自分はかつて主人公だった   作:定道

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47話 落ち着け、俺はただZ定食が食べたいだけなんだ

 ロイヤルマスクからお食事会の開催を聞かされた直後、僕達は急いでウラウラ島に戻ってその旨をグズマさんに報告した。

 だが、グズマさんは既にその事を知っていた、リラさん経由でカプ・ブルルから知らせがあったらしい。

 グズマさんとリラさんは僕の協力者として食事会に参加してほしいとの要請を快く受け入れてくれた、もう一人を誰にしようかと悩んでいる僕にスカル団全員を集めて意見を募ろうとも提案してくれた。

 

 そして2日後、スカル団アジトのポータウン広場では激しい議論が巻き起こっていた。

 議題はもちろんアイナ食堂で行われる食事会についてだ、スカル団の全メンバーが集まり意見を激しく衝突させている、みんな真剣に食事会について考えてくれている。

 

「だから全員“にくZ定食“を頼むべきッス! 中途半端に“やさい“や“さかな“を頼むのはダサいッス! 他の陣営に舐められるッスよ!?」

 

「でも“にく“だけは流石にバランスが悪いッス! にく3、やさい2、さかな1、これがベストな選択ッス! 攻守のバランスを考えるとこれしかないッス!」

 

「それは逃げッス! 周りの目を気にしたいい子ちゃんの選択ッス! それなら全員“やさい“の方が潔くてポリシーを感じられるッス!」

 

 一部は少しズレた方向で盛り上がっている。人の食べる定食を勝手に決めるなと言いたい所だが、真剣に考えているのは間違いないので放っておこう。

 

「お食事会に参加した者はしばらくアローラから出られない、協力者は器の操り人を裏切れない、食事会で得た情報を許可なく他人には伝えられない、そして参加者は危険な試練から逃げる事は許されない、背いた者は島に罰せられる……中々物騒な内容ですね」

 

 リラさんが今朝のペリッパー便で届いたお知らせの紙を読みながら感想を述べる、確かにゆるいタッチのヤドンやナッシーのイラストが描かかれている割に記載内容は厳しい。何だか悪魔のお食事会に参加させられる気分になる、条件がまるで悪魔の契約だ。

 

「チッ、ポケ太郎のバージョンが昔のままだな……相変わらず半角と全角の数字が混じってやがる、いつまで経っても覚えねえ人だよ」

 

 グズマさんがお知らせの書式を見て呟く、ハラさんと知り合いなのか? よく考えればアローラに住んでいて島キングと面識のない人の方が少ないか、島巡りに参加した事があるならなおさらだろう。

 

「危険な試練ってのは島巡りの試練とは別物っぽいね、どちらにせよトレーナーとして実力のある人間を選んだ方がよさそうだ。食事会に参加したら逃げる事は出来ないとも読み取れる、人選は慎重にすべきだね」

 

 プルメリさんの言葉には僕も同意だ、背後からいきなり襲って来るカプ・コケコが危険と称する程の試練というのは恐ろしい、何かあっても対処出来るトレーナーじゃないと僕も安心してお願いできない。

 このスカル団の中から実力という観点で後一人を選ぶならカンナさんかギーマさんのどちらかだろう。四天王を退いたとはいえ実力が衰えた訳でないのはウルトラビースト保護の時に確認している、特にカンナさんはフリーザーを手持ちに加えているので戦力という意味では非常に頼もしい。

 ただ、今のカンナさんとギーマさんはあまり派手に動けない。昨日からアーカラ島にはリーグ本部から査察の為の人員が派遣されているらしい、二人はリーグ関係者に姿を晒したくないみたいだ。

 

「くっ、リーグ関係者が私の借金を建て替えたとの噂もある……見つかったら強制的に連れて行かれるかもしれないな」

 

「例の計画の秘密を知った私が狙いかもしれないわ、しばらくアーカラ島には近づかない方がよさそうね。ごめんなさいU、肝心な時に力になれないなんてね……」

 

「いえ、気にしないでください。自分の問題の方を優先して貰った方が僕も安心できます、ウルトラビーストの保護で十分に活躍してもらいましたからね」

 

 あくまで僕の協力者という形での参加要請だ、個々の事情を無視してまでついて来てもらうのは申し訳ない。

 まあ、カンナさんはともかくギーマさんはリーグに差し出した方が良いかもしれない、むしろリーグの方が被害者な気がする。

 しかし、二人が無理だとすると誰に頼むのが正解なのだろう? プルメリさんもトレーナーとしての実力はかなりのものだが、スカル団を統率する人間を全員試練に参加させるのは少し不安があるとリラさんも言ってた……悩みどころだ。

 

「いっその事、四人目は空席にするか? 四人を必ず揃えろとは書かれていない、もしかしたら後から補充する事も可能かもしれない」

 

 グラジオの意見にも一理ある、話を聞いてからの方が適切な人員を用意できるだろう。

 極端な話をすれば試練の内容はポケモンバトルとは全く関係ない内容かもしれない……お料理勝負とか?

 

「ブルルも試練の内容は教えてくれませんでした、ですが器の操り人と呼ばれる者を四人揃えて競わせるつもりなのは間違いありません。そしてお食事会を取り仕切っているのは戦いを司るコケコ、人員の補充が認められなかった場合に頭数で不利になる可能性を考慮するとそれはあまり得策ではないと思います」

 

「食事会には体調不良で出られない事にして、実際には協力者を後から決めるのはどうですか? それが駄目とは書かれていませんし」

 

 自分で言っておいて何だがかなり卑怯な行為。だが、そもそものカプ達の言い分が理不尽過ぎる。どんな危険があるのかも分からない試練など、そう簡単に誰かを参加させられない。

 

「そりゃあ止めたほうががいいぜU、具体的な方法はわからねえがカプ共はこの島に置いてあらゆる出来事を知る事ができる。奴らに虚偽や不正は通用しねえ、島に罰せられるってのも比喩表現じゃねえはずだ。実際にあくどい方法で土地の所有権を手に入れて建設されたスーパーめがやすは物理的にブッ壊された、関係者達は死人こそ出なかったが洒落にならない程度の怪我をしている。この食事会ってのは一種の儀式みたいなもんだろう、カプ共は掟の隙間を突くような行為を嫌う……恐らく言い訳しても通用しねえぞ」

 

「そうですか……じゃあ駄目そうですね。ルールが向こうにある以上はどうやっても従うかしか選択肢がなさそうです」

 

 島のあらゆる出来事が知れる? 今も常に監視されていると言う事か? だが僕の探知には監視の気配は引っかからない。

 それとも島の残留思念、レックスの様に大地の記憶を観測できるのか? 大地にはある意味最強の映像記録が感情も含めて無制限で残される、確かにそれなら虚偽や言い訳は通用しないだろう。

 

「やっぱり私が参加するよ、どうせカプ共の言う試練なんて戦い以外はあり得ない。私も足を引っ張らない程度には戦えるさ、それで構わないだろU?」

 

「ええ、プルメリさんが来てくれるなら心強いです」

 

 スカル団の中でプルメリさんはグズマさんの次にポケモンバトルが強い、姉御肌で頼りがいもある。

 他の団員からも反対の声はあがらない、協力者はグラジオ、グズマさん、リラさん、プルメリさん、この四人で決まりかな?

 

『小僧、お前の協力者として相応しい人物を連れて来た。スカル団の者達にそう伝えろ』

 

『ジガルデ? ポケリゾートから帰って来たの?』

 

 突然脳内に響くジガルデからの思念、僕は席から立ち上がって思念の飛んで来たポータウンの入口に目を向ける。僕にしか聞こえない思念に反応して立ち上がった僕をみんなが不思議そうに見詰める。

 

「どうしましたU? 誰かがポータウンにやって来たのですか?」

 

「え、ええ、リラさん。どうやらゼロが人を連れて帰って来たみたいです」

 

「ゼロが? そう言えば昨日から姿を見なかったな、しかも誰か連れて来ただと?」

「クゥーン?」

 

 昨日僕がポケリゾートに顔を出しに行った時に置いていった、ジガルデ本人がそう望んだからだ。モーンさんと話があるからだとジガルデは言っていた。

 もしかしてモーンさんを連れて来たのか? 確かにあの人は色々と事情通っぽいけど、トレーナーとしてはどうなのだろう? ポケリゾートには強いポケモンも多いがあの人自身のOPはそこまで高くない気もするけど……

 

「その……ゼロは食事会に参加するのに相応しい人物を連れて来たらしいです」

 

「何? ゼロがそう言ったのか? お前の知り合いかU?」

 

「ええ、そのはずです……」

 

 僕とグズマさんのやり取りに皆は静まり、その場の全員が町の入口に視線を注いだ。妙な沈黙が広場を包み込み、誰もが来訪者を待つ。

 

 そして彼はやって来た、モーンさんではない。ジガルデの後ろには一人の青年、彼の放つ存在感にその場の全員が釘付けとなる。

 ゆっくりと歩いて来た彼は僕達の前で歩みを止めた、そしてスカル団全員を見回すと落ち着いた雰囲気で話し始める。

 

「いい町だね、ウルトラビースト達の穏やかな気持ちが伝わって来る。この場所がとても気に入っているみたいだ」

 

 そこまで大きくないのによく通る声、何故か心を揺さぶられるような響きを孕んだその声音にみんなが聞き入っている。僕も久しぶりに聞くその声に懐かしい気分になる。

 

「久しぶりだね……今はUと呼ぶべきなのかな? 君の旅路はいつも数奇な運命を辿るようだね。灰色の竜を辿ったボクとキミの因果は再び交わった、アローラの地で再会する事になるとは思わなかったよ」

 

 彼は親しげに僕に語りかける、相変わらずの物言いだがそんな事よりも聞かなければいけない事がある。この場の誰もが感じている疑問を問いたださねばならない。

 

「さて、スカル団の諸君……僕はN、理想と真実の先に未来を求める者だ。僕をスカル団に入れてくれ、アローラで巻き起こるウルトラビーストを巡る舞台にボクも参加させてほしい」

 

 黒いキャップを被り長い緑の長髪を後ろで束ねた青年、かつてイッシュ地方で騒ぎを起こしたプラズマ団の王だった男、理想を求めて真実に敗れた英雄は両手を広げてそう言った。スカル団にの面々は呆気に取られている。

 

「N……久しぶりだね、色々質問したい事はあるけどまず教えてほしい」

 

 とりあえず僕が応対するしかないだろう、驚いてるのは僕も同じだけどこのままじゃ話が進まない、ジガルデが連れてきたのなら僕の客だ。

 

「何かなU? なんでも聞いてくれ、君の疑問に答えよう」

 

「あのさ……なんで水着なの?」

 

 しかもブーメランパンツだ、身体も濡れているというか水が滴っている。歩いてきた跡がビチョビチョだ、せめて身体を拭いてから訪ねて来い。

 

「ああ、さっき海でラプラス達とトモダチになってね、一緒に泳いでいたんだ。アローラの海は素晴らしい、ポケモン達がのびのびと泳いでいたよ」

 

 答えになってるのかそれは? なんでブーメランパンツにキャップとアクセサリーだけなんだよ、帽子を被ればいけると思ったのか? その格好で入団の面接は第一印象最悪だぞ? いくらイケメンでもギリギリアウトだ、お前は海パン野郎か?

 

「そ、そう……その、本気でスカル団に入るつもりなの?」

 

「ああ、彼に色々と聞いたよ。それがボクの目的を果たすのに一番適していると判断した、キミがいるなら是非とも仲間に加えてほしい」

 

『ジガルデ……なんで連れてきちゃうの? せめて服を着させてから連れてきてよ』

 

『アルファに乗ってウラウラ島に向ってる途中に捕まったのだ、コイツに認識阻害が通用しないのは小僧も知っているだろう。それにアルファがコイツにお前の事を頼んだのだ、心配だから力を貸してやってくれとな』

 

 アルファ……心配してくれるのは嬉しいけど何もNに頼まなくても……相変わらずポケモンからの好感度がMAXな男だよNは。

 まあ実力的には間違いない、経歴と過去の所業には問題があるけど、それはゲーチスに利用されていただけだと僕は認識している。

 でも、一つだけ確認しなくてはいけない事がある。もしもあの事件にNが関わっていたなら僕はコイツを許せなくなる。

 

「N、少し前にガラル地方のスパイクタウンで残党共が騒ぎを起こしたのは知っているな? お前はあの事件に関わっているか? それなら僕はお前を許さない、拘束して警察に突き出す事になる」

 

 スパイクタウンを恐怖に包んでマリィを傷付けたあの事件、Nの性格上あの事件を指示したとは思えない。でも、そこだけはハッキリさせなくてはいけない、僕は友達を傷付けた奴等の仲間と仲良くするつもりなんて無いからだ。

 

「あれ以来彼等は二つに別れ、互いの意見の違いから対立を続けている、そしてそのどちらにもボクは与していない。だから去年の事件に僕は関与してないよ、あれ以来ボクは人とポケモンを知るために各地を回っていた。そしてアローラに来たのは彼等の一部が灰色の竜に関する品をこの地に送ったのを知ったからだ……信じて欲しい」

 

 プラズマ団の残党が分裂して活動しているのは知識通りだ、そして灰色の竜? キュレムの事か?

 僕はNの目を真っ直ぐに見詰める、Nも瞳を逸らさずに僕を見ている……やはりこの男は誤魔化しや嘘をついたりはしない、そして僕の超能力もNが嘘を付いていない事を示している。

 

「ごめん、疑って悪かったN。そこはハッキリさせたかったんだ」

 

 傲慢で身勝手な価値観、自分の見える範囲しか気にしていない独善的な判断だ。

 でも僕に取って大事なのはそこだけだ、プラズマ団の過去の悪行の大部分がゲーチスによるものなのは間違いないがNに全く責任がないとは思っていない。それでもポケモンの事を真摯に想うコイツを本気で嫌ったり断罪する気持ちは僕にはないし、そんな権利も持ち合わせていない。

 そしてスカル団の流儀に従うなら過去を詮索いたしまするのは本来はご法度だ、さっきの質問自体が自身を棚にあげた物でもある。

 

「構わないさ、ボクは自分の行いによる結果を誤魔化したりはしないよ、人の裁きに身を任せるつもりもないけどね」

 

 そう言って自嘲するN、海パンでなければ実に絵になる光景だっただろう。無駄に細マッチョなのが目に痛い。

 

「昔話は終わったかU? それでこのNさんとやらの実力はどうなんだ?  スカル団に入りてえ奴を無下にはしねぇがお前の協力者となるには無条件って訳にはいかねえぞ、トレーナーとしての強さがねえ奴を協力者とは認められねえ」

 

 グズマさんが僕にそう尋ねる、当然の疑問ではあるが実力という点では心配はいらない。Nは少なくとも殿堂入りクラスの実力者だ、アデクさんを破ったのはまぐれではない。

 ただ……ポケモンは現地調達になるのかな? ポリシーが変わってなければその可能性が高い。

 

「グズマ、その男はイッシュ地方のチャンピオンを下した事もある。トレーナーとしての実力は私が保障しよう、人間性までは保障しかねるがね」

 

 ギーマさんが横からそう発言する、微妙に非難するような口調だ。あんな事をしでかしたNに対して思う所があるのは当然か、古巣とはいえイッシュを混乱に陥れたプラズマ団の元王様には嫌味の一つも言いたくなるだろう

 

「おや、キミは確かイッシュ四天王の一人だね。四天王は辞めたのかい? キミもスカル団だなんて中々興味深い再会だよ」

 

「所詮この世は盛者必衰、勝者がいれば必ず敗者も存在する。君と同じ様な理由で私もスカル団に厄介になってるよ」

 

 いや、嘘付くなよ……少なくともNに借金はないはずだ。絶対に同じ様な理由ではない、何で見栄を張るんだよ。

 

「はっ、ギーマがそこまで言うまでの男なのかよ! なら実力的には問題ねぇな! だがU! 協力者に関してはお前に決定権がある! お前の意志はどうなんだ?」

 

「グズマさん、Nへの確認は済ませました。僕はNを協力者にしようと思います」

 

 スパイクタウンの件が無関係で、アルファも頼んだのなら反対する理由は無い。超然的で実力も兼ね備えているNになら僕も安心して協力者を頼む事が出来る。

 

「感謝するよU、僕とトモダチの力をキミの助けにしてみせる。世界を旅してポケモントレーナーとなったボクの力をね」

 

 Nはあの日にトウヤとレシラムに敗れた。そしてアデクさんに諭されて、自身の心境の変化を吐露した。ポケモン達の解放を目指した自分の信念がイッシュを旅する間に揺らいだ事を正直に告白した。

 そして旅立って行った、僕達に夢を叶えろと言い残してゼクロムをトウコに託して僕達の前から去って行った。

 各地を旅した今のNならトレーナーとポケモンの関係を否定したりはしないだろう、ウルトラビースト達を保護するというスカル団の活動にも協力してくれるはずだ。

 

「よろしくN、僕は君を歓迎する。僕に力を貸してほしい」

 

 Nに右手を差し出して握手をする、手の平が海水で湿っているのは多目に見よう、それが僕なりの誠意だ。

 

「こちらこそよろしくU。素敵な格好だね、キミへのラブを感じるよ」

 

 リノに気付くのは流石だ、Nのポケモンに対する感覚は相変わらずズバ抜けている。

 

「おいN! お前が入団するための条件が2つある! スカル団の頭としてこれだけは譲れねえ!」

 

 握手を交わす僕達にグズマさんがそう宣言する。2つの条件とは一体なんだ? ポケモンバトルとかかな?

 

「条件とはなんだい? 僕に出来る事なら何でもしよう」

 

「身体を拭け! 服を着ろ! それが出来たならお前をスカル団に入れてやる!」

 

 やっぱりグズマさんはリーダーだ……器が大きい、そして的確な判断ができる。ビシッと言える所が格好良い。

 

「了解だよボス、その条件を飲もう」

 

 Nはプルメリさんが差し出したタオルで身体を拭き、腰のキューブから見覚えのある服を取り出して生着替えを披露し始める。団員達が少しソワソワしている。

 あの謎キューブはカバン代わりの収納空間だったのか、そして相変わらず同じ服だな。着換え終わったNのは姿形は昔のままだ。

 

「フッ……中々面白い男だなU、お前の知り合いなだけはある」

 

 何だか褒められている気がしない、それに面白さで言えばグラジオもいい勝負だ。風変わりなイケメンという点も共通している。

 

「フッ……昔ちょっとね、あの頃の僕は色々あった、若気の至りってやつさ」

 

「ガキンチョの癖に何が若気の至りッス、しかも微妙に使い方が違う気がするッス」

 

「ちょっとズレたイケメンッスね……流石Uの知り合いッス。類は友を呼ぶってやつッス」

 

 AさんとA2さんがやかましい、僕とNを同じカテゴライズにしないでほしい。常識人の僕は決してNと同じジャンルではない。

 

「おいお前達! スカル団に新入りが増えて協力者も決まった! この後は夕食も兼ねて歓迎会だ! 久しぶりに豪勢にやるぞ!」

 

「オォー!! グズマさんサイコーッス!! 派手な歓迎会にするッス!!」

 

「最近金欠だったッス!! カロリーの高い物が食いたいッス!!」

 

「めちゃくちゃイケメンッス!! テンション上がるッス!!」

 

 グズマさんの宣言にみんなは声援で応えた、こういうノリの良さがスカル団の魅力である。Nも歓迎されて嫌な気はしないだろう。

 プルメリさんの指示を受けて今週の給仕当番達が早速食料などの買い出しに向かっている、備蓄もあるけど歓迎会にするならマリエシティで色々と揃えないといけない。

 

 残ったスカル団の面々はNの周りに集まって色々と質問している、それに対してNは穏やかな様子で応えている。

 やっぱりNは変わった、ポケモンに対しての愛情はそのままに人間への態度が柔らかくなった。当時は一部の者にしか見せなかった穏やかな物腰をスカル団のみんなにも見せている。

 

「どうやらアデクさんは正しかったようだ、あの男は旅を経て自分を変えた。世界は黒と白の二元論で表せる物ではないと理解できたみたいだね、人とポケモンの関係とはコインの裏表の様に単純な物ではない」

 

 隣にやって来たギーマさんはそう呟いた、変わったのは確かだろう。その変化が正しいかどうかは僕には分からない、だけど今のNの方が僕の好みではある。

 

「より純粋になったのかもしれないですね。ポケモン達に向けられていた目線を人にも向けられる様になった、そんな感じがします」

 

「なるほど……いいね、君もNも旅を経て自分を見つめ直したと言う訳だ。変えてはいけない物を残したままに世界の見方を変える、それでこそポケモントレーナーだ」

 

 やっぱりギーマさんは僕の正体に気付いている、顔を見せずに声も変えていても勝負師の目は誤魔化せない。ギーマさんの少し露悪的で気取った言動は四天王の時から変わっていない。

 

「そうですね、僕は変わった自分を気に入ってます。多分Nもそうですよ」

 

「それなら問題なさそうだ、勝負で大事なのは変えてよい手札とそうではない手札を見極める事、今の君とNならばそれが出来るだろう。後はベットするタイミングを間違えなければ勝利を掴める、アローラとカプ達を見極めろ、君の直感に従ってな」

 

 なるほど、ギーマさんなりに僕を心配して激励してくれてるのか。協力者になれない負い目をこの人なりに感じているのだろう、素直に頑張れと言えないのがこの人らしい。

 

「ええ、そうします。実は僕って勝負事には強いんです、タマムシとコガネのゲームコーナを出禁になるくらいには勝負師です」

 

 インチキなんてしてないのに理不尽だった、自分の視力を強化するのはルールに反して無いはずなのにね、超能力者差別だよまったく。

 

「ハハッ、なら心配なさそうだ、ついでにリーグの連中も追い払ってくれると嬉しい。頼むよ、いや本当にさ……」

 

 最後の言葉がなければ格好良かったのになあ。

 

 

 

 歓迎会は大いに盛り上がった、Nもアローラに来たばかりらしいのでアローラ料理には満足したようだ。スカル団のみんなは割と多芸な者が多いので余興もバリエーションがあって見ごたえがある。

 僕も超能力でズガドーン達のマジックショーを手伝った、主に背景でピカピカと光る役割を任されている。ちょっと悲しい仕事だけどみんなが満足しているので良しとしよう。

 

「それで!? 結局みんなはどの定食を頼むっスカ!? 教えてほしいッス!!」

 

 歓迎会の最中にそんな質問が飛んでくる、まだ言ってたのか。まあ僕が食べる定食は決まっているけどね。

 

「私は“にくZ定食“にします、ブルルは“やさいZ定食“を頼むと言ってました」

 

 リラさんは意外とお肉大好きウーマンだ、プルメリさんにいつも野菜も食えと小言を言われている。

 そしてカプ達って草食なのか? コケコはなんというか鳥っぽい感じがしたけどブルルはどんな見た目なんだろう?

 

「俺は“やさいZ定食“にするぜ、アイナ食堂で食うときはあれに決めてるからな」

 

 グズマさんはやさいか、意外と言うべきか納得と言うべきか……でも食べる物を決めている所はグズマさんっぽいな、毎朝の散歩だったり自分で決めたルールに従う人なのだ。

 

「フッ……俺はせっかくだからスペシャルを選ぶ、やはりトレーナーは特別を求めるべきだ」

 

「おや、気が合うねグラジオ。僕もスペシャルを頼むよ、美しい数式が味わえそうだ」

 

 数式を食うな、意味が分からんぞ。多分スペシャルって肉と野菜と魚が全部入りだよ? お得な感じはするけど初めての店でそういうのを頼むと意外と後悔するんだよね

 

「す、スペシャルッスカ!? あれは初心者にはオススメしないッス!! 危険すぎるッス!!」

 

「確かに危険だな、あの定食はピーキー過ぎる。アローラ以外の人間に理解出来るとは思えねえ」

 

 定食の話しだよね……危険って何だ? 量が凄く多いのか? ピーキーな定食って何ですかグズマさん?

 

「ほう、そう言われたら引き下がれない。他の陣営達は強敵だ、前哨戦で負ける訳にはいかない」

「く、クゥーン?」

 

「僕はスペシャルを超える、心配いらないさボス」

 

 まあ本人達が食べたいって言うなら食べさせてあげればいいだろう。食にはそれぞれのこだわりがある、口出しするのは無粋だ。

 

「僕は“さかなZ定食“にしておきます、アローラの魚料理ってまだ少ししか食べてないから楽しみです」

 

 港町のアサギシティ出身である僕の舌を満足させてくれるかな? 

アイナ食堂は大衆食堂らしいので家庭的な料理が味わえるはずだ。

 グラサンの実家のアサギ食堂の魚の煮付け定食にはかなわないだろうけどね、あれこそが僕にとってのベストオブ定食だ。

 

「Uはさかなッスカ……奇抜な見た目の割には手堅いッスね、若い癖に冒険しない奴ッス」

 

「でもこれで、にく1、やさい2、さかな1、スペシャル2ッス。意外とバランスの良いオーダーッス、これなら他の陣営になめられずに済むッス」

 

「ちょっと攻めすぎな気もするッス……でもグズマさん達ならイケるッス」

 

 何故かディスられた気がする、でも納得してるみたいだから良しとする……そんなに他の人が食う物って気になるか?

 

 

 

 歓迎会も終わり、シャワーを浴びた僕はリノを纏いプルルとジガルデを伴って海岸へ夜の散歩に出かけた。プルルが喜ぶのでアローラに来てからの日課になっている。

 静かな波の音を聞きながらの散歩は心地良い、綺麗な星空が見えるのも素敵な所だ、夜でも肌寒くないのもアローラの良いところだ。

 今日はオーキス達も海岸にやって来る。最低でも二日に一回はみんなに会う、キラとふわふわちゃんとくまきちが特に寂しがるからだ、もちろん僕も寂しい。

 

 僕だけに分かる様に、オーキスが海岸に認識阻害のフィールドを展開させている。ポータウン付近なのは変わらないけど念の為に毎回場所は変えている、今日は北の海岸にフィールドを感知した。

 歩みを進めていくと何時もと違う感覚に気付く、フィールドの中に誰か先客がいるみたいだ。オーキス達から警戒の思念は感じないので恐らく彼がいるのだろう。

 

 フィールドの中には予想通りNが居た、キラが彼の周りを嬉しそうに飛び回っているのが見える。人見知りのくまきちもNと会話しているようだ、ふわふわちゃんも警戒せずに彼の話を聞いている。

 Nが僕達に気付く、キラとふわふわちゃんがこちらに飛んできたので挨拶変わりに撫で回す。大きくなったふわふわちゃんを撫でるともうカバンには隠せない事を改めて実感する、ほしぐもちゃんを見た後なので尚更だ。

 

「やあ、お邪魔してるよ。懐かしい気配を感じたからやって来たんだ、彼等も元気そうだね」

 

 Nには特殊な力がある、ポケモンの気配を感知して意思疎通が出来る能力だ。超能力者とも少し違った不思議な力、この世界には超能力以外にも特殊な力が多種多様に存在している。

 超能力や霊能力ほど解明されていない特殊な力、ルネシティの巫女達や、キズナオヤジに忘れオヤジなんかの力がそれに当たるだろう。数は少ないけど不思議な力を持った人達は確かに存在する。

 

「色々あったけどみんな元気だよ、ふわふわちゃんとくまきちとはガラルで出会ったんだ、もう聞いたかな?」

 

「ああ、くまきちが教えてくれたよ。ガラルのレックス達の話も聞いた、機会があれば会ってみたいね」

 

「レックスはきっと喜ぶね、ガラル地方に行ったならカンムリの神殿に行けば会えるはずだよ。入場料は50円だ」

 

 きっとポケカノの話をたっぷりと聞かせてくれる、是非とも訪ねてやってほしい。僕の知り合いならレックスは歓迎してくれるだろう。

 

「それは楽しみだね、豊穣の王とは是非とも話がしてみたい。……それにしてもユーリ、キミは変わったね。ポケモンたちへのラブは変わらないけど随分と落ち着いたみたいだ、それにあの頃よりも大きくなった」

 

 流石Nさんは分かってるよね、僕がちゃんと成長しているのを分かってらっしゃる。分かってない人が多くて大変なんだよね。

 

「まあ色々あったからね、ガラルで自分を見つめ直す機会があったんだ。Nもかなり変わったね、色んな地方を旅したんだろ? あの様子ならスカル団のみんなと上手くやっていけそうだ」

 

 Nは歓迎会を楽しんでいた、僕の目には少なくともそう見えていた。興味の無い人間を見下していた彼はもういないのだろう。

 

「そうだね、今日は楽しかった……キミと出会った頃のボクなら無理な事だった。ボクは旅をして自分の世界が狭かった事を知った、他者を理解できなくても否定することは止めたよ、アデクさんの言葉が少しだけ理解できたんだ」

 

「なら今度会ったら本人にそう言ってあげなよ、アデクさんは喜ぶよ。今はチャンピオンを退いて後進の育成に尽力しているみたいだからね……トウヤとトウコ、ベルとチェレンにもそれを伝えてほしい」

 

 アデクさんも、あの四人も最後までNを気にしていた、今頃みんなは何をしているのだろう? 元気にしているかな? 

 

「うん、ここでのやる事が終わったらイッシュに帰るつもりだ、ボクはあの地で責任を果たさなければならない」

 

 責任か……僕もいつかはホウエンでそれに向き合わなければいけない。共にやらかした者としては共感するばかりだ。

 そしてNのやる事、灰色の竜の事だろう。グラジオからルザミーネさんがアローラを氷で閉ざすと聞いた時に少しだけそれを連想した、まさか的中するとは思わなかった。

 

「N、君の目的はキュレムだろ? エーテル財団がキュレムを手に入れたのか?」

 

 アローラを飲み込む程の氷の世界を作り出せるポケモン、そんなポケモンをキュレム以外に僕は知らない。

 アローラに住むまだ見ぬ伝承災害級のポケモンやウルトラビーストかとも思ったが、Nの言葉で違うと確信した。

 

「いや、エーテル財団が手に入れたのは“いでんしのくさび“と呼ばれる物でキュレムそのものではない。でもジェミニプロジェクトと呼ばれるポケモンの一部からポケモンを生み出す技術を使えば新しいキュレムを既に生み出しているかもしれない」

 

 ムゲンダイナやミュウツーが複数の個体が存在するのは、ジェミニプロジェクトの研究成果によるものだとマグノリア博士に聞いた。

 ポケモンの身体の一部と特殊な設備、大量のOPが必要なので無制限に増やせる訳ではないらしいがエーテル財団程の規模の組織なら十分にあり得る話だ。

 

「そっか、プラズマ団達はエーテル財団に手を貸して何がしたいのかな? キュレムを増やしてゼクロムとレシラムの両方をキュレム達に取り込ませるつもりなのかな?」

 

 ブラックキュレムとホワイトキュレムの両方を手に入れたプラズマ団、あまり想像したくない事態だ。

 僕は氷漬けになっていたキュレムしか見た事はないが、ゼクロムとレシラムを取り込んだキュレムが強力なポケモンなのは間違いないだろう。

 

「そこまで知っているのかい? 相変わらずキミは不思議だね、キュレムが抜け殻なのはプラズマ団達が最近突き止めた事実なのに……だがその懸念は恐らく間違いだよ。ボクの知る情報が正しければ、彼等がそれを知ったのは“いでんしのくさび“をエーテル財団に送った後だ。恐らく自分達が利用する前にキュレムの力を観測するために“いでんしのくさび“をエーテル財団に渡したのだろう、今頃は後悔しているだろうけどね」

 

 なるほど、実験のつもりで“いでんしのくさび“を提供した後に、キュレムがゼクロムとレシラムを取り込めると知ったのか。

 なら後悔しているのは間違いない、イッシュで悪事を働くなら障害となるトウヤとトウコの最大戦力を無力化できるはずだったのだ、今更アローラに取り返しに来ようとしてもカプ達のせいで手出し出来ないだろう。

 何だか間抜けな話だな、プラズマ団の残党だから連携が上手くいってないのか? スパイクタウンでも奴等の行動は破滅的だった。

 アクロマが頭にしてはお粗末な行動だ、あいつはクズだけど抜け目がないのは間違いない。もしかして今のプラズマ団を率いているのはアクロマじゃないのか?

 

「N、今のプラズマ団を率いているのは誰か知っている? アクロマって研究者かな? それともゲーチス?」

 

「アクロマ? 聞いた事がないな名前だな……それにゲーチスでもない。あの男の行方は未だに掴めていないよ、今のプラズマ団の王はある科学者だ、キミも知っている男のはずだよ」

 

 ん? アクロマでもゲーチスでもないなら一体誰がプラズマ団を率いているんだ? それに僕が知っている男?

 

「かつてシンオウ地方を騒がせたギンガ団、その首領だったアカギという名の男が今のプラズマ団の王だ。キミもギンガ団壊滅に関わっているなら知っているだろう?」

 

「アカギがプラズマ団の王?」

 

 何もかもが知識通りでは無い事は十分に理解している、だけど意外過ぎて驚いた。繫がりがまるで分からない、どういう経緯でそうなるんだ?

 

「そしてそのアカギがアローラに来ているらしい。プラズマ団の動きを探っていた僕にロットの部下が接触して来てそう教えてくれた、だからボクはアローラに来たんだ」

 

「えっ!? アローラに来てるの!? アカギが!?」

 

 そもそもあの男はシンオウで捕まっているんじゃなかったのか? いつ脱獄したんだ? そしてどうやってアローラに入った? カプ達がそれを許したのか?

 分からん……そもそも目的は何だ? “いでんしのくさび“の回収か? それにしても本人が来る必要はない、まさか観光しに来た訳じゃないだろうし……あの男ほど南国が似合わない奴もそういない。

 

「ああ、目的が不透明すぎて不気味だ。わざわざ本人が出向く必要がある理由がアローラに存在するならそれを知りたい、恐らくはウルトラビーストに関わる何かを手に入れる為にこの地にやって来たんだと思う、ロットもそう睨んでいるようだね」

 

 アカギの目的……完全な世界へと辿り着く事? ウルトラスペースにそれを見出したのか。

 あの男は何を考えているのか読みにくい、僕のテレパスを防ぐ程のデバイスを自作して身に着けていたからだ。

 

 それとちょっとだけ気になる事がある、もしかして僕が忘れているだけかもしれない。

 

「あの……ロットって誰? 僕の知っている人?」

 

「おや? 覚えてないのかい? ロットはプラズマ団で七賢人だった一人だよ、今はプラズマ団が奪って持ち主が分からないポケモンを保護している、罪を償いたい団員達のまとめ役になっているようだね」

 

 ああ、七賢人ね。七人もいるから顔と名前が一致しないんだよなあ……みんなおじいちゃんだから覚えにくい、三賢人だったらギリギリ覚えられたかもしれない。

 しかし罪を償う活動とは茨の道だろう。今拘束されていない団員達と言う事は、比較的プラズマ団の暗部に関わっていなかったメンバーかもしれない、恐らく公的な罪に問われる程ではなかった人達だ。

 でも世間はそんな事は気にしたりしない、恐らく正しい事をしていても受け入れてはくれないはずだ。ポケモンの解放を謳っていたプラズマ団にはシンパも多かったが、リーグの乗っ取り事件で完全に世間からの信用を失った。

 

「その人達は逃げ出さないんだね、自分のやった事と向き合っているみたいだ」

 

「ああ、そうみたいだね。未だに持ち主の元へ帰れないポケモンは多い、誰かがやらなければ彼等は路頭に迷う、そんなポケモンが居なくなるまでロット達は活動を辞めないだろうね……彼等にとってそれがせめてもの償いなんだろう」

 

 それは報いなのかな? プラズマ団の末端には純粋に正義を信じて活動していた人もいるだろう、無知と言えばそれまでだがやるせなさを感じてしまう。

 悪い事には報いが訪れる、世間に非難されながらの保護活動がそれに当たるのか? でもポケモンの誘拐に関わっていなかったメンバーがいるのならその行動自体は善行ではないのか? 良い事にだって報いは訪れるべきじゃないのか?

 Nの表情は暗い、Nだって全てを忘れて旅をしていた訳じゃないだろう、むしろ旅を重ねてポケモンと人間の繫がりを知る程に罪悪感が増していったかもしれない。人とポケモンの繫がりを断ってしまった非道さを深く理解したのだろう。

 

 レックス、君ならどう思う? 一度罪を犯した人間は永遠に報われないのかな? 償いの大きさを決めるのは一体誰なんだろう?

 

「じぇるるっぷ!」

 

 プルルが大きな鳴き声をあげて僕の頭に引っ付いて来た、プルルは人の感情の変化を敏感に感じ取る。暗い思考に陥っていた僕を慰めてくれたのだろう。

 

「ありがとうプルル、心配かけてごめんね」

 

 そしてレックスにも悪い事をした、僕はその答えを既に知っている。自分を赦すのは自分自身だ、あんなに壮大に教えてもらったのに見失ってしまった。

 

 Nにも伝えよう、これが彼にとっての正解なのかは分からない。だけど僕にとっては真実だった、自分と向き合った後に必要なのはそれに気付く事だ。

 

「N、楽しむことや笑顔でいることを後ろめたく感じる必要はない、償いをする人間が常に苦しんでいなければならない決まりなんてないよ。償い方だって自分で決めればいい、お前はそうしてるんだろう?」

 

 正しい償い方なんて誰も知らない、その答えは自分で決めるしかない。相手のいない償いだってある、終わりの無い償いだってあるのかもしれない。

 

「償いの大きさを決めるのは結局自分だ、自分を許せたその時が償いの終わりだよ。当事者ならともかく赤の他人の言う事を気にする事はない、お前は自分を赦せるまで自分なりの償いを続ければそれでいいんだ」

 

「なかなか自分勝手な理屈だね、それに難しそうだ……数式と違って決まった答えがない、本当に正解なのか揺らいでしまいそうだよ」

 

「だからこそ償いなんだよ、他人の答えが欲しいのなら自首するしかないね、少なくとも裁きは受けられる。どうすれば自分を赦せるのかは自分で決めるしかないよ」

 

「優しい様で厳しい話だ、答えのない答えを探す行為。ボクが自分を赦せるのは何時になるのかな……」

 

 自分で決めるならそれを甘んじて受け入れなくてはいけない、公の裁きを受けるつもりがないなら自らで裁きを下さなくては区切りも終わりも訪れない。

 罪を感じず、自分を騙す人間にはそんな事を勧めたりはしない。偽り事をしないNにだからこそ僕は言葉を贈るのだ。

 

『辛気臭いぞ小僧共が!! ぐだぐだと過ぎた事を嘆くな!! 罪など人間が定めた一時の概念にすぎん!! 人の善悪など時代と共に移り変わる!! 今を生きるのなら未来を見ろ!! 希望を抱け!! へ理屈をこねても得る事は出来ん!! とにかく今の問題に向かって行動しろ!!』

 

 ジガルデの一喝で僕の持論が一蹴されてしまった……そんなに辛気臭かったかな? 真面目に考えたんだけどな。

 

「い、いい事言うねジガルデ、流石だよ」

 

「フフッ、監視者がそう言うなら間違いないなさそうだ。まずはアローラの問題に全力で取り組もう、まずはそこからだね」

 

『そうだ!! そしてさっさとコイツ等をかまってやれ!! お前らの話は長すぎる!! 退屈してるだろう!!』

 

 キラ達がこちらを見詰めている、確かにスキンシップしに来たはずなのにNと話し込んでしまった。待たせてしまったようだ。

 

「じゃあ、みんなで遊ぼっか? 久しぶりにみんなでスマッシュゴールでもやる? Nはルール知ってるかい?」

 

「ジョウト地方のポケスロンドームで観戦したよ、なかなか奥が深い競技だったね」

 

 倉庫からゴール一式を取り出してセッティングする、正直得意ではないけどリノを纏った状態ならそこそこ動けるだろう。

 そして時間の許す限り、Nも混じってその場の全員が全力でプレーした、汗だくになってシャワーを浴びたのが無駄になるほどに熱中した。

 

 はしゃぎ過ぎて翌日は筋肉痛になった、痛いけどたまにはいいだろう。難しい問題に直面した時は身体を動かして汗を流してぐっすり寝る、気分が晴れやかになれば違った答えも見えてくる、夜に考え事をするとネガティブになると言う話を聞いた事もある。

 確かにまずは目の前の問題だ、アローラの試練に全力で挑もう。僕もNも責任を果たすのはその後だ。試練を超えた先に僕達は新しい学びを得て、新しい責任の果たし方を知るかもしれない。

 

 報いはいつだって行動の後にやって来る、それを善とするのも悪とするのも今の行い次第だ。全力で今に向き合わない者が報われる事はない。

 


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