lineage もうひとつの物語   作:りねゆざ

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三十五話

自我を失ったアイスクイーンとケレニスの戦闘は周囲を巻き込みギラン部隊に甚大な被害をもたらせていた。

 

「あの姿のアイスクイーンは完全な魔族に戻った証拠。見境なく攻撃をするぞ。」

 

アイスクイーンをよく知るタラスは部隊にそう告げると負傷者の治療へ奔走した。

 

瓦礫が散乱し下敷きになった者や魔法に巻き込まれダメージを負った者達の呻き声が聞こえ救援活動をしている者にも無傷な者はいない。

塔の内部でこれだけの被害がでているのだから外側にいたゾンビ達にとってはたまったものではない。

ゾンビの氷像があちこちにあり魔法の余波で砕けていくのが見える。

ゾンビは四肢が砕け、業火に焼かれ良くも悪くも象牙の塔ではゾンビの脅威は消え去る結果となっていた。

 

ノイマンは最初の戦闘で吹き飛ばされ意識を失っていたが場所がよかったのか運良く重症を負うことなく負傷者の救援の指揮をとり混乱状態にあった部隊を立て直し、指揮官としての才能を発揮するのだった。

 

「全部隊員は負傷者を優先的に奥へ!」

 

負傷者が奥へ運ばれていく中ノイマンは壊れた門扉に身を隠すように外の様子を伺う。

 

戦闘が激しい。

門扉を閉ざさなければ。

 

半壊した巨大な門扉を見上げどうするか思案するのであった。

 

 

 

 

 

「ファイアーストーム」

 

ケレニスは周囲に炎の竜巻を作り出し接近してきたアイスクイーンから身を守ろうとする。

が、お構い無しに繰り出された氷の杖に腹部を突かれ胃液を吐き出す。

ケレニスの炎に突っ込んだアイスクイーンは何事も無かったように溶けかかった杖に魔力を送り修復すると次々と魔法を繰り出した。

アイスクイーンはその名の通り氷系の魔法を主に使い弱点属性の炎系は使わない。

戦場が空中であることから地系の魔法は意味がなく氷と風系しか使ってこないのがわかっている。

そのためケレニスは炎を中心に戦い防御としても炎を使っていた。

冷気を操る気体に効果がある魔法にはファイアーストームを、氷の塊をぶつけてダメージを与える魔法にはファイアーウォールをというふうに使い分けているのだ。

 

ファイアーウォールを展開したケレニスは攻撃に転ずるため魔法の詠唱に入る。

これまでタイムラグなく魔法を放っていたことから次の魔法は最上級のものとなるだろう。

魔力の高まりを感じ取ったアイスクイーンはさせるかとケレニスの背後に周りアイスランスを放とうと杖を構える。

 

「アイスラ・・・ちっ」

 

突如背後より業火がアイスクイーンを襲い魔法を中断し上空へ飛び上がる。

しかしそれは悪手となりケレニスの放った魔法が襲いかかる。

 

「メテオストライク」

 

上空へ飛び上がったアイスクイーンの頭上に巨大な火の玉、隕石が出現し重力と魔力により一気に落下し加速する。

伝説級の魔法に驚き避けようとケレニスとは反対側へ体を滑らす。

間一髪で間に合ったものの左半身が隕石に接触し融解してしまう。

瞬時に魔力を送り込み回復を図るがまたもや業火がアイスクイーンを襲う。

右半身でアイスランスを繰り出し業火を防いだ先に見たのはフェニックス。

 

「こんなものまで用意するとはね」

 

火山地帯とオーレンは隣り合っている。

象牙の塔はオーレンの中でも火山寄りにありケレニスはそれを待っていたのだろう。

一気に形勢逆転となりアイスクイーンは防戦一方の展開となったが余裕の笑みは消えることはなかった。

 

 

 

 

 

ゾンビを撃退し戦後処理に追われている各部隊は出現したフェニックスに慌て驚いている。

 

「メテオにフェニックスだと?バカげている!これではゾンビどころの騒ぎではない!」

 

マヌエラ部隊の報告を聞いたゲオルグは拳を震わせ上空を見る。

自分達ではどうしようもない事態に思える。

 

「殿下へ避難を奨めてくる」

 

イスマイルはゲオルグにそう伝えると広場へ向かって走った。

 

「殿下。いつアレがここを襲うのかわかりません。住民を別の街に避難させ殿下も撤退を!」

 

イスマイルがナターシャへ進言するが

 

「象牙の塔の人々を見捨てろというのですか?」

 

イスマイルがその言葉に反応しようとするとマヌエラも駆けつけ同じ事を口にする。

 

「殿下!ここは危険です、すぐに撤退を!」

 

「私はここに残り最後まで見届けます。イスマイルさん、各部隊で動ける人数は?」

 

有無を言わさぬ物言いで訊ねるナターシャにイスマイルは説得は無駄だと覚り状況の報告をしていく。

全体の約半数。

それが現在動かせる人数だ。

オーレン、ハイネの部隊は殲滅戦の参加となり殆ど残っていることからケント、シルバーナイトタウンの部隊は甚大な被害を受けているのが伺えた。

 

「イスマイルさん。最初の約束を覚えていますか?」

 

悪戯な笑みを浮かべたナターシャは突然切り出した。

 

「勿論です」

 

「では、あなたの部隊とマヌエラさんの部隊で象牙の塔へ向かいます。お二人には申し訳なく思いますが宜しくお願いします」

 

そして更に続ける

 

「ゲオルグさんの部隊は負傷者の治療を、ダンガスさんにはハイネに住民の受け入れ準備をお願いしてください。それが済み次第ゲオルグさん、ダンガスさんの部隊で負傷者と住民の移送をするようにしてください」

 

「そして全隊からエルフで志願者達を集めた部隊を作ってください」

 

イスマイルとマヌエラは言葉を交わすことなく各所へ散り命令を伝えていく。

一秒も無駄にできない緊急事態である。

リーダー達の手腕は確かなものですぐに準備を整えナターシャを筆頭に象牙の塔へ向け出発していった。

 

「ナイル、フェニックスに物理攻撃は効くと思いますか?」

 

隣を進むナイルにナターシャは尋ねる。

 

「火山にいるファイアーエッグと同じならば多少は効くでしょう。鳥の形を形成しているのは魔力。傷をつければ回復に魔力を消費します。魔力が無くなれば消滅すると考えます」

 

それを聞き頷くと今度はハスランへ問う。

 

「ハスラン、あなたはどの程度の距離なら弓矢で的に当てる自信がありますか?」

 

ふと考え込むハスラン。

 

「的の大きさによりますがゴブリン程度と仮定すれば250m程でしょうか。そのときの殺傷能力に疑問はありますが」

 

エルフだから成し得る距離。

瞬発力が発達した筋肉とエルブンビジョンと言われる眼をもって驚異的な命中率と距離を叩き出す。

エルフに弓矢を使う者が多いのはこのためである。

今回の対ゾンビ戦においてはエルフの弓による数減らしが戦局を左右したといっても過言ではないだろう。

 

「成る程。風精霊の力を借りれば400mといったところですか?」

 

「その通りです。私は残念ながら水精霊ですので他の契約者の協力が必要ですが」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

ナターシャは礼を述べると思考の渦に引き込まれていった。

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