自分はかつて主人公だった   作:定道

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50話 王の力はお前を孤独にしたりさせなかったりする

 

 

 トイレとは聖域だ、誰にも侵す事のできない絶対の領域である。

 

 人は一生内の3年をトイレで過ごすとも言われている、僕が腹痛の時に心の底から神に祈る場所でもある、つまりトイレとは礼拝堂と言っても過言ではない。

 だからこそトイレの中で人は心穏やかでいるべきなのだ、俗世の悩みや苦痛からは解き放たれ、敬虔な祈りを捧げる場所でなくてはならない。

 その観点から見て、ポケモンセンターのトイレは素晴らしい。清潔で十分な広さもあり、リノが壁を向いて浮いているのに十分ながスペースが確保出来る。ウォシュレットの水流を細かく調整出来るタイプなのも嬉しいポイントだ。

 

 コンコンとトイレのドアがノックされた。

 

「入ってまーす」

 

 だけど、個室にいるとどうしても考え事が捗ってしまう。考えるのはもちろん先程の砂浜での出来事、そしてこの後の食事会についてだ。

 まずは想像以上に他の陣営のメンツが濃い、そして強い人が多い。まさかアデクさんとパキラまでアローラに来ていたとは思わなかった。

 もちろん僕の協力者達も負けてはいない、スカル団の4人も十分に強いしキャラ濃さとバリエーションも豊富だ。

 だが、ユリの陣営が特に恐ろしい。仮に話し合いが拗れてポケモンバトルで決着をつける事態になったらあのメンバーは脅威だ、ユリとリーリエちゃんは未知数な所があるけど弱い訳がないだろう。

 

 コンコンコンとトイレのドアがノックされた。

 

「入ってまーす」

 

 食事会の開始はもうすぐだ、いまさら悩んでも対策の立てようがないのは分かっているが、考えずにいるのは難しい。

 根本的な話をすれば何を争うんだ? そもそも器とか試練の詳細も知らずに対立しても仕方がない、確かにルザミーネさんは怪しいけど最初から喧嘩腰も良くないだろう。

 

 そもそもなんで早く開催するんだよ、食事しながらであれば緊張が解れたのに。コケコは本当に余計な事を提案してくれた、多分コケコは“せっかち“だな、その癖防御力も高かったから卑怯な奴だよ。

 

 コンコンコンコンとトイレのドアがノックされた。

 

「はいはい、今出まーす」

 

 手を洗ってリノを纏う、これだけノックするということは余程切羽詰まっているのだろう、急いであげないと可哀想だ。この礼拝堂は自分だけの物ではない。

 スライド式のドアを開ける、車イスの人でも使えるトイレなので大きなドアが軽快にスライドして行く。

 

「すみません、お待たせしました……」

 

「ふふ、待たされちゃったわ」

 

「ぴぃっ!!?」

 

 トイレの前には黒い水着姿のシロナさんが立っていた、驚きのあまりにトイレの中に後ずさる。

 

「少しだけ話しがしたいの、食事会の前の方が都合が良さそうだから時間を頂戴」

 

 何故かシロナさんもトイレに入って来る、カチャリと鍵をかける音が聞こえた……詰んだ?

 

「お、お話? 何か僕に用ッスカ?」

 

「ふふふ、貴方が正体を隠したいのなら無理に暴いたりはしないわ、時間も無いし簡潔に伝えるわね?」

 

 やっぱりこの人は僕の正体に気付いている、砂浜でも目線が合ったな気がしていたので嫌な予感はした。

 

「貴方はアカギがアローラに潜伏しているのを知っている? もしも居場所を知っているのなら教えてほしいの、奴には聞かなければならない事があるわ」

 

 あ、アカギ? ああ、そうだよな。シロナさんがその情報を得たなら気になるのも当然だ、むしろメインの目的は査察やウルトラビーストよりもそっちか。

 

「えーと、あるスジからの情報で僕もアローラに来ている事は知っています。ですが居場所までは分かりません、プラズマ団のボスの癖に単独で来てるんですかね? 僕もアローラに来て日が浅いですがプラズマ団の噂は全然入って来ません、一体どこに潜伏しているのやら……」

 

「アカギがプラズマ団の首領? 初めて聞く情報ね、奴はレインボーロケット団の手引で脱走したはずなのに……それとも今のプラズマ団は奴等に乗っ取られている?」

 

 レインボーロケット団……何度聞いてもふざけた名前の組織だ。パチモンかな? サカキってネーミングセンス無いよね、会った事もないけど。

 

「ですがアローラにはカプ達がいる以上、誰であろうと目立った悪さは出来ないはずです。シロナさんにはアカギの目的が分かりますか?」

 

「ウルトラビーストとZパワー、後はウルトラホールを再び利用する為だと思うわ。最近の奴等はウルトラホールによる移動を使っていない、アローラ以外のウルトラホールを閉じた現象は少なくともレインボーロケット団の仕業ではなさそうね。アローラにいる何者かだとは思うんだけど……」

 

 確かにグズマさんもリラさんもそんな事を言っていたな、ウルトラホールの操作については今の所カプ達が怪しいけど、それこそ食事会で聞けばハッキリするだろう。

 

「聞きたい事はそれだけよ、押しかけてごめんなさいね。食事会の後だと聞けない可能性があるみたいだから、どうしてもその前に貴方の話が聞きたかったの」

 

 確かにお知らせに書いてあった、知った情報を第三者に伝えるなと。アカギの情報がそれに当たるのかは微妙だけど、たしかに納得はできる。

 

「あー気にしてません……とは言えませんけど納得はできました。代わりと言っては何ですけど、僕の事は黙っていて貰えると嬉しいです」

 

「もちろんよ、私は貴方を困らせたりはしないわ。だけど助力が必要になったらいつでも言ってね? 緊急事態には編みぐるみを手にして私を思い浮かべて、いつでも駆けつけるから」

 

 もはや編みぐるみは召喚アイテムだ、召喚コストを要求されたりしないよね? 身体の一部とか所有権とかさ……

 

 それともう一つ、気になっている事がある。

 

「あの、シロナさん? ポケモンセンターの前にはスカル団のみんなが居たはずなのにどうやってここまで来たんですか?」

 

 スカル団のみんなはリーグの関係者を素通しにはしないだろう、水着な所も含めて、シロナさんはスルーするには目立ち過ぎる存在だ。

 

「もちろんこの子よ? アカギを捕まえる為なら協力してくれるって言ってくれたの、ギラティナは本当に優しい子よね」

 

 トイレの壁に黒い穴が空き、奥からギラティナの少し悲しげな鳴き声が聞こえた。ガラルの時といいシロナさんの手持ちみたくなっているな……あれ?

 

「シロナさん、破れた世界で移動してカプ達に怒られませんか? あいつ等はアローラでの異空間の移動に厳しいらしいですよ」

 

「アローラ内での移動なら大丈夫らしいわよ? ギラティナが言っていたわ」

 

 ふーん、島の中での移動ならOKなのか? あくまで島の外から中にと、島の中から外に行くのがNGなのかな?

 

「名残惜しいけどそろそろ行くわね、アローラで何が起きるか分からないけど貴方なら大丈夫、私も付いているわ」

 

 正直頼もしい、シロナさんは善良な人だ、決して裏切ったりはしないと断言出来る。トレーナーとしても、ギラティナとムゲンダイナを仲間にしている時点で破格の戦力だ。

 そして何よりも精神的に頼れる大人だ、普段はちょっと変わっているけど有事の際には豊富な知識で的確な判断を下してくれる。

 

「ありがとうございます、もしもの時は頼らせてもらいますね」

 

「ええ、任せなさい。そうだ、問題が解決したら一緒に遊びましょう? せっかくのアローラなのに仕事と事件だけじゃ寂しいわ」

 

 シロナさんは僕に手を振りながら、穴の中へと消えて行った。何だかシュールな絵面だ、トイレの七不思議を目撃した気分になる。

 

 トイレを出て表で待っているみんなの元へと向かう、ロビーを通る時にジョーイさんが冷たい目でこちらを見ていた。

 来る時もそうだったが不審者を監視する様な目で見られるのは辛い、だけど少しだけゾクゾクする、アローラのジョーイさんの制服良いよね……

 

「みんなお待たせッス! アイナ食堂へ向かうッス!」

 

 スカル団のみんなからトイレ長えよって視線が注がれる、すまぬ……すまぬ……

 

「よし、お前らは手筈通りに食堂の向かいで待機だ。大家に話は付けてある、これが鍵だ」

 

 グズマさんがAさんに鍵を手渡す、凄い準備が良い、流石グズマさんだ。

 

「行くぜU、お前達、カプ共の話とやらを聞かせて貰おうじゃねえか」

 

「はい! みんなもよろしくお願いします!」

 

 グズマさんを先頭にスカル団が歩き出す、周囲から視線を感じるが今日だけは集団で町を練り歩く事を許してほしい。

 

 ついに始まるのだ、真実を知る為のお食事会が。

 

 

 

 スカル団のみんなと別れ、5人でたどり着いたアイナ食堂はまさに食堂と言った外観だ、本日貸し切りの手書きの張り紙が妙にマッチしている。

 こんな時でなければ純粋にお昼ごはんを楽しめただろう、香辛料が仄かに香る良い匂いが漂って来る、お昼の仕込みをしているのかな?

 

 現在の時刻は9時40分、集合時間の3分前だ、本当にギリギリになってしまった。

 

「邪魔するぜ」

 

 先頭のグズマさんがドアを開けるとカランコロンとベルが鳴る、店内に並べられたテーブルには既に他の陣営が着席していてこちらを見ている。

 

 うーん凄い絵面だ、ルザミーネさんやパキラは定食屋のテーブルが似合っていない、そしてロトムマスクは最早ギャグの領域だ。笑ってはいけないお食事会か?

 カプ達が行儀良く着席しているのも何だか可愛く見える、まさかギャップ萌えを狙っているのか? やるなカプ共め……

 

「遅いよ、ギリギリじゃないか。大事な集まりには時間の余裕を持って集まるべきだよ、もう少し社会の常識を学んだらどうだい?」

 

 ユリが早速毒を吐いてきた、遅くなった原因の僕としてはグズマさんの背に隠れて小さくなるしかない。

 

「はん、アローラの人間は時間にルーズなのが特徴だ。良く覚えておきな」

 

「んー? 間違ってないけど威張る事でも無いとアセロラちゃんは思うなー」

 

「別に良いだろ、奴さん達は別に遅刻した訳じゃねえ。細かい事に噛み付いて進行を妨げるのは止そうぜ、面倒くせえ」

 

 自称アセロラちゃんと、ウラウラ島の島キングであるクチナシさんがツッコミの様なフォローの様な何かを入れる、ユリもグズマさんも何か言いたげだが押し黙る。

 

「……揃いましたな、あちらの席にお座りください」

 

 店内には長いテーブルが4つ、四角形を作る様に並べてある。そして、テーブルの真ん中の席にはそれぞれカプ達が着席している、こうやって見るとカラフルでそれぞれ特徴があるな。

 

 僕達はハラさんに促されるままに席へと向かう、みんなジロジロと僕を見るのは止めてほしい、そんなにリノが羨ましいか? 他の陣営は代表者がカプの右隣に着席しているのでそれに習う。

 

「ぶ、ブルルさん? 横の席、失礼しますね」

 

『ん? ああ、座れや』

 

 良かった、ブルルはコケコより話が通じそうだ。だけど凄くやる気の感じられない思念だな、面倒くさいって感情を微塵も隠していない。

 そして頭の赤い帽子っぽい奴の圧が強い。イスが近すぎてリノに当たりそうだ、反対の席のグズマさんもちょっと困っている。

 だがアイナ食堂の大きさ的にはしょうがない、そもそもの会場のチョイスが問題だ。

 

「それでは皆さん、これから話し合いを始めたいと思います。進行はメレメレ島の島キングである、このハラが務めさせていただきますぞ」

 

 書記は……いないよね? 秘密の話を記録に残す訳にはいかない。覚えきれるか不安だから協力者がいて良かった、後で議事録なんて配ってくれないだろうからな。

 

「そして、お知らせにも記載しましたが、この食事会の後は出席者全員に様々な制限がかかり、さらには危険な試練にも挑む義務が生じます。もしも参加を辞退する方がおられるならこれが最後の機会です、もう一度だけ考えてから参加を決めてくだされ」

 

 ハラさんの言葉に、場の空気が引き締まる。

 

 だが、誰1人として退席する様子も発言をする事も無い。この場の全員が未知なる試練に挑戦する覚悟があるようだ。

 

「………分かりました、皆さんの意思は硬いようですな。では自己紹介から始めましょう。自分の所属と名前、そして参加の理由を簡潔にお願いいたします」

 

 動機まで発表するのか。参加の理由ね、確かにそれは相手を知るために重要かもしれない。

 

「では、まずはわしから名乗らせて頂きますぞ。メレメレ島の島キングのハラと申します、島キングの責務を果たす為に参加を決めました」

 

 島キングの務めか、それはコケコに従うことか? でも他の島のキングとクイーンもコケコ陣営なんだよな……

 

「私はアーカラ島の島クイーンのライチだよ、参加の理由は……私も務めってやつだね、アローラの平和を守るためさ」

 

 ライチさんも務めか、そして露出の多い服装だな……気になるけど我慢だ。

 

「次は俺か? ウラウラ島の島キングのクチナシ、参加の理由は……まあ、責任を果たすためだな」

 

 やっぱり島キング達は責務が理由なのか、コケコがカプ達の中でもリーダーなのか? コケコの方針がアローラの方針ってことか?

 

「わしはイッシュリーグ所属トレーナーのアデク、参加の理由は古い友人であるハラの頼みだからだ。それとアローラでもう一度答え合わせをしたいと思っている、老いぼれだがよろしく頼む、若きトレーナー達よ」

 

 老いぼれとかツッコミにくい自虐は止めてほしい、そんなファンキーな格好で言われても説得力がない。

 そして答え合わせ? 気になるけど話の腰を折る訳にもいかない。

 

「はいはーい! ウラウラ島のキャプテン兼古代のプリンセス、アセロラちゃんでーす! 参加っていうか私はコケコが選ぶ器の操り人の代理人でーす、よろしくね」

 

 古代? プリンセス? 代理人? 分からん、分からんぞ、何一つ分からん。

 だけどアセロラちゃんが元気なのは伝わって来た。

 

「以上がカプ・コケコが選んだ協力者です。器の操り人となる人物はまだアローラに到着しておらず、アセロラが代理で出席しております」

 

 んー、だから代理人? それはどうなんだ?

 

「おいおい、代理人だが何だか知らねーが要はコケコの陣営だけ1人多いってのか? そんな横暴が許されるのかよ?」

 

 おっ! 流石グズマさん、言いにくい事をビシッと言ってくれるぜ! 

 

『アセロラハ王家ノ末裔ダ、話ヲ聞ク権利ガ存在スル。直接争イニハ参加シナイ、余計ナ口ヲ挟ムナ』

 

 コケコの思念が響く、アセロラちゃんはあくまで話を聞くだけってことか。

 そして王の末裔だから古代のプリンセスなのかね、アローラに王朝って存在したのか。

 

「よろしいですかな? では時計回りに行きましょう。次はユリさん達にお願いしますぞ」

 

 時計回りなら僕達は最後か、3番目が良かったな……最後は目立つよ、ガラルのジムチャレンジで嫌というほど学んだ。

 

「席順で俺か? カントー地方、トキワシティのジムリーダーのグリーンだ。参加の理由はユリとの約束を果たすため、もう一つは仕事でアローラでの異変を見極めるため、そんな所だな」

 

「……カントーリーグ所属トレーナーのレッド、ユリとの約束で参加する……後はZ技に興味がある」

 

「僕はホウエンリーグ所属トレーナーのダイゴ、参加の理由は同じくユリとの約束だね。そしてZクリスタルにも興味がある、是非ともコレクションに加えたい」

 

 3人は予想通りではある、しかし後の2人は仕事はどうした? 自分の欲望を言ってないか?

 

「私の所属? えーと、ユリさんの……と、友達です! リーリエと申します! 参加の理由は、お母様! 貴女を止めるためです! ほしぐもちゃんを利用させたりはしません!」

 

「あらあら、困ったものね」

 

 リーリエちゃんは自己紹介というより宣戦布告になっている、だけどルザミーネさんはクールだ、全く動揺が見られない。

 だけど強い気持ちは伝わって来た、一生懸命頑張る姿勢には好感が持てる、純粋な性格が伺える。

 

「僕はユリ、最強のトレーナーで最強の超能力者だ。所属なんて無いよ、強いて言うなら正義の味方だね。参加の理由も同じだ、僕は自分の力を正しく使う、欲望のままに生きたりなどしない。力を持った者としての義務を果たすのさ」

 

 なんだろう、無性に恥ずかしい気持ちになる……何なんだこの感覚は? 共感性羞恥? 違うか?

 

「ユリさんがカプ・テテフの選んだ器の操り人、他の4名が協力者となります。次はルザミーネさん達にお願いいたします」

 

 おっ、席順的にロトムマスクからか、ついに名前がわかるぞ。

 

「……エーテルパラダイスでウルトラホールの研究に協力しているアカギだ、参加理由はウルトラホールについて理解を深めるため、以上だ」

 

「は?」

 

 今アカギって言った? 聞き間違いかな? 聞き間違いだよね?

 

 いや、Nとリーグ関係者達も驚いているから聞き間違いではない。このロトムマスクは確かにアカギと名乗った、マジかよ……

 

 それに今気付いたけど、あのロトムマスクはかなり強力な対テレパス性能をしている。普通の人なら少しは漏れてる感情の波が一切感じられないし、僕も注視するまで気付けなかった。

 対超能力者用のテレパス対策としては完璧だ、ふざけた見た目に反して性能は一級品のようだ。

 

 確かに本物のアカギなら、こんな高性能のマスク型のデバイスも作れるかな? いや、そう思わせて中身は別人? でも体格は似てるぞ?

 仮に本物のアカギだとしたら一体どういうつもりなのかね、顔さえ出さなければ大丈夫だとでも言うつもりか? それとも獄中生活でおかしくなった? いや、ギンガ団の時からおかしいけどさ、それにしたってなぁ……

 

「皆さんいいかしら? カロスリーグで四天王を務めているパキラです。参加の理由はルザミーネさんの要請に答えて、そして所属組織の務めを果たすためです」

 

 アカギは一旦忘れよう、パキラは……どうせ悪い事考えてるんだろうな、恐ろしい女だよこの人は。

 元同僚のクセロシキを国際警察に売って何食わぬ顔で四天王を続ける様な奴だ、何か企んでいるに決まっている。

 

「次は支部長である私ですね! 私はエーテルパラダイスの支部長! そう、支部長であるザオボーです! 参加の理由はもちろん敬愛する代表のお力になるためでございます!」

 

 うん、なんか素直に俗っぽい人を見ると癒やされるな。絶対に上司に媚を売ろうという強い意思を感じる。

 メガネ? の他に注目するなら超能力者って所だな、少しサイコパワーを感じる、クラスで言うと2か3って所か。

 

「エーテルパラダイス副支部長のビッケと申します、参加の理由はエーテル財団の理念に殉じるためです。皆様よろしくお願いいたします」

 

 礼儀良く頭を下げて自己紹介するビッケさん、その柔らかい物腰はとても悪人には見えない。

 でも見た目だけで判断するのは危険だ、パキラの事だって最初は善人だと思っていた、ホロキャスターのお姉さんなので少しファンだったくらいだ。女の人を見た目で判断すると後悔する事がある、僕が過去に得た学びの一つだ。

 

 そして、エーテル財団の理念とはポケモンの救済だ。さらに言えばアローラのエーテルパラダイスはあくまで支部で、エーテル財団自体は世界を股にかけた規模を誇っている、アジトに置いてあったパンフレットで見たから間違いない。

 

「最後は私ですね、エーテル財団代表のルザミーネです。参加の理由はポケモン達の救済のため、アローラの未来のため、そして……」

 

 ルザミーネさんは一旦言葉を区切って、グラジオとリーリエちゃんに視線を向けた。自分に反抗する子供に対して怒りや憎しみなどまったく見られない、ひたすらに優しい眼差しで二人を見ていた。

 

「再び家族で一緒に暮らすため、それが私の理由です」

 

 グラジオとリーリエちゃんが息を飲んだ、嘘偽りなど全く感じられない発言に僕も戸惑う。

 本当にルザミーネさんはアローラを氷で閉ざすなんて恐ろしい事を企んでいるのか? グラジオを疑うわけではないけど勘違いなら良いと思ってしまう、今のが演技だとは思いたくない。

 

「ルザミーネさんがカプ・レヒレの選んだ器の操り人、他の4人が協力者となります。では最後にスカル団の方々に自己紹介をお願いします」

 

 ついに来た、ここでビシッと決めなくてはいけない。

 

「フッ、俺からだな……スカル団零番隊 副隊長、漆黒の餓狼グラジオ。参加理由は友に力を貸すため。そして母さん、貴女の計画をブッ壊すためだ」

 

 それで行くのかグラジオ!? 本当にそれで行くんだな!? ルザミーネさんも少し困惑してるぞ!? リーリエちゃんも悲しそうだぞ!?

 

「わ、私はスカル団三番隊 隊長……む、無慈悲なる女王のリラです。参加の理由はUへの恩返し、それとウルトラビースト達を助けるためです」

 

 リラさんは真面目だ。隊や二つ名は僕がスカルに加入してから流行ってノリで決めたけど、一応正式に決まったものだ。

 恥ずかしがりながらもちゃんと名乗って偉い、ちょっとキュンと来た。

 

「ボクはスカル団零番隊所属、愛と調和のN。参加の理由は灰色の竜を見極めるため、そしてアカギ、アナタを追って来たのさ 」

 

 場の空気がざわつく。そりゃそうなるよね、覆面を被った男が元悪の組織のボスを名乗ればそうなる。

 ついさっき学んだ。本人の希望で声も変えてないし面識ある人にはバレるだろうな。

 でも、アデクさんは何故か嬉しそうにしている。本当にそれで満足ですかね、ロイヤルマスクを被ったNを見て嬉しいか?

 

「くくっ……破壊と言う言葉が人の形をしている男、グズマだ。スカル団の頭をやっている。参加の理由はもちろん見たいからだよ、これまでのアローラがブッ壊れる所をな」

 

 グズマさんもノリノリだ、そしてアローラがブッ壊れる発言に何人かが顔をしかめる、僕も最初はそうだったから仕方がない。

 

 さて、いよいよ僕の番だ。ここまで来たからにはやるしかない。

 

「フッ、僕はスカル団零番隊 隊長、彷徨える鎧のUです。参加の理由はアローラの異変を見極めるため、そして新たなる力を得るためですね。みなさんお見知りおきを……」

 

 決まったね、そして予想通り場の雰囲気はヒエヒエだ。

 

「おい、お前達スカル団はふざけているのか? 少しは真面目にやれよ」

 

 ユリが我慢できずに発言して来た、だけどここで謝ってはいけない、途中で引き下がるのは舐められてしまう。

 

「ふざけてなどいないよユリ、強いトレーナーには自然と二つ名が付けられるものさ、君にはないの?」

 

「なっ!?」

 

 まあ僕達は自分で勝手に名乗ってるけどね、ハッタリは大事だ。こんなのは言ったもん勝ちなのだ。

 

「まぁまぁお二人とも、互いの意見を主張する時間も予定しております。今は抑えてくだされ」

 

 ハラさんが僕とユリを取りなす、さて次は何かな?

 

「それでは、カプ達にも自己紹介をお願いいたします、選んだ理由もお願いしますぞ」

 

 おっ、カプ達も自己紹介するのか?

 

『王カラ、メレメレ島ノ守護ヲ任カサレタ、カプ・コケコダ。理由ハ決マッテイルカラダ、奴ガ操リ人二ナルノハ定メラレテイル』

 

 定められている? やっぱり未来を見ているのかな? 

 

『アーカラ島! 頼まれて守ってるカプ・テテフ! ユリを選んだのは面白いから! これからがとっても楽しみ!』

 

 おいおい、コケコとは全然違うな。外見も可愛らしい、優しいポケモンっぽいぞ、きっとテテフは穏やかで人懐っこいカプなのだろう。

 

『ポニ島を守護しているカプ・レヒレよ。ルザミーネを選んだのは煩いのが嫌いだから、アローラを静かにしてくれるから彼女を支持する、それだけよ』

 

 割と怖い事言ってる、人間嫌いか? テテフとレヒレはどこか女性的な見た目と雰囲気だ。

 

『あ? 俺か? カプ・ブルルだ、ウラウラ島を守っている。理由は……こいつなら何とかしそうと感じたからだ。そういえばお前さんの名前は何だ?』

 

「ゆ、Uです……」

 

 ついさっき自己紹介したのに……本当に認めてくれているのか? 理由もフワッとしてるよ。

 

「これで全員の自己紹介が終わりましたな。さて、次はいかがしましょう、コケコよ」

 

『全テヲ話シテヤレ、ブルルハ説明ヲ怠ッテイルヨウダ。ネクロズマヲ纏ッタ者ハ、何ヒトツ立場ヲ理解シテイナイ』

 

 おっ、喧嘩売られてる? でも何にも分からないのは事実だから悔しい……

 

「始めから……ではまずZパワーについてお話しましょう。Zパワーとは、ウルトラスペースに漂うOPをネクロズマが変換した物です。3千年前にアローラの王とネクロズマが力を合わせて、人々の祈りを束ね、黄金の輝きを生み出しました」

 

 OPをZパワーに変換した王とネクロズマか、規模こそ違うがOPを他のエネルギーに変換するのはトレーナーの指示で技を出すのと似たようなものだ、特殊なのはそこに他者の願いまで組み込んでいる部分かな。

 ネクロズマに特殊な力があれば可能か? でも3千年前の力が今も残っているのは流石に嘘臭い。

 

「そして黄金の輝きはアローラの島々に宿り、人々やポケモンの意思に感応して力を増すようになりました。今日まで脈々と受け継がれて来たアローラの意思こそがZパワーとも言えます、来たるべき日に備えて輝きを蓄えてきました」

 

 ああ、それなら納得出来る。土地に宿って蓄えられたなら3千年残っているのもおかしくないだろう。

 人やポケモンの想いは力になる、それはいまさら疑う事でも無い。僕はそれを知っている、問題はこの前にコケコと戦った時にそれが感じられなかった所だ。

 

「すみません。僕がこの前にコケコと戦った際に、Zパワーの流れは土地からではなく、ウルトラホールからやってきました。今の説明と矛盾するのでは?」

 

「それは現在アローラに宿るZパワーが波を抑える為の防壁となっているからですな、力の大部分がウルトラスペースでアローラを守る為に展開されております。最近ウルトラホールが出現しないのもそれが原因です、理解していだだけますかな?」

 

「なるほど……分かりました、話を続けて下さい」

 

 つまり元々は土地に宿っていたZパワーが、今はウルトラスペース上で結界のようなフィールドを展開しているのか。だからウルトラビースト達がやって来ない、確かに辻褄が合う。

 

「そして来たるべき日とは何か? それはウルトラホールから大量のウルトラビースト達が溢れ出す事です。古くからその現象は波と呼ばれております。百年周期でやって来る小規模な波もありますが、今回はそれと比べ物にならない程に大規模な波が訪れます。3千年前に王とネクロズマが経験したのと同じく、世界を滅ぼす程の脅威であると予想されています」

 

「世界を滅ぼす? ウルトラビースト達が?」

 

 大げさじゃないか? ウルトラビースト達は強力だけど世界を滅ぼせるかって言われたら首をかしげるぞ? この世界はそんなに弱くない。

 

「アローラについて日が浅く、理解しにくい方もおられる様なので、エーテル財団の調査を元に私から補足させて頂きます。今回の波によって現れるウルトラビースト達は、おおよそ3万匹程と予想されます。異次元空間でも活動出来るポリゴンZ、小規模な空間の穴を作り出すドータクンなどに協力してもらい、エーテル財団に所属する異空間の研究者達が弾き出した試算です。エーテル財団はウルトラホールの研究については最先端を自負しております、レヒレにも内容を保証して頂きました」

 

「さ、3万匹?」

 

 少なくともスカル団では保護しきれない数だ、アローラに来るウルトラビースト達は記憶を失って本能のままに動く、確かに危険には違いない。

 だけど世界を滅ぼすってのはやっぱり大げさだろう、少なくとも保護ではなく撃退や殲滅を選べば3万匹程度でこの世界は滅んだりしない……まあ選びたくない選択ではあるが。

 

「そしてウルトラビーストの中でも危険なのは、コードネームUB05 GLUTTONY、アクジキング。このポケモンは……」

 

「あらゆる物を食い尽くしちまう、無機物だろうが有機物だろうが、人であろうがポケモンであろうがな。アクジキングの口の中に入っちまったら終わりだ、奴等は意思を持ったブラックホールみたいなもんだ、限界すら存在しない」

 

 ブラックホール……確かにそれはヤバそうだ。どうやって保護していいのか分からない、ホワイトホールを作ればいいのか? 僕の超能力で……そもそもホワイトホールって何だっけ?

 

「あら、さすが元国際警察のエースであるクチナシさんですね。彼等の危険性をよく理解されているようです」

 

 ああ、確かにグズマさんもそんな事を言っていたな。だからクチナシさんはアクジキングに詳しいのか。

 

「よしてくれよ、ルザミーネさん。それで? お宅らエーテル財団は3万匹のウルトラビーストの内、アクジキングがどの程度の割合なのかも分かっているのかい?」

 

「はい、もちろんです。今回の波のおおよそ半分はアクジキングで構成されていると思われます。アクジキングのこの世界での目撃例が3件だけ、それなのに被害の大きさでは断トツです。そんなウルトラビーストが約1万5千匹、世界を滅ぼすとの表現は大げさではありません、彼等が世界各地に出現していたらそれは現実の物になっていたでしょう。ウルトラホールの出現がアローラのみになったのは本当に僥倖です、対処がとても容易となりました」

 

 ルザミーネさんはそう言って僕を見た、んん? 何かコメントを待っているのか? 確かに大げさではなかったみたいですね?

 

「Uさん、私は貴方がウルトラホールの出現をアローラに限定させたと推測しているのですがどうでしょう? 間違っていますか?」

 

「えっ!? 僕が!?」

 

 いやいや、そんな事してないよ、何で僕を疑うんだ? もしかしてこの人は僕の正体を……

 

『ソレハ違ウ、我モソレヲ疑ッテコノ者ヲ襲撃シタガ、コイツノネクロズマハ輝キヲ失ッタママダッタ。コイツデハナイ、恐ラクアローラノ意思ガソレヲ成シタノダ』

 

 えっ、カプ達でもないのか? アローラの意思って要は自然現象って事か? 特定の個人じゃなくてZパワーそのものだもんな。

 そして僕が襲われたのはそんな理由? ただの人違いじゃねーか。コケコッコの奴め何が力を示せだ、もしかしてあの時は誤魔化された?

 

「あら、そうでしたか? Uさん、不躾な事を聞いて失礼しました」

 

「あっ、大丈夫ッス……」

 

 まあいい、今は話に集中しよう。

 

 ウルトラビースト約3万匹、その内アクジキングとやらが1万5千匹、性質を考えれば数字以上に危険な事態だ。

 どうやって対処するべきか……この場にいる戦力はかなりのものだけど流石に数が多すぎる。

 そもそも一度にアローラに現れるのか? ウルトラホールってそんなに大きくないから、出てきたそばから対処すれば案外勝てる気もする。この場の戦力でローテーションを回して長期戦に持ち込めば何とかなるんじゃないかな?

 でも、それは保護ではない、止めを刺さずにウルトラスペースまで追い返すのが精一杯だろう。

 

 正直に言ってそれは嫌だ、今ポータウンにいるウルトラビースト達だって意思さえ通わせ合えば共存はできた、彼らだって……

 

「波についての詳細は、ルザミーネさんが説明してくれた通りです。そして問題の波はいつ来るのか? 正確な日時は分かりません、ですが夏が終わった後、島巡りの季節の後である事は間違いありません。今から、おおよそ3ヶ月後の事になるでしょう。」

 

 3ヶ月後か、対策する時間が無いってほどでもないけど、十分とも言えない。

 そして、正直思ったよりも深刻な事態だ。正直に言ってアローラだけで決めていい問題ではない。

 

「あの、正直に全て話して他の地方に協力を要請しませんか? アローラにも掟とか色々あるとは思いますが、流石にこの人数で対処できる事態には思えません、なりふりをかまっている場合ではないかと……」

 

「へえ、非常識な格好してる割には常識的な意見だな。俺も賛成だぜ、もちろん俺自身も力を貸すが、リーグ本部にも協力を要請した方がいい。無茶な条件が提示されないように出来るだけの事はする」

 

 グリーンさんも僕の意見に肯定的だ、レッドさんもダイゴさんも頷いている。リノをディスったのは許してあげよう。

 

「そのご意見はもっともだと思います、わしもコケコに話を聞いた時に同じ様に意見しました。ですがそうはいかない理由があるのです、順を追ってお話しましょう」

 

 理由ね、僕達が納得出来る程のものなのかな?

 

「まず、Zパワーとは先程も言った様に、王とネクロズマから生み出され、アローラの島々に宿って蓄えられてその力を増していきました。アローラの人々の意思によるものです、アローラの平穏を願う気持ち、それに感応されてきたからこそアローラの防衛においてZパワーは比類なき力を誇ります」

 

「Zパワーに意思が宿っているって事ですかね? 昔からアローラの人々の残留思念と結びついている、だからその意思に反した方法で力を活用出来ない」

 

 超能力者とかトレーナー以外には理解しにくいだろうな、普段からOPの存在を感じていないと胡散臭く感じるだろう。

 

「そうですな、その認識で間違い無いと思います。そしてアローラのZパワーを十全に使えるのは本来の力を取り戻したネクロズマのみです、だからこそネクロズマを器と呼んでおります」

 

 Zパワーを受け入れる器って事か、あんまり好きな呼び方じゃないな。

 

「そして、アローラにやって来るウルトラビースト達はビーストオーラと呼ばれる力を持っております。あれはZパワーと同種の力です、アローラとウルトラメガロポリスと呼ばれるネクロズマが眠る地から漏れた輝きに適応した者のみがそれを身につけられる。使い方を学んだからこそアローラのZパワーに惹かれて彼らはやって来るのです」

 

 ああ、確かにアジトで保護してるみんなもオーラを纏っていたな。あれがビーストオーラか、確かにやっかいな力ではある。

 

「Zパワーで満たされたネクロズマなら、彼らのビーストオーラを奪い取る事が出来ます。これによって波の危険度は大幅に下がるでしょう、奪い取る事でネクロズマ自身の輝きもさらに強力になるはずです」

 

「なるほど、確かに僕達スカル団もウルトラビースト達を保護するのに苦労しました。あのビーストオーラがなければもっと容易に保護できたはずです、あのオーラがなければ彼等の力は半減します」

 

 ウルトラビースト達が強力なのは、大部分があのオーラのおかげだ。あれがなければ普通のポケモンとそう変わりはしない、テッカグヤなんかは巨体なだけで脅威だけど……

 

「つまり、アローラのZパワーとネクロズマが揃えば波の脅威を大幅に抑える事が可能になります。そしてネクロズマ自身も非常に強力な力を手にします、それを補助する形でこの場の皆さま方が協力すれば、波を乗り越える事が出来るでしょう。3千年前に王とネクロズマが同じ方法でそれを成し得ました、カプ達がそう証言しております」

 

 つまりここにいる人間だけでも対処可能と言いたいのか? それにしたって安全を取るなら戦力を呼んだ方がいいだろう。

 

「以上を踏まえてもらった上で、応援を呼べない理由となるのはZパワーの性質です。Zパワーは人々やポケモンの意思に感応します、長い年月でアローラの防衛に特化しましたが、Zパワーや波の詳細を多くの人が知れば知るほどその純度は下がってしまいます。多くの人に知られれば知られる程に、力の方向性が乱れていくのです。コケコ曰く今この場にいる人数でも多いくらいで、外部からの応援を呼べば蓄えて来たZパワーはただのOPのリソースに成り下がるそうです」

 

 理屈は分かったけどちょっと抽象的だな、もう少し呼んでも大丈夫な気もするけど………

 

『本来デアレバ、真実ヲ知ルノベキハ器ノ操リ人ト4人ノ協力者ノミダッタ。ソレデ十分二対処デキタ事態ガ複雑二ナッタノハ、新タナルネクロズマヲ連レテ来タ貴様達ノセイダ。コレ以上ノ譲歩ハシナイ、波二対処スルノハアローラニ居ル者ダケダ、コレ以上外部カラノ増員ハ認メン』

 

 すみませんって言いたい所だけど、リノは普通にテンカラットヒルでエンカウントしたからな? 別に僕がアローラに連れてきた訳じゃないぞ。

 

「そして、波の脅威を認識するものが増え、Zパワーの方向性が乱れると、今はアローラのみに出現するウルトラホールが再び世界各地にばらける危険性もあります。その場合の被害は恐ろしい物になるでしょう、いつどこにアクジキングが出現するかも分からないのは非常に危険な事態です。だからこそ我らのみで、アローラで波をせき止める必要があるのです」

 

 ハラさんの言葉にみんなが沈黙を深くする、確かに散発的に世界各地にウルトラビーストが溢れるよりは、対処法の存在するアローラのみに限定した方が良い気もする。

 

 他のみんなも同意見の様だ、グリーンさんもこれ以上異議を唱えるつもりはなさそうだ。

 

「今日までの百年周期の小規模な波、そしていよいよやって来る大いなる波に対処する為に、アローラでは島巡りを通じてネクロズマとその操り人と共に戦う戦士を育んで来ました、ここにいる皆さんと、アローラに住まうZリングを持つ全てのトレーナーで波に挑む事になります。もはや投げ出す事は出来ません、アローラから逃げ出したり、外部の者に真実を告げたりすればZパワーの意思によって裁かれます」

 

 まぁ、散々試練の危険は説いていたからな、いまさらそこに文句は言ったりはしない。恐ろしくはあるけど逃げるつもりなどはない。

 

「そして波に挑むにあたって決めねばならない事があります。どのネクロズマがZパワーの器になるのかを決めるのです。そして、4人の内の誰が3千年前の王の役目を果たすのかも決めねばなりません。もうすぐ島にやって来るヨウと言う名の少年、ユリさん、ルザミーネさん、そしてUさん、この中から誰か1人を決めるのです、島のZパワーが満たせる器は一つだけですからな」

 

 お、王の役目だと? 器と操り人ってそんな話だったのか。

 

「それぞれのカプ達からこの話は聞いていると思います、なのでこれから各陣営には波への対処の方針と具体的な方法を発表して頂きます。その後の話し合いで決まるのなら良し、話し合いで決まらないのなら別の方法で決着を着けたいと思います。どちらにせよ波が来るまでに我らは一丸とならなくてはいけません」

 

「ふぇっ!?」

 

 ぐ、具体的な対処法と方針だあ!? 僕はたった今話を聞いたぞ!? どうなってんだブルル!!

 

 僕は抗議の意思を全力で視線に乗せて、ブルルを睨む。スカル団のみんなもブルルを白い目で見ている。

 

『ん? ああ、俺はお前さん達にあえて話は伏せていたんだよ。率直な気持ちが一番だからな、別に面倒くさくて黙ってた訳じゃねえぞ?』

 

「そ、率直な気持ち?」

 

 いやいや、率直なお気持ちを表明してどうすんだよ!? 他の陣営はしっかり考えたプランをプレゼンするんじゃないの!? ブルルは勝つ気が無いのか!? 主導権を握るのが面倒くさいだけか!?

 

 周囲も割と同情的な視線を僕達に向けている、意外と仲良くできるかも……この瞬間だけブルル以外が一丸となってるぞ。

 

「ふふ、スカル団の皆さんはカプ・ブルルと行き違いがあったようですね。それならせめて彼等の発表は最後にしませんか? 私や他の方々の話を聞くのも参考になるはずです、少しは考える時間も得られるでしょう」

 

 る、ルザミーネさん優しい……母性を感じる……母さん?

 

「ふむ、Uさん、それでよろしいですかな?」

 

「はい、それでお願いします。ぜひともお願いします」

 

 周囲からも反対の声は上がらない、ユリですら憐れみの視線を僕たちに向けている。

 

「では、最初の発表は私でもよろしいですか? 発案者なので、Uさんの参考になるように精一杯務めさせていただきますわ」

 

「別に構わないよルザミーネさん、どうせ王になるのは僕に決まっている」

 

 ……いや、王と同じ事をするのであって王になる訳じゃねえだろう。何を言っているんだユリは、王の響きが気に入ったのか?

 

『好キニシロ、王ハ既ニ定メラレテイル。何ヲ話ソウト同ジ事ダ』

 

 えっ、本当に王になるの? アローラの王政復古? もしかして終わった後は王としてアローラに君臨しなきゃいけないのか……後でレックスに王にとって必要なものを聞いておくか? 恐らく冠だろう、間違い無い。

 

「では、私達エーテル財団から発表させていただきます。資料はレヒレに止められたので作成出来ませんでした。口頭で方針と対処法を簡潔に説明させていただきます」

 

 ルザミーネさんが立ち上がって話を始めた、静かだけどよく通って心地の良い声だ。エーテル財団の代表なだけあって人前で話をするのは得意なのだろう。

 

「まずは方針ですね。私達エーテル財団はポケモンの救済を目的としては設立された組織です、今回の波による危険性は十分に承知しておりますが、彼等ウルトラビーストを傷付ける事はしたくありません。彼等もウルトラスペースに投げ出されて彷徨い、失った記憶を求めてアローラの光に魅せられた被害者達です、私達は彼等を撃退するのではなく保護したいと思っております」

 

 正直方針としては全面的に賛同したい、問題は……

 

「それで? ルザミーネさんは一体どうやって3万匹のウルトラビーストを保護するの? 理念は立派だけど、綺麗事だけじゃ波を乗り越えられないでしょう。ネクロズマの力はあくまで戦う為のものだ、どう考えても不可能だよ」

 

「ええ、ユリさんの意見は当然の疑問です。私もエーテル財団の代表を父から受け継いで以来、理想と現実の狭間で悩んで来ました。どんなに力を尽くしてもても助けてあげられないポケモンも存在する、そんな悲しい現実を私は何度も目の当たりにしました、その度に己の無力を痛感しています」

 

 エーテル財団程の巨大な組織の代表であるルザミーネさんが、理想だけに生きているはずがない。相応に悲しい現実を割り切って活動しているはずだ、個人でやっているボランティア活動とは違う。

 それでも保護活動を続けているのならそれは善行だ、心にも無い事を言う人もいるだろうけど立派な事だと思う。

 

「ですが、今回は違います。様々な縁による偶然、エーテル財団を支えてくれる職員達の素晴らしい働き、加えて皆さま方の助力。そして何よりZパワーという素晴らしい輝きがあれば、誰も傷付かずに彼等ウルトラビーストとアローラの両方を救う事が可能です、それにより私自身も救われます」

 

 本気だ、ルザミーネさんは心の底からそう信じて発言している。もしかしてグラジオが言う計画は勘違いか? 何か画期的な方法でウルトラビースト達を保護するのかもしれない。

 

「それで? どんな素晴らしい方法でアローラとウルトラビーストを救うつもりなのかなルザミーネさん? 僕達に教えてくれよ」

 

 まったく、ユリは挑発的だな。もう少し年長者を敬わないと駄目だよね? 特にルザミーネさんみたいな立派な人は……

 

「ふふ、Zパワーを手に入れた私の愛しいネクロズマ、彼女がキュレムと呼ばれる非常に強力なポケモンと融合します。それによって、全てを凍りつかせる究極のポケモンが誕生するのです」

 

 ん? あれ? き、究極?

 

「究極のポケモンの力でアローラは氷の世界となり、永遠に現世での時間が止まります。ウルトラホールの入口は閉ざされ、ウルトラビースト達も氷の中で眠りに付き、誰も傷付く事なく問題は解決するのです。そしてアローラは永遠に美しい輝きを放つ氷の楽園となります、みなさん、素晴らしいと思いませんか?」

 

 ごめん、ユリ。そしてグラジオとリーリエちゃん。

 

 ルザミーネさんはヤバいッス、クレイジーサイコマザーだ……


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