不毀の魔剣士   作:近藤さん

7 / 9
第六話 慮外千万

 ラップサンドを完食し、良くも悪くも人目を惹くアザレアから街案内を受けている。彼女は常に会話していないと呼吸が出来ないらしい。

 

「あれはこの街の象徴でもある時計塔。確か三百年ぐらいの歴史があるオンボロ時計よ。十二時になったゴンゴン喧しく鳴るわ!」

「街の象徴にオンボロとか喧しいとか言わないでください」

「バジノヴァーには大きく分けて年に三回お祭りがあるわ! 豊穣祭と恋歌祭、あと聖夜祭! 恋人がいない人には堪らないわね!」

「悪い意味ですけどね」

「あそこのチョココロネは絶品よ! この街の数少ない特色の一つなんだから! ただ店主のセクハラ発言には気を付けなさい。男女問わない変態よ」

「パン……」 

 

 余計な言葉を付け足しながらも、真面目に案内をするアザレア。何だかんだ言いつつも、この街の事は好きらしい。

 

 その時だ。アザレアが「あっ!」とはぐれた親を見つけた子供のように声を上げたのは。

 アザレアが指差した先、どうやら鍛冶師の館らしい。そこに、一人の冒険者が老人に何やら注文していた。

 

 その冒険者は、全身を光を反射しない白い甲冑で包んでおり、如何にも冒険者風の風貌をしていた。ただ、重戦士(タンク)のようなゴツゴツとした見た目ではなく、すらりとした体型(スタイル)に沿った鎧だ。顔も兜で隠しており、辛うじて口が見える程度だった。

 老人と話し終えると、男がこちらに気付いた。

 

「アザレア」男が話しかける。

「ギア!」

「……そっちが、件の少年か……」

 

 この人がギア――。成程、一目で一級冒険者だとわかった。となると、この男もグレイの事は知っているのだろう。

 

「ハイギア・テミスと名乗っている。ギアと呼ばれているが、好きに呼べ」

「ではギアさんと――」

「固いわグレイ! ギアは十八歳なんだから、呼び捨てしちゃいなさい」

「え、十八?」

「ああ。何か不自然か」

「いや、そうではなく……。あ、そう言えば、アザレアさんっておいくつですか?」

「私? 二十一」

「…………」

 

 若い。いや分かってはいたが。

 ギアは何と呼ばれようが気に留めない性格のようだ。冷静沈着、アザレアとは対照的な程落ち着いていて、口数も少ない。

 

「じゃあ、ギアで……」

「ああ」

 

 関心の薄そうにギアは言った。何で顔を隠してるんだろう、とか、その全身甲冑(フルアーマー)は何のために? とか、色々聞きたい事はあったが、ここは一先ず無視した。

 

「ギアは何をしてたの? 鎧の新調?」

「少し違う。予備の準備だ。この鎧は、魔術加工が施されているから、上級悪魔やモンスターでもそう簡単には壊されないが……、悪魔王公には、そんな常識も通じん。戦が連続して続くかもしれん、素材と資金に余裕がある分は、なるべくストックを多く頼んでいる」

「へぇ……。ちょっと触ってもいい?」

 

 グレイは魔剣士で冒険者だったが、それ以前に一介の十五歳の少年だった。当然、未知のものには子供らしい無邪気な知的好奇心もある。魔術加工が全身に施されている鎧など、初めて見た。

 ギアは――恐らく――無表情で「構わない」と了承した。

 

「じゃあ、ちょっと……――――ッ!?」

 

 腕に装着されている篭手に、グレイの手が触れた途端――バチィッ! と。

 静電気というには穏やか過ぎる電撃が右手を弾いた。正確には、鎧に触れる寸前で、グレイがその謎のバチバチに気付き、手を引いて、バチバチが磁石のようにグレイの手を攻撃した、だが。

 

「…………?」

「グレイ!」

 

 グレイはアザレアの声も意に介さず、若干黒く焦げた右手を見つめる。こんな事は初めてだ。

 先程まで無感動だったギアも、多少驚いているようだ。「無事か」と声をかけてくる。大丈夫と返した。グレイの中では痛みよりも理由が最優先だった。

 ――何だこれ? 初めての感覚だ。

 

「グレイ、大丈夫? 今治療魔術を掛けてあげるわ」

「ありがとうございます」

 

 アザレアが自分の片手を負傷した右手にかざすと、そこから光粒が溢れ、瞬く間に傷が癒えていった。魔術にも精通しているらしい。

 

「後で治療院に行きましょう。あそこの治療術師なら何か知ってるかもしれないわ」

「――すまない。俺の不注意だった」

「いやギアが謝る事じゃないよ。寧ろ僕が不用意に触りたいとか言ったから……。でも、何だろうこれ」

 

 今は怪我の片鱗も見せない右手を太陽にかざしたり、ひらひら振ってみるが、当たり前のように何も起きない。

 

「今思ったんだけど、治療術師に見せるなら傷は治さない方が良かったんじゃない?」今更気付いたグレイ。

「あっ!」今更気付いたアザレア。

「…………だが、放置して良い事もないだろう。悪いが、俺にはわからない」

 

 ギアにもさっぱりなようだ。魔術加工にも色々な種類があるが、大抵は魔術や物理的な耐久度を強化するか、ぐらいしか知らない。特殊な術式が封じられている場合もあるが、そんな遺物レベルのものは量産出来ない筈だ。

 

「ん~、考えてもわからないものは考えてもわからないわ! この事は一旦忘れましょう! 考えるのはまた今度ねっ!」

 

 わからないものはわからない、とあっさり割り切ったアザレア。大雑把な言い方だが、確かに一つの真理ではある。

 それもそうだ、とグレイとギアも納得し、この件は一度頭の隅っこに押しやる事にした。

 

「ねえ、ギアも今から一緒に――」

 

 その時だった。

 ゴッ!! と轟音が大気を震わせたのは。

 

「「「!!」」」

 

 冒険者三人、刹那の内に異変を察知、周囲に警戒を張り巡らせる。

 すると、幾つかの黒煙がモクモクと上空へと舞い上がっているのが見えた。火事? いや、違う。この気配は――

 

「モンスターだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「!」

 

 住民の声が、冒険者たちにモンスターの襲撃を知らせる。可笑しい。街にはギルド総帥の施した結界術が存在する。抑々護衛の冒険者もいるのだ。その全てを突破したとなると、これは大変な異常事態。

 ――或いは、手引きした者がいるか。

 

「モンスター……!? 何で総帥(アリス)様の結界を越えられたの……!?」

「今は考えるべきじゃない。俺達に求められるのは出現したモンスターの一掃だ」

「――そうね。ああ、もうっ、後で考える事が沢山だわ!」

 

 アザレアは動揺しつつもすぐに落ち着きを取り戻し、ギアは沈着冷静に事態を受け止めて平静を保った対応だ。

 ――これが一級冒険者か。

 心を取り乱すことなく、何時でも自分に求められた事を完璧に成し遂げる。グレイの負傷など、街にモンスターが出現したイレギュラーに比べれば大した事はない。彼等が冷静だからか、グレイも落ち着けた。

 

「皆さん落ち着いてください! 我々冒険者に従って避難を!」

「怪我人や病人はいらっしゃいますか!? 声を上げて下さい!! 直ぐに向かいます!!」

「おい、モンスターは南西と北西、南東と東に出現した模様! 一人でも死なせたら我々の敗北だと思え!! 行くぞ!!」

「「「はっ!!」」」

 

 グレイの近くでも冒険者たちが装備を整え、統率されて即座に怪物の排除へと向かった。迅速な対応だ、一級でなくても、誰もが市民の為に戦わんと奮い立っている。

 グレイは、魔剣を呼び出し、柄を握った。

 

「僕たちも行こう」

「ああ。グレイ、お前は一番近くの敵から屠れ。此処から遠い所には俺とアザレアが行こう」

「了解。ギア、アザレアさん、頑張って!」

「ああ」

「ええっ! 行っくわよ――っ!!」

 

 アザレアが叫び、二人の一級冒険者がぐっと身を沈め――次の瞬間、ドッ!! と。

 

「わっ!」

 

 ギアとアザレアが雄風となり、別々の方向へと跳び出していった。地面が多少抉れてしまう程の跳躍。竜巻じみた風と、それに飛ばされた小石がグレイにぶつかる。

 

「す、すごい……」

 

 既に視界に白と青の魔剣士は存在しなかった。きっとモンスターを討伐しながら疾風を纏っているのだろう。というか、アザレアは軽装だったが、ギアはあの装備でどうやってあんな跳躍を可能としたのだろうか……。

 

「――僕も……冒険者だ。行こう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。