

「もしかして後ろの2人にですか?可哀想に、早く諦めた方が身の為ですよ?」

 

「黙れ!!」

 

 男が僕の胸ぐらを掴んで僕を持ち上げる、少し息苦しいが男から目を逸らしたりはしない。

 

「見ろ!!私が手を出しても貴様は防がない!!お前の超能力はもはや驚異ではない!!」

 

「い、一応聞きましょう、僕になんの用があるんですか?」

 

 息苦しくて、余裕を持った返答ができない。身体の震えは気のせいだ、集中しろ。

 

「ポケモンだ!!貴様が保有している全てのポケモンを寄越せ!!そうすれば命だけは助けてやる!!」

 

「ぽ、ポケモン?レックス達を?」

 

「それだけではない!!貴様が隠し持っている5匹もだ!!手持ちと合わせた全てポケモンを渡せ!!」

 

「………」

 

 合図はまだだ、もう少し膠着状態を作らなくては。

 

「どうした!!返事をしろ!!痛い目にあいたいのか!!」

 

「痛い目見るのはお前だよ」

 

 サイコパワーを増幅させ、首のA.S.Dを破壊する。

 

 僕から溢れ出した青と赤の光が男を吹き飛ばす、周囲の構成員が僕に向けて一斉に発砲する。

 しかし、弾丸は僕の身体には到達しない“ねんりき“で全てを空中で静止させる。

 そのままオーラを展開させ、左手を振って空中の弾丸を集めて球を作り、それを手の平でもてあそぶ。

 

「危ないですね、こんなものを人に飛ばすなんて。お返ししましょうか?」

 

 僕の発言に構成員達はたじろぐ、慌てた様子のマグマ団の男が僕に向かって叫ぶ。

 

「やめろ!!超能力を解除しろ!!こいつ等がどうなってもいいのか!!」

 

 男の声に反応し、構成員達が人混みから人質達を連れて来る、その中の1人を見て僕の頭は怒りで染まる。

 

 あの子はエンジンシティで声を掛けてきた不良少女だ、ユウリの友達のはずの彼女だ。

 

 服は土で汚れて髪型は乱れ、顔には擦り傷と血の後が付いている、さらに彼女の目は真っ赤に充血している。

 

 こいつらは!!このクズ達は!!人質に手を挙げたのか!!

 

 怒りでマグマ団の男を睨むと、たじろいだ様子を見せたが僕に言い放った。

 

「もう一度言う!!超能力を解除しろ!!従わなければこいつ等を殺す!!」

 

 必死に叫ぶ男に合わせて、構成員達は人質1人1人に銃口を向ける。その様子に僕は超能力を解除して、地面に降り立つ。

 

「よし!!いいぞ!!次はポケモンだ!!ポケモンを!!グラードンをこちらに寄越せ!!」

 

「何でそんな要求に僕が応じなきゃいけないんですか?」

 

 もう少し、合図があるまで時間を伸ばせ。

 

「なっ!?ひ、人質がどうなっても……」

 

「知ってますか?通常の人間の反射速度はコンマ1秒程度。僕ならその半分で貴方達の腕を切り落とせますよ」

 

「ば、何を………」

 

 再び自分の周囲にオーラを展開させる、威圧の為に、赤と青をキラキラと輝かせる。

 

「止めろ!!人質だけではないぞ!!」

 

 先程吹き飛ばしたプラズマ団の男が叫んでいる、思ったよりタフな男だ。

 ただ、意識があるはこちらにとっては好都合だ。

 

「我々は!!この街に!!複数の爆弾を設置している!!これが起爆装置だ!!」

 

 男が起爆装置を掲げている、機械による無線式の起爆装置。これで懸念は1つなくなった。

 

「爆弾?もう少しマシな嘘をついた方がいい、今の僕は機嫌が悪いんですよ」

 

「も、モニターを見ろ!!これが証拠だ!!」

 

 男がモニターを指し示し、映像が切り変わる。

 

 映し出されたのは、少女達の温泉での入浴風景。温泉で少女達が自分の夢を語っている。

 

「は?………な、何だこれは!!早く爆弾を映せ!!」

 

 男と構成員達は慌てている、僕は思わず笑みを浮かべる。

 

 モニターに映って要るのは“ポケカノ3期の16話“人気の温泉回だ。レックス達からの合図、爆弾は16個、3分で無力化可能のメッセージ。

 

 やがてモニターには爆弾が映し出される、最後の確認が必要だ。

 

「み、見ろ!!この爆弾は………」

 

「街中の至る所に、全部で16箇所に仕掛けられている。そう言いたいのでしょう?」

 

「なっ、なぜ!?」

 

 リーダー格の3人にテレパスを使う、動揺と困惑の思念。爆弾の個数に間違いはなさそうだ。

 

「忘れたんですか?僕は未来視のユーリですよ」

 

「か、数が分かったところで!!貴様1人では!!」

 

「僕には仲間がいます、最高の仲間がね。爆弾はすでに無力化してますよ、スイッチを押して確かめてみてはいかがですか?」

 

 男はから困惑と怒りを感じる。この男は押すだろう、プライドを保とうと必死だ。

 

「こ、後悔しろ!!貴様のせいだ!!」

 

 となりの2人が静止しようとするも、プラズマ団の男は起爆装置のスイッチを押す。

 だが、爆発音は聞こえない、何も起こるはずが無い。

 

「エレン、ありがとう」

 

「エレーレ!!」

 

 眼にも映らぬ高速で、エレンが僕の隣に降り立つ。

 

「僕のエレンは、そんなオモチャを無効化するなんて訳ないんですよ。エレン!ついでにあれもお願い!」

 

「エレレ!」

 

 エレンは“しんそく“でステージ上の装置を破壊する、エレンの速度を奴らが阻止するのは不可能だ。これでジャミングとモンスターボールの抑制は止まったはずだ。

 

 僕はモンスターボールからふわふわちゃんを取り出し首からさげる。やはりモンスターボールは正常に作動する。

 

「さて、もう何もありませんか?じゃあ終わりにしましょう」

 

「ま、待て!!待つんだ!!爆弾は直接起爆も出来る!!人員だって配置して………」

 

「ユーリよ!待たせたな!こちらは全て回収したぞ!」

 

 リーザに乗ったレックスと、イースに乗ったくまきちが僕らの上空に現れる。周囲には氷付けとなった16個の爆弾と16人の気絶した構成員が浮いている。レックスの“ねんりき“にはよるものだがすごいシュールな絵面だ。

 

「いいタイミングだよレックス、時間ピッタリだ」

 

「うむ!!16話の温泉シーンは丁度3分きっかりである!!」

 

 そうなの?また余計な知識を得てしまった。

 

 モンスターボールには“みがわり“を変わりに収め、レックス達には爆弾の捜索をお願いしていた。レックス達は僕の信頼に見事に答えてくれた。

 

「ふ、ふ、ふざけるな!!そんなものは認めない!!」

 

 プラズマ団の男が、不良少女に飛び付く。人質を確保して逃げるつもりか。

 

「させる訳ないでしょう」

 

 不良少女と男の間にテレポートして手をかざし、男の動きを止め、そのまま構えを取る。サイトウさん直伝の突きの構えだ。

 

「3日は何も食べられません、覚悟してください」

 

「まっ待っ!!」

 

 そのままみぞおちへと拳を突き放つ、後遺症はなく痛みだけを与えるガラル空手の妙技をたっぷり味わうと良い。

 

「みんな、制圧するよ」

 

「承知!!ゆくぞ!!」

 

 まずは銃を無力化する、右手を地面にかざし“でんじふゆう“の逆の力を注ぎ込む。

 

「なっ!?」

 

 銃を持った構成員は一斉に地面に倒れ込む、銃が地面にめり込む程に引き寄せられたためだ。

 そして、そのまま自分のオーラをのせた“サイコキネシス“を放つ、赤と青の輝きが意思を持って縦横無尽に構成員達を襲い、衝撃によって意識を刈って行く。

 

「私達もです!!行きますよオマエ達!!」

 

 ネズさんの号令にエール団達も制圧に加わる、レックス達の活躍もあり、ライブ会場の敵は無力化された。

 

「ユーリよ!街中に散らばる敵が逃げて行くぞ!!」

 

「大丈夫だよレックス、逃しはしない」

 

 自身の意識を上空へと飛ばす、俯瞰風景になった僕の視界が。逃げ惑う構成員達を捉える。自身のオーラを24に分離させ“サイコキネシス“に乗せて奴らを追尾する。銃弾程度の速度を出したそれは、1分もかからずに奴らの意識を全て奪う。

 

 意識を自分に戻し、宣言する。

 

「終わったよ、全員無力化した。ここにいる65人、街中に散らばる41人全員だ」

 

 ライブ会場が歓喜の叫びに包まれた、それに呼応して街の至る所にも声が響く。

 

「ネズさん、いまライブ会場と街中で気絶しているのが構成員達です。今の内に拘束して、捕らえておきましょう」

 

「聞こえたでしょうオマエ達!!奴らをライブ会場まで運び込みなさい!!」

 

「おおー!!」

 

 エール団達がドタドタと走って行く、あれだけの人数がいれば心配ないだろう。ここに運び込めば僕がまとめて見張る事もできる。

 

「あ、あの……ユーリ………」

 

 振り返るとそこには不良少女がいた。彼女の傷付いた姿に淡い怒りが再燃する。

 

「ちょっと染みますよ、我慢してください」

 

 彼女の顔に包むように手をかざし“いやしのはどう“を注ぎ込む。傷が癒えたのを確認して、倉庫から清潔なハンカチを取り出して彼女の顔の血を拭う。

 

 大人しく僕の治療を受ける彼女を見ると、不思議な既視感を感じた。髪を下ろした彼女は初対面とは違った印象を受ける。

 

「うらら!!」

 

 黒くて小さなポケモンが、彼女の足元で鳴いている。

 

 そうだ、僕はこのポケモンを知っている、このポケモンを連れた少女を知っている。

 

「もしかして、マリーちゃんですか?」

 

 彼女ははっとした顔で僕を見た。

 

「マリィばい……また間違えとる……思いだしたと?」

 

「だって、エンジンシティでは黄色いポケモン連れてたじゃないですか………」

 

「あれはまんぷくもよう、今ははらぺこもようなの」

 

 んん?フォルムチェンジか?昔に会った時は黒かったよね?

 

「それに服装も髪型も大分……その………」

 

「かっこよくなったでしょ、強い女を目指したばい」

 

 ポケウッドで会った時は、お嬢様って感じだった。少なくとも剃り込みはなかったはずだ。

 

「か、かっこいいです…………その忘れてすみませんでした」

 

 エンジンシティで再会した時は酷い対応だった。確かポケウッドで別れる時には次に会ったら弟子にしてあげてもいいとか偉そうな約束をしてしまった覚えがある。

 

「いいよ、許してあげる。それより、ユーリ……」

 

「はい?何ですか?」

 

 やっぱり優しい子だ、見た目は不良少女になったけどココロは善良少女のままだ。

 

「ありがとう、私を助けてくれて」

 

「アニキとみんなを、スパイクタウンを救ってくれて本当にありがとう」

 

 笑顔のマリィが僕の右手を両手で包んでお礼の言葉を伝えてくる、マリィの顔には笑顔が浮かんでいる。

 驚いて周囲を見渡すと、皆がこちらを見ていた、誰もが喜びの表情で僕を見ている。

 もう一度マリィを見る、真っ直ぐな感謝の気持ちが伝わってくる。

 

 そして気が付いた、僕はみんなの期待に応える事ができたのだ。重さを背負い、恐怖を乗り越え自分を信じる事ができたのだ。

 

 周囲が信じてくれた自分自身を信じて、勇気ある行動を示した、自分が信じた正義を成したのだ。

 

 真の主人公である彼等に、弟のユウキに、胸を張って報告できる自分になれたのだ。

 

「どぉ、どぉういたしましてぇ………」

 

「な、何でユーリが泣くん!?」

 

 驚いたマリィが、様子に気付いたレックス達が落ち着く様に声をかけてくるが涙が止まらない。嬉しくて嬉しくて仕方がないのに涙がどんどんと溢れてはこぼれていく。我慢出来ずにうずくまって嗚咽が止まらない。

 

 事態を知って駈けつけて来たダンデさんが来ても、遅れてやって来たホップ達が来ても、さらに遅れてやって来たマスタード師匠が来ても僕の涙は止まらなかった。

 

 今日僕はかつてを少しだけ取り戻したのだ、ほんの少しだけ主人公を取り戻したのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラホールの先、とあるウルトラスペースの1つ、そこに私の隠れ家はある。

 

 部下にこの場所は伝えてない、この場所を知るのは数少ない自分の同士と家族だけだ。

 この隠れ家で私は映像記録を視聴している。今日ガラル地方のスパイクタウンで起きた事件の映像だ。

 

 実に面白い映像だった、奴らをけしかけて使い捨てた価値は十分にあった。

 そう、実に面白い欲の形を見る事ができた、少年が己の欲を成就する様子が映されていた。

 

 人は欲によって生まれ、欲によって生き、欲によって死んでいく。

 

 この世全ての原動力は欲だ、ポケモンですら例外ではない。

 

 そして私は誰よりも強欲だと自覚している、他者の欲の形を理解して、自身の欲によってそれを踏みにじる。その行為に自身の存在意義を見出している。この世で最も罪深い思想だろう。

 

 だが止まる気は無い。私は自分の欲望に正直に生き、これからも悪を成す、それこそが私の願い。

 それは、映像の少年とは真逆とも言える道。だが根っこにあるものは、原動力は同じなのだ。それがたまらなく面白い。

 

「随分とご機嫌のようだな、サカキ」

 

 いつの間にか部屋に現れたポケモンが私に声をかける。

 

「ああ、面白い物を見た。機嫌も良くなるさ」

 

「ならばその機嫌を兄弟達とU2にも分けてやれ、お前にお預けを食らってから不機嫌で敵わん」

 

 こいつは、6人の兄弟の中で最も家族愛が強い。同じ遺伝子、同じ方法で生まれたこいつ等はそれぞれ違った欲の形を持った。

 それも非常に面白い、人間と完全に意思が疎通出来るポケモンは稀だ。ポケモンの欲にも興味がある私には得難い存在である。

 

「そうだな、そこにある物で遊ぶのはどうだ?」

 

「む……ゲーム機?サカキ貴様はこんな物を好むのか?」

 

 どこか呆れた声音に、私は反論する。

 

「架空のポケモンを人間が狩る、非常に歪んだ欲を満たせるゲームだ。私はとても気に入っているよ」

 

 シリーズを全て揃える程にはファンだ、一時期世間からのバッシングで発売中止になりそうだった時はロケット団を通じて色々と工作した。

 

「分かった……もう何も言わん。しかしこれを奴らに勧めたら破壊されるぞ」

 

「それは困るな、大事なフレンドのデータも記録されている」

 

 他では絶対に交流できないであろう、唯一無二のフレンドだ。

 

「フレンド?サカキよ………」

 

「かつてガラルを治めた豊穣の王たるポケモン、彼との交流で彼の欲望を知るのが私の最近の趣味でな」

 

 彼との交流で確信した、人とポケモンに違いなど無い。命の価値に違いは無く欲望の形にも違いは無い。等しくこの世に生きるケモノなのだと。

 

「はぁ………サカキ、動いていいのは何時だ?それだけは教えろ」

 

 ふむ、あまり理解を得られないのは寂しいが仕方がない。

 

「アクロマとの契約は、ムゲンダイナが本来の姿を取り戻すまでだ」

 

「なるほど、それなら奴らに会いに行けるな」

 

 6人の兄弟の内2人は敵対していたはずの少年達の仲間となった、カントーの各地で少年達と闘う度に彼らに惹かれたのだろう、彼らの元へキズナと呼ばれる欲望の形を満たしに行ったのだ。

 

「ただし、U2の出撃は許可できない。それはガラルのジムチャレンジが終了してからだ」

 

 要素を足し過ぎると台無しになる。アクロマは少年とU2の接触をあくまでセカンドプランと捉えている。

 

「それは……U2は荒れるぞ、自分だけ出撃できないのでは……」

 

 正直に言えば私もガラルに行きたいと思っている、かつて私の野望を砕いた少年達は今では大人へとなり、あの地で暗躍している。彼らの今の欲望ははたしてどのような形だろうか。

 だが、より強い私の欲望を叶える為に、今はここを離れられない。

 

「弟の癇癪を鎮めるのも兄の役目だぞ」

 

「…………ふむ」

 

 満足そうだな、こいつは自分の兄という役割に強い執着と強い欲望を持っている。

 

「さて、わたしはそろそろ基地へ帰る。贈り物の用意しなくてはならないからな」

 

「贈り物?何の話だ?」

 

「ハチミツだよ、最高級の物をフレンドに贈るのさ」

 

 欲望を成就させた記念に甘い甘いハチミツを贈る。

 

 試練を乗越えた彼等への私からのお祝いだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。