DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 - 作:日下部慎
クラマ達はそれからも滞りなく地下2階の探索を続けた。
何度か休憩を挟んで、およそ夕刻に差しかかる。
しかしダンジョン内では日が差さないため、時間の感覚が薄くなる。
時間の経過が分からない中での探索は、クラマから予想以上に体力と精神力を削っていった。
> クラマ 運量:9527 → 9370/10000(-157)
> クラマ 心量:89 → 81(-8)
> イエニア心量:386 → 371/500(-15)
> パフィー心量:484 → 474/500(-10)
> レイフ 心量:404 → 385/500(-19)
クラマの疲労を見てとったイエニアが提案する。
「今回はクラマの運量も多く残っているので、夜営の練習をしましょう」
こうしてダンジョン内で一夜を過ごすことに決まった。
一行は周囲を警戒しやすい場所に陣取り、夜営の準備を行う。
「はぁ~、もー疲れたわ~」
荷物を置いたレイフがぐったりと横になる。
疲労が溜まっていたのはクラマだけではなかった。
荷物持ちに加えて難度の高いマッピングにより、レイフは心身ともに消耗していた。
疲労困憊といったパーティーの様子を見て、イエニアは言う。
「外の時間ではまだ寝るには早い頃ですが、みんな疲れたでしょうから、交代で休みにしましょう」
2人ずつ交代して就寝と警戒をしようという事になるが……そこでクラマが提案した。
「運量で獣に見つからないようにすれば、見張りなしで休めるんじゃないかな?」
なるほど、といった目で皆がクラマを見る。
しかし寝ている間に運量が切れる可能性もないとは言えない。
そのため、1人ずつ交代で警戒を行うことになった。
「エグゼ・ディケ……寝ている間に野生動物に見つからないように」
クラマの体が金色に光り……そして収まる。
これで準備は完了した。
まずはイエニアが見張りを行う。
交代順はクラマ、パフィー、レイフ。
順番が決まるや否や、レイフはいちはやく毛布にくるまって寝始めた。
「おやすみなさ~い」
「あっ、だめよレイフ。毛布は一枚しかないんだから!」
「ん~? スピュ~……」
パフィーが声をかけた時にはもう寝ていた。
「よっぽど疲れてたんだなあ……」
「しかたないわ。レイフには、わたしたちのぶんの荷物も持ってもらってるもの」
そう言いながらパフィーは、レイフが被った毛布をシワのないように伸ばす。
「よいしょ……うん、これなら3人なんとか入れるわ!」
パフィーはレイフに背中を押し付けるようにして、毛布に潜り込んだ。
そうして横になった状態で、毛布に隙間を開けてクラマを誘う。
「さあ、クラマ。いっしょに寝ましょ?」
クラマは躊躇して、二の足を踏んだ。
毛布にしっかり入ろうとすれば、中で密着することになってしまう。
「どうしたの、クラマ?」
パフィーの純真な瞳がクラマを見つめる。
「……いや、それじゃあ僕も失礼して……」
クラマも毛布に入り、クラマとレイフでパフィーをサンドイッチする形になった。
やはり狭い。が、パフィーは気にせずニコニコしていた。
「うふふ、こうやってみんなで寝るの、久しぶり!」
「前は誰かと一緒に寝てたの?」
「ええ、私の他にも先生には弟子がたくさんいたから。……あ、クラマ。肩が出ているわ。もっと詰めて?」
クラマが詰めると、完全に隙間がなくなって密着する。
パフィーが苦しいのではないかとクラマは心配したが、むしろ喜んでクラマの胸元に顔を埋めてくる。
小さな体。
クラマは改めてパフィーの幼さ実感していた。
そして脳裏によぎる。
もし誰かに「こんな小さい子をダンジョンに連れて行って大丈夫なのか」と言われたら、自分はどう答えたらいいだろう……と。
しかし丸一日ダンジョンを探索して疲弊した体は、クラマに深く思索することを許さなかった。
クラマは横になった途端、泥のように夢の中へと滑り落ちていった……。
> クラマ 心量:81 → 85(+4)
しばらくするとクラマはイエニアに起こされ、見張りを交代する。
イエニアは見張り時の注意をいくつかクラマに告げてから、パフィー達の側で横になる。
鎧を着たままでは狭い毛布には入り込めないので、仕方がなかった。
暗闇の中でランタンの灯りを頼りに、クラマは見張りをする。
見張りを開始してから小一時間ほど経過した頃。
コツ……コツ……と暗闇の奥から物音が聞こえてきた。
クラマは運量を確認するが、減っていない。
皆を起こすべきだろうかとクラマは思案する。しかし、まずは軽く見える所だけ確認してみようと考える。
メガネを取り出して装着。
足音を殺してゆっくりと。
そ~っとランタンを前に掲げて、物音のした方を照らす。
……何もなかった。
目を凝らして見えたものといえば、やや遠くにいくつかの小石が落ちていたくらい。
クラマはしばらく暗闇と睨めっこしていたが、何かがいそうな気配はなかった。
そうしてクラマが
「……え?」
眠っている皆の枕元。
荷袋をあさる人影があった。
そいつはクラマの声に気付くと、バッと弾かれたように飛び退いた。
「みんな、起きて!」
クラマは叫びながら考える。
運量を使って捕まえるべきか?
だが、その人影はまるで雲のような身軽さで、岩から岩へピョーンと飛び移る。
「うっそでしょ……!」
クラマが運量を使う暇もない。
人影は瞬く間に闇の中へと消え去っていった。
「…………忍者?」
およそ人間とは思えぬ身軽さだった。
クラマに分かるのは、ランタンの仄暗い光に映った相手の漠然とした姿。
薄青色の髪と、体を覆うローブ。小柄な体格は、おそらく少女のものと思われた。
「クラマ……? どうしたの?」
「何かありましたか?」
クラマの声で起きてきたイエニアとパフィー。
レイフはまだ寝ていた。
クラマは2人に先ほど起きたことを説明して、荷袋の中を確認する。
すると持ってきた携帯食料と、捕らえた隠れ岩ねずみがない。また、4つあった水袋もひとつになっていた。
「水がなくなったのは痛いですね。これでは探索を続けられません。レイフが起きたら、すぐに帰還しましょう」
「見張りを減らしたりしなければ……」
クラマはいいアイデアだと思ったのだが、裏目に出てしまい後悔する。
「いえ、他の冒険者の存在を考慮に入れなかった私のミスです」
「しかたないわ。みんな賛成したんだもの。暗い顔しないで?」
「……うん。ありがとう」
クラマがガックリときている理由は他にもあった。
携帯食料の中にあったドライフルーツは、貧しい食生活の中の唯一の癒やしだったからだ。
次は必ず捕まえる。
クラマはそう決意した。
起床時間になったところでレイフを起こし、一同は帰還を開始した。
> クラマ 運量:9370 → 9163/10000(-207)
> クラマ 心量:85 → 82(-3)
> イエニア心量:371 → 367/500(-4)
> パフィー心量:474 → 472/500(-2)
> レイフ 心量:391 → 390/500(-1)
帰り道はマッパーであるレイフの指示通りに進んでいく。
「えーっと、こことここが繋がってるから……」
「確かこの付近でイーノウポウ……舌伸び大熊と戦ったはずです」
「あ、そうそう、そうね。だからこっち……」
レイフが地図をめくりながら歩く方向を変えた時だった。
つるりと岩の上でレイフが足を滑らせる!
「あいたっ! ――あら? あ、ちょ、っと」
尻もちをついた先は傾斜になっており、レイフはそのまま坂を転がり落ちていく……!
「ひゃああああああああ!?」
「レイフ!!」
クラマ達の目の前でレイフは岩肌を滑り落ち、闇の底へと消えていった……。
「追いかけましょう。でも足元に気をつけて」
3人は滑らないように注意しながら、レイフを追って坂を降りる。
斜めになった岩は、だいぶ長い坂道になっていた。
傾斜を下りきったところで、3人はレイフの姿を発見した。
「あいたた……いやぁ目が回ったわ」
レイフの無事を確認して、一同は胸を撫でおろした。
坂の下は狭い穴ぐらだった。
圧迫感のある狭さにクラマは地下1階の通路を思い出すが、高さも横幅もそれよりだいぶ狭い。
イエニアはレイフに手を貸して引き起こしながら言う。
「岩は滑りやすいですから、気をつけてくださいね」
「ごめんなさい。でも、こういう所の奥にお宝があったりしないかしら?」
「そんな都合のいいこと……」
イエニアがランタンで周囲を照らす。
すると、目の前に、あった。
長い顔に毛皮を纏った大きな体。
「――っ!?」
全員が息を呑んだ。
いきなり目の前に獣が現れた事もあるが、さらにその巨体。
昨日ここで遭遇したものよりも、二回りは大きい。
成体だった。
「走って!」
こんな狭い場所では戦えない。
捕まれば押し潰されるだけだ。
4人は全速力で穴ぐらの中を走った。
舌伸び大熊は獰猛な唸り声をあげると、クラマ達を追ってきた。
「ヴヴッ……ゥオオオッ!!!」
逃げる。
狭い穴の中を走って逃げる!
足の遅いパフィーをイエニアが小脇に抱えた。
幸いにも穴ぐらが狭すぎて、舌伸び大熊は全力で走れていない。
このまま広い場所に出れば……という時だった。
「あっ!」
レイフが岩の出っ張りに足をとられて転倒する。
「レイフ……!」
イエニアが振り返る!
その時、イエニアは見た。
既に反転して駆け出している、クラマの後ろ姿を。
走りながらクラマは唱える。
「エグゼ・ディケ――」
クラマの目に映るのは、倒れたレイフの足に、異様に長く伸びた大熊の舌が絡みついているところだった。
「――喉の奥まで突き刺され」
唱えて、狙いを定めることを放棄する。
クラマはただ、渾身の力で真っ直ぐに棒を突き出した!
> クラマ 運量:9163 → 9057/10000(-106)
グボォッ、と吸い込まれるように長大な棒が大熊の口に飲み込まれる!
同時に伸ばした舌も口の中へと巻き戻されていく。
レイフが大熊の舌から開放されて、大熊は苦痛にのたうった。
「レイフ! 立てるか?」
クラマは倒れたレイフに声をかける。
だが……
「う……あれ、体が……」
レイフは立ち上がることができない。
クラマはハッとして思い出した。パフィーに教わった事を。
――舌伸び大熊の唾液には麻痺毒の成分が含まれている――!
クラマはレイフを担ぎ上げる!
そして顔を上げると……既に立ち直っている大熊が、目の前でこちらを見下ろしていた。
大熊は眼前の獲物へと動き出す。
「う……!」
絶体絶命。
その時、大熊の前に金色の鎧が立ちはだかった!
「イエニア!」
イエニアは答えず、代わりに唱えた。
魔法の発動句を。
「――ファウンウォット・シヴュラ!!」
> イエニア心量:367 → 337/500(-30)
駆けつけながら詠唱していたイエニアは、発動句を叫ぶと同時、盾の一撃を叩き込む!
空洞に響く
大熊の動きが止まる。
しかしそれも、一時的に怯ませるだけであった。
以前とは体格のまるで違う成体。しかも正面からの打撃では、脳を揺さぶることができない。
打撃で倒すことは不可能だった。
イエニアもそれは承知の上だ。
大熊が動き出すよりも先に、クラマに代わってレイフを背負い、走り出す!
そして――
「クラマ、伏せて!」
イエニアの指示から、ひと呼吸の後。
岩窟に満ちた陰湿たる暗闇を、駆け抜けた紅蓮の炎がまばゆく照らし上げた。
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少し前。
クラマを追って駆け出す前に、イエニアはパフィーに指示を出していた。
「オクシオ・ヴェウィデイー」
指示を受けたパフィーはすぐさま詠唱を開始する。
危険はある。
危険な指示だと分かってはいたが、安全な作戦などを立てている時間はない。
パフィーは唱える。
「ヤハア・ドゥヴァエ・フェエトリ」
――クラマが大熊に棒を突き込んでレイフを救出した。
――しかしレイフが動けず逃げられない。
「燃える、燃える、燃え落ちる。やさしい音の古時計。たくさん描いた似顔絵も。いじわる好きの影鳥も。今ではみんな、すすのなか」
――イエニアが盾殴りで大熊を怯ませる。
――ダメージはない。
――イエニアがクラマからレイフを引き受けた。
「さあ、4つめの扉を開きましょう」
――イエニアが叫んで、クラマ達は壁に寄って身を伏せる。
「フレインスロゥア」
> パフィー心量:472 → 422/500(-50)
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イエニアに言われて地に伏せたクラマの目に映ったのは、一直線に伸びた真っ赤な炎。
炎はパフィーの胸当てから噴き出していた。
噴き出す炎は止まらない。激しい劫火は濁流のように通路を埋め尽くす!
クラマの耳には獣の叫び声が届いていたが、炎の熱気から身を隠すのが精一杯で、振り向いて確認することはできなかった。
体の傍を通る熱気に耐えきれなくなった頃……ようやく炎の勢いが収まった。
クラマは背後を覗き見る。
そこには体毛が燃え落ち、ところどころが黒炭と化して、こんがりと焼き上がって倒れ伏す大熊の姿があった。
クラマは安堵に息をついて、伏せていた体を起こす。
「ふー……」
その時、遠くからパフィーが叫んだ。
「クラマ、息を吸っちゃだめ!」
「え……?」
クラマが頭に疑問を浮かべた次の瞬間、その視界がぐにゃりと
起き上がろうとしていた体がぐらりと揺れる。
一切の抵抗などできず、そのままに。
奈落に落ちるようにクラマは意識を失った。
> クラマ 運量:9057 → 9058/10000(+1)
> クラマ 心量:82 → 63(-19)
> イエニア心量:367 → 332/500(-5)
> パフィー心量:422 → 415/500(-7)
> レイフ 心量:390 → 386/500(-4)