自分はかつて主人公だった   作:定道

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41話 もはやここは君の知っているアローラではない

 

 朝焼けの海を眺める、グソクムシャ達は波打ち際で波の感触を楽しんでいる。

 変わらない俺の日課、変わらなすぎておかしくなっちまいそうな俺の1日始まり。

 ガキの頃から何にも変わんねえ海を眺める俺はあの頃とは変わってしまった、だけどアローラから見る海は何も変わらない、そんな事実にイラついて全てをブッ壊したくなる。

 

 だが思うだけだ、変わっちまった俺だが臆病な根っこはそのままだ。偉そうに理屈をこねる癖に行動には移さずに変わらない日常を過ごしている、無駄なあがきを重ねている。

 

「はっ………何やってんだグズマァ」

 

 グソクムシャ達に聞こえない様にポツリと自嘲する、こうやって自分を責めた気になって満足してる自分の愚かさに気付いているのに知らない振りをする。

 自分を騙すのが上手くなっちまった………いや?下手くそになったのか?それすらも分からなくなるほどに自分を偽った俺にはもう自分が分からない。どこまでが本当の気持ちか見当も付かねえ。

 

 だからスカル団という居場所に縋る、俺を必要としてくれたあの人に縋る、あの人が気まぐれで俺を利用しているのが分かっていても俺はあの人の頼みを聞いてしまう。

 これは依存心なのか?それとも恋愛感情か?自分の分からない俺に答えなど出せるはずもない。

 

 適当な流木に腰を降ろして携帯ゲーム機を取り出す、これもあの人に頼まれて律儀にやっている日課の一つだ。

 収集癖のあるあの人は俺に自分のゲーム機を渡し武器を全種類集めてくれと頼んで来た。

 馬鹿らしいと思いながらもチマチマと武器を集める俺は一体何がしたいのか?全部集めればあの人が褒めてくれる?何か見返りがあるとでも思っているのか?

 

「チッ………“Yo“ の奴またはちみつくださいだと?未だに採取方法知らねえのか?」

 

 このフレンドとは長い付き合いだ、挨拶の如くはちみつを求めて来るコイツとの付き合いを止められないのもあの人の頼みだ、“Yo“とのチャットは全て記録して伝える様にも頼まれている。

 あの人に関心を向けられる姿も見えない誰かに嫉妬する俺はやはり救いようが無い男だ、今日も偶然を装って“Yo“を大剣でかち上げる。

 

 全部ブッ壊したくなる、ふとした時に全部台無しにしてやりたくなる衝動が湧き上がって来る。

 スカル団も、あの人も、師匠も、ククイも、家族も、俺等を蔑む奴らも、俺を取り巻くアローラの全てをブッ壊したくなる。

 そして最後に自分をブッ壊す。そうすればみんな一緒だ、俺の悩みも苛つきも全て消え去る、それなら寂しくない。

 

「くだらねえなあ?グズマよぉ………」

 

 そして思うだけだ、世界を壊したい癖にいつだって世界に怯えている俺にはそんな空想しか己を慰める術がない。

 

「あ、あのーすみません………少しお時間を頂いてもよろしいですか?」

 

「ああん!?」

 

 突如かけられた聞き慣れない声に振り向く、感傷を邪魔された苛つきに自然と語気は荒くなる。 

 

「ひぃ!?ご、ごめんなさい!?」

 

「な、何だお前は?」

 

 俺は酷くマヌケな顔をしただろう、声をかけて来た奴はそれほどまでに奇妙な格好をしていた。

 顔の上半分を隠す黒い仮面に加えて、身体にも真っ黒な鎧をつけていた。厳つい格好の癖にやたらオドオドとした態度なのも奇妙さに拍車を掛けている。

 

「誰だテメエは?このグズマ様になんの用だ?ブッ壊されてえのか?」

 

「い、いえ!?ぼ、僕は実はスカル団に入りたくて………こ、声をかけたんです………よ?」

 

「はあ!?スカル団に入りたいだと!?」

 

 スカル団に入団希望だと?明らかにアローラの人間ではないコイツは何の目的でスカル団に入りたがる?

 

 まったく理由が思いつかねえ。島の人間がスカル団を探るためにスパイとして送り込むにしたらもっとマシな格好で来るだろう。グラジオの奴でもここまで勘違いした格好はしない、見たら喜びそうではあるが。

 それに、島の人間は俺達なんかに興味は無い。視界に入ると邪魔だが見えないならどうでも良いと思っているはずだ、わざわざスパイなんて送り込むはずもない。

 

「じぇるるっぷ」

 

「あっ!?まだ出てきちゃ駄目だよプルル!?」

 

 勢いよく飛び出して来たポケモン、その正体に気付いて驚愕する。あの人のお気に入りのウルトラビーストであるウツロイドが仮面のガキにじゃれついていた。

 

 警戒度を最大まで引き上げる。ウルトラビーストを手懐けているトレーナーが只者のはずがない、コイツの目的を知らねばスカル団が危険かもしれない。

 エーテル財団の人間か?いや年齢的に騙された国際警察の協力者?リーグ関係者の可能性も捨てきれない。

 仕方ねえ、考えてもわからない事は直接確かめるしか方法はない。

 

「おい!理由はなんだ?お前がスカル団に入りたい理由を言ってみな!」

 

「えっ!?り、理由ですか!?………じ、ジガルデ?どうしよう?」

 

 横にいる緑の犬ポケモンに助けを求める仮面のガキ、背丈から十代前半だろうが顔が隠れているせいで正確に推し量れない。

 声音で男なのは分かる、自分のポケモンに助けを求める姿から臆病な性格なのも伺える。

な性格なのも伺える。

 実際にポケモンと意志疎通出来ていそうなので超能力者か?

 

 なおさら分からない、格好こそ妙な奴だが道を外れた奴ら特有の擦れた感じもしない。かと言ってグラジオの奴みたいに力に飢えている訳でもなさそうだ。組織に毒されている雰囲気でもない。

 

「聞きな!スカル団は基本的には来るものを拒まねえ!だが顔も見せねえ奴を仲間と認める訳にはいかねえなあ!?まずは面を見せな!そして名乗れ!話はそれからだ!」

 

「うっ!?じ、ジガルデ?…………えっ!?いいの!?」

 

 何でいちいちポケモンに許可をとるんだこのガキは?

 

 そんな風に考えてた俺の思考は吹っ飛んだ、あまりにも衝撃的過ぎて俺のちっぽけな疑念はブッ壊されちまった。

 只者であるはずがない?それどころではなかった。一瞬で仮面と鎧が消えて現れた男の顔を俺は知っていた。

 

「ゆ、ユーリです。ジョウト地方の出身でアローラには着いたばっかりです………」

 

「知ってるぜぇ………ユーリさんよぉ」

 

 知らないはずがない、今や世界で1番有名なトレーナーと言っても過言ではないコイツを知らないはずがない。

 お前のバトルビデオは擦り切れちまう程見たよ、どの地方でも1番を手に入れるお前は俺には眩しくって仕方なかった。

 

「は、はい?どうも?」

 

 世界を本気でブッ壊そうとしたイカれた奴らを大勢ブッ壊した張本人、最近では世界が目撃する中でガラルのブラックナイトをブッ壊した。

 未来を捉える無敵の超能力者にして無敗のポケモントレーナー、知らないはずがない。

 

 風だ!!アローラに新しい風が吹いた!!クソッタレなアローラの風じゃねえ!!全てを吹き飛ばしてブッ壊してくれる最高の風がやって来やがった!!

 

「ははぁ!!最高だなグスマァ!?変わり映えのしねえアローラがブッ壊れる時が来たんじゃねえか!?」

 

「ひっ!?」

 

 ネットでも密かに囁かれている世界で最も狙われている男、こいつを手にいれた組織が世界を制するとまでエーテル財団のメガネ野郎は言っていた。

 そいつ自分からスカル団に入団しにやって来た?都合が良すぎて笑えて来る。思わず自分の頬を殴り、痛みと血の味がこれが現実だと教えてくれる。

 

「うえっ!?血っ!?血がでてますよ?」

 

 慌てたユーリが俺に手をかざすと頬の痛みが引く、噂に聞く超能力によるポケモンの技の模倣だ。これでこいつが本物なのは証明された様なもんだ。

 

「ユーリィ!!歓迎するぜえ!!ようこそアローラに!!ようこそスカル団に!!」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

 こいつが只の観光でアローラに来るはずがない、ワザワザ妙な格好で自分の姿を隠してやって来た。間違いなくエーテル財団の、あの人の計画を察知して来たに違いない。リーグの動きや国際警察共の線もある。

 ぶっ壊してくれるはずだ、自分じゃ出来ない臆病者の俺の変わりにあの人をブッ壊してくれる。ウルトラビーストの利用を企む奴らを纏めてブッ壊してくれるだろう。

 もちろん派手にブッ壊してくれるはずだ、そして世界中の奴らががアローラが秘めていた危険を目の当たりにする。

 

 そうすればアローラにポケモンリーグを招致なんて出来やしない、アローラに潜在的に潜んでいた危険を世界に知らしめてやればそんな話は何処かに吹っ飛ぶ。

 それだけじゃない、もっと世論を煽ってやれば島巡りなんてくだらない風習を、アローラの根幹そのものをブッ壊す事が出来るかもしれない。

 

 本人が隠れて何かしたがっているんだ、それを協力してやろう。行く先々で事件に遭遇して解決するこいつは必ずアローラのために動く、危険な企みを察知すればその解決に力を尽くすだろう。

 

 大っ嫌いな言葉が頭に浮かぶ、師匠からのクソッタレな言葉が今の俺にはピッタリだ。嬉しくて狂っちまいそうだ。

 

「ユーリィ!!お前の行動を俺が助けてやる!!正体が知られたくないならそれも協力してやる!!」

 

「え、ええ!?何で!?」

 

 こいつがアローラで暗躍するのを知ってるのは俺だけでいい、そうすればどの野郎の思惑も土壇場でひっくり返せるだろう。最高のタイミングでコイツをお披露目してやろう。

 

「付いてきな!!俺達のアジトに招待してやるよ!!仲間達にも紹介してやらねえとなあ!?」

 

 妙な鎧は付けたままだ。俺が言って聞かせれば詮索する様な真似をする奴はいない、仲間の過去を詮索しないのは俺達のルールだ。

 

「ど、どうして初対面の僕にそこまでしてくれるんですか?」

 

 どうしてだと………相手を活かすことが自分も活かすこと。なら未来視のユーリを活かした俺はどれほど活きることが出来る?

 決まっている、俺を取り巻く全てをブッ壊す程だ。そうだろう師匠?あんたの教えを実践してアローラをブッ壊す。

 

「お前のためじゃねえぞ!?良い言葉を教えてやる!!相手を活かすことが自分も活かすことだ!!俺は自分の為にお前を活かすんだよ!!」

 

「ぐ、グズマさん………ありがとうございます!!」

 

 最高だ!!最低でクソッタレな俺とアローラに最高の風が吹いて来た!!変わらないはずの日常は変わった!!ならば俺も変われるはずだ!!

 そして自分をブッ壊せば!!俺は完璧な自分になれる!!

 

 全てをブッ壊す強い俺に!!破壊と言う言葉を体現する俺に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グズマさんと共にアジトへ歩く、ジガルデとリノはそのままだがプルルはボールの中に入れた。ジガルデとグズマさんがむやみに人目に晒して良いポケモンじゃないって言うから仕方なくだ。

 

 僕がプルルをダイブボールに収めるとグズマさんは物凄く驚き、しばらくして大声で笑った。何でも本来ならウルトラビーストはウルトラボールじゃないと捕まえられないらしい。

 言われてみれば僕もプルルとリノをボールに登録する時に妙なオーラに阻まれた。サイコパワーでゆっくりオーラと自分のOPを同調させたら何とかなったので多分超能力者以外には難しいのかもしれない。

 

 一体ウルトラビーストってなんだ?リノは人の目が気になるシャイな子だしプルルはちょっと寂しがりなだけで悪い子じゃない。

 ただ、リノは僕にくっ付いていれば大丈夫だが、プルルの独特のオーラは人によっては少し怖いかもしれない。

 スカル団の人達を驚かさないために最初はボールに入れるのは仕方がないだろう、慣れてきたら伸び伸びとアローラの空気を吸わせてあげよう。

 しかし、グズマさんはご機嫌だな?ウツロイドをボールにしまってからはウキウキが伝わって来る。

 

『ジガルデ、ちょっとテンションがおかしいけどグズマさんは良い人だね。あの言葉には感動しちゃったよ』

 

 グズマさんにバレない様に、思念をこっそりとジガルデに飛ばす。

 

 たまにテンションがおかしくなる事ぐらい誰にでもあるだろう、僕もユウリにやんわり指摘されて自分がそうだと気付いた。

 口調も乱暴だけど関係ない、超岩鋼紅蓮隊にも似たような仲間達はいた、何だかんだ言いつつ仲間を見捨てない情に厚い奴らだった。グズマさんも彼等と同じで素直になれない人のなのだろう。

 

『いや………まあ、それでも良いのか?特に支障はないか』

 

 なんだ?歯切れが悪いな?自分が海岸にいるグズマさんに入団の意思を伝えろって言った癖に、グズマさんを信じられないって言うのか?まったく………グズマさんの良さが分かってないな。

 

「そういえばユーリよぉ、お前名前はどうするんだ?素性を隠したいならユーリのままじゃ不味いだろ?」

 

 そ、そうだ!!考えてみれば当然の話だぞ!?グズマさんは細やかな所にも気が回る人だなあ。

 顔を隠して偽名を使う事に少し苦い記憶が蘇る、ガラルでホップ達と自分を傷付けてしまった軽率な嘘の記憶。

 名前は偽っても自分を偽るのは止めよう、誰かになりきるのではなく自分のままでスカル団の人達と交流するのだ。それがせめてもの誠意だろう。

 

 しかし名前か、ユーリとジガルデでYZ?AZさんのパクリっぽくて良くないかな?纏ってるリノがウルトラビーストだからUY?何か語感が良くないな?

 そうだ!シンプルに一文字でいこう、結果的にNのパクリっぽい気がするのは偶然だ。

 

「僕の事はこれからUと呼んでください、僕はアローラではそう名乗ります」

 

「ユー?ああ、Uってことか?お前はグラジオと気が合いそうだな………まあいい、今からお前はUだ。ボロ出すんじゃねえぞ?」

 

 グラジオ………誰だろう?N見たいな人か?あの不思議イケメン君がそう何人もいるとは思えないけどアローラならあり得るか?想像以上に人材の宝庫なのかもしれない。

 

「グズマさん、アジトってどんな所ですか?海辺の洞窟とかビルとかゲームセンターの地下とかですかね?」

 

 アジトって物は大体そういう所にある、実体験だから間違いない。

 

「ポータウンっつう廃墟の町がそのままスカル団のアジトだ、お前も好きな所に住んで構わねえ。俺も住んでるいかがわしき屋敷でもいいぞ」

 

「ま、町がそのまま!?凄いスケールですね!!流石ですグズマさん!!」

 

 会社とか博物館とか研究所を乗っ取るレベルじゃない、町そのものをアジトにしてしまうとは恐れいった。

 きっと義に厚いグズマさんが文句を言いながらも町を守っているんだろう。

 ………それにいかがわしき屋敷?ちょっとエッチな響きに胸が高まる。

 

「おい、あんまり勘違いするなよ。カプ共の怒りを買って放置されていた町を勝手に占拠してるだけだ、大した町じゃねーぞ」

 

「カプ共の怒り?カプって集団がいるんですか?」

 

 なるほど、カプ団って奴らが本物の悪の組織なのか?スカル団はそいつらに対抗するダークヒーロー的な位置付けか?

 

「ちょっと違うな、アローラにはそれぞれの島に守り神と呼ばれるポケモンがいる。そいつらをカプって呼ぶんだよ、このウラウラ島にはカプ・ブルルがいる」

 

「へえー守り神のポケモンですか?でも町を廃墟にするなんて物騒ですね、二面性の激しいポケモンなんですか?」

 

 怒って町を廃墟にした?随分と乱暴なポケモンだ、ブルルって僕のプルルと若干被ってる。トルネロスとボルトロスみたいに人に意図的に危害を加える奴らなのか?

 まああいつ等もランドロスが言うには豊穣をもたらす為には必要な存在らしい。稲光を伴う嵐の後には豊作が約束されるとか何とか言っていた。

 ポケモンとは何も恩恵だけを人間に与える訳じゃない、片方のみを享受出来ると思うのは人間の傲慢なのかもしれない。

 

「アローラではあいつ等の行動が全てだ、町を廃墟にされたらその町が悪くて、あいつ等に認められないのはそのトレーナーが悪いってな。くだらねえ信仰だよ、あいつ等は確かに俺等を守っているが同時に突き放しもするのさ」

 

 そういうグズマさんは自嘲的な表情だ、昔何かされたのかな?少なくとも良い思い出ではないのだろう。

 

「だけど、今ポータウンをスカル団の物にしていてもカプが動かないのは彼等がスカル団を認めているってことですよね?守り神のお墨付きってことですね」

 

「はっ、興味がねえだけだよ、俺達なんて眼中にねえだけだ」

 

 あんまり嬉しくなさそうだな………でも嫌がってもなさそう?

 まあ、地元で有名なポケモンだからって無条件で好きって訳でもないか、僕もルギアに襲撃されて以来は若干ルギアアンチだ。何が海の神だ、“みず“タイプも持っていない癖に生意気だね、僕のアルファにこそ海の主は相応しい。

 

 

 

 しばらくグズマさんと歩くと壁に囲まれた町にたどり着いた、ここがポータウンらしい。

 

「廃墟の町って言う割には綺麗ですね?スカル団で復旧したんですか?」

 

 全然廃墟感がない、壁のスプレーアートはスパイクタウンと似てるけど清潔感はこちらの方が上な気がする。南国特有の色鮮やかな花がそこら中に植えられているのが原因かもしれない。

 でも町の規模はあっちの方が上だから一概には言えないかな、あそこは慣れればいい町だった。マリィが旅に出てしまったネズさんは元気にやれているかな?

 

「3年前にうるさい奴が入団してな、おかげでいかがわしき町はこの有様だぜ」

 

「それは私のことですかグズマ?貴方にも承認は得たはずですよ」

 

 町の入口に入った僕達にかかった声、少し凛々しい感じの女性の声だった。

 

「チッ、分かってるよ。取り決めを覆したりはしねえ、だからお前の好きにさせてんだろリラ」

 

 グズマさんにリラと呼ばれた女性、黒いスーツを着こなした紫の髪で少し中性的な美人だ。おいおい、スカル団って最高かよ?

 しかしリラ?紫の髪だし………でも気にする事もないだろう。僕の知る限りホウエンにバトルフロンティアは存在しない、その予定もなかったはずだ。年齢も違っていて、とても子供が醸し出せる色気ではない。

 それに本人だとして何の問題がある?この世界で普通に生きているだけだ、タワータイクーンじゃなくてもこの人はリラなのだ。

 

 知識は確かに世界の未来と強いトレーナーやポケモンを教えてくれるが絶対ではない、それは今までの旅で散々思い知っている。僕はこの女性と知識なんか関係なしにお近づきになればいい。

 

「さて、私はスカル団のリラと申します。貴方は何の用事でこの町へ?もしかしてグラジオの友達ですか?」

 

 グラジオさんと僕はそんなに波長が合いそうですかね、グラジオさんも鎧と仮面を纏っているのか?

 

「僕はゆ、………Uです。先程グズマさんにスカル団に入る許可を頂きまして、今日からスカル団に入団させて貰います。よろしくお願いしますリラさん」

 

「入団!?グズマ………スカル団の拒まない方針は私も好ましく思っていますが流石に若すぎるのでは?まだ小さい子供です」

 

「おいおいリラ、こいつは成りこそ小せえがスペシャルだぜ?この後全員を集めてUの紹介を兼ねた重大発表をする、お前も捜索部隊の奴らを招集しろ、今日の作戦は中止だ」

 

 うーん、悪意なき言葉が僕を傷付ける。ぎりぎり平均身長に届かないだけだよ?そこまで小さくはない。

 

「グズマ、勝手な事を言わないでください。取り決めを覆したりはしないのでは?」

 

「その取り決めの内容にも関わる重大な発表だよ、悪い様にはならねえ。騙されたと思って屋敷に来な、昼頃までには全員集められるだろ?」

 

「………分かりました、ひとまずは信じます。ですが私は簡単に前言を撤回したりはしませんよ」

 

 う、何か険悪?嫌い合っている訳じゃないけど意見を違えてる感じか?ここは僕が場の雰囲気を変えなくては。

 

「い、いやー花に溢れた良いアジトですね、色んなアジトを見てきましたがその中でも1番ですよ。何て名前の花かなー?ハイビスカスかな?」

 

『小僧、少し空気を読め』

 

 だ、だめかな?お花はみんなの心を癒やしてくれるでしゅ………だよねシェイミ?

 

「ごめんなさいU、貴方が悪い訳ではありません。見苦しい所を見せてしまいましたね………花は全てグズマニアという名前です、鮮やかで素敵な花でしょう?」

 

「チッ、花なんてどうでもいい。行くぞU、とりあえず屋敷の奴らにお前を紹介する」

 

 グズマさんがさっさと先へ行ってしまう、僕はリラさんにお辞儀をして急いで追いかける。

 しかし捜索部隊?珍しいポケモンでも探しているのかな?

 

 

 

 スカル団の本拠地であるポータウンの1番奥にそびえ立ついかがわしき屋敷。随分と立派なお屋敷だがあまりいかがわしい要素はなかった。ちょっと残念。

 グズマさんは僕を広間へと連れて行き、そこにに居た数人に僕を紹介した後で僕に飯でも食って待ってろと告げて自分の部屋へと行ってしまった。

 残されて気まずい思いをする事は無かった、団員達は特に反対する事なく僕を歓迎してくれた。皆にグラジオの知り合いかと聞かれたのには少しだけ参ったけど。

 

 スカル団副団長のプルメリさんは僕に手料理を振る舞ってくれた、見た目は怖いけど家庭的で優しい人だ。ヤドンのしっぽの煮込みはアローラの郷土料理らしい。

 俺等は下っ端団員だと自称する人達も僕の姿には少し驚いていたが特に詮索する事はしなかった、何でもスカル団では仲間の過去を詮索するのは御法度らしい、今の僕には非常に有り難い決まりだ。

 そして僕がアローラに来たばかりな事を告げると後で島を案内してくれるとも言ってくれた、フレンドリーな対応に僕も一安心した。

 

 だが問題はあった、広間はバーの様な作りでその隅のテーブルに問題が存在した。

 そこには堕落があった、2人の男女が朝から酒の飲み比べで勝負をしていた。酔っ払い共のテーブルと足元には大量の空瓶が転がっている。

 それだけならぎりぎり問題では無かった、問題はその飲み比べをしている人達そのものだ。

 

「俺はどんな勝負でも自分から降りたりはしない………ウェッ」

 

 男は元イッシュ四天王のギーマさんだ、2年程前に四天王を辞めたのはニュースで知っていたがアローラに来ていたとは。

 青い顔で吐き気を必死に堪えている、昔リーグで会った時に比べてやつれている。格好も崩れている………着流し?キザっぽいスーツは辞めたのか?

 

「あはは!飲み比べで私の右に出る者はいないわ………オェッ」

 

 女は元カントー四天王のカンナさんだ。キョウさんが四天王に就任してカンナさんは四天王ではなくなった、割と有名な去年のニュース。

 メイクと服装バッチリと決めて凛々しかった彼女はもういない、乱れた髪でプルメリさんが用意した桶に顔を突っ込んでいる。

 

 時の流れは残酷だ、記憶の中のギラギラした彼らはそこにはおらず、朝から呑んだくれてるダメな大人と成り果てていた。

 ここはポケモンリーグの流刑地か?人知れず表舞台を去ったトレーナー達はアローラへと流れ着くのか?悲しすぎる………

 

「U、酔っているこいつ等に絡まれたら無視しな。普段はそれなりに頼りになる奴らだけど酔ってる時は只の役立たずだからね」

 

「はい、そうします」

 

 酔っ払いに絡まれる程面倒な事もそうない、今はゲロゲロしてるし酔っているので新入団員の僕にすら気付かない有様だ。

 まあ二人と一度戦っただけだからリノを纏っていれば正体を看破される事もあるまい、念の為には声も変えとくか?超能力を使えば口内の空気の震えを操り割と簡単に変声が可能だ。

 

「それとグズマの奴がアンタを紹介する為に全員を集めてる、昼ぐらいにはみんなアジトへ帰って来るから挨拶でも考えてもおきな」

 

「そうですね………アローラって言った方がいいですかね?」

 

「止めときな、普通にアンタの言葉でいいんだよ。ここの奴らはアローラに対して屈折した想いをもってるからにわかな事はよした方がいい」

 

「な、なるほど、参考になります」

 

 そっか、にわか関西弁みたいなものかな?どうしようかな?一発芸の空中に浮かびながら光る奴をやるか?あれは受けが良い、僕の鉄板のサイコジョークの一つだ………でも正体が露見するか?

 

「フッ………お前がUか?中々興味深い格好だな、悪くない」

 

 挨拶に悩む僕に声がかけられた、振り向くと広間の入口の扉にもたれかかって腕を組む金髪の少年が居た。

 

「グラジオ、空調の冷気が逃げるから早く扉を閉めな。前にも言っただろ」

 

「フッ………憎いヤツだ」

 

 そう言いながらも素直にポーズを崩して広間に入って来るグラジオ君。なるほどこういう感じか………僕はこいつと同じカテゴリーで認識されているのか………

 

「俺の名はグラジオ、スカル団で用心棒をしている。この組織は牙を研ぐのに丁度良い。お前もその口か?」

 

 うーん、Nとは違った方向性のイケメン困った君だ。面が良い分ちょっと様になっているのがむかつく。

 

「ご丁寧に………僕の名はU。スカル団には捜し物の為にやって来た。牙は既に研いであるよ、これ以上は不要さ」

 

 あれ?何か僕も引っ張られてる?でも溢れる言葉を止められない。

 

「フッ………大した自信だ。だがお前の連れているポケモンが真実なのを語っている………随分と研ぎ澄ましているじゃないか」

 

「フッ………そう言う君のポケモンも良い面構えだ、強く在ろうとする意思を感じる」

 

 珍しいポケモンだな………被っているのは仮面か?初めて見るポケモンだ。アローラ特有の種かな?

 

「なるほど、ヌルの闘志を読み取るか。俺の相棒は貪欲で常に飢えているのさ」

 

 なるほど、プルメリさんの出したポケモンフードにがっ付くヌルは確かに貪欲で飢えていたようだ。

 しかしヌルだと…………くそ!?格好良い名前だ!!そのままのジガルデじゃ負けるぞ!?オシャレさが足りない!!

 

「ヌル………良い名だ。こいつは俺の相棒のゼロ、捜し物はコイツの力を取り戻すためさ」

 

『おい小僧!?勝手に妙な名をつけるな!!』

 

 我慢してくれジガルデ、ヌルに対抗するニックネームはゼロしかない、耐えてくれ。

 

「失われた力か………抗うのはトレーナーとポケモンのサガだ、俺も手を貸してやる」

 

 あれ?もしかして良い奴?やっぱり先入観に囚われるのは駄目だよね。

 

「礼を言う、君も牙を研ぎたいなら声をかけてくれ。力になろう」

 

「フッ………」

「フッ………」

 

『小僧?ウツロイドの毒が頭に回ってないか?お前は本当に正気か?』

 

 僕は正気さゼロ、良く考えたら僕は14才で何も恥じる事は無い。格好良い物を好むのは当然だった、格好良い言葉が溢れて来るのも当然だ、自分の気持ちに嘘は付くべきではない。

 ミカンには謝らなくてはいけない、あの仮面とバトルアーマーのデザインは今思うと悪く無かった。やっぱり黒だよね、男なら黒に染まるべきだ。

 

 良い感じだなスカル団、一部ダメな大人がいるけど気の良い人ばかりだ。あの人達もトレーナーとしては一流だからそこは頼もしい。

 

「おいU、飯は食ったか?少し話があるから俺の部屋まで来い」

 

「グズマさん了解ッス!!直ぐに行くッス!!」

 

 レックス、僕はアローラで立派にスカル団をやってみせるよ。

 

 見守っていてくれ、偉大なるガラルの大地で………


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