『ガラルのみんな!!!ブラックナイトを始めちゃうよお!!!』
興奮したローズさんの宣言が終わり、モニターの映像が街の様子に変わる。
「おい!モニターを見ろよ!なんだ あれ………?」
暗闇と赤い光に包まれた雲が南の方角から物凄い速さで迫ってくる。ダイマックス時に形成されるものと似ているが、別物なのがモニター越しでもわかる程に濃い暗黒だ。
青く晴れた空がみるみると暗闇の雲に覆われていく。
「委員長!!まさかここまでやるのか!?」
ダンデさんの悔しげな叫びの後、モニターには次々とダイマックスしたポケモンがシュートシティ手前に出現する様子が映し出される。
凄い数だ、数十匹?いや、百に届くかもしれない数の巨大なポケモンがシュートシティの手前に並んでいる、伝説と呼ばれるポケモンの姿も見える。
「ローズさんは……本気なんでしょうか?」
分かっている、あの演説とこの街の様子を見せられては疑う余地もない。それでも否定してほしくてダンデさんにたすけを求める様に問いかけてしまう。
「ユーリくん、委員長は本気だろう。あの人は自分で決めた事にためらいはしない、さっきの演説に嘘は無いのだろう」
「じゃあブラックナイトは、ムゲンダイナを捕まえれば事態は終息するのは真実だと?」
「ああ、恐らくそこに嘘は無い、しかし……」
「ダンデくん!!」
ソニアさんの声だ、それを皮切りにスタジアムに続々と人が集まって来る。リーグスタッフにジムリーダーにジムトレーナー達、ホップ達にマグノリア博士、レッドさんとグリーンさんもいる。ついでにボールガイ達も大勢走って来る。
「ダンデ!イツキとは連絡がつかねえ!決行日が閉会式の情報はデタラメだった!あの野郎はあっち側の可能性が高い!」
グリーンさん?イツキさんが裏切った?そもそも計画を察知していたのか?
「くっ……博士、例の装置は!?」
「落ち着きなさいダンデ、十分な数を用意してありますよ。ここにいるトレーナー達全員に配れます」
「ありがとうございます、師匠は?」
「マスタードはピオニーと共にローズタワーへ向いました。あちらは任せましょう」
マグノリア博士は一瞬ためらう様な素振りを見せた。
「ダンデ、想定とは違ってしまいましたがやる事は変わりません。貴方が導くしかない、ガラルのチャンピオンである貴方が………」
マグノリア博士がダンデに語りかける。その声は少し震えている、ダンデさんに頼る事に後ろめたさがあるのか?
「大丈夫です、マグノリア博士。俺はチャンピオンとしての期待に応えます。君、マイクを貸してくれないか?」
ダンデさんの要望に、リーグスタッフが慌ててマイクを手渡す。
その慌てた姿に嘘は見られない、リーグスタッフ全員がローズさんの計画に加担している訳ではないのか?
『みんな!!聞いてくれ!!落ち着いて俺の言葉に耳を傾けてほしい!!』
ダンデさんの声がスタジアムに響き渡る、街中にも街頭モニターを通じて伝わっているだろう。
『先程の委員長の宣言!!あれは事実だ!!この街に脅威が迫っている!!』
静まったスタジアムに大勢の息を飲む音が聞こえる、だが観客達は騒ぎ立てる事をしない。
『だが安心してくれ!!シュートシティは!!このガラルは!!チャンピオンであるダンデが必ず守る!!ガラルを愛するトレーナー達も一緒に守ってくれる!!』
首輪を外した僕に、安堵の感情が伝わってくる。恐怖の中でより一層際立つ感情がスタジアムに注がれるのを感じる。
「観客のみんなは北の広場に避難してくれ!!ポケモンはスタジアムを目指して南からやって来る!!リーグスタッフの誘導に従って絶対に慌てない様に頼む!!落ち着けば十分に間に合う!!大丈夫だ!!」
スタジアムのリーグスタッフが無線で指示を飛ばす、避難を始める足音の響きが聞こえる。
「そして!!シュートシティのみんな!!ポケモン達は外から真っ直ぐスタジアムにやって来る!!街のメインストリート付近の人は東西に分かれて避難してくれ!!動けない人を見つけたらポケモンと協力して助けてあげてほしい!!」
街の方からも喧騒が聞こえてくる、恐怖の感情もあるが狂乱はしていない。確かな理性を備えた雑多な感情の波がそこにはあった。
「ふう………博士、避難の指示に問題は無かったでしょうか?」
ダンデさんが隣にいるマグノリア博士に問いかける、近くにいる僕達にしか聞こえないほどの小さな声だ。
「上出来ですよダンデ。緊急時の誘導はたまの同盟者にも依頼してあります、現場は彼等に任せましょう。貴方の号令はみんなを勇気付けました」
「ですが、街の方は………」
「メインストリート周辺以外にはポケモンは進行しないでしょう。委員長もいたずらに被害を拡大させるつもりはないはずです、さらに言えばそれをさせない為にコレを用意しました。次はトレーナー達に伝えねばなりません」
「そうですね、わかりました」
ダンデさんは再びマイクを構える、ダンデさんだって不安じゃないはずがない。自分の指示に絶対の根拠がある訳でもない。
それでも観客達には、街の人間には不安を見せずに言い切った。チャンピオンの誇りと責任を全うした。自分の言葉が勇気を與えると信じて伝えきったのだ。
『トレーナーのみんな!!聞いてくれ!!』
スタジアムには大勢のトレーナーが集まっている、ジムリーダーにジムトレーナー、ジムチャレンジャーに加えて一般のトレーナーらしき人もちらほら見受けられる。
『迫って来る巨大なポケモン達!!あれは本物ではない!!特殊な環境下においてガラル粒子が実体化させた幻だ!!一定のダメージを与えれば消えて無くなる!!』
ダイマックスアドベンチャーと同じ幻影のポケモンか?実体を持って街を襲うなんて思ってもいなかった。あれは今日の為に用意したものだったのか?
『そしてみんなにこれを配る!!幻影のポケモンの注意を引けるアイテムだ!!これを使って奴らをできるだけ引きつけて撃破してほしい!!』
ダンデさんが掲げたアイテム、ステッキの先に石がついている。恐らく石は“ねがいぼし“だ。配るほど用意してたと言うことはダンデさんや博士はやはり計画を察知していたのか?
『強制はできない!!自信の無い者!!体調の悪い者は観客と一緒に避難してくれ!!これは危険な戦いだ!!命を落とす危険もある!!』
『だがもしも!!街の為に!!ガラルの為に!!俺と共に戦ってくれるなら!!命を賭けてくれるなら!!これを受け取ってくれ!!』
ダンデさんの表情は変わらない、誇りと自信に満ちたチャンピオンの表情だ。
だけど僕のテレパスには悔しくて泣き出しそうなダンデさんの感情が伝わってくる。
『ガラルに………チャンピオンの俺に!!力を貸してくれ!!頼む!!』
ダンデさんは深々と頭を下げた。ガラルの為ではなく自分の為にと言い切った。そこまでの責任をダンデさんが負う必要はあるのか?
あるはずが無い、ダンデさんはチャンピオンではあるがガラルの責任者ではない一人のトレーナーだ。
でも、ダンデさんは背負ったのだ。非常事態にガラルの代表としての責を自分から負った、自分の敗北すら背負えない僕とは比べ物にならない。
力を貸したいと思った、心の底からこの人の力になりたいと思う。
そして、それは僕だけではない。
「「「オオオオォォォーーー!!!!!」」」
トレーナー達の雄叫びが響いた、僕も一緒になって叫んでいた。
『ありがとうみんな!!アイテムを受け取ったらジムリーダーが中心になって指揮をしてくれ!!奴らは強い!!最低でも4人一組で当たる事を徹底してくれ!!』
ジムリーダーの周りに続々とトレーナーが集まる、オニオンの所はサイトウさんが横にいるから恐らく心配はいらない。
僕はどうする?レックス達と共に迎撃に参加するか?それともムゲンダイナがシュートシティに辿り着く前に撃退するか?
「ユーリ君、お願いがある。聞いてくれるか?」
「何ですか?ダンデさん」
ダンデさんが僕に話しかけて来た、隣にはマグノリア博士もいる。
「君にはこのスタジアムに仕掛けられているポケモンを引き寄せている装置を探し出してほしい、必ずあるはずだ」
「装置ですか?でも僕は機械に強くありません、迎撃に参加した方が良いのでは?」
正直に言えば、レックス達を指揮する僕は最大戦力と言えるだろう。それを活用しないのは得策では無いように思える。
「ユーリ君、これは君にしかできない役目だ。それにムゲンダイナを捕獲する為には強力なトレーナーを温存する必要もある」
確かにそういう考えも必要か?
「ユーリ、恐らく装置には大量の“ねがいぼし“が使われているはずです。貴方の超能力による探知なら探し出せるはずです」
マグノリア博士が補足するように僕に語りかける。“ねがいぼし“は確かに見つけやすい、かなり特長的なエネルギーを発しているからだ。でもおかしいぞ?
「大量の“ねがいぼし“の反応は感じられませんよ?スタジアム内にあるなら既に僕が気付けるはずです」
「それは恐らくこれを使っているのでしょう。私が昔に開発してリーグに提供したガラル粒子の制御装置、同じものを大量にスタジアムに設置して“ねがいぼし“の反応を隠しているはずです」
マグノリア博士は僕に円盤状の機械を手渡す、大きさはモンスターボール程度だ。
確かにサンプルがあれば探すのは不可能ではない、似た反応を探知するのは容易だ、レックス達と協力すれば数にもよるがそこまで時間はかからないだろう。
「見つけたら私に知らせてください、それを操作できれば幻影のポケモンを消してムゲンダイナ達も止められる可能性があります」
なるほど!そういう事か!
「わかりました!!みんな!!出てきてくれ!!」
レックス達をボールから出して作戦を説明する。ボールの中でも外の状況を把握しているはずだが確認を取る、失敗はできない。
確かに根本的な解決ができれば戦いの必要は無くなる、責任重大な役目だ。
何でも戦って解決しようとしている僕に比べて博士達はちゃんと的確な解決方法を提案してくれる。
「みんな手分けして制御装置を頼む!!全部でなくとも大量に壊せば装置の在り処がわかるはずだ」
「承知である!!」
「バシロッス!!」
「バクロッス!!」
「エレーレ!!」
「べあーま!!」
ふわふわちゃんは僕の首にかける。ふわふわちゃんもエスパータイプだ、捜索の視点は多い方が良い。見つけたら知らせてくれるはずだ。
「僕とレックスとくまきちは建物内部を中心に!!イースとリーザとエレンは屋外部分を頼む!!何かあったら念じてくれ!!レックスは思念を捉えて中継を頼む!!」
「任せるである!!シュートシティ全域が余の射程圏内!!皆のものよ!!伝えたい事があれば念じよ!!余が声を届ける!!」
レックスの思念が僕だけではなくスタジアム全域に響く。この切迫した状況下での連絡手段としては最高だ、流石レックス。
スタジアムの外に向かうホップ達を見る。マサルもユウリもマリィもみんなが幻影ポケモンの迎撃に加わっている、戦いに向けた勇ましい感情を感じる。
「みんな!!気をつけて!!」
行くなとは言えない、彼らも一人のトレーナーだ。戦う事を選んだトレーナーを止める権利は誰にも無い。
「任せろ!!ユーリも頼んだぞ!!」
「大丈夫!!僕らには剣と盾があるからね!!」
「ユーリ君!!しっかりね!!」
「今度はマリィが守るけん!!ユーリも頼んだよ!!」
みんなの返事を聞いてスタジアムの内部に飛び込む、超能力を駆使してできるだけ早く制御装置を探し出さなくては。
みんなは命がけで戦いに挑む、もたもたしている時間は無い。
ローズさんとピオニーのダイオウドウ同士がぶつかり合う。金属同士がぶつかるような轟音をローズタワーに響かせる。
「思い出した!!子供の頃一緒にゾウドウを捕まえたよねえ!!いやあ懐かしいよ!!」
「ド・阿呆が!!そのセリフは2度目だ!!テメエは何にも変わっちゃいねえ!!」
なるほど、ダイオウドウ同士にも身体的に共通点が多い。ポケモンの方も兄弟か?因縁の対決とはとても良い。
「兄弟でお揃いのポケモンですか、素敵だと思いませんか?マスタードさん?」
「それには同意する!!だがこんな形の兄弟喧嘩をワシは歓迎できんな!!」
マスタードのジャラランガがわたくしのジバコイルを沈める。流石は伝説のチャンピオン、衰えているとはいえわたくしでは一歩及ばない。
タイプの相性的にも不利だ。ローズさんの方も若干押され気味だ、このままではわたくし達は敗北する。
「ありがとうジバコイル、さて?」
どうする?ギギギアルを………いや?それとも?
「アクロマとやら!企みがあるなら早めに出した方が良い!それとも投降するのであれば受け入れよう!」
やはりマスタードは伝説の無敗のチャンピオンだ。ポケモンバトルにおいてわたくしの考えなどお見通しだ、トレーナーとしての勝利を得るのはやはり難しい。
「では、お言葉に甘えるとしましょう。出番ですよ」
わたくしは次のポケモンを繰り出す、放たれるボールはウルトラボール。勝ち目が薄くても全力を尽くすのがトレーナーとしての礼儀だ。
「かがよふ!!」
出てくるのは巨大なシルエット、竹を模したかの威容、異界から来た鋼鉄の姫君。
「なんと巨大な!?そして異質なOPの波動!?まさか!?」
「おや、ご存知ですか?国際警察とも繋がりがあるのでしょうか?」
あらゆる界隈にパイプを持つ“ゴールデンボール“の幹部と目されるマスタード、わたくしの情報網にも引っかからない伝手があってもおかしくはない。
「彼女のコードネームは“UB04 BLASTER“、ウルトラビーストのテッカグヤです。異なる世界の鋼の力をお見せしましょう」
「ジャラランガ!!“インファイト“!!」
「テッカグヤ、空へ」
テッカグヤのスラスターから放たれる衝撃がジャラランガを吹き飛ばす、テッカグヤは天井を壊し巨体を空へと浮かべて行く。
「ぬぅ!?あの巨体で空を飛ぶとは!!しかも“はがね“だけではない!!読みにくいが恐らくは“ひこう“との複合タイプ!!」
「流石です、ウルトラビーストのタイプを戦闘中に読み取るとは。さて、場所を移しましょう。彼女に天井のある場所は狭すぎる」
わたくしは“でんじふゆう“で穴へと飛んでいき、ローズタワーの頂点に降り立つ。マスタードとジャラランガが続いて穴から飛び上がって来る。
「ここならテッカグヤの力を引き出してあげられます。バトルの続きを始めましょう」
空で格闘技を拒否して“ビーストブースト“を重ねればわたくしにも勝ちの目が出て来る。か細い勝利の糸だが諦めはしない。
「お主は!!何故こんな事をする!?ポケモンへの愛情を確かに感じる!!トレーナーとしての矜持もある!!何故だ!?」
マスタードがわたくしに問いかけて来る。時間的にも厳しくなって来たが聞かれたのであれば答えよう。
「わたくしは見たいのですよ、人とポケモンの可能性の行く末を。そのためにユーリ君に力を貸して貰うのです。人とポケモンの潜在能力を研究する者として、最高の可能性を観測したい」
嘘偽らざる本音を答える、わたくしの願いは昔から何一つ変わっていない。
「純粋な好奇心、それ故に世を混乱に導くのか?………哀れだ、お主を止めてくれる者が居なかったか?諌めてくれる友や家族は居らぬのか?」
「ふむ、大勢いましたよ。皆やりすぎだと忠告してくれました。家族や友人、研究仲間達がわたくしに考えを改める様に言葉を尽くしてくれた。わたくしを想っての言葉でした」
「それが分かっていて!!何故だ!?」
「興味の方が勝ったのです。わたくしは好奇心を満たす為に彼等とのキズナを捨てました、わたくしにはそちらの方が重要だった」
キズナを捨てたわたくし自身では最高の可能性を発現できない。だからこそユーリ君に見せて貰う必要がある。
だが、一人だけは今でもわたくしに力を貸してくれる友人がいる。捨てたはずのキズナは一つだけ残っていた。
しかし、彼女もわたくしの研究を良くは思っていない、なのに何故付いてきてくれるのか?少しだけ気になった。
「そうか………問答は無駄か!!やはり戦いでしか解決はできないのか!!」
「ええ、それでこそポケモンバトルでしょう?互いの相容れなさをぶつけ合いましょう」
空気が戦闘への張り詰めたものへと変化していく、わたくしの力を元チャンピオンに全力でぶつけよう。
「困りますねアクロマ、約束の時間は迫っています。遊んでいないで早く目的を果たしてください」
背後から声がかかる、突然の侵入者にマスタードも驚きを隠せていない。
勝負に水を差された事に不快さを感じるが、彼は正しい。わたくしは戦いに夢中になり過ぎた。時間が迫っているのは事実だ。
わたくしの後ろには仮面を被った超能力者、イツキが立っている。A.S.Dすら無視するテレポートでこの場に現れたのだろう。
いや、彼をイツキと呼ぶべきではないのか?この人物の感情は測りかねている所がある、呼び方一つにも気を使う。
「もうそんな時間ですか?楽しい時はあっという間に過ぎますね」
「アナタの酔狂でボクの時間を取らせないでください、契約を果たさないならボクも好き勝手やらせてもらいますよ」
「それは困りますね………マスタードさん、名残惜しいですがここまでです。勝負はわたくしの試合放棄で貴方の勝利です」
「待て!!それにイツキ!!アクロマと通じていたのか!!…………いや、違う!?お主は何者だ!?」
「ボクに話しかけるな野蛮人が、格闘家なんて人種は世界に必要ないんだよ。中のボクに気付くのも気味が悪い。やっぱり早く根絶やしにしないとね」
モニター越しには気付かなくても、直接会えば違和感に気付く。やはり格闘家の察知能力は恐ろしい。
「ローズの始末はボクがつけます、アナタは黙って見ていてください。」
「ふぅ………仕方がありません」
ローズさんとはポケモンバトルで決着を付けたかったが、こうなっては諦めるしかない。悲しい結末となった。
「待て!!何をするつもりだ!!」
マスタードがイツキへと間合いを詰めるがもう遅い、彼のテレポートの速度はこの距離では捉えられない。穴の中に視線を移す。
ローズさんの背後にテレポートしたイツキが右手で胸を貫いている。対面のピオニーは驚きの余り固まっている。
「いかん!!ピオニー!!」
急いで穴へと飛び立つマスタード、わたくしも後を追う。せめて見届けよう。それがせめてもの敬意の証。
「お、おかしいねえ?クラス12まで通用するA.S.Dが起動しない?テレポートかい?ぼ、防御膜まで貫かれている?」
A.S.Dは間違いなく起動している、防御膜も健在だろう。
だが、世界の裏表関係なく最高峰の技術でも彼のサイコパワーは防げない、異質な破壊と再生の力はあらゆる障害をすり抜ける。
「そんなオモチャでボクの超能力は防げない、道化は舞台から退場して貰うよ」
「があっ!?ああぁぁがあっ!!!?」
「兄貴!?」
イツキがローズさんから情報を引き出している。相手の記憶を無理矢理解析する超能力、物理的には傷はつかなくとも精神はズタズタになるだろう。クラス4の彼等と違って超能力者ではないローズさんには回復の目は薄いだろう。
「なに………永遠?くだらない永遠もあったものだ。アクロマ!コードは手に入れた!アナタも次の段階に移りなさい!」
マスタードの襲撃をテレポートで避けたイツキがわたくしの隣に出現する、倒れるローズさんにマスタードとピオニーが駆け寄っている。
「貴方は?ユーリ君の元には行かないのですか?」
「ボクは頃合いを見てレッドとグリーンを引き受けます、ユーリ君の事はアナタに任せますよ」
おかしい?わたくしの予想と違う動きだ。ユーリ君への執着はわたくしと同じだと思っていたのだが、見誤ったか?
「貴方が一人で彼等をですか?流石に無謀では?」
「問題ありませんよ、どうせ奴らがやって来ます。人間を気取る愚かなポケモンのなり損ない共が役立ってくれますよ」
そう言ってイツキはその場から消え去る。なるほど、ムゲンダイナが一つになった後は契約の後と言う事か。確かに彼らならレッドとグリーンを止められるでしょう。
さて、わたくしもユーリ君の元へ向かいましょう。ローズさんにお別れを告げなくては。
ローズさんが地面でもがき暴れているのを二人は必死に抑えている。
「ローズさんの身体は傷ついてはいません。ですが精神はズタズタになっているでしょう」
「テメエ!!何か知ってんのか!?兄貴に何をしやがった!!」
「彼はローズさんの記憶を無理矢理に解析しました。超能力者ではないローズさんの精神はそれに耐えきれなかった……残念な結果です」
「何て事を………最早ローズは………」
ふと、可能性が頭によぎる。そうだ!!彼なら可能性がある!!やはりユーリ君は最高だ!!
「いいえ!!可能性はあります!!超能力者によって砕かれた精神を癒せるのは更に強大な超能力者なら不可能ではない!!」
そうだ!!輝きをローズさんにも見せてあげよう!!そうすれば素晴らしい結果が生まれるかもしれない!!
「ローズさん!!ツライでしょうが耐えてください!!きっとユーリ君の輝きが貴方を照らしてくれます!!」
「待て!!アクロマ!!」
マスタードの静止を振り切ってウルトラホールに飛び込む、そろそろ丁度いい時間だろう。
きっとミカンさんとユーリ君が再会している頃合いだ。
「しっかり捕まっててね、すぐにお母さんの所へ送ってあげるから」
「……うん」
僕の背中の男の子は小さく返事した、昔迷子になったユウキを見付けた時を思い出す。ユウキも僕の背中で泣きべそをかいていた。
制御装置を探す途中にトイレの個室で泣いている男の子を発見した、レックスに頼んで北の広場に呼びかけたから母親は直ぐに見つかるだろう。
スタジアムの天幕から北の広場へと飛び立つ、この程度の距離ならあっという間だ。同時に背中の男の子の思念を増幅して群衆の中から母親を探す。
いた!男の子を求める強い感情に向かって僕は上空から降りて逝く。
上空の僕に気が付いた人々が開けてくれた空間に降り立つ。母親が男の子に気付いてこちらに駆けて来る、男の子を背中から降ろすと二人は抱きしめ合った。
周囲に親子の再開を喜ぶ温かい感情が渦巻く、広場の人達は怯えてはいるがパニックは起こしていない。ダンデさんの言葉は人々を確かに勇気付けている。
親子のお礼に手を振って答え、再びスタジアムへと飛び立つ。スタジアムの中にはもう逃げ遅れた人はいないはずだ、レックス達にも制御装置と同時に探す様に頼んだが報告は上がって来ない。
スタジアムの天幕に降り立ちシュートシティの方角に目を向ける。街の入口付近に破壊された建物が見えるが、みんなは幻影ポケモン達にそれ以上の破壊を許していない。懸命に入口でポケモン達の進行を食い止めている。
ムゲンダイナ達の姿はまだ見えない、だが空を飛べるポケモンならもうすぐやって来るはずだ。恐ろしいまでの密度のガラル粒子の感覚が迫って来るのを感じる。
そして、暗闇の雲は既に辺り一面を覆っている。誇張ではなく本当にガラル全土を覆っているであろう程の侵食速度だ。
ローズさんは恐らく自分の行いに正義と意義を見出しているのだろう、数十年後の人々はローズさんの行いを正しかったと表現するかもしれない。エネルギーの恩恵を受けて。
だけど、間違っている。広場の人々はみんな希望を持ちながらも怯えていた。テレパス越しに伝わって来る痛いほどの悲鳴、助けを求める怯えた感情、あんな思いをさせるのが正義の行いのはずが無い。
『ユーリよ!!スタジアムの規模から言って恐らく半分以上は制御機器を破壊した!メインの装置は感じられないか!?』
レックスの思念が聞こえてくる、スタジアムの天幕に降り立って返事をする。
『今から探知する!レックス達は引き続き装置の破壊をしてくれ!』
『承知した!逃げ遅れた人はスタジアムにはいないようだ!安心して探知に望むのである!』
いい知らせだ、心置きなく集中しよう。
第六感を研ぎ澄まし、世界に意識を溶け込ませる。視覚ではなく音を拾う、僕にはどちらかというとそちらの方がイメージしやすい。
聞こえる、戦いの高揚と絶対に守るとの心の叫びが、街中の嘆きと悲しみの声が、逃げ遅れた人はいないか必死に探すオヤジ達の焦りが、モニターに映る戦いを見守る人々の願いと恐怖が。
そして捉えた、とても小さいようで大きい叫びだ。失った何かを必死で求める音なき叫び声、ラテラルタウンでウカッツさんが使っていた装置によく似た感覚、あの時よりずっと大きくて強い呼び声が。
「近い………すごく近くにある?」
感じた違和感に従って、天幕の上を歩く。天幕の中心にその違和感の元があった。
目には見えない、だが間違いなくここにある。空間を歪ませて隠している?
中に衝撃を与えない様に慎重に“あくうせつだん“で空間を切り裂く。
見付けた!!やはりラテラルタウンで見た装置と似ている!!だが大きさはあの時の比べ物にならないぐらい大きい!!
『みんな!!装置を見付けた!!スタジアムの天幕の上だ!!くまきちはマグノリア博士を連れて来てくれ!!』
『よくやったユーリよ!!我らもそちらに向かう!!』
『お願いします、くまきち。ユーリ、今そちらに向かいます』
『べあ!!』
『みんな聞こえたか!?ユーリが装置を見つけてくれた!!もう少し持ちこたえるんだ!!』
『流石だぞユーリ!!こっちはみんな無事だ!!』
みんなの思念が聞こえてくる、みんなは無事な様で一安心だ。後はマグノリア博士がこの装置を上手く操作できれば…………
「ユーリ」
静かな声だった、だけど僕の耳にはよく響いた。
驚いて後ろを振り返る、そこにはミカンが立っていた。
「ユーリ」
ミカンがもう一度僕の名前を呼んだ。ミカンは仮面もアーマーも着けていない、
真っ白なワンピースが身を包み、長い髪は風に揺れている。アサギシティの灯台が脳裏に浮かんだ、潮風の匂いが蘇る。
「ユーリ」
久しぶりに見たミカンの素顔は、僕の記憶よりずっと大人びていた。身長は昔から僕より高かったが、スラリと伸びた手足が記憶の中のミカンとはまるで別人の様に錯覚させる。
「ユーリ」
ミカンがこちらに向かって歩いて来る、胸には見慣れない輝きを放つペンダントが光り、僕の目にキラキラと瞬きを放つ。
「ユーリ」
「ミカン」
僕もミカンに向かって歩き出す。ようやく会えた彼女の姿を見て、胸に一杯の感情が溢れ出して来る。
「ユーリ」
「ミカン」
向き合って、お互いの名前を呼ぶ。ミカンは笑顔で泣いていた、僕の瞳からも涙が流れるのを頬に感じる。
「ユーリ」
「ミカン」
僕らは互いに呼び合う。互いを見詰めて、目を離さない。
僕は目の前のミカンだけを見ている。他の物を瞳に映したりは出来ない。
僕はミカンを見詰めている、ミカンは僕を見詰めている。
遠くで竜の雄叫びが聴こえた気がした。