自分はかつて主人公だった   作:定道

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37話 贈り物に真心を込めて

 

 

 ミカンと共にふわふわちゃんに乗ってウルトラホールを進む。キラとオーキスは自分の力で飛行し、後ろから付いて来る。

 僕達の世界の入口はすぐそこだ、デルタに先行してもらったがみんなは無事か?

 

 勢い良くウルトラホールから飛び出す、僕等に少し遅れてキラとオーキスも飛び出す。

 瞬時に探知で戦場を探る………誰も倒れたりしていない、何故かおじさんが大量に増えているがみんな無事だ。誰も闘志を失わず闘い抜いていた。

 飛び出して来た僕達を見つけたらしく戦場から感じる闘志は更に高まって行く、このままの勢いで流れに乗るべきだ。

 

「レックス頼む!!力を貸してくれ!!」

 

『承知!!好きなだけ持っていくがよい!!』

 

 頼もしいレックスの返事の後、上空のデルタが蒼い光に包まれる、ダイマックスしたメガレックウザのデルタの巨体は凄い迫力だ、相棒の頼もしさに心が奮い立つ。

 

『デルタ全力だ!!僕に遠慮はしなくていい!!全力の“デルタストリーム“でブラックナイトを吹き飛ばせ!!!』

 

 デルタは僕の思念を受けてガラルの空を翔けて行く、デルタの巻き起こす乱気流が暗闇の雲をかき消して行く。僕の全力のOP補助を受け、レックスの力を借りてダイマックスしたメガレックウザのデルタにかき消せない天候などない。

 

『ユーリ君!!ムゲンダイナが新しく暗闇の雲を生み出している!!元を絶たないとかき消してても終わらないぞ!!』

 

 ダンデさんの言葉通りにムゲンダイナは身体から暗闇の雲が立ち昇っている、無限のエネルギーでブラックナイトを終らせないつもりだ。

 だが、暗闇の雲を消されるのを嫌がっているという事はブラックナイトという天候がムゲンダイナに力を与えている証明でもある、ならば天候を変えられないようにすればいい、彼に原始の力を見せてやろう。

 

「アルファ!!オメガ!!頼む!!」

 

 蒼い力を込めて2つの巨大化したマスターボールを繰り出す、空中で繰り出されダイマックスした2つの巨体が地面へと落下していく。

 

「“ゲンシカイキ“だ!!始まりと終わりで無限の夜を塗り替えろ!!」

 

 光に包まれ更に巨大となったアルファとオメガから放たれる紅と藍のオーラがムゲンダイナの暗闇の雲とせめぎ合う。

 無限が相手でも僕のアルファとオメガは力負けなどしない、ブラックナイトを新しく生み出す事は不可能だ。

 

「そのままムゲンダイナを抑えてくれ!!頼む!!」

 

 アルファの操る水流がムゲンダイナに絡みつき、オメガはそのままムゲンダイナへと組み掛かる。僕の指示を受ける彼等は互いに争う事なく協力してムゲンダイナの動きを確実に止めている。ジガルデと、いつの間にか参戦してたカルネさんのサーナイトもサポートしてくれている。

 遠くの空でも暗闇の雲が次々と吹き飛ばされていくのが見える、凄まじい速度で飛び回るデルタのおかげでガラルに夕暮れの空が戻って来た。

 

『皆のものよ!!夜が晴れて幻影達の動きが鈍っている!!この機を逃すな!!もはや再生する事は出来ん!!』

 

 マスタード師匠の思念が戦場に響きみんなの勢いが増す、ようやく見えて来たブラックナイトの終わりに向かって力を振り絞っている。

 

「やったねユーリ君!!ちゃんとみんなで帰って来たんだ!!」

 

 ディアルガに乗ったヒカリが僕達に笑顔で近づいて来る、帰って来れたのは彼女達のおかげだ。お礼を言わなくては。

 

「ディアルガの咆哮のおかげだよ、離れててもちゃんと聞こえた。本当にありがとう」

 

「叫び続けてたからね!!ディアルガの喉はガラガラだよ!!しばらく大好きなカラオケは無理だね!!」

 

 確かに喉に悪そうな鳴き声だった、趣味も気になるが長くなりそうなので今はスルーしておこう。

 

「ヒカリとコウキは………ムゲンダイナの捕獲に回せるほどOPは残っていないね。だいぶ無理させちゃったみたいでごめん」

 

 ディアルガとパルキアで僕達の帰還のためにだいぶ消耗させたみたいだ、ただでさえ不安定なウルトラスペースの通り道をずっと安定させていのだからそれも当然だろう。

 

 いつの間にか参戦していたカルムとセレナも無理そうだ、忙しく戦場を駆けてみんなをイベルタルとゼルネアスのオーラで強化しつつ幻影を打ち破っている、あの戦い方は消耗が激しいはずだ。

 

 カルネさんも無理だろう。あの人が抜けたらアルファとオメガもムゲンダイナを抑えきれない、倒すだけならともかく拘束するのはただ倒すのよりも遥かに難易度が高い、サーナイトとジガルデの援護があって成立している。

 

「気にしないでいいよ、当然の事だからね。それより地上に向かおう、ムゲンダイナ捕獲のための作戦があるみたいだ」

 

 コウキの指差す先の地上にはホップ達が居る、ダンデさんやソニアさん、何故か御輿に立ってるマグノリア博士はいいとして………なんであんなにおじさんの密度が高いんだ?

 ボールガイもやたら多い、そして多種多様な中年の大半に見覚えがあるのが悔しい。少しだけあそこに行きたくない。ミカンに僕がおじさんを集めたと誤解されるのではないか?

 

「あ、あの!!私………あたしからも謝罪とお礼を言わせてください!!ごめんなさい!!そしてありがとうございました!!」

 

 ふわふわちゃんの上で真っ直ぐ立ち上がり綺麗に頭を下げながらミカンが大きく声をあげた。不安定な足場でも正中線がブレない美しい所作だ。

 

「気にしないでいいよ!!私もコウキ君もミカンちゃんの事良く知ってるからね!!力になるのは当然だよ!!」

 

「ユーリはシンオウで話題に困ると口から出てくるのは家族とポケモンとミカンちゃんの話しだったからね、かなり詳しいよ僕達は」

 

 コウキとヒカリがニヤニヤしながら僕を見てくる………まさか!?

 

「まさかウルトラスペースの先の光景まではみんなに伝わってないよね?僕にもプライバシーってものが………」

 

「僕とヒカリに声が聞こえただけだよ、他の人達には届いてないよ」

 

 よかった、流石にそこはそっとしておいてほしい。

 

「大丈夫だよユーリ君!!私がちゃんとみんなに伝えてあげるから!!ポケッチにしっかり音声録音してるから!!」

 

 後で取り上げよう、絶対にだ。

 

「とにかく行こう、みんなが地上で待ってる」

 

 ふわふわちゃんにお願いして地上へと向かう、ムゲンダイナを捕獲できる程の余力が残っている人はいるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーリ君達が私達の方へやって来た、進化したふわふわちゃんの背中にはミカンさんも一緒だ。嬉しくて目頭が熱くなって来る。

 ホップと兄さんも、隣のマリィも瞳を潤ませてユーリ君を見ている。

 

 先にウルトラホールから出てきてブラックナイトを吹き飛ばしているレックウザ、そして今ムゲンダイナを抑えているグラードンにカイオーガ、ユーリ君の後ろから付いてくるジラーチとデオキシス、あれが過去の光景で見たユーリ君の昔からの相棒達、みんな凄まじい力を持っている。

 

 それを全て同時に繰り出して平気そうにしているユーリ君にも驚く、願いによってもたらさせた力とはこれ程のまでなのかと、実際に目の当たりにすると改めて感心してしまう。

 

『誰かOPに余力のある人はいませんか!?これから僕がムゲンダイナを元に戻します!!その後にムゲンダイナを捕獲してくれる人が4人必要です!!』

 

 ユーリ君の戦場全体に呼びかける思念、私は立候補したくてもできなくて歯噛みする。戦って伝わって来たムゲンダイナ達の叫び、あの声に応えてあげたくても出来ない自分の無力さが悔しくて堪らない。

 ホップや兄さん、マリィも同じ表情だ、みんな自分にその力が残っていない事実に無力さを痛感している、ダンデさんですら同じ表情だ。

 

 “きんのたま“は確かに私達とポケモンの疲労とOPを回復させてくれたが全快までとはいかなかった、一つになる前のムゲンダイナでも捕獲するには自身のOPがほぼ全快していなくては不可能だろう。それが分かってしまうからこそ悔しい。彼等に伝えてあげられない自分が情けない。

 

『み、みなさん!!あたしに捕獲させてください!!あたしはあの子達の事を少しだけ知っています!!だからお願いします!!あたしにやらせてください!!』

 

 響き渡るミカンさんの大きな思念、声の大きさだけではなくムゲンダイナ達への想いも伝わって来る。否定の声はあがって来ない、確かにミカンさんならOP量も適任だし余力も十分に残っている。

 

「確かにリーグ本部の所属の者にも捕獲させた方が………それに本人を守る結果にもなりますね………ガンテツ!!EXボールを!!」

 

「おう!!嬢ちゃん!!コイツでムゲンダイナに想いを伝えてやり!!」

 

 近くのマグノリア博士の呟いた後に叫び、御輿の上のお爺さんがミカンさんに黄金のボールを勢い良く投げた。

 だけどふわふわちゃんのところまで全然届いていない。

 

 ミカンさんは大分狙いの逸れたボールをジャンプして華麗にキャッチして地面へと着地した、ユーリ君がかなり焦っていた。

 しかしノーコンなお爺さんだ、ガンテツさんっていえばモンスターボール作りの凄い人じゃないの?まさか偽物か?

 

『あ、あと3人や!!EXボールはリミッターがあれへん!!十分に余力が残っとる奴やないと危険や!!誰ぞおらんか!?』

 

 お爺さんは誤魔化す様に思念を飛ばした、リミッターのないボールなんて最悪死に至る可能性もある。ここまで来て死者を出すわけには………

 

『いるよ!!とびっきりのピンクがねえ!!出ておいで!!』

 

 戦場にポプラさんの思念が木霊する、急な甲高い思念にみんなが驚いている、私も驚いた。自分じゃなくて誰を?まさか………

 

『出番ボルよ新入り!!ボールガイ魂を見せてやるボル!!』

 

「だれが新入りですか!?変人の集団入りした覚えはありませんよ!!バーさんの指示で仕方なく参加しただけです!!」

 

 ボールガイの集団の中、明らかに小さなボールガイから聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「まったく!!しょうがないですね!!僕がムゲンダイナにピンクを教えてやりましょう!!ピンクも知らずに紫なんて生意気です!!」

 

 やっぱりビートだった、着ぐるみの頭をとった顔は汗でびっちょりだ、息も荒くハァハァしている。私よりも余程消耗していそうだけどOP自体は満タンなのかな?発言もピンクに染まっているのが痛ましい、もう戻れないだろう。

 

『流石は“紫の妖精“ポプラさんボル!!パープルフェアリーはこの状況を予測してたボルね!!妖精の眼は伊達じゃないボル!!』

 

『私をその名前で呼ぶんじゃないよ!!』

 

 もしかしてガラルに長く住むと二つ名を付けられてしまうのか?やだなあ、ホップはやっぱり故郷で生活したいだろうし………

 ガンテツさんは近くに現れたビートにボールを手渡した、今度は投げない。落とさない様に慎重に手渡している。

 

「うおおぉぉ!!隊長!!良く無事だったなあ!!ミカンのお嬢ちゃんも助けて流石だぜ!!ナイスなド・根性だ!!感動したぜぇ!!」

 

「あ、ありがとうございますピオニーさん」

 

 いつの間にか地上に降りていたユーリ君にピオニーさんが叫びながら駆け寄って抱きしめた、ユーリ君の顔は嫌そうだけどちょっとだけ嬉しそうにもしている。

 

「そして隊長!!忘れ物だぜ!!しかも隣にはコウキとヒカリ!!ナイスなタイミングだ!!確かに渡したぜ!!」

 

「うっ、ありがとうございます………ほら、コウキとヒカリも、シロナさんからだよ」

 

 ピオニーさんから受け取った3つの編みぐるみをコウキさんとヒカリさんにも手渡すユーリ君、金髪の女の人を模した可愛い編みぐるみなのに嬉しくなさそうだ、なんでだろう?

 2人の手に編みぐるみが渡った瞬間に編みぐるみから黒い液体の様な物が地面へと落ちていった、黒い何かは足元に広がると影になり3人の足元で蠢き出す。

 

「ひいっ!?」

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

「ようやく受け取ってくれたのね?やっと座標が特定出来たわ」

 

 影の中から黒衣の女の人が現れ、両手でコウキさんとヒカリさんを抱き抱えた、ユーリ君はその様子を見て硬直している。

 あれは………シンオウのチャンピオンのシロナさんだ。バトルビデオでもユーリ君の記憶でも見たから間違いない。

 

「し、シロナさん?どうやってここに………」

 

「その編みぐるみには私の髪の毛が編み込んであるの、3人が受け取ってくれれば“やぶれたせかい“からでも位置が特定できる。ギラティナにお願いして来たのよ、私達の愛のキズナね」

 

 影の中からギラティナが頭だけ出してなぜか申し訳なさそうにしている。

 なるほど………自分の身体の一部を所持してもらえばそんな事ができるのか、私も編みぐるみ作ってホップに贈ろうかな?素敵なキズナだ、便利そうだし。

 

「キズナオヤジさんから作戦は聞いているわ!!私もムゲンダイナを捕獲します!!“ドラゴン“とも相性バッチリよ!!相棒のガブリアスはもちろんギラティナとも仲良し!!ねえギラティナ!?」

 

「び、ビシャーン………」

 

 少し元気の無いギラティナの返事の後、ガンテツさんの手元に影が現れボールが消える。そしていつの間にかシロナさんの側に黄金のボールが浮いている、シロナさんの両手は抜け出そうともがく2人を抱き抱えるのに忙しそうだ。ボールを持つ余裕がない。

 シロナさんなら実力的にも適任だし、本人が言ってる様にムゲンダイナと仲良くできそうだ。

 

 ともかくこれで後で一人だ、他にムゲンダイナに伝えてあげられる人はいないの?

 

「あと一人ならこれが使えますね。ダンデ、失ったOPを復活させる“ほかくパワー“が存分に込めてあります、貴重なので一つしかありません。ガラルのチャンピオンである貴方が使うべきでしょう」

 

 マグノリア博士が輝く“大きなきんのたま“を取り出してダンデさんに声をかけた………使うべき、間違ってはいないのかな………

 

「俺がですか………俺でいいのでしょうか?ムゲンダイナの存在を知っていながら委員長を止められなかった俺で………」

 

 ダンデさんが迷っている?ムゲンダイナを知っていたとはどういう事なのだろう?

 

「ダンデ、貴方が罪悪感を覚えているのは分かります、私も同罪です。ですが責任を感じるならばそれを使うべきです、幸いリーグ本部とシンオウのリーグの者達も捕獲に参加してくれます、ガラルが独占するのも不味いですがこれならバランスがいい」

 

「責任………バランスですか………」

 

 その会話を聞いて私の中に熱が湧き上がった、責任?バランス?そんな事を!?

 

『待ってください!!!そんなのおかしいです!!!』

 

 マグノリア博士とダンデさんが驚いて私を見る、周囲も突然の怒声に驚いている。私自身も驚いているけど止められない、自分の心を抑えられない。

 

『ムゲンダイナ達に教えるんじゃないんですか!!?暴れる以外の方法を!!!伝え方がわからず苦しんでる彼らに私達の繋がり方を!!!だから一緒にいようって伝えるんじゃないんですか!!?一緒にいる楽しさや嬉しさを教えるために捕まえるんじゃないんですか!!?』

 

「ユウリ………」

 

 子供のダダみたいな言葉を止められない、自分でもどうしようもないくらいに悔しくて言葉が溢れてしまう。

 

『責任とか!!!バランスとか!!!そんな事のために捕まえるならローズ委員長と同じじゃないですか!!!ムゲンダイナを利用するのと一緒じゃないですか!!!そんな事のために!!!そんな事って………』

 

 出て来ない、正しい言葉を続けられない。自分でもよく分からない悔しさや怒りがぐちゃぐちゃになって心をかき乱す。我慢していた涙が溢れてボロボロと地面へと落ちて行く。

 マグノリア博士の言葉は間違っていないはずだ、私よりも多くの事を知っている博士の判断は様々な問題を踏まえた上での発言のはずだ。私なんかが言わなくても気付いているだろう、気付いた上で我慢してあの結論を出しているはずだ。

 

 こんなに大事な場面で、一刻を争う戦場で、私の我儘な感情を撒き散らしてしまった、終わりに向かっていた流れにケチを付けてしまった。

 申し訳なさと情けなさでしゃがみこんでしまう、幼い子どもの様に蹲ってしまう。

 

「ユウリ」

 

 蹲る私に優しい声と肩に力強い感触を感じた、ダンデさんが優しい目で私を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場にユウリの想いの籠もった思念が強く伝播した、多分本人も気づかない内に言葉が思念となって伝わってしまっている、それほどまでに想いの強い叫びだった。

 

 そんなユウリにダンデさんはしゃがみ込んで肩に手を置いておる、目線を合わせて嬉しそうに誇らしそうにユウリを見ていた。

 

『ユウリ泣くことはない、君の叫びは正しい。その気持ちは誇るべき物だ、恥いることなどなにもない』

 

 ダンデさんの力強い断言にユウリは顔を上げる、涙に濡れた瞳でダンデさんを見た。

 

『君は正しい、ムゲンダイナに伝えてあげるべきは君の言った通りの気持ちだ。俺はチャンピオンの責任に捕らわれてムゲンダイナに不誠実な事をしてしまう所だった、君のおかげで留まれたよ、本当にありがとう』

 

『ダンデさん………』

 

『だからムゲンダイナを捕まえるのは俺じゃなく君にお願いしたい。ガラルのジムチャレンジで得た物を教えて、これからの君の旅を一緒に体験させてあげてくれ、頼まれてくれるかい?』

 

 ダンデさんが黄金のモンスターボールをユウリに差し出す、ユウリは少し迷ったが力強くそれを受け取った。そんな2人にマグノリア博士が歩み寄る。

 

『私からもお願いしますユウリ、私が愚かでした。くだらない計算をして大事な事を見失っていました………これは貴女が使うべきですね』

 

 マグノリア博士は悲しみながらも少し嬉しそうにユウリに玉をかざした。大きな玉の光がユウリを包む。

 これで4人目のトレーナーが揃った、次は僕の出番だろう。

 

「オーキス!!技の準備を始めてくれ!!ムゲンダイナ達への贈り物の準備だ!!」

 

『了解した!!』

 

「キラ!!願いごとを始める!!オーキスと一緒に頼む!!」

 

『りょーかい!!願いごとしよう!!』

 

 オーキスとキラが上空へ飛んで行く、オーキスは赤と青のオーラを溜め、そこにキラの光が降り注いで行く。

 僕もみんなにタイミングを説明して追いかけなくては。

 

『みんな!!今からオーキスが願いごとをのせた技をムゲンダイナに放ちます!!そうすればムゲンダイナは4匹に戻りOPに乗せた意思も届くはずです!!捕獲をお願いします!!』

 

 キラとオーキスに合流しようと飛ぶ僕の行方を阻む巨体、ジガルデだ。

 

『待て小僧!!ジラーチの願いだと!?それでムゲンダイナ達と通じたいと願うつもりか!?それでは他の世界に居るトレーナーとの繋がりを持つムゲンダイナと奴等が融合するだけだ!!他の世界から持って来れば歪みは避けられん!!考え直せ!!』

 

 大丈夫だよジガルデ、他の世界から何て持って来ない。ここにあるものを交換するだけだ。

 

『ジガルデ違うよ、僕がキラに貰った力とムゲンダイナ達の伝える力を交換するんだ。オーキスには“スキルスワップ“を使って貰う、本来の使い方とは違うけどね』

 

 そうすればムゲンダイナは伝える術を願ってそれを手に入れ、ムゲンダイナ達から力を受け取った僕は彼らの言葉が理解できる様になるはずだ。後はレックスにそれを思念で共有して貰おう。

 

『何!?それは………可能なのか!?あの技は等価な特性を入れ替える技だぞ!?』

 

『僕がどれだけの技を応用して使っていると思っているの?オーキスにも可能だよ、彼はもう一人の僕だ、僕に使えてオーキスに使えない技はない』

 

 ただでさえ僕の上位互換なオーキス、キラの願いによる力を失えば唯一勝っていた超能力でも敗北するだろう。

 だけどそれでも構わない、そうするのが正しいと僕は感じているのだ。きっと間違いではない。

 

『キラにお願いするのは僕の力を技に乗せる部分だけだ、この世界にあるもので賄う分には歪みは生まれない、間違っているかな?』

 

『待て!!…………可能か?いや、だが危険だぞ!?もはやその超能力はお前の身体の一部だ!!それを切り離す意味をおまえも分かっているはずだ!!』

 

 もちろん分かっている、自分の力の事は過去の光景でよく理解出来た。何なら僕より詳しいオーキスにも作戦は話している。だから………

 

『信じてよジガルデ。さっき僕等は信じあった、それをもう一度やるだけだよ。それは僕らの力何だろう?』

 

『…………ユーリ!!しくじるなよ!!』

 

 ジガルデが道を開けてくれる、上空のキラとオーキスに合流する。

両者は準備万端のようだ、後は僕が始めるだけだ。

 ムゲンダイナの拘束は上手くいっているが急がなくてはならない、体力勝負なら向こうの方が有利のはずだ。

 

 ぼく自身を主人公たらしめていた超能力の大部分、その輪郭を自分の内側に探し求める。僕の中でキラキラと輝いてる誰かを助け、笑顔にする事ができた星からの贈り物。

 シロガネ山の敗北でこれを失った僕は主人公ではなくなった、その考えは間違いだったし正解でもあった。その両方を僕はジムチャレンジを経て過去の旅を見つめ、今日ようやくそれを学んだ。

 

 両腕に青と赤のオーラが集まってくる、キラキラと輝きながら熱いぐらいに熱を持ったそれをどんどん両手に集めて行く。身体の内側から、僕の真ん中から超能力の源たるOPが流れていく。

 右手を前に突き出して左手を添える、溢れ出すオーラを掌の前でどんどん圧縮して束ねていく。余す事なく伝えるために強く収束させる。

 

『いけませんユーリ君!!そんな事をしたら君は最高の力を失います!!その力はこの世の奇跡なのです!!止めてください!!』

 

 思念が届く、発信源はボールガイに手を拘束されているアクロマだった。必死の形相で僕に懇願してくる、伝わる想いに嘘は無い、あいつは心の底から僕が力を失うのを恐れている。

 何を考えているのか分からなかった、只のマッドサイエンティストだと思って理解を放棄していたアクロマの気持ちが少しだけ理解できた。

 

『アクロマ、お前は僕の力が最高に発揮される所を見たかったんだな?お前がキズナと呼ぶ輝きが永遠に続くのを望んでいた』

 

『その通りですユーリ君!!ムゲンダイナを元に戻したいならわたくしも手伝います!!だからその方法は思い留まってください!!輝きが!!永遠に煌めくキズナが失われてしまう!!』

 

 この男にもちゃんと心があるのだ、捻じくれて冷たくなってしまっていても、アクロマの始まりには僕と同じ心があった。だからこんなにも恐れている。

 

『アクロマ、僕の力の輝きを見てもお前は満たされないよ、自分自身のキズナでなくてはお前の心は埋められない。お前を満たす物はお前自身で生み出すしかない』

 

『そんな事はありません!!ユーリ君の最高のキズナを見ればわたくしは満たさせるはずです!!そのために捨てた!!そのために犠牲にしてきた!!満たされなくてはならないのです!!』

 

 アクロマの過去を僕は知らない、だけどこいつは捨てた分だけ僕の力に価値がなくてはならないと思っている。

 ほんの少しだけ同情する、きっとそれは悲しい勘違いだから。

 

『アクロマ、教えてやるよ。人間の輝きなんて一瞬なんだ、永遠になんて続きはしない、懸命に生きれば誰だって輝ける』

 

 閃光の様に………あれは主人公ではなかったな、でも正しい言葉だ。懸命に生きて輝いて、主人公なんて誰か一人でも笑顔にしてあげられればそれで充分だ。

 言葉だけに囚われる事はない、心だけでも駄目だ、誰か一人でも認めてくれればそれが真実になる。自分と誰かがいればそれは物語だ。

 

 だから僕は主人公だ、それを今から証明しよう。

 

『いけません!!止めてください!!』

 

 後はこいつが自分で気付くしかない、僕が伝えられる事は終わりだ。こいつには寄り添って言葉をかけてくれる人はいないのかな?やっぱり少しだけ憐れだ。

 

『頼む!!伝えてくれ!!』

 

 赤と青が合わさった光をオーキスへと放つ、そしてキラの輝きが全てを包む。僕のありったけを乗せて指示をオーキスに指示を出す。

 超能力者ではなく、ポケモントレーナーとして。

 

『オーキス!!“スキルスワップ“!!』

 

 オーキスから流れて行く、僕の力と想いを乗せた光がムゲンダイナへと。

 

 ムゲンダイナから流れて来る、宇宙からやって来た彼等の叫びと想いが光に乗って僕とオーキスへと流れ込む。

 

 僕とオーキスは互いに与え合いこの星で共に生きた、生まれは違くても兄弟となった。

 だからムゲンダイナにも出来るはずだ。この星でトレーナーとポケモンとしての関係を築けるはずだ。

 言語に出来ない彼らの想いが伝わって来る、この想いをみんなへと思念に乗せて届ける。

 

『レックス!!届けてくれ!!』

 

『任せろユーリよ!!余の全力を以って伝えてみせる!!』

 

 蒼い光が僕を包む、僕はそれに全力で願う。地上で見守るみんなへとどきますように。

 

「あれっ?」

 

 身体から力が抜ける、今まで息をするように使えていたはずのサイコパワーが安定を失っていく。

 自身の浮遊を保てない、そのまま地上へと落ちて行く。意識も遠くなっていく、身体からどんどん力が抜けていく。

 誰かが僕を優しく抱きしめてくれるのを感じた、うっすらと残る視界にはくまきちが見えた気がする。

 

 そしてくまきちの胸の中で確かに見た、4つに別れた竜に黄金のモンスターボールが放たれるのを、揺れの収まったボールを手に取るミカン達を。僕達の願いはムゲンダイナへと確かに伝わった。

 

 空は真っ暗だった、だけど雲が一つない夜空には星が輝いてる、こちらへと飛んで来るデルタのもえぎ色も見えた。

 みんなが僕の名前を呼ぶのが聞こえる、返事をしようとしても上手く声にならない、どんどん意識が闇に閉ざされていく。

 

 頬に感触を感じる、優しくて温かい手が僕の頬を撫でている。

 

 ブラックナイトは終わった、ガラルは夜明けを迎える。

 

 新しい朝がやって来る、この星が続く限り何時までも。

 

 


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