DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第19話

 男の名はヌヴィといった。

 彼はしばらく前からこのアギーバの街で、ダンジョン踏破を目指す冒険者として活動していた。

 パーティーメンバーの2人は、この街に来る前から徒党を組んでいる間柄だ。

 だが、宿はひとりずつ別々に部屋を取っていた。

 女を部屋に連れ込んだ時に周りが騒がしくては、たまったものではないからだ。

 

 ヌヴィは今、自分の部屋へ帰る道を歩いている。

 目につくものに悪態をつき、路端へ唾を吐きながら。

 彼は荒れていた。

 理由は今しがた打ってきた賭け事で負けが込んだから……という、それだけではなかった。

 どうもここ最近、やる事なす事にケチがつく。

 気に入った巨乳の踊り子を誘ってみれば袖にされ、苦労して口説いた冒険者ギルドの経理役は偉いさんのお手つき。

 挙げ句の果てには、美人のウェイトレスがいるとの評判を聞いて足を運んだ酒場では、変な小僧に邪魔された上に、頭のおかしな店主に包丁を投げつけられる始末。

 その時にできた頬の切り傷はまだ治っていない。

 

「あああ~~~~、くそがっ!」

 

 ヌヴィは地面を転がった酒瓶を蹴り飛ばした!

 背後から彼のパーティーメンバーのひとりである、魔法使いのリスウが声をかける。

 

「オイオイ、そんなことで足を痛めたらつまらんぞ」

 

「うーるせっ! くそがよォ~~……あの野郎、見つけたらぶっ殺してやる」

 

 そう、思えば先日のダンジョン探索で、わけもわからず襲われたのがケチのつけ始めだった。

 

「またその話か。ろくに顔も覚えてないのに探しようがない。諦めろ」

 

 クラマに炎の魔法で追い立てられて逃げ出した彼らだが、その時のクラマはイエニアの盾で顔を隠していたので素性が分からない。

 

「うるせェ! 盾はどっかで見覚えあんだよ……くそっ」

 

 苛立ちを隠そうともせずに、ぶつくさ言いながら深夜の街を歩くヌヴィ。

 ついて行くリスウは冷めた顔だった。彼は金にならない事には関わらない主義である。

 リスウは彼らしい建設的な提案をする。

 

「そんな事より、思ったんだがよ。今申請してる次の地球人を受け取ったら、別の街に行くのはどうだ? ダンジョンなんかより宝石店に潜った方がよっぽど稼げるんじゃねえか」

 

 それを聞いたヌヴィはぴたりと足を止めて、背後に向き直った。

 

「お前、天才かよ……」

 

「フッ、褒めるな。地球人を街の外に連れ出すのは禁止されてるが、それこそ運量で何とかなるだろ」

 

「確かに! よォし! そうと決まれば飲み直すかァ!」

 

 ヌヴィは先ほどまでの苛立ちを忘れたかのようにはしゃぎ、リスウと肩を組む。

 静寂に沈んだ通りに、2人の男の笑い声が響く。

 彼らが歩いている場所は繁華街の中心から少し外れており、周囲に立ち並ぶ店はいずれも営業終了し、戸締まりがされていた。

 

 そんな静まり返った道の途中。

 

「……ん?」

 

 男たちは道の真ん中に、ぽつんと女が立っているのに気がついた。

 女は真っ黒な服を着て、闇に溶け込むように佇んでいたので、彼らはすぐ近くに来るまで気付かなかった。

 女好きのヌヴィは一も二もなく話しかける。

 

「どうした姉ちゃん、人待ちか? こんな所にいたら危ないぜ、俺の部屋に泊まっていけよ」

 

 何の捻りもない直球の誘い言葉。

 その短絡的なところがナンパの成功率を下げていることに、彼自身は気付いていない。

 それはともかく、女から返ってきた言葉は意外なものだった。

 

「……あなた方に御用があってお待ちしていました」

 

 しかしその台詞とは裏腹に、女は彼らに顔を向けない。

 口調も事務的で淡々としており、感情が見えない。

 

「あァ? 俺らに用?」

 

「はい。彼が、もう一度どうしても会いたいと」

 

 そう言って、女は手を向けて指し示す。

 男たちは指された方を見た。

 そこは立ち並んだ店と店との間。路地裏へと続く、真っ暗な細道。

 

 暗い。だが目を凝らせば、人影があるのに気が付くことができた。

 そいつは、ずり……ずり……と足を引きずりながら、少しずつ近付いてくる。

 それにつれて、その姿が徐々に明らかになっていく。

 

 

 ぼさぼさの黒い髪。

 薄汚れたボロボロの服。

 闇に溶け込む漆黒の髪は、地球人の証だ。

 

 

「お、おい、あれ……」

 

 彼らは、その姿に覚えがあった。

 名前は忘れたが、薬漬けにして、ダンジョンに置き去りにした地球人の男。

 

 男は路地裏から這いずるように近付いてくる。

 その喉奥から、絞り出すような、か細く震えた声が届いてきた。

 

「……く……り…………くす、り……を……お、ぉぉ……」

 

 ……まさかひとりで戻ってきたのか? と彼らは思いかけたが、そんなはずはない。

 ダンジョンから出れば警備隊がいる。そうすれば保護されるはずだ。突然こんな所に現れるわけがない。

 では目の前の男は何だ?

 

「おい! 何だこりゃあ!」

 

 ヌヴィは傍の女に怒鳴りつける。

 しかし、既にそこには何もいなかった。

 どこに行ったのか、と周囲を見回そうとしたその時だった。

 

 突如、路地裏の男の両腕に火がついた!

 

「あ、あ、あ、あああああああああああ!!!」

 

 耳をつんざくような絶叫。

 そして男は燃え上がる両腕を突き出し、2人に襲いかかってきた!

 

「うおおおおおおおお!? なんだコイツ!?」

 

「やべえ、やべえやべえ! 逃げろ!」

 

「ああああああああああああああああ!!!!」

 

 男たちは脇目も振らずに駆け出した!

 とにかく目の前で起きたことが何なのか分からない。

 正体不明の恐怖から逃れるために、一心不乱に走る……!

 

「はあっ……! はあっ……! ちくしょう! なんだ!? なんだってんだ、ちくしょう!」

 

 そうして走って、走って、走り回って男たちが逃げ込んだのは……彼らとつるんでいる女性メンバーである、プルヌの部屋だった。

 彼らの部屋に行くより、こちらの方が近かったのだ。

 

 そこは冒険者向け集合住宅の一室。

 男たちが扉をダンダンと繰り返し叩いていると、扉が開き、仏頂面のプルヌが顔を出した。

 プルヌの返事も聞かずに、男たちは我先にと部屋の中へ飛び込んだ。

 

「なに~? 何なのも~、これから寝るとこだったんだけど~?」

 

 寝ぼけ眼で文句を言うプルヌ。

 ヌヴィとリスウは先ほど起きた出来事を口々にまくしたてた。

 

「ハァ~? ワケわかんないんだけど? あんたらクスリやってる~?」

 

「やってねえよ! マジだっての!」

 

「あ~ハイハイ、眠いんだからさっさと帰って~」

 

 プルヌはあくびをしながら2人を追い出そうとする。

 するとそこで、床に這っている1匹の虫に目が留まった。

 ……いや、1匹だけではない。

 気付けば、周囲のいたるところから虫が這い出てきている……!

 

「は? ちょ……ちょっと、なにこれ? なにこれぇ~!?」

 

 慌てるプルヌ。

 絶句する男たち。

 這い出る青い甲虫はその数をどんどん増やしていき、見る見るうちに壁や天井を覆い尽くし……やがて部屋は一面真っ青の異様な空間へと変貌した。

 

「ひぃっ!」

 

「う、うわ、うわうわわわ……!」

 

「ぎゃああー! なんじゃこりゃあー!?」

 

 3人は悲鳴をあげて飛び出した。

 ほうほうの体で部屋から逃げ出した3人。

 外に出た彼らは、口々にわめき立てる。

 

「なんなの!? なんなのよ、あれ~!?」

 

「知らねーよバカ! 俺が知るか! 知るわけないだろバカ、俺が!」

 

 そうやって大声で口論していると、隣の部屋からスキンヘッドで筋肉質の男が出てきた。

 安眠を妨害された男は、頭皮に血管を浮かべて怒鳴り声をあげる。

 

「うるせーぞ、てめーら! 夜中に騒ぐんじゃねー!」

 

 しかし今の3人にとっては怒り狂う男も仏に見える。

 3人は助けを求めるように、その男に事情を話した。

 まとまりのない言葉を口々にまくしたてる3人を、男は訝しむ目で見下ろす。

 

「あぁ? クスリやってんのか。ったく、最近の若い奴らはこれだから……」

 

 だが死んだはずの男が手を燃やして追ってきたとか、黒い女がいつの間にか消えただとか、部屋中に数えきれないほどの虫が這い出てきたとか言われても、事情を知らない男がまともに取り合うはずもない。

 男は3人の言葉を与太話と一笑に付す。

 薬なんてやってない、本当に起きたことだと口々に訴える3人。

 男は最初こそ話を聞いていたが、次第にめんどくさくなったのか、ため息をついて提案する。

 

「グダグダ言ってねーで中を確かめりゃいいじゃねーか。開けるぞ」

 

 そう言って男は3人の返事も待たずに、無造作に部屋の扉を開けた。

 するとそこには……

 

「……虫なんていねーじゃねーか」

 

 言われて、3人も恐る恐る中を覗き見る。

 ……確かに、何もなかった。

 あれだけ這い回っていた虫が綺麗さっぱり消え去っている。

 扉を開けた男は、深い深いため息をついた。

 

「ハァ~……お前らな、安モンのクスリなんて使ってっからそうなるんだ。合成ヴァウルだろ? 自分じゃ気付いてなかったんだろうが、前々からお前らの隣を通るたびに匂ってたんだよ。ったく、よく知らねーうちは正規のモン使っとけ、な?」

 

「い、いや、俺らは……使ってたのは俺らじゃなくて……」

 

「分かった分かった。おれぁ寝るからな。次に騒いだら絞め殺すぞ」

 

 ……3人は何も言えなかった。

 隣の部屋に戻っていく禿げ頭の男を、無言で見送る。

 

「……………………………………」

 

 それから3人は恐る恐る、もう一度顔だけ出して中を覗いてみたが……やはり虫はいない。

 さりとて中に戻ろうという気にもなれず、しばらく顔を見合わせた後に、男2人のどちらかの宿で今夜は過ごそうということになった。

 

 

 

 リスウの部屋は狭くて3人も泊まれないのでヌヴィの部屋へ。

 3人は口数少なく歩いた。

 何がなんだか分からない。

 しかしとにかく今は、何も考えずに休める場所が欲しかった。

 

 

 

 やがて3人は、ヌヴィの部屋の前に到着した。

 ヌヴィは扉を開けて中に入り、2人がそれに続く。

 中に入ったヌヴィはきょろきょろを目を走らせて警戒しつつ、これ以上何も起きないでくれと願いながら寝室へと向かう。

 

 果たしてその希望は、彼が寝室へと足を踏み入れた瞬間、脆くも打ち砕かれた。

 

「あ……あ、ああ………?」

 

 ――部屋の中央で、首に縄をかけられた男が吊るされていた。

 ボサボサの黒い頭。

 汚れたボロボロの服。

 入口から背を向けていて顔は見えないが、見覚えのある男の風体。

 入口で硬直しているヌヴィの背後から顔を覗かせた2人が、ヒッと声をあげた。

 

 その声に合わせたように、ぶつりと縄が切れた。

 がたがた、と男の体が壊れた人形のように床に落ちる。

 しかし、それは人形ではない。

 その証拠に、ずるずると不器用に手足を動かして、床の上を這いずってる。

 

「ぅ………ぅ……………な………で………」

 

 男の口から漏れ出てくるのは、地の底から響いてくるような恨みがましい声。

 地面を這いずる男は、やがて入口の3人の方へと頭を向けると……

 

「なんで……なんで逃げたああああああ!!!」

 

 絶叫し、虫のように這い寄ってきた!

 

「きゃあああああああああああああああ!!?」

 

「うおおおおおお!! やばい、逃げろ!!」

 

「お、おまえら待て! 俺を置いて行くな!」

 

 3人はもつれ合いながら競うように出口へと向かい、玄関から外へ逃げだした。

 

 

----------------------------------------

 

「……………………」

 

 3人が逃げだした後、寝室で這いずる男はスッと立ち上がると、外へ向かって悠々と歩きだした。

 

「お、っと」

 

 足を滑らせて転びそうになった。

 見ると廊下が濡れている。

 3人のうちの誰かが失禁したのであろう。

 

 水たまりを避けて、玄関へと向かう。

 男が玄関から外に出ると、そこでは黒い服の女が待ち受けていた。

 女は礼儀正しく一礼してから、口を開いた。

 

「お疲れ様でした、クラマ様」

 

 黒い服の女はティアだった。

 クラマはボサボサの頭を整えながら、ティアと、その後ろにいる一郎、次郎、三郎に向けて言う。

 

「うん。まだしばらく監視する必要はあるけど、ひとまず今日は終わりだね。みんなお疲れ様、手伝ってくれてありがとう」

 

 ……そう。今回の顛末は、すべて彼らが仕組んだものだった。

 

 診療所から服を借りたクラマがダイモンジの役を演じて、男たちを脅かす。

 両手から出た火は、油を染み込ませた手袋を着火した。

 三郎の魔法で熱の伝達速度を遅くして手を守り、男たちが逃げた後はすぐに消火したが、完全には守れずクラマの腕はひりひりと傷んでいる。

 クラマは最初、油の性質を低温でも燃えるように変えようと提案した。これは「ナフサ」というマジックにも使われるオイルをクラマが知っていたから出てきた発想だが、それは三郎の技量では不可能だったので、代わりにこのような形になった。

 そして男たちを脅かした後は、あらかじめ女の部屋の中に隠れていた一郎と次郎が、男たちが来ると同時に部屋へ虫を放つ。

 虫は納骨亭のテフラに頼み、彼女の実家で養殖しているイルラユーヒを借りた。

 女の部屋から3人が逃げた後、一郎と次郎が急いで虫を回収したが、何匹かは回収しきれず今も部屋の奥に残されたままだ。

 最後にヌヴィの部屋に先回りしたクラマが寝室で待ち構える。

 次郎と三郎の事前調査によって、3人が宿泊している部屋の位置関係や間取りが分かっていたので、彼らの行動を予測して待ち受けることができた。

 

「へへっ、上手くいきやしたね、旦那」

 

「次郎さんと三郎さんの調査のおかげだけど……まあ脅かすには最初のインパクトだよね。腕が燃えてるやつが迫ってきたら、そりゃびびるよね」

 

 最初に騙せれば後はいくらでも。

 これがクラマの経験則であった。

 

「よーし、それじゃあ報酬として、三郎さんにはオノウェ調査でサクラの私生活を探る権利を。ただし第三者に広めないこと」

 

「やったでござる」

 

「次郎さんには、彼らの部屋を漁る権利を」

 

「イヤッホォォゥ! 話が分かるっスよ旦那ァ!」

 

 次郎は意気揚々とヌヴィの部屋に駆け込んでいった。

 すると中からドタッとすっ転ぶ音が。

 

「あいてぇ!? 廊下が濡れてやがる!」

 

 続いてそんな声が中から聞こえてきた。

 

 

 

 クラマは時間を見つけては次郎・三郎の2人と対話し、観察して、その人間性を把握していた。

 次郎はこの街に来れば儲かると聞いて、その辺の居酒屋で出会った一郎と三郎を誘ってこの街に来た。

 彼は職業シーフであった。

 スリ、鍵開けが得意な窃盗犯で、前科もある。

 しかしそのわりに小心者で、人の影に隠れたがる。いわゆる子分気質であった。

 サクラの下についているのも、サクラの無駄なリーダーシップと行動力ゆえの事だろう。

 つまり次郎には、リーダーとしての堂々とした態度と、金銭的なメリットを与えてやればいい。

 

 三郎はもっと単純だった。

 彼は女性の私生活を探るためだけにオノウェ調査の魔法を鍛え、それで何か悪さをするでもなく、ただその情報をもとに自慰にふけるという、たいへんに高尚な趣味を持っていた。

 そうして引きこもっていたが、その事実が両親にばれて勘当されるという悲劇に見舞われて今に至る。

 目下、彼の嗜好はサクラに向いている。彼はその特徴的な趣味さえ認めてやれば、無害で、協力的で、正直者で純粋な男だった。

 

「次郎さーん、そろそろ行くよー! 次郎さんが戻ったら三郎さん、オノウェ隠蔽をお願いします」

 

「了解でござる」

 

 そして三郎はクラマの勧めでオノウェ隠蔽をパフィーから教わり、完璧ではないが使用できるようになっていた。

 

 

 指揮を執り、周囲の者を従えるクラマ。

 その様子を眺めていたティアが、口を開いた。

 

「お見事でした、クラマ様。しかしひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「なにかな?」

 

「彼らを脅かすことに失敗した場合は、どのようにされるおつもりでしたか?」

 

「うーん、それね。実を言うと、あんまり自信なかったんだよね」

 

「……そうなのですか?」

 

「うん。この世界は幽霊とかお化けっていなさそうだから、いけるかもとは思ったけど……」

 

 それどころかクラマが見てきた感じでは、モンスターとか魔物とかいった概念もなさそうだった。

 ティアはクラマの言葉に少し補足を付け加える。

 

「魔法使いの犯罪者によって死者が自我を持って動いたりする事はありますが……一般の冒険者が目にする機会は少ないでしょうね」

 

「そうは言っても、追い詰められるとキレて殴りかかってくる可能性とかあるしね。できれば穏便に出ていってもらいたかったから、色々と仕掛けを打ったけど……だめなら普通にやればいいだけだしね」

 

「普通にやる、とは?」

 

 ティアが首をかしげてクラマの顔を見る。

 クラマは曖昧な笑みを浮かべて、言った。

 

「ティアが考えてるのと、たぶん一緒じゃないかな。あんまり選択肢は多くないし」

 

 敢えてぼかした答え。

 ティアはそれで解答を察して、得心した。

 

「……なるほど、分かりました」

 

 そうしてティアはクラマから視線を外して、一歩下がった。

 

「ご回答頂きありがとうございました。隠蔽も終わったようですし、戻りましょう」

 

 言って、ティアは帰り道を歩きだす。

 クラマ達もその後を追って歩く。

 そうしてティアは先を歩きながら、背後にいるクラマに向かって告げた。

 

「今後、こうした事があれば、あらかじめ相談しましょう。わたくしが見当たらない時でも、イエニア様に仰って頂ければ都合をつけますので」

 

「わかった、そうする」

 

 なんとなくぼかしているが、要するに悪巧みをする時は声をかけろということだった。

 ティアにはまだ不明な点が多いが、こうして秘密を共有できる関係になったのは、2人の仲が前進したと考えていいのかもしれない。

 そんなふうに好意的に考えながら、クラマは帰途についた。

 

 

 

 

 

 翌朝、ひとつの冒険者パーティーがアギーバの街を去った。

 隣町へと繋ぐ駅馬車を管理している厩の厩務員は、やけに怯えた男女の3人組が馬車へと乗り込むのを目撃したという。

 リビングでティアからその報告を受けたクラマは、にっこりと微笑んで、火傷の跡が残る手でティーカップを傾けたのだった。

 

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