自分はかつて主人公だった   作:定道

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44話 お前の母ちゃんアウターヘブン

 

 マハロ山道の上空で雷鳴が轟いている、晴天の空を雷光が照らし幾度も空気を震わす。

 そして音より速く激突する黄色と虹色の光の軌跡、現状ではUとカプ・コケコの戦いは互角に見える。互いに大きなダメージは負っていないようだ。

 だが、Uはポケモンではない。いくら強力な超能力者でリノを纏っていたとしても根本的には人間だ、一撃でもまともに貰えば命に関わる傷を負うだろう。

 

「ハラさん!! お願いします!! カプ・コケコを止めてください!!」

「このままじゃUが!! 本当に死んじゃいます!!」

 

 AとA2が島キングに必死に懇願している、しかし島キングは顔を苦悩に歪めてはいるが介入する様子は見られない。

 

「……申し訳ありません、カプ・コケコからこれは合意を得た試練だとの返事がありました。合意がなされた以上私にはどうする事もできませぬ」

 

 島キングが握りしめた拳が震えている、立場に縛られている大人の耐える姿、それを責める事はできない。

 俺は立場を捨てた、父を失って変わってしまった母から目を逸らして家を出た。妹を置いて、いつか力を付けて必ず戻って来ると言い訳をして俺は自分の家族から逃げ出したのだ。

 

 それに比べて島キングは逃げてはいない、上空の戦いから目を逸らしたりなどしていない、どんな結末になろうとこの場から離れる事はしないだろう。

 

 そして俺はどうする? 言い訳をしてここで傍観しているだけか? 力が足りないからとまた言い訳をして今度は友を見捨てようというのか?

 

「クゥーン」

 

 ヌルが俺に向かって鳴く、決意の宿った瞳で俺を見ている。俺の相棒は臆病な自分に打ち勝って俺より早く覚悟を決めた様だ。勇敢なその姿に心が震える。

 

「ヌル……戦ってくれるか? 俺を信じて神に挑む覚悟は出来ているか?」

 

「バウ!!」

 

 力強い同意の叫び、やはり俺の相棒は最高のポケモンだった。

 こいつは失敗作などではない、あらゆるタイプを内包しどんな強さでも手に入れられる可能性を秘めたポケモン。神を模して造られて神すら超える最強の相棒、俺と共に最強を目指す零の獣だ。

 

「俺とヌルが行く、試練だろうが合意を得ていようが俺達には関係ない。招かれざる客にはお帰り頂こう」

 

「グラジオ!? 待ちなさい!! 危険過ぎる!!」

 

 Aが叫ぶ、目を潤ませる彼女の姿に少し罪悪感を覚えるが止まる訳にはいかない。

 

「スカル団は仲間を見捨てない、そう俺に言ってくれたのはアンタだったはずだ」

 

「それは……でも!!」

 

「それに無策じゃない、ヌルの力を解放すれば行けるさ」

 

 懐から取り出すのはとある古い石版の模造品、エーテル財団の目的であるZパワーの完全なる制御の為に作られた円盤状のアイテム。Zクリスタルを使って作られた“Zメモリ“、これを使えばヌルは拘束具を破壊して本来の力を得られるだろう。

 

 もちろん危険な行為でもある、そもそもこのメモリは失敗作で他のタイプのメモリの様にヌルが制御できない。使えばヌルの中のZパワーを呼び覚ますと言えば聞こえは良いが、結局はOPの暴走を引き起こすだけだ。

 だが、それをトレーナーである俺が導いてやればいい、逆流するZパワーによる苦痛を乗り越えてその力を俺達の物にするのだ。

 

 やってみせる、俺はもう逃げたりしない。友の危機に見て見ぬ振りなど絶対にしない。

 最初は下らないと思っていたスカル団、弱い奴等が群れているだけだと思っていた。だけど共に過ごす内に気付いた、弱さにも強さにも種類がある、全てを兼ね備えている者などいない、誰だって強さと弱さの両方を内包しているのだと。

 だから群れるのだ、互いの弱さと強さを補う為に寄り添うのだ、共に居るとはそれだけで力となる事を俺はスカル団で学んだ。

 

 だが寄りかかってはいけない、甘えて依存するだけでは堕落となる。与えられた分だけ返さなくてはいけない、フェアに与え合う関係が高め合うということなのだ。

 Uは与えてくれた、俺達スカル団の望みであったウルトラビーストを保護する力を、その借りを返さなくては俺はアイツの友を名乗れない。

 

「ハラさん、悪いが俺は試練をブッ壊す。それがスカル団のやり方だからな」

 

 島キングが俺を見る、力強い眼差しで俺の内側を見透かす様に観察する。そして静かに俺に告げた

 

「一人の老人として望みます、若き戦士達にアローラの風が吹きますように」

 

「フッ……行くぞ!! ヌル!!」

 

 ZメモリにOPを流す、そのまま力をヌルへと誘導させて流し込む。メモリを持つ俺の右手からZパワーが溢れ出す。

 

「グオォォォオン!!?」

 

 俺とヌルが金色のオーラに包まれる、身を焦がす様な力の奔流による痛みに気が狂いそうになる。飛んでいきそうな理性を必死に繋ぎ止める、絶対に逃げたりなどしない。

 

「飲まれるなヌル!! 俺達ならできる!! 信じてくれ!!」

 

 思い浮かべる、父さんと母さんを、ビッケやエーテル財団のみんなを、スカル団の連中を、俺が共に居たいと思う全ての人々……そして妹のリーリエを。

 

「共に行こうヌル!! 友を助けるために!! 仲間達の願いを叶えるために!! 今度こそ家族と向き合うために!!」

 

「ウオォォォン!!」

 

 雄叫びと共にヌルの枷が外れる、雄々しき白銀の輝きが黄金のオーラを飲み込んでゆく。

 荒れ狂っていた力の奔流が穏やかな様子で俺とヌルの中で波打つのを感じる、これで準備は整った。

 

「古き神に見せてやろう!! 今を生きる最新の俺達を!! 奴が切り捨てたスカル団の力をな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……」

 

 速いだけじゃない、カプ・コケコの攻勢は実に巧みだ。蓄積された戦闘経験を活かした格闘家の様な戦いの組み立て方、こちらの意識の死角を付いてくる鋭い一撃、未来視に全力を注いで何とか凌いでいるのが現状だ。

 

 僕とリノの反撃がまるで効いていない、カプ・コケコは外殼とオーラを利用してこちらの技を受け流してしまう。マスタード師匠に見せてもらった流水を思わせる受け回しの技術、トレーナーの補助を受けていないポケモンとは思えない動きだ。

 

 スペックで負けている訳じゃない、僕がリノの力を上手く使いこなせていないのが劣勢の原因だ。格闘家として見ればポンコツに等しい僕の動きの悪さが折角のリノの力を台無しにしている。

 やはり体の主導権をリノに渡すか? だがリノは本調子ではない、記憶を失っているらしい彼は戦闘経験まで失っている。その身に秘めたOPに動きが付いていかない様だ。

 

 そして気付く、彼等がこちらに近づいて来る気配に。情けない展開ではあるがやはりトレーナーとして戦いを仕切り直すしかない、それなら勝機が見えて来るはずだ。

 

『カプァ!!』

 

「ぐぁっ!?」

 

 甘えた思考の隙、カプ・コケコの“インファイト“が僕のガードの上からぶちかまされた、こんな格闘技まで使えるのか!?

 

 タイプの相性すら無視した強力な一撃で、僕の体は勢い良く森の中へと落ちていく。木々をなぎ倒し、派手な土煙と音を響かせながらも何とか受け身をとって上空に意識を向ける。途切れてしまった未来視をもう一度発動させる。

 

 いない!? 見失った!?

 

 そして気付く、背後から迫りくる雷鳴に。音を認識しているという事は既に……

 

「ヌル!! “マルチアタック“だ!!」

 

 背後からの激しい衝撃に吹っ飛ばされる、カプ・コケコの攻撃が直撃した訳じゃない、技と技のぶつかる衝撃が僕に届いただけだ。

 飛ばされる視界の端に確かに見えた、白銀の体毛を輝かせるポケモンの姿を、兜が外れたヌルの姿だ。

 

「キテルグマ!! 受け止めるッス!!」

 

 吹っ飛ばされた僕をモフモフの身体が受け止める、A2さんのキテルグマだ。

 

「タブンネ!! “いやしのはどう“!!」

 

 僕の身体が温かい光に包まれる、自分で施す物より遥かに心地良い優しい波動だ。Aさんのタブンネの癒しパワーはスカル団でも随一だ。

 

「U!! 怪我は無い!?」

 

 キテルグマが腕に掴んだ僕を前に差し出す、Aさんが僕の身体中をペタペタと触診する。そして手を僕の頬に添えて心配そうに僕を見詰めてくる。

 

「大丈夫ですAさん、見た目は派手に吹っ飛んでいましたけどちゃんと超能力で防御しています」

 

「そう、良かった……このアホちんが!!」

 

「痛い!?」

 

 予想外のビンタが痛い、超能力を解除していたから普通に痛い。

 

 そしてA2さんもこちらへとやって来る、走る勢いそのままにこちらへと飛び込んで来る。

 

「何を勝手に同意してるの!? 何でカプ・コケコと直接戦うの!? このばかちんが!!」

 

「うっ!?」

 

 リノの装甲の隙間からA2さんのボディブローがねじ込まれる、腹部に鈍い痛み、今日1番痛い攻撃かもしれない。

 

「ご、ごめんなさい……ッス」

 

「早くプルルを出すッス!! グラジオに加勢するッスよ!!」

「私達も戦うッス!! 後輩だけに戦わせる訳にはいかないッス!!」

 

 促されてプルルを繰り出す、カプ・コケコに対して相性的には悪くない、今もカプ・コケコと渡り合っているヌルのサポートするように戦えばいけるはずだ。

 

「話は済んだかお前達!? 真の力を解放したヌルならカプ・コケコに有効打を与えられる!! オペレーション02で行くぞ!!」

 

 対フェローチェ捕獲作戦オペレーション02、自分達を超える素早さのポケモンを足止めするグラジオ考案の集団戦術。ウルトラビースト保護の際に戦闘を避けられない事を残念に思ったが、思わぬ形で役に立ちそうだ。

 

「了解グラジオ!! プルル“ステルスロック“だ!!」

 

 浮遊する石の棘をばら撒く、カプコケコを囲う様にコントロールして高速で移動するカプ・コケコの軌道を限定させる。

 

「キテルグマ!! “じしん“ッス!!」

 

 追い打ちをかける様に地面を揺らす、いくらレベル差があるとは言えまともには受けないはずだ。恐らくカプ・コケコは空に逃げるだろう、それで攻撃の経路が更に絞られる。

 今の彼の狙いはヌルだ、レベル的に対抗出来る唯一のポケモンを倒してしまえば後は問題にならないと判断しているのだろう。

 そして雷撃を纏ったコケコが上空からヌル目掛けて落ちて来る、狙い通りの展開だ。

 

「タブンネ!! “トリックルーム“!!」

 

 ヌルとカプ・コケコが激突するであろう空間に小さな“トリックルーム“を展開させる。速さをあべこべにする空間を作り出す技、本来なら時間をかけて構築する空間を大きさを抑える事で通常より早く完成させた。

 残念ながら、完璧に速さは入れ替わらないだろう、衝突の瞬間に少しだけカプコケコの速度が緩まり、ヌルの速度が上がるのも相対的なものだ。

 だが、ヌルとグラジオにはそれで十分だ。一種の攻防を制する勝負強さ、ギーマさんに鍛えられている彼等なら必ず勝利を掴み取る。

 

「決めるぞヌル!! 刹那を捉えろ!!」

 

 グラジオのOPの補助を受けたヌル“マルチアタック“によるカウンター、突っ込んで来る相手の力を利用する刹那の見切りが可能にする諸刃の剣。

 

 響く技の激突音、巻き起こる衝撃波と砂煙、その中から一つの影が吹き飛ばされて行く。

 感知をしなくても分かる、一瞬を制したのは僕達スカル団だ。

 

「フッ……俺達の勝利だ」

 

 晴れた砂煙の中にはヌルが居た、雄々しく大地に立ち、白銀の立髪を風になびかせていた。

 

「やったッス!!」

「スカル団の勝利ッス!!」

 

 喜びの声をAさんとA2さん、確かに僕達の勝利だと思える程の見事な連携だったはずだ。

 だが、カプ・コケコはこれで終わるつもりはない様だ。

 

「まだやるつもりですか? 貴方もかなりのダメージを負ったはず、これ以上は試練では済まないでしょう」

 

 傷付きながらもこちらへと戻って来たカプ・コケコ、かなりダメージを受けてOPは減っているが闘志が衰えていない、まだ試練を続けるつもりか? 

 それとも横槍が入ったから失格か? 最初の不意打ちも卑怯だったと思うからお互い様な気もするが、ルールを握っているのは向こうだ。

 

『ヤハリ駄目ダナ、オ前達ハ戦士に相応シクナイ』

 

 場に響くカプ・コケコの思念、僕達の戦い方は気に食わなかったようだ。ボロボロで放つ台詞じゃない気がする。

 

「な、何を言ってるッス! どう見てもお前の負けッス! 負け惜しみッス!」

「大体仕掛けて来たのはそっちッス! 一対一が望みならちゃんと宣言してから始めるべきッス!」

「そ、そうだ! 観念しろッス! 合格にしろッス!」

 

 二人に便乗して文句を言う、ゴネれば試練達成になるかもしれない。後ろからガヤガヤ言うのは得意だ、超岩鋼紅蓮隊にいた時から僕の得意技だった。

 

「カプ・コケコ、貴方の言う戦士とは何だ? 誰かの手を借りずに戦う者しか認めないと言う事か?」

 

『否、方法ヤ形式ノ問題デハナイ、貴様等ノ資質ガ戦士足リ得ナイノダ』

 

 資質? OPの量ではないのだろう、それならば僕とグラジオが基準に満たないはずがない。一体何の事だ?

 

『貴様等ニハ覚悟ガナイ、スカル団ノ者達ハ皆ソウダ。命ヲ奪ッテ奪ワレル覚悟ガ、他者ヲ傷ツケ傷ツケラレル覚悟ガ備ワッテイナイ。ソレコソガ戦士ニトッテ最モ重要ナ資質、持ッテ生マレ無カッタ者達ニハ永遠ニ手ニ入レル事ガデキナイ』

 

 ……そんな物は必要ないとは思う、そんな物騒な覚悟なんて無くても人は戦える。少なくとも僕はそう思っている。

 そしてグラジオ達は僕を助けるために戦ってくれた、その心は戦士に相応しいはずだ。

 

 

「だがUは己を危険に晒して貴方と戦ったぞ、それでも覚悟が足りないというのか?」

 

「貴様モ器ヲ纏う者モ、力ヲ持ッテイル。真ノ意味デ己ヲ危険ニ晒シテナドイナイ、己ニ死ナド訪レナイト錯覚シテイル、ソレハ覚悟デハナイ」

 

 どうなんだろう、僕にとって超能力はあって当たり前の物だ。ブラックナイトで全てを差し出すつもりでも残ってしまった。

 それは僕の覚悟が足りなかったからか? 軽率にポケモンと戦う僕は覚悟ができていないのか? 僕は避けられない死を目前にしてそれを受け入れる事ができるのか?

 

「そ、そんなもん必要ないッス! 傷付けるのも傷付けられるのも、避けられるならそれが1番ッス!」

 

「ヤハリ貴様等ハ島巡リヲ、試練受ケルベキデハナカッタ。資質無キ者ガ戦士ニ成レルハズガ無イ、大人シク己ノ弱サヲ受ケ入レロ」

 

「そ、それは……」

 

 消沈するAさんとA2さん、これ以上見たく無い光景だ。僕とカプの考えは相容れない、それで良いだろう。

 

「スカル団のみんなが持っているのは弱さじゃなくて優しさです、分かり合えない様なので試練はもういいです。僕達は下山します、時間を取らせましたね」

 

『駄目ダナ、覚悟ナク器ヲ纏ウ貴様ハ危険ダ。波ノ訪レハ近イ、戦士足リ得ナイ候補者ハ此処デ滅スル』

 

 膨れ上がる敵意、燃える様に沸き立つ金色のオーラ。黄金はみるみる内に膨張して巨大な人形を創り出した。

 マハロ山道に光の巨人が出現した、頭部のカプ・コケコと合わさってまるで仮面を被ったかのような姿だ。こんな奥の手を持っていたのか。

 

「くっ……まだ力を隠し持っていたのか」

「お、大きすぎる……」

「こんなの……勝てない……」

 

 絶望的な奥の手だ、戦うまでもなくさっきまでの戦術が通用しないのが分かる。異常なまでのOPの高まりは大地からエネルギーを得ているのか? いや……、とにかく自前で賄える量のOPではない。

 だけど問題はない、彼等がやって来た様だ。何時だって僕を助けてくれる相棒達が到着した。

 

「大丈夫です、助けが来ました」

 

「助けだと? U、何を言って……」

 

 マハロ山道に異変が起きる、太古の力がアローラへと上陸した。

 

 龍の雄叫びが乱気流を巻き起こして木々を揺らす、上空で天空の王者が巨人を睨みつけている。

 巨人の足元の大地が隆起する、地中より現れた大地の王者が巨人の前にに立ちふさがる。

 崖下から水流が溢れ出す、中空を海水で満たした海の王者が巨人の背後に浮かび上がる。

 

「な、何? 何が起こってるの!?」

 

 スカル団式の語尾を忘れて怯えるA2さん、焦ると素に戻るのはスカル団全員の共通点だな。

 

 気が付くと周囲は赤と青のフィールドに包まれていた、オーキスが周囲に気付かれぬ様に結界を張った様だ。

 さらに赤と青の宇宙に月が現れる、上空に佇むふわふわちゃんは何時もより力強い、何かあったのだろうか。

 

『ユーリ! アイツにいじめられたの!? キラがやっつけてあげる!』

 

 キラが光ながら僕に飛び込んで来た、2日ぶりの再会にしては大げさな気がするけど優しく受け止めてあげる。そしてキラの思念はだだ漏れだった、加えて普通に僕の名前を呼んでいる。

 

「U、やはりお前は……」

 

「べ、べあ!?」

 

 くまきちが慌てた様子で走って来てキラを取り押さえる、僕の正体を隠す為に頑張ってくれたようだがもう遅いだろう。これだけ相棒達が揃った以上はこの場のみんなには正体を明かすしかない。

 

『この場は退け! カプ・コケコよ! ここで果てるのは貴様の望む闘争ではあるまい!』

 

 ジガルデが思念でカプ・コケコに問い掛ける、光の巨人は動く様子はないが考え込んでいる。

 僕が全員を同時に指示するのは不可能だ、それでも全員でかかれば確実にカプ・コケコは負けるだろう。彼にもそれは分かるはずだ、それでも彼は戦いを止めないのだろうか?

 

『監視者ヨ、貴様ハ知ッテイルハズダ。次ノ“カガヤキ“ト成レル器ハヒトツダケダト、ソノ男ガ“カガヤキ“ノ操リ人ニ相応シイト言ウツモリカ?』

 

『分からん、だが小僧は必ずこの島の助けになるだろう。それだけは確かだ、信じてくれ』

 

『戯言ダナ、ソノ男ハ戦士デハナイ、波ニ打チ勝テルノハ選バレタ戦士ダケダ』

 

 光の巨人が消える、カプ・コケコは雷鳴を鳴らして飛び去って行った。とりあえずは見逃して貰えたのだろうか。

 

「カプ・コケコの試練は終わりのようです、よくぞ無事に切り抜けられました。素晴らしい連携でしたぞ」

 

 ハラさん僕達に声をかけてくる、心の底から安堵した表情だ。僕達を心配してくれたのだろう。

 

「すみませんハラさん、ご心配をおかけしました……それとマハロ山道を荒らしてしまってすみません」

 

 山道は酷い有様だ、吊橋は壊れているし周囲の木々はなぎ倒されて地面は所々抉られている。派手に吹っ飛び吹っ飛ばされてしまった。

 

「いえ、カプ・コケコの試練で起こった被害の責任を君が感じる必要はありません。ですが村の人間には姿を見られない様に下山した方が良いでしょう、後の事は私に任せてくだされ」

 

 少し心残りはあるがハラさんの言う通りにしよう、とりあえず泊まる予定のモーテルに移動するか?

 

「ハラさん、ありがとうございます。オーキス! 僕達をモーテルの近くまで飛ばしてくれ!」

 

「はっ!? ちょっと待つッス」

「と、飛ばす!? どうやって!?」

「“テレポート“による転移か……余り得意ではない」

「クゥーン……」

 

 そしてハラさんだけを残して僕達はその場から消える、ハラさんはこのマハロ山道の惨状を村の人にどうやって説明するのだろう、僕達に責任がいかない様に弁明するのは苦労しそうな気がする。

 そして僕もどう説明したものか、3人に正体を明かさない訳にはいかない。カプ・コケコの意味不明な発言もそうだが気の重くなる案件ばかりだ。

 

 まぁ、でも大丈夫だろう。3人は身を危険に晒してまで僕を助けてくれた、まだアローラに来て一ヶ月も経っていないが僕はこの島で新しい友と仲間を得たのだ。

 戦士かどうかなんて気にする必要は無い、あんな言葉に囚われる必要なんてないのだ。

 

 傷つけるのも傷付けられるのも避けられるならそれが1番良い、その言葉は弱さではない、優しさなのだ。

 優しさは強い事よりも力よりも尊い、そうだろうレックス?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アローラの4つの島の中心の海上に浮かぶメガフロート“エーテルパラダイス“、私が父から受け継いだエーテル財団の現在の本拠地、ここは私とポケモン達の幸せが永遠に続く楽園。

 1日の業務を終えた私は我が家へと帰宅する、エーテルパラダイス内に移した私達家族の家。愛するモーンと子供達が帰ってくるべき居場所。

 

「ただいま」

 

 返事は無い、この家には私以外の人間はいない。そして起きているポケモンは一匹もいない、だから返事が聞こえる事はあり得ない。

 だけど家に帰って来たらただいまを言わなくてはいけない、それがモーンや子供達と約束したわが家のルール、だから私は返事が無くてもただいまを言い続ける。

 

 邸宅の1番奥にある私の部屋、その更に奥にあるコレクションルーム。私の幸せが永遠となって存在している部屋、ここで過ごすのが今の私の孤独を慰める唯一の方法だ。

 部屋の全面に氷漬けのポケモン達が並んでいる。私の可愛いポケモン達、治らぬ病の進行を抑える為に氷漬けにした彼等はドリームワールドの中で幸せな夢を見ているだろう。

 

 永遠に約束された幸せを手に入れて安らかに眠るポケモン達、それを見ると私も幸せを分けて貰える、ポケモン達に救済を与えるのがエーテル団の代表である私の幸せでもあるからだ。

 

「フフ、もうすぐなの、私も家族達と永遠の幸せを手に入れる。待ち望んだ物がもうすぐ手に入るのよ」

 

 長い間待ち望んだ、ただひたすらに求めた。ウルトラホールの向こうへと消えてしまったモーンを迎える準備がようやく整った、後はタイミングを待つだけだ。

 波が来るその時こそ私は“カガヤキ“を手中に収めてZパワーを完全に制御する、そうすればウルトラホールの完璧なコントロールが可能になる。その力でモーンをこの楽園まで導く事ができる。

 

 だけどこの世界とウルトラスペースの中では時間の流れが違う、“カガヤキ“による導きでもこちらの世界では途方もなく長い年月が過ぎ去ってしまう可能性が十分にある。

 

「だから永遠の楽園を創りましょう、このエーテルパラダイスを中心にアローラは朽ちる事の無い幸せを手に入れる」

 

 コレクションルームの中心、3匹の氷付いたポケモン達。可愛いこの子達が私の幸せを、永遠の楽園を創り出してくれる。

 

 モーンと入れ替わりに私の前に現れたウツロイド、そしてキュレムとネクロズマ。イッシュ地方から取り寄せた“いでんしのくさび“とウルトラホールから流れ着いた“プリズムブレイン“からジェミニプロジェクトの研究成果で産み出した美しいポケモン達だ。

 

 私を楽園に導いてくれる愛しい子供達、幸せな眠りに付く彼女達を目覚めさせるのが可哀想だが少しの間だけだ、波が来たその時に彼女達の力を解放して貰う。

 

「待っていてね、貴方達も寂しいでしょう? もうすぐ一つになれるわ」

 

 私がウツロイドと一つになりZパワーの完全な制御を手に入れる、自分を満たしてくれる他者を望んでいるキュレムは“カガヤキ“を手に入れたネクロズマと一つになる、全てが幸せになれる素敵な未来のために。

 そして永遠を与える、ウツロイドと一つになった私とネクロズマで己を満たしたキュレム、時すら止める溶けない氷の世界を創り出す。エーテルパラダイスを中心にアローラは永遠の楽園となるのだ。

 そうすればモーンが帰って来るのにどれだけ時間がかかっても問題は無い、あの時と変わらないこの家でモーンを迎える、愛しいあの人にただいまを伝える事ができる。

 

 何も間違いないなど無い、これはアローラの人々にもポケモン達にとっても幸せな事だ。時を止めた氷の世界ならば波が来てもやり過ごす事ができる、眠っている間もドリームワールドで幸せな夢を見る事ができる。

 

「素敵な事よ、本当に素敵。時間が経つことがなければ幸せは失われない、本当の楽園がそこにはあるの」

 

 冷たい氷を撫でる、美しい透明の中で静かに微睡む彼女達から返事は無い。だけど分かる、きっと私を応援してくれている。優しい彼女達は私の幸せを願ってくれているに決まっている。

 

「フフ、グラジオ、リーリエ、全て終わったらモーンと一緒に迎えに行くわ、アローラで待っていてね」

 

 アローラに居る事は分かっている、だから安心できる。永遠の楽園の中でならあの子達も幸せな夢の中でモーンの帰りを待つことができるだろう。

 もう一度家族全員が揃う、この家でまた一緒に暮らす事ができる。今度は離れ離れになどならない、だってこの家は楽園の中心、永遠に溶けない氷の中で私達家族はずっと一緒に居られるからだ。

 

 ああ、素敵な気持ちだ、浮立つ心が抑えられない。今日の報告を聞いてからずっとその事を考えていた。

 本当に嬉しい知らせだ、楽園の鐘の音が聴こえてくる様だ。

 

 グズマは良い子だ、あの子は私のために何でもしてくれる。心に傷を負った可哀想なあの子は私を慕ってくれている。

 今度ご褒美をあげよう、あの子の働きに報いてあげなくては。

 

 そして彼にも感謝しよう、私の心からの感謝の気持ちを精一杯捧げよう。素敵な力を持った心優しき超能力者、素敵なポケモン達を手に入れた素晴らしいポケモントレーナー。

 

「ユーリ君、本当にありがとう、アローラに来てくれて嬉しいわ。それに、グラジオとお友達になってくれたのでしょう? あの子は気が弱いから友達が出来るのか心配だったの」

 

 本当に嬉しい、調べていた通りの優しくて素敵な子だ。母親として感謝の気持ちで一杯だ、ポケモンにも優しいあの子はエーテル財団の理念もきっと共感してくれるだろう。

 家族を大事にするあの子なら私の考えも分かってくれるに決まっている、家族は永遠に一緒にいるべきだと理解しているはずだ。

 だからきっと力を貸してくれる、限界を超える素敵なキズナの力を貸してくれるだろう、そうすればZパワーの制御はより一層完璧に近づく。

 

「ユーリ君、貴方も楽園に招待するわ。一緒に永遠を手に入れましょう、もう少しだけ待っていてね」

 

 もう少し、もう少しだけ、楽園にはあと少し、パラダイスはそこにある。

 

 

 

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