自分はかつて主人公だった   作:定道

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 主人公うじうじの集大成 前編です


33話 変われるかなぁ!?オレ変われるかなあ!?

 千年に一度、7日間だけ見る事の出来る“千年彗星“が観測されて世間を騒がせた日の夕方。アサギシティのとある病院で僕はこの世に生を受けた。

 待合室の中、目の前では出産中の母さんを想って父さんが祈っている。

 これが過去の光景、大地に刻まれた記録。僕はそこを自由に歩き回って見ることが出来るようだ、実に不思議な光景だ。

 

 ところで、自分が母親のお腹の中に居た時の記憶がある幼児の話を聞いた事があるだろうか?胎内記憶というやつだ。

 残念ながら僕には無い、僕の一番始まりの記憶は熱にうなされている暗闇の中だ。

 5歳の頃に、父さんと母さんがお前は産まれてすぐに高熱を出して命の危機があった、ここまで健康に育ってくれてありがとうと抱きしめてくれたから勘違いではないと思っていた。

 

 その光景を客観的に見る機会があるとは思っていなかった。出産が終わり、ガラス越しの保育器の中にはチューブに繋がれている僕が居た。

 予定より早めに産まれてしまった僕は身体が十分に育っていなかったらしく母さんが直接抱ける様な状態ではなかった。

 

 横で若い頃の父さんがその様子を見詰めている。母さんに付き添って病院に来てから既に1日以上が経過しているはずだが、家にも帰らず食事も取らず父さんは一睡もせずに僕を見詰めていた。

 更に日付が変わる深夜になり、突然僕が光り出した。父さんはその光景に目を見開いて驚いていた。

 

 キラキラと光る僕の上にいつの間にかポケモンが出現していた。ジラーチのキラだ、本当に産まれて直ぐに現れたのだと感心してしまった。

 その後は大騒ぎだった。看護士さんが来て謎のポケモンに驚き、僕の状態が安定した事に更に驚き、担当の先生を連れて来てあたふたしていた。

 そして更に数日が経ち、僕はようやく母さんの胸に抱かれてふにゃふにゃとぐずっていた。その上をキラが光って浮いている、ニコニコと笑顔で楽しそうだ。

 

 この時記憶は少しだけある。熱が引いたと思ったらキラキラ光る眩しい何かがお願いをしていた、内容は分からないが強い感情が伝わり、あんまりにも真剣にお願いしてるので僕はそれを叶えてやりたいと思っていた。

 新生児の視界は狭く1日の殆どを寝て過ごしていたので、僕は夢を見ているつもりだった。自分が赤ん坊になった変な夢を見ているのだと勘違いしていた。

 

 それが夢じゃないのかもと自覚しだしたのは、ベビーベッドでナマケロのケロちゃんを認識した時だったはずだ。

 僕の目の前のベッドの中で赤ん坊の僕が不思議そうにケロちゃんをペタペタ触っている。それを父さんと母さんが笑顔で眺めており、キラは相変わらず僕の上をキラキラと浮いている。

 

 僕は父さんと母さんに祝福されて産まれて来た、それをこの目で見れたのは嬉しい。

 キラにも感謝しなくてはいけない、多分僕を助けてくれたのはキラだ。キラがいなければ今の僕はなかっただろう、彼はやはり命の恩人だった。

 

 光景が移り変わる。僕が半年ぐらいまで成長して、ミカンと初めて出合った場面だ。

 同じジムで働く夫を持ち、同じ年頃の子供も持つ母親同士が仲良くなるのは自然な流れだったのだろう。ミカンの方が半年程早く産まれていたので母さんはミカンのお母さんに色々教えて貰っていた、僕の家までやって来ておすすめの離乳食を並べて話し込んでいる。

 当時のミカンは僕には目もくれずにキラキラ飛び回るキラに大喜びだ、僕はそれをぼんやりと見つめている、僕には寝返りぐらいしか身体を動かす術がない。

 

 この頃には既に前世の記憶はあったが、僕がまったく泣かない赤ん坊だとか、急に天上天下唯我独尊と叫ぶ事もなかった。

 コミュニケーション手段は笑顔と泣くことだ。お漏らしをすれば泣き、お腹が空けば大泣き、寂しければギャン泣きしていた。

 記憶があろうと溢れてくる赤ん坊としての衝動には耐えられなかった、そもそも舌ったらずのお口がそんなに回るはずがない。

 詳細な自分自身の記憶を持っていなかったのもあって、感情のままに普通の赤ん坊として過ごしていた。

 

 異常性を発揮しだしたのは2歳頃で、あの辺りから自我という物が確立された気がする。更に自身のサイコパワーもぼんやりと認識し始めていた。

 なので滅多に泣かなくなり、わがままも言わず、聞き分けの良い利発な子供………自分ではそう思っていた。

 

 目の前で僕が母さんに叱られて泣きべそをかいている、超能力で自分を浮かすのを禁止されていたのに練習しているのを見つかったからだ。

 母さんは僕が家の中で一人で超能力を使うのを禁止し、当時は少年と言っても良い年齢のイツキさんの指導を受けて許可が出た種類の超能力のみ使用を許された。その決まり事を何度も破る僕は利発とは程遠い。

 自分の認識と違い、割と普通に2歳児をやっているのを客観的に突き付けられてショックを受ける。母親に叱られる普通の2歳児からは溢れ出る知性など感じ取れなかった。

 

 母さんは僕を叱る度に、超能力に関する決まり事を破ってはいけない、超能力は誰かを助ける為に使ってあげなさいと言っていた。

 母さん自身もクラス1の超能力者で軽度のテレパスを使える、父さんと結婚するまではそれを活かしてポケモンセンターで働いていた。

 ポケモンに触る事で表層の思考を読み取り、ポケモンの目に見えないケガや身体の内部の痛む箇所を聞き取るのにテレパスを使う評判のジョーイさんだったと父さんが証言していた。

 

 母さんの教えは僕の中に確かに根付いている。叱った後に母さんが優しく撫でてくれる手の平からは温かい思念が伝わって来て、その感触が僕は大好きだった。

 あれこそがテレパスの正しい使い方だ。誰かに届けるべきは感謝や親愛の気持ち、嘘偽りのない想いは人を正しく育んでくれる。

 

 そして僕が4歳の頃に光景が移り変わる、ちょうどユウキが産まれた頃の光景だ。母さんが出産の為に病院に行き、僕はミカンの家に預けられていた。

 幼い僕はミカンに兄になる事を自慢している、かなりの浮かれ具合だ。キラもミカンも楽しみなのか一緒になって喜んでいた。ミカンのお母さんに叱られるまで2人と一匹で家の中を駆け回っていた。

 

 そして場面が移り思いだす、母さんに抱かれたユウキと対面した時に僕は初めて知識について深く考えを巡らしたのだ。

 父さんと母さんに弟に優しくしてあげてねと、言われている僕は何かを真剣に考え込んでいる。

 ようやく自身の環境と知識の共通点に気が付いたのだ、ユウキが本当に主人公である可能性に、世界が知識通りに危機に晒される可能性に思いが至った。

 ポケモンの名前と技の名前を覚える以上に役に立てていなかった、前世の知識についてを始めて真剣に考えた。

 

 これはいけないと思った、可愛い弟が環境テロリスト共と戦ったり、マグマや海底に潜ったり、レックウザに乗って宇宙に言って隕石や宇宙ポケモンと戦う羽目になるかもしれない事に衝撃を受けたのだ。

 父さんの運転する車で病院から帰る途中も、父さんとポケモン達と一緒に夕飯を食べている時も、就寝時のベッドの中でも、その事についてウンウンと悩んだ僕は結論出した。

 

 キラと一緒に家を抜け出して真夜中のアサギシティを飛んで行く、港まで到着した僕はキラの手を取って願い事を始めた。

 ユウキの変わりに隕石を砕く力が欲しい、ユウキの危険を全て跳ね除ける力が欲しいと願った。

 

 キラが夜のアサギシティを全て照らす程に輝き、第三の目が開く。そして僕の身体も輝きに包まれた。

 願い事は叶えられたのだ、僕の力を求める願い事は不足なく実現された。

 自身の超能力が大幅に強化された事に喜んだ僕はキラと一緒に宇宙へと飛んで行った、当時はこっそり飛んだつもりだったが物凄い音を立てていた、衝撃が港の一部を崩壊させている。アサギシティ全体は大騒ぎで港にはパトカーが続々と集まっていた。

 

 場面が空へと飛んで行く、客観的に見ると僕が直接隕石まで飛んで行ったのではなく、隕石の方が宇宙空間に突如出現していた。のが分かる。

 アルセウスの言った歪みとはこれを指していたのだろう。予定より早く隕石が来たのではなく僕が隕石を呼び寄せたというのが真実だった。そんな事に気付かない光の矢と化した僕は隕石目掛けて一直線だ。

 

 そして隕石に激突する僕とキラ、当時の僕は砕けば良いと思い破片が星に落ちる事を考慮していない。

 だが結果的に問題なかった、十分に星から離れた位置で砕かれた欠片達は星とは明後日の方向へと飛んでいく、星自体も動いているのだから一定時間留める方が安全に処理できるのかもしれない。次に活かそう。

 

 その場に残った隕石の欠片から思念が放たれている、助けを求める生き物の思念が宇宙空間で悲鳴をあげている。

 発信源は三角形の不思議な物体、生き物と鉱石の中間の様なそれは誰かに助けを求めていた。

 思念に気付いた僕はそれに応じて三角形へと手を伸ばして触れる、それが正しいテレパスの使い方だと僕は信じているからだ。

 

 自分が知りたい、自分が欲しい、自分に成りたい、支離滅裂だがひたすらに己を求める三角形の悲しみの思念に同情した僕はどうすれば良いかとキラに尋ねた。

 キラがまた輝きだす、真っ暗な宇宙空間に光が広がり三角形を持つ僕を包んだ。

 

 光が止むと、そこには三角形から伸びた触手に血を吸われている僕が居た、4本の触手が僕の右腕に絡みついている。

 傍から見ると割とショッキングな光景だ、幼い僕は未知との遭遇のワクワクで気にもしていない。

 

 そして三角形は人型のポケモンへと姿を変える、これが僕とデオキシスの始まり。名前を求めた彼に僕はオーキスというニックネームを贈った。

 自分の形を求めるオーキスに僕が血を与え、中のDNAを取り込み三角形はデオキシスと呼ばれるポケモンとなった。

 姿は僕の記憶中の知識を参考にしたらしい、オーキス本人が後にそう教えてくれたので間違いない。じゃあ三角形は何だったのかと尋ねても答えはなかった、本人も分かっていないのだろう。

 

 当時の僕にとっての問題は宇宙での出来事よりも、アサギシティに帰ってからが本番だった。

 突如街を光が包み謎の轟音が響くそれだけでも事件だったのに、僕が居なくなった事に気付いた父さんの通報も加わってアサギシティは大騒ぎだった。

 ロケット団が兵器を使った、更に子供を誘拐したとの情報が街を錯綜してその日の夜は街にパトカーのサイレンが遅くまで響いていた。

 

 予想以上に大事になって怯えた僕は、コソコソと誰にも見つからない様に家へと帰った。

 家で警官と共にいた父さんは、自分で帰って来た僕を見つけると強く抱きしめて来た。僕が自分で抜け出した事を白状すると叱りはしたが怒気は見られない、安堵の気持ちの方が強かったのだろう。

 そして光と音も僕の仕業だと知ると頭を抱え、オーキスがドアから部屋に入って来ると叫び声をあげた。警官達も驚いて拳銃を構えていた。僕はそれを懸命に静止している。

 

 隕石を砕きに宇宙に行ったとは流石に言わなかった。更に心配をかける不味いとも思ったし、そもそもいきなり超能力が強化されて隕石を砕きに行ってましたなんです子どもの戯言にしかならない。

 だから光と音はオーキスを捕まえる為にバトルした余波だと嘘を付いた、戦闘中にオーキスとテレパスを通じて仲良くなったので連れて帰ったと説明した。

 

 オーキスを警察に預けようと言う父さんに僕は駄々をこねた、転がり回って泣き喚き、捕まりそうになると空に逃げ出して父さんと警官達が諦めるまで粘りまくった。客観的に見せられると目を覆いたくなる光景だ。

 結局父さんはその場は折れた、分かったから降りて来なさいと空中で駄々をこねる僕に敗北を宣言した。

 

 未確認の強力なポケモンであるオーキスと一緒に家で暮らせるようにするのに父さんはかなり苦労していた、昔の伝手とジムトレーナーとしての実績を最大限に活かして何とかリーグから許可を得られた事を知ったのは、電話で話しているのをこっそりと盗み聞いたからだ。

 

 そして、オーキスとの生活が始まると僕の超能力は更に強大な物へと変化していった。オーキスと一緒に暮らす内に、互いのサイコパワーが共鳴し合ってどんどん力が増していった。同一のDNAを持つ者同士だからこその現象だとオーキスは教えてくれた。

 僕とオーキスはある意味同一人物で、互いにもう一人の自分だとも言っていた。もう一人の僕な割にはオーキスの方が明らかに賢かったが、当時の僕は色々教えてくれて便利だというぐらいの認識だった。

 

 それは浅い認識だった。僕がオーキスと暮らし始めて2日目の夜、自分の部屋のベッドで気持ち良さそうに眠る僕の横でキラとオーキスが語り合う光景を見て、自身の考えの浅さを痛感した。

 オーキスは僕が前世の記憶だと思っていた物を僕以上に理解していた。僕と共鳴する事で本人よりも深く記憶を読み取り、それが引き起こす問題に悩んでいた。

 

 僕が前世だと思っていた物は薄々は感じていたが前世ではなかった。あれは強い超能力を制御する為の知識に過ぎず、魂の輪廻など僕は経験していない。

 知識とはこの世界をゲームを模した物とだと認識する事により、一段階上の次元の捉え方で世界の根源を認識する為の物。

 ゲームの情報やそれをプレイしていた記憶はあくまで付属物に過ぎない、だからこそ個人の知識はあやふやで不明瞭なのだ。ポケモンをプレイした事がある誰かという点が重要で、それ以外にあまり意味は無い、誰でもよく視点は多い方が望ましい。

 だから遠い次元の違う世界、十数人の男女の記憶を知識として産まれたばかりの僕へと与えた。超能力の制御方法を授ける為に。

 

 オーキスが思念でそう語って確認するのをキラは眠そうに聞いて頷き、多分あっていると投げやりな思念で返事をした。

 そして、何故知識を与えたとの疑問にはパパとママがそうお願いしたからと答えた。

 なぜ願いを叶えてもキラは千年の眠りにつかないのかという疑問には、良く分からないけどユーリが願ってくれたからだと返答した。そして会話に飽きたのか僕のベッドにダイブして眠りに付いた。

 オーキスは真面目なのでその事実について一晩中悩み、次の日には僕に隠れて父さんに包み隠さず相談していた。

 

 父さんがオーキスと共に暮らすのをリーグに認めさせる様に尽力したのはそれが大きな要因だったようだ。

 いずればれてしまうなら超能力が増した事をこちらから報告し、一緒にいる事で更に強力になり、引き離すと超能力の制御に問題が出ると報告しようとオーキスが提案していた。

 

 オーキスと一緒に暮らせる様にしてくれる父さんはやっぱり凄いとご満悦な4歳の僕は本当に阿呆な子供だった。弟と新しいポケモンの家族が出来た事に浮かれ、超能力が更に強くなった理由も深く考えずに喜んでいた。

 

 元々産まれたばかりの自分を蝕む程には強い超能力者として産まれた僕の命を、父さんと母さんの願いに答えたキラが繋いだ。力の制御方法を与えるという形で。

 そしてユウキに降りかかるであろう危険を打ち破りたいと願った僕に更に力を与えた、今度は超能力を強化するという形で。

 隕石に付着してた三角形に血とDNAを与えてオーキスへと変化させた僕は彼とサイコパワーを共鳴させた、それは僕の超能力を更に強く育む事となった。

 

 それが僕の力の正体、無敵の超能力は自分の力ではなかった。無邪気で愚かだった幼い僕に運よく与えられた物、貰い物の力を僕は得意気に見せびらかして使っていたのだ。

 

 それは今も変わっていない、貰った物を身勝手に失って自分勝手に取り戻そうとした。その結果がミカンを失う事に繋がったのかもしれない、自分の旅よりミカンに目を向けるべきだった。

 結局元に戻れたのも貰ったおかげだ、ミカンがその身を僕に捧げて超能力は復活した。何一つ自分で成し得る事が出来ていない、しかも今度はそれをムゲンダイナとアルセウスに身勝手に振るおうとしている。

 

 やっぱり僕は駄目だレックス、許されるべきではない。過去どころか今の僕も許される様な人間ではない、力など与えてはいけない人間だ。周りの人を不幸にするだけだ。

 でも止める事はできない、ミカンが僕の為に消えるなんて間違っている。ミカンの過ちを無かった事にしてみせる。

 

 過去の光景が更に巡る、他愛もないが幸せな日常へと。

 

 ミカンと共に手を繋いでスクールへと通う僕。

 ユウキと一緒にテレビでポケカノを見る僕。

 母さんと一緒にテレパスの練習をする僕。

 父さんのジムトレーナーとしてのバトルを応援する僕。

 イツキさんにテレポートとサイコキネシスを教わる僕。

 家族みんなでエンジュシティを旅行する僕。

 キラと一緒にポロックとポフィンを作る僕。

 スクールの宿題をオーキスにやってもらっている僕。

 ヤルキモノに進化したケロちゃんと昼寝をする僕。

 まだメリープだったアカリちゃんと遊ぶ僕。

 

 瞬く様に流れて行くキラキラとした光景、全てが楽しかった頃の記憶。この頃の僕の世界には喜びと楽しみが溢れていた、悲しみや悪意とは無縁だった頃の僕の光景。

 

 そして産まれて初めて失う悲しみを知った日、ミカンのお母さんが亡くなり、夕焼けの灯台でミカンと僕が泣いていた。世界は喜びだけでは出来ていないと本当の意味で思い知った。

 

 更に光景は巡る、スクールの帰り道でミカンと共に数人に囲まれて蹴られていた少年を助けた。少年と言っても僕らより9歳年上だ。

 後にグラサンと呼ぶ事になる彼との出会いは僕とミカンを少し暴力的な世界へと誘った。家族には隠れて活動していたつもりだが何かを隠している事自体はバレバレだっただろう。

 

 黙認していたのはミカンが明るさを取り戻していったからだろう、元々の身体能力強化に加えて喧嘩殺法を習得していくミカンとそれを超能力でサポートする僕。

 ミカンが明るくなっていくのが嬉しくて僕も超鋼岩紅蓮隊の活動にのめり込んだ、粗暴だが気の良い仲間と過ごす時間は僕とミカンにとって大事な物だった。

 

 そしてもう一ヶ月でも経てば7歳となる僕に、エスパー協会からクラス7の超能力者と認定するとの知らせがやって来た。いつもと違って優れない顔付きのイツキさんと、数人の協会の人間が僕の家までやって来た。

 

 父さんと母さんと話をする彼等、固い表情のイツキさんが気になって僕はその話し合いを超能力で盗み聞いた。

 そこで僕は悪意を知った、罪悪感を持たずに人を傷つけられる人種がいる事を僕はそこで学んだ。

 

 僕とオーキスの身柄を預からせろ、家族が無事で暮らしたいなら大人しく聞き分けたほうが良い。直接の明言は避けて丁寧な物言いだったが大体そんな内容だった。

 

 結局そいつらの企みは実現しなかった。リーグからシバさんと数人がやって来て彼等と口論を交わすと彼等は退散した。僕とオーキスが連れて行かれる事も家族には危害が加えられる事もなかった。

 

 しかし、シバさんが連れて来た一人からはエスパー協会からやって来た彼等と同じ感情を僕に向けているのを感じた。僕の力を利用してやろうという悪意を孕んだ感情だ。

 そして僕は知った、自身の力が悪意を呼び寄せる事を、悪意が周囲の人間に牙を向くかもしれないと言う事を。

 

 解決方法を僕は必死に考え、チームの活動の中に答えを見出した。僕が舐められているから奴らは寄ってくる、手を出す気など起きない程に僕の強さを広めれば良いのだと。

 

 それを名案だと勘違いした愚かな僕は、父さんと母さんを一週間かけて説得し、ユウキとミカンに僕は主人公になると宣言してホウエン地方へと旅立った。当初は2日に一回は家に帰っていたが僕はポケモントレーナーとして冒険の旅に出た。

 

 最初はルネシティへと向かった、目的はもちろんグラードンとカイオーガだ。

 こっそりと海底と洞窟の残留思念をたどり“テレポート“を駆使し、2日かけてようやく彼等を見つけ出した。

 

 後にアルファとオメガと僕が名付けた2匹はかなり近い距離で共に眠っていた、お隣さんと表現出来る距離だ。2匹とも石の様に休眠した状態で佇んでいた。

 

 丁度良いと同時に力を注ぎ込んで彼等を覚醒めさす、割と力を持ってかれたが無事に“ゲンシカイキ“した彼等がそこにはいた。

 早速テレパスで呼び掛けた、僕が貴方達を目覚めさせた、悪い奴等を蹴散らす主人公になりたいから力を貸してくださいと。

 

 自分達を制御できる強さが無いと駄目、自分達の力を悪用するのも駄目、食事のリクエストには答えてくれないと駄目との答えが返ってきて少し驚いた。

 予想以上に理性的な返答だったからだ、2匹には暴れる太古の巨大怪獣の様なイメージを持っていた。

 後に本人達に聞いたが起こした人間の性質に引っ張られるらしい、アクア団やマグマ団に起こされたら天変地異を引き起こしただろうとも言っていた

 

じゃあ3日後に被害の出ない沖合いで勝負しようと約束し、その日はアサギシティの家に帰った。ずっと海底を捜索していたので母さんの手料理が食べたくなったのだ。

 

 自宅でホームシックを癒やし、3日後に約束の沖合へと到着した。アルファとオメガは既に到着して何やら思念で話をしていた。

 仲が悪いと思っていたと伝えると、何時もは互い戦う事になるので普通に話すのはこれが初めてだと言っていた。

 

 なのでしばらく皆で話をした、カイオーガとグラードンは今の人間の暮らしに興味があるようだったので僕の生活を中心に話をした。人間の技術の進歩にいたく感心していたので僕は得意気になって話をした。

 その場で3時間程話し込むと、突如何者かがこの場に接近して来る気配を感じ取った。物凄い速度で上空からやって来る、強大なOPを保有するポケモンの気配だった。

 

 上空から現れたのはレックウザだった、後に僕がデルタと名付ける彼は談笑する僕達の様子に困惑しているようだった。

 知識で彼が戦いを止めに来たのだと思い至った僕は彼、レックウザに事情を話し、貴方も力を貸してくださいとお願いした。

 

 彼は大いに悩んでいた。見てるこちらが心配になるほど悩み、たっぷり30分悩み抜いて僕に威厳たっぷりに返答して来た。

 いいだろう、ただし力を試させて貰うとかそんな答えだった。

 待たせた割には普通の答えだと思ったがそれは言わなかった、指摘するとまた悩んでしまいそうだったからだ。

 

 そしてふんわりとした空気で戦闘が始まった、緩い始まりだが戦い自体はとても激しいものとなった。

 僕が周囲に被害が出ない様に展開した特殊な“サイコフィールド“内では乱気流が荒れ狂い、日照りが水分を蒸発させたと思ったら!怒涛の豪雨が内部を満たす、この世の終わりの様な光景だった。

 

 先程穏やかに話をしていたカイオーガとグラードンは僕の事をそっちのけで戦闘を繰り広げていて、力を解放した2匹は誰かの制御下でなければ我を忘れて争い出す。レックウザはその事が分かっていたからこそ悩んでいたのだ。

 

 僕達はカイオーガとグラードンの戦いを何とか鎮めた。3匹とも力を試すとはそういう意味で言ったらしい。てっきり直接戦ってモンスターボールを投げると思っていたのだが予想を裏切られた。

 3匹同時に相手にすると覚悟していたのだか、実際にはカイオーガとグラードンの戦いをレックウザと協力して止める形の試練だった。

 

 僕の力は彼等に認められ、共に行くので名前を付けて欲しいと言われた。僕に名前を与えられ、僕のポケモンとなる事によって自分達の性質は穏やかな方向に変化するはずだとも言って。

 だから名前をつけた、カイオーガにはアルファ、グラードンにはオメガ、レックウザにはデルタのニックネームをプレゼントした。

 我ながら良いネーミングセンスだと思っていた、今でもそれは変わらない、彼等の格好良さを引き出す最高の名前だと思っている。

 

 一度に伝説のポケモンを3匹手持ちに加えた僕は、全身からウキウキを溢れさせてそのままの勢いでルネシティのジムを攻略した。

 ミクリさんから遠くの海上で物凄い力がぶつかり合うのを巫女達が察知したのだが何か知らないかと尋ねられたが笑顔で知らないと答えた。

 

 そして本格的に旅を始めた。各地方でジムバッジを集めて殿堂入りを目指しつつ、主人公に相応しいポケモン達と共に自身の力を世界に知らしめる為の旅が始まったのだ。

 

 新しい街につけばまずジムに挑んだ、キラとオーキスのOPの暴力と僕の未来視を使えば容易く攻略できた。神出鬼没の超能力少年の噂は僕の狙い通りに各地の噂となった。

 最初の内はリーグからの干渉がしつこかったが、ホウエンで殿堂入りを果たす頃には彼等は高圧的な態度を媚びる様に変化させた。

 シンオウでも殿堂入りを果たすとその態度は更に露骨になり、イッシュでも殿堂入りしてリーグに鬱陶しい真似をするなと文句を言うと勧誘はパタリと止んだ。最低限のリーグ所属の義務を果たせば何も言っては来なくなった。

 

 さらに、悪の組織の噂を聞けばそこへ赴き、テレパスで悪事の真相を突き止めて奴等の企みを阻止した。大抵はポケモン達を使わずに解決したが稀に居る強敵達にはオーキス達にも協力して貰った。面倒な後処理からは逃げて身柄と証拠だけを警察に突き出した。それを一年も続ける頃には大抵の組織は僕を見たら逃げるようになっていた。

 

 評判が広まると、エスパー協会の革新派やサイジック教団と名乗る過激な超能力者達が僕を勧誘してくる様になった。大抵はろくでもない誘いだったので正面から僕の超能力のプレッシャーを叩き込んでやった。

 相手も超能力者なので大体これで力の差を理解する。超能力の感性は普通の人よりも高い、なので下らない事を考えれば世界中どこにいてもお前を潰せると追加で脅してやれば慌てて逃げ出した。

 テレパスで強い感情を探知するのが得意な僕でも流石に世界中は無理で精々地方全体が限界だが、奴等には有効的な脅し文句だった。

 

 そして道中、困っている人やポケモンの思念を感じたらできる限り僕の超能力で助けた。主人公とはそうあるべきとの考えに基づいた幼稚な正義の味方ごっこをして回った。

 物理的な力で解決できる問題ならよかったが、人の悩みとはそんなに単純なものではない、僕の余計な介入に気分を害した人も大勢いるだろう。

 

 腕自慢のトレーナーの評判を聞いたら飛んで行ってバトルを挑んだ。そして勝利した後に相手に勝ち誇り、自分には未来が見えて勝利を捉えられると嘯いた。

 実際にはOPの流れを読む技術だがやられた相手はそれを信じていたようだった。

 

 旅をしている間も頻繁にアサギシティに帰っていた。“テレポート“に“こうそくいどう“を駆使して移動できる僕にとって距離の問題は大した障害にならなかった。

 さらに、ディアルガとパルキアに出会って空間と時間を擬似的に歪める術を学んだ僕は日帰り旅行感覚で各地の旅をしていた、本当の意味で僕が故郷から離れて旅をしたのはガラル地方だけなのかもしれない。

 

 見せつけられる過去の自分の光景、ひたすらに強大な力を我儘に振るう考えなしの愚かな僕の旅の記録。

 確かに目的は果たせていた、リーグ本部もエスパー協会も悪の組織すらも最終的には僕と周囲を直接的に害するような行動を取らなくなった。僕の周囲に悪意を持つ組織はいなくなった、狙うにしても近くでは僕に感知される為に離れた所で悪巧みしていたのだろう。

 

 こうやって客観視して痛感するのは自身の幸運だ、結果的に悲劇と呼ぶ程の事件が起こらなかっただけで軽率な行動の数々だ。

 そして結局はアクロマはミカンと接触して最悪の事態に陥った。一度力を振るいだしたら二度とそれを失ってはならない、負けてはいけないのだ。それを果たせなかった僕はミカンを失った。

 

 とても過去の自分を許せそうに無い、それともレックスは力を振るう恐ろしさを僕に感じて欲しかったのか?

 それなら改めて学んだ、やはり僕は愚かな子供だ。力と精神の均衡がとれていない危険な存在だ。

 大人として立派に責任を果たす父さんやダンデさん、正しい在り方を知っているマスタード師匠やマグノリア博士達に教えを受けておいてそれをまったく活かせていないクズだ。

 

 自己嫌悪で手を止めさせようとしているなら、かなり効果的な方法だ。過去の行いを客観的に見せられるというのは罪悪感を引き立てる。

 だけど僕は止まりはしない、間違っていると分かっていてもやめられるはずがない、ミカンを取り戻す為に振り上げた拳を緩める訳には行かない。僕が始めた主人公ごっこのツケを払い続けなくてはいけない。

 

 そして場面はシロガネ山での戦いへと移る、特筆して語るべきでも無い不格好な自分が見えてくる。

 トレーナーとしての未熟さを本物のトレーナーであるレッドさんに突き付けられ、空回りする力をいなされ自滅していく僕がそこには居た。最後の一匹のオーキスは僕の癇癪にも律儀に応えて“キズナへんげ“までしてくれたのに僕は彼のキズナに報いる事が出来ていなかった。

 挙げ句の果てにその場から逃げ出す僕、結果を受け入れられずに放棄するトレーナーとして最低の行為。

 

 後は見るまでも無く覚えている、優しいポケモン達に助けられて何とかカンムリせつげんまで辿り着く漂流の光景だ。

 家族と自分を守る為に、ユウキとミカンに格好を付ける為に始めた主人公ごっこをしていた僕がようやく現実に気付いた旅路。

 いつしかごっこ遊びを本物であると錯覚した子供がようやく過ちに気付き、自分を見つめ直した放浪の船旅だ。

 

 随分と情けない顔をしてイカダを漕ぐ僕、絶対無敵と思っていた己が破れた事が信じられないと言いたげな顔だ、自身の行いが間違っていた事を未だに理解しきれていない敗北者がそこには居た。

 

 もういいだろう、もう十分に自分の愚かさは理解できた。早く現実に戻ってムゲンダイナを真の姿へ導かなくてはいけない。

 アクロマの記憶から方法は学んだ、僕のオーラで追い詰めてやれば良いのだ。ポケモンは窮地を脱する為に己を成長させる力を秘めているのだ。

 

 光景がさらに変わる、次はガラル地方での旅を見せられるのかと思った僕に予想と違う光景が広がっていた。そこはガラル地方ではなく、懐かしいホウエン地方の光景だった。

 

 ホウエン地方の小さな町、どんな色にも染まらない始まりの町ミシロタウン。

 そこに建つ黄色の屋根の2階建ての民家から男の子が飛び出してきた。

 僕の弟のユウキだ、彼が希望に満ちた表情でラティを伴ってミシロタウンを新品のランニングシューズで走っている。

 

本物の主人公の旅の始まりの光景、それが僕の目に飛び込んで来た。

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