綺麗な目とは一体どんなものを指すのだろうか。

蒼い瞳

光沢が溢れる瞳

真っ直ぐに見据える自信に満ちた瞳

もちろん、人にもよるだろう。私の答えはこれだ。

内面すべてを包み隠す淀んだ瞳

彼女はまさに、それを体現しえるとても綺麗な目を持っている。私はちょうど今帰り支度を済ました神田しのを目で追いながら自らの問いに結論付ける。


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フォロワーさんとテーマ出し合ってそれを元に書こうっていう企画のやつです。
今回のテーマは「失恋×依存」で書いてみました。

自分で思ってたより重い内容に仕上がってしまって笑ってしまいましたが、楽しんで頂けると幸いです。

稚拙な文もお見受けするとは思いますが、良い感じにスルーして頂けると嬉しいです(笑)


月は嫌いですね

綺麗な目とは一体どんなものを指すのだろうか。

 

蒼い瞳

 

光沢が溢れる瞳

 

真っ直ぐに見据える自信に満ちた瞳

 

もちろん、人にもよるだろう。私の答えはこれだ。

 

内面すべてを包み隠す淀んだ瞳

 

彼女はまさに、それを体現しえるとても綺麗な目を持っている。私はちょうど今帰り支度を済ました神田しのを目で追いながら自らの問いに結論付ける。

 

私もそろそろ帰らなければ。雑多に散らばった教科書類をかばんに詰め込みながら教室から出ていく神田さんから惜し気に目を離した。

 

 

 

アスファルトがオレンジに染まるころ、私は人の流れとは逆向きに校門を潜り抜けた。

 

机の中に明日までの課題を忘れていたことに気付いたのだ。明日の朝に回す案も思い付きはしたが、朝の時間で済ませられる分量ではないため重い腰を上げ現在に至る。

 

普段見ている風景とは全く違った閑散とした学校は、ある種不気味さを覚える。さっさと取って帰ろう。そんな思いは教室の扉を開いた瞬間消え去った。

 

下校時刻間近、直近でとくにイベントもない中この時間帯まで学校に残っているのは委員か部活と相場が決まっている。教室に誰かがいるということはほとんどない。当然私もそう思っていた。その予想とは裏腹に窓際の席にたたずんでいたのは神田さんだった。

 

「神田さん….」

 

思わず呟いた声に内心焦りながらも返事がないことに安堵する。彼女も何かしらの目的をもってここにいるのだろう。私も課題を取るという目的のもと、ここに足を運んだ。交わる理由もない。

 

机の中から課題を取り出し、足早にこの場を去ろうと教室の扉へ向かう。いや、正確には向かっていた。気付くと私は見とれていたのだ。

 

橙色に淡く染まる教室にたたずむ制服に身を包んだ小さく華奢な神田さん。小動物的な所感とは裏腹に淀みきった目は虚空を見据えている。

 

微動だにしない体躯とほほに流れる一筋の雫は絵画を彷彿とさせた。ん?雫?

 

「か、神田さん、どうしたの!?!?」

 

言った直後に後悔した。私が介入していい問題なのだろうか。まあ、言ってしまったものはしょうがない。

 

「なんでもない」

 

待つまでもなく神田さんは淡々と返す。やはり泣いていたのか鼻声が混じっている。

 

踏み込むか迷ったがこんな状態の神田さんをほっとけない。私は失礼を承知で語り掛ける。

 

「何かあったの?私で良かったらお話聞かせてくれないかな。話すだけでも楽になるって聞いたことあるし」

 

「織部さんには関係ない」

 

「でも、泣いてる神田さんをこのままほおっておけないよ。」

 

「…….」

 

クラスメイトではあるものの、名前を覚えててくれたことに内心喜びながら、神田さんの次の言葉を待つ。

 

私がこんなに肩入れしてるのは単にクラスメイトが泣いてるからという理由だけではない。

 

神田さんが持つ目。そう、その淀んだ瞳が覆い隠している闇を垣間見えることに期待しているのだ。我ながら醜い興味をこさえて関わっているなと感じる。その瞳に魅入ってしまった。私の中ではそれだけで理由を説明できてしまっていた。

 

「私はもう人と関わりたくない」

 

「でも、私は神田さんと関わりたいな」

 

「そういってくる人はいたよ。でも、しばらくすると離れてく。あなただってそう」

 

「そんなことないよ。私はずっと隣にいるから」

 

「ッ!!」

「どうせあんたも私を捨てる!私があの人の足を引っ張り続けたからあの人は離れていっちゃったんだ!!私が!!私が…..」

 

言葉の勢いが尻すぼみになっていき、淀んだ目からは悲しみが溢れ出していた。

 

私はいつの間にか彼女を抱きしめていた。大丈夫だから、そう囁くように。

 

 

落ち着いた神田さんはぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。

 

話を聞くと、彼女は元々依存体質で一人にすべてを捧ぐタイプのようだった。

 

煙たがられ離れられる。そして、また依存しては煙たがられ離れられる。

 

そんな彼女の心はボロボロだった。そして、そのトラウマを決定付けたのが初めての恋人だった。

 

「最初は、君に頼られて嬉しい。そう言っていたの。でも、どんどん対応が冷たくなって不安になって、今度はどうしても離れてほしくなくて。結局捨てられちゃった。」

 

消え入りそうな声音で言葉を紡ぐ彼女の瞳はさらにどす黒く淀んでいく。そんな彼女を見て綺麗と思ってしまった私はきっと濁っているのだろう。

 

一通り話し終えた彼女は陰りを見せ始める外の景色を眺める。自ずと訪れた沈黙も不思議と心地よかった。

 

沈黙を破ったのは神田さんだった。

 

「これでわかった?私はもう誰とも関わりたくないの。傷つきたくないの」

 

冷たく言い放った言葉が私の中を通り抜ける。

 

私は努めて優しく、そして強引に言葉を返す。

 

「本当にそうなのかな?神田さんは本当に誰とも関わりたくないの?」

 

「は?私は最初からずっと..」

 

「だったらこんな話私にしないよね。」

 

「っ…..」

 

「本当は今でもずっと誰かに縋りたいんじゃない?辛いんじゃない?だから、こんな時間に教室で一人泣いていた。」

 

「そ、、そんなこと、、」

 

「いいよ。」

 

「え?」

 

「私に思いっ切り縋って思いっ切り依存していいよ。」

 

「で、でも、、」

 

「それとも、私じゃ頼りないかな…?」

 

「……」

 

 

 

時計は6時を回り、オレンジに染まっていたアスファルトは夜の闇に紛れる。すでに部活生が帰路につき閑散とし始める下校時刻ギリギリに校門を出た。

 

冬の足音が聞こえてきそうな気温に身震いしながら彼女を気に掛ける。神田さんは寒そうに手をすり合わせていた。

 

「大丈夫だからね」

 

私は冷え切っていた手を包み込む。少しずつ体温が移り二人の境界が消えていく錯覚を起こしてしまう。しかしその錯覚はすぐに消える。

 

「わ、私はこれで」

 

神田さんはそう言い残すと足早に帰路についた。空を見上げると綺麗な月が顔を覗かしていた。そんな月に顔を背け私も一人帰路につく。

 

 

 

 

次の日、学校につくと神田さんから私の机に近づいてきた。

 

「昨日の話誰にも言っちゃダメだから。あと、その….」

 

「ん?」

 

「昨日言ってくれたこと、絶対忘れないでね」

 

ここで会話は一方的に打ち切られ、神田さんは席に戻る。

 

 

 

その日から少しずつ会話の機会が増えていった。放課後や休み時間、休日と会う時間も増えていった。そのころからだったと思う。少しずつ闇が見え隠れし始めたのは。

 

 

 

始めは遠慮がちに誘っていた一緒の下校も最近は誘われるようになった。

 

そんな帰り道、今日の出来事について話すのだが、すべて知られていた。全部見ていたのだという。

 

なるほど、こういう所だったりするのか。相槌を忘れ考えていると神田さんがハッとした表情で顔を覗き込む

 

「ご、ごめんね。やっぱり嫌だよね」

 

「ううん。逆に考えれば神田さんが私を見てくれてるってことだからね。嬉しいよ」

 

若干背筋をこわばらせる。私に依存していいと言った以上受け入れるほかない。しかし、これは単なる序章にすぎなかったのだ。

 

 

 

高校生にもなるとそれなりに仲のいい友達とは連絡を交換すると思う。私と神田さんも例外なく交換するに至った。

 

QRコード読み取らせ私の連絡先を送る。もう慣れたものだ。

 

興味本位で相手のホームを覗き込むと。ちょうど今登録された私の名前しか存在しない。

 

「あれ?他の人は?」

 

「私は織部さんがいればそれでいいから」

 

「え、でも、家族とか。。」

 

「連絡とらないから困らない」

 

「そっか。」

 

 

 

それからというもの、リアルで会わない時は連絡が来る。初めは1日に一回30分程度やりとりする程度だった。

 

しかし、神田さんからの連絡の頻度が増え、安否を確認する内容の連絡が増えた。

 

最終的には寝ているとき以外ひっきりなしに連絡が来る。

 

神田さんからの安否確認、悲観的な考察、捨てられたトラウマから来る謝罪でどんどん増えていく通知音の中、私は今日も眠りにつく。

 

 

 

 

 

「ゆかりちゃん、早く早く!!」

 

「ちょっとしの、早い。。。」

 

いつの間にか、下の名前で呼び合う仲になった私たちは近くのデパートへ買い物に来ている。今日は文房具を見て回る予定だ。

 

「別に文房具は逃げないよ」

 

「逃げなくても早く行きたいの!」

 

なぜか、気を急いているしのを横目に、通り過ぎるショーウィンドウを何の気なしに眺める。

 

これあったかそう~なんてことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。

 

「あれ?ゆかりじゃない?ゆかり~~!!!」

 

「さおり!?久しぶり!!元気してた??」

 

「こっちは元気元気。いや~、ほんと卒業式以来な感じするね。そっちも元気そうで何より」

 

久しぶりに中学時代の友達にばったり出会うとやはり嬉しい。いつまでも話してたい気もするが、今日はしのとお出かけだ。ここらでお開きにしよう

 

「じゃあ、買い物あるからもう行くね。またどこかでね!!」

 

「おいっす~」

 

中学の時と変わらない挨拶を交わすさおりに懐かしさを覚える。

 

「あれ?お連れさんなんだか気分悪そうじゃない?」

 

半ば疑問を抱えながらさおりが指し示す先にはうつむきがちなしのの姿があった。

 

「そ、そうかも。どこかで休ませなきゃだしこの辺でね。」

 

さおりに後ろ手で合図して送り出し、近くのベンチにしのを座らせる。

 

「しの、どうしたの?」

 

「……誰」

 

「え?」

 

「あの人は誰?」

 

「あぁ。さおりのこと?さおりは中学の頃に仲良くて」

 

「嫌だ…捨てられたくない….嫌だ….」

 

「しの?」

 

「嫌だ….嫌だ….ゆかりちゃんはあの人を選ぶんだ…私を捨てるんだ….」

 

「しの?大丈夫だよ。ちゃんと隣にいるから。大丈夫だから。」

 

「うん…ごめん….私…また….ごめん….」

 

涙をボロボロ零しながら私に抱きしめられるしのは物凄く愛おしかった。すでにしのは私がいないと保てないくらいには依存しきっていた。

 

「今日はお家でゆっくりしようか?」

 

「うん。(やっぱり、外は危険すぎる閉じk)」

 

なんか、ぶつぶつ言ってるようだけど、気にせず帰路へ着いた。

 

 

 

目が覚めるとそこは遊びに行った記憶のあるしのの部屋だった。以前と違うことは、両手を縄で拘束されていることだ。

 

「あれ?私なにしてたんだっけ?」

 

寝起きでぼやける視界の中周りを見回しているとドアが開いた。

 

「あ、ゆかりちゃん起きてたんだ。おはよう」

 

「うん。おはよう。挨拶ついでに聞いていいかな?この状況は?」

 

「あーえっとね、あの時言ったこと覚えてるかな?」

 

「約束?」

 

「そう。私とゆかりちゃんが初めて話したあの日の事」

 

私はかすみがかる思考の中思い出す。

 

________________________________

 

「それとも、私じゃ頼りないかな….?」

 

「….」

 

「今の私の状態で誰かに縋ると、周りが見えなくなっちゃう気がするんだ。これまで以上に深く依存してしまうことが怖い」

 

「私はちゃんと受け止められるよ」

 

「自分でも何をするかわかんないよ?」

 

「何度でも言うよ。神田さんの為なら私は受け止められるよ」

 

「織部さんはなんでそこまで…..」

 

「おっと、もう下校時刻だね。帰ろっか」

 

 

 

__________________________________

 

 

「私はもうゆかりちゃんが誰かに取られちゃうんじゃないか不安で気が狂いそうなの!!!なんでこんなことになっちゃったのか自分でもわからない!!」

 

半狂乱に投げつけられる言葉の数々を一つ一つ受け止める。

 

「だから、誰かがゆかりちゃんを私から奪う前に、ゆかりちゃんが私を捨てちゃう前に、幸せなままで終わらせるの。二人だけの部屋で二人だけの最後を迎えるの。」

 

「どうして、何も言わないの。私、ゆかりちゃんを殺そうとしてるんだよ?」

 

怒気をはらみながら、私をじっと射すくめる。

 

「私はしののことを全部受け止めるって言ったよ?異論はない。一緒に幸せなまま終わろ?」

 

「どうして、、、どうしてゆかりちゃんはそこまで」

 

「もう、引き返せないじゃん。おかしいことは気付いてた。でも止められなかった。迷惑だってことも全部わかってた。だから、最後にゆかりちゃんに嫌われて一人で逝こうと思ってたのに….なんで…」

 

「ゆかりちゃんと一緒に逝けるのが嬉しいって感じちゃうの…..」

 

「大丈夫。覚悟はできてるよ。」

 

「わかった」

 

しのは机の上に置かれた容器から二粒取り出し、手元にある水の入ったコップに入れかき混ぜる。錠剤が溶けだし、水が少しずつ淀んでいく濁っていく。

 

「即効性の毒だよ。5分もあればすぐに逝ける」

 

私は、しのからコップを受け取り一息に飲み干す。それを見たしのも後に続く。

 

あぁ、体がだるい。喉が焼ける。頭が痛い。こみ上げる咳には血が含まれていた。

 

同じく、苦しみだすしのを腕に抱く。あぁ、初めて見た時のあの淀んだ目のままだ。

 

「ごほっ、しの、すごく綺麗だよ。ごふっ」

 

しのは力なく微笑む。

 

「ゆか….りちゃん…..ごめんね……ごほっごほっ」

 

瞳の淀みが消え始める

 

「ありがとう……」

 

完全に淀みが消える。内面を隠していたはずの何かはそれそのものが本質となり、そこには闇だけが存在していた。

 

あぁ、こんな綺麗な瞳は初めて見た。今までより深く、より強く心を惹かれた。そのすべてを愛してあげたかった…..

 

その日初めて私は恋をして、想いを告げられず失恋した。

 

その日の月は誰を照らすこともなく夜を闇に包んでいた。

 




ど う し て こ う な っ た 
当初の予定はもっとハッピーな感じで共依存やったー。依存相手に逃げられないためには相手も自分に依存させることだぞ☆みたいな感じでやろうとしてたら、マイナス妄想が展開されてこんな感じに。。。テーマが失恋だししゃーないですね!!(しゃーなくない)


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