the ancestor   作:正直者ライアー

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覚醒

 地下深く、妖しい光を放つ岩石が疎に散らばる空間、その中央に不釣り合いな豪華絢爛かつ美麗荘厳な椅子と、そこに座すまるで神が作り上げた彫刻のような男性がいた。純白の肌に白金の美しい髪で、金の装飾があしらわれた白銀の鎧と緻密な刺繍が施された黒いサーコートを纏い、胸には大きなエメラルド。その男の座す椅子の前に突き刺さるのは希代の名工でさえ再現することは叶わない程の美しい長剣で、それはただの芸術品とも違えば単なる敵を戮するための道具にしてはあまりにも綺麗すぎて、人に作れる代物ではないことを物語っていた。そしてそんな怖さに似た美しさの前に一人の女性が立っていた。純白のワンピースを着て、燃えるような金髪を赤いリボンでまとめあげた彼女は座る男に近寄るとその頬に手を添えて愛おしそうに見つめた。

 

 「目を覚まして下さい。私の、たった一人の英雄」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓の鼓動を感じて仄かな温もりが俺を覆った。冷たくまるで凍ったような身体に血が廻り、身体を温め、解す。やがて鮮明になっていく五感が身体を包み込む柔らかい布の感触、美しい弦楽器の音色を告げ、ここに満ちる花の匂いに目蓋が次第に開いていった。

 急に差し込む光、開けた視界の先に広がるのは木の天井。俺は胴体を起こしてベッドから降りた。木の床は日の温もりを吸収していて裸足でも冷たくない。立ち上がるは久しぶりで平衡感覚が狂っていたがすぐに直った。俺は金属の丁寧な装飾が施されたノブを回して、弦楽器の音の方向へと向かって足を運ばせた。

 先程のベッドルームを出ると掃除が行き届いていて赤絨毯の敷かれた長い廊下に出た。沢山の扉が規則正しく並んでいて、弦楽器の音色はさらにその奥から聞こえる。しかしこれほど沢山部屋があると言うのに人の気配は感じられない。不思議に思うが警戒はしなかった。俺はこの光景を覚えてる。この光景をみて何故か安心出来る俺がいたからだ。廊下を進み、ほかの部屋より一回り大きい扉を開けると音色の響きが大きくなった。目の前には大きな二股階段がある。奏者は階段を降りた先にいるのだろう。この音でさえ聞き覚えがあり安心する。階段に足をかけ、踊り場まで降りて、また足を掛け、一階の床に足をついた。

 そこには美女がいた。まさに絶世の美女だ。その顔にしろ身体にしろ黄金比のみで出来ていた。

 

「、、、ミネルヴァ様」

 

 気づけばそう言っていた。そして自分がそう言ったことに気づいた瞬間、頭に電撃が通った。頭の中を駆け巡った電撃は失われていた記憶を呼び覚まして通って行った。

 彼女は俺の呼びかけに返事はしなかった。こちらをみて微笑みながらヴァイオリンを奏でる手を止めた。

 彼女は俺に近寄るとまずは抱き締めた。

 

「デイメス。起きたのですね。覚えていますか?」

 

「お久しぶりです。ミネルヴァ様」

 

「100年前、貴方が呪われ縛られ眠りについてから私達は次第に衰え、団員は段々と減っていきこの建物と眠る貴方だけが私に残って、、、。ずっと心待ちにしていました。貴方が目を覚ますのを」

 

彼女は抱き締めながら俺の髪を撫でて離した。そしてヴァイオリンをしまいながら話し始めた。

 

「武器や鎧を作る技術、受けた傷を治癒するポーションは100年間の間に大きく発達して、冒険者はより死ににくくなり、ダンジョンはより深くまで攻略され、冒険者のレベルは高くなりました。ただそれ故に彼等の大元の戦闘技術や単純なステイタスは昔より高くはありません。まぁ技術が発達すればそうなるのは当たり前でしょう。貴方に勝る剣技を持つ冒険者を私はまだ見ていない。まだ貴方は戦える。まだ過去の人ではありません」

 

彼女はただ立って話しを聞く俺に目を合わせた。

 

「貴方に問います。もう一度、私の剣となってくれますか?」

 

そういうと彼女は剣を目の前に差し出した。迷うこともなく跪いた俺は差し出された剣を受け取った。

 

「もう一度貴方の剣となれることを光栄に思います」

 

彼女は笑顔を浮かべた。俺は剣を鞘から抜いた。見事な白金色の刃、まるで芸術品だ。

 

「嬉しいわ。まずは貴方のステイタスを更新します。来てください」

 

 ミネルヴァの後ろについて歩き、彼女の寝室に入り、半裸になってベッドの上にうつ伏せになった。そしてうつ伏せの俺の上にミネルヴァ様が乗った。

 

「100年ぶりですね。この傷だらけの大きな背中も」

 

 ミネルヴァは愛おしげに背中を撫でた。そして細い金属の針で自分の指先を刺した。赤い血が滲んできて、それを傷だらけの背中に垂らした。一粒の血が重力に引かれて、背中に落ちた瞬間、黒く透明な鎖が彼の背中を覆っているのが見えた。これが呪いなのだろうか。しかし鎖には次第に亀裂が入っていき、数秒後に割れた。鎖から解かれた背中からは赤い光が飛び出して、ステイタスが露わになる。

 

「レベル3。当時とステイタスは同じですね。ステイタスが消えていることも想定していましたが残っていて良かったです。魔法もスキルも全て同じです。今写します」

 

俺は手渡された羊皮紙に目を通す。ただ眠っていただけだから当たり前だがステイタスの上昇は雀の涙ほどのもので新たな魔法やスキルはない。

 

「貴方の鎧は武器庫に置いてあります。武器庫の鍵は貴方に渡します。貴方しか使わないでしょうし。お腹は空いていませんか?」

 

 そう聞かれて口で答えるより先に腹が情けない音を立てた。

 

「ふふっ。用意してあります。食べましょう」

 

 大きな食堂には大きな食卓。しかし今は2人しかいないからスペースが余分になる。俺達は向かいあって目の前に出されたレアのステーキにナイフを通した。ワインベースのソースがほんのり甘くて美味しい。俺が好物だった料理だ。

 

「貴方の好物ですよね。美味しいですか?」

 

「ええ。とても美味しいです。しかし懐かしい」

 

「そうですね。食べ終わったらギルドに手続きにいきましょう。外に出ればきっとびっくりしますよ。街は大きく変わりましたから」

 

 

 

 

 

 食事を終えた俺達は玄関の扉を開いた。塀で囲われた大きな庭が広がり40メドル程先で門が開いている。俺は振り返って自分達のホームを見てみた。二人で過ごすには有り余る程大きく美しい。赤レンガと大理石

 

 ホームの門を出てしばらく歩くとメインストリートに出た。100年前とは何もかもが違う。まるでオラリオじゃない街を歩いているようだ。ただすれ違う人は変わらない。昔も今も沢山の種族が混ざり合っている様子は世界の中心らしい。

 街の様子を見ながら歩いていると目の前に白亜の塔がそびえ立っていた。ここだけは昔と変わらない。ギルドだ。

 

「懐かしい」

 

「入りましょうか」

 

 ギルドの中に入ると俺達はカウンターに行き、職員に話しかけた。

 

「冒険者手続きをしたいのだが」

 

「ミネルヴァ・ファミリアです」

 

そういうと職員は少々お待ち下さいと言った後に席を外した。そして数分後に別室に通された。ギルドの奥にある部屋まで通され、扉を開けると中にはエルフの男性がいた。

 

「初めまして。私はギルドリーダーのロイマン=マンディールと申します。どうぞお座り下さい」

 

「初めまして」

 

「あなたはミネルヴァ・ファミリアのデイメス=アイトリアですね?」

 

「ええ」

 

「100年の眠りから覚めたと」

 

「はい」

 

「分かりました。100年前とランクの変化は?」

 

「ありません」

 

「では100年前に登録した用紙がそのまま残ってますのでそれを使いましょう。100年の眠りから覚めたということはギルドの上層部と一部の神のみに知れわたることですのでそれを理解しておいていただきたい。その他は他の冒険者と同じです。では良い冒険者ライフを再び」

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