自分はかつて主人公だった   作:定道

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48話 戦いは数だよ兄貴!

 

 いかがわしき屋敷の一角にある僕の部屋、レジエレフォンのアラーム音で意識を覚醒させる。窓から注ぐ朝日が眩しい、今日もいい天気だ。

 昨日は早めに寝たから目覚めは爽快だ、エレンの鳴き声を1ループ聞いてからアラームを止める。ジガルデはまだ僕のベッドの足の方で丸まって寝ており、プルルも部屋の中央でぷかぷか浮かびながら眠っている。

 

「リノ、シャワーを浴びるから少し待っててね」

 

 既に起床してベランダで朝の日光浴を満喫しているリノに声をかける、リノから了解を告げる思念が返ってきたのでシャワーを浴びて身支度を整える。

 流石に就寝の時はリノを纏ってはいない、寝返りが打ちにくいので勘弁してもらった、シャワーやトイレの時にも鎧状態を解除してもらっている。

 

 今日はついに食事会当日の朝だ。身支度を整えてリノを纏い、若干寝ぼけているプルルを頭に乗せ、熟睡しているジガルデを抱えて食堂まで運ぶ。毎朝の様に世話の焼ける監視者だ、野生と誇りを忘れて愛玩ポケモンと成りかけている。

 食堂には既にそれなりの数の団員達が集まっていた、団内の希望者は給仕当番を順番に受け持てば食事が提供される。中には厨房に入る事を拒否されているリラさんなどもいるが、団員の8割はこの食堂を利用している。

 

 スカル団は給与が支給される集まりではないがこういった福利厚生が割と手厚い、基本のユニフォームは支給されるし、ポータウン内の物件はほとんどタダ同然で住むことが出来る。

 スカル団の資金源は謎だ、一度グズマさんに尋ねたらスポンサーが存在すると言っていたけどそれが誰なのかは教えてくれなかった。団員達から運営費を徴収している様子も無い、一体スカル団を支援してくれる人物とは何者なのだろう。

 

「おはようU、今日の朝食はどうする? 昼の事を考えて軽めにしておくかい?」

 

「おはようございますプルメリさん、朝食は軽めでお願いします」

 

 厨房のカウンターからプルメリさんが声を掛けてくる、プルメリさんは見た目に反して本当に面倒見が良い。給仕当番達や物資の管理の統括、グズマさんの不在時にスカル団を取り仕切るのも彼女だ。

 スカル団の構成員はおおよそ百人程で、組織としては小規模だが結束力は高い。グズマさんが慕われているのが大きいが、プルメリさんがスカル団を支えているのも団結の理由だろう。

 

 カウンターで朝食のトレーを受け取り、AさんとA2さんが手招きしている席へと向かう。二人の対面でグラジオの隣の席だ、低血圧なグラジオは朝に限ればテンションが低い、小さな声の挨拶に返事して僕も朝食を取る。

 周囲を見回してもグズマさんとリラさんの姿が見えない、Nは両脇をフェローチェに挟まれながら朝食を食べている。モテモテだなあいつ。

 

「グズマさんとリラの姉御は“みのりの遺跡“に行ったッスよ。何でもブルルは放って置くと寝坊するから起こしに行ったらしいッス、出発までには帰って来るッス」

 

 僕が視線を彷徨わせている訳を悟ったAさんが答えをくれた、 ブルルはカプの癖に寝坊するのか? 自分達で開催を決めといてやりたい放題だ、それともやる気があるのはコケコだけとか?

 

「2人が帰って来たら船で出発ッス、Uも朝食を済ませたら身支度を済ませるッス、食事会に向けて早めにコニコシティに現地入りするッス」

 

「念の為に戦闘出来る団員を20人コニコシティに連れて行って待機させるッス、またコケコの奴が襲ってきたらすぐに助けを呼ぶッスよ」

 

 大丈夫だと思うけどね、流石にコケコも町中の食堂で事を荒立てたりはしないだろう。そんなに回りくどい罠を仕掛ける性格でもなさそうだ。

 

「あれからウルトラホールが出現していないとはいえ、団員がそんなに出払って大丈夫ですかね? ウラウラ島にウルトラビーストが出現したら対処に問題が出そうです」

 

「プルメリ姉さんにカンナさんとギーマが居るッス、それにお知らせにもしばらくはウルトラホールは出現しないって書いてあったから大丈夫なはずッス。安心して食事会に望むッス」

 

 それがいまいち信用出来ないんだよなぁ……何でカプ達はウルトラホールが出現しない事を断言できるんだ? 空間の異変を予測する能力があるとか? まさかウルトラホールを出現を操作しているのはカプ達ってオチは無いよな、それも試練だとか言われたら流石にキレるぞ。

 

 悩みつつも軽めの朝食を手速く済ませ、自分の部屋で身支度を整える。着て行く服に悩む必要は無い、リノを纏った状態が僕のアローラでの正装だ、流石に食堂でドレスコードを求められたりはしないだろう。今日もリノの黒いボディはイカしてる、この夏のトレンドは決まりだね。

 

 コニコシティへと向かうメンバー達と広場に集まり、みんな揃ってポータウンの北にあるスカル団専用の港まで向かう。

 港には既にグズマさんとリラさんがスタンバイしていた、ブルルの姿は見えない。

 

「おはようございますグズマさん、リラさん、ブルルは一緒じゃないんですか?」

 

「ええ、ギリギリまで寝たいから先に行けと言われました、食事会にはちゃんと参加すると言っていましたが少し不安です……」

 

「チッ、大した守り神だよまったく。わざわざ迎えに行ったのにムダ足踏ませやがって」

 

 うーん、何か怠惰な奴だなブルル、コケコとは違った方向で困った奴みたいだ。

 

「まあカプなんてどうでもいい、お前ら全員揃ってるな? コニコシティへ出発だ、操舵は頼むぜF」

 

「アイアイサー! シースカル号発進ッス!」

 

 スカル団が所有する船“シースカル号“でコニコシティへと向かう、30人程度まで乗れる中々立派な船だ、元々ポータウンに廃棄されていた物を修理して運用しているらしい。

 普段の用途は食料調達の為の漁だが、今日は大人数での移動の為に漁具は撤去してあるみたいだ、この人数で乗っても十分なスペースが確保できている。僕のイカダには負けるが乗り心地も悪く無い、自分で漕がなくても進む所もナイスだ。

 

 しかし人数が多いと心強いな、食事会に向けての不安が少し軽くなる。気が大きくなったと錯覚するおかげかな? 群れるのは弱い奴だと言う人もいるけど、仲間が多いのは良いことだとも思う。人それぞれの考え方次第ってやつだ、実際に僕は数の多さに救われている。

 

 しばらく船に揺られるとアーカラ島が見えてくる、あの赤い門がコニコシティの入口かな? 何だか中華街っぽい感じだ、もしかしてアイナ食堂って中華料理屋だったのか?

 

「うおっ!? 凄えクルーザーが停まってるッス!! あれは確かイッシュの貴族が所有しているヴィーナス号!! やばいッス!! 世界で一番美しいとも言われるクルーザーを生で見れるなんて感動ッス!!」

 

 操縦席でFが声を上げた、かなりテンションが上がっている。Fはいつか自分の船を持つのが夢だと言っているだけあって船舶に詳しい、だからこそのこの騒ぎ様なのだろう。確かに僕もサントアンヌ号を実際に見た時はテンションが上がった、大きな船を見るとワクワクするのは共感できる。

 僕もみんなも声に釣られてクルーザーが停まっている方向に目を向ける、確かに白くて美しい大型のクルーザーが港に停まっていた。物凄く高そうな船だ……幾らぐらいするんだろう?

 

「確かに大きい船ッス、ああいう船はどうせプールが二つぐらい付いてて、貴族達はデッキで毎日シャンパン飲みながらキャビアを食うッス、羨ましいッス」

 

 羨ましいかそれ? 毎日キャビアなんか食べたら痛風になるぞ? そして凄い偏見に満ちた貴族感だな、僕の中でもそんなイメージだから反論出来ない。

 

「確かに大きいな、家にあったクルーザーの倍くらいの大きさか? だがイッシュの貴族か、このタイミングだと邪推してしまうな」

 

 グラジオが隣で静かに呟いた、このブルジョワめ、普通の家はクルーザーなんて所有してないぞ。

 しかし貴族ね、確かにこのタイミングだと気になる、ちょっと超能力で遠視してみるか?

 視界を上空に飛ばしてクルーザーの付近を探る、近くの砂浜のに黒服のSP集団が見えた。貴族の警護か? という事は近くのビーチバレーをしている集団が警護対象で……

 

「ぴぃ!?」

 

「なっ!? どうしたU、 何か見つけたのか?」

「急に鳴き声をあげないでほしいッス、びっくりするッス」

 

 グラジオとA2さんに返事をする余裕がない、超能力の制御を乱せばあの人に気付かれる、リノを纏っていなかったら一瞬で見破られてただろう。

 

「何やってんだあの人達は……」

 

 何でアローラにカトレアさんがいるんだ!? しかも一緒にいる面子もおかしいぞ!?

 レッドさんにグリーンさん、それにダイゴさんにシロナさん。何だよこの厨パは、リーグは阿呆なのか? チャンピオン厨なのか?

 そして何故か男性陣の3人はビーチバレーをしている、対戦相手はリーリエちゃんとユリと現地民っぽい男の子だ、子供3人を相手に劣勢の勝負を繰り広げている。

 女性2人は水着姿でパラソルの下でその様子を観戦している、黒と白の水着が眩しい、色々な意味で刺激の強い光景だ……

 

 そうか、リーグからの派遣された査察の為の人員があの人達か、しかし明らかに査察が目的とは思えないメンバー構成だな。

 絶対にウルトラビーストの件に干渉するつもりだろう、でなければあそこまでの戦力を揃えるはずがない。まさか全員揃ってバカンスに来たとは言わない……よね?

 

「みんな! あれはリーグから派遣された人員が乗っている船です! 近くの砂浜に関係者と思われるチャンピオン級のトレーナーが複数人います!」

 

 僕の発言に船内がざわつく、リーグ招致を阻止したいスカル団から見れば彼等は対立関係にあると言える。そんな彼等が非常に強力なトレーナーとなれば心穏やかにはいられないだろう。僕の心臓もバクバクしている、全員顔見知りなのが心臓に悪い。

 

「リーグの船だと? それにチャンピオン級とは豪勢なことだな……おいU、具体的には誰がいるんだ? お前が見えた範囲で教えろ」

 

「カントー地方のレッドとグリーン、ホウエン地方のダイゴ、シンオウ地方のシロナ、チャンピオン級が4人ですグズマさん。他にもリーグのトレーナーらしき人員がいますが目立つのはその人達です。イッシュ四天王のカトレアもいます、あの人は殿堂入り経験はないはずだけど強力な超能力者です、ある意味一番やっかいかもしれません」

 

「彼等がリーグから派遣された? 査察の名目の範囲で出来る限りの戦力を送ったという事でしょうか……ですが素直にリーグの任務をこなす人選ではないですね、全員実力があってもリーグに従順ではないトレーナーです、彼等にとってもウルトラビーストは気になる存在と言う事でしょうか?」

 

 確かにそうだ。あの人達は癖は強いが悪人ではない、むしろ正義の味方ともいえる。長年リーグに所属しているだけあって指令をこなしつつも自分達の好きな様に持っていく方法をよく知っている、ホウエンでもシンオウでもガラルでもそうだった。

 スカル団としては対立してしまうが、あの人達はアローラやウルトラビースト達を害する様な真似はしないだろう、ポケモンや人を傷付くのを良しとする様な性根ではない。

 

「砂浜にいるって言ったなU、奴等は何をしてやがる? まさか俺達を待ち構えてるのか? リーグ招致の妨害をする俺達スカル団の事は耳に入ってるだろうからよ」

 

「いえ、グズマさん。女性2人はパラソルの下で寛いでいます、男性3人はビーチバレーに興じていますね、何故か対戦相手はリーリエちゃんとユリと地元っぽい男の子です」

 

 チャンピオンチームは変わらず劣勢だ、張り切っているのはグリーンさんだけであまりボールは拾えていない。ユリのスパイクにいい様に翻弄されて、攻撃は地元民っぽい男の子にことごとく拾われている。

 相変わらずレッドさんは球技がへなちょこだな、ダイゴさんも意外にポンコツだ、何でもハイレベルにこなすイメージがあったんだけどな……チャンピオンをミクリさんに譲って腑抜けたのか?

 

「なんだと? リーリエにそんな伝手があるはずが……まさかユリの知り合いなのか? あの女はチャンピオン達を協力者として呼び寄せたのか!?」

 

 あっ……そういう可能性もあるのか。

 

「いや、どうかな……レッドとグリーンは子供のドッジボールに強引に混ざって来る様な人種だ、単純に砂浜で遊んでたリーリエちゃんに絡んでいった可能性も捨てきれない」

 

「そ、そうなのか? レッドはポケモンバトルにストイックな人物だと噂で聞いていたが……」

 

 ストイック……まあ間違ってはいないかな? 修行のためとはいえシロガネ山に籠もるのは自分に厳しいと言えるだろう。

 

「まあレッドに限らずカントー地方の人間はそういう所があるよ、グリーンもそうだ、大人げないというか負けず嫌いというか、遊びでも子供相手に手を抜かない所がある」

 

 カントーの奴等はジョウト地方の人間のような余裕と奥ゆかしさが足りない、東の奴等は無粋だよね、料理の味付けも濃すぎるし。

 

「カトレア……彼女か、ボクが顔を見られるのは不味いかもしれないね、スカル団のみんなに迷惑がかかるかもしれない」

 

「あっ!」

 

 そうだ、やばいぞ! 下手をすればNが実力行使で拘束されてしまう、正体を隠さないと。

 そしてひらめく、僕は正体を隠す為のアイテムを二つ持っている、よく考えたら一つはNから借りた物だ。

 

「N! この二つならどっちが良い!? ロイヤルマスクか甲冑だ! どっちで正体を隠す!? それと甲冑返すねありがとう!」

 

 僕は倉庫から黒い甲冑と、リラさんから貰ったロイヤルマスクを取り出す。甲冑はNの城に置いてあった物だから丁度良い、ついでに返却しよう。

 決して忘れていた訳ではない、どさくさに紛れて返そうだなんて思っていない。

 

「ああ、懐かしいねこの甲冑は。昔イッシュでキミが使った奴だ、まだ持っていたのかい?」

 

 Nが黒い甲冑をペタペタと触る、他のみんなも急に取り出した甲冑を物珍しそうに眺めている。確かに本物のフル甲冑なんてそうそう見れないよね。

 

「へえー立派な甲冑ッスね、本物ッスカこれ? 確かにこれなら正体は分からないッス」

 

「いや、アローラで甲冑なんて来たら暑さで死ぬッス。みんながUみたいに変態じゃないし、普通の人間は暑さに耐えられないッス」

 

 なんか僕が異常者みたいな扱いだが正論だ、いくら不思議君なNでも暑さには耐えられないだろう。蒸し焼きになってしまう。

 しょうがないからロイヤルマスクをNに渡す。今日からお前はマスクドNだ、決して素顔を見られてはいけない、それがマスクマンの宿命だ。

 

「あまり美しくないマスクだけど甘んじて受け入れよう、みんなに迷惑をかけるからね。甲冑はそのままキミが持っていてくれ、別にそれはボクの所有物じゃない」

 

 そーなの? じゃあ甲冑はゲーチスを見付けて返さなきゃいけないのか? やだなぁ……普通に会いたくない。

 そして僕も今のままじゃ駄目だな、リノを纏っていてもレッドさんやグリーンさんには見破られるかもしれない。特にシロナさんはやばい、何なら匂いで僕を判別してくる可能性もある、あの人ならあり得る。

 

「リノ! あれをやるよ! トランスフォー厶だ!」

 

 僕の声に反応してリノが変形する、装甲を少し薄く伸ばして僕の素肌が見えない様に全身を包む様に伸びていく。そして脚部も50センチ程伸びる、もちろん見せかけではない“ねんりき“で空洞部分を制御して自然な歩行が可能となる。

 トランスフォーム完了だ、これこそが僕とリノがコツコツ練習して手に入れた新しい姿、リノの鎧Mark Ⅱ だ。

 等身が伸び、鎧によって完全に身体を隠す事によって隠匿性能が格段に上昇する、更に視界も高くなって僕の気分が良くなり、気が大きくなる特殊効果もある。これで食事会もバッチリだ。

 

 ん? 何だか周囲が静かだな、どうしたみんな? 僕とリノの変身に驚いて声も出ないのか?

 

「5人中2人が顔を隠している集団ってどーなんスカね、一人は身長まで誤魔化してるッス」

「まあ底知れなさは演出されるッス、あの変身はUなりの威嚇ッスね、小さなポケモンも威嚇の時には少しでも自分を大きく見せるものッス」

「フッ……偽りの姿でも関係ない、大事なのは勝利への執念だ。Uは心までは偽ってないさ」

「なるほど、この甲冑を模して姿を変えたのか。キミに甲冑が不要になるはずだね」

 

 いや、誤魔化しでも偽りでもパクリでもない。この視界の高さはいずれ成長した僕が手に入れる予定の物だ、少し未来を前借りしているに過ぎないのだから失礼な事を言うなよ。

 

「こ、この変身はカトレア対策でもあります、彼女は強力なエスパーです、探知の類いは苦手なはずですが念には念を重ねます。Nは……そのネックレスがあれば大丈夫か、それのおかげでテレパスは効かないもんね」

 

 Nが首からさげてる謎のアクセサリー、イッシュで発掘された古代の遺物らしく、本人の意思に応じて超能力を防ぐ優れ物だ。かつての僕のテレパスすら防ぐ程だからカトレアさんにも通用するだろう。

 

「なら食事会の前に奴等に接触して本当にレッド達が協力者なのか探るか? 俺がリーリエに会いに行くのは不自然ではない、Nも黙っていれば問題ないのだろう?」

 

 どうする? 確かにレッドさん達は気にはなるけど結局食事会になれば協力者は判明するんだし……接触する必要はないかな? あの人達の前に姿を晒すと僕がボロを出しそうだしな。

 

「いや、スルーしよう。食事会までに騒ぎを起こしたくない、あの人達は目立つからね」

 

「いやいや、ウチらもかなり目立つッスよ? 今日は特に大人数だし基本的に町中でスカル団はジロジロ見られるッス、怪しさ満点のUがいるから今日は特に注目度抜群ッスね」

 

 二重に悲しい、上陸するのが嫌になってきた。

 

「おいU、今日の主役はお前だ。俺達スカル団はお前の方針に従うが本当に接触しなくていいんだな?」

 

「グズマさん……それは……」

 

 うーん、そう言われると接触した方が良い気もするぞ? どうしようかな?

 

「や、やっぱり遠くから様子を伺いましょう。問題なさそうなら接触する、とりあえず様子見です」

 

 何かみんなが白い目で僕を見てる、優柔不断なのは自覚してるからそんな目で見ないでほしい。

 

「では人数を絞って砂浜の彼等を偵察しましょう、他の人員は予定通りの場所で待機を……」

 

「いえ、リラさん。僕が全員を認識疎外のフィールドで包みます、僕の視界も共有させるのでみんなで偵察できます、30人程度なら余裕です。人数が多い方がもしも接触する時に心強いのでお願いします」

 

 これだけ人数がいれば舐められないだろう。数は力だ、敵対してる相手ともなれば第一印象は大事だ。考え方が小悪党な気がするが気のせいだと思う事にする。

 

「そ、そうですか? ではその様にしましょうか……」

 

 何かリラさんの返事が歯切れ悪いな、もしかして呆れられている? 積み上げた好感度が落ちた気がする。

 

「この人数で砂浜に押しかけるつもりッスカ、それだけの超能力を持ってるのに気が小さいッスね」

 

 くっ……否定出来ない。だけど僕は自分を曲げたりしないぞ、悪いが付き合ってもらう。

 

 

 

 数分後に港に到着し、大人数でコソコソと砂浜近くの林に身を潜める。この人数でもまったく気付かれないのは流石だと自画自賛したくなるが、実際はリノの補助のおかげだ。リノを纏うと僕の超能力はあらゆる面で1段階上の物となる。

 砂浜にいるメンバーで気をつけるべきはユリとカトレアさんだ、あの2人は超能力の細かい制御や探知は苦手のようだが油断し過ぎると勘付かれてしまうだろう。

 レッドさんとグリーンさんのミュウツーも恐ろしい、ボールに入っている状態の今は僕の隠蔽に気付いていないようだけどボールから出てきたらどうなるか微妙だ、そのままでいてくれる事を祈ろう。

 

「あれは……ハウか? まあ、あの2人がククイの研究所に住んでいるならつるんでいるのも自然か」

 

 ハウ? ユリとリーリエちゃんと一緒のチームの男の子の事か。優しそうな子だ。

 

「グズマさんはあの子と知り合いなんですか? アローラの子ですよね」

 

「あいつはハラの孫だよ。知り合いって程でもねえ、互いに顔を知ってるってだけだ」

 

 ハラさんのお孫さんか、似てる……訳でもないかな? しかしグズマさんはハラさん関係の話をする時は少し不機嫌になるな。

 

 そしてビーチバレーに決着が付いた、圧倒的大差でユリ達のチームの勝利だ。笑顔で喜ぶ子供達に比べて大人共は辛気臭いな、割と真面目にへこんでる。

 そしてユリとグリーンさんが言葉を交わす、どうやらグリーンさん達は勝負に負けたら協力者としてユリに力を貸すと約束していたようだ。何を考えているんだあの人達は? 気軽に引き受ける様な役割じゃないぞ? お知らせをちゃんと読んだのか?

 

「あれがグラジオの妹のリーリエさんですか、貴方によく似ていますねグラジオ」

 

「ああ、昔から良く言われたよ。俺もリーリエもどちらかと言えば母親似だからな」

 

 リラさんの感想に複雑そうな顔をして答えるグラジオ。母親似か、確かに現在対立の真っ最中の母親を連想すればそうなるか。

 ルザミーネさんは一体どんな人なのだろう、今日の食事会で真意が分かればいいんだけど……

 

「おや? 砂浜に近づく集団がいるね、風変わりな格好をしている者もいる、変わったマスクだね」

 

 お前が言うなとツッコミたいが、Nにマスクを渡したのは僕だ、ここはグッと我慢する。

 

「えっ、本当だ、うわ!? パキラまでいるのか……それにあのロトムマスクは何だ? 正気か?」

 

 金髪のお姉さんを先頭に砂浜へと歩みを進める5人の大人達、その内1人はカロス四天王のパキラだ。

 パキラにも驚きだけどそれよりも目を引く人物がいる、ロトムの形をしたマスクを被っている男だ。そんな奇抜なマスクをして恥ずかしくないのか?

 

「母さん……リーリエに会いに来たのか?」

 

 えっ? 母さん? 

 

「ぐ、グラジオ、まさかあの金髪の女性がルザミーネさん?」

 

「ああ、そうだ。リーリエに会うのとユリを探るのが目的なのだろう、あの人は抜け目の無い人だ」

 

 マジかよ!? 若くない!? ムチャクチャ美人じゃん! それにパキラと並んでも見劣りしないスタイルだぞ!

 

「マジッスカ!? グラジオのかーちゃん美人ッスね!」

「えっ? グラジオって14才ッスよね? ヤバくないッスカ?」

 

 スカル団の面々が盛り上がっている、僕も何故かテンションが上がって来たぞ。

 ルザミーネさんはユリとリーリエと話を始めた、パキラさんはグリーンさんと揉めている。後ろの3人はそれを黙って見ている。

 よく考えたらあの人達はルザミーネさんの協力者か? 人数も丁度だし、パキラなら悪事に手を貸すのも納得出来る。あの女はかなり狡猾だ。

 

「グラジオ、ルザミーネさんと一緒にいる人達は知っている人かな? ピンクの髪の女はカロス四天王のパキラだけど他の人は誰だかわかる?」

 

 ロトムマスクの男、眼鏡をかけたナイスバディの女性、ヘンテコな緑のゴーグルをつけたオッサンの3人だ。 個人的にはあの眼鏡の女性とは仲良くしたい、男共は色物過ぎてあまり関わりたくない。

 

「眼鏡の女性はビッケ、緑のサングラスの男はザオボー、エーテルパラダイスの副支部長と支部長だ。ロトムマスクの男は見た事がないな……だが母さんが連れている男だ、見た目で侮らない方がいい、只の道化のはずがない」

 

 なるほど、じゃあ協力者の内の2人はエーテル財団の人間でパキラとロトムマスクの男を外部から呼んだのかな。どこであんな人材をスカウトするんだろう……

 

「おいおいU、島キング共もやって来たみたいだぜ。昼飯の前に面子が揃っちまったな、面白くなってきたぜ」

 

「本当だ……勢揃いですね」

 

 

 ハラさんを先頭にした集団もやって来た、あれがコケコの陣営か……ん? あのバカンスを満喫してますって格好のお爺さん、凄い髪型だな。

 

「N、もしかしてあのアロハシャツに星型のサングラスかけたお爺さんはアデクさんかな? 僕の気のせいだよね?」

 

 あんな特徴的な髪型の人がアローラにもいるとは思わなかった。

 

「いや、あれはアデクさんだね、随分とゴキゲンな格好だ。まさかあの人もアローラに来てるとは……面白い因果だ」

 

 いや、面白いか? 格好で言えばロイヤルマスクをつけた今のNも負けてはいないがあまり笑えない事態だ。リーグはアローラにチャンピオン級を派遣し過ぎだろ、一体何を想定してるんだ? ちょっと怖いぞ。

 しかしアデクさん浮かれた格好だな、ウルガモス柄のアロハシャツに星型のサングラスは攻めすぎだろ。アイリスにチャンピオンを譲ってハメを外しまくってるな。

 

「アデク? あの人がイッシュの元チャンピオンですか、写真で見た彼とは格好が違って気が付けませんでした」

 

 そうですねリラさん、格好が変わりすぎ……いや、よく考えたらアローラでアロハは正装か? それに南国ではハメを外した方が正解な気もする、マスタード師匠もチャンピオン時代は厳しい人だったと聞いた事もある、重い責任から開放された人はああなるのが正しいのかもしれない。

 

「へえ、あの爺さんも元チャンピオンか。コケコの陣営が外の人間を1人でも入れるとは意外だな」

 

 グズマさんがそう言うって事は、他の人は全員アローラの人間か? 1人僕より小さな女の子が混じってるな、それ以外はみんな大人だ。

 

「グズマさん、アデクさん以外のメンバーを知っているんですか?」

 

「ああ、やる気のなさそうな中年がクチナシでウラウラ島の島キング、露出の多い女がライチでアーカラ島の島クイーン、小さいガキがアセロラでウラウラ島のキャプテンだな」

 

 へえ、なんでアセロラちゃんだけキャプテンなんだ? もう一人の島キングはどうした?

 

「ポニ島の島キングは協力者を断ったんですかね? それにしてもわざわざあんな小さい子を協力者にするとは」

 

「いや、ポニ島の島キングはしばらく前にくたばった。今は空席だよ、島キングと島クイーンで揃えたくてもそれはできねえ」

 

 えっ、そうなの? 不在でいいのか島キングは? 後継者とかいないの?

 

「何故キャプテンの中からアセロラが選ばれたのでしょうか? 年齢で言えばイリマかマツリカが適任に思えますし、ククイ博士の姿も見えませんね」

 

「単純に実力じゃねえのか? アセロラはガキだがトレーナーとしては一流だ、頭だって回るしコケコの好みだろう」

 

 へえ、グズマさんが褒めるくらいだからアセロラちゃん本当強いんたろうな。ニコニコしてる姿からは想像が出来ない。

 

「それなら尚更ククイ博士がいないのも不思議ですね、あの人はカントー地方のファイルリーグで準優勝する程の実力者ですから」

 

 マジかよ、博士なのに強いんだなククイさん。後一歩で四天王への挑戦権が得られたのか。少なくとも四天王に近い実力はあるトレーナーでもあるのか。

 

「あの野郎も所詮はキャプテンになれなかった負け犬だ、コケコのお眼鏡に叶わなかったんだろうよ」

 

 キャプテンになれなかった? 島巡りでカプ達に認められなかったって事か。コケコの言う戦士の資質が足りない人なのかな? それなら仲良くなれそうな気もする。

 

「なんか砂浜が険悪な雰囲気ッス、食事会前にやりあってるッスね」

 

 確かにユリとルザミーネさんとハラさんがバチバチしている、というよりユリが空気を悪くしている、口が悪いなあの子は。

 

「さて、ボク達も行こうかU。役者が揃ったのにここで見ているつもりはないだろう?」

 

「えっ!?」

 

 正気かN? あんな空気の悪い砂浜に突撃するつもりか?

 

「フッ……俺も覚悟を決めたぞU、俺達も舞台に参加する時だ」

 

 いや、僕の覚悟は決まって無い。舞台に上がるのは早くない?

 

「確かに私達抜きで結託されるのも厄介ですね、牽制の意味でも姿を見せるべきです」

 

 いやいやリラさん、とても結託する様な雰囲気じゃないでしょ。かなりギスギスしてるよ三者とも。

 

「安心しなU、とりあえず俺が挑発して発言を引き出してやる。お前は発言が本当か嘘か超能力で見抜け、それで情報収集としては十分だろ」

 

 おお! 流石グズマさん……と言いたい所だが挑発って所が不安だ。

 

「本当に行きます? 他のみんなはどう思いますか?」

 

「やってやるッス! 精一杯メンチを切って威嚇してやるッス!」

「こういうのは最初が肝心ッス! 最初に舐められた奴が負けッス!」

「ガツンとかましてやりましょうグズマさん、スカル団の恐ろしさをアピールするッス!」

 

 やる気満々だ、このまま覗いていようと言える雰囲気ではない。数の力に気圧されてしまう……

 

「じ、じゃあ、行きますか?」

 

「「「オオォー!!」」」

 

 わあ、やる気満々だ。これは後には引けないやつだ。

 

 まずい、緊張してトイレ行きたくなって来た。今からポケモンセンターのトイレに行くってダメかな……ダメかな?


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