自分はかつて主人公だった   作:定道

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3話 とびだせ!カンムリのせつげん

 早朝、緊急事態に直面した豊穣の王は、解決手段を求め冠の神殿で友と愛馬達と円卓を囲んだ。

 

 冠四天王による、カンムリせつげんの今後を決める最高意思決定機関。

 

 第13回円卓会議が始まるのだ。

 

 会議は大いに荒れた、ポケカノで1番人気のキャラクターは誰かを決めた伝説の第6回と比肩するほどに。

 

 会議は3日にも及び、途中で8回のおやつタイム、3回の朝ご飯、昼ご飯、晩ご飯、ニンジンカレーパーティー、怒りのお昼寝休憩、深夜アニメの視聴、普通の就寝を経てようやく1つの答えに辿り着いた。

 

 街へいこうよ、カンムリのせつげん

 

 そして冠四天王達は作戦を遂行する為、行動に移った。

 

 

 

 

 

 目の前にそびえ立つ巨大な木、遠くからは毎日見ているが、こんなに近くまで来たのはこの島に辿り着いた時以来だ。相変わらずデカイ、世界樹と呼ぶ事にする。

 

 「ふむ、ユーリよ。刻限となった」

 

 レックスに頷きを返し、僕はサイコパワーを解き放つ。憎き3鳥をおびき寄せるために。

 

 ここ最近奴らを観察して分かったことがある、奴らは邪悪で好戦的ではあるが、同時に狡猾で臆病でもある。

 

 奴らの1日は、世界樹できのみを食し、周囲のポケモンをいじめて蹴散らし、自分以外の鳥に不意打ちをかまして逃げ、しばらくしたら戻ってくる、この繰り返しだ。クソみたいなライフスタイルといえる。

 そして、奴らは自分よりも強いポケモンには決して手を出さない、力を取り戻したレックスに世界樹の下で待機してもらうと、その日世界樹周辺に3鳥は現れなかった。奴らは他の鳥への牽制を除けば、確実に勝てる戦いしかしないのだ。じつにきたなくてかしこい。

 

 その点を踏まえて、奴らは僕をどのように認識しているのか?

 

 3匹でかかれば確実に勝てる、ただ一対一だと手傷を負う可能性がある、そんな認識だろう。

 その評価はおおむね正しい、僕自身も一対一なら恐らくギリギリで勝利することは可能だが、他の鳥の横槍が入れば敗北するだろうと見積もっている。

 最初に奴らがあそこまで執拗に僕を追いかけ回したのは、性格の悪さだけが理由じゃない、僕を脅威とみなしたからこその行動だろう。厄介な存在が自分達の縄張りに二度と立ち入らないように。

 

 実際にその目論見は成功したともいえる、僕は奴らを若干のトラウマとみなし、世界樹付近には近付かなかった。3鳥に感知されないほど遠くから様子を伺うだけに留めた。

 そのせいで奴らの姿を視認はできても、OPを模倣することは出来なかった。OP性質の模倣とは即ち生き物の本質の内側を覗く行為、覗くという行為は向こうから覗かれる危険性を孕んでいる。

 

 OP量が明確に下の相手になら気付かれずに行う事も可能だが、同格程度の相手にそれは不可能だ。

 なので、正面から戦って勝利して大人しくさせてから観察する、それしか奴らのOPを模倣する術はない。

 

 もちろん勝算はある、僕、レックス、リーザ、イース全員で戦うのだ。この方法ならレックス達の経験値も手に入って一石二鳥だ。

 問題なのが、レックス達が居ると奴らは寄ってこない事だが、解決策はある。僕の超能力でレックス達のOPを隠すのだ。

 

 OPを隠す技術には自信がある、しつこいエスパー協会やリーグ関係者を躱すためにこの技術はかなりの練度を誇っている。他者に施すのも、対象自身の同意があれば比較的たやすい。

 

 モンスターボールに入れる案も出たが、結局はNGだ。モンスターボール内に入ってもOPの波動を完全に遮断できる訳ではない。

 それに、モンスターボールはそれ自体がかなり特徴的な電波を発している。その電波を感じ取ってトレーナーから逃げるポケモンも存在する、3鳥もそうである可能性は高い。

 

 来た!猛烈な速さで3鳥達がこちらに向かってくる。奴らはレックス達のOPを感知出来ていない、作戦の第一段階は成功だ。

 

 奴らは僕の姿を視界に捉えるの同時に、攻撃を仕掛けてきた。

パチモンフリーザーのビームとパチモンファイヤーのダークオーラ攻撃をひかりのかべで防ぐ。そのスキを狙ってパチモンサンダーの鉤爪が僕を襲う。

 

「やらせはせぬぞ!」

 

 イースに騎乗したレックスが立ち塞がるように姿を現して、サンダーをサイコキネシスで跳ね返す。その間に僕はリーザに騎乗する。

 

 奴らはレックスの存在を認めると、さっきまでの攻撃性が嘘のように逃走をはじめる。見事な逃げっぷりだ。

 

 だがしかーし、その行動は想定済みだ!作戦は第二段階に移行!

 

「今だエレン!!サンダープリズン!!」

 

 隠れ潜んでいた5人目の冠四天王、レジエレキのエレン。彼の放った、電撃の檻が3鳥達を閉じ込める。これで逃走は不可能だ。

 

 動揺している奴らをこのまま畳み掛ける!作戦は最終段階だ!

 

「レックス!あれをやるぞ!」

 

「承知!」

 

 僕とレックスは奴らを周囲を円を描くように走り回る!

 

「レックス!アストラルビット!リーザ!ブリザードランス!」

 

 霊撃と氷撃の雨が、四方から3鳥達に襲いかかる。

 

 発動したら最後、自力での脱出は不可能な正義の袋叩き。円卓フルボッコフォーメーションだ。第8回円卓会議で考案された禁断の奥義だ。

 

 そして3鳥達はなすすべもなく倒れていった。

 

 

 

 

 

 倒れた3鳥共をくさむすびで拘束した後、いやしのはどうをかけておく。これでしばらくすれば後遺症もなく目を覚ますだろう。高OPのポケモンの回復力はかなりえげつない。

 では観察させてもらうとしよう……見れば見るほどパチモン感が凄い。カントーの方を先に見たからそう思うのかな?いや、こいつらは素行を含めてガラが悪すぎる、そういうところがなぁ。

 

「見事な働きであったぞエレン、これで我等は劇場版ポケカノにまた一歩近づいたのだ!」

 

「レレレ」

 

「バクロッス」

 

「バシロッス」

 

 まったくその通りだと思う、サンダープリズンは実に素晴らしい技だ。あれ程の出力と拘束力は流石伝説のポケモンと言った所か、拘束範囲も花京院の結界の10倍はある。

 

 冠四天王幻の5人目、雷獄のエレンは第13回円卓会議の最中に電撃加入した実力派の新メンバーだ。

 2度目のお昼寝休憩から目覚めると、目の前できのみを食ってたからめちゃくちゃビビった。

 

 彼は僕らが神殿で生活をはじめた頃から、電波を辿って僕らの様子をずっと観察していたそうだ、普通に怖い。

 そして、レックス達と同じでポケカノに嵌ったらしく彼も劇場版が視聴がしたいので円卓への加入を希望して神殿にやって来たそうだ、ポケカノは伝説のポケモンを堕落させるオーラでも放っているのか?

 

 当初レックス達は彼の加入に難色を示した、面倒臭いタイプのオタクである彼らは基本的に保守派なのだ。

 しかし、彼が自身の電波でネットに接続してSNSのアカウントを100個程使いこなし、ポケカノの布教活動、3期のアンチ活動、ライバルアニメの公式アカウントへの破壊炎上工作、ポケカノアンチアカウントへの嫌がらせクソリプ爆撃などなどの活動実績を知ると、手のひらを返して彼を円卓に迎え入れた。

 

 神殿にこもって時間だけはあるからろくな事をしない、ネットを与えてはいけない存在だ、既に手遅れではあるが。

 僕も反対はしないけど、神殿を守らなくていいのか?と尋ねるとレジドラゴに押しつければ大丈夫との答えが返ってきた。

 それは大丈夫と言えるのか?後で親玉のレジギガスに怒られるんじゃないか?

 まあ、あのポケモンも僕がキッサキの神殿に無理矢理侵入しても寝ぼけた反応してたし大丈夫か。

 

 そうこうしてる内に3鳥どもが目を覚ます、逃れようともがいているが僕のサイコパワーで補強したレックスのくさむすびはそう簡単には破れない。ナパーム弾を跳ね返しインド象を2秒で倒す程のエネルギーを秘めている。

 

「無駄だ!悪事を成す凶鳥共よ!観念するのだ!」

 

 レックスの一喝に3鳥共は身を竦ませると、急に媚びる様な態度を示した。うーん、弱者に強くて強者に弱い。小悪党の鑑だな。

 

「その様な擬態に絆されはせんぞ!それに貴様等は己の縄張りのみではなく余の民である人間の村でも悪事を働いたであろう!」

 

 そう、この鳥達は最近フリーズ村にちょっかいを出しているのだ。食料を奪ったり畑の柵を壊したり、屋根に穴を空けたり、やりたい放題だ。3鳥達を倒そうと思ったのは何も経験値稼ぎと、追いかけ回された恨みだけが理由ではない。

 

「だが、余は貴様らの事情も理解している。貴様等の糧である実りが少なくなっているのも一因であろう」

 

 世界樹に成っているきのみの数が減っていて、こいつ等の食料が不足気味なのは間違いない。村の食料を奪うのは、いくら伝説のポケモンであろうとリスキーな行為だ。実害が酷いと人間達は駆除に本腰を入れる、具体的にはリーグから四天王クラスの人員が派遣される。

 頭の良いこいつ等は、その事を理解しているだろう。理解してなお行為に及ぶのは、追い詰められている証拠だ。

 

「なればこそ、これからは余に下り、余の統治に助力するのであれば、ソナタらを許そう。さらには余の豊穣の力で巨木の実りを約束する、返答はいかに?」

 

「ピイー」

 

「コケー」

 

「ポポー」

 

 見事な土下座だ、全力の媚を感じる。

 

 

 

 

 

 冠の雪原唯一の人の縄張り、人口凡そ80人のフリーズ村。

年々畑の収穫量が減り、糧を得る手段が数少ない観光客相手の宿泊施設の提供へと移り、緩やかな衰退を迎える寒村の民に衝撃が走った。

 

 王の帰還である。

 

 伝承の通り白き愛馬に跨り、何故か黒き馬に乗った白い髪の子供と、最近村を荒らしていた3匹の鳥を蔦で縛って引き連れての帰還だ。

 

 おとぎ話だと思っていた伝説が目の前に現れ、村民達は大いに動揺したが、王の偉大な思念が全村民を落ち着かせ、村の広場に背の順で10列並ばせた。背の低いものが王の御姿を拝謁できずに悲しむことが無いようにとの慈悲深き配慮に村民達は感激した。

 

 そして王は彼らに語り始めた、民の忘却により力を失った自分は深い眠りについていたが、民の嘆きに応えて覚醒めたと。

 そして手始めに村を荒らす凶鳥共を懲らしめた、凶鳥共は改心してこれからは王の下で働くので許してやってほしい。

 

 伝説の再現と慈悲深き王に村民達は深く感心した。

 さらに、今から豊穣の力で冠の雪原の実りを取り戻すと宣言した。

 

 仰天と歓喜に包まれる村人達に王は諭した。

 

 だが豊穣とはただ自分が与えれば良い訳ではない、実りに感謝を捧げ、次の実りを信じて人事を尽くす、その真心こそが長き繁栄には必要であると。

 

 村人達は自分を恥じた、ただ恵みを受け取ろうとした自分達の浅慮を。

 そして王は続けた、だから共に舞を捧げようと、恵みを与えてくれる大地に、此処に在ることを許してくれるこの世界に。

 

 そして王の華麗な舞がはじまった。

 

 カム ムイ ムイ カム ムイ ムイ 神 無為 無為  

 

 いつしか村人達は自然と舞っていた、まるで身体がが勝手に動いているような不思議な感覚、それは古き信仰の力が己の内から蘇ったのだと村人達は理解した。

 

 カム ムイ ムイ カム ムイ ムイ 神 無為 無為

 

 カム ムイ ムイ カム ムイ ムイ 神 無為 無為

 

 その日フリーズ村では村人の信仰が木霊し、大地に豊穣の実りが溢れた。

 

 

 

 

 疲れた、村人全員を“ねんりき“で踊らすのは物凄い神経を使う。昔の自分には絶対無理だろう、試行錯誤した今だからこそ出来る繊細な技だ。

 

 信仰復活作戦は成功したが、何か集団洗脳した気分になってくる。寒村で密かに信仰されている邪教の手先だな僕は。

 

 レックスはまだ村長に色々吹き込んでいる、ポケカノを視聴しろとかPokezonから荷物が届いたら預かって置いてくれとか、そろそろ止めたほうがいいかな?

 

「あの、神子様……よろしいでしょうか?」

 

「はヒィ!?」

 

 声に振り向くとそこには、ふわふわなポケモンを抱いたお婆さんがいた。

 

「あっ…よっ、よろしかったです」

 

 何を言っているんだ僕は、舌が上手く回らない

 

「神子様、この子を、ふわふわちゃんを預かっては頂けませんか?」

 

「ふっ、ふわわぁっ?」

 


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