自分はかつて主人公だった   作:定道

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39話 もう行かなきゃ!!

 

「今日もニンジン料理か小僧、レパートリーが少なすぎないか?」

 

 ジガルデは文句を言いつつも犬のような姿でニンジン料理をガツガツと食らっている。文句は言いつつも毎回おかわりするのであまり気にしなくて良いだろう。

 そしてニンジン料理だけで50種はレパートリーを持つ僕になんて失礼な言い草だ、カロスっ子は料理にうるさい。

 

「ふむ、ニンジン以外も畑で育てるか?ユーリよ何が良いと思う?」

 

「え、じゃあキャベツとかダイコンとかかなぁ………」

 

 寒冷地方に適している野菜って何だろう?フリーズ村の村長に聞くか?きのみには結構詳しいつもりだが野菜は専門外だ、そこまで詳細な知識など持ち合わせていない。

 “せいちょう“を使って育てているので正しい方法も知らない、せいぜい土の良し悪しが分かるぐらいだ。

 

「バシロッス!!」

「バクロッス!!」

 

 リーザとイースが抗議の声をあげる、人参至上主義である彼等には看過出来ない提案なのだろう。本当にニンジン大好きだな別にニンジンを育てないとは言ってないのに。

 

「エレーレ」

 

「なるほど!フリーズ村から購入する手もあるか!取り寄せでも良いな!自給自足に囚われていたのである!流石だエレン!」

 

 これだけ通販を利用している癖に自給自足を名乗るのか?もはや冠の神殿は最新家電に囲まれた快適空間だ。実家より最新の生活をしている気がする、

 今までレックスのこだわりがあって食事は基本的に自分達で栽培したニンジンのみなのだと思っていたが違ったのか?豊穣の王としての決まりがあるのかと思っていた、そのせいで僕はニンジン料理マスターになったというのに。

 

「きゅぴー!!」

「べあーま!!」

『はちみつ甘い!!おいしーね!!』

 

 ふわふわちゃんとくまきちにキラは食後のはちみつタイムだ、また匿名で贈られてきた高級はちみつに大喜びしている。一体誰からの贈り物だ?はちみつ農家でレックスのファンか?いつも贈り物ですぜひ食べてくださいとのメッセージしか添えられていない。

 はちみつ自体が無害なのは可食チェッカーで毎回調べているから平気だけど、ここまで定期的に贈られて来ると怖い。後で怖いオジサンが代金の請求とか来ないよな?

 

『ユーリ、寒冷地でのキャベツ栽培は素人には難易度が高い。大根も比較すれば多少は容易と言われるが凍害などの問題もある。もう少し検討してから品種を決めるべきだろう』

 

『否、何事も挑戦から始まるのだ。キャベツとダイコンを栽培したいというユーリの気持ちを尊重してやるべきだ、否定から入っては健全な成長の妨げとなる』

 

「オーキスにデルタ、僕はそこまでキャベツやダイコンの栽培に興味を持っていないからね?」

 

 レックスとエレンの話を聞いていない、オーキスとデルタが議論すると大体周りがみえなくなる。2匹とも考え過ぎる所があるんだよなあ………基本的に善意だから指摘し辛い。

 

「ぎゅらりゅるぅ」

「ぐらぐらるぅぅ」

 

 アルファとオメガはとっくに食べ終わってコタツに入りポケカノを視聴中だ、アルファは肌の乾燥は大丈夫か?オメガもコタツ程度の温かさで満足出来るのか?

 まあ本人達が満足そうなので大丈夫か、心配しすぎは良くないだろう。

 

 賑やかな夕方の団欒だ、目覚めたみんなを含めて一気にポケモン達が倍になったので当然ではある。

 各地へと旅立ってしまったマサルにユウリにマリィ、ホップはガラルに残ったがポケモンの研究者への道をめざして猛勉強中だ、ソニアさんに師事しつつ高等スクールの受験に向けて頑張っている。

 だからそう簡単にはみんなに会えない、電子機器による通信も自粛している今の僕には気軽に電話での会話も出来ない。

 騒がしい団欒はその寂しさを埋めてはくれるが、やはり完全にとはいかない。

 

 そしてミカンもジョウトへと帰って行った、途中で僕から家族への手紙を届ける為にホウエンに寄ってからの帰郷だ。道中はイツキさんも付いてくれているから安全なのは間違いないだろうがそれでも心配なものは心配だ。

 この前マグノリア博士が訪ねて来てミカンが無事にアサギシティに着いた事を教えてくれた、お父さんとも話をして関係改善の兆しが見えているらしい、チームのみんなも無事と帰還を喜んでいたそうだ。

 

 ミカンは僕に言った、自分のやるべき事をやってから僕の隣に戻って来ると、その勇気は貰ったから大丈夫だと。

 全てが片付いてから確かめに行こうと言われた、一緒に輝きを確かめに行こうと。

 そこまで言われては引き下がるを得ない、それに今の僕が付いて行く方がかえってミカンを危険に巻き込むかもしれない。

 

 僕は完全に超能力を失った訳ではない、イツキさんが言うには僕の超能力はクラス17だったのがムゲンダイナ達に力を送った事によってクラス11まで落ちたらしい。

 たぶんこれが僕本来のサイコパワー、自身でもかなり弱くなったのを感じるが数値的には思ったより落ちていない。基準がよく分からないが数値が上がる程に指数関数的にサイコパワーの必要量も上がるのか?

 

 そもそも僕はクラス7じゃないのかと思ったが、それは表向きの表現で実際は違ったらしい。確かに同じクラス7でもサイコパワーに差があるとは思っていた。

 何でそんな意味不明な事をするのかなエスパー協会は?そういう事をするから世間から胡散臭く思われるのだ、もっとクリーンで透明な活動をしてほしい。超能力者はただでさえ世間で叩かれ気味なのだから。

 結局僕のランクは表向きにはクラス7のままだがブラックナイトでの様子は全世界中継されていた、それを素直に信じる人がどれほどいるのだろう?

 

 そしてブラックナイトの後、目覚めてから2ヶ月程イツキさんに改めて超能力の指導してもらい、何とか手持ちのみんなに“ちいさくなる“を使えるぐらいには制御を取り戻した。

 だが戦闘では今までのようにはいかないだろう。アルファとオメガにデルタ、彼等を同時に“ゲンシカイキ“や“メガ進化“させるのは不可能だ、1匹ずつしか繰り出す事は出来ない。ブラックナイトの時の様な真似はもう不可能だ。

 ただそれだけでも十分な力ではある、並の敵を撃退するには過剰なぐらいだろう。

 

 問題は組織立って襲われた時だ。戦闘においてのスタミナを僕は失った、超能力とポケモンバトルの両方をだ、数の力で押し切られれば敗北は免れ無いだろう。

 そしてマグノリア博士が教えてくれた僕の力、自分と他者の限界を取り払うらしい力。

 オーキスが“キズナへんげ“出来るのも、レッドさんとグリーンさんが“キズナへんげ“出来るのも、ミカンが僕と一つになれたのも、更に言えばミカンが年齢の割に格闘家としての能力が高いのもその力が原因だそうだ。

 

 正直僕は勘違いだと思う、何でもかんでも人のせいにしないでほしいと言うのが本音だ。そもそも僕に自覚がないし、由来もまったく分からない。

 だけどそれを本気にしている組織は多いそうだ、今まで僕の超能力を恐れて手出しをしてこなかった彼等が弱体化した僕を狙って来るともマグノリア博士は断言した。

 

 おじさん達を束ねる組織の幹部だったマグノリア博士の言葉には信憑性がある、あらゆる地方に存在する彼等の情報網は恐ろしい程に正確だ。よく考えれば旅の先々でおじさんに出くわしてたのは情報を共有していたからだろう。

 

 だからこそ僕はカンムリせつげんに籠もって生活をしている、レックスの縄張りとも言えるここならそう簡単に手出しは出来ないからだ。事実、カンムリせつげんで見つけた組織の諜報員達をそれなりの数捕縛して警察に突き出している。

 

 しかし、何時までもこうして過ごす訳にはいかない、その為の解決方法は既に手に入れている。

 ジガルデは僕に言った、自分と旅に出てジガルデのセルを集めれば僕は新しい力を手に入れ、自身を狙う者達を撃退する事が可能になり、いずれやって来る隕石を撃退する助けにもなると。そしてローズさんとウカッツさんの精神を元に戻す方法もみつかると。

 でも、行き先は教えてくれない。未来を教えるのは良くないからとジガルデは言うが行き先ぐらいは教えてほしい。

 

 だけど出発の日は決まっている、1週間後にはカンムリせつげんを去り、僕は旅立つ。

 そしてレックスとリーザとイースとエレンはここに残る、彼等にはガラルでやる事があるのだ、この地を護るという役目が存在する。

 伝説に語られるポケモン達は力を得る変わりに、その伝説に己を縛られる。カロスの監視者であるジガルデが今回のブラックナイトに介入して大きく力を落としてしまったからそれは真実なのだろう、今のジガルデは10%もないそうだ。

 

 そしてレックス達は、力を失えば記憶を失ってしまう。レックスは長い時の中で幾度もそれを経験したらしい、ムゲンダイナと再会してそれを確信したそうだ。

 いつまでも一緒にいられる訳ではないのは知っていた、レックスはガラル地方を護る事を、豊穣をもたらす王としての役割に誇りを持っている。自分の意思でガラルに縛られるのを良しとしているのだ。

 

 それを辞めてくれなど僕は言えない、辞めてほしいとも思っていない。

 だけど僕の胸をどうしようもない悲しみが襲う、予感していたはずの別れの気配に、知っていたはずのさよならを僕の心は処理しきれていない。

 だから僕はそれを心の隅に追いやっている、今はただ団欒の時間を楽しんでいる。新しい作物なんて試す時間がないのは分かっていてもだ。

 

 1週間はあっと言う間に過ぎた、特別な事は何もしていない。そもそもお別れ会はホップ達と盛大に行った、神殿が一杯になるぐらいの人とポケモンが集まって大いに盛り上がった。

 

 だから僕とレックス達には特別な事なんて必要ない。

 

 朝になったら朝食を一緒にとってポケカノを見たり思い思いに過ごす、昼食の後にはおやつタイムと昼寝の時間だ。

 昼寝が終われば円卓会議をしたり、リーザ達に乗って雪原を走ったりして過ごす。

 夕食の前には畑の前で踊ってニンジンを収穫して夕飯だ、それが終わればポケカノを見たり、最近僕も買ったポケスマやポケハンを一緒にプレイしたりもする。

 

 なんて事はないカンムリせつげんでの日常、これが当たり前だと思える程に僕に馴染んだレックス達との生活。

 それがいよいよ終わる、もう二度と体験できないかもしれない日常が過ぎ去って行く。

 出発の前夜もレックス達は遅くまでポケカノを見ていた、その変わらない様子に少し安心しながら、レックス達の気配を感じながら僕は眠りについた。

 

 そして旅立ちの日、僕達は世界樹が見える海岸に来ていた。

 

 三鳥達はもうカンムリせつげんにいない、お別れ会の時にファイヤーはマリィに懐いてそのまま付いて行き、サンダーはサイトウさんが気に入って抱えて行った、フリーザーはイツキさんと暫く見つめ合うと共に行くことを決めた。

 それぞれが新たな居場所をみつけたのだ。

 

 いい天気だ、太陽は雲に隠れる事なく穏やかな日差しを注ぎ、海も穏やかな水面がキラキラと光り船出には丁度よい。

 レックスとリーザとイース、それにエレンが僕達と向かい合う。みんな優しい眼差しで僕の事を見詰めている。

 

「ふむ、旅立ちに相応しい天気である。空も海もユーリを応援してくれているな」

 

「そうだね、今度は嵐に襲われずに済みそうだ」

 

 僕には海の王であるアルファがいる、海を渡るとジガルデが言っていたが心配は要らない、食料や生活用品も十分に用意してある。

 倉庫は新しく作り直した。ギラティナは少し不満気にしていたが最終的には許可してくれた、優しい奴だ。

 

「ユーリ、渡しておく物がある。受け取るがよい」

 

「エレ!」

 

 そう言ってエレンが僕にスマートフォンを渡して来た、エレンの形を模している………レジエレフォン?

 

「これからエレンは各地の仲間達の遺跡を巡るそうだ、そこに中継器を設置する。設置が完了すれば誰かに傍受されない専用の通信網が完成する、そうすれば自由に連絡を取れる様になるであろう」

 

「レックス………ありがとう」

 

 嬉しいな、そこまでしてくれるなんて、でもこんな凄い物をレックス達だけで用意したのか?

 

「もちろんマグノリア博士が協力してくれたのである、エレンも大分力を入れておったぞ。ふたりにも感謝するといい」

 

「そっか………エレン、本当にありがとう。最高の贈り物だよ」

 

「エレーレ!!」

 

 エレンの頭を撫でる、少しピリピリする感触をしっかりと手に記憶させる。

 

「エレンは各地を巡ってご当地ポケカノグッズも集める予定でな、今から楽しみである」

 

「ふふ、そっか、なら頑張らないとね」

 

 レックス達らしい返答に嬉しくなる、別れの時は笑顔でいたいから丁度いい。

 

「そしてこれは余と愛馬達からの贈り物だ、受け取ってくれ」

 

 レックスが僕に渡してくれたのは小さな編み紐の様な物、“キズナのたずな“に少し似ている。

 

「“キズナのたずな“と同じ製法で作った物だ、それをユーリが身に着けていれば余はユーリを大地を通じて感じられる。会話はかなり力を使わないと無理だが常に無事と大体の居場所は分かる、腕に巻いて身に着けて置いてほしいのである」

 

「そっか、大事に付けておくね。絶対に失くさないよ」

 

 目に見えるキズナの証、大切にしよう。離れていても僕とレックス達を繋ぐ標となってくれる。

 

「さて、ふわふわとくまきちよ。冠四天王としてユーリを支えてやってくれ、ユーリが少し抜けているのはお主達も知っているだろう?」

 

「べあーま!」

「きゅぴー♪」

 

 反論できない言葉だった、僕の旅はレックス達に助けられてこそ成立していたのだから。

 

「そしてオーキス殿達に余が言うのもおこがましいが、変わらずユーリを見守ってくれ。頼むのである」

 

『だいじょーぶレックス!!まかせてー!!』

『承知したレックスよ、安心してガラルで見守ってほしい』

『元より我等の務めだ、果たしてみせよう』

「ぎゅらり!」

「ぐらぐらる!」

 

 随分とみんなに気負わせてしまっている、もう少し頼れる男に成ららなくては。

 

「さて………ユーリよ、しばしの別れの時だ」

 

「そうだねレックス、少しだけさ」

 

 レックスが差し出して来た手を僕は両手で受け入れる、小さなレックスの手の温もりを両手で感じられる様に。

 

「まったく、最後まで泣き虫であるな。皆に笑われてしまうぞ?」

 

 ごめんレックス、だけど我慢できない。どうしても涙が溢れてしまう。

 僕の両頬にひんやりとした感触、リーザとイースが僕に顔を擦り寄せて来る。ひんやりと温かい不思議な感触だ。

 

「ユーリよ人の営みは素晴らしいな、力を使わずとも離れた者同士で言葉が交わせる。科学の進歩はキズナの交わし方さえも進化させた」

 

「………レックス」

 

「だから話を聞かせてくれ、お主が新しい旅で感じた事を全て余に教えてくれ、楽しみに待っているのである」

 

 そうだね、楽しい事ばかりじゃないかもしれないけど全部レックス達に伝えよう、離れていたってそれができるのだから。

 

 だけど、いつかは必ず………

 

「レックス、リーザ、イース、いつか一緒にガラル以外も旅をしよう、必ず実現させてみせる」

 

 レックス達は少しだけ驚いた顔をした、でもすぐに嬉しそうに笑う、少しだけ安心させられたかな?

 

「うむ!!楽しみにしているのである!!共に世界中を旅しようではないか!!」

「バシロッス!!」

「バクロッス!!」

 

 別れは笑顔でなくてはいけない、大切な相棒たちとは次の約束をしよう。

 

 大事な事だ、それさえできれば別れは悲劇じゃない。

 

 

 

 

『もうよいか小僧?そろそろ出るぞ』

 

「うん、大丈夫だよジガルデ。アルファ!僕達を乗せていってくれ!」

 

 旅立ちの時だ、海の向こうのまだ見ぬ地へと進もう。

 

『待て、カイオーガには乗るな。ポケモン達は全員ボールに収めろ』

 

 ん?海から行かない………ああ、空から行くのか、ジガルデが乗せていってくれるのか。僕はみんなをボールに収める。

 

『あれに乗れ小僧、ほら、これも用意してやった』

 

 振り返った僕にジガルデが口に咥えて渡して来たのはオールだ、木製の船を漕ぐオールだ。物凄く嫌な予感がする…………

 

『早くイカダに乗れ、アローラに向けて出発するぞ』

 

 海岸にもたどり着いた時から視界の端にチラチラと見えていたイカダ、ほんのり感じていた嫌な予感が的中した。

 

「あのさあジガルデ、アローラってあの首の長いナッシーがいる南国でしょ?ここからどれだけ離れてると思っているの?」

 

 真面目にどれくらいの距離だ?冗談で言ってるんだよな?

 

『お前と共に居るポケモン達は強力過ぎる、乗って移動すれば直ぐに居場所がばれてしまうぞ。お前の周りには普通のポケモンがいない』

 

 なんだと?僕の事を伝説厨だとでも言いたいのか?自分だって伝説の癖に………今は只の犬ポケモンか?

 

「それにしても何でイカダなの?おかしいでしょ、せめてエンジンの付いてる船でさあ………」

 

『このイカダはそこに生えてるガラル粒子を吸って成長した樹の枝で出来ている。弱体化した私の認識阻害能力を助け、丈夫で私が未来の予測もしやすい。下手な船よりよっぽど安全だ』

 

 いや………違う、そういう事じゃない、推進力の話がしたいんだ。オールを手渡された時点でほぼ答えは出ているけど少しでも粘る。

 

「余と愛馬達、それに三鳥、更にはフリーズ村の皆にも協力して作って貰ったカンムリ魂の籠もった1品である!!ユーリの旅立ちに相応しい船を作った!!信じてくれてユーリよ!!」

 

「あ、ありがとうレックス………凄く嬉しいよ」

 

 もはや断れない、レックス達の善意を裏切る事なんて僕には出来ない。カンムリ魂とまで言われては引き下がれない。

 

「ジガルデ………ちなみにアローラまでの距離はどれくらいあるの?」

 

『直線距離で1万2千キロぐらいだな、海路ならもっとあるだろう』

 

 こいつ本気か………これはもしかしたら壮大なイジメなのか?そしてよく考えなくても不法出国、またマグノリア博士のお世話になってしまう。

 

『さあ、お前のサイコパワーを振り絞るのだ!!来る時もイカダだった小僧になら可能だ!!』

 

 途中でジガルデにも漕いでもらおう、オールが持てないならばバタ足させてやる。それとも犬かき?

 

 ………行かなくちゃ!僕が自分で決めた新しい冒険の旅を始めよう!

 

「みんな!!行ってきます!!」

 

『待て小僧!?置いて行くつもりか!?』

 

 ジガルデと共にイカダに向かって走り出す、勢い良く飛び乗ってサイコパワーを込めたオールを力強く漕ぎ始める。予想以上のスピードでイカダはグングンと進む。

 

「行って来いユーリ!!お土産よろしくである!!」

「バシロッス!!」

「バクロッス!!」

「エレレー!!」

 

 レックス達の声を背に振り返らずにイカダを漕ぎ進める、次にガラルの景色を見るのは帰って来た時でいい。

 

 ガラル地方を後にする、様々な思い出の詰まったこの地に別れを告げる。

 だけど悲しむ必要なんてない、僕は必ずこの地へ帰って来るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではユウリちゃん、頼みましたね」

 

「はい!任せて下さい!」

 

 ミアレシティで知り合いと別れる。頼み事をされた、私もユーリ君みたいに誰かを助けながら旅をしよう。

 

 カロス地方にはメガ進化と呼ばれる力がある、私の手持ちにはキーストーンが存在するポケモンはいないが力の一端に触れれば何か掴めるかもしれない。

 ユーリ君にグリーンさんにレッドさん、3人が使いこなす“キズナへんげ“を習得するヒントが手に入るかもしれない。

 

 ジムを巡るのも楽しみだ、カロスには見慣れないポケモンも多い。トレーナー達の戦術もダイマックスを前提としていないからとても参考になる。

 料理も美味しい物が多いし、ミアレシティにはオシャレな人も沢山いる。目に映る景色も全てが新鮮だ。

 

「エターナ見えてる?綺麗な街並みだよね、他の街に行くのも今から楽しみだね」

 

 私の手の中のEXボールが嬉しそうに揺れる、私がエターナと名付けたムゲンダイナ、このEXボールは超能力を持たない私でもOPを少し消費して手持ちのポケモン達と光景を共有出来る力を授けてくれる。

 気軽に街中に出してあげられないエターナに私と同じ物を見せてあげられる。一緒に冒険して色んな物を共有できるとても素敵なボールだ、ガンテツさんを偽物なんて思った私が馬鹿だった。流石人間国宝と呼ばれるボール職人だ。

 

「ユーリ君も旅に出たのかなあ?」

 

 ホップや兄さんにマリィ、家族やソニアさん達とは何時でも連絡が取れる。ホップには編みぐるみを渡しておいたので離れていても問題はない。

 だけどユーリ君だけは様子が分からない、大丈夫なはずだけど少し心配になってしまう。

 だってユーリ君にはリベンジしなくちゃいけないのだから、カロスを旅して強くなった私達を見せてやるのだ。

 

「さて、そろそろ行こっか?頼まれ事も叶えなきゃいけないしね」

 

 誰かを助けて旅すればきっと私も強くなれる、ブラックナイトで学んだ事を実践しよう。

 

 それにはまず、仲間を集めなくっちゃね。ユーリ君を倒したい人達を集めるんだ。

 そして夢と幻を求める人達も集めなきゃ、夢幻と無限の力でみんなを笑顔にしていあげよう、

 

 さっきアクロマさんに頼まれたもんね、頑張らなくちゃ。3000年も頑張ってるのを助けてあげよう…………何か忘れてるかな?でも思い出せないなら大した事じゃないよね?

 

 そうだ!名前をつけなくちゃ、マリィを応援するエール団みたいに私が集める人達にも、私が夢幻と無限で助けてあげる人達の集まりに名前をつけなくちゃいけない。

 

「ムゲン団………うん、これでいいかな?」

 

 みんなを助けて旅をしよう、強くなってユーリ君を倒そう。それが私の望み、アクロマさんの望みでもある。

 

だけどやっぱり何か忘れている気がする、私の中の何かが叫んでいる気がする。

 

 けど勘違いだろう、私の望みに間違いなんてない。

 

 

 





 ここまで読んで頂いてありがとうございます。

 これでガラル地方編は完結となります、区切りがいいので一旦作品を完結とさせて頂きます。

 次のアローラ編はゲームをやり直して書き溜めてから投稿しようと思うので少し時間がかかると思います、お待ちいただけたら嬉しいです。

 沢山の評価や感想をありがとうございました、とても励みになりました。


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