不毀の魔剣士   作:近藤さん

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第三話 冒険者登録

「……着いた……」

 

 歩いて約三十分。少年は目的地であるギルドの前まで来ていた。

 冒険者試験《テスト》で合格した者は晴れてアレグリア大国の冒険者となる。認識票《タグ》を貰い、アレグリア各地に設立されてあるギルド支部へ向かい、確認が取れたら、そこで活動を開始する。

 

 通常、冒険者試験(テスト)は一年に一回。アレグリアで幾つかの地区で同時に行われる。毎年千人前後の受験者がおり、その内死亡するのは二割だ。

 そして、冒険者となり、一ヶ月以内にダンジョン、或いは任務で殉死するのは五割。これでも随分死者は少なくなったものだ。その為、冒険者は十代から三十代の者が最も多く、その中から『()()()()()()()()()()()()のだ。

 何処のギルドで活動を行うのは基本的には本人の自由だ。支部も沢山ある訳ではない。数十人と纏まるのが普通だ。

 

 ――しかし、今回、バジノヴァー・ギルドで冒険者登録を行うのは、グレイロード・ラメンテ、ただ一人であった。

 

 

 ギルドの中は昼間という事もあって、武装した冒険者やギルド職員が十数人いた。屈強な男から若そうに見えるエルフまで、人の森となっている。

 玄関で立ち尽くす少年はその光景を見て、少し悲しそうな表情になって、一度足を止めた。

 暫く立ち尽くしていると、ギルドの受付嬢らしき女性が話しかけてきた。

 

「あ、もしかして今年の試験《テスト》の合格者の方ですか?」

「! はい。グレイロード・ラメンテです」

「ラメンテさん、ですね。ではこちらへ」

 

 制服を着こなし、ふわりと華やかに愛想の良い笑顔が咲かせる受付嬢。

 肩まで伸ばした淡黄《クリーム》色の髪に、厚かましさを感じない程度の化粧、女性らしく小柄な身体。何だか、こう、とても『女性らしい』女性だ。

 ギルド職員である事を示す紋章《ワッペン》を見せ、思い出したように受付嬢は言った。

 

「申し遅れました。私はヴェロニーカ・チェルノヴァというものです。冒険者担当の受付嬢をさせてもらっています。此度の試験、合格おめでとうございます」

「ありがとうございます。ヴェロニーカさん」

 

 軽く挨拶を交わし、受付の裏側へと回ったヴェロニーカと冒険者登録を開始する。

 

「では、まず認識票《タグ》をお見せ下さい」

「はい」

 

 マフラーをどかしながら、首元にかけた銀色のネックレスのようなそれを差し出した。

 ヴェロニーカが認識票を受け取り、レンズを通して見つめたり、軽い力で弾いたりして偽造品であるどうか確かめる。希に偽証して冒険者になろうとする輩がいるらしい。

 まぁ、認識票に使われている素材はダンジョンでしか採取出来ない金属で、その上魔術師が魔術加工を加えているので、これを偽造出来る奴はもう普通に冒険者になった方がいいのだが。

 

 数十秒程で確認は終わった。すると、ヴェロニーカは認識票を持ったまま席を立ち、近くの棚から資料を取り出した。本部から送られる試験合格者が記された名簿だろう。少年の名前が存在しているか、確かめているらしい。

 暫くして、問題はなかったのか、認識票を返却される。

 

「はい、間違いありませんね。ありがとうございました。では、ここにお名前と職能《クラス》、年齢等をお書きください。尚、当たり前ですが、等級は最下位の第四級からですので、あしからず」

「はい」

 

 差し出された羊皮紙と羽ペンを受け取り、言われた通りに書き込んでいく。『グレイロード・ラメンテ』、『魔剣士』、『十五歳』……。

 すらすらと特に悩む事もなく書いていく。

 少年はふと、自分に視線が集まっている事がわかった。職員、冒険者問わずに先程のようにこちらをちらちらと窺っては、ひそひそと内緒話だ。

 

 ――そのことに何の感慨もなくなってしまった僕は、矢張り『死神』なのだろうか。

 

 だが責める気もない。そんなことをすれば噂を助長させてしまうのは自明の理だ。人は『不確かなもの』を恐れる。それは当たり前の事で、事実少年は噂を完全否定する事が出来ない。

 

「――これでいいですか?」

「――――…………。はい、記入漏れはないですね」

 

 少年の噂など聞いたこともないとばかりに、ヴェロニーカの少年に対する態度は一貫している。

 

「それでは改めまして、グレイロード・ラメンテさん、冒険者試験(テスト)合格おめでとうございます。職員一同、活躍をご期待しています」

「あ、え、えと、あ、ありがとうございます」

 

 立ち上がって佇まいを直したヴェロニーカが礼儀正しく頭を下げる。

 少年が戸惑ったの理由は二つ。一つ目は、年上の女性にここまで仰々しい姿勢を取られたことがなかった事。

 

「ちっ……」

「何で『死神』がうちに来たんだよ……。勘弁してくれ」

「おい、もう行こうぜ。関わるだけ無駄だ。近くにいるだけで呪われそうだ」

「あんなのが通っちゃうなんて、冒険者試験(テスト)も緩くなったものね……」

「いや、他の受験者を罠に嵌めたに違いないわ。それぐらい平然とやるに決まってる。また同じような事するわよ」

 

 二つ目は、周りのギルド職員と冒険者たちが全く歓迎ムードではない事だ。最終確認が終わったとわかると、明確な拒絶の雰囲気を張ってきた。殺意……というか嫉妬じみたものを感じるのは何故だろうか。

 

 ――は、速く外に出よう……。

 

 何だかとてもいたたまれなくなり、不機嫌そうに眉を寄せる受付嬢に礼を言い、さっさとその場を去ろうとすると――。

 

「あ、いたいた!」

 

 唐突に、頭上から、陰鬱とした暗がりを吹き飛ばすような溌剌とした声が聞こえた。

 驚いてそちらへ顔を向けると、二階の縁から危なくも身体を乗り出してこちらに視線を向ける白い髪の女性がいた。

 

「え……。僕、ですか?」

「うん、貴方! 灰色の髪に、翡翠(エメラルド)の瞳! 間違いないわね!」

「まず名前を確認するべきでは……? 僕はグレイロード・ラメンテですが」

「グレイロード、ええ、ヒエンさんから聞いてた情報と一緒ね!」

 

 ヒエン、とその名を女性が口にした途端、ざわっとその場にいた少年と女性以外の全員がざわめきだした。

 少年もまた、驚愕こそしなかったが、この女性は一体何なのだろう、と疑問は一層深まった。

 

「あの、貴女は……? というか、そろそろ降りてきてくれません?」

「あら、ごめんなさい。私ったら挨拶もしてなかった!」

 

 そう言うや否や、白い髪の女性はふわっと体重を感じさせない動きで二階の廊下から飛び出し、すたんっと少年の前で鮮やかに直地した。

 

「私はアザレア・ギルニュート。よろしくお願いするわね! グレイ!」

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