自分はかつて主人公だった   作:定道

46 / 55
43話 見せてもらおうか、UBの性能とやらを

 

 

 ホテリ山の一人気の無い一角、普段は山の唸りしか響かないはずのここに、今日は熱い男達の声援が木霊していた。

 

 2人の男がポーズを決めている、もちろん格好はブーメランパンツ一丁だ。惚れ惚れする様な筋肉を惜しげも無く披露してくれている、その雄々しい姿に僕の胸は高鳴っていく。

 

「いいねえお二人さん!! 仕上がってるねえ!! 仕上がってるよお!! ナイスバルク!!」

 

 スカル団みんなで設置したお立ち台、その上でポーズを取る両者に僕は精一杯の声援を送る。今のホテリ山は地熱だけが理由ではない暑さに包まれていた。

 熱き男達の筋肉の躍動、弾き飛ぶ汗、己の肉体の美を魅せつける彼等の放つ熱と声援を送る僕らの熱が合わさり、芳しき熱気を放つ我らスカル団。

 島の人間には知られてはいけない筋肉の妖精達の彩宴、僕らはその真っ只中で声を張り上げる。

 

「キレてる!! キレてるッスよB!!」

「デカイッス!! カーフデカイッスよ2B!!」

「サイコーッス!! 背中に鬼が宿ってるっす!!」

「まじっスカ!? ここは筋肉のハウオリ市場っスカ!?」

「あの大胸筋!! まるでケツッス!! 目が離せないッス!!」

 

 ステージの上にはスカル団でも最高の筋肉を誇るBと2B、2人の筋肉の化身達は僕らの声援に応えてポーズを決める。その度に僕らは彼等に心からの声援を送る。

 

 僕がスカル団に入団して3週間、団内では自分の通り名をアルファベットにするのが大流行した。すぐに一文字のアルファベットは使い切ってしまったので2つ組み合わせたり数字をつけたりして被りを避けて名乗っている。

 だが、その中でもBを使えるのはあの2人だけだ。“BULK“を冠するBの称号に相応しい筋肉の量と厚みを誇るのは2人だけだ。

 尊敬と畏怖を込めてBと2Bと呼ばれる彼等、モスト・マスキュラーのBとサイドチェストの2B、スカル団が誇る最終兵器達だ。

 

「フッ……そこまで絞るには眠れぬ夜もあっただろう、だが目で見たものだけがリアルだ!! もっと魅せてみろ!!」

「く、クゥーン……」

「いいぜぇ!! 破壊という言葉がお前らの肉体には宿ってやがる!!」

「君達に配られた筋肉と言う名のカード!! コインの裏表すら超越する肉体はすごく眩しいよ!!」

 

 スカル団全員がここには集まっている、最前列で大盛り上がりの男性陣と極一部の女性団員と比べて、女性陣は離れたところで無表情でこちらを見ている。

 悲しいけど押し付けるのは筋肉じゃない、分からない人には永遠に分からない世界でもある。

 

 そして感じる、強大な筋肉の波動を。2つの強力な筋肉がこちらに迫って来るのを感じる。本日のメインイベントはこれからだ。

 

「皆さん!! 来ました!! 新たなチャレンジャー達の入場です!!」

 

 上空から降って来る2つの赤い影、勢い良くステージに降り立った筋肉の衝撃が僕達の身体を揺らす。

 はちきれんばかりの赤い肉体を見せつけて来る2体のウルトラビースト、己こそが1番であると誇示する様に筋肉を隆起させる。

 

「コードネーム“UB02 EXPANSION“!! 赤き筋肉の化身マッシブーン達が飛び入り参加だァ!!」

 

「「「おおおォォォーーー!!!」」」

 

 更に盛り上がる僕達、ホテリ山の一角が灼熱の時を迎えた。

 

「「ババァルクウッ!!」」

 

 僕達の声援にポーズで応えるマッシブーン達、人間もポケモンも関係ない、美しき筋肉は人とポケモンを引きつける引力を放つのだ。

 

「スカル団に殴り込みっスカ!? いい根性してるッス!!」

「やるッスねぇ!! Bと2B相手に見劣りしないッス!!」

「ヒュー!! 見るっすあの筋肉!! まるで鋼っす!!」

『むう、手強いな……カロスにもあれ程の猛者はそういなかった』

 

 囃し立てる団員達、その声にマッシブーン達のヤル気がみるみると上がっていくのが分かる。場の空気は最高だ、もっと盛上げてやろう。

 

「出逢ってしまったァ!! 世界を越えて!! 導かれた4つの筋肉がここに揃ったァ!! 出逢ってしまえばやる事は一つ!! これは宿命!! 互いの肉体を全力で魅せつけるしかない!!」

 

「「「おおおォォォーーー!!!」」」

 

 声援の渦が巻き起こり、熱狂は最高潮に達する。理屈じゃない、これが彼等と僕達の繋がり方なのだ。

 

 会場は一部を除いて一つになった。これは対話だ、わかり合う方法は決して一つじゃない。

 

 

 

 4時間後のスカル団アジトの広場、新たな仲間が増えた記念にみんなで夕食を取りながら歓談する。

 主役であるマッシブーン達、そしてBさんと2Bさんは皆に囲まれながらポージングをしている。早速馴染んでいるようで一安心だ。

 

「いやあ、作戦は大成功でしたねリラさん。無事にマッシブーン達をおびき寄せて仲間にする事ができました」

 

「そ、そうですね……彼等自身が肉体を披露する意味はあったのでしょうか? 彼等の手持ちのゴーリキーで良かったのでは?」

 

「いやいやリラさん、何を言ってるんですか? 戦う為の筋肉と魅せる為の筋肉は必ずしも一致しません、あれしか方法はありませんよ。マッシブーン達が望んでいたのは戦う為の筋肉ではなく人を笑顔にするための筋肉です」

 

「す、すみません……私が無知でした」

 

 まあBさんと2Bさんは戦っても強いけどね、ああ見えて彼等の放つ打撃はほぼ音速に近い速度が出るので戦っても普通に強い。美しさとは強さだ、ミクリさんも言っていたから間違いない。

 

 上手く行って本当に良かった、マッシブーン達を観察して思いついたホテリ山の筋肉祭り。筋肉を披露する場を求めているであろう彼等なら絶対にかかって来ると思った、やはり筋肉同士は惹かれ合う。

 僕も筋トレ始めようかな? でも身長が伸びにくくなるって聞いた事があるぞ? 迷うな、今度レックスに相談しようかな?

 

「マッシブーン達を含めれば保護できたウルトラビーストは19体、これで僕達が確認出来ているウルトラビーストは全員揃いましたね」

 

 フェローチェ2匹、デンジュモク4匹、、カミツルギ4匹、テッカグヤ2匹、ズカドーンとツンデツンデがそれぞれ1匹、ベベノム2匹にアーゴヨン、そして今さっき連れてきたマッシブーン2匹、その全てがスカル団のアジトに住んでいる。

 彼等は確かに強力な力を持っている、だけど意志疎通を果たして望みさえ叶えてあげれば無闇に暴れたりはしない。

 

 美しい物を求めるフェローチェには虫のZクリスタルや僕が所持している鉱石類を贈り、デンジュモクにはポケリゾートから来てもらったエレキブル達の電撃と電気玉をプレゼントした。

 カミツルギは自分の切れ味を確かめられれば満足なので料理の手伝いや建設資材のカットを頼み、ズガドーンは人を驚かせるのが望みなので、マジックの得意な団員Mと共にマジックを練習しては団員相手に披露している。

 テッカグヤは地面に埋まって、ツンデツンデは建物の近くでじっとしているのが落ち着くらしい。両者共あまり構われるのは苦手な様だ、食事も少量しか取らないがポケマメは喜んで食べるので食事は一緒に取る様にしている。

 アーゴヨンは2匹のベベノムを安全に育てられればそれで満足みたいだ、ベベノム達はお菓子を作ってくれるプルメリさんにかなり懐いている。

 

 スカル団とウルトラビースト達の共同生活は今の所上手くいっている、新入りのマッシブーン達はBさんと2Bさんに任せれば問題ないだろう。

 彼等の食料として僕が2日に一回は顔を出すポケリゾートからポケマメを大量に持って来ている。

 ポケマメを味見したリラさん曰く、ポケマメにはZパワーが含まれているそうだが理由を僕に聞かれても困ってしまう。僕も聞きたいぐらいだ、あの豆の木は不思議植物過ぎる。

 

「そして貴方のプルル、纏っているリノも含めれば21匹、貴方がスカル団に来てまだ3週間でこの成果、素晴らしい結果です。U、本当にありがとうございます、貴方は私の望みを叶えてくれました」

 

 僕と目線を合わせてお礼を言うリラさん、儚く微笑む大人のお姉さんにクラっと来ると思ったら、プルルが抱きついて来て物理的によろけただけだった。

 リノもそうだがプルルもとにかく僕に引っ付きたがる、特に頭を包むようにくっ付くのがお気に入りだ、ヤドンのしっぽみたいに僕の頭から甘い成分でも出ているのか?

 そしてプルルとリノは例外でもある、何故なら彼等はウラウラ島で捕まえた訳じゃない。

 

「リラさん、メレメレ島にプルルとリノが居た以上まだお礼を言うには早いですよ。リラさんの持つ探知機に引っ掛からないウルトラホールがある可能性がありますからね」

 

 今の所ウラウラ島にしかウルトラビーストは居ないとリラさんは言った、だけど僕がアローラに付いて仲間にしたプルルとリノがいたのはメレメレ島のテンカラットヒルだ、あの島にもウルトラホールが空いていると考えるのが自然だろう。

 

「ええ、理屈で言えばそのはずです。ですがハラさんからの報告ではその形跡は見られなかった、ウルトラビーストが新たに見つかったとの知らせもありません」

 

「ハラさん? スカル団の協力者ですか?」

 

 考えて見れば当然か、スカル団の全員がアジトにいる以上外部協力者に他の島を見張ってもらう必要があるのだろう。

 

「スカル団にも一定の理解を示してくれている人ですが、正確には私個人の協力者ですね。ハラさんはメレメレ島の島キングです」

 

 島キングがスカル団に理解を示している? 立場的にはともかく個人としてはスカル団に同情的なのか? でもグズマさんが言うには彼等は動けないと……

 

「島キングですか、彼等はカプの許可がないと動けないのでは?」

 

「あくまで戦わなければ大丈夫みたいですね、他の島クイーンとキャプテン達も程度は違いますが情報提供に協力してくれています」

 

 そっか、心情的には敵の様に思えてしまう彼等も別に血も涙も無い人間って訳じゃない。事情を知っていても直接介入出来ない変わりにそういう形で協力してくれるのか。彼等だってアローラの危機に立ち向かえないのは悔しいのだろう。

 結局みんな故郷を思っているのは同じなのか……だけどスカル団は彼等と相容れない、やるせない気持ちになる。

 

「なるほど……でもやっぱり直接メレメレ島を探って来ます、ジガルデセル集めも兼ねて島を探索して来ますよ」

 

「そうですね、Uが見てくれれば新しい発見があるかもしれません。アジトの留守は任せてください、私達もウルトラビーストとある程度意志疎通出来る様になったので危険な事にはならないはずです」

 

 僕が1度ボールで捕まえたウルトラビーストは、普通のポケモン並には意志疎通が図れる様になる。

 何となくムゲンダイナとの“スキルスワップ“が原因なんじゃないかと思う、あくまで感覚的なものだがムゲンダイナ達とウルトラビーストはよく似ている。

 

「ですが土地勘のない貴方一人で行かせるのは心配です、誰か一緒にメレメレ島に行ってもらわなくては」

 

「フッ……ならば俺が引き受けよう。力の探求とウルトラビースト達の捜索となれば俺の出番だ」

 

 いつの間にか隣に座っていたグラジオが会話に加わって来た、足を組んで腕は何時ものポーズを決めている。ちょっと不安だけど一緒に来てくれるのは嬉しい。

 

「うーん、グラジオだけでは不安ですね、貴方もアローラの土地勘は無いでしょう。この前アーカラ島で迷子になって2日帰って来ませんでしたからね……A、A2、お願い出来ますか?」

 

「任せるッス、リラの姉御。あそこは私の出身島ッス、知らない場所は殆ど無いッス」

 

「知り合いが経営してるモーテルがあるッス、あそこなら安く泊めてくれるッス」

 

 リラさんを慕うスカル団女性団員のAさんとA2さん、どうやら2人とグラジオが一緒に来てくれるらしい。これで一安心だ。

 

「フッ……これも定めか、足手まといが増えるのはゴメンだがな」

「く、クゥーン?」

 

 おいおいグラジオ、それはちょっと言い過ぎじゃないか? ヌルも何言ってんだコイツって目で見てるぞ。

 

「何を偉そうに言ってるッス! 迷子のグラジオを迎えに行ってやったのは私達ッスよ! 忘れたッスか!」

 

「相変わらず口の減らないガキっッス! こうしてくれるッス!」

 

「や、やめろォ!?」

 

 グラジオがAさんとA2さんに組付かれてもみくちゃにされている……くそ、少し羨ましいぞ、もしかして狙ってやったのか? だとしたら天才だなコイツ……

 

「ふふっ、どちらにせよ探索は明日からですね。明朝にウラウラ島でウルトラホールの反応がなければ出発してもらいます。何か必要な物があれば私かプルメリに相談してください」

 

 持っていく物か……倉庫に大抵の物は揃っているからな、連絡用の端末もグズマさんに貰ったから特になさそうかな?

 ……あっ、欲しい物あるな。リノが纏えなくなった時の為に正体を隠せる衣装が欲しい。

 

「リラさん、スカル団の服って貰えませんかね? 僕もスカル団の一員ですし、顔を隠せるあの格好は便利そうです」

 

「す、すみませんU、貴方の背丈に合うスカル団の服の在庫はありません……今度発注しておきますね、変わりにこれを差し上げます」

 

 リラさんは申し訳なさそうに僕に小さい布を渡して来る。

 いや、悲しくないよ? しょうがないもんね……で? これ何?

 

「ロイヤルマスクのレプリカです!! 格好良いでしょう!?」

 

「そ、そうですね、ありがとうございます」

 

 何だロイヤルマスクって? プロレスラーか? クソダサいぞこのマスク。

 微妙な表情を誤魔化す為に周囲を見回す、ベベノム達と遊んでいるプルルが見える。そういえばプルルはどうしよう、あまりボールから出してあげられないんじゃメレメレ島に連れて行くのは可哀想かな? 超能力で視界は共有してあげられるけどボールに入れっぱなしは寂しいよね。

 

 

「プルル、僕は明日からメレメレ島に行くけど君はどうする? みんなと遊んでいたいならアジトに残るかい?」

 

「じぇるるっぷ!」

 

 僕の頭にしがみついて否定をアピールするプルル、可愛い奴だ。ぷるぷるでひんやりした感触が心地良い。

 

『小僧、当然私も付いていくぞ』

 

「ははっ、ジガルデもアピール? 可愛い所もあるね」

 

『黙れ小僧!! 勘違いするな!!』

 

 照れてますよコイツ、まあ付いて来てくれないとセルの反応が追えないけどね、好き勝手動き回るセル達を普通に探すのは難しい。

 ウラウラ島のセルはウルトラビースト探しと並行してみんなが手伝ってくれたがジガルデはまだ20%、先は長そうだ。

 

 

 

 そして次の日、AさんとA2さんのラプラスに乗せてもらい、僕達はメレメレ島のハウオリシティビーチサイドにたどり着いた。A2さんにしがみついてのポケモンライドは最高だった。

 

「とりあえず島をグルッと一周するッスカ? 周るだけなら半日ぐらいでいけるッスよ?」

 

「Uの格好は目立つけど私達と一緒ならそこまで違和感は持たれないッス、スカル団補正で胡散臭さが紛れるッス」

 

 あれ? 僕ってソロだと胡散臭い? そんな事ないよね?

 

「フッ……求道者が理解されないのはいつの時代でも一緒だ、求めるというのは何かを捨てる事、そうだろうU?」

 

 お、おう……朝からそのテンションか? 胸焼けしない?

 

「だが僕達は選んで捨てた、そうしなければ得られないからだ。そうだろグラジオ?」

 

「フッ……」

「フッ……」

 

「クゥーン……」

『はぁ……とりあえず島を周るぞ小僧』

 

 やれやれ、まいったね。

 

「お前ら本当仲良いッスね、打ち合わせしてるッスカ?」

 

「いや、この年頃の男子の一部はこうなるッス。家の弟もこんな感じッス」

 

 いや、僕は違うよ? まだ心を闇に飲み込まれたりしていない。言葉が自然と溢れるだけだ。

 

「さぁーて、張り切ってメレメレ島を周りましょう!!スカル団魂を見せてやるッス!!」

 

 ……返事が無い、みんなノリ悪くない?

 

 

 

 ビーチサイドから北にハウオリシティを抜けて、2番道路側から島を一周する事にした。

 

 2番道路で目についたのは霊園と木の実畑、霊園には3個程セルがあり、木の実畑にはセルが10個程潜んでいた。食い意地の張ってるジガルデのセルらしい結果だ。

 食べ物がある所か人気のない所にセルは多い、町中にも居なくはなさそうだが少ないだろう、とりあえず後回しだ。

 

 さらに道中に洞窟を見つけた、だけど立入禁止の看板が設置されている。

 

「茂みの洞窟には入らない方がいいッス、キャプテンの試練に使う所で勝手に入ると後で面倒な事になるッス」

 

「なるほど……許可を取らないと不味いみたいですね」

 

 残念だ、いかにもセルがありそう何だけどな。暗くてジメジメして“じめん“タイプには居心地が良さそうだ。

 

「多分スカル団に許可は降りないッス、でもリラの姉御なら許可が貰えるかもしれないッスね」

 

 リラさんなら? キャプテンや島キングとも繋がりがあるし、同じスカル団なのに扱いが違うのはなぜだ?

 うーん、気になるけど仲間の過去を詮索するのはルール違反だ、そもそも僕は顔すら隠している。人に言える立場じゃない。

 リラさんはスペシャルという事で納得しよう、あの黒スーツの着こなしはスペシャルとしか言いようがない、素敵過ぎる。

 

 そして続く3番道路、途中にあるメレメレの花園でセルを6個ほど見つけた後に、その場で休憩を取る。

 僕が倉庫に保管しておいたエネココアとマラサダを配る。アローラでのおやつタイムはやっぱりこれだね。

 

「カラサダはないッスカ? エネココアと合わせて飲むとイケルッス、辛さと甘さの組合せの妙ッス」

「いや、エネココアにはニガサダッス、苦味と甘みのハーモニーが最高ッス」

「U、俺とヌルにはアマサダをくれ、甘みは別の甘みを組み合わせるのが正解だ」

「クゥーン♪」

『小僧、ニンジン味のマラサダは無いのか?』

 

 ワガママだな、このいやしんぼ共め。しょうががないからリクエストに全て答えてやる、ハウオリシティのマラサダショップでたっぷり買っておいた。

 

「じえるるっぷ!」

 

 よしよし、プルルはマボサダだよな? 他の奴等は分かってないよね? エネココアにはマボサダだと決まっているのだ。

 色鮮やかな黄色の花園を眺めながらみんなでマラサダを食べる、景色の良い所でのおやつタイムは最高だ、いつもの倍は美味しく感じる。

 

 ジガルデセル集めは順調だ、初日にしては最高の滑り出しだと言える。でもウルトラビーストの方は全く成果がない、それを喜ぶべきか、悲しむべきなのか。

 

「ウルトラビーストの痕跡は見当たらないね、ビーストオーラも感じられない」

 

「そうだな、プルルとリノはウラウラ島から移動して来たのではないか? 空中を移動出来るならあり得ない話でも無い」

 

 うーん、グラジオの説は僕も考えたけど、プルルとリノは気が付いたらテンカラットヒルだったとしか言わないんだよな。本人達も何故自分があそこにいたのか分かっていないみたいだ。

 

「テンカラットヒルを調べてからじゃないと結論が出ないよ、本人達は気が付いたらあそこに居たとしか認識していないみたいだ」

 

「超能力は便利ッスね、私もそこまでポケモンの言葉が分かればジョーイになれたかもしれないッス」

 

「Aさん……」

 

 Aさんはウルトラビーストの保護とお世話に人一倍熱心だ、僕達に付いて来るのに迷った様子は無かったし、普段から誰かの手助けをしている。誰かの世話をせずにはいられない性分なのだろう。

 性格的にはジョーイさんにピッタリだと思う、世話焼きな彼女の姿は少しだけ母さんを思い出させる。

 

「ゴメンU、別に嫌みとかじゃなくて純粋に感心しただけッス。君はその力を誇るべきッス、引け目を感じる必要なんて無いッスよ」

 

 Aさんは少しだけ悲しそうに僕に謝る、過去を聞けないスカル団のルールが、今はもどかしい。

 

「フッ……人は配られたカードで勝負するしかない、だが勝負から降りなければ負けは訪れない。最後に勝てばそれでいい」

 

 グラジオ、すごく解りにくいけど慰めてるのか? しかもその言い回しは誰に影響されているのかバレバレだ。

 

「おっ! ギーマのパクりっスねグラジオ! 何だかんだ言ってアイツにも懐いているッス!」

 

「ち、違う! 言の葉は誰にでも発する権利がある! パクリじゃない!」

 

 A2さんとグラジオのおかげで場に明るい雰囲気が戻って来た、しんみりするよりこっちの方がいい。

 だけど思う、過去を詮索しないのは確かに居心地が良いのかもしれない、けどそのままでいいのか?

 時と場合によって答えは変わる、絶対の正しさなど存在しない。だけど見てみぬ振りをするのは正しいのだろうか?

 

 

 

 おやつタイムが終わり、1番道路を抜けてリリィタウンまでたどり着いた。

 ハウオリシティとは違って小さな村だ、建築様式もコンクリートではなく木造でアローラの伝統的な造り、僕のイメージする南国そのままの村がそこにはあった。

 特徴的なのは村の中央の広場、木造の足場のバトルスペースが大きな面積を占めていた。

 

「この村を抜けて、マハロ山道を進むと戦の遺跡があるッス。遺跡はメレメレ島の守り神のカプ・コケコの住処ッス、手前までなら行けるけど行くッスカ?」

 

「やっぱり遺跡の中は立入禁止ですかね?」

 

「島キングの許可がいるッス、スカル団に許しが出るとは思えないッスね」

 

 メレメレ島の島キング、確かハラさんって名前だったはずだ。リラさんの名前を出せば許可が出ないかな?

 いや、まだ僕はスカル団と島民の距離感を掴めていない、焦る必要はないだろう。

 

「じゃあ行ける所まで行ってみましょう、せっかくここまで来たのに引き返すのは勿体ないです」

 

 みんなでリリィタウンをコソコソしながら抜ける、AさんとA2さんはハラさんに知られない様に山道まで行きたいらしい。

 すれ違う村人の怪訝な視線が少し痛かった、余計に目立つ行動だった気がする。

 

 自然豊かなマハロ山道を歩く、道中にはジガルデセルもウルトラビーストの気配も無い。緩やかな山道をひたすら歩く。

 AさんとA2さんが静かだ、やはり守り神へと続く山道ではおしゃべりする気になれないのだろう。僕とグラジオも彼女達に合わせて黙々と歩を進める。

 

 水の流れる音が聞こえて来た、木々の切れ間の先に細い吊橋が見えて来る。結構な高さの崖に架かった吊橋だ、あのタイプは結構揺れるんだよな。

 

「あ、あれを渡るのか!? ひ、人が乗っても大丈夫な吊橋か!?」

「く、クゥーン」

 

 グラジオが動揺を露わに声を出す、ヌルも主人の足元にすり寄って震えている。

 

「うーん、こっから先は多分行かない方がいいッス。橋を渡れば遺跡はすぐそこッス、許されるのは多分ここまでッス」

 

「フッ……ならば仕方あるまい、郷に入れば郷に従う。先人の言葉には知慧が秘められている」

 

 震えながらもポーズを決めるグラジオ、可哀想だからここまでにするか。

 

「引き返しましょう、ジガルデセルもウルトラビースト達の痕跡もこの山にはなさそうです」

 

 出来ればカプ・コケコは一目見たかった、観察してOPを模倣すれば僕の力は増したかもしれない。

 力が弱体化して模倣による強化の度合いも下がったが、守り神レベルのポケモンならかなりの足しになるはずだ。またの機会を待とう。

 

「失礼、少し話を聞かせてもらってもよろしいですかな?」

 

 穏やかな問いかけが僕達に届く、いつの間にか後ろに巨漢の老人が立っていた。

 恰幅の良い体型に黒く焼けた肌、白い髪と髭を生やして黄色アロハシャツを纏っていた。

 

「は、ハラ……さん」

 

 AさんとA2さんが動揺している、この人がハラさん? メレメレ島の島キングか。

 絶対に強いなこの人、僕の超能力の探知に引っかからずに背後を取ったという事は間違いなく身体能力強化者で格闘家だろう。トレーナーとしても強いはずだけどまずはそこに注意が向く。

 全くブレていない正中線、脂肪の奥に潜む鋼の様な筋肉の鎧。ジョウトの力士達と似ている気がする。

 

「ここから先はメレメレ島の守り神が住まう遺跡、不用意に立ち入って良い場所ではありませんぞ。ハウオリ出身の君達なら分かっているはずです」

 

 ハラさんが少し厳しい目つきでAさんとA2さんを見る、これは良くないな。

 

「すみません、僕が無理を言ってお願いしたんです。どうしても探したい物がありまして」

「申し訳ありません、僕も彼女達に頼みました。叱責を受けるべきは自分達です」

 

 グラジオが敬語を使えた事実に少し驚く、ほんのりと育ちの良さを伺わせていたから意外でもないか。

 

「ふむ、君達もスカル団ですかな? 探し物とは一体どのような物ですかな?」

 

「こういう物です、僕のポケモン、ゼロの欠片でもあります。この山道にもあると思って2人に案内をおねがいしましたんです。遺跡に立ち入るつもりはありませんでした、信じてください」

 

 ジガルデセルをハラさんに見せる、ジガルデと呼べば僕の正体がバレてしまうかもしれないので許して欲しい。

 そんな目で見るなジガルデ、ゼロって格好良いだろう?

 

「いや、すみませんでしたな。怖がらせるつもりはありませんが村人からの報告に答えない訳にはいかんのです。この山道でその欠片を見つけたらリラを通じてポータウンへと届けましょう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 良かった、話せば分かる人だった。戦いになれば割と危ない勝負になるだろう。

 

「ウルトラビーストも同様ですが、町中や遺跡での痕跡があればすぐに報告します。君達には人の居ない所を中心に捜索をしていただきたい」

 

「わかりました、ご丁寧にありがとうございます」

 

ハラさんは多分僕達の目的を分かっていたはずだ、ウルトラビーストにまで言及したなら間違いない。島キングという立場上、村人の不安を解消しなければならかなったのだろう。

 そして、そこまで言ってくれるなら街の中は任せた方が良いだろう、僕達は山中や洞窟を中心に捜索しよう。

 

「2人もすみませんでしたな、スカル団が3年前から迷惑行為をしていない事を私は知っております。だが島民達はそう思っていない、集会でも進言はしておるのですがなかなか浸透しておりません」

 

「い、いえ……そんな事は……」

「わ、私達も分かってます……」

 

「君達の御父上達が心配しておりました、せっかく島まで来たのならせめて顔を見せてあげてはくれませんかな?」

 

 父さんと母さんはブラックナイトの後に僕に会いにガラルまで来てくれた。離れていた家族と直接会えるのは嬉しい、少なくとも僕はそうだ。

 グラジオも少し物憂げな表情をしている、彼がスカル団に入った経緯を僕は知らない。だけど今グラジオが家族に思いを馳せているのは分かる。

 余計なお世話かもしれないけど下山したらAさんとA2さんに実家に顔を出すように勧めよう、ハラさんの話を聞いた僕はどうしてもそう思ってしまう。

 

「じゃあ下山しましょう。ハラさん、色々とご迷惑をおかけしました。捜索の件もありがとうございます」

 

「いえ、これも島キングの努めです。下山には私も付き添いましょう、村のみんなにも悪意があった訳ではないと説明しておきますぞ」

 

 あっ、名乗るのを忘れていた。偽名を名乗ると思うとちょっと気が重いけど名のらない訳にも……

 

『小僧!!防御しろ!!』

 

 ジガルデ思念が響くと同時に僕は己の直感に従って“リフレクター“を背後に展開する。

 そして衝撃、伴う雷撃が僅かに漏れて僕の身体を痺れさせる。大きな激突音を発した僕は吊橋の方へと吹っ飛ばされる。

 

「U!?」

「いかん!?」

 

 グラジオとハラさんの叫びを耳の片隅に置いて、迫りくる黄色い影に集中する。

 僕の肌にビリビリと伝わる戦意、殺意すら混じっていない純粋な戦いへの渇望が僕に叩きつけられる。

 

 推定OP8200、レベル82でタイプは恐らく“でんき“と“フェアリー“、今のジガルデには荷が重い強敵、育成に力を入れる暇のなかったレベル60のプルルにも戦わせる事は出来ない相手だ。

 

 OPの流れが教えてくれる、空中の僕に追い付き上から迫る黄色い影の攻撃、“リフレクター“を構築する暇がないので純粋なサイコオーラを展開して衝撃に備える。

 

『リノ!! 耐えてくれ!!』

 

 リノの鎧を解除する暇がない、思念でリノに衝撃に対する備えを促す。

 

 そして先程よりも強い衝撃が僕とリノを襲う、更に吹き飛んだ僕は吊橋を破壊しながら崖の岩肌へと突き刺さる。

 派手な粉塵と音がマハロ山道に広がる、黄色い影がさらなる追撃を加える為に突っ込んで来るのを感知する。

 

『リノ、やれる?』

 

 伝わって来るのは肯定の思念、僕とリノのサイコパワーの同調はこの三週間でかなり進んでいる。

 僕単体では勝ち目の無い相手だろう、レベル70程度のリノでも歯が立たないだろう。

 

 だが力を合わせれば勝てる、その確信を持ってサイコパワーを解き放つ。

 

『“プリズムレーザー“』

 

 リノから流れて来た技の名前を浮かべて右手を振りかざす、七色の光が突っ込んで来る黄色い影と激突する。

 

「カプゥ!!」

 

 面の様な外殼を纏って“プリズムレーザー“を防ぐ襲撃者、僕は七色のレーザーの流れに乗って彼にサイコパワーを纏った蹴撃をぶちかます。

 森の木々を倒しながら吹っ飛んでいく黄色い影、派手な飛び方だが僕の感知は相手のOPのうねりが更に高まったのを感じた。

 空中で相手を待つ、咄嗟に反撃はしたがとりあえず話をしてみるべきだろう。

 そして戻って来た、残像を残す程の速度で黄色い影が僕の目の前まで移動する。

 

『貴方はカプ・コケコですね? 山道に入った事を咎めているのなら謝ります、見逃しては貰えませんか?』

 

『否、力ヲ示セ、戦士トシテノ価値ヲ見セロ、』

 

 そういうタイプか、あまり言葉の通じるポケモンじゃなさそうだ。

 

「カプ・コケコよ!! お待ちくだされ!! その者はアローラに害意を持ってはおりませぬ!!」

 

 地上でハラさんが叫んでいる、だがカプ・コケコはその声に答える様子が無い。島キングの言葉にすら耳を傾けないのか?

 しかし価値と来たか、あまり面白く無い言葉だ。

 

『そんなに見たいなら見せてあげますよ、だけど試練を超えたら褒美をください。僕の質問に答えてもらいます』

 

 僕の意思に呼応してリノから七色のオーラが溢れる、リノもやる気満々みたいだ。

 カプ・コケコは僕の言葉に答えない、電撃が彼の身体から迸り周囲に拡散されて行く。“エレキフィールド“の様だがガラルで見た普通のポケモン達のよりも数段は強力なフィールドだ。

 

 僕も“サイコフィールド“を展開する、リノの七色のオーラが混じった何時もとは違うフィールド。2つの異なる性質のフィールドが場を塗りつぶそうとせめぎ合う。

 

 マハロ山道の上空に七色の空間と雷撃の空間がどんどん拡がって行く、久しぶりの実戦の空気が僕の鼓動を早く脈打たせる。

 これも試練の一つなのだろうか? アローラでは何かに巻き込まれるとは予感していたがここまで急な物だとは思わなかった。

 だが乗り越えてみせる、その先にある僕の求める物を掴んでみせる。

 

 ふと思う、これも島巡りか? カプ達に力を示すという意味ではそうなのだろう、少し難易度が高そうだが乗り越えてられない試練などこの世には無いはずだ。

 

『教えてもらいます、貴方達カプの真意、そして島巡りの意味を』

 

 雷鳴が響いた、音より速く迫り来る試練が始まる。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。