DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第22話

> クラマ 運量:9196/10000

> クラマ 心量:92

> イエニア心量:495/500

> パフィー心量:472/500

> レイフ 心量:441/500

 

 

 諸々の準備を整え、三度ダンジョンへと降りるクラマ達。

 今までと同様にクラマがパーティーの先頭を進んで、イエニア、パフィー、レイフがそれに続くという構図。

 幅狭い坑道の地下1階。

 獣多き海蝕洞の地下2階。

 これらをパーティーは難なく歩を進め、地下3階へと降り立った。

 

 

> クラマ 運量:9196 → 9083/10000(-113)

> クラマ 心量:92 → 89(-3)

> イエニア心量:495 → 489/500(-6)

> パフィー心量:472 → 467/500(-5)

> レイフ 心量:441 → 433/500(-8)

 

 

 

 そして新たなステージへ。

 地下3階は、これまでとはまた雰囲気がガラリと変わっていた。

 不揃いの赤い石が敷き詰められた壁面。

 古めかしくて狭い通路。

 ひどく陰鬱で、息苦しい空気がフロア全体を漂っていた。

 

「……地下牢(ダンジョン)か」

 

 そんな呟きがクラマの口をついて出た。

 「ダンジョン」とは本来、「地下牢」を意味する言葉である。

 地下3階の雰囲気は、まさに中世ヨーロッパの地下建築といった様相だった。

 

 探索を始める前にクラマが皆に向けてピッと手を挙げた。

 

「ハイ、報告があります。ワタクシ、今回はカンニングいたしました!」

 

 ここ数日間、納骨亭でセサイルから地下3階の情報を仕入れていたことを皆に告げる。

 おー、と3人から感嘆の声があがった。

 

「セサイル……あの人ですか。意外ですね。あまり人にものを教えるようなタイプではないと思っていましたが」

 

「ていうか、今回“も”よね? 前も他の冒険者から先に教わってたでしょ」

 

「でも油断しちゃだめよ! 何か必要なことがあったら遠慮なく言ってね!」

 

 クラマは頷いて、地下3階の探索を開始した。

 ――カツン、カツン。

 石畳を進む4人の足音が反響して、迷宮の奥へと澄み渡っていく。

 

 

 

 ダンジョン地下3階ではこれまでと違って、一瞬で人を即死たらしめる機械仕掛けの罠が張り巡らされていた。

 その危険極まりない罠に対し、クラマがセサイルから教わった対策は実に簡単なものだった。

 

『確かに危ねえが、ここは冒険者は何度もここを往復してんだ。そうなりゃ当然、罠のある場所には目印をつけてる』

 

 ……とのこと。

 目印は光に当たると反射して発光しているように見える、ウェユートバドという獣の毛皮だ。

 これが罠のある近くの壁に打ち付けられているのだ。

 

「あら! 楽でいいわね!」

 

 このフロアは地下2階の鍾乳洞と違ってマッピングも簡単なので、レイフもご機嫌であった。

 クラマは油断せずに長棒を構えて進みながら、後ろに向けて話す。

 

「でも4階から先は駄目なんだって。なんか、目印をつけてもいつの間にか消されたり、分からなくされてるんだとか」

 

「へぇ~、不思議なこともあるのねぇ」

 

 

 

 クラマは目印を頼りに、ひとつひとつ罠を回避して進んでいく。

 ――蜘蛛の巣状に刃が張り巡らされた落とし穴。

 ――仕掛けを踏むと壁から出て両足を切断する刃。

 ――手をつくとトラバサミに挟まれ、そのまま小さな壁の穴に全身を引きずり込む壁。

 いずれも残虐極まりなく、落ちている人骨が目印の代わりになっている場所も多々あるほどだった。

 

「うぇ~、嫌すぎるわねこれ」

 

 罠そのものの恐怖に加えて、密閉された地下に充満する血臭、そして罠に落ちた死体から漂う腐敗臭が鼻をつく。

 探索を進めるうちに、最初はご機嫌だったレイフの顔がどんどん引きつっていった。

 

 そうして歩いていると、不意に金属音が鳴った。

 ――キン、キン……。

 クラマが気付いて足を止める。

 音の発生源は、クラマの手元。

 棒にくくりつけた糸から垂らした、2つのコインから。

 クラマはこのフロアの探索を始める際に運量を使って、「目印の消えている罠が近くにあったら、危険区域に入る前にコインがぶつかって音が鳴って欲しい」という願いをかけていた。

 これまでに何度か鳴っていたが、運量は消費されておらず、ただ歩いているうちに揺れて鳴っただけだった。

 しかし今回は……

 

 

> クラマ 運量:9083 → 9031/10000(-52)

 

 

 運量が消費されていた。

 これは、ダウジングの手法からクラマが考案した新しい方法であった。

 通常、ダウジングでは振り子や曲がった針金などが使われるが、クラマはダンジョン内での気付きやすさを考慮してコインを使用することにしたのだ。

 

 立ち止まったクラマは、メガネをかけて周囲を観察する。

 すると前方右側の壁についているドア。その手前の天井に、いくつもの穴が開いているのに気がついた。

 クラマは棒の先にラバーを取り付ける。

 前回、大熊と一緒に焼けてしまった棒の代わりに新しく(パフィーが)作り、クラマの発案によって先端を付け替え可能になるよう(パフィーが)進化させた棒。名付けてファランクス・オブ・アレクサンドロス・ザ・サード……略して“棒”であった。

 クラマは棒を操り、遠くから器用にドアノブを回す。

 その瞬間、数十本もの鉄の槍が天井の穴から突き出した!

 

「よし。パフィー、この付近に他にも罠が残ってないか調べてくれる?」

 

「ええ、わかったわ! オクシオ・オノウェ! イーギウー・ダジェエヨ・ナウェ・ユイーネバエハ・ギヒ・イウェハシ……真っ赤な布団に眠る彼。寝ようと誘う鉄の腕。他にも腕は伸びてるかしら? さあ、5つめの扉を開きましょう。――オクシオ・センプル!」

 

 

> パフィー心量:467 → 439/500(-28)

 

 

 パフィーが魔法によって周囲の罠を探知する。

 

「……大丈夫よクラマ、近くに他の罠はないわ!」

 

「ありがとうパフィー。じゃあ、皆ついて来て」

 

 クラマの後についてイエニア、パフィーが槍衾(やりぶすま)の横を通過する。

 最後にレイフだが……

 

「あら? あらあら? ちょっ、引っかかって……!」

 

 横歩きで通り抜けようとしたところで、背中に荷袋を背負っているレイフは、胸部前方に搭載した脂肪の塊が引っかかって通れずにいた。

 どうやら早く通ろうと焦って、荷袋を下ろせばいいということに気付いていないようだった。

 

「……………………」

 

 3人は無言で顔を合わせた。

 そうしていると、降りた槍が天井の穴に戻る。

 ――ジャキッ!

 

「うひゃあっ!? うわわわわ……」

 

 レイフは慌てて罠を抜けた。

 

 

 

 ……3階の探索を始めてから、およそ2時間ほど。

 ダンジョンに入ってからは計4時間が経過。

 そろそろ疲労でクラマの集中力も落ちてくる頃なので、落ち着ける場所を見つけて食事休憩に入る。

 

 

> クラマ 運量:9031 → 8428/10000(-603)

> クラマ 心量:89 → 88(-1)

> イエニア心量:489 → 485/500(-4)

> パフィー心量:439 → 434/500(-5)

> レイフ 心量:433 → 426/500(-7)

 

 

 全員が輪になるように座って、レイフが降ろした荷袋から携帯食料を広げた。

 

「ひゃあー、疲れたわ~!」

 

「レイフ、お行儀が悪いわ! 横になりながら食べたらいけないのよ!」

 

「いいじゃな~い。はむはむもぐもぐ……」

 

 だら~っと床に寝そべって携帯食料にかじりつくレイフ。

 他の3人もそれに続いて、広げた食べ物を口に運んだ。

 彼らが頬張っているのは乾燥ウォイブと呼ばれるもの。原料は違うが、だいたいパンと同じようなものだ。

 乾燥させれば長時間保存ができ、携帯にも便利。

 水をかければ、もちもちした餅のような食感になる。

 この世界では多くの国で主食として愛されている食べ物で、焼く、揚げる、鍋に入れるなど、国によって様々なバリエーションの調理法がある。

 レイフは水でふやけすぎてベトベトになったウォイブに苦戦しながら喋る。

 

「うわわわっと……んぐ。そういえば、ここは獣が出ないのね」

 

 3階に降りてからこっち、罠の処理ばかりで一度も獣とは遭遇していなかった。

 イエニアはガリガリと固いままの乾燥ウォイブをかじりながら答える。

 

「罠が危険すぎますからね。何度か小動物の気配はしましたが」

 

「はぁ~……ああいう罠は見るだけで嫌ね。スイッチさえ押さなければ動かないって分かってても」

 

 レイフは心底嫌そうにため息をついた。

 そこにクラマが横から口を挟む。

 

「そうなんだよね。ここの罠って、怖がらせるために作られてると思う。お宝も眠ってないだろうし、できるだけ罠を避けて下の階を目指した方が良さそうだね」

 

 そう言いながら、クラマは水でふやかしたウォイブに塩をつまんで味を調えている。

 イエニアはクラマの言葉に頷く。

 

「確かにおおよそ探索されているでしょうから、拾得物はあまり期待できませんね」

 

「それもあるし……なんていうかな。このフロア自体が侵入者の行く手を阻もうっていう気がなさそうなんだよね」

 

「どういうことですか?」

 

「罠を避けてて思ったんだけどさ。ここにある罠はどれもこれも凶悪だけど、多くて2人くらいしか巻き込まないし、先に誰かが引っかかれば残りの人は先に進める仕組みになってる。罠としてみたら、全然機能的じゃないんだよね」

 

「それは……確かにそうですね……」

 

 イエニアはこれまでに見た罠を思い出して、同意する。

 クラマはさらに考察を続ける。

 

「それにさ。罠を張って大切なものを隠してるなら、自分は通れなきゃならない。罠をオフにできないと危なすぎる。……けど、これまで色んな冒険者がここを通って探索してるのに、いまだに罠が作動したままだ。さすがに罠をオフにする機能がついてないと考えるのが自然だよね。つまりここを作った人間は、ここを自分で通る気がないんだ」

 

「なるほど。……では、こことは別に、宝へ向かう別のルートがあるという可能性はありませんか?」

 

「あるかもしれないね。1階の時みたいに、誰にも知られていない場所が。……でも、探すにもある程度の目星がついてないとなぁ……パフィー、できる?」

 

 クラマはパフィーに疑問を投げた。

 パフィーは乾燥ウォイブを少しずつ水につけて、お行儀よく食べている。

 

「ううん、難しいと思うわ。仮にできたとしても、ものすごく心量を消費してしまう。ここが何の施設で、隠されているものが何なのかが特定できていればいいのだけれど」

 

 魔法による調査は、何を調べたいのかが漠然としていると駄目だということだった。

 

「じゃあ、こうしてみよう」

 

 クラマは棒を地面に立てると、呪文を唱えた。

 

「エグゼ・ディケ。この施設に隠されている裏道があるとして、このフロアをくまなく探索すれば発見することが可能かどうか? 可能であれば右へ、不可能なら左に倒れて」

 

 そう言って、クラマは棒から手を離す。

 棒は左に倒れた。

 

 

> クラマ 運量:8428 → 8204/10000(-224)

 

 

「ダメみたいだね。ってことで、大人しく次の階に進もう」

 

 先ほどのコイン・ダウジングと同様、サクラの運量を使って調査することで新たに発見できた、二択の裏技である。

 もちろん何でも調べられるわけではなく、ポイントは「時間をかければ今の自分たちでも可能なこと」だ。

 今の自分達ではどうやっても調べられないことは特定できないが、調べても意味のないことを調べるという無駄な時間を省くことができる。

 

 それを聞いてレイフは、もう一度大きなため息をついた。

 

「ふわぁ~。それじゃあ、ここを作った人は単なるド変態のサディストだってコトね」

 

「そういう事だね」

 

「そーゆープレイはお断りなのよーーー」

 

 レイフは子供のようにゴロゴロと床の上を転がった。

 そんなレイフにパフィーは近付いて尋ねた。

 

「ねえレイフ、そういうプレイって何かしら……?」

 

 クラマとイエニアは、ハッと顔を見合わせる。

 そして2人は迅速にレイフの口を塞ぐと、パフィーから引き離した!

 

「もがもが……こ、こういうソフトな拘束プレイなら……むぐ」

 

「さあ! 休憩はもういいでしょう! 皆さん、準備しますよ!」

 

 そうして、パーティーは探索を再開。

 クラマはこれまでに得た知識・経験を駆使して、次々に罠を攻略して奥へと進んでいく。

 目と鼻の先をノコギリの刃が通り過ぎようと、腐敗した冒険者の亡骸があろうと、狼狽することなく体を張ってパーティーの安全を確保する。

 まるで熟練の冒険者に率いられるような頼もしさを、イエニア達は感じていた。

 

 

 

 探索の最中、クラマ達は奇妙な一行に遭遇した。

 

 5人組で、全員が同じ灰色の、同じ装備。

 ガスマスクと頭がすっぽり覆われる兜、チェインメイルを装備した一団だった。

 彼らを目にしたイエニアがクラマに告げる。

 

「救助隊ですね。彼らは冒険者ギルドの職員で、冒険者からの救助要請があると出動します」

 

「へえ、そんなサービスもやってたんだ。……でもお高いんでしょう?」

 

「ええ、かなり」

 

 ……と話していると、救助隊の隊員もクラマ達に気がつき、手をあげて挨拶してきた。

 そうして彼らのひとりがクラマに声をかけてくる。

 

「お! 納骨亭にいた兄ちゃんじゃねぇか!」

 

「え、誰?」

 

 マスクのせいで全く分からなかった。

 

「おう! ちょっと待ってろ、今外すからよ」

 

「おいバカ、ダンジョンの中じゃ外すなって言われてんべよ」

 

「おおっと! そうだった、そうだった」

 

 別の隊員に止められて手を止める。

 

「わしらはこれから帰るとこだからよ、気ぃつけてくれや! 突き当たりの右奥の部屋は毒ガスが出るから入るんじゃねぇぞ!」

 

「うん、ありがとう」

 

 そうしてクラマ達に軽いアドバイスをして、救助隊は立ち去っていった。

 彼らが横を通り過ぎる際、生々しい血まみれの死体が肩に担がれているのがクラマの目に留まった。

 救助隊が見えなくなってから、イエニアが口を開く。

 

「救助隊といっても、ダンジョンから戻った冒険者の要請を聞いてから出動たところで、とても間に合いません。実際のところ彼らの仕事は、遺体と遺品の回収になるようです」

 

「なるほどね……」

 

 クラマは得心して、探索を再開した。

 

 

 

 それからだいぶ探索は進んで、そろそろ夜営の準備をしようかという頃。

 依然として様子が変わらぬ赤い迷宮。

 しかし変化というものは往々にして、突如として訪れるものである。

 その時のクラマ達もそうだった。前触れもなく突然と、石の通路を反響して、何処からか人の声がクラマ達の耳に届いた。

 

「誰かーーーーっ! 助けてくれーーーー!」

 

 クラマ達は互いに顔を見合わせた。

 目線で合図すると、クラマ達はその叫び声の発生源へと向かう!

 クラマ達が進んだ、その先に待ち受けていたのは……

 

 

> クラマ 運量:8204 → 7898/10000(-306)

> クラマ 心量:88 → 87(-1)

> イエニア心量:485 → 482/500(-3)

> パフィー心量:434 → 429/500(-5)

> レイフ 心量:426 → 420/500(-6)

 

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