不毀の魔剣士   作:近藤さん

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第二話 僑軍孤進

 ズ、と魔力を剣に纏い、凄まじい轟音を立てて屋根から跳躍する。多少凹んでしまったが、この際仕方ない。

 空を跳びながら、飛竜の頸を刈り取る。

 

「――二」

「ギギャア!?」

 

 モンスターは生命活動を停止すると、灰となって自然に消えていく。だが灰になる前に、肉塊を蹴り飛ばし、次へと標的を変えた。

 ――拡張斬撃――

 魔剣を持って身体を回転させて飛竜の群れへと突っ込む。灰色の暴嵐と化した少年は、竜の翼を、血を、肉を、頭を、ミキサーのように次々と斬り飛ばしていく。

 

「…………六。あと五」

 

 すたっ、と新緑色に塗られた草原に鮮やかに着地し、残党を確認する。先程まで怪物だった灰が、少年の頭上に雪のように降っている。しんしんと、なんて言葉が似合う程美しくもないが。

 

 飛竜が低空飛行で少年を狩ろうと迫ってきた。

 

「ゴアアアアァァァァアアッ!!」

 

 衝突する寸前、少年はその場で軽くジャンプし、空振りした飛竜の上で回転し、魔剣の刺突し、草原に竜の身体を縫った。

 

「七」

 

 魔剣が百舌の早贄のように飛竜に突き刺さっている。魔剣を抜く前に、少年の両隣から、鈍色の怪物が襲い掛かってきた。 

 

「まずそっちから」

「ガッ」

 

 右側の飛竜の、ゴツゴツとした顔面――というか口先だが――を握り、左側の飛竜へ向かって振り回した。

「――――ッ!!」と無言の悲鳴を叫び、しかししぶとく二頭共に生き残っていた。

 少年は追い打ちをかけるように一発、二発、三発と突技を繰り出し、止めに足刀蹴りを放って怪物を薙ぎ飛ばした。

 

「八、九」

 

 頑丈な鱗を砕き、ズダズダになった肉体は既に放置、絨毯にしていた飛竜から魔剣を抜き去り、それが合図だったように怪物の身体はさらさらと黒々とした灰になって消えた。

 ふと、違和感を覚え、辺りを見回す。

 

「……!」

 

 ――残り二体は何処に……?

 剣を鞘に収め、左腰に構える。

 少年が足元に視線を向け、同時、野生の勘と呼ばれるものか、すぐさま中空へと跳躍した。

 

「ゴアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 土と草原を突き破り、他よりも一回り程もある巨大な飛竜が大口を開けてこちらに飛び出してきた。

 更に、視覚にこそ入ってないが、気配で上空からもう一体の別の飛竜が挟み撃ちにするように突っ込んでくるのがわかった。

 ――こいつら、知能が高い個体か……。

 モンスターはダンジョンから産まれ出る。基本的にモンスターの強さは産まれた時から変わるものではない。個体差も例外も無論あるが。

 飛竜はモンスター全体からすると一体の強さは精々三級程度。群れで行動する事が多いので、尚の事強さは大きく変動しない。

 偶然だろうか――いや今は考えるべき事ではない。

 今はこいつらを殲滅するのが最優先だ。

 

「――ふっ……!」

 

 ぐるんっと空中で身を捻り、大顎を開いて暴食の一撃を避ける。

 魔剣を閃かせ、まず上空の飛竜を始末する。

 

「グオオァァ!!」

「なっっ――」

 

 しかし、振るった灰色の凶刃は、大きく開いた口の獰猛な歯に挟まれて静止した。こんな釣果は望んじゃいない。

 もう一体、先程空振った飛竜が旋回し、もう一度少年に喰らいつこうと突撃した。

 ちっと内心舌打ちしつつ、左手を剣から離し、魔力の質を最大限まで濃くし、魔力を込めた掌底を叩き込んだ。

 

「――はっ!!」

「ごぁッ……」

 

 発勁の要領で突き出された掌底に、飛竜の身体が激しく震える。魔力が内蔵を千切る勢いで貫き、岩の硬皮を突き破った。

 魔力武術《マジックマーシャルアーツ》――《破極》だ。

 

 餌を掴んだ鰐のように、魔剣を噛んで離さない飛竜。

 ふっと魔剣を雲散霞消させる。突然釣り針が消えて驚く竜の顔に、両手の指を交互に組んで鉄槌を振り下ろす。直撃。流石に少々痛い。

 バギッ、と嫌な音を立て、空を駆ける竜は地へと叩き落されていく。そこで、灰色の魔剣を再び顕現させる。

 急降下、未だ混乱から覚醒していない竜の頸を、容赦なく斬り飛ばした。

 

「――十一。終わりか」

 

 飛竜の群れを掃討した少年は、首を軽く傾けて音を鳴らした。

 戦闘終了。

 モンスターたちは剣の錆、というか灰になって新緑と蒼穹へと溶け出している。もしかしたら討ち漏らした敵が何匹かいるかもしれないが、機関車の方へ行ったのならば、護衛の魔術師が何とか出来る。

 

 ふと、機関車が走っていった先を見る。

 

「…………」

 

 当たり前だが、もう既に視界の中に煙を吐く黒色の無機物など存在しなかった。

 戦闘時間は五分も経ってない筈だが、モンスターが来たから超特急で進んだのだろう。日の光を浴びて鈍く光る路線が少年の側で寂しく佇んでいる。

 

「…………歩いて、何分かかるかなぁ」

 

 誰もいない草原にてそう独り言ち、とぼとぼバジノヴァー区へ歩き始めた。

 あと、三十分は歩く必要がありそうだ。

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