自分はかつて主人公だった   作:定道

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35話 この世で一番大切なモノ?そんなものは決まっている!

 

 見せられるユーリ君の過去の光景、それに付随するユーリ君の思念。

 

 なんて見苦しい光景だ、茶番もここまで来ると笑えない、何が力よりも尊い物だ、何が優しさだ、何が笑顔だ、何が輝きだ、馬鹿馬鹿しい。

 

 この世でもっとも尊く強い物は超能力だ。その真髄を知るボクこそが世界の王に相応しい。それが物事の道理だ。

 

 そしてこの二人にもうんざりだ、本当に気味の悪い連中だ、物事の道理に反している。

 

「ツヴァイ!!“サイドチェンジ“!!」

「………ゼクス!!“サイコショック“!!」

 

「やるなあ弟達よ!!やはり我等の本分は戦いだ!!存分にぶつかり合い!!互いを確かめ合おうではないか!!」

 

 2匹のミュウツーは互いの位置を入れ替えて巧みに互いの隙を補い、数的には倍の戦力のボク達と対等に渡り合っている。

 追い詰められているはずなのに力を増す、まったくもって気味の悪い存在だ。自分のミュウツーにはダメージが無い様に牽制に留めているとはいえこうも粘られるとうんざりする。

 

『僕は………僕は!!ミカンを取り戻したいです!!だから!!力を貸してください!!僕が戻って来るまでムゲンダイナを抑えてください!!どうか!!どうかお願いします!!』

 

 モニターからユーリ君の叫びが聞こえてくる、あまり面白くない展開だ。あんな事をされては困る、王を騙るポケモンは本当に余計な事をした、畜生の分際で忌々しい真似をしてくれる。

 

「聞いたかレッド!!ユーリがようやくやる気になったぜ!!俺達もさっさと合流しねーとなあ!!」

 

「………うん!!」

 

 レッドとグリーンも勢いが増す、せっかくの力を無駄に使う愚か者共はこれだから手に負えない。

 ユーリ君にしてもそうだ、弱くなるのも強くなるのも勝手だが、肉体がなくなってしまっては元も子もない。最悪は死んでも構わないが肉体が回収出来ないウルトラスペースまで行かれるのは計画が狂ってしまう。

 

 この場はポケモン共に任せて戦場へ向かおう、ホップ君やマサル君あたりを人質にとれば言う事を聞くはずだ、マリィとか言う名前の少女でも有効そうだ。そうだな、1人くらいなら殺してもいいだろう、少しもったいないがそれで流れは止まるはずだ。

 

「ボクは戦場に行ってユーリ君を止めて来ます、ここは任せましたよ」

 

「勝手にしろ!!お前など居なくても変わらん!!」

 

 同意は得た、愚か者同士で一生戦っていればいい。肉体を残して相打ちしてくれればさらに都合が良い。ボクが有効につかってやる。

 

「待て!!イツキ!!」

 

 奴等は戦闘の中で“テレポート“を阻害する力場の縛りを弱めていった。キズナなどと言う紛い物の力のツケだ、この状態なら強引に破って転移できるだろう。

 

「ではさようなら。くだらない時間でした、後はご自由に」

 

 身体をスタジアムから消す、数秒で戦場の方へ付く。

 

「なんだ!?」

 

 身体に衝撃が走り、テレポートが解除される。スタジアムを覆う力場に弾かれて観客席まで落下する。

 おかしい!?レッドとグリーン共のミュウツーにそんな力が残っているはずがない!!一体誰の仕業だ!?ボクの“テレポート“を弾く程のサイコパワーの持主などガラルにはいるはずがない!?

 

「あら、痛そうね。悪いけどあなたに聞きたい事があるの、付き合ってくださる?」

 

 ボクにそう語りかける女、スタジアムの外からから突如として現れた3人とその傍らにに控える3匹のポケモン。先頭に立つこの女を含めて全員を知っている、ここにいるはずがない奴等に困惑を覚える。

 

「まったく………敗北者のチャンピオン共はどいつもこいつも暇なようですね」

 

 ボクに話しかけて来たのはカロス地方のチャンピオンであるカルネ、さらにゼルネアスとイベルタルを従える忌々しきセレナにカルム、そしてカルネの傍らに立つのは7匹目のミュウツー。

 

「カルネヨ、我ハ………」

 

「この男は私達に任せてフィーア、貴方は兄弟達の所に行ってあげて」

 

 ミュウツーシリーズの4号フィーア、カロスで目撃されたのが最後に行方を暗ましていたこいつはチャンピオンと通じているとは。ポケモンの村の噂は事実だったのか。

 

「感謝スル、武運ヲ祈ルゾ カルネ」

 

 フィーアがミュウツー共の戦いへと加わりにスタジアムまで飛んで行った、変わりにカルネはサーナイトを繰り出す。

 落ち着け……セレナとカルムは駄目だ。目障りだが乗っ取ろうすればボクが消されかねない、破壊と再生の力の源を消される可能性がある。

 保険はかけてあるが乗っ取るべきはカルネだ。今の自身を分離出来るのは2つが限界、イツキとカルネを使ってこのガキ共を潰す、カルネの体を傷つけてやれば隙ができるはずだ。先ずはカルネの精神を揺さぶるのだ。

 

「まったく、何をしにきたんですか?僕は忙しいので手早くお願いしますよ?」

 

 この女に少しでも話をさせろ、そうすれば弱点が見えてくるはずだ。この身体の持主であるイツキがカリンという女を引き合いに出したら簡単に動揺したように、この女にも弱点となる人物がいるはずだ。

 愛や友情などという愚かな感情を尊ぶこいつらは、いくら力を持っていてもそこを突いてやれば簡単に精神に隙ができる。

 

「数年前にカロスで起こった事件、フレア団が引き起こした凶行、その首謀者であった男、フラダリを操っていたのは貴方なの?答えてもらうわ」

 

「フフッ」

 

 思わず笑みが溢れてしまう、自分から弱点を晒しだしてくれた。あんな愚かな男に心を砕くとは酔狂な女だ、

 

「フラダリですが、接触はしましたよ。ボクの子孫でもある彼を使えば計画が上手く行くと思いましたからね」

 

「それなら……」

 

 食いついた、後は煽ってやれば良い。怒りでも悲しみでも恐怖でも構わない。

 

「だけど辞めました、あの男はボクの器に相応しくなかった。あの出来損ないは人やポケモンに分け与えるなどと頭の悪い妄言を吐いていました、救いようの無い愚か者でしたよ」

 

「それは彼の優しさよ、妄言などではないわ」

 

 いい感じだ、怒りが高まるのを感じる。もう少し突けば隙ができるだろう。なんて容易い女だ。

 

「優しさ?あの凶行に走った男が?分け与えるために自分達以外を滅ぼそうとした男が?」

 

「ええ、それは事実よ。だけど………」

 

「ボクが少し周囲の人間を煽っただけであの男は壊れていきましたよ?人間の善意などと二度と言えない様にたっぷりと悪意に晒してあげました。あんな脆い心は優しさなどではありません、ただの弱さです。手を差し伸べる?人を助ける?弱者共の戯言ですよ」

 

 周囲を煽ってやったのは本当だ、フラダリは面白い様に動揺して壊れていった。助けた者に裏切られ、更に求められ、最後に敵意をぶつけられる。やつが施しを与えた子供を少し前に助けた者に殺させたのがきっかけで奴は壊れていった。

 後は周囲から少しずつ誘導してやれば、簡単に最終兵器の存在までたどり着いた。自分の子孫なのが情けなくなるほど脆弱な男だった。

 

「そう、よく分かったわ。やはりあなたは邪悪ね、野放しには出来ない」

 

「そういえば死体は見つかりましたか?肉体だけなら使ってやっても良いと思っていたのです、そこそこのOPを保有していましたからね」

 

「もう喋らなくていいわ、聞きたい事は終わりよ」

 

 感じる、怒りと悲しみがこの女から伝わって来る。なんて容易い、なんて愚かな人種だ。

 トレーナーと呼ばれる者達は本当に扱い易い、獣共と心を通わせようとするからそんな脆弱な心になる。やはり世界を統べるのは永遠の超能力者であるこのボクだ。

 

「さて、お喋りは終わりなようなので始めましょう。ミュウツー!!“サイコキネシス“!!」

 

 偽りの指示を叫び、一瞬でカルネの背後に“テレポート“する、無防備な背中から胸を貫く。カルネのペンダントの感触が指先に伝わって来る。

 

「ぐっ!?」

 

「隙だらけですよ!!他者に心を向けるからそんな無様を晒す!!ボクがその身体を有効につかってあげましょう!!」

 

 自身の一部をカルネの精神に流し込む、怒りと悲しみをに包まれたこの女の精神は穴だらけだ!!

 隅々まで私が行き届く、カルネの身体で喋ろうとして違和感に気付く?

 

「身体が動かせない!?」

 

 何故だ!?この女は何をした!?一度ボクを引き上げて…………戻らない!?何故だ!?この女に入ったボクが戻って来ない!?

 

「AZさんから聞いてるよ、お前が他人の精神を乗っ取る事を。誰かの心の隙を狙って来ることも」

 

「何!?」

 

 今まで黙っていたカルムが僕に告げる、分かっていてボクに胸を貫かせたのか!?

 

「フラダリさんは確かに悪い事をした、だけど確かにあった優しさまで嗤うのは許せない!!」

 

「くっ!?ガキ共が!!」

 

 イツキの身体も動かせない!?あり得ない!?カルネは超能力者ではないはずだ!?何故こんな事が!?

 ………これは!?カルネの胸に付いているのはメガチャームではない!?貫いた時にボクの手の中に収まったあれが原因か!?

 

「フラダリラボに残されていたあなたを捉える為の装置、あなたの存在に気付いていたフラダリが作り、私達の為に残した最後の発明よ」

 

「ふ、ふざけるなあ!!下等生物共が!!」

 

 超能力でもない分際でボクを捉えるだと!?そんなに事が許されてたまるか!?

 

「あなたが愚かと断じたフラダリの優しさによってあなたは滅ぶ、覚悟しなさい」

 

「な、舐めるなガキ共があ!!」

 

 全力でサイコパワーを注ぎ込む!!この場さえ脱すればどうとでもなる!!

 

『があっ!?』

 

 ワタシが弾かれる!?カルネだけではない!!イツキの身体からさえも!?

 イツキの身体から弾かれた!?精神体である黒いモヤ状で観客席に放り出された!?

 

「ゼルネアス!!“ジオコントロール“!!」

「イベルタル!!“デスウイング“!!」

 

 ゼルネアスの力がワタシの再生を奪い、イベルタルの破壊の力がワタシの永遠性を砕く。

 不味い!?この状態で攻撃を食らったら!!早く逃げなくては!!“テレポート“で!!

 

「サーナイト、“ふういん“」

 

『なにっ!?』

 

 封じられる!?超能力が!?ふざけるな!!ワタシを誰だと思っている!?

 

「あなたにお礼をしたい人達を拾ってきたわ、受け止めなさい」

 

 上空に影!?誰かが飛んで来る!?

 

「恩に着るぞカルネ!!覚悟するが良い!!悪しき亡霊よ!!一撃の型“暗黒強打“!!」

 

『があぁ!?』

 

 マスタード!?格闘家風情がこのワタシを!?

 

「バトルの邪魔したお礼だぜ!!ド・ぎつい鋼を喰らいやがれ!!“ヘビーボンバー“!!」

 

「ぐおぉ!?」

 

 ピオニーとダイオウドウ!?この野蛮人まで拾って来たのか!?

 

『み、ミュウツー!!』

 

 駄目だ!?奴はアーマーで制御している!!イツキの声とOPにしか反応しない!!

 逃げろ!!とにかく逃げて器を探すのだ!!この際誰でもいい!!北の広場で人混みに隠れれば逃げ切れる!!

 

 「逃さんぞ古き亡霊!!革新派を裏で操るサイジック教団の長よ!!」

 

 6人組の超能力者!!ワタシが沈めたはずの奴等だ!!回復していたのか!?超能力でワタシを拘束するだと!?ふざけるな!!ワタシは超能力者の王だぞ!?

 

「終わりですよ古き亡霊、今は私達の時代です。偽りの永遠はここで終わる」

 

『い、イツキ!?止めろ!!私を消しされば超能力者達の未来が!!革新の先の理想郷が失われるぞ!!』

 

 イツキがサイコパワーを貯めている!!今の破壊と再生による力を奪われているワタシでは!?

 

「何が理想かは今を生きる者達が決める!!お前が決めるものじゃない!!」

 

 イツキからサイコパワーの矢が放たれる!!永遠のはずのワタシが終わると言うのか!?

 

「ぐっぐおおぉぉ!!!?」

 

 ふざけるな!?3000年待ったんだぞ!?無限を手に入れ!!ユーリを手に入れたワタシは世界の王になる!!ワタシはカミになるのだ!!

 

『ば、馬鹿な!!?あり得ないぃ!?』

 

 ワタシが終わる!?そんなはずがない!?ワタシは王だ!!ワタシはカミだ!ワタシは誰よりも優れた存在なのだ!!

 

 兄よりワタシが劣っているなどあり得ない!!

 

 意識が途絶える、ワタシの永遠が闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行方不明だった4番目のミュウツーであるフィーアが突如として俺たちに加勢して、戦況は徐々に俺達へと傾いた。

 

「フィーアよ!!何故兄の邪魔をする!?共にツヴァイとゼクスを説得しようではないか!!」

 

「断ル、我ハ貴方達ヲ止メニ来タノダ。故郷ヲ護ロウトスル者達ノ邪魔スルノハ許セナイ!!」

 

「残念だったなアインス!!弟達はお前が嫌いだってよ!!」

 

「黙れ!!貴様らが誑かしたせいだ!!兄弟のキズナを引裂く外道共が!!」

 

「サカキと組んでるお前らに言われたくねえよ!!」

 

 アインス達の動きに焦りが見られる。ポケモンのみでのメガ進化、やはりトレーナー達と行う物に比べて長くは持たないらしい、大方速攻で勝負を決めるつもりだったのだろう。

 

 観客席ではイツキをカロスのチャンピオン達が追い詰めている、イツキの中に何者かが潜んでいたのも知れた。最早恐れる者は何もない。

 

「何が理想かは今を生きる者達が決める!!お前が決めるものじゃない!!」

 

 イツキの超能力の光が見えた、黒いモヤが断末魔をあげて消えて行った。

 やりやがった!カルネ達がイツキに巣食っていた存在を消し去ってくれた!最後はイツキ自身が決めた!!やはりイツキは変わってなどいなかった!

 

「お仲間は消えちまったぞアインス!!諦めて投降しやがれ!!」

 

「戯言を抜かすな!!あの卑劣な輩は仲間などではない!!契約によって手を貸しただけだ!!」

 

 それは事実なのだろう、アインスは基本的に人間を見下している。自信達を道具として生み出した人間を恨んでいる。何故かサカキには手を貸しているが人間を仲間と思うような奴ではない。

 

 だがどうでもいい、戦況は完全にこっちに傾いた。カルネにカルムにセレナ、マスタードにピオニー、イツキに加えて超能力が6人。過剰戦力なくらいだ、いくらこいつ等でもどうしようも出来ない。

 続々とアインス達を囲う様にスタジアムに集まって来る。

 

「…………傷つけたくはない投降して」

 

「終ワリダ兄弟達ヨ!!敗北ヲ認メロ!!」

 

「転移ハサセン!!逃ゲル事モ不可能ダ!!」

 

「諦メロ兄弟達ヨ、モウ争ウ事ハ辞メヨウ」

 

 逃しはしない、“テレポート“への対策もウルトラホールの発生を抑える術をもツヴァイ達は備えている。この場を離脱するのは不可能だ。

 

「それは困る、こいつ達にはまだまだやってもらう事が残っている」

 

 馬鹿な!?何故ウルトラホールが開く!?ツヴァイとゼクスは間違いなく力を使っているのに!?

 そして穴から出てきた男、仮面をつけた子供を伴って出てきたこいつは!!

 

「………サカキ!」

 

「久しぶりだな、レッド、グリーン。相変わらず私の邪魔をしてくれる、それでこそだ」

 

「邪魔なのはアンタだよ、評判最悪のトキワジムを俺様が立て直したんだ、お礼を言って欲しいぜ」

 

 落ち着け、敵のボスがのこのこ戦場に来てくれてんだ。今の戦力を考えればこれはチャンスだ。全員捕まえて牢屋にぶち込んでやる。

 

「何をしに来たサカキ!!ガラルには来ないと言っていただろう!!」

 

「可愛い子供達であるお前らを助けに来た、U2にもせがまれてな」

 

 U2?仮面の子供の事か?ポケモンが化けてる訳でもはなさそうだが、只者であるはずがない。サカキがわざわざ連れて来たのだ。

 

「気色の悪い事を抜かすな!!誰が貴様の子供だ!!」

 

「まったく、ポケモンの息子達も人間の息子も反抗期で困る。何が気に食わないか分かるか?」

 

「知るか!!そんなもん!!」

 

「………サカキが父親なのは嫌だ」

 

 それは俺も嫌だが今はこいつの子育て相談を聞いてる場合じゃない、一刻も早くこいつ等を無力化して戦場に行かなくては。

 

「まあいい、せっかくだから私もブラックナイトを盛り上げなくてはな、U2頼む」

 

「………了解」

 

 仮面の子供が赤く光る、超能力者なのか?だがあの光はガラル粒子の光だ、なぜそれを操れる?

 

「なっ!?」

 

 スタジアムに3匹の巨大なポケモンが出現した、これは幻影ポケモン!?しかもサンダーにファイヤーにフリーザー!!幻影の中でも手強い相手だ!!

 

「戦場の方もムゲンダイナだけでは寂しいだろう、フィナーレは盛大にいかなくては」

 

「人使いが荒い………」

 

 ふざけたやり取りの後、モニターの先の戦場に幻影ポケモンが次々と出現する。装置は壊れたのではないのか!?他の場所にもあったのか!?それとも仮面の子供の力なのか!?

 

「さて、これでいいだろう。私達にかまっている暇はなくなった。ガラルを救う為に全力を尽くしてくれ」

 

「サカキ!!待ちやがれ!!」

 

 ウルトラホールで消えた………と思ったら観客席に移動していた、あの野郎。

 

「そうだアインス、オリジナルのアーマーを外してやってくれ。久しぶりに話がしたい」

 

「チッ………これでいいのか?」

 

 観客席で沈黙を保っていたオリジナルミュウツーのアーマーが超能力で外されていく、中から出てきたミュウツーの胸には大きな傷跡があった。

 

「目は覚めたか?調子はどうだミュウツー」

 

「最悪ノ目覚メダ、オマエが目ノ前二居ル」

 

「15年ぶりなのにつれない返答だ、また私と共に来る気はないか?」

 

「断ル、私ノ逆襲ハ終ワッテイナイ」

 

 そう言ってオリジナルのミュウツーはスタジアムから姿を消した。ツヴァイとゼクスの力場を易々と突破してその場から転移した。アーマーは奴の力を抑えていたのか?あれがオリジナルミュウツーの力?

 

「逆襲か………さて、これで用事は済んだ。離脱するぞアインス、ドライ、フュンフ、U2」

 

「はいはい、分かったよ」

 

「弟達よ!!また会おう!!次こそは私のキズナを受け入れてくれると信じているぞ!!」

 

「レッド、グリーン、決着は相応しい場所でつけよう。いずれ招待状を送る、楽しみにしていてくれ」

 

「………僕達は負けない」

 

「一度負けてる癖に格好つけんな!また叩きのめしてやる!」

 

 サカキは笑いながらミュウツー達とウルトラホールへと消えて行った、相変わらず芝居がかっていて鼻につく奴だ。

 

「レッド!グリーン!先ずはこの幻影を打ち破るぞ!早く戦場へと加勢に行かなくては!」

 

 マスタードの声に応えて戦闘に入る、ダイマックスが使えなくてもこのメンバーならそう時間はかからない。伝承災害級のポケモンを模していても所詮は幻影だ。

 

 そして5分後、幻影を打ち破ってスタジアムの中央へと集まる。イツキの“テレポート“で戦場へと移動するためだ。

 

「仮面の兄ちゃん、あの男………ローズの奴は元に戻るのか?」

 

 ピオニーがイツキに問いかける、委員長はローズタワーで操られたイツキに精神を破壊されたらしい。壊れた精神が元に戻る事例を少なくとも俺は知らない。

 

「………申し訳ありません、ボクの超能力では不可能です。壊すのは容易くても元に戻すのにはそれこそ奇跡的な力が必要です」

 

「アクロマが言っておったがユーリなら可能性があるか?奴の言う事を聞くのは危険だとも感じるが………」

 

 あんな事をしでかした男だ、信用は出来ない。ユーリに関する事なら特にそうだ。あの野郎は一発殴ってやる。

 

「治療を試す時はボクも立ち会います。ユーリ君に危険があるようならボクが止めます………ピオニーさん、それでよろしいですか?」

 

「おう、文句はねえ。隊長に危険が無いように頼むぜ。あの馬鹿は自業自得だ。兄ちゃんが責任を感じる必要はねえ」

 

「いえ、責任はあります。奴に身体を奪われた事によって大きな被害が出た、ボクの未熟さが招いた事態です」

 

 ああ、これでこそイツキだ。馬鹿真面目で自罰的な男だった、カリンとよくそこをからかっていた。だれかを傷つける事を良しとするような男じゃない、調和なんて恥ずかしい事を真面目に超能力で成し遂げようとする愚直な奴だ。

 

「自惚れるなよイツキ、お前が責任なんて感じても何にもなんねえよ。償いがしたかったら戦場で2倍働け、俺がこき使ってやる」

 

「グリーン………ありがとうございます」

 

「こき使う言われてお礼を言うんじゃねえ、相変わらず馬鹿な奴だよお前は」

 

「………グリーン、照れる事は無い」

 

「照れてねーよ!!さっさと行こうぜ!!」

 

 いつまでも喋ってる場合じゃない、一つになったムゲンダイナと幻影ポケモン達を何とかしなくては………

 

「おっ!?おお!?あれは!!ちょっと待ってくれ!!すぐに戻る!!」

 

「ピオニー!?何をしておる!?」

 

 ピオニーがスタジアムの端へ走って行く、ユーリの倉庫から出てきた道具の山をガサゴソと漁っている。

 何か小さな人形の様な物を手に取るとこちらへ走って戻って来た。

 

「すまねえ!!隊長がこいつを忘れて行っちまった!!もう一度渡してやんねえと電話が鳴り止まねえ!!」

 

 そう言うピオニーが手に持っているのは編みぐるみだ、金髪の女を2頭身にデフォルメした物が3つ。可愛らしい作りだが妙な迫力のある編みぐるみだ。

 

「絡みつく様な残留思念………これは髪の毛?ピオニーさん、それは何なのでしょうか………」

 

 イツキが少し怯えてピオニーに尋ねる、髪の毛って言ったか?まさかな………

 

「嬢ちゃんから隊長達への贈り物だ!!ちゃんと渡さねえとおっかねえからな!!もう一度隊長に受けってもらうぜ!!」

 

「そ、そうですか?まあ害は………無さそうなので構いません。みなさん!!戦場へ飛びますよ!!」

 

「さっさと行って全部片付けちまおうぜ。ユーリの奴が帰って来たら青空を見せてやる、俺達で全部終わらせちまおう」

 

 全部ユーリにおんぶ抱っこじゃ格好がつかない、それぐらいはしておいてやらなくては。

 

「………グリーン、もう夕方で青空はない」

 

「細かいんだよ!!スルーしとけ!!」

 

「い、行きますよ、“テレポート“します」

 

 俺たちの身体がその場から消える、独特の浮遊感が俺の身体を包み込む。レッドの奴に外されたやる気を入れ直す。

 

 ブラックナイトの終わりは近い。だが夜明け前が一番暗い、暁にはまだ早い。


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