自分はかつて主人公だった   作:定道

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42話 あなたはそこにいますか?

 グズマさんの部屋は割と散らかっていた、大きなベッドにまるで玉座の様な椅子、そして箱一杯に溢れる結晶が目に付く部屋だ。

 

「適当に座れU、確認の為に少し話をするぞ」

 

 グズマさんは玉座の様な椅子に座ったので僕も普通の椅子に腰掛ける、部屋で話すという事は他の人に聞かれたくないのかな?

 

「ちょっと待ってくださいグズマさん、他の人に聞かれないようにフィールドを展開します」

 

 部屋の形に合わせて超能力でフィールドを展開する、これで壁に耳を付けようが、超能力で盗み聞きしようが、特殊な機器で盗聴しようが無駄だ。

 イツキさんに改めて伝授された超能力、最新のデバイスにも対応しているスペシャル仕様だ。

 

「いいねえ、さすが最強の超能力者だ。お前となら悪巧みし放題って訳だ」

 

「ありがとうございます、もう最強じゃないですけどね」

 

 クラスで言えばカトレアさんの一個下になったし、技量ではイツキさんに勝てないだろう。エスパー協会の所属にはまだまだ猛者が潜んでいるはずだ、とても最強は名乗れない。

 でも超能力のレパートリーには自信がある、ポケモンの技の模倣が出来る超能力者は少ない。

 僕の知ってる人ではナツメさんぐらいだ、噂でフウとランも使えると聞いたことはある。だけど僕はあの双子に会った事がない、僕がホウエンを旅してた時はまだジムリーダーじゃなかった。

 

「おいおい寂しい事言うんじゃねえよ、これでも俺はお前のファンなんだぜ? お前の活躍には詳しい、もちろんトレーナーとしてのお前もな。少し前のガラルでのブラックナイトについてもかなり調べたぜ?」

 

「そうなんですか……少し照れますね」

 

 面と向かって言われると恥ずかしい、グズマさんに褒められて嬉しくない訳じゃないけどそこまで持ち上げられるのはむず痒い。

 

「さて、俺がお前について詳しいのは分かっただろ。次はおまえがこっちをどこまで知っているのか話してくれ、言える範囲でも構わねえ」

 

 僕の話……どこまで話して良いのか? ジガルデに目を向ける。

 

『未来についてと特別な知識、それにポケリゾートに関する事を除けば正直に話して構わん。お前の判断で明かす範囲を決めろ』

 

 ジガルデの思念を受けて頷きを返す、それならばなるべく隠し事はなしでいこう。仲間となるのなら出来るだけ誠実でなくてはいけない。

 

「スカル団に入団を希望したのはジガルデに言われたからです、僕が求めている物を手に入れるにはそれが1番良いと助言されました」

 

「ジガルデ? もしかしてその犬ポケモンか? ブラックナイトでお前と戦っていたあの巨大なポケモンがジガルデじゃねえのか?」

 

 まあ普通は結びつかないよな、カラーリングは一緒でも進化前だと思うのが自然だ。進化せずに己の分体の集まり具合によって姿を変えるジガルデはかなり特殊なポケモンだろう。

 

「ジガルデは力を失って今の姿になったんです。だけどアローラに予め放っておいた自分の欠片を集めれば力を取り戻せる、僕の目的の一つがそれです」

 

 何でも時間をかけて100%以上の自分を作って放ったらしい、自分がガラルで力を失う前提での無茶な行為だと言っていた。そこまでしてくれた事実に嬉しく思うと同時に申し訳なくも思う。

 

「ほお、面白いポケモンだな? だけど目的はまだあるんだろう? 教えてくれよ」

 

「はい、後は精神を壊された人の治療方法と僕自身の自衛の為の新しい力を求めてやって来ました、アローラに来ればそれが手に入れるらしいのです」

 

 ジガルデは具体的な事については何も教えてくれない、もどかしくもあるけど必要な事なのだろう。僕はジガルデを信じる。

 

「らしい? お前の未来視も完璧じゃねえって事か? それともお前の未来視は噂通りバトルに限った物で、それもジガルデが教えてくれたってのか?」

 

「後者が正解ですグズマさん、僕は実際に未来なんて見えません。ちょっとした占いぐらいは出来ますけどね」

 

 僕は超能力による予知は出来ない、あれは超能力の中でもかなり特殊な力で使える者は少ない。使い手で有名なのはナツメさんやゴジカさん、実際に使っている所を見させてもらったけど殆ど模倣は出来なかった。

 僕の予知能力は少しだけ当たる占い程度の力しかない。

 

「それだけなのか? ウルトラビーストやそれにまつわる計画については? ウツロイドを捕まえているだろう?」

 

 ウルトラビーストにまつわる計画? そんなものがアローラには存在するのか?

 

「すみませんグズマさん、プルルとリノはアローラにたどり着いて直ぐに偶然仲間になっただけです。ウルトラビーストについてはまったく知識がありません」

 

 僕はリノにお願いして一時的に鎧状態を解除してもらった、黒いプリズムに手足が生えたリノ本来の姿を披露する。

 

「なっ!? そいつもウルトラビーストなのか!? 人にくっついて鎧になるウルトラビースト……少なくとも俺の知識にはねえな」

 

「ネクロズマっていうらしいです、ウルトラビーストに詳しそうなグズマさんでも知らないんですね」

 

 そもそもウルトラビーストって何だ?多分ウルトラホールの向こうからやって来たポケモンの事だろうけど、なぜ彼等この世界にやって来る?

 プルルが言うには寂しかったからで、リノは黒ずんだ自分を元に戻したいらしい。根本の原因とは関係ない個人の望み過ぎて僕の知りたい答えには遠い。

 

「そうか、お前は知らないのか? だがジガルデは分かっててお前をここに連れてきたんじゃねえか? お前はそれでも納得できるのか?」

 

 そっか、グズマさんから見れば僕はジガルデに騙されて騒動に巻き込まれている様に見えているのか。

 

「グズマさん、アローラで何かが起こるとしか僕は知りません。ジガルデは知っているのかもしれませんが話せないみたいです」

 

「そう思ってんだろ? それならよ……」

 

「でも僕はジガルデを信じています、ガラルで身を削ってまで僕達を助けてくれた彼に報いたいとも思っています。だから心配いりません、巻き込まれる覚悟は出来ています」

 

『小僧……』

 

 盲信してはいけない事は分かっている、だけど僕は確かな体験としてミカンを取り戻す事ができた。知識ではない、旅で得た学びとして僕はジガルデを信じる。

 

「ちっ……悪かったなU、ジガルデ。外野がとやかく言う話じゃねえな、つまらねえ事を聞いちまった」

 

「いえ、グズマさんは僕を心配して言ってくれたんですよね。なら気にしませんよ」

 

「違えよ、俺は条件が明確じゃないのが気に食わねえだけだ。仮初の目標なんて虚しいだけだからな」

 

 そう言うグズマさんの言葉には実感がこもっていた、さっきリラさんとも話していたけどグズマさんは人と交わした約束を重視する人のようだ。

 

「まあいい、長くなるが黙って聞け、質問は後にしろ。今後のお前のアローラの行動に関わってくる話だ」

 

「はい、グズマさん」

 

 スカル団やウルトラビーストについて色々教えてくれるのだろう、姿勢を正して話に集中する。

 

「俺がお前を助けるって言ったのは嘘じゃねえ、そうする事で俺にもメリットがあるからだ。だが、他のスカル団の奴らにとっては違う、俺のメリットはあくまでもお前がユーリだと知っているからこその物だからな」

 

 グズマさんのメリット? 気にはなるが質問は後にしよう。

 

「お前が他の団員達にも欠片集めを手伝ってもらいたいなら、奴らにも何かメリットを提示してやらねえと駄目だ。仲間との取引は公平に行うのもスカル団のルールだ」

 

 それは当然だろう、与えられるだけの関係は仲間とは言い難い。

 そして、どこにあるかも分からない欠片をアローラ中探し回るのは今の僕一人では難しい、超能力による探知を使いつつ正体知られずにそれを集めるのは不可能だろう。

 土地勘がないのも問題だ、だから現地での協力者は多い方がいい。団員の皆に手伝ってもらえるのなら心強い。

 だけどメリットか……ガンテツボールとかどうだろう? お別れ会の時にガンテツさんに追加でかなり貰った。でも団員全員分は流石にないかもしれない。

 

「今スカル団の奴らの望みは大きく分けて3つだ。1つ目はカンナとギーマの奴らとつるんでアローラへのリーグ招致を阻止したい奴ら。最近ククイって奴が主導でアローラにポケモンリーグを作ろうって計画が動いている、それを白紙にするのが目標だな」

 

 リーグ招致を阻止する? 何でリーグが出来るのが嫌何だろう? トレーナーとしては歓迎するべきじゃないのか?

 

「リーグを作るとは言っても恐らく他の地方に比べればショボい奴になる。何せジムを作らずに島巡りで挑戦権を与えようって言うんだ、形だけのおままごとになる可能性が高いな」

 

 ジムを作らない? バッジを集めてトーナメントをする形じゃないのか? 島巡りって言うのがそれに該当するのかな?

 

「今のアローラにはリーグの奴らが喉から手が出る程欲しいものが彷徨っているからな、アローラにリーグを作るってアメを与えてそっちを要求するつもりだろう。島民達の反応は若干否定に寄ってる、特に老人共はほぼ反対派だな」

 

 何かそう聞くと駄目な気がする、具体的な内容は知らないけど半分以上の島民が反対しているなら止めたほうが良さそうだ。リーグの中には権力を振りかざして強引な手段に出る人種も少なからずいる。

 

「2つ目はリラを中心として、アローラに出現しているウルトラビーストを保護したい奴らだな。ウルトラビースト達は放って置くには危険過ぎる、まだ人的被害は出ていないがホテリ山の地熱発電所の一角はブッ壊された」

 

 発電所の一部を壊した? ウルトラビーストの中にはそんなに危険な存在も居るか……プルルとリノは良い子なのに。

 

「カプ共は何故か動かねえ、だが一度動き出したら奴等は徹底的にやる、撃退なんて生易しい対処じゃなくて駆除だ。リラ達はそうなる前にウルトラビースト共を大人しくさせたいが上手く行ってねえ、何とか被害が出ないように追い返すのに精一杯だ」

 

 島のトレーナー達や司法機関は対処しないのか? 流石に発電所が壊されたら無視は出来ないだろう。

 

「島キングやキャプテン達は動かねえ、カプ共の許しがなけりゃあいつ等は力を振るえない。無視して行動すればZ技の源を取り上げられてそもそもウルトラビーストに対抗出来なくなるだろうな、ビーストオーラと呼ばれる奴等特有の力に有効なのはいまのところZ技だけだ」

 

 Z技はよく分からない、けどビーストオーラはプルルとリノのボールを弾くアレだろう。触れた感じ自身の能力を向上させているので多分戦闘においてもかなりの効果を発揮する。

 

「そして島の警察でウルトラビーストに対抗出来る実力者は一人しかいねえ、そいつは島キングも兼ねているから役立たずだ。発電所の件は今の所は只の事故って事になってはいるが、その内普通の島民達も気付く、ウルトラビースト達の存在にな。そしたら大騒ぎになるだろうよ」

 

 はぐれポケモンが町に被害を出すケースはそれなりにある、そして大抵の末路は……

 

「その時が時間切れだな、島民の総意ともなれば流石にカプ達も動く。万が一に動かない場合は外部に助けを求める。そうすればカプ共とウルトラビースト共を纏めてねじ伏せる実力者達がやって来る。いわゆるチャンピオン級の実力者達、もしくはリーグの伝承災害対策室のエージェント達がやって来るだろうな」

 

 ポケモントレーナーとしてのバトルではなく、人間にとって危険なポケモン達との命をかけたバトルのエキスパートが伝承災害対策室のエージェント達だ。

 彼等の目的は基本的に捕獲ではなく駆除だ、彼等が動く時にそのポケモンは死ぬ事になる。

 

「今は何とか抑えられている、だがウルトラホールの出現頻度はどんどん上がっている。手遅れになる前に根本的な対策をしてウルトラビースト達を保護したい、それがリラ達の望みだ」

 

 根本的な解決? そもそも何でウルトラホールが出現するのかが分からないと無理な気がする。

 

「そして3つ目……これは俺の望みでもあるな、島巡りに失敗した落伍者である俺達スカル団全員が心の内に抱いている望みだ」

 

 島巡りに失敗……言い方は悪いがドロップアウトしてしまった人達が集まるのがスカル団なのか。

 

「アローラをブッ壊す、それが俺達の望みだよ」

 

「グズマさん、それは……」

 

 いくら何でも看過出来ない、聞かなかった振りを出来る発言ではない。

 

「まあ落ち着けやU、ブッ壊すつっても物理的な意味じゃねえよ。俺達が壊したいのはアローラの空気だ、俺達に普通や当たり前を押し付けてくる島巡り、それにまつわる常識をブッ壊してやりたいって意味だよ」

 

「アローラの空気と常識?」

 

「トレーナーを志す子供は島巡りして当たり前。失敗すれば本人とそのポケモンに問題がある。正しい心の持ち主なら必ず島巡りは成功する。そんなクソみたいな風潮のことだ、アローラにはそれが蔓延している」

 

 それは……悲しいな。自分の旅を周囲に否定される、自分自身で否定するよりも悲しい事だろう。僕には推し量る事しか出来ない。

 

「グズマさん、島巡りとはどんな事をするんですか? 他の地方のジムバッジを集める様なものですか?」

 

「まあスケールは小せえが大筋は同じだ、4つの島を回ってキャプテンに島キング、島クイーンと呼ばれるトレーナー達の試練を乗り越え、その過程で挑戦者はZ技と呼ばれる力を手に入いれる。期間はひと夏の間で再挑戦は認められていねえ」

 

 再挑戦が認められていない? それはかなり厳しい条件に思える。期間についてはアローラの規模を考えれば妥当な気もするけど、試練の内容が分からないから判断がつかない。

 

「試練の内容はどんな物なんですか? やはりポケモンバトルですかね」

 

「基本的にはそれだな、後はバトルの前座としてお前がガラルのジムチャレンジでやっていた事を屋外で行うのをイメージしろ」

 

 じゃあそこまで理不尽な内容はない? いや、正直トレーナーとは全然関係ない事をやらされる時点で理不尽な気がするぞ? バッジを56個を集めて改めて思うけど、基本ろくでもない内容だった気がする。

 ゴミ箱のスイッチを探すのは絶対トレーナーには関係のない試練だ、僕は透視してクリアしたけど。

 

「問題は達成の基準だな、リーグに管理されているジムの様に明確な合格基準がない。バトルに勝てなくても試練達成になる場合もあるし、バトルそのものをしない試練もある。裁量はキャプテン達の自由だ、島巡りキングとクイーンはポケモンバトル必須みたいだけどな」

 

 それはどうなんだろう? ジムは無茶苦茶やっている様に見えてもリーグの監査を受けている、ポケモンバトルをしないなんて事もあり得ない。それに……

 

「もしかしてバトルに勝っても認めて貰えない事もあるんですか? キャプテン達の機嫌を損ねたら駄目だったり……」

 

「流石にそれはねえな、あいつ等は選ばれた自負を持っているだけあっての誇りは持っている。敗北を認めないなんて事はしねえよ」

 

 そっか、敗北はきちんと受け入れるのか。僕には少し耳の痛い話だ。

 

「問題はカプ共だな、試練を全て乗り越えてもあいつ等が認めなきゃZリングは貰えずZ技も使えねえ。結局は島巡り失敗だ、アホらしい話だよ」

 

「その、カプ達は理由を教えてくれないんですか?」

 

「少なくとも俺は教えられなかった、唯一カプ共とコンタクトが取れる島キングとクイーン達は何も言ってくれやしねえ、ただ諦めろだとよ」

 

 理由を教えて貰えないのは辛いな、自分の全てを否定された様に感じてしまうかもしれない。

 

「結局これは人間側の問題だがな、元々トレーナーという言葉がなかった時代、限られた人間しかなれない“操り人“がカプ達に認められる為にジャラランガに挑んだのが島巡りの原形だ。モンスターボールの普及で“操り人“はトレーナーとなり、島巡りは今の形になった。門口の広がりによる挑戦者の質の低下、それがカプと挑戦者との齟齬になっている。あいつ等は結局今も昔も強い人間を求めているだけだな」

 

 “操り人“、モンスターボールがなかった時代でもポケモンと心を通わせて共に戦う事が出来た人達だ。テレパスが使える超能力者の割合が多かったと言われている。

 

「本来は限られた実力者の為の試練が島巡りなんですか? なぜトレーナーなら全員挑戦する事になったんですか?」

 

「本来は任意参加だよ、だけどそんなのは周りが許さねえな。『お前もトレーナーなら当然挑戦するだろう?』 『正しいトレーナーなら必ず試練を達成出来るぞ!』 そんな当たり前を押し付けて来るんだよ、勝手な期待と願望をセットでな」

 

 同調圧力って事かな、期待されるのは嬉しいけどその反面怖いのはよく知っている。

 

「だからアローラでトレーナーをやるには覚悟が必要だ、島巡りに失敗すれば出来損ないだからな。まあそれがアローラのトレーナーの質を高める事にも繋がっているのも事実だ、他の地方に比べてもOPの平均が600程度高いってデータがある。人口に対してトレーナーの比率が低いのも事実だがな」

 

 試練の内容は変わっても“操り人“の選別として島巡りは機能しているって事か? だからこそカプ達も今の島巡りを認めている?

 でもそれは悲しい体験をするトレーナー達を増やしている事でもある、ポケモンとのは旅は楽しいものであって欲しい僕の傲慢な考えなのかもしれないけど。

 

 今の島巡りは正しいのか? それとも間違っているのか?

 

 グズマさんとスカル団の人達は恐らく間違っていると思っている、自分達がそんな扱いをされたなら当然の考えだろう。

 では僕は? 正直グズマさんの話を聞いて若干否定寄りにはなった、だけど僕は実際に島巡りを体験した訳でも目撃した訳でもない。

 

「グズマさん、島巡りに対する答えを今の僕は出せません。自分で見てもいない物を否定する事は出来ない」

 

「構わねえ、後2ヶ月もすれば今年の島巡りが始まる。実際にお前が挑戦者達の試練の結末を見てから判断すればいい……まあ今年の挑戦者は大分少ねえみたいだがな」

 

「ありがとうございます、グズマさん」

 

「これでスカル団の3つの望みは分かっただろ? そしてお前はその3つ全てを叶える為の術を持っている」

 

「3つ全てですか? ウルトラビーストを保護するのは手伝えそうですけど」

 

 プルルとリノとは意思疎通出来た、他のウルトラビースト相手でも恐らく可能だろう。それにふわふわちゃんのウルトラホールを開く能力、上手く力を貸して貰えば事態の根本的な解決が可能かもしれない。

 もしかしてふわふわちゃんもウルトラビーストなのか? でも特有のオーラは感じないし、カンムリせつげんに居たのも謎だ。ウルトラホールを移動に使っていたアクロマなら何か知っていたのか? ウカッツさんの精神を破壊して逃亡した奴は未だに行方が分かっていない。

 

「いや、お前がウルトラビーストの保護に力を貸してくれるなら3つの望みは纏めて叶う」

 

「纏めてですか?」

 

「ああ、ウルトラビースト達を全て保護して元の世界に返してやる。そうすればリーグ側の旨みは無くなる、奴等の狙いはウルトラビーストだからな、これで2つは一遍にクリアだ」

 

 うーん、どうなんだろう? 僕もボロカス言ってはいるけどリーグ本部は何も悪人の巣窟って訳でもない。あくまで一部が腐っているだけでジムの運営事態は健全だ。

 本来のリーグの理念はジムとリーグの運営によるトレーナー全体の育成、リーグの放映などの広報活動によるトレーナー人口の拡大、そしてトレーナーによるポケモンと人との健全な関係の維持。だからリーグを開催する地方を増やすっていうのは本来の行動理念に沿った活動だ。

 もちろん利権や収益の見込みも考慮の対象にはなる。だけどアローラは観光地としての知名度と人気は高い、グズマさんが言っている事が事実ならトレーナーの質も高いのだろう。素人考えではウルトラビーストを抜きにしてもリーグを設営する価値は十分にある気がする。

 

「そしてカプ達にキャプテンや島キングとクイーン、奴等じゃなくてスカル団こそがウルトラビーストの驚異からアローラを救った事を大々的に公表する。そうすりゃどうなると思う?」

 

「カプ達への信仰とキャプテン達への信頼が揺らぐ……ですか?」

 

 果たして島の人達はそれが事実でも信じるのか? それにカプ達が信仰を失うのはかつてのレックスの様に弱体化を意味するのではないだろうか?

 下手をすればアローラという島の根幹を壊してしまうのではないか? 今までこの島にあった秩序が失われるのではないか?

 

「そこまで行きゃあ俺としては大喜びだが無理だろうな、アローラに根付いた信仰はそう簡単に揺るがねえだろうよ。だが島巡りに対する考え方には一石を投じるはずだな」

 

「カプ達の意志とは別に独自に動けるトレーナーの必要性、島巡りが切り捨てたトレーナー達の有用性……そういう事ですかね?」

 

「そうだな、トレーナーの数っていうのは本来その地方の力だ。質を重視と言えば聞こえは良いが結局は運任せの才能頼り、なまじカプ達が強力だからアローラには数に対する危機感がねえ」

 

 アローラは広大ではないが、小さいとも言えない。トレーナーの数は多い方が良いのはどの地方でも同じだ、時に人間に牙を向く野生のポケモンに対抗出来るのはトレーナーだけだからだ。

 一部の超能力者や身体能力強化者には例外もいるけど全体から見れば無視出来る数だろう、そうポンポン出てくる人種ではない。

 

「トレーナーを目指すガキを萎縮させちまう島巡りにまつわる風潮と当たり前、それがブッ壊れて自由にトレーナーを目指せるアローラ。最終的にそこに行きつけば最高だな、どうせすぐには実現しないだろうけどな」

 

「グズマさん……」

 

「まあ今のは綺麗事だ、本音を言えばざまあみろって言ってやりたいんだよ。お前らが馬鹿にして見ない振りしていたスカル団がアローラを救ったぞ、お前らの目は節穴だってな」

 

 僕には肯定も否定も出来ない、その気持ちはきっとグズマさん達にしか理解出来ない感情だ。勘違いの挫折しか経験していない僕の言葉なんて嫌味にしかならないだろう。

 

「そんな顔すんなよ、別に共感出来ないお前を責めてる訳じゃねえ。結局は負け犬達の遠吠えだ、偉そうに言ったが惨めな泣き言だよ」

 

「そんな事は……」

 

「不毛な話は終わりにしようや。結局お前に望む事は一つだけだ、お前の力でウルトラビースト達を集めてくれ。そうすれば団員達がお前に協力する様に俺からも話が出来る」

 

「分かりました、僕はウルトラビースト達の保護に力を貸します。彼等が傷付け、誰かに傷付けられる前に友好的な関係を築きましょう」

 

 それだけは迷わずに協力できる、プルルやリノの仲間……かどうかは分からないけど同じ境遇なら放っては置けない。

 

「お前ならそう言うと思っていたぜ、取引は成立したな」

 

 グズマさんが差し出した右手に応える、テレパスは使わない。僕のポリシーでもあるし、取引は公平に行うのがスカル団のルールだからだ。

 

 ジガルデはそんな僕を黙って見詰めている、何も語らない彼が何を思っているのか僕には分からない。

 だが信じよう、ジガルデとグズマさんを。

 

 誰かを活かす事が自分も活かす事になると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いかがわしき屋敷前の広場、そこで私は仲間達とグズマが出てくるのを待っていた。

 広場にはスカル団の全員が揃っている、少しだけお酒の抜けた様子のカンナさんとギーマさんの姿も見える。

 

「リラの姉御、グズマさんの重大発表ってなんスカね? 何か聞いてないっスカ?」

 

 私と共に捜索部隊として行動するスカル団の一人が問いかけて来る、彼女は私の活動に特に尽力的に協力してくれている。

 元はジョーイさんを目指していたと言っていた彼女はポケモンへの慈愛の心を持っている、その優しさは私にも勇気をくれる。

 

「私も内容は知りません、損はさせないと言ってはいましたが……」

 

「おお!! ならきっとスペシャルな発表ッス!! グズマさんが言うなら間違いないっス!!」

 

「ええ、私もそれを望みます」

 

 グズマがにルールに沿った団員の行動を縛ったのは初めてかもしれない、全ての団員を集めるなんてウルトラビースト達の保護を開始してからは初だ。

 こんなことをしてる場合じゃないと囁く自分とグズマの自身満々な態度に期待している自分がせめぎ合う。

 

 ウルトラビースト達への対処には限界が来ている、初期にはニ週間に一度だったウルトラホールの出現が今では5日に一度となってしまった。

 とても保護と言える様な状況じゃない、彼等を何とか日輪の湖に追いやるのが精一杯の状況だ。あそこに一度誘導すれば彼等は移動しないおかげで何とかなっている。

 だがそれもウラウラ島以外にウルトラホールが出現してしまえば終わりだ、距離の問題もあるし海を跨いで彼等を誘導するのは現実的ではない。

 

 ウルトラボールは使い切ってしまった、国際警察を辞めた私には既にあのボールを手に入れる手段は無い。エーテル財団に頼るのも不可能だろう、彼等が求めて来るのがウルトラビーストの身柄なら本末転倒だ。

 

 圧倒的に戦力が足りない、Z技を使えるのが私だけな以上当然の結果でもある。スカル団のみんなが悪い訳では無い、私の考えに賛同して活動を手伝ってくれるのみんなには感謝しかない。

 悪いのは私だ、現実的な手段を持たずに事を始めてしまった私に責任がある。だけど動かずにはいられなかった、どうしてもウルトラビースト達を助けてあげたかった。

 

 国際警察は駄目だ、FALLである私を撒き餌にしていたのは気にしていない、その事実に気付いてはいたが別に問題はなかった。

 でも捕まえたウルトラビースト達をあんな実験に利用していたのを許せる訳がない、彼等を保護していると呑気に勘違いしていた私は彼等を実験室送りにしていた。

 国際警察に利用されていた私は同罪だ、愚かで罪深いのは私は彼等にせめてもの贖罪をしなくてはならない。

 

 ブラックナイトが終わった次の日、全世界のウルトラホールは閉じられた。原因の一切分からない現象は関係者達を大いに混乱させた。

 そして唯一アローラだけがその現象を免れた、今世界でウルトラビーストの出身する可能性があるのはこの島々だけだ。

 

 国際警察を含めたあらゆる組織はこの島に入れない、邪な目的を持って足を踏み入れればカプ神達に攻撃されるからだ。

 この島に置いてカプ神達は無敵とすら思える力を発揮する、あらゆる組織がウルトラビーストを狙っているのにアローラに直接足を踏み入れられないのはそのためだ。

 

 そして私はカプ神達に許可を得た、島に被害が出る前に事態を解決する事を条件にウルトラビースト達を保護する許可を。

 だからこそ私の無謀な保護活動は成立している、地熱発電所を守りきれなかった時は絶望したがカプ神達は動かなかった。彼等にとっての被害とは生命の事なのかもしれない。

 

 私は助けたい、ウルトラビースト達を。FALLである私と彼等はある意味同じ存在だ、この世界にとっては異物なのだ。

 だけど10年前、クチナシさんとハンサムさんに助けられて一年をアローラで過ごした私はこの世界の一員となれた。グズマやプルメリ、マツリカやカヒリ達と友となりこの世界で生きていく自信をもらった。

 

 前の世界の記憶など殆ど残っていない私にとってアローラは故郷なのだ、この世界のホウエンに私の記憶にある塔は存在しなかった。私の帰る場所はアローラにしかない。

 

 どちらも救いたい、ウルトラビーストもアローラも。同胞達と故郷を護りたい。

 それが叶わない事が分かってしまう、私の中途半端な強さは自身の戦力から最悪の未来を予測してしまう。

 

 縋っている自分がいる、グズマの言う重大な発表が私に光明を与えてくれると期待してしまうのだ。

 俺はキャプテンになると明るい笑顔で私に語ってくれたかつてのグズマ、夢が破れて変わってしまったグズマ。

 変わらない所もある、彼はポケモンを蔑ろにしたり傷付けられるのを許さない。ウルトラビーストの保護活動にも手を貸してくれている。

 だから期待してしまう、記憶を失って自暴自棄になっていた私を救ってくれた様にウルトラビースト達も救ってくれるとのではないかと。

 

「お前ら!! 待たせたなあ!! 突然の招集に応えてくれて感謝しているぜえ!!」

 

 グズマがUを伴ってバルコニーに現れた、下から見ても分かる程に上機嫌な彼の声音は明るい。一体何が彼をそこまで上機嫌にさせるのか?

 

「まずはコイツの紹介からだ!! 今日からスカル団の一員になる!! 名前はUだ!! 変わった格好で顔も隠しているが詮索は無しだぜ!? それが俺達のルールだからなあ!!」

 

「ゆ、Uです!! バリバリ働くんでヨロシクッス!!」

 

 Uは上擦った声で挨拶した後にスカル団の決めポーズを取った、みんなはその様子に声援を送っている。早く馴染めそうで私も一安心だ。

 

「そして!! お前らが気になっているのはこの集会の意味だよなあ!? わざわざ全員集めてグズマさんは何を言うんだって思ってるよなあ!?」

 

「その通りっス!!」

「早く教えて欲しいッス!!」

「スペシャルな発表を期待するッス!!」

 

 煽るグズマと囃立てる団員達、この所停滞気味だったスカル団の空気が少し上向きになったようで嬉しくなる。プルメリには暗い顔してるとよく注意されるので笑顔の理由は幾らあっても良い。

 

「まずは聞くぜえ!! カンナ!! ギーマ!! お前たちの望みはアローラへのリーグ招致の阻止!! そうだよなあ!?」

 

「そうね、リーグなんて信用できないわ。アローラで何を企むか分かったものじゃない」

 

「リーグが来たら俺の居場所が割れる、残念ながら8億はまだ用意出来ていない」

 

 カンナさんは私が国際警察に不信感を抱いたのと同じ様に、リーグ本部の所業に怒りを覚えてリーグを脱退してアローラにやって来た。

 ギーマさんはギャンブルで借金がどうとか言っていたので自業自得な気がする。

 

 理由はともかくアローラにリーグを招致したくないのは意見が一致している。団員達にも共感する者達がいて反対の署名を集めるために清掃活動やビラ配りをしている。

 観光客相手には多少成果があるようだか、島民たちからは梨の礫だ、元々の迷惑行動が響いている。内心では賛同してもスカル団と同意見になるのが嫌な人が多いみたいだ。

 団員達もドロップアウトはしているがアローラを愛しているのだ、リーグに食い物にされる可能性があると知って行動せずにはいられないのだろう。

 

「そしてリラ!! ウルトラビースト達を救ってやりてえよな!? 奴等は意志疎通ができねえだけだ!! それさえ出来れば決して危険なだけの存在じゃねえ!!」

 

「その通りです、彼等は己を伝える術を間違えている。それを正してあげたい」

 

 正直早く結論を言って欲しいがパフォーマンスに乗ってあげる、目立ちたがりな所も変わっていないと再認識した。プルメリが少し呆れているのが見える。

 

「そしてスカル団の諸君!! 共に爪弾かれた兄弟姉妹達!! アローラをブッ壊したいよなあ!? 当たり前を俺達に押し付けて!! 勝手な期待を押し付けて!! 最後には突き放したアローラの空気を!! クソみたいな田舎の固定観念を!! 俺達を馬鹿にする奴等の考えをなあ!?」

 

「「「おおおォォォーーー!!!」」」

 

 盛り上がる団員達、その様子に胸が痛くなる。彼等もグズマも希望を抱いて島巡りを始めたはずだ。それなのに彼等は道を外れてしまった、誰が悪かったのか私には分からない。

 だけど、団員達が故郷へと暗い感情を発露させているのは悲しくて仕方がない。私と同じ様にアローラを愛する気持ちを持っているはずなのにどうしてもこうなってしまったのか……

 

「そんなお前たちの望みを!! 叶える力を持っているがUだ!! コイツの捜し物を手伝えばその力を貸してくれる!! そう約束した!!」

 

 望みを叶える力? それは一体どんな力だと言うのだろうか?

 

「見せてやれU!! 実物を見せてコイツを喜ばしてやってくれ!!」

 

「わ、分かりました、プルル!」

 

 そう言ってUはダイブボールを投げる、バルコニーから中空に放たれたボールからポケモンが飛び出した。

 私達の頭上で浮かぶ1匹のポケモン、それを見て私の思考は驚愕に塗りつぶされた。

 

「ウツロイド!? まさか!? あり得ない!?」

 

 Uが投げたのは間違いなくダイブボールだった!! ウルトラボールでしか捕獲出来ない筈のウルトラビーストが市販のボールから出て来た!? それが意味する事実に私の身体が震えだす!!

 

「Uの手持ちのプルルだ!! 正真正銘ウルトラビーストのウツロイド!! Uはテレパスでウルトラビーストと意志疎通が出来る!! そしてビーストオーラと同調して奴等の捕獲も可能だ!! とびっきりのスペシャル!! いや、ウルトラな力だろお!?」

 

「フッ、流石だU……やはり只者ではなかった、俺の目に狂いはない……」

 

 屋敷の壁に寄りかかったグラジオのやけに大きな声の呟きが耳に入って来る、確かにUは只者ではない。

 ウルトラビーストと意志疎通出来るテレパス? Uは超能力者なのか? 一体正体は……いや、力を貸してくれるならそれで良い、正体の詮索はルール違反だ。

 

「この力でウルトラビースト達を全員このアジトで保護してやろうぜリラ!! そしてカンナとギーマ!!ウルトラビースト達を元の世界へと返すアテがある!! リーグ設営をおじゃんにするには効果的じゃねえか!?」

 

 全てのウルトラビーストの保護、Uの力が本物でスカル団全員で力を合わせれば可能だろう。

 しかしウルトラビースト達を元の世界に返すアテ? それは一体どんな方法? それもUの力なのか?

 

「それが終われば!! 俺達スカル団はアローラを救った事になる!! その事実を公表してやろうぜ!! アローラだけじゃねえ!! 全世界の奴等に向けて盛大にだ!!」

 

 世界に事実の公表……そうすればアローラの人々はスカル団に感謝をするのだろうか……

 

「どうせ奴等は感謝何かしねえ!! だけど認めざるをえねえ!! 島巡りで失敗作扱いされた俺らこそがアローラを救った事実は!! その事実はアローラの当たり前をブッ壊す!! 島巡りの当然が吹っ飛ばされる!!」

 

 風が吹く……それは何かを変えるアローラの風か? それとも破壊をもたらす暴風となるのだろうか?

 

「やってやろうじゃねえか!! 俺達スカル団が!! 国際警察クソ野郎共の!! リーグのカス野郎共の!! アローラのアホ野郎共の!! 愚か者達の考えを覆してやろうぜ!! お前らの目は節穴だってよお!! ざまあみろて言ってやろうじゃねえか!!」

 

「「「おおおォォォーーー!!!」」」

 

「サイコーッス!!グズマさん!!」

「やってやるッス!!見返してやるッス!!」

「いかすッス!!サイコーにクールッス!!」

「スカル団サイコー!!俺達もサイコー!!」

「ヌル、忙しくなるぞ……お前の牙の鋭さを見せる時だ」

「クゥーン?」

 

 広場が歓声で溢れる、私自身も一抹の不安を抱えながらも希望の予感に胸が高まる。

 カンナさんとギーマさんは真剣に何かを考え込んでいる様だか反対という感じでもない、プルメリも団員の盛り上がりに嬉しそうだ。

 

 ふと花壇の花が目に付いた、プルメリと一緒にアジトを彩るために植えたグズマニアの花。鮮やかな赤が私の目に飛び込む。

 グズマニアの花言葉は“いつまでも健康で幸せ“、“理想の夫婦“、“情熱“、そして……

 

「あなたは完璧」

 

 かつて私に語ってくれた理想のキャプテン、アローラの全てのポケモンと人々を守る無敵のトレーナー。

 

 グズマ、あなたは今でも完璧な自分を求めていますか? ポケモンだけではなくアローラの全てを守ろうと思っていますか?

 

 完璧なあなたは、今でもそこにいますか?

 


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