自分はかつて主人公だった   作:定道

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5話 カンムリせつげんにさよならバイバイ

 ブラッシータウン、いい町だ。

 

 田舎って程でもなく、かといって都会というほど栄えてもいない町。便利な施設やお店はひと通り揃っているけど、最先端から遅れている。ナギサっ子の僕にはこれくらいが丁度良い。

 まあ、ナギサシティには海と灯台があるけどね。その分こっちの勝ちかな?

 

「おお!これが都会か!何という賑わい!そびえ立つ建築物!実に天晴である」

 

「きゅぴー!」

 

 本人達が満足なら何も言うまい。その純粋な心を大事にしてほしい。

 

「よし、みんな、目標を確認しよう」

 

 おー!と元気な返事が帰って来る。やる気満々だ、ふわふわちゃんは多分よくわかってないけど楽しそうだからよし。

 ブラッシータウンの駅に着いた僕らは、ひと目をはばかり、コソコソと素早く駅の裏手の人気の無い場所に移動した。

 この町に来た目的を確認する為に、僕達1人と5匹の冠四天王は簡易円卓会議をはじめる。

 

目標その1 劇場版ポケカノの視聴

 

目標その2 近くに住んでいるらしいマグノリア博士に会う

 

 この2つだ。残念な事にこの2つは簡単には達成出来ない。

 

 その1はまず現金が必要だ、ネット決済も口座からの引き落としも居場所バレするために不可能。

なので手持ち道具をフレンドリィショップで売却し、現金に変える。現金に変える道具は大量に所持しているきんのたまだ。

 

 ディアルガとパルキアとギラティナのOPを模倣して習得した僕の収納空間の超能力。

ギラティナに頼み込んで借りたやぶれた世界の一部を倉庫にリフォーム、そしてときのほうこうを応用して擬似的に倉庫の時間を止め、さらにあくうせつだんを応用してこの世界からやぶれた世界の倉庫にアクセス。素晴らしい能力だ。

 この倉庫にはきのみや食料の他に、各地で手に入れた貴重な品や、ちょっと人に見せたらまずい品物を保管している。

 

特にきんのたまは1000個は持っている、一時期きんのたまおじさん狩りにはまっていた。あのおじさん共はどの町にも一定数存在するから、狩るのは容易だった。

 

 そして手に入れた現金を握りしめ、ポケモン同伴OKのネットカフェチェーン“ズバット解決クラブ“で劇場版ポケカノを視聴する。店のサービス配信映画のラインナップに劇場版ポケカノが入ってるのはネットでチェック済みだ。

 

 その2は研究所まで行って、なんやかんや上手くやる。以上だ。

 

 正直、作戦はない。自分の事情を可能な範囲で明かしてダイマックスについて教えてもらう。ヤバそうだったら逃げる、それだけだ。

 

 「以上だ!みんな!行くぞ!」

 

 冠四天王の力、見せてやるぜ!

 

 

 

 ぐるぐる回る ぐるぐる回る 途中でチラチラ 隙を見てチラチラ。

 

 ポケモンセンターの周りを延々と周回し続ける謎のポケモン達、その先頭が僕だ。孵化厳選してる訳ではない、この世界でそんな極悪非道な行為は許されるはずがない。

 

 忘れてたよ、イッシュとカロスでもそうだったけど、何でポケセンとフレンドリィショップが同じ建物にあるんだよ!おかしいだろ!卑怯だ!そのせいで店内には人が多い。

 

「ユーリよ……もう良い……辛いのであれば冠の雪原に帰ろう」

 

 レックスの優しさが辛い、怒られるよりダメージがある。

 

「いや、大丈夫だよレックス。次のお客さんが居なくなったら入るよ」

 

「ユーリ、そのセリフは3度目だ。1時間前にも聞いたぞ?」

 

 えっ…本当だ。作戦開始から既に3時間が経過している。おかしいぞ?“ときのほうこう“を悪用した副作用か?こんなに速く時間が経つなんて……時が加速している!?

 

「ユーリよ、日を改めればすんなり行くこともある。余もポケットマン2のステージ3をその方法で攻略した」

 

 よくある現象だけど、それは攻略法と呼べるのか?

 

「いや、行くよ。見ててレックス、僕の力を」

 

 意を決してポケモンセンターの入口に向かい、自動ドアのが反応しないギリギリで止まる。

 

 そして深呼吸、吸って………吐いて……吸って……吐いて……

 

「あのー、キミ。大丈夫?」

 

「はヒィッ!?」

 

 後ろを振り向くと、ギャルっぽい女の人が驚いていた。まずい、まずいぞおとなのおねえさんに声をかけられてしまった。

 どうする?何て返事すれば良い?今日は友達と来てるんで?ジャケットから覗く緑のセーターの膨らみがエッチですね?これで行くか?

 

「びっくりしたー、大きな声出すねキミ。体調が悪い訳じゃないの?入口で立ち止まってたから気になっちゃって」

 

「イヌヌワン」

 

「アッっ!?だっ大丈夫ですから!!」

 

 羞恥心に耐えきれず、急いでその場から逃げ出す。おねえさんの呼び止める声を振り切って。

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

「むう、ユーリよ。そんなに落ち込むでない。若い頃は誰しもそういう時期があるのだ」

 

「エレレーレ」 

 

「バシロッス」

 

「きゅぴー?」

 

「バクロッス」

 

 あーあー聞こえない、今は聞きたくない。

 

「可憐な乙女は、何時の時代も男子の心を惹き付ける。摂理なのだ、恥じることはない」

 

 あーあーあー死にたい、死にたい、貝になりたい 貝になりたい 私は貝になりたい

 ………はぁ、恥ずい。恥ずかしすぎる。

 

 女の人と会話するのって、こんなに難しかったっけ?似た感じのカミツレさんとは普通に喋れてたはずなのに。

 それにポケモンセンターの自動ドアって、あんなにプレッシャーを放っていたのか。そりゃ野生のポケモンは寄って来ないはずだ。

 

 人気の無い公園のベンチで、自己逃避しながらふて寝する。

 

 慰めてくれるレックス達には悪いが、もう立ち上がる元気すら湧かない。

 どうしようかなあ、もうあれかな……違法視聴。超能力を駆使すれば不可能ではない。

 それはいけないって気持ちと、もういいじゃんって気持ちが、ぐるぐると胸の中を走り回る。

 

 レックス達はそういう小さな違法行為なんてわからないだろう、僕が大丈夫と言えば、すんなりそれを信じてしまう。

 誰も怒らない、怒ってくれない。それなら力を少しだけ悪い事に使っても問題ないじゃないか。何を躊躇する必要がある。

 思い浮かぶのは父さんの顔。それも笑顔ではない、最後に見た悲しそうな表情。父さんの笑顔が思い出せない。

 

 僕は……

 

「おっ!いたいた!さがしたぞ!」

 

「えっ?」

 

 見知らぬ少年が笑顔が立っていた

 

 

 

「珍しいポケモンを連れて、ポケモンセンターをぐるぐる回ってたからすっごく目立ってたぞ」

 

「あっ、うん」

 

 そんなに目立ってたかなぁ?

 

「あれにはどういう意味があるんだ?ポケモンを強くするのに必要なのか?気になるぞ」

 

「あっ、あれは……」

 

「ユーリ!これは天啓だ!彼に事情を話し付き添ってもらうのだ」

 

 レックスがムイムイ鳴いて、僕にテレパシーを送る。

 

「ど、どうぐを」

 

「どうぐ?ポケモンに持たせる奴か?」

 

「ど、どうぐを売りたいけど、やり方がわから……なくて…」

 

 彼はきょとんとした後、白い歯が見えるぐらいニッコリと笑った。

 

「なーんだ、そうだったのか。じゃあ早速行くぞ」

 

 そう言って、彼は僕の手を握り歩き出す。突然の行動に僕は手を引かれるがままに歩き出す。

 意外にごつごつした感触に、何となく父さんの事を思い出した。

 

 

 

「凄いぞ、あんなにたくさんのきんのたまははじめて見た」

 

 彼に連れられて訪れたポケモンセンターのドアは、拍子抜けするほどあっさりと開き、ショップでの売却も彼の主導で呆気なく終了した。全部で10分もかからなかった。

 

「おじさんにもらったんだ、い、いろいろな町で」

 

「そうなのか?うらやましいぞ。この辺じゃおじさんはすっかり見なくなったからなーいい人なのに母さん達は近づいちゃだめって言うんだぞ」

 

 それは親御さんが正しい。

 

「あっ!!」

 

「はひっ!?」

 

「自己紹介を忘れてたぞ、俺の名前はホップ。隣町のハロンタウンに住んでいるんだ」

 

 あっ、そっか名前、名前は……

 

「ぼ、僕は、ユッ……」

 

「ユ?」

 

 駄目だ!ユーリと名乗ったら、僕の素性がばれる可能性がある。

 

 あの戦い後、僕の黒髪は何故か真っ白になり、瞳の色も左が赤、右が青に変化した。

 だから容姿と言う点では、今の僕はジョウト人っぽくないし。あのユーリだとは一目ではわからないだろう。

 だけど名前を明かせば、何かの拍子に怪しまれ。顔をよく見れば勘付くかもしれない。

 

 なんて名乗る?名前、名前? 父さんの息子だからハルカ?いや、マサトか?

 

「僕は…僕は、マサッ……」

 

「マサ?」

 

 父さんの息子?僕にその権利はあるのか?駄目だ!マサトは駄目だ!

 ならば、僕の名乗るべき名は……

 

「マサッ、マサラタウン!!」

 

「マサラタウン!?」

 

 そうだ!僕の名は!

 

「俺はマサラタウンのサトシ! こっちは相棒のレックス!」

 

「ムイ!?」

 

「おっ、おう、急に元気だぞ?」

 

 サトシ!お前の力を貸してくれ!

 

「さっきは助かったぜ!もう駄目かと思ったぜ!」

 

「そうなのか?役に立てたなら良かったぞ」

 

 いや本当に本当に助かった。

 

「ありがとうだぜ!ポケモンゲットだぜ!」

 

「マサラタウンってカントー地方の町だよな、レッドの出身地だから俺も知ってるぞ」

 

 うぐッ……あの人の事はあんまり思い出したくない。

 

「そうなんだぜ!でもオーキド博士も有名だぜ!」

 

 オーキド博士推しで話を逸らそう。

 

「やっぱりそうかー、同じ町出身なら会った事ある?どんな人か興味があるぞ」

 

 くそ、駄目か、仕方ない……

 

「あるぜなんだぜ!無口で何考えてるかサッパリ分からない人だぜ!」

 

 あの人はまじで何考えてるか読めなかった、僕のテレパスがあそこまで通用しないのは初めての経験だった。

 

「そうか、噂通りのクールな人だな、かっこいいぞ」

 

 ホップ君いい子だな……凄いポジティブな解釈だ

 

「なあ、やっぱりマサラタウン出身のトレーナーは強いやつばかりなのか?」

 

「えっ……どうかな……」

 

 レッドとグリーン以外に有名なトレーナーなんていたかなあ?オーキド博士も昔は強かったって話だけど。

 

「だってサトシ、俺と同じくらいなのに手持ちが5匹もいるトレーナー何だろ?タイプもバラバラっぽいし、凄いぞ!」

 

「あっ……それで……」

 

 自分はそんなに意識した事ないけど、トレーナーの手持数の平均は3匹らしい、6匹持ちのトレーナーは全体の4%ぐらいだとか聞いたことがある

 

「なあ!サトシはジムチャレンジのトレーナーなのか?他地方で推薦されるなんて珍しいぞ」

 

「あっ、ちがっ……」

 

「あれ?でもジムチャレンジに参加するにしては早すぎるな、今はマイナーリーグの時期だぞ?」

 

「サトシは何で、ガラルにやってきたんだ?」

 

 サトシ!技を借りるぜ!

 

「俺はポケモンマスターを目指してるんだぜ!ガラルにはバッジを集めに来たんだぜ!」

 

「ポケモンマスター?聞いたことがないぞ?どうすればなれるんだ?」

 

 あれ?言われてみればポケモンマスターって何だ?称号?概念?哲学?

 

「すべっ、全ての地方でチャンピオンに勝つんだぜ!そうすればポケモンマスターだぜ!」

 

 多分これだろう、それ以外に思いつかん。

 

「おお!凄いぞ!そんな称号があったのか」

 

 ごめん、多分ないです……

 

 

 

 

 

 それからもホップと色々な話をした、カントーのポケモンについて、ガラルのポケモンについて、ガラルのバッジはジムチャレンジャーしか貰えないこと、推薦状がなければジムチャレンジに参加できないこと。

 

 人とこんなに長い時間お喋りしたのは何時ぶりだろうか、話している内に僕もすっかり楽しくなって、辺りが暗くなるまで話し込んでしまった。

 

「あっ!もうこんな時間だ、家に帰らないと母さんに怒られる」

 

「あっ…そうだね」

 

 楽しい時間はあっという間だ。ホップには帰る家と叱ってくれる家族がいる、引き止めることはできない。

 

「なあサトシ、明日も会えるか?もっと聞きたいことがたくさんあるんだぞ」

 

 ホップが他愛なくかけてくれる言葉が、たまらなく嬉しい、嬉しいが……レックス達を見ると、優しい表情で頷いてくれる。

 ありがとう、みんな。

 

「だ、大丈夫。また明日会おう」

 

「そっか!良かったぞ!明日は隣の家の友達も連れてくるぞ」

 

 えっ!?それは大丈夫かな?

 

「そうだ!ガラルのポケモンを知りたいなら、明日研究所に遊びに行こう」

 

「けっ、研究所!?」

 

 まさか、それは?

 

「おう、マグノリア博士のポケモン研究所だぞ。俺の友達って言えばきっと歓迎してくれるぞ」

 

 ホップ、君はもしかして神なのか?

 

 

 

 

 

 ホップと別れ、僕はそのままの勢いでネットカフェに向かった。

 

 会員登録をサトシモードで何とか切り抜け、僕等は目的のポケファミリールームにたどり着いた。

 店員さんが若干引いてた気がする、ホップが優しいだけでサトシモードの乱用は危険かな?色々と戻れなくなりそう。

 

 レックス達は幸せそうにポケカノを視聴している、ふわふわちゃんは無料のソフトクリームにご満悦だ。

 

 今日は色々あったが、結果は大成功と言えるだろう。目的その1は達成され、その2も目処がついた。

 

 そして何より……ホップに出会えた。彼には感謝しかない。本当に助かった。

 明日、公園でまた会える。連れてくる友達は若干不安ではあるが、ホップの友達なら大丈夫だろう。まだ見ぬ彼等とも仲良くしたい。

 

 そうだ、研究所にお邪魔するなら倉庫で保管しているミアレガレットを持っていこう。“みがわり“を徹夜で並ばせて手に入れた超人気店の高級品だ。

 これなら高感度爆上げで、ダイマックスの全てを教えてくれるだろう。

 

 人間関係は第一印象で決まるって話だもんな、いやーコミュ強のホップのおかげで僕のコミュ力もダイマックスやな、ガハハ。

 

 ふと、横に目線を向けると備え付けの姿見がある。

 

 そこに映って居たのは、白いボサボサの髪を胸元まで伸ばして、うす汚れた外套を羽織った、オッドアイの不審人物だった。未開の部族かな?

 カンムリせつげんで暮らしている内に身だしなみの概念を失った僕の姿だった。

 

 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!

 

 服…服を買いに行かなきゃ、いやまずは散髪か?だめだ、時刻は既に23時30分、服屋も美容室も閉まっている。

 この格好じゃ、第一印象もクソもない。僕なら絶対近寄らない、ホップはよく僕に話しかけたなあ!?器がでか過ぎる。

 

 まずいぞ、こんな格好でホップの友達に会ったらその場では愛想笑いを浮かべられて、早めにお開きになり、後にホップにあいつには今後近づかない方が良いと吹き込まれる。俺なら多分そうする。

 

 あーあーあーどうするどうするどうするどうする?

 

 「ユーリよ、先程からどうした?また新しい問題か?」

 

 いつの間にかポケカノの視聴を終えたレックス達が、またか?って雰囲気で僕に話しかけてくる。

 

「レックス、緊急事態だ。僕の格好はファーストコンタクトに耐えうるものではないことに気付いた」

 

「なぬ?しかしホップはユーリに話しかけて来たぞ?問題ないのではないか?」

 

「ホップは少し特殊なんだよ、良い意味でね」

 

 本当にそう思う、コミュ力がチャンピオン級だ。

 

「ふむ、言われてみればお主の格好は都会らしさがない。田舎者臭いな」

 

 くそ……反論できん。アサギシティに顔向けできない。

 

「ユーリよ、お主の倉庫の中に着替はないのか?」

 

「いや、一度整理したときに、着替えの類はシャドーダイブバックの方に移しちゃったから……」

 

 いや、待てよ?1つだけあるぞ!?倉庫の中に隠しておいたものが!

 

「その顔は名案を思いついた顔だな?」

 

 僕は無言で頷き、倉庫の中からソレを取り出す。

 

「おお!見事な!?何処で奪ったものなのだ?」

 

「失礼だな、奪ってないよ、ちゃんと借りたものだよ」

 

 Nの城で正体を隠して格好良く登場したかったので、城に飾ってあったのを借りた。ちゃんとNに借りるよって言った、Nの城なんだから置いてあるものは全部Nの物だろう。

 

 ちなみに登場はトウヤには好評でトウコには不評だった、ジムリーダー達は反応が薄くてつまらなかった。

 1番リアクションしてくれてのはゲーチスだ、めっちゃキレてた。

 

 だがこの格好はガラル的にどうなんだ?カロス的にはセーフだろう四天王に似たような格好してる人がいるくらいだ。

 ファッションの本場のカロスで許されているのだ、他の地方でも通用するだろう。

 

 いやーでもブラッシータウンってほんのり田舎だからなあ。洗練され過ぎていて田舎の許容範囲をはみ出すかもしれない。オシャレ過ぎて通行人を驚かせてしまうかもしれない。

 

 その日僕は眠らなかった、レックス達はスヤスヤ寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!マサル!ユウリ!こっちだぞ!」

 

 ホップが私達に呼びかける。マサル兄さんが走り出したので、私も小走りでそれを追いかける。

 ホップはとてもせっかちだ、そして行動力があって誰とでも仲良くなれる。

 

 半年程前にハロンタウンに引越して来た私達。引越して来たその日の内に、ホップは私達と友達になりたいと訪ねてきた。

 

 兄と違い、内向的な私。明るく振る舞い色々な所に連れて行ってくれる彼は、騒がしいけど一緒にいると楽しい友達だ。

 引越し前に感じていた不安を、すっかり忘れてしまったのは間違い無く彼のおかげだ。

 

 昨日、そんなホップが私達を置いてブラッシータウンに行ったきり遅くまで帰ってこなかった。リーグカードパックを買ったらすぐに帰って来るって言ったのに。

 しかも帰って来たと思ったら新しい友達が出来たぞって言い出した。カントー地方から来たマサラタウンのサトシ君、面白くて凄いやつらしい。

 

 あんまり嬉しそうに話すから、私は会った事もないサトシ君に身勝手な嫉妬心を抱いた。

 それは間違い無く私の悪い所だ、そういう汚い私をホップには見せたくない。

 

 それに、ホップの話しではサトシ君はポケモンセンターでの道具の売り方が分からず、周囲をポケモンと一緒にぐるぐる回っていたらしい。

 

 兄さんとホップならそんな事はしないだろう。でも、私にはその気持ちがわかる。初めての店に入りにくい、人に尋ねるのが気恥ずかしい、そんな感覚。

 

 きっとサトシ君も内向的な性格なのだろう、ホップはそういう子を見つけたら放っておけない性分なのだ。

 私はホップのそういう所に近づきたい、彼と同じ事が出来るようになりたい。

 だから、サトシ君には優しく接しよう。身勝手な嫉妬心なんて消し去って。

 

 ブラッシータウンの公園、ホップとマサル兄さんに少し遅れて私はそこに到着した。

 

 そこにサトシ君はいた。

 

 鋼鉄の甲冑を見に纏い、真っ黒なオーラを放つ恐ろしい馬ポケモンに騎乗して。

 

 彼の表情はわからない、兜をつけているからだ。

 そして、横には白い馬に乗った頭の大きなポケモンが居て、どこか誇らしげにポーズをとっている。

 

 うん!今日家に帰ったら、ホップに伝えよう。

 

 サトシ君には今後近づかない方が良いって。

 

 


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