DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第37話

> クラマ 運量:10000/10000

> クラマ 心量:89

> イエニア心量:494/500

> パフィー心量:450/500

> レイフ 心量:495/500

> イクス 心量:471/500

 

 

 クラマ達がダンジョン地下4階へ挑戦する日がやってきた。

 準備を万端に整え、いつも通りに入口で手続きをして、いつも通りに地下深くへと潜っていく。

 イクスはあらかじめ貸家に開いた穴から直通で地下に潜り込んでいる。

 待ち合わせ場所は、イクスがクラマ達に捕まった3階の小部屋上部。

 ダンジョンに降りたクラマ達は滞りなく歩を進めて、集合場所へと到着した。

 

「おっ、いたいた。おーい、イクスー!」

 

「……ん」

 

 集合場所でイクスを見つけてクラマが手を振ると、イクスも小さく手を挙げて応えた。

 この地点からダンジョン地下4階はすぐそこ。

 しかし新しい階に挑戦する前に、イエニアの提案により休息をとる。

 

「ここまでにだいぶ歩きましたので、充分に準備を整えてから4階へ進みましょう」

 

 一同は食事や水分の補給を済ませると、改めて地下4階へ向けて出発した。

 

 

> クラマ 運量:10000 → 9813/10000(-187)

> クラマ 心量:89 → 87(-2)

> イエニア心量:494 → 488/500(-6)

> パフィー心量:440 → 435/500(-5)

> レイフ 心量:495 → 490/500(-5)

> イクス 心量:471 → 467/500(-4)

 

 

 地下4階への階段は探すまでもなくすぐそこにあった。

 わりと広めの階段を、一列になって降りていく。

 

 これまでの1階から3階は小手調べだ。

 すでに隅々まで探索し尽くされている。

 だが、この地下4階からは違う。

 ここから先は、これまでと比べて極端に生還率が落ちると言われている。

 真のダンジョン探索が始まるのだ。

 果たして鬼が出るか蛇が出るか……。

 自然と緊張感が辺りを漂う。

 ……だが……

 

「……長くない?」

 

 最後尾のレイフから、そんな言葉が口をついた。

 レイフの言う通り、階段は長かった。

 しかも途中でカーブしたり幅が狭くなったりする。

 先頭を歩くイクスが答えた。

 

「あと半分くらいかな」

 

「そんなにぃ~?」

 

「でしたら、4階に着くまで荷物は私が持ちましょう」

 

「あ、いいの? ありがとー」

 

 イエニアがレイフから荷物を引き取る。

 その間、クラマは考えていた。

 このダンジョンの規則性のなさについて。

 

「……パフィー、このダンジョンってさ。ひとつのダンジョンじゃないよね?」

 

 唐突にクラマは問う。

 後ろを歩くパフィーは少し驚いてから答えた。

 

「そうね、複数のダンジョンが繋がっているものと考えられるわ。元々、ダンジョンというのは地下に埋もれた古代遺跡。意図的に地下に作られたものじゃないのよ」

 

 この階段はダンジョンの一部ではなく、後世の人々がダンジョンに潜るために作られたものということだ。

 これまで下に潜るための階段は梯子状のものだったので、その違いにクラマは納得した。

 しかしそれは同時に、別の事実を浮き彫りにする。

 

 『最奥にお宝が眠っている』というわけではないという事だ。

 

 もちろん人の手がつかない古代の遺跡なら、あらゆるものに歴史的価値があるだろう。

 しかしそれが役に立つものかどうかは、また別の話だ。

 極端な話、最奥の遺跡が古代のエロ本専門店(アダルトショップ)という可能性すらある。

 それはそれで役に立つのだろうが、多くの人が古代遺跡に期待するものとは少しだけ違っている。

 

 ――自分は何のためにダンジョンに潜っているのか。

 

 クラマは思う。

 それは彼女達と約束をしたからだ。

 必ずダンジョンの奥に連れて行くと。

 ……では、彼女達がダンジョンに潜る目的は?

 彼女達のついた嘘は暴いた。

 しかし、それを受けてもなお、ティアが真実を語ることはなかった。

 それはすなわち、「クラマに知られてはいけない目的がある」ということだ。

 

 ――だとしたら、自分は……。

 

 

 

「ついたよ」

 

 直線的な緑の模様がついた、白い壁。

 イクスがそれに手を触れると、壁がシャッと裂ける。

 ……いや、壁が裂けたのではない。それはドアだった。

 中から薄ぼんやりした光が漏れている。

 果たしてこの中に、求める答えがあるのか。

 クラマは不確かな光に誘われるように、ダンジョン地下4階のフロアへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 そこは地下3階と同じく、しっかりとした壁と道のある人工の施設だった。

 しかし地下3階の造りとは大きく違っていた。

 地下3階は中世ヨーロッパの地下牢を連想させる石を敷き詰めた様式だったが、こちらはなんというか……“近代的”という印象をクラマは受けた。

 途中で区切られていない、しっかりとした一枚の白い壁、そして床。

 白い壁にはいくつもの緑の線が入っている。

 近代的というよりはむしろ、“未来的”というのか、サイバーチックな雰囲気が漂っていた。

 そのフロアについて、パフィーが解説する。

 

「これは地上の遺跡にも多く残っている建築様式ね。《神の粛清》以前のものにはオノウェ調査がきかないから、まったくと言っていいほど解析は進んでいないのだけど……」

 

 未知のものだが、珍しくはないらしい。

 兎にも角にも新しいフロアを探索……というところだが、今回の探索からひとつ大きな変更点があった。

 ここからはクラマではなく、イクスが先頭を進む。

 

「わたしは一度来たことあるから。だいたいわかる」

 

 とのことだ。

 代わりにクラマには別の役目があった。

 

「エグゼ・ディケ……付近に僕ら以外の人が近づいてきたら、コインがぶつかって音を鳴らして欲しい」

 

 地下3階でも使用した形式の、運量の使い方。

 棒にくくりつけた2つのコインが音を鳴らしたら確認するというやり方だ。

 そして今回はそれだけではない。

 さらにもうひとつ。

 

「エグゼ・ディケ……僕ら全員が罠の被害を受けないように」

 

 ここは運量の消費を承知で、あえて範囲を広く設定した。

 このフロアにイクス達を襲った危険な“何か”が潜んでいるのは分かっている。

 となれば、それと対峙する前に戦力を削られるわけにはいかない。

 運量は生物に直接作用しないという性質上、戦闘には不向きなので、探索で出し惜しみはしない。少なくなったら、無理せず地上に戻ればいいのだから。

 ……というのが地下4階での方針だ。

 クラマが運量の使用を終えたところで、イクスがクラマ達に告げる。

 

「じゃあ行くよ。ついてきて」

 

 全員が頷いて、地下4階の探索が始まった。

 

 

 

 

 

 ――カッ!

 

 飛来した矢が白い壁に突き刺さった。

 それは、イクスが投擲したダガーによって糸が切られて発動した罠だった。

 イクスは他にも罠がないかと注意深く周囲に目を向ける。

 

「……ん、大丈夫」

 

 イクスはダガーを拾って進み、クラマ達もそれに続く。

 探索を開始してからこれまでに、6つの罠を彼らは抜けてきていた。

 扉を開けると中から飛んでくる矢。

 置かれた食料を動かすと上から落ちてくる毒液。

 棚に置かれた本を取ろうとすると手を挟むトラバサミ。

 うつ伏せに倒れ、動かすと槍が飛び出る死体。

 作動用の糸を切ると横から飛んでくる振り子の刃。

 椅子を動かすと発生する毒ガス。

 

 イクスもこれらすべてを看破することはできず、いくつかはメンバーが巻き込まれそうになって運量が消費されていた。

 

 

> クラマ 運量:9813 → 8032/10000(-1781)

 

 

「………………………」

 

「クラマ、どうかした?」

 

「いや……やっぱりなって思って」

 

「え? 何が?」

 

 この地下4階は、ダンジョンとしてはおかしな点がいくつかある。

 ひとつは、施設の備品や書類などが一切見当たらないことだ。

 途中で机や棚、ロッカーのようなものを見つけてきたが、出てきたものは罠ばかり。

 地下3階までは「先に入った冒険者に探索され尽くしている」という触れ込みだったが、この地下4階はそうではないはずだった。

 まだ入り口が近い場所なので先人に持ち去られている可能性はあるが……それならそれで、別のおかしな点が浮上する。

 

「イクス、この階の罠って全部こんな感じなのかな?」

 

「……こんなってどんな」

 

 イクスは足を止めてクラマに聞き返した。

 

「いや、なんか……3階は部屋自体、壁自体が罠とか多かったけど……この階って、後から作られたような罠しかないなって思って」

 

 クラマの言葉にイクスは少し思案してから答える。

 

「……そう、だね。建物自体の罠は、ないと思う。たぶん」

 

 仕掛けられている罠は、いずれもブービートラップと呼ばれるものだった。

 人が触れそうな所、近付きそうな所に仕掛けて、かかった者を殺傷する罠。

 言ってみれば標準的な罠だが、それだけにおかしい。

 

 ――『なぜ入口近くにこんな罠が残っているのか?』

 

 こんな一度発動、あるいは解除したら二度と使用できなくなる罠が。

 

「遺跡の備え付けじゃなく、遺跡に来た人間が、後から来た人間を殺すために仕掛けた罠……」

 

 という事はすなわち……。

 

「やっぱり、いるね。冒険者を襲う人間が、この階層に」

 

 キン、キン……!

 コインがぶつかる音。

 クラマの手元にある棒にくくりつけられたコインから。

 クラマは運量を確認した。

 これが鳴るということは――

 

 

> クラマ 運量:8532 → 8473/10000(-59)

 

 

 いる。

 近くに何者かが。

 

 各自、周囲を警戒する。

 すると通路の奥、曲がり角の先から、何人かの足音が近づいてくるのが分かった。

 

「……下がってください」

 

 イエニアが前に出て先頭を張る。

 周囲に緊張感が走った。

 全員が固唾を飲んで見守る。

 そのまま待つと……クラマ達の前方に人影が姿を現した。

 

 曲がり角から顔を出したのは、髭を生やした壮年の男。

 

「おや……珍しい。他のパーティーですか」

 

 紫色の瞳に黄色い髪の、学者風の男だった。

 その後ろから姿を現した仲間のひとり、長身の優男が、クラマの顔を見るや陽気な声をあげる。

 

「おっ! 最近よく見る顔じゃないの。もうここまで降りてきたのかい」

 

「教授。それにリックアンサ」

 

 クラマもにこやかに手をあげて応えた。

 イエニアがクラマに問う。

 

「クラマ、知り合いですか?」

 

「うん、冒険者ギルドによくいるよ。四番街の酒場の二階に住んでる人たち」

 

 素性の知れた冒険者であった。

 イエニアは最低限の警戒をしつつも、彼らと談笑して情報交換を行う。

 

「5階はやばいよぉ? 食人植物に気をつけな!」

 

「私の髭も多少むしられてしまいました。……ところで少しよろしいですかな。ひとり人数が多いようですが……」

 

 クラマ達の肩がぎくりと震える。

 冒険者ギルドの規定では、ひとつのパーティーに4人までとなっている。

 5人連れのクラマ達を見れば、疑問が出るのは当然だ。

 クラマが彼らの疑問に対して答える。

 

「あ、この子は仲間とはぐれたそうで、保護してるんですよ」

 

 と言って、イクスを指す。

 

「ふむふむ、なるほど……おや? その顔……」

 

 何かに気付いて、イクスの顔を覗き込もうとする冒険者の男。

 その瞬間、イクスは身を翻して逃げ出した!

 

「あっ! 待て!」

 

 イクスは魔法具を発動して身を軽くすると、瞬く間に姿を消した。

 

 

> イクス 心量:467 → 437/500(-30)

 

 

 そしてクラマは何も知らない体でクラマは疑問符を並べる!

 

「え? なに? どういうこと?」

 

「彼女は指名手配されている仲間殺しの凶悪犯です。危ないところでしたよ、君たち」

 

「えぇーっ!? そうだったの!?」

 

「ちゃんとギルドの掲示板はチェックしときなさいよ。危ないぜぇ?」

 

「いやあ、気付かなかったね。ありがとー」

 

「オウ。じゃ、俺らは帰るからな。気ぃつけろよー」

 

 そうして手を振りながら彼らは地上に続く道へと歩いていった。

 クラマも彼らの姿が消えるまで手を振り返す。

 それから、しばらく経って……

 

「……行った?」

 

 壁の影からイクスがひょこっと顔を覗かせた。

 

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