自分はかつて主人公だった   作:定道

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49話 圧倒的性能に心奪われたこの気持ちまさしく

 

 

 太陽が照りつけるアーカラ島のビーチ、突如始まったビーチバレー対決に決着が付いた。結果は俺達の勝利だ、大分大差をつけての勝利だ。

 俺の仲間はユリとリーリエ、相手はグリーンさんにレッドさんにダイゴさん、正直に言うとグリーンさん以外はあまり強くなかった。

 

「あら、もう終わりなの? グリーンがあれだけ張り切ってた割には不甲斐ない結末ね」

 

「うん、全然エレガントじゃなかった」

 

「うるせーぞ2人とも! 参加しなかった癖に好き勝手言うな!」

 

 グリーンさん達を野次ったのはシロナさんとカトレアさんだ。2人はパラソルの下で俺達の試合を観戦していた、黒と白の水着が大胆なのでちょっとドキドキする。

 

「やりました! 私達の勝利ですよユリさん! ハウさん!」

 

「当然だね、これでコイツ等は僕の軍門に下った。これで食事会のメンバー確保だ」

 

 ユリとリーリエが手を取り合って喜んでいる、俺も力になれたようで嬉しい。ユリにはポケモントレーナーとして色々と教わっているので少しでも恩返しができて良かった。

 

「やったねーユリ、リーリエ、昨日まで諦めていたもんね、協力者が4人揃わないーって。グリーンさん達が協力してくれるなら安心だよー」

 

 今日はアイナ食堂まで案内してほしいと言われたので、ユリとリーリエと一緒にアーカラ島までやって来た。食事会の開始は昼からなので3人でビーチで遊んでいたら俺の事を父さんから話を聞いて知っていたグリーンさんが話しかけて来たのだ。

 最初は驚いた、カトレアさんの警護をしている黒服のSPさんが沢山いたので何事かと思った、ユリが超能力を使ったのには焦ったが、カトレアさんも超能力で抑えてくれたので助かった。

 

 誤解が解けたと思ったら何故かビーチバレーで勝負する事になった、俺達が負けたら何でも質問に答える、グリーンさん達が負けたら何でも言う事を聞くという条件で勝負を始めた。

 

「別に協力者なんていなくても問題無かったんだけどね、ちょうど良くこの身の程知らず共がノコノコやって来たから利用してやるのさ。ハウ、君を軽んじている訳ではないから勘違いしないでくれ。コイツ等は只の手下さ、友である君とは比べものにならない。ハウにはアローラの事を色々と教えて貰った、君には既に十分に助けられているよ」

 

 ユリは自信満々な言動をするけど身近な人にはかなり気を遣う、俺を協力者にせずにグリーンさん達を協力者にする事を気まずく思っているみたいだ。いつもより早口になっているので間違いない。

 

 2人が協力者を募っていると聞いて、俺も協力すると言ったが受け入れてくれなかった。危険な事に僕を巻き込みたくないと断られてしまった。俺を思っての判断なのは分かるけど少し悲しい、俺がもっとトレーナーとして強かったら断わられなかったのかな……

 

 じいちゃんも最近は難しい顔をしている、今日アイナ食堂で行われる食事会にはカプ達も参加すると聞いた、きっと物凄く重要な事が話し合われる集まりなんだろう。

 事情も知らず、島巡りを終えていない俺には色々な意味で資格が無い、分かってはいるけど疎外感はどうしても感じてしまう。

 

「まーしょうがないよ、俺はまだまだ半人前だからね、今日の食事会がんばってね……あれ? 食事会でがんばるのっておかしい?」

 

 俺の不満をユリ達に悟られたくないのでこう言うしかない。

 

「……ハウはこれから強くなるよ、焦る必要はない。僕が一人前まで導いてあげるから安心してくれ」

 

 でもユリには超能力で俺の感情がわかってしまう、俺の疎外感と無力感を感じ取ってそう言ってくれているのだろう。

 

「あははー、よろしくねユリ。でも、これから忙しくなりそうだから暇な時で構わないよ、無理はしないでね?」

 

 ユリの教えは本当に凄い、俺とリーリエは彼女の教えに従って物凄いスピードでトレーナーとしての力を付けている、じいちゃんも俺の成長に本気で驚いていたので勘違いではない。

 ユリは超能力を俺達に施して操りOP誘導や同調のタイミングを感覚的に理解出来る様に指導してくれる、育成に関しても同様で物凄い勢いで俺とポケモン達は成長した。

 ピチューはライチュウになったし、モクローもジュナイパーに進化した。オンバッドもそろそろオンバーンに進化する段階まで育っている。

 

 ユリの凄い所はそれだけじゃない。トレーナーとしての実力も一流で、指導能力はじいちゃんやククイ博士も天才的だと言っていた。俺は詳しくないけど超能力者としても物凄い力を持っているらしい、本人は世界最強だと主張している。

 だから少し考えてしまう、ユリに与えられてばかりの俺は彼女の友達として相応しいのかなんて思ってしまう、釣り合いの取れた関係なのかと少しだけ不安になる。

 どこか浮世離れした彼女達には、俺もアローラについてなど教える事がそれなりにある。だけどそんな物は長くは続かない、教える事がなくなった時に俺はどんな気持ちになるのだろう。一緒にいるのが辛くなってしまうのかな……

 

 こんな時、思い浮かべるのは父さんとグズマさんだ。島キングであるじいちゃんと比べられるのが嫌になってアローラを出ていった父さん、島キングの孫だからといってトレーナーになる必要はないと僕に言ったグズマさん。

 2人とも強いトレーナーだ、父さんはトキワシティではジムトレーナーのまとめ役でジムリーダーの変わりをグリーンさんに任される程には強い。

 グズマさんだってじいちゃんの弟子の中では一番才能があったと聞いた、ロイヤルドームではロイヤルマスクと互角の勝負を繰り広げたのを見た事もある。

 

 それでも、他の人と比べられるのが嫌になってしまった2人のトレーナー。俺はどうなるのだろう、ユリと自分を比べるのが嫌になった時に俺はどんな気持ちになるんだろう。

 アローラから出て行きたくなってしまうのかな? それともスカル団に入りたいと思うようになるのかな?

 

 最近そんな事を考えてしまう、じいちゃんを中心に島キングやキャプテン達が何かに備える様に動いている最近はアローラ全体が不穏な気配がする。だから自分らしくもない不安な未来を思ってしまう、今のユリやリーリエ達と過ごすのは楽しいのに嫌な想像をしてしまう。

 それとも今が楽しいからそう思うのかな? 今が楽しい分だけそれを失うのが怖くてそんな事を考えてしまうのかな?

 

「やるなハウ! 負けたぜ、お前の鉄壁のレシーブのおかげでな! レッドとダイゴは本当に役に立たねえ、お前と交換したかったぜ!」

 

 俺達にビーチバレーで負けた後に他の2人と揉めていたグリーンさんがこちらにやって来た。

 グリーンさんは元気な人だ、砂浜でポケモンバトルをしていた俺達に話しかけて来たと思ったら何故かビーチバレーで対決する事になった。父さんから話で聞いていたのとは違う感じだけど面白い人だと思う。

 

「あはは、ユリが強いからだよー、守ってばかりじゃ勝てないもんね、僕はスパイク苦手なんだ」

 

「そうなのか? だが勝利のために自分の持ち味をチームに貢献させるのは重要だぜ? その点レッドとダイゴ共はどうしようもねえな」

 

「おいおい、その言い草は酷いよグリーン。僕たちなりにベストは尽くしたんだからね」

 

「……今日のグリーン、はしゃぎ過ぎ」

 

 確かにグリーンさんは凄い張り切って試合をしていた、何時もは違うのかな? アローラに来ると解放感からそうなるって人は割といるけどグリーンさんもそうなのかもしれない。

 

「負けた言い訳かグリーン? お前達は僕達に負けた、約束通りに協力者になって貰うぞ。まさか約束を反故にするなんて言わないよな?」

 

「勝負の後に相手を称えるのも大事なことだぜ? 敗因を分析する事もな。それに俺は約束を破ったりしねーよ、俺とレッドとダイゴはお前に協力してやる、お前が言った事が嘘じゃないならな」

 

 ユリが俺の前に身体を割り込ませてグリーンさんに返事をする、ユリはグリーンさん達に協力を要請した割には彼等にやたらと攻撃的だ、どうしてだろう? 知り合いって感じでもなかったのにな。

 

「ふん、それは負け犬の遠吠えだよ、だが約束を果すつもりならそれでいい。食事会は12時からで会費は1人1040円、メニューは強制的に“さかなZ定食“だ。後はこのお知らせの紙を読め、今更嫌だと泣いても遅いぞ」

 

「おい、会費を払うのはかまわねえが、メニューは選ばせてくれないか?」

「そうだね、僕は“やさいZ定食“の方が好みかな」

「……にくが食べたい」

 

 3人がお知らせの紙をみながら文句を言う、俺は“さかなZ定食“が一番好きだけど確かに自分で選びたいよね。

 でも、アイナ食堂はどの定食を食べても美味しいから大丈夫だろう。

 

「黙れ! 全員でメニューを統一するのが一番美しいんだ! 纏まりがないと僕の統率力が疑われるだろう! 敗者は勝者に従え! 男の癖にガタガタ文句言うな!」

 

 ユリが3人を怒鳴り付ける。うーん、子供の癇癪に付き合ってあげている大人って感じだ、あの3人は何でユリに協力するつもりになったんだろう? ビーチバレーで手を抜いていた訳ではなさそうだけど、初対面のユリとの口約束を律儀に守る理由が分からない。

 

 もしかしてグリーンさん達はユリの噂を聞いてやって来たのかな? 3人ともリーグで殿堂入りした凄いトレーナーだ、まさか遊びに来ただけじゃないだろう。

 やっぱりユリみたいな凄いトレーナーにはグリーンさん達みたいな人じゃないと釣り合わないのかな……

 

「あら、気が合いますね。私も同意見です、私達は全員“スペシャル定食“にしますわ」

 

 聞き覚えのない声が後ろから聞こえた、いつの間にかリーリエの横に金髪の女の人が立っている、更に後ろには4人の大人が控えていた、その中の1人はロトムの形をした覆面をしている、変わった人だなあ。

 

「お、お母様……」

 

「久しぶりねリーリエ、貴女の元気な姿が見れて安心したわ」

 

 お母様……リーリエの!?

 

「リーリエのお母さん!? 若すぎない!?」

 

「あらハウくんお上手ね、嬉しいわ。リーリエとも仲良くしてくれてありがとうね」

 

 リーリエのお母さんはとても優しそうな人だ、リーリエは家出したって言ってたけど何があったのかな……あれ? 何で俺の名前を知っているんだろう?

 

「はい、お久しぶりです……今日は何故ここにいらしたのですか?」

 

「あらあら、娘とそのお友達に挨拶するのは当然でしょう? ククイ博士とバーネット博士にもご挨拶したがったのだけれどいらっしゃらないようね」

 

 何だか良くない雰囲気だ、リーリエは再会を素直に喜んでいるって雰囲気ではない。やっぱりお母さんとケンカ中なのかな。

 

「貴女がルザミーネさんか……悪いけど僕は負けるつもりはないよ、リーリエのお母さんだからって手加減はしない、覚悟してね」

 

「フフ、お手柔らかにお願いしますねユリさん」

 

 あれ? リーリエのお母さんも食事会に参加するって事はもしかしてユリと対立するって意味なの? 2人の間には妙な雰囲気が流れている。リーリエは2人を悲しそうに見つめている

 

「どういうつもりなのグリーン、あなた達はその子に肩入れするつもり? それは流石に問題行為ではなくって? リーグにはどう説明するつもりかしら」

 

「悪いなパキラ、俺達3人はビーチバレーに負けちまって言いなりだ。これも臨機応変な対応ってやつだ、ユリの協力者として俺達も食事会にも参加させてもらうぜ、別にお前やアデクさんと同じ事だろう?」

 

 グリーンさんがリーリエのお母さんの後ろにいる女の人と話をしている、何だかお互いに刺々しい雰囲気だ、仲が悪いのかな?

 

「そんな言い訳が通用するとでも……」

 

「これも個人的な繋がりってやつだよ、今さっき仲良くなってな、ユリになら力を貸してやって良いと思ったんだよ。立場をコロコロ変えるのは好みに合わないかパキラさんよ? あんたの得意技だろ?」 

 

 グリーンさんにパキラさんと呼ばれた女の人の纏う空気が更に冷たくなる。綺麗なのに怖い女の人だなあ……グリーンさんも挑発的だ。

 

「それにしてもユリさん、まさか最強のトレーナーとも称されるレッドさん達を協力者にするなんて驚きです。一体どうやって説得されたのですか? 是非ともお話をお聞きしたいです」

 

「身の程を教えてあげただけだよルザミーネさん、それに最強のトレーナーは僕だ、超能力者としてもポケモントレーナーとしても僕が世界の頂点だよ」

 

「あらまあ、それはそれは……」

 

 ユリは確かにトレーナーとして強いけど、手持ちはネクロズマのケア一匹だけのはずだ。流石に最強は言い過ぎじゃないのかな?

 

「ルザミーネさん達にユリさん達、お早いお着きですな。お二人が交流を深めるのは結構ですが、関係の無い者の前で込み入った話は控えて頂きたい、今日はコケコも過敏になっております」

 

「じいちゃん!? それにその人達は……」

 

 急に聞こえて来た聞き馴染みのある声に驚いた、じいちゃんがいつの間にか近くに立っていた、見覚えのある人達を引き連れている。

 

 ウラウラ島の島キングであるクチナシさん、アーカラ島の島クイーンのライチさん、ウラウラ島でキャプテンをやっているアセロラだ。

 もう一人はじいちゃんが古い友達だと言っていたアデクさんだ、昨日から家に泊まっている。イッシュ地方でチャンピオンをやっていた凄いトレーナーでじいちゃんが何かを手伝ってもらう為にアローラに呼んだらしい。

 

 それにしてもじいちゃんは何だかピリピリしている、特にルザミーネさんに対しては警戒するような雰囲気だ。こんなじいちゃんは初めて見たかもしれない。

 

「これは失礼しましたハラさん、お孫さんにはリーリエに良くして貰っている様なのでご挨拶させて頂きました、気分を害してしまったのなら謝罪しますわ」

 

「ハラさん、関係無いってのは言い過ぎじゃないの? アローラに住んでいるならハウも無関係とは言えないでしょう」

 

 ユリの言葉にじいちゃんは小さく唸った、ユリがそう言ってくれるのは嬉しいけどじいちゃんが困っているのは複雑だ。

 

「そうですな、貴女の言う通りですユリさん。ルザミーネさん、私の方のこそ早とちりで失礼な事を言いました、謝罪させて頂きます」

 

「いえ、お孫さんを心配するハラさんのお気持ちは私にも痛い程分かります。私も家族の事を思うと同じ気持ちになりますわ」

 

 何だか居心地が悪い、急に人数が増えた砂浜には異様な雰囲気が漂っている。言葉こそ少ないがみんなが相手の出方を伺っているかの様な気配がする。

 

「それにしてもスカル団以外は揃ったね、このまま話を始めてしまうかい? どうせあのチンピラ共は参加するだけ無駄だからね」

 

 ユリは4日前から随分とスカル団を敵視している、何でもリーリエを怖がらせたから許せないらしい。

 俺としては複雑な気持ちだ、スカル団は昔は悪さばかりしていたらしいけど僕は良いことをしているスカル団しか見た事が無い。

 海岸の清掃活動や観光客相手のアローラ特有の野生ポケモンへの注意喚起、町に迷い込んだ危険なポケモンを鎮めたり、野生に返す活動もしている。どれもリーグの招致を反対するためらしいけど善行なのは確かだと思う。

 そして何よりスカル団のリーダーはグズマさんだ、俺にとってグズマさんは恩人だ。大切な友達が恩人を嫌っているのは悲しい気持ちになる。

 

「ユリさん、それは許されませんぞ。スカル団達はブルルに認められました、ないがしろには出来ません」

 

「ええ、私も彼等の話を聞きたいと思っていますわ。彼等スカル団は最近ではポケモンの保護活動に尽力しているという話です、ポケモンの救済という同じ理念を持つエーテル財団とは手を取り合えるはずです」

 

 ポケモンの保護? スカル団はそんな事まで始めたのかな? 立派な活動だ。

 

「ルザミーネさんも中々人が悪いね、あいつ等が集めてるのはウルトラビーストだろ? どうせろくでもない事に利用するつもりに決まってる。ウルトラビーストは取り上げた方が良いよ、特にUとか名乗っている狂人は危険だ、自分をネクロズマに取り込ませるイカれた男さ」

 

 ウルトラビースト? それにネクロズマに自分を取り込ませるU? 言ってる事が全然分からない。

 

「ユリさん、それは誤解ですぞ。彼等はリラを中心に本心から保護活動をしていて……」

 

「ハラさん、スカル団は少し昔に島のみんなに迷惑をかけていたみたいじゃないか。そんなのポーズに決まってるよ、島の人もそう言ってたよ?」

 

「それは……事実ですが……」

 

 確かにスカル団を嫌っている人は多い、俺と同じぐらいの年の子供は悪い事をしているスカル団を見た事が無いからそうでもないけど、大人達はみんなスカル団を悪く言う、昔に悪い事をしていたのは事実らしい。

 でも今やっている活動まで否定するのは正しいのかな? 一度悪い事をした人は幾ら良いことをしても許されないのは悲しいと思う。

 

「ユリさん、彼等は若い集団です。かつて過ちを犯していたとしても更生しているのであればそれは正しく評価されるべきです、ハラさんは彼等が心を入れ替えたと判断しているのでしょう」

 

「甘いね、悪人はどこまで行っても心を入れ替えたりしないよルザミーネさん。悪人なんてのは欲望の赴くままに生きるケモノだ、更生なんて幻想だよ」

 

 ユリは正義感が強いから罪を許せないんだろう。ユリの良い所でもあるけど少し過激過ぎると僕は思う。

 ユリの言葉で砂浜は更に暗い雰囲気になった、みんな俺と同じ様に今の言葉について考えているのかな?

 

「ふう、やっぱりコウキとヒカリが恋しいわね。無理矢理にでも連れて来れば良かったかしら」

 

「シロナさんは少し構い過ぎ、もう少し放置すれば向こうから寄って来てくれるはず」

 

「あら、そうかしら? でもそれは難しいわね……ん? この感覚は……」

 

 パラソルの下で寛いでいるシロナさんとカトレアさんに場の空気は関係無いみたいだ、やっぱり強いトレーナーは心も強いのかな? この雰囲気の中で関係無い事を喋っていられるのは凄い。

 

「こ、困ります!? そんな大勢で押しかけられては!」

 

「おいおい!? ここはお前らのプライベートビーチか!? 違うよなあ!? 俺達スカル団にもビーチを使う権利はあるぜえ!?」

 

「そ、その通りッス! 別にカトレアさんに用事は無いから通してほしいッス!」

 

 カトレアさんのSPが誰かと言い争う声が聞こえる、あれは……

 

「いいよ、通してあげて」

 

 カトレアさんの小さな声がハッキリと響く、小さな声なのに何故か砂浜全体に聞こえるような不思議な声だ。超能力を使っているのかな?

 

「お嬢様……わかりました」

 

「へえ、話しが分かるお嬢様じゃねえか! 行くぜU、お前達!」

 

「へへ、流石カトレアさんッス。SPさんお仕事ご苦労様ッス」

 

 グズマさんがこちらに歩いて来る、後ろにはスカル団の人達を大勢引き連れている……凄い格好をした人がいるな、何だろうあの真っ黒な鎧は? 暑くないのかな? グズマさんの横でSPさんにペコペコしながら歩いている。

 

「これはこれは! みなさんお揃いだなあ! 俺達スカル団を仲間外れにして相談事か!? 寂しいから俺達も混ぜてくれよ!」

 

「グズマさん……」

 

 グズマさんが大きな声でその場の全員に話しかける、ユリは露骨に顔をしかめている。

 

「品の無い奴等が来たね、大勢で群れてみっともない」

 

「ははぁ! 言ってくれるなあ!? お前がユリか? 家のU達が世話になったみたいだから挨拶しておこうと思ってなあ! まさかリーグ関係者とつるんでいるとは思わなかったぜ! ククイの野郎が呼んだのか? 随分とリーグに尻尾を振ってるみたいだからなあ!」

 

「おい、ククイを侮辱するなよチンピラが。お前達みたいな負け犬と違ってククイはアローラを変えようと頑張っているんだ、他人の足を引っ張る事しか考えて無いお前達に批判する権利なんてない」

 

「おいおい悲しい事を言うなよ、俺達だってアローラの為に頑張ってんだぜ? それに最強のトレーナーと名高いレッドさんがいたら気になるだろう? 一体ククイの奴はリーグに幾ら包んだんだ? んん? 教えてくれよユリさん?」

 

「いい加減にしろ! こいつ等は今ここで僕が打ち負かして手下にしたんだ! ククイはそんな卑劣な事はしない!」

 

 グズマさん、何だかわざとユリを怒らせてる? どうしてそんな事をするんだろう、2人にはケンカしないでほしいな……

 

「おい、あんまりガキをいじめるんじゃねーよ。聞きたい事があるなら俺が答えてやる、わざとらしい挑発は止めろ」

 

 グリーンさんが見かねて2人に割って入った、本当は2人を知っている僕の役目のはずだ。でも協力者じゃない俺が下手に口出ししていいのかが分からない……

 

「おっと、悪かったな。なら答えてくれやグリーンさん、あんた達はユリの協力者なのか? 一体どういう経緯なのか疑問でな、リーグの査察ってのはそこまで首を突っ込むのかい? 余所者の癖にしゃしゃり出ないで欲しいね」

 

「そうだよ、俺達はリーグに臨機応変に対応しろって言われててな。さっきそこでユリを見付けたから話を聞いたんだ、そしたらビーチバレーで勝負する事になってな、負けちまったから協力する事になった、それだけだよ」

 

「ま、マジッスカ!? 本当にそれだけなんスカ!?」

 

 グズマさんにUと呼ばれた鎧の人が驚いている、今のグリーンさんの言葉だけで信じたのかな?

 

「へえ、後ろのレッドさんもダイゴさんも同じかよ? いい歳した大人が3人揃って小娘に負けて従うのかい? かつてリーグを制したトレーナーであるあんた達が?」

 

「おや、僕の事も知ってくれてるのかい? 光栄だね、ちなみに答えはイエスだ」

「……そういう約束で勝負を始めた、負けたからには約束は果たす」

 

 グリーンさん達は確かに嘘をついていない、最初は父さん経由で顔を知っていた俺に話しかけて来て、ユリが何故か突っかかり、最終的にはビーチバレーで勝負する事になった。

 でも、本当の目的は分からない。もしかしたら最初からユリに近付くつもりで来たのかな? 悪い人達ではなさそうだけど、ユリやじいちゃん達が抱えている問題に近付くためなのかもしれない。

 

「グズマよ、それぐらいにしておきなさい。込み入った話しは食事会でするべきですぞ、ここには協力者以外の人間も多い」

 

「それはちょっと卑怯じゃねえかハラさんよ、食事会が始まっちまったら色々と制約されんだろ? 少しでも情報を集めたい俺達の邪魔をしないでくれや、いつまで師匠面して人の行動を縛るんじゃねえよ」

 

「グズマよ、私が言いたいのは……」

 

「失礼ハラさん、私もグズマさんの意見に同意させて頂きますわ。お知らせにも禁止事項が多く書き連ねてありましたが、具体的なラインが明確ではありません。解釈次第でどうとでも取れそうな文面でした、情報に飢えているのは私達エーテル財団も同じです、情報の収集を禁じるのであればルールを明確にして頂きたい」

 

 グズマさんの反論にルザミーネさんも便乗する。お知らせってのはじいちゃんが作っていたあれかな? 結局文面は見せてもらえなかった。

 

「申し訳ありませんルザミーネさん、私にも明確なルールの提示はできません。全てはカプ達が決める事です、彼等の怒りを買わない為にも情報の拡散は控えた方が良いとの判断が先程の発言の真意なのですぞ」

 

 カプ達の怒り? やっぱり凄く重要な話しをするのかな……協力者が危険だって言うのはそういう意味なのか。

 

「はん、お粗末なゲームだよ。取り仕切っている奴の機嫌次第でルールが決まるってのか? 人には命を賭けろなんて言う癖にカプ達は自分の発言を賭けられねえのか」

 

「それに定食のお金を払わせるのはセコいッス、コケコが主催なら奢ってほしいッス」

 

 さっきから鎧の人がちょくちょく話に混ざっている、見た事がないけど最近スカル団に入ったのかな? それにしてはグズマさんの傍らに控えていて副団長みたいだ。

 

「グズマくん、まだ食事会は始まっていない。その答えを出すのはカプ達の話を聞いた後ではないか?」

 

「おいおい、アローラの外の人間が知った口を聞くなよ。それともイッシュの元チャンピオンであるアデクさんには臆病者の戯言に聞こえるかい? 強い人は余裕があって良いよなあ?」

 

 グズマさん、アデクさんを知っているのか。やっぱり強いトレーナーの事は調べてあるのかな、じいちゃんの弟子時代は強くなるための勉強にも熱心だったらしいから。

 

「ふふ、わしもどちらかといえば臆病者だよ。それに昔、アローラで修行した事がある、だからカプ達が真意を語ってくれない事は少しだけ理解しているつもりだ。そんな彼等が食事会という話し合いの場を設けた、それは歩み寄りだとは思わんか?」

 

「はん、好き勝手の間違いだろ? どうせろくな事を伝えてこねえよ、カプ共に期待するだけ無駄だ」

 

 砂浜は沈黙に包まれる、町からの喧騒と波の音しか聞こえない。みんなグズマさんの発言について少なからず思う所があるみたいだ。

 

「見て見てシロナさん、スナバァがいる」

 

「あら本当ね、小さくて可愛らしいわ」

 

 カトレアさんとシロナさんは気にせずにスナバァと戯れていた、鎧の人もスナバァが気になるのかチラチラと視線を送っている。

 

 俺はカプ達をどう思うべきなのだろう? 俺はカプ達に直接助けられた事も傷つけられた事もない。でも今のアローラがあるのはカプ達のおかげらしいので感謝の気持ちはある。

 

 カプ達は凄い昔に、アローラを攻めてきた敵を王様達と一緒にやっつけた。この昔話はアローラの人間なら誰でも知っている。

 崖崩れや大雨から人間を助けたという話も聞く、逆に逆らった人間に罰を与えたと聞いた事がある。

 サニーゴを狙った密猟者や、外部からやって来た詐欺グループを捕まえたとの噂も聞いた事がある。

 アローラの人間はほとんどカプ達を敬っている、カプ達に否定的な意見を公言するのはスカル団の人達以外には聞いた事がない。

 

 一度だけ、カプ達は無責任だと嘆く陰口を聞いたことがあった。若い人ではない、毎朝カプ達への祈りを捧げている村のお婆さんがそう言っていたのを偶然聞いてしまった。

 理由は今でも分からない、だけどみんな口に出していないだけでカプ達を敬う気持ちと非難する気持ちの両方を持っているのかもしれないと思った。

 

 一体どれが正解何だろう? カプ達に対して俺はどう思うべきなのかな?

 じいちゃん達と同じでカプ達の言う事を優先するのが正解? グズマさん達と同じでカプ達の悪い所は非難するのが正解? それともあのお婆さんの様に、両方の気持ちを持っていても秘めておくのがが正解なのかな?

 

 島巡りをすれば答えは出るのだろうか? 後一ヶ月もすれば島巡りが始まる、今年で11才になる僕は島巡りに挑戦する。

 別に強制されて参加を決めた訳では無い、俺は自分が島巡りに参加するのが当然だと思って育って来た、ユリとリーリエも参加すると聞いているので楽しみでもある。

 

 だけど、どうしても引っかかる事がある。俺が小さい頃、2番道路で野生のオニスズメに襲われた時に、それをグズマさんが助けてくれた事があった。

 グズマさんは恐怖で泣き止まない俺に、エネココアを飲ませて色々な話しをして落ち着かせてくれた。

 その中でも特によく覚えている言葉がある、どこか悲しげにそう語るグズマさんの表情もよく覚えている。

 

「島キングの孫だからってトレーナーになる必要は無い、怖いなら逃げたっていい、お前は自分の本当にやりたい事をやれ」

 

 不思議だった、リリィタウンの大人達でそんな事を言う人はいなかったからだ。村のみんなは俺にハラさんを見習って立派なトレーナーになれと言って来る、俺はじいちゃんが大好きだし尊敬している、だからそう言われて嫌な気持ちを感じた事は無い。

 だけどその言葉を聞いて以来、俺の心の中には疑問が生まれた。俺のやりたい事は何なのか、俺はポケモントレーナーになる事を心の底から望んでいるのだろうか?

 

 グズマさんがじいちゃんの弟子だった事を知ったのは助けて貰った後の話だ、グズマさんが島巡りを終えてもカプ達に認められなかった事を知ったのは更に後の話だった。

 父さんも同じだったらしい、島巡りを終えてもカプ達に認められず、じいちゃんと比べられるのが嫌になってアローラを出て行った。

 だけど2人はポケモントレーナーを辞めたりはしていない、それはポケモントレーナーが2人にとって本当にやりたい事だからなのだろう。

 

 きっと悩みに本気でぶつからないと自分のやりたい事は見えて来ないのだ、まだ試練に直面していない俺には本当にやりたい事なんて分かるはずがない。

 

 だけど、今の自分の望みなら分かる。ユリとリーリエの問題が解決される事が望みだ、そしてそのために……

 

「じいちゃん、一つだけ聞いていい?」

 

「ハウ? どうした?」

 

 突然発言した俺とじいちゃんにその場の視線が集まる、少しだけ躊躇するがどうしても聞きたい事がある。

 

「その……食事会するのはみんなが仲良くなるためだよね? 多分ここにいるみんなの意見が違って揉めてるけど、それを解消するために話し合いをするんだよね? これからのアローラのために」

 

「ハウよ……それは」

 

「じいちゃんが最近凄く悩んでいるのは知ってるよ、多分これからアローラで何が大変な事が起きるのも何となく感じてる。話し合いはその事についてでしょ? 問題を解決するために話し合いするなら、みんなで力を合わせて協力するんだよね?」

 

「むう……」

 

 じいちゃんは答えてくれない……俺も本当は分かっている、不穏な空気は互いに対立しているからこそだと分かっている。そして、みんな仲良くなんて事が実際には難しい事も知っている。

 それでも俺はみんなが争っているのは嫌だった、じいちゃんとユリとグズマさんが争っているのを見たく無い。ルザミーネさんだってリーリエのお母さんだ、リーリエが悲しむなら僕も悲しい。

 

 意見が分かれたら納得出来るまで話し合いをするんじゃ駄目なのかな? みんなで仲良くっていうのは臆病な考えかな? 

 

 カプ達が求める者、島巡りによって認められる戦士にとっては許されない考えなのかな?

 

「ハウ、そんなに悲しい顔をしないでくれ。心配しなくてもここにいる奴等は最終的に僕の為に協力するさ、僕との力の差を思い知ってね。僕は最強だから誰かを傷付けるのを許したりはしないよ、だから安心してほしい」

 

「ユリ……」

 

 ユリが少し慌てて僕に言葉をかけてくれる。その気持ちは嬉しい、だけど……

 

「あっ!? あいつ等やって来たみたいッス!!」

 

 スカル団の鎧の人が呟いて空を見た、それに釣られて視線を上げると4つの影がこちらへと飛んで来るのが見える。

 黄、赤、桃、青の4つの色の影、祭りの度にその姿を見るから間違いない。

 

 カプ達だ、4体が揃っているのは始めて見る光景だ。

 

 カプ達が砂浜の上空で止まる、俺達を見下ろして空中に静止している。

 

『早イナ、モウ全員ガ揃ッタノカ。ソレホド逸ルノナラ食堂へ向カウゾ、早速話シヲ始メヨウ』

 

 コケコの思念が俺にも聞こえた、みんなが揃ったからお昼前に話し合いを始めるのか、アイナ食堂は空いてるのかな?

 

『ソレト……ハウ』

 

「えっ?」

 

 コケコが俺に話しかけて来た? そんな事は今まで一度もなかった、祭りの時にも話しをした事なんて無い。

 

『先程ノ様ナ甘イ考エハ捨テロ、オ前ハ偉大ナ戦士ニナル男ダ、島巡リマデニ覚悟ヲ済マセテオケ』

 

「偉大な戦士になる?」

 

 さっきの話しを聞いていたの? どうやって? それに俺が偉大な戦士になる?

 じいちゃんを見ると驚いている、じいちゃんからコケコに俺の事を話した訳じゃないのかな? コケコは俺の事をこっそり見ていたのか?

 

「むう……みなさん、コケコがそうおっしゃっています。予定を早めても問題ありませんかな?」

 

「僕は問題ないよ、サッサと始まるなら丁度いい。不毛な探り合いは止めて本題を話そう」

 

「ええ、私も問題ありませんわ。食堂へ向かいましょう」

 

 じいちゃんの言葉にユリとルザミーネさんは同意する、グズマさんは……

 

「ま、待って欲しいッス! と、トイレタイム! トイレタイムを要求するッス! せめて1時間後にしてくれッス!」

 

 黒い鎧の人が慌てた様子でそう主張した、スカル団の代表者はグズマさんじゃなくてあの人なの?

 

「はあ? トイレなんて食堂で済ませろよ、空気の読めない奴だな。それにトイレに1時間もかからないだろ」

 

 ユリが呆れた様に反論する、多分トイレは嘘で時間稼ぎだと思うんだけどな。

 

「ぼ、僕はポケモンセンターのウォシュレットじゃないと落ち着いて用が足せないタイプッス! 温水が出ないと嫌ッス! お願いするッス!」

 

「その通りッス! Uは気が小さいくて慣れたトイレじゃないと駄目な奴ッス! トイレを我慢したら話し合いに集中出来ないくて不公平ッス!」

「それにUはトイレが長くてアジトでも篭もってるッス! 鎧を脱ぐ時間も考慮して欲しいッス!」

「生理現象に場の空気なんて関係無いッス! Uは空気読めないけど今回は無実ッス! どうかトイレタイムを許して欲しいッス!」

 

 後ろのスカル団の人達も騒ぎ出した、鎧の人は体は大きいのに繊細な人なんだな、それにしてもなんで鎧を着ているんだろう? 日常生活で凄い不便そうだ。

 

「まったく……下品な奴らだ。おいコケコ! どうするんだ!?」

 

『下ラン、30分ダケダ。今カラ30分後ニハ食堂ニ集合シロ、1秒デモ遅レタラ資格ヲ剥奪スル』

 

 あっ、許してあげるんだ、この判断は優しいな。

 

「さ、30分!? す、スカル団のみんな! 急げ! 連れションに行くッス!」

 

 鎧の人は物凄い勢いで走って行った、まさか本当にトイレを我慢してたのかな? 凄く焦った様子だった。

 

「まったくUの奴……おい! お前達! ポケモンセンターに行くぞ!」

 

「「「了解ッス!」」」

 

 グズマさんの号令でスカル団の人達も走って鎧の人を追いかけて行った……と思ったら金髪の男の子だけがその場に残っていた、僕より少し上の年齢の男の子だ。

 

「久しぶりです母さん、ビッケ、色々とお話はありますがまた後にしましょう」

 

「ふふ、早くお友達を追いかけなさいグラジオ。この後たっぷりと時間はあるわ、互いに納得するまで話し合いましょう?」

 

「坊ちゃま、また後でお会いしましょう」

 

 そう言って金髪の男の子は走り去って行った、ルザミーネさんを母さんと呼んでいたと言う事はつまり……

 

「家族で食事を共にするのは久しぶりねリーリエ、とても楽しみだわ」

 

「はい、私もこの時を待っていました」

 

 やっぱりリーリエのお兄さんなのか、何でスカル団にいるんだろう? きっとその理由も俺が知る事は出来ない。

 

「ではみなさん30分後にアイナ食堂に集合してください、遅刻がない様にお願いしますぞ」

 

 じいちゃんが周囲にそう告げると、ルザミーネさん達は僕達に軽く挨拶をして町の方へと去って行った。

 

 他のみんなはその場に残ったままだ、カプ達も空中に浮かんだまま町の方を眺めている。一体何を見ているんだろう?

 

「やっぱりこの感覚……間違いないわ!!」

 

「シロナさん、確かめに行くの?」

 

 突然シロナさんが大きな声で叫んだ、カトレアさんに抱かれているスナバァが驚いている、俺も驚いた。

 

「ええ! しばらく外すわ! 後はお願い!」

 

「お、おいシロナ? どこに行くんだよ?」

 

 シロナさんは脇目も振らずに町の方へと走って行った、グリーンさんの問い掛けは聞こえていないようだ。水着のままだけど良かったのかな?

 

 突然のシロナさんの行動に砂浜には微妙な空気が流れている、この場は解散するべきなのか迷っているようだ、潰す程の時間が残っていないのでこのままかもしれない。

 

「ユリ、リーリエ、先に島に帰るね」

 

「は、ハウ!?」

「ハウさん!?」

 

 ユリ達の返事を聞かずに俺は砂浜から走り去る、これ以上この場に居ると余計に気を遣わせてしまう気がした、俺もこれ以上は耐えられない。

 砂浜で待っていても俺は食事会には参加出来ない、食事会が終わってもその結果を俺に話してくれるとも思えない。

 

 何だか心の中がぐちゃぐちゃだ、納得出来ていたはずの疎外感が自分でも抑えきれない程に暴れ出している。

 コケコの言葉のせいかな? それとも俺は納得したつもりになっていただけだったのかな?

 アローラの行く末も、自分の本当にやりたい事も、戦士についても分からない。様々な考えが頭の中に浮かんでは消えていく。

 

 あてもなく走り続けた、そのうち疲れて帰り道とは反対の方向に歩き続けた。今は家に帰りたくない。

 そしてコニコシティの灯台の下にたどり着く、ベンチに腰掛けて時間を潰す事にした。頭の中を整理するため俯いて目を瞑る。

 

 考えるのはユリとリーリエの事、じいちゃんとグズマさんの事、カプ達と戦士についての事、食事会の事とアローラの事。

 頭に浮かんでは答えの出ないままにぐるぐると巡る、結局俺は何がしたいのか? 何を望んでいるのか? 何が正解なのか?

 

 ……どれくらい経っただろう、少なくとも話し合いはとっくに始まっている時間だ。

 

「ハウ君、こんな所でどうしたの? 気分でも悪いのかしら?」

 

 すぐ近くから声が聞こえた、あまり聞いた事が無い大人の女の人の声だ。

 

「あ、シロナさん……」

 

 水着のままのシロナさんがそこには立っていた、心配そうな表情で僕の事を覗き込んでいる。

 

「それとも……さっきの砂浜での諍いが原因かしら? ハウ君は優しい子だから知り合い同士がいがみ合っているのは辛いでしょう?」

 

 シロナさんが俺の隣に座りながら尋ねて来る、初対面の人に心配される程落ち込んでいる様に見えたのかな? それともシロナさんが特に優しい人なのかな?

 ふと思った、とても強いトレーナーであるシロナさんなら、心の強いシロナさんなら俺の悩みに答えを与えてくれるかもしれないと。

 

「うん、でも優しくなんてないよ。コケコにも甘い考えは捨てろって言われちゃったしねー」

 

 出来るだけ明るく聞こえる様に返事をする、でも自分でも情けないぐらいに声は震えていた。

 

「あら、そんなの言わせておけばいいのよ。コケコの考えを否定するつもりはないけど、価値観は一つじゃないわ。ハウ君が持っている優しさを捨てる必要なんて無い、私はハウ君の優しさは尊い物だと思うわ」

 

 ……そうなのかな? でも、それじゃあダメなんだと思う。

 

「でも、アローラではカプ達に認められないとトレーナーとして一人前にはなれないよ、それに、それに……」

 

「それに? もし良かったら話してみて、ゆっくりでいいのよ」

 

 シロナさんが俺の肩に手を置いて優しく語りかける、それが嬉しいのか悲しいのか分からないけど目の奥が熱くなってくる、人の前で泣いてしまうなんて恥ずかしい。

 

 だけど俺は涙も気持ちも隠さずに、思った事を全てをシロナさんに話した。俺のぐちゃぐちゃでたどたどしい話を、シロナさんは優しい表情で聞いてくれた。

 

「そっか、ユリちゃんと自分を比べてしまう、自分の本当にやりたい事が分からない、みんなが対立している事が悲しい、コケコに言われた事についても悩んでいるのね」

 

「うん……」

 

 自分のことながら悩みが多い、今までは悩みが少ない方だと思っていたけど、ここ最近になって一気に増えた。

 

「なるほどね……ハウ君が悩んでいる事は全部、ある事を自覚すれば答えが出るかもしれないわ。私も昔に経験があるの、それぞれ別に思えるけど実は根本では同じものが原因だった」

 

「えっ!? 本当に?」

 

 自覚する? 一体何に気付けばいいんだろう? それに原因が一緒?

 

「それは他者と自分の違いによって育まれる物、自分の望みが生まれる所、人が誰かと対立してしまう理由、そして戦士にとって一番大事な力でもあるわ。たった一つの言葉よ」

 

「ええー!? そんな言葉があるの!?」

 

「ええ、ついさっき私はポケモンセンターでそれを確認したし、今も少しずつ生まれて来てるわ。更に私の中には常にそれがあるし、世界の至る所にもそれはある、世界はそれで出来ているとも言えるわね」

 

 んん? なんかおかしいぞ? なぞなぞ?

 

「そして君が持っている3つのモンスターボール、そこにも詰まっている」

 

 ポケモン達……いや、そう言う事じゃないよね?

 

「あの、シロナさん? それが何なのか教えてくれる?」

 

 シロナさんは微笑みながら俺の胸に手を触れた、突然の行動に僕は少し恥ずかしくなる。自分の胸の鼓動がシロナさんの手の平に伝わっているのを感じる。

 

「ハウ君、まずは君のポケモン達を思い浮かべて?」

 

「ポケモン達を?」

 

 思い浮かぶのはライチュウ、ピチューの時と比べてすっかり大きくなったが甘えん坊なのは変わらない。大好きなパンケーキをいつもねだってくる。

 ジュナイパーも似たようなものだ、モクローの時はよく眠った彼を背負っていたので今でも背中に飛びかかって来る。重いって言っても止めようとしない。

 オンバットも強くなったけど心配性はそのままだ。誰かに取られるのを恐れて、大好きなきのみを食べる時は僕の頭の上に乗りたがる。

 

「ふふ、出来たみたいね? 次はユリちゃんの事を考えてみて? そうね……笑っている所がいいわ」

 

「ユリの事を?」

 

 言われた通りにユリの笑顔を思い浮かべる。それはとても簡単な事だった、ユリの笑顔はすぐに浮かんで来る。

 

「それよ、ハウ君。今君の胸を満たしているもの、その名前は……」

 

 俺はその名前を教えて貰った、シロナさんの言う答えとなる言葉を教えてもらった。

 でも、それを俺が本当の意味で実感したのはしばらく後の事だった、島巡りの後にアローラに訪れた試練の最中に俺はそれを理解する事ができた。

 

 だけど俺はこの出来事を忘れないだろう、俺とユリとの違いによって育まれた物、俺の本当にやりたい事が生まれた所、みんなが争ってしまう理由、戦士にとって一番大切な力。

 

 その名前を知った今日という日を、俺は生涯忘れはしない。

 

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