「今だザシアン!!“きょじゅうざん“!!」
「合わせるぞザマゼンタ!!“きょじゅうだん“!!」
ホップと兄さんが指示した聞いた事もない技はムゲンダイナに確かなダメージを与えている。
タイプの相性ではない、技自体の特性か?ダイマックスした相手への特別な威力を発揮しているように思える。
私がラビの“マッドショット“と“ダイアース“を使い分けてホップと兄さんの為に隙を作り、マリィのオーロンゲがドラゴンタイプの技を身を呈して受けている。マリィの負担が大きいがこのままなら勝利できる。
「やはりムゲンダイナは“ドラゴン“と“どく“の複合タイプ!!いくら強大でもタイプ相性は存在する!!キバナ!!“ドラゴン“タイプの技を中心に攻めるぞ!!」
「ははあ!!ドラゴン使いの腕の見せ所だなあ!!いくぜ!!竜よ咆えろ!!」
ダンデさんとキバナさんも問題なさそうだ、蒼い力でキョダイマックスしたジュラルドンの“キョダイゲンスイ“は確かなダメージを与えている。ダンデさんのドラパルトが高速の動きでそれをサポートしている。
「ドラゴン退治は私の得意分野さ!!ラプラス!!“キョダイセンリツ“!!」
「私のサイキックパワーを世界にお見せしましょう!!ヤドキング!!“ダイサイコ“ですよ!!」
メロンさんとセイボリーさん達も何とか押しているようだ。マクワさんとクララさんがサポートして、カバーしきれない隙を他のジムリーダー達も補っている。
「ダイマックスには慣れてねえんだがな!!レッド!!足を引っ張るんじゃねえぞ!!」
「………カメックス、“ダイアイス“」
レッドさんとグリーンさんもダイマックスを十分に使いこなしている、あの二人も問題はない。
勝てる!4匹のムゲンダイナ相手にそれぞれ優勢だ!幻影ポケモン達の数も半分以下に減っている!勝利が見えてきた!私達はブラックナイトを乗り越えられる!
「おかしいぞ!?スタジアムが消えた!?ユーリ達はどこへ行ったんだ!?」
ホップの驚きの声にモニターへと目を向ける、信じ難い光景が映っていた。
スタジアムは確かに無くなっている。歪んだ光がスタジアムのあった場所を覆い尽くしている。半透明の光の先には何も無い、中から何かが崩れる様な破壊音だけが聞こえてくる。
「そんな!?ユーリ君達は!?」
まさかあの中に?あの現象は一体何なんだ?ユーリ君達は無事なのか?中で一体何が起きている?
「大丈夫ですよユウリちゃん、あれはユーリ君自身が作り出した超能力による空間です。実に美しい力だ」
突如後ろから声が聞こえた。私はこの声を知っている、旅の途中で何度も聞いた静かな声音だ。
「い、イツキさん?」
ユーリ君が無事!?それは本当か?同じ超能力者のイツキさんなら…………いや!!違う!?
「ええ、ユウリちゃん、お久しぶりですね。また一段と強くなったようでボクは嬉しいです」
まずい!?イツキさんは敵だ!!グリーンさんがローズ委員長と繋がっていたと叫んでいた!!私達を始末しに来たのか!?
「再会を喜びたい所ですがボクにもやる事がありましてね、応援してますよユウリちゃん。ぜひムゲンダイナを捕獲してください」
イツキさんはそう言って私の前から消える。“テレポート“?なんで妨害してこない?やる事って一体何を?
戦闘の指示は止めないままに周囲を探す、あの人のやる事が私達の助けであるはずが無い。
「イツキ!よく俺達の前に顔を出せたな!何を企んでいたのか吐いてもらうぜ!」
「………話を聞かせてもらう」
居た!レッドさんとグリーンさんの所だ!私よりも高い戦力である二人を妨害するつもりだ!
「まったく、アクロマ共は自信満々でしたが結局ユーリ君と接触する前に負けそうになるとはね。所詮人に使われていないポケモンなどこんなものですか、道具は正しく使われてこそ真価を発揮する」
「随分と余裕だな!お前を逃さない為の対策を俺達が用意して無いとでも思ったか!?」
「………ミュウツー」
レッドさんとグリーンさんがミュウツーを同時に繰り出す。
次の瞬間に3人を紫の半透明の力場が包む。テレポートを防ぐ為の超能力?対抗策を用意しているなら大丈夫だ。
「逃げたりしませんよ、貴方達を放置すると事態を解決してしまいますからね。それに対策をしているのが貴方達だけだとでも?」
イツキさんがボールを繰り出した、中から出て来たのはアーマーを纏った人に近い姿のポケモン。
あのポケモンは何?アーマーから覗く尻尾がミュウツーと同じ?まさか中身は一緒?
「テメエ!!そのミュウツーは何だ!!まさか新しく生み出したのか!?」
やっぱりあれもミュウツー?アーマーを付けたミュウツーだ。
しかし、生み出した?…ミュウツーは人造のポケモン?そんな事をする人がいるのか?
「いえいえ、こいつはオリジナルですよ。コピー品のオリジナルと言うのもややこしい話ですね。フジ博士が生み出したオリジナルミュウツーです。貴方達のミュウツーはさしずめコピーのコピーですか………ふふ、道具らしくて素敵な響きです」
「………取り消せ!!」
ポケモンをコピーする?道具として使うためにコピーした?なんて酷い事を……そんな事の為にポケモンを生み出すの?
「おや、怒りましたかレッドさん?事実を言っただけですよ?さて、力場を形成したのは悪手でしたね、今のボク達は超能力的に見ればひとつの対象となっています」
突如スタジアムの方から何かが割れる様な音が響く、甲高い音がここまで直接に届いた。
突如として消えていたスタジアムが再び出現した、聞こえてきた破壊音などなかったかの様に消える前と同じ姿だ。さらにスタジアムの上空に人影を見つける。
「ユーリ君!?」
モニターには、アクロマと呼ばれた男を超能力で浮かせたユーリ君が映っていた。自身も飛んで私達の方角を見ている。
超能力を使ってアクロマを倒したの?ピクリとも動かない彼は生きているのか?
そして何より、ユーリ君は立ち上がったのか?レックスと私達が信じたユーリ君は戻って来たのか?
おかしい、あれは本当にユーリ君なのか?どうしようもない違和感がある、あれをユーリ君だとは思えない。
今のユーリ君が笑っているはずがない、ミカンさんを失ったユーリ君が笑っているなんてあり得ない。一体彼に何があったのか、消えていたスタジアムの中で何があった?
「ちょうどいいですね、ユーリ君はこちらにやって来るでしょう。変わりにボク達がスタジアムを使わせてもらいますか、奴らによく見えるようにね」
「待て!!イツキ!!」
「………みんな!!」
叫び声を残して3人は力場ごとその場から消えた。
行き先は………居た!やはりスタジアム!スタジアムの中央て対峙する彼等がモニターに映っている。
さらに、先程の力場が広がってスタジアム全体を覆っている、半透明の紫のフィールドは侵入者を拒む様に展開されている。
ムゲンダイナを抑えていたレッドさんとグリーンさんがいなくなった、このままでは戦線が崩壊してしまう!
『不味い!!レッドとグリーンが敵に飛ばされた!!ムゲンダイナがそちらへ行くぞ!!逃げるんだ!!』
ダンデさんの焦りが混じった思念が戦場に響く、街の入口付近で戦っているトレーナー達に向かって大声で叫んでいる。
レッドとグリーンさんが抑えていたムゲンダイナがシュートシティの入口へと勢いを付けて飛び出した。幻影と戦っている大勢のトレーナー達を押し潰すつもりだ。私は心の底から叫ぶ。
『逃げて!!みんな!!』
ムゲンダイナが速度を上げる!!巨体はどんと加速して勢いを増して行く!!ダメ!!間に合わない!?
「危ないよ、そんな速度で飛び出しちゃ駄目だよ」
静かで、どこか楽しそうな声が聞こえた。戦場の空気が一瞬止まる。
他の3匹のムゲンダイナ達も攻撃の手を止めてそちらに注意を向けている、その場のトレーナー達が揃ってそちらを見る。あまりにも強大なOPの気配を感じたからだ。
衝突した音もなく、先程の巨体が出した速度の慣性をまるで感じさせずにムゲンダイナは静止していた。
その身体は青と赤のオーラで拘束されていた、巨体なムゲンダイナをすっぽりと覆ってしまうほどの大量のオーラに包まれている。
「かわいそうだけど少し痛くするよ、悪い事をしたんだから我慢してね」
オーラの主はユーリ君だった、サイズの全く違う手の平同士を合わせる様に片手でムゲンダイナを静止させていた。
「何だかじゃんけんしてるみたいだね、あいこだからもう一回かな?」
ユーリ君の声に敵意が感じられない、まるで人懐っこい野生のポケモンに語りかける様な優しい口調だ。
「グーを出すよ、踏ん張ってね」
ユーリ君が拳を軽く振りかぶってムゲンダイナへと振りかざす、腰の入っていない軽いパンチだ。
次の瞬間轟音が響いた、ムゲンダイナの巨体が一瞬見失う程の速度で吹っ飛んで行く。
メロンさん達の戦っていたムゲンダイナと物凄い勢いでぶつかって数十メートル上空までもつれ合って吹き飛び、何とか体制を立て直した。
「重いね、やっぱり大きさはパワーだ。いい感じだよ」
ムゲンダイナ達との戦闘は完全に止まっている、ムゲンダイナ達の敵意は完全にユーリ君に移った。突如現れた新たな脅威へと戦闘の意識を移している。
の意識を移している。
ムゲンダイナ達は上空へとその身を移す、4匹並んでエネルギーを貯める体制を取った。赤いガラル粒子の奔流が上空へと昇って行く。
『ユーリ君!!ムゲンダイナ達は赤い光を放つつもりだ!!遠距離から君を狙っている!!』
ダンデさんの思念が響く、先程レックスが防いでくれなかったら私達が全滅していたかもしれない恐ろしい攻撃だ。それをユーリ君一人に収束させて放つつもりだ。
『大丈夫ですダンデさん、僕もどちらかといえば特殊寄りですよ。遠距離攻撃は得意です』
軽い調子でユーリ君は思念を返す、まるでこのゲームは得意だとでも言うような気軽な返答だ。
ユーリ君が両手を前に突き出して丸いエネルギー弾を形成する、赤と青のオーラが続々と弾へと込められていく。
『来るぞ!!ユーリ君!!』
上空で赤い光が放たれた、4つの光が一条の線となってユーリ君に向かって降り注ぐ。
「“サイコブースト“」
ユーリ君が静かに技の名前を呟き、エネルギー弾が赤い光の線へと放たれて中空で激突する。
「きゃあ!?」
「うぉ!?」
「くっ!?」
物凄いエネルギー同士の激突の余波が、空気を伝わる衝撃波となって私達に届く。
光の線とエネルギー弾は空中で拮抗を続けている………いや!!少しだけエネルギー弾の方が弱い!?ほんの僅かにだが地上へと押されている!!
「難しいな、あんまり強すぎると必要以上に傷付けちゃうしね。もう2つぐらいかな?」
ユーリ君はのんびりと呟く。両手に先程と同じ規模のエネルギー弾を形成し追加で空に放った。
衝突にエネルギー弾が合流すると、みるみるうちに上空へとエネルギー奔流が昇って行く。驚く暇もなくムゲンダイナ達に到達してエネルギー弾が爆発音を響かせる。
爆発の中からムゲンダイナ達が落ちて来る、巨体を力なく伸ばしたままに私達の頭上へと落ちて来る。
「危ないなあ………“くさむすび“と………“ジオコントロール“」
七色の光が大地から溢れ出し、巨大な植物の蔓がムゲンダイナ達に殺到して受け止める。
巨大な蔓に飲み込まれたムゲンダイナ達はまるで巨木に飲み込まれた様だ。
身体をバタつかせるが抜け出せる様子は無い、完全に拘束されている。
「うーん、“くさむすび“どころか木遁だね。共感してくれる人が居ないのが残念だ」
ユーリ君は意味の分からない事をつぶやき、幻影ポケモン達の方に目を向けた。
「じゃあ次はそっちだね。幻影なら手加減は必要ない、“サウザンアロー“」
ユーリ君の指先から緑の光の矢が無数に放たれた。空中を覆い尽くす程の光の矢は空中で軌道を変えて、地上の幻影ポケモン達を次々と撃ち抜いてゆく。
あっと言う間のできごとだった。あれ程苦戦したムゲンダイナと幻影達ががまたたく間に撃破された、ユーリ君1人の力でそれが成された。
本来なら喜びの声をあげるべきだ、勝利の雄叫びをあげて脅威が去ったのを喜ぶべき場面だ。
なのに誰も声を出さないし私も声を出せない、戦場は完全な沈黙に包まれていた。言い様の無い不安を誰もが感じているのだ、ユーリ君の不自然な明るさに誰もが違和感を覚えているのだ。
『ユーリ君!!よくやってくれた!!だが聞きたい事がある!!こちらに来てくれないか!?』
ダンデさんがユーリ君に声をかける、私達の疑問を代弁するつもりだろう。
『ダンデさん、もう少し待ってください。ブラックナイトはまだ終わっていません』
確かに暗闇の雲は晴れていない、ムゲンダイナ達はまだ蔓の中でもがいている。
『ああ!!ムゲンダイナ達を捕獲してブラックナイトを終わらせる!!彼等もローズ委員長の企みの被害者だ!!彼等を恨んではいけない!!』
ダンデさんの言葉に私は同意できる。だが、ユーリ君にそれは失っていない者の綺麗事に聞こえているかもしれない。今のユーリ君の心の内は怒りで満ちているのではないか?
『ええ、僕も捕獲に賛成です。宇宙から来たムゲンダイナ達は己の意思を伝える手段が分からない、トレーナーが方法を教えてあげましょう』
『分かってくれて嬉しいよ!!ユーリ君、まずはムゲンダイナ達を………』
『僕の用事が終わったらそうしましょう、まずはムゲンダイナ達に真の姿になって貰わなくちゃ駄目なんです』
「ユーリ君?」
ムゲンダイナの真の姿?用事とは何だ?
『待ってくれユーリ君!!君は何をするつもりだ!?』
『みんなもモニターで見てたでしょう?ミカンが消えちゃったんです、僕の中に』
右手に感触を感じた、いつの間にか隣まで来ていたマリィが私の手を握っていた。泣き出しそうな表情でユーリ君を見ている、私はマリィの手を優しく握り返す。
『それを元に戻します、僕とキラでそれを願って叶えるんです。だけどそれには物凄い量のエネルギーが必要なので、ムゲンダイナ達に協力してもらうんですよ』
『それは!!……………そんな事が本当に可能なのか!?ユーリ君!!君は自分を見失ってはいないか!?』
ダンデさんの悲痛な思念が響く、誰もが思って言い出せない事を真っ直ぐユーリ君に伝えた。ダンデさんはユーリ君から目を背けたりしていない。
『ええ、可能ですよ。さっきもスタジアムを壊して元に戻しました。僕の力を使えば戻せない物なんてありません、僕の力はあらゆる願いを叶える事ができます』
そう言い切るユーリ君に、ローズ委員長の演説の様子が重なる。自分を信じきる危うい信念がそこにはあった。
止めなくてはいけない、今のユーリ君は正気ではない。明らかに正しさを見失っている、危うい狂気に心を囚われている。
レックスとの約束を果たさなくては。ただユーリ君を信じるだけではいけない、間違った力の使い方を止めてくれとも彼は言っていた。
それが、ユーリ君の友達でライバルである私達の役目。隣のマリィを見るとマリィも私を見ていた。ホップも兄さんも私を見ている。
みんな同じ気持ちだ、ユーリ君を止めてなくてはいけない。ユーリ君はまだ立ち上がっていない、真の意味でユーリ君が立ち上がるのを信じて彼を止めなくてはいけない。
ふと、疑問に思う。私達に力を貸していた為に動けなかったレックスが何故ユーリに声をかけないのか?既に危機は去ったはずなのに何故沈黙しているのか?
上空に目を向ける、つられてホップ達も視線を移す。レックスは最初と変わらない位置で蒼い光を放っている。
もうダイマックスしているポケモンはいない。なのに未だに力を与えるのを止めていない?一体何に力を送っている?
『ユーリ君!!君の望みは分かった!!だが、ムゲンダイナをよく理解せずに利用するのは危険だ!!まず事態を収束させてから手段を模索しよう!!マグノリア博士も!!もちろん俺も全力で協力する!!あらゆる伝手を使って必ず安全な方法を見つけ出す!!だからこの場は引いてくれ!!お願いだユーリ君!!』
ダンデさんの必死の説得、思念はただ言葉を運ぶだけではない。付随する感情までを思いの丈に応じて相手に届けている。しかし恐らくユーリ君は………
『安心してくださいダンデさん、大丈夫です。僕を信じてください』
『ユーリ君………』
ダンデさんが噛みしめる様に名を呟く、自身の言葉が通じないのを悟ってしまった。
届かない、ダンデさんの想いだけではユーリ君の決意を翻せない。ミカンさんを失った悲しみを埋めてあげるには足りないのだ。
『ユーリ君!!!』
私はあらん限りの想いを込めて、ユーリ君の名前を呼んだ。必死な呼びかけにユーリ君がこっちを向いた。
私達4人の想いをユーリ君に伝えるのだ!!ここで彼を止めないと私達の知るユーリ君が二度と帰って来ない気がする。
『そこまでだ!!子供達よ!!まずは私が小僧に話をする!!お前たちはその後だ!!』
突然場に見知らぬ思念が響いた、全く聞き覚えのない大きな思念が私達へと届く。
その正体は人間ではなかった、巨人の様な姿をした黒いポケモンが上空から勢い良く降り立った。黒い身体の所々に緑色の輝きをを放ち、翼のような部分には赤と青も覗かせている。
「もしかしてジガルデ?なんでガラル地方に?」
ユーリ君の知り合いか?見ただけで凄まじい力を持っているのが感じられる。間違いなく伝承災害級の伝説のポケモン。
もしかすると、ムゲンダイナ達以上の力を持っているかもしれない。
『貴様のせいだ小僧!!お前は今から因果を歪めんとしている!!アルセウスの警告を忘れたのか!!』
因果?アルセウス?意味の分からない話をされても困る、私達の決意を挫かないでほしい。
「忘れてないよ、歪めるとより強大になって返って来るんだろう?それも跳ね除ければ何も無いのと一緒さ、問題はないよ」
『やはり理解しておらんな!!そういう問題では無いのだ!!歪めれば必ずアルセウスが介入してくる!!今度は警告ではすまない!!奴はお前を殺すつもりだぞ!!』
ユーリ君を殺す?アルセウスとは誰だ?ポケモンのようだけどそれ程の力を持っているのか?
「まあしょうがないよね、アルセウスは神だからね。立場上仕方ないでしょ」
神………本当にそんなポケモンが存在するのか?
『そうだ!!だからその望みは止めろ!!変わりにまずは星の子を……』
「止めませんよ、僕は望みを止めません。僕は必ず願いを叶えます」
『聞け!!因果を歪めるのは許容できん!!そのためにも………』
「無駄だよ、僕は説得なんかされない。ミカンは必ず取り戻す」
『ふざけるな!!人の話を聞け!!』
「ふざけてないよ、それにジガルデは人じゃなくてポケモンだよ」
『なんでいちいち揚げ足を取るんだお前は!!!私が何のためにガラルまで来たと思っている!!!遥々カロスから誰のためにここまで来たと思っているのだ!!!』
「僕を止めるためでしょう?100%になってまでさ、あんなに頼んでも見せてくれなかったのに」
なんか駄目だな、ユーリ君とこのポケモンは相性が悪いというか噛み合わないというかべきか。
『駄目だな、やはり貴様は痛い目をみないと理解できんようだ。己の力への信仰を捨てきれていない』
「やる気なの?いいよ、その姿のジガルデとなら僕はさらに強くなれる」
ユーリ君とジガルデは完全に戦闘態勢に入った、そんな事をしている場合ではないと思うけど。私達に彼等を止める力はない。勝負が収まるのを待つしかない。
「物理的に弱った方が説得も効果的かな?」
「うーん、何かそれは卑怯じゃない?」
「いや………狙った相手を弱らせるのはトレーナーの基本だぞ」
「そ、それが有効なら仕方なかね」
ほんの少しだけ私達の空気が弛緩した、ユーリ君にもジガルデと呼ばれたポケモンにも殺意は見られない。
会話こそ物騒だが今から始まるのは決闘というよりは喧嘩に近い物だと思う。対等な喧嘩相手とぶつかればユーリ君の頭が少しだけ冷えるかもしれない。
そんな呑気な事を考えてしまった私達を赤い光が照らした、ガラル粒子が産声をあげる様に瞬き始めた。
ブラックナイトはまだ終わらない、夜明けが何時になるのか分からない。