自分はかつて主人公だった   作:定道

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 申し訳ありません、我慢出来ずに1話書いてしまったので投稿します。更新頻度は落ちると思います。


アローラ地方編
40話 いつからここがアローラだと錯覚していた?


「いい天気だ、今日も空と海が僕達を愛してくれている」

 

 青い海、晴れた空、気候も出発よりだいぶ温暖になり暖かな陽気と爽やかな風が僕を撫でる。

 イカダの上で僕とわんわんが1匹、長い長い航海を続けている。

 

 大海原を進む、オールにサイコパワーを流して海を捉える。何千何万回と繰り返したその動作は洗練され、力を無駄にする事なく推進力を生み出す。

 そして気付くこのオールの素晴らしさに、このイカダの頼もしさに。見た目なんて関係ない、カンムリせつげんの大地の力強さがそのままに感じられるこのイカダはもはや一つの大陸だ。それを動かす僕はさながらレジギガス、いやレジユーリだ。

 

「ふふ、このオールにも名前を付けてあげなくちゃね。そうだな、オール・オブ・ユグドラシルなんてどうかな?」

 

『小僧、それはどちらかと言えばオールではなくパドルだ。船べりに支点を持たない物はそう呼ぶ事が多い』

 

 後ろの犬っころがうるさいけど僕は気にしない、誰がなんと言おうとこれはオール・オブ・ユグドラシルなのだ。

 こいつはもはや僕の相棒だ、それどころかもう一人の僕だ。ここまで一つの物にサイコパワーを注ぎ続けた事が今まであったか?いや無い。

 

 初めの頃は酷い物だった、後ろの犬を置いてアルファと先に行ってやろうと何回思った事か。

 だけど今では感謝している、ジガルデに、空と海と大地に、僕を取り巻く世界の全てに感謝を伝えたい。

 人は希望があれば前に進める、ゴールが近いとなれば尚更だ。

 

「さてジガルデ、目的地はもうすぐだって言うけど本当?陸地が見えて来ないんだけど?」

 

 焦るな………感謝を忘れるんじゃない、怒りは推進力にはならない。僕は冷静だ、冷静過ぎて狂ってしまいそうだ。

 

『島全体が認識阻害で隠されている、もう少し進め』

 

 凄いなアローラ、そんな機能を持っているのか?只の観光地だと思っていたけど違ったのか?軍事要塞なのか?

 まあいいや、とにかく久しぶりの陸地が楽しみだ。首の長いナッシーも是非この目で見てみたい、挨拶はアローラと元気良く言えば大丈夫らしい。

 

『よし、範囲内に入ったぞ!!ここがポケリゾートだ!!』

 

 ポケリゾート?宿泊施設か?

 

「おお!?でっかい豆の木だね!?」

 

 急に視界に飛び込んで来た巨大な豆の木、カンムリせつげんの世界樹よりも大きい。

 凄いな、まるで童話に出てくる豆の木だ。流石に雲までは届いていないけど引くぐらい巨大だ。

 

 しかしアローラって思ったより小さいな?それに建物がイカダに浮かんでる小屋一つしかない、あれには物凄くシンパシーを感じるが流石に少なくないか?しかしあのイカダは僕のと似てるな?

 でもポケモン達は沢山いてみんなのんびりとくつろいでいる、それに5つの島で出来ているから多分ここはアローラだろう、ジガルデが複数の島から出来ているって言ってた…………でも5つだっけ?

 

「ジガルデ、アローラって小さいんだね?ポケモン達は幸せそうで良い所だけどさ」

 

『何を言っている小僧?ここはポケリゾートでアローラではない、アローラまではまだまだ距離があるぞ?』

 

 ジガルデをお腹辺りで持ち上げて下半身を海に浸からせる、僕の感謝の気持ちを受け取ってくれ。

 

『何をする小僧!?やめろ!?“じめん“タイプに何たる暴挙を!?』

 

 ドラゴンパワーで耐えろ、下半身がふやけるまで浸からせてやる。

 

 

 

「おお本当に来たね!はじめましてユーリ君!私の名前はモーン!このポケリゾートの管理者を任されている!歓迎するよ!」

 

「ど、どうも、ユーリです」

 

 僕らに気付き海岸までやって来て出迎えてくれた中年男性、麦わら帽子を被った金髪のおじさんから差し出された手に応じて握手を交わす。

 屈託の無い笑顔で人柄の良さが滲み出てはいるが、おじさん相手に警戒を怠ってはならない。

 この人は何を司るおじさんだ?麦わらおじさんか?イカダおじさんか?後者なら話が合いそうだ。

 

「いやー、イカダでやって来るって聞いてたけど、冗談だと思っていたよ。本当にガラルからイカダでやって来るとは驚いた、流石はユーリ君だ」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

 イカダのポテンシャルを信じていないから麦わらおじさん確定かな。

 しかしこの褒められ方は喜んでいいのか?やっぱりイカダで来るのはおかしいよな?ずっとイカダを漕いでると人としての正しさを見失ってしまう。

 

 周囲を見回してもモーンさん以外に人間は見当たらない、辺りにはポケモンしか見当たらない。

 新しくやって来た僕に興味があるのか足元にヤドンが擦り寄って来る、かわいい奴だ。

 

「おお、頭とシッポが黄色くないヤドンは久しぶりだ!よしよし」

 

 しゃがみ込んでヤドンを撫でてあげる、反応が鈍いので表情は変わっていないが手の平から喜びの思念が伝わって来る。

 

「ユーリ君に敵意がないのが伝わっているみたいだね。だが、このポケリゾートは人間から傷つけられたポケモンが集まる地だ。触れ合うのはポケモンが望んだ時だけにして欲しい、その子はここの生まれだから警戒心が薄いけどね」

 

 傷つけられたポケモンが集まる地?どうやってこんな海の孤島にポケモンを集めるんだ?

 ああ、あそこと同じかな?ジガルデが連れて来たのだから彼自身も協力者なのだろう、それならばあり得る。

 

「カロスのポケモンの村みたいなものですかね。強力な力を持ったポケモンの庇護下にあるポケモン達の安息の地、一部の信頼出来る人間にも援助して貰って成り立つポケモン達だけのコミュニティ」

 

 ポケモン村ではミュウツーとボルケニオンが村を守っていた、それを知らずに騙されて結界の中へ入り酷い目にあったのでよく覚えている。

 そのせいで僕はミュウツーに若干の苦手意識を持っている、シロガネ山での経験も相まって割と強めにだ。ミュウツーは顔も怖い。

 

「ああその通りだ。あの村とは交流があってよくポケモン達が行き来しているよ、南国の海を漂うここはまさにポケモン達のリゾートだからね」

 

「行き来して?………ああ、フーパが力を貸しているんですね、あのイタズラっ子なら距離は関係ない」

 

 黄金のリングの中の空間を歪めてあらゆる空間を繋ぐポケモンフーパ、あのいたずらポケモンのせいで僕は意図せずにカロスのポケモンの村に足を踏み入れてしまった。烈火の如く怒り狂い襲って来るボルケニオンとミュウツーは本当に恐ろしかった、イタズラした本人もビビって逃げ出したから誤解を解くのに物凄く苦労した。

 

「彼とは知り合いらしいね、その内顔を出すと思うからぜひ会ってやってくれ。きっと喜ぶはずさ」

 

「ええ、僕もお礼を言いたいと思っていました」

 

 どんなお礼をしてやろうかな?代わりにイカダを漕いでもらうか?解き放たれた姿なら腕が6本あって僕の3倍早く漕げるに違いない。

 フーパの空間移動はリングがあってこそ成り立つ現象なので、OPは模倣したが空間移動は真似出来なかった。流石にリングを寄越せとは言えない、でもアレさえ出来ればもうイカダを漕がなくても…………

 

「そうだジガルデ!!フーパにお願いしてアローラまで送り届けてもらおう!!」

 

 本人が来るならそれでいいじゃん、何も僕が自力でたどり着く必要なんてないだろう。

 

『駄目だ、アローラには異空間の移動や察知に長けた者が多い。フーパの移動も守り神達に迎撃されたり、組織に座標を操作されて捕らえられる危険もある』

 

「うっ………そうなの?」

 

 凄いなアローラ!?もしかして恐ろしい魔境なのか?異空間に長けた組織ってなんだよ?守り神達?パルキアやギラティナみたいなのが大勢いるのか?

 

「ああ、そしてここにポケモン達を全て預けて置いて行くぞ。アローラには私とお前だけで行く」

 

「はあ!?そんな事を僕が許す訳ないだろう!?」

 

 僕のボールに収まってたみんなが続々とボールから出てきてジガルデに抗議の声を浴びせる、いいぞ!もっと言ってやれ!

 

「まあまあ君たち落ち着いてくれ、早々に言い合いは良くない。まずは食事でもとって腹を満たしてから議論したらどうだ?ポケリゾートでしか味わえない極上のポケマメを御馳走するよ」

 

 ポケ……マメ……だと?そんなもので僕達が満足するとでも思うのか?

 

 

 

「美味い!!美味すぎる!!何なんだこのマメは!!?」

 

 まさに衝撃的な味だ!!怒りなど吹っ飛んでしまう程の極上の食感!!天にも昇る程のえもいわれぬ味わい!!爽やかだが後を引く余韻!!一体何なのだこの豆は!?

 

 モーンさんはポケマメおじさんだったのか、こんなにも素晴らしいおじさんがいるとは思わなかった。

 

『おいしー!!ポケマメおいしーね!!』

「きゅぴー♪」

「べあー!!」

「ぎゅらり!」

「ぐらぐらる!」

 

 みんなも嬉しそうにポケマメを食べている………あれ?これって人間の食べ物でいいんだよな?モーンさんも食べてるし、可食チェッカーでも問題ないと出ているので気のせいだろう。名前に惑わされてはいけない。

 

『通常では考えれられない程のOPを秘めている、やはりこの島々は特殊だ、周囲の結界も認識阻害だけではない。お前はどう見るオーキスよ?』

 

『この島自体が移動している、まるで意思をもっているようにな。平穏を願う残留思念がこの島には溢れてる、まるで世界中から集めた様な強い思念だ………そしてどこか懐かしさを感じるぞデルタ』

 

 島の考察をしながらもポケマメを食べる手を止めないデルタとオーキス、食べながら思念で会話できるのは相変わらず器用だな。

 

「美味しいだろう?このポケリゾートではポケマメが毎日潤沢に収穫できる。あの豆の木のおかげでね」

 

 いいなあ豆の木、毎日ポケマメ食べ放題か………モーンさんが育てたのかな?

 

「モーンさんがあの豆の木を植えたんですか?凄いですね、なんていう品種なんですか?」

 

「いや、私が管理を任された時には既に生えていたよ。豆の木のお世話やポケリゾートの施設の拡張は私が行っているがここは元々あった島だ、残念ながら豆の木の由来は私にもわからない」

 

「任された?その………誰に任されたんですか?」

 

「う、うーん、それはだねえ………」

 

『話してはならんぞモーン、約束を忘れたか』

 

 ジガルデがモーンさんに釘を出す、ジガルデがこう言うって事はまた未来がどうこう言うのか?正直勿体つけないでほしい。

 

「そんなに僕に秘密する必要があるの?流石にそろそろ具体的な話をしようよ、アローラで僕に何をさせたいの?」

 

 ジガルデセルを集めろとしか言われてはない、そもそもジガルデセルって何だよ?ぷにちゃん状態のジガルデの事なのか?

 

『小僧、確認だがお前は本当にアローラを知らないのか?一般的な情報という意味ではなくお前の特別な知識の話だ』

 

「えっ?それは…………」

 

 思わずモーンさんを見る、それは人前で話すのは不味いのでは?

 

『安心しろ小僧、モーンはFallだ。この世界の住人だが記憶を失う変わりにお前と似た知識を得ている。話しても問題はない』

 

 ジガルデがそれを認識しているのは何となく知ってはいたが、僕以外の人間にも知識を持つ人が居たとは………Fallってのはよく分からないけど。

 

「なるほど、ジガルデがそう言うって事はアローラは第8世代の舞台でもあるんだね、つまりアローラでもブラックナイトの様な事件が起きる。残念ながら僕にアローラの知識はないけどそういう事だろう?」

 

 あれ?なんだかジガルデは呆れているし、モーンさんも苦笑いだ。おかしな事を言ったか?

 

『まあそれでいい、それぐらいの認識の方が小僧は余計な事をしないだろう』

 

 凄い嫌な言い方だな、もしかして僕の知識ってジガルデとモーンさんに比べて古いのか?いや………古いって表現も変かな?

 

「いや、教えてよジガルデ。そんな言い方されたら気になるよ」

 

『駄目だ、そもそも知らないなら知るべきでない事はお前にも分かるだろう』

 

 いや、分かるよ?分かるけど気にはなるよね?だってこれから当事者になる訳でしょ?

 そもそも何でカロスとまったく関係ない南国のアローラでジガルデセルを集めるんだんだ?

 

 そうかわかったぞ、ジガルデが言いたくないはずだ。なんて悲しい真実なんだ………

 

「なるほど、ジガルデセル集めはいわゆるオマケ要素なんだね。結局Zが発売されなかったジガルデを救済するための………ごめんねジガルデ………」

 

 実に悪い事を言ってしまった、本人も気にしてる事をほじくり返ししてしまったようだ。

 

『か、勘違いするな小僧!!私を冠したZは満を持して世に出され全世界で空前の人気を博した!!それ以来私は常に総選挙で一位を獲得している!!』

 

「ええっ!?ほ、本当に?」

 

 話を盛ってないか?本当にZは発売されたのか?クラウンの前辺りの時期に発売したのか?

 

『と、当然だ!!その証拠をお前はアローラで目撃するだろう!!私の人気にあやかった動かぬ証拠をな!!』

 

「わ、分かったよ」

 

 そこまで言うなら本当なんだろう、ジガルデは口は悪いけど嘘を言う奴じゃない。僕はジガルデを信じる。

 

「よし!仲直りは済んだようだな?人とポケモンは仲良くが一番だからな」

 

 モーンさんの嬉しそうな声に本来の議題に気付いた。

 

「あっ!でも僕は認めないよ?なんでみんなを連れて行っちゃ駄目なの?そんなの寂しいでしょ!」

 

『お前が彼等を連れていたら一発で素性がばれてしまうだろ!!なんの為に時間をかけて極秘にアローラまで来たと思っている!!』

 

「ぼ、僕が変装すれば………」

 

『お前だけ変装しても無意味だ!!お前の仲間達に他のトレーナーが連れているようなポケモンがいるか!?』

 

「ぐっ………」

 

 くそ、反論が出来ない。みんな援護を………駄目だ、ポケマメに夢中で話を聞いていない。

 

「ユーリ君、ポケリゾートは移動する事が可能だ。君達がアローラに向かった後に追いかけよう、そうすれば距離的には君とポケモン達はそう離れる訳じゃない」

 

「えっ!?そんな機能があるんですか!?」

 

 凄いな?人工の島なのか?それなら座標見つかっても逃げれるからポケモン達が避難するには最適だ。

 

『少なくともアローラでお前に何かあったら直ぐに駆けつけられる位置までには移動させる。人に見つからなければポケモン達がある程度アローラを見て回るのを禁じたりもしない、それで納得しろ小僧』

 

「で、でもさあ………」

 

『それに小僧、お前が新たな力を得るためには今の仲間達に頼ってはいけない。新たな環境で新たな仲間を作り、新たな体験をしてこそ力の発現があると言っていたぞ』

 

「せ、せめて誰か1匹だけでも………」

 

『私がいるだろう小僧!!贅沢を言うな!!』

 

 今のジガルデは只のわんわんだからなあ………口は悪いし、レベルも20程度だし。

 

「しばらくはポケリゾートに滞在出来るんだろうジガルデ?ユーリ君とここでじっくり話し合えばいいさ、お互いが納得する答えが出るまでな」

 

『ふん、せいぜい3日が限界だぞ?急いだ方が良いのは間違いないからな』

 

 ポケマメを食べて過ごせば僕は納得出来るか?正直無理そう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てろよジガルデ!!僕はポケモントレーナーとして普通のポケモンを仲間にして来る!!僕は伝説厨じゃない!!ガラルで学んだ力を見せてやる!!」

 

 そう言って小僧はテンカラットヒルへと走り去って行く。ポケリゾートで指摘した事を根に持っているようだ、まったく細かい男だ。

 

 ここはメレメレ島1番道路、ようやくアローラにたどり着いたと思ったら小僧は休憩もせずにポケモンを探しに行った。

 そもそも唯一の手持ちである私を置いて行くのがおかしいと思わない辺り、奴はまだポケモントレーナーとしてなっていない。奴の超能力があれば滅多な事は起こらないだろうが軽率過ぎる。

 

 奴にとってはポケモン達が周りにいるのが普通なのだろう。寂しがり屋で軟弱な奴だ、私だけでは満足しない辺りも気に食わない。

 ポケリゾートには結局1週間滞在した、何時までもポケモン達から離れようとしない奴を半ば無理矢理連れて来るのには苦労した、最後はカイオーガにしがみついて見苦しく抵抗までしていた。

 

『ふん、見苦しいのは私もか………』

 

 分かっている、私が非道な事をしているのは理解している。人とポケモンを引き裂くような真似は決して褒められるような行為ではない。

 だが、ユーリはどうしてもこの島で力を得なくてはならない、Zパワーの根源を理解して使いこなせるようにならなくてはこの先の様々な試練に打ち勝つ事が出来ない。

 奴はそう言っていた、確実ではなくとも定められた未来。今や因果の歪みで無数に枝分かれした未来ではあるが、どの道の先でもユーリは試練に巻き込まれる。

 

 矛盾しているのも分かっている、試練に打ち勝つためにわざわざアローラへとユーリを連れて来て試練と危険に晒す、本末転倒とも言える行為だ。

 だがどうしても願ってしまうのだ、奴がガラルでブラックナイトでの絶望を乗り越えた様にこれから訪れる災厄にも打ち勝ってくれるのを。

 

 だからこそ私はこの身がここまで脆弱になるのを承知で監視者としての立場を逸脱した、ユーリ達が最良の未来を見せてくれると信じて力を貸したのだ。

 もちろん対策はしておいた、この地に私の欠片をばら撒いたのは誰かがそれを集めてくれれば私の力が取り戻せるのを知っていたからだ。私の欠片をアローラで集めるという行為そのものに意味がある、知識と呼ばれる流れに沿うことによって普通よりも格段に早く力を取り戻せるはずだ。

 

 ただ、この地で起こるであろう騒動がどのような形で始まり、どのように収束するかは私にも分からない。もはや紡がれた糸は知識とは似ても似つかぬ様相となってしまった。

 だが騒動自体は必ず起こる、エーテル財団によるウルトラホールの実験でウルトラビースト達の出現はもう始まっている、彼等の起こした流れを止める事は不可能だ。

 

『アローラは荒れる、下手をすればガラル以上に』

 

 だからこそユーリを連れて来た、上手く行けばユーリとアローラの両方にとって最良の結末を迎えるだろう。

 ただ、最悪の結末がもたらす被害は途轍もない。この世界自体が滅び去ってしまったウルトラスペースになる可能性も十分にある。

 

 そんな未来を観測するために私は監視者をしている訳ではない、ポケモンと人の永久の営みを見届ける事こそが私の本懐なのだ。

 その為なら私はいくらでもこの身を削ろう、持てる力を全て使って災厄を払ってみせる。

 

 私は監視者だ、健やかなる世界を観測するためにこの世界を生きているのだ。

 

「じ、ジガルデー?いないのー?」

 

 小僧の声が聞こえて来る、戻って来たのか?やけに覇気の無い声だ、やはりポケモンが仲間に出来なかったのか?まったく、世話のかかる奴だ。

 

『ここだ小僧!!まったく、一人で行くなど………』

 

 小僧の前に飛び出した私は、その姿を見て固まる。まるで時が止まったかの様に暫く固まってしまった。

 

 それほど理解し難い光景が目の前にはあった、私は幻覚でも見せられているのか?

 

『………小僧、色々と言いたいが、まずは後ろに漂っているのはなんだ?私にも分かる様に説明してみろ』

 

「えっと、さっきそこで出会ったら一緒に行きたいって言われてさ、仲間になったんだ。多分メノクラゲのリージョンフォームじゃないかと僕は思うんだよね、ふ、普通のポケモンだよね?クラゲっぽいよね…………ぽくない?」

 

 お前は出会えばポケモンのタイプが分かるだろう、“いわ“と“どく“の複合タイプのクラゲポケモンがいてたまるか。

 

『はぁ………そいつはウツロイドだ小僧。コードネームUB01 PARASITE、ウルトラホールの向こうからやって来たウルトラビーストだ』

 

「う、ウルトラ?ビースト?何それ?プルルはそんな特別な子なの?少し変わった子だと思ったけどさあ………」

 

 もう名前を付けている!?くそ、忠告しておくべきだった!!

 

 ある意味UBでもあるムゲンダイナと“スキルスワップ“して言葉を学んだこいつがUB達と意思を疎通出来るのは予想が出来ていた事態だが………普通こんなに早く出くわすか?アローラに着いて30分も経っていないぞ?

 

『小僧、百歩譲ってウツロイドの事はいい。問題はお前の姿だ、随分と変わった鎧と仮面だな?』

 

「か、格好いいでしょ?く、黒いアーマーに漆黒の仮面は10代の憧れだからね?」

 

 ユーリは全身に黒い鎧を纏っていた、顔の上半分を隠す仮面に光る七色は間違いなく“ブレインプリズム“。少し目を離しただけでこうなるとは………それに大分適応している、よほど相性が良いのか?

 

『小僧、ネクロズマに取り込まれているようだが意識に問題はないか?目眩や倦怠感などは?OPを奪われる様な感覚は?』

 

「えっ?それは大丈夫だよ、リノは“エスパー“だから波長があってさ。なんかアローラで黒ずんじゃったのを元に戻したいんだってさ、日焼けかな?何か光大好きみたいなんだよね」

 

 日焼けではない、むしろ光そのものをネクロズマは求めているはずだ。ユーリと共にいればそれが叶うと判断したのか?

 

「ジガルデはなんでも知ってるね、リノはネクロズマってポケモンなんだ?もしかしてリノもウルトラビーストって奴なの?」

 

『そうだ、コードネームUB00 BLACK、光を喰らうウルトラビーストだ。神とも崇められていた輝きの成れの果てでもある』

 

 そして太古にアローラへと光を与えたZパワーの祖でもある。今は輝きを失った光の神、何故このタイミングでテンカラットヒルに現れた?明らかに早すぎるぞ?

 ここまで乱れてしまっては知識や観測した未来を当てにするのは危険かもしれない、本当に小僧は次から次へとトラブルの種をばら撒く奴だ。

 

「ね、ねえジガルデ?そのコードネームとか設定はジガルデが考えたの?ジガルデの趣味?か、格好良いと思うよ僕は?」

 

『違う!!勘違いするな!!変な気を使うな!!』

 

 アローラに着いて早々にこれだ、しかもネクロズマを連れてしまっては星の子と共にいるのは不味い事態になるやもしれない。

 

『やむを得んな、最も選びたくなかった道で行くしかない』

 

 彼等と共に島巡りの道は中止だ、不安定ではあるがあの男の元へ行くしかない。正道とはとても言えないが得る物も多い道だ。

 

「もしかして僕なんかやっちゃった?取り返しの付かない感じ?」

 

『ふん、取り返しなら付く。お前次第だがな………いくぞ!!』

 

 ククイかハラと接触させようと思ったが予定変更だ、もはやメレメレ島に用は無い。

 

「ど、どこへ行くの?ジガルデ?」

 

『ウラウラ島だ!!イカダの準備をしろ!!』

 

 目的地はウラウラ島のポータウン、廃墟となったいかがわしき町。

 

『行くぞ!!あの島でスカル団へと加わるのだ!!』

 

「スカル団?僕が?」

 

 この選択が正しいのか観測しよう、私の信じる力が最良の未来を掴む事を願って。

 

 

 

 

 


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