DUNGEONS & LIARS - 迷宮が暴く君の嘘 -   作:日下部慎

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第38話

 地下4階で予期せぬ他の冒険者パーティーとの遭遇。

 これを受けてクラマ達は今後どうするか話し合った。

 結果、イクスはパーティーから少し離れてついて来ることになった。

 今回はなんとか誤魔化せたものの、さすがに続けて一緒にいるところを他のパーティーに目撃されるのは良くない。

 

「イクスのおかげで、だいたい罠の傾向は分かった。ここからは僕に任せて」

 

 というわけで選手交代。

 ここから先はこれまでの階と同様に、クラマがパーティーを先導していく。

 クラマは宣言通り、イクスほどではないにせよ、そつなく探索を進める。

 長棒を駆使して罠を察知し、その都度解除する。

 

 

> クラマ 運量:8473 → 6617/10000(-1856)

> クラマ 心量:87 → 84(-3)

> イエニア心量:488 → 481/500(-7)

> パフィー心量:435 → 430/500(-5

> レイフ 心量:490 → 485/500(-5)

> イクス 心量:437 → 433/500(-4)

 

 

 そうして探索を進めていると、かなり広い場所に出た。

 初めて見る場所ではあったが、クラマはその室内の様子からなんとなく用途を推察することができた。

 

「これは……工場かな」

 

 ベルトコンベアのような低い橋が、部屋の中をいくつも走っている。

 ただし動く気配はない。

 こびりついた汚れから、使われなくなってから相当な期間が経っているのが分かる。

 

「ん? あれは……?」

 

 動かぬ機械の代わりに、部屋の中で蠢く者達がいた。

 それは長くて鋭い爪を持つ二足歩行の爬虫類。

 爪トカゲ(クリッグルーディブ)である。

 

「またこいつらか!」

 

 しかしイクスやセサイルから聞いた前情報から、この階層に爪トカゲの群れがいることは分かっていたので驚きはない。

 クラマ達は慌てず臨戦態勢をとる。

 迎え撃つようにパーティーの先頭に躍り出たのは、当然イエニアだ。

 

「下がりながら迎え撃ちます!」

 

 そう言った直後、爪トカゲの群れは一斉に襲いかかってくる!

 その数、10以上。

 イエニアは盾と剣を駆使して、通路を下がりながら応戦する!

 だが、いかんせん数が多い。

 通路もそこまで狭いわけでもなく、一対一で対峙できない。

 通路に溢れた爪トカゲが、イエニアの横をすり抜けようとして――

 

「くらえっ!」

 

 そこへすかさずクラマの突き!

 クラマの手にした棒が爪トカゲの顔をしたたかに打つ。

 

「ギィッ!」

 

 もんどりうつ爪トカゲ。

 ……が、それで動きが止まったのは、ほんの数秒。

 クラマの突きでは、大型の猛獣に対して大きなダメージを与えることができなかった。

 イエニアが交戦中で、巻き込みの危険があるので電撃も使えない。

 では、クラマには何も出来ることはないのか……?

 

「オクシオ・イテナウィウェ!」

 

 否!

 クラマは迷わず唱えた!

 

「ドゥペハ・イバウォヒウー・ペヴネ・ネウシ・オーバウェフー・トワナフ……」

 

「クラマ、それは……!」

 

 パフィーが制止しかけて……しかし途中で言葉を止めた。

 クラマの腰、ベルトにつけたバックルが輝きを放つ。

 そう、これはケリケイラから譲り受けた魔法具。

 パフィーがこの魔法具の中に新しく魔法を入れていたが、クラマに持たせると危険という判断から、ダンジョンの外ではパフィーが預かっていたものだった。

 クラマの新たなる武器が、ついに解禁される。

 

「――ジャガーノート!」

 

 

> クラマ 心量:84 → 59(-25)

 

 

 発動句と同時、クラマは再び突きを繰り出した!

 ドゥッ! と、先程とは違った重く鈍い音がパーティーの耳に届く。

 

「グィアッ!」

 

 クラマの突きを受けた爪トカゲは奇声をあげて地面を転がった。

 倒れた爪トカゲは泡を噴いて痙攣している……。

 そのまま起き上がることができない。

 一撃だった。

 

 

 《ジャガーノート》。

 これは精神・感情を司る第六次元(イテナウィウェ)を操る魔法。

 精神状態を操作し、アドレナリンを分泌。

 心筋収縮力が上昇、血流増大、気道拡張、これによる運動機能の一時的向上。

 そして無意識にかかった筋肉へのリミッター解除。

 

 

 クラマは今、体の内側が燃えるように熱くなっているのを感じていた。

 ドッドッドッと鐘のように鳴る心臓の鼓動。

 口からは体内で熱せられた呼気が白煙となって吐き出される。

 クラマは魔法による精神状態の変化、そして体の変化に思考が引きずられないよう、ひと呼吸を置いて向き直る。

 

「ふーーーーっ………よし。いくよ、イエニア!」

 

「ええ!」

 

 クラマとイエニアが連携を開始。

 イエニアの攻撃の隙を後ろからクラマがカバーし、一体、また一体と爪トカゲを打ち倒していく。

 

「うわ~、すごいわねぇ」

 

「本当、息ぴったりね!」

 

 後ろのレイフとパフィーが感嘆の声を漏らす。

 クラマとイエニアが連携の練習を始めてから、それほど長くはない。いや、むしろかなり短いと言っていい。

 しかし2人は息の合った動きで、爪トカゲの群れを次々と仕留めていった。

 

 実際、それほど形のできた連携ではなかった。

 技量において、クラマはイエニアについていけない。

 ミスも多く、そのたびにイエニアの鎧が不快な爪音を鳴らす。

 だがイエニアはそれが気にならなかった。

 後ろの仲間が何度もミスをしている。なのに、それが怖くない。

 イエニアにとっても初めてで、不思議な感覚だった。

 

 信頼。

 仲間がミスをしないのを信じるのではなく、「仲間のミスで傷を負っても構わない」という思い。

 “仲間”とは何か。イエニアは、騎士団では漠然としか抱いていなかったその言葉の意味を、このダンジョンの中でようやく理解できた気がした。

 

 

 

 やがて最後の一匹をイエニアの盾パンチが吹き飛ばし、戦闘が終了した。

 地面には大量の爪トカゲが死屍累々。

 その中で額から汗を流し、荒く息をつくクラマとイエニア。

 2人はどちらともなく手を上げ、爽やかな笑顔でハイタッチした。

 

 

 

「クラマ、大丈夫!?」

 

 パフィーがクラマに駆け寄ってくる。

 

「ああ、うん。大丈夫、だいじょう……」

 

 そう言うクラマの手から、ポロリと棒が滑り落ちた。

 クラマの手は小刻みに震えている。

 

「う……」

 

 安心して気を抜いたと同時に、クラマの全身を激しい疲労感が襲った。

 膝から力が抜けて、ガクッと倒れそうになる。

 

「クラマ!」

 

 咄嗟に手を伸ばしたパフィーによって支えられる。

 

「あ、っと……ごめん、ごめん」

 

 クラマはパフィーに笑いかけた。

 そんな痩せ我慢も、首まで汗びっしょりで、まともに立てないほどに膝を震わせているようでは無理があった。

 クラマの激しい動悸は未だに収まらず、頭の全体が圧迫されているような頭痛もしている。

 

 ジャガーノートの反動だ。

 地上で一度テストはしていたが、実戦での消耗は予想以上に激しかった。

 

「どこか休める場所を探さないと……」

 

 と、パフィーが周りに目を向けた時だった。

 その目が通路の奥へ釘付けになる。

 クラマもそちらを見やると、奥の方からゆっくりとこちらへ迫ってくるものがあった。

 クラマはそれを見て、ぽつりと言う。

 

「……カバ?」

 

 それはカバに近かった。

 足が短く、ずんぐりと大きな体。そして大きな顔。カバと違ってその体は赤い。

 そいつは奇妙な唸り声をあげて近付いてくる。

 

「ンーーーーーー……ンンオオオーーーー……」

 

「下がって! 危険な相手です!」

 

 イエニアが非常に強い警戒の色を見せる。

 

「ンンンオーー………………」

 

 その獣はある程度まで近づいたところで、ぴたりと唸り声を止め――

 

「ブルオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 突如、狂ったように襲いかかってきた!

 

「くっ……!」

 

 イエニアは踏み込み、打ち下ろすように盾の一撃を与える!

 敵の突進が加速する前に止めようというイエニアの考えだが……

 

「ブルッ……ルオオオオオッ!!」

 

 止まらない。

 まるでダンプカーのようにイエニアを押しのけ、突き進む!

 

「このっ……止ま、れっ……!」

 

 盾越しに押し返そうとするイエニアだが、わずかに勢いが弱まる程度。

 獣の突進はまるで止まる気配を見せない。

 イエニアで止められないのでは、対抗する手段はひとつしかない。

 パフィーは既に詠唱を開始している!

 

「オクシオ・ヴェウィデイー! ボース・ユドゥノ・ドゥヴァエ・イートウ……」

 

 だが、まだ発動できない。

 目の前の猛獣は人間よりも大きく、分厚い皮と皮下脂肪に守られている。

 脂肪は電気をほとんど通さない。

 威力を高める陳情句が必要だ。

 

 しかし、陳情句を唱える暇もなかった。

 敵の勢いは止まらず、もう目の前まで押し寄せてきている……!

 低い威力でも、今すぐ発動するべきか?

 迷うパフィー。

 その耳に届いた、クラマの声。

 

「パフィー、続けて」

 

 次の瞬間、背後からパフィーの横を白銀の刃が通り過ぎた!

 

 ドドドッ!

 

「ブギュルッ、ルオッ、オオオオッ!!!」

 

 ダガーの投擲!

 何処からか飛来した3本のダガーは獣の顔に突き刺さり、そのうち1本が目を刺し貫いていた。

 痛みに暴れる獣。その勢いでイエニアが壁に叩きつけられた!

 

「ぐ! う、っ……」

 

 衝撃に苦悶の声を漏らすイエニア。

 その間にパフィーが詠唱を紡ぐ。

 

「ここにはない、どこかの光。あるはずなのに、だれも知らない、世界のひみつ。今だけ顔を覗かせて。自然の中の、4つの力の、そのひとつ。さあ、4つめの扉を開きましょう」

 

 同時に、クラマが力を振り絞って銀の鞭を飛ばす。

 そして――パフィーの詠唱が完了する!

 

「ディスチャージ!」

 

 

> パフィー心量:430 → 405/500(-25)

 

 

 パッ! と大きな火花が散った。

 火花の後、獣は大きく口を開けたまま静止する。

 一瞬の出来事に、鳴き声をあげる暇もない。

 ……やがて少しずつ周囲に漂ってくる焼け焦げた匂い。

 見れば獣の体からは煙が漏れ出し、銀の鞭が触れていた場所は真っ黒に炭化していた。

 そうしてしばらくしてから、獣は思い出したかのように、ゴロリとその巨体を横に倒した。

 

 ふーっと安堵の息をつく一行。

 クラマは後ろのイクスに向かって手をあげた。

 

「イクス! よくやってくれた!」

 

 ダガーの投擲によってパーティーの窮地を救ったイクス。

 イクスは特に返事することもなく、「じゃ」とでも言うように片手をあげて去っていった。

 あまりにもクール。

 しかし、その表情は心なしか得意げに見えた。

 

 

 

 

 

 その後、クラマ達は罠のない部屋まで戻って休憩をすることになった。

 クラマは早速、食事の準備を始める。

 

「おっ、クラマのごはんね! 待ってました!」

 

「わぁい! クラマ、わたしも手伝うわ! なんでも言って?」

 

「私も手伝いましょう。もちろんレイフも」

 

「はあーい」

 

 疲労の激しいクラマはパーティーの皆に手伝ってもらって、料理を進める。

 まずは倒したばかりの獲物の肉を、イエニアにみじん切りにして挽肉状態にしてもらう。

 次にパフィーに指示を出し、刻んだ香草、香辛料、さらにチェーニャ鳥の卵とウォイブの粉を挽肉に混ぜ込んでいく。

 それを拳程度の大きさに分けて、少し平たくして、後はクラマがフライパンで焼きあげ……

 最後にレイフが皿を手に待つ!

 

 ――パーティー4人の共同作業による、ダンジョン風ふっくらハンバーグ、完成!

 

「やったあ! とってもおいしそう!」

 

「本当、いい匂い。手伝ったおかげで、いい感じにお腹もすいてきたわね!」

 

「あの、レイフは何かしましたか……?」

 

 挽肉にすることで固い肉でもおいしく食べられるという、クラマのアイディアであった。

 ただしイエニアの存在が必須の料理である。

 固い獣の肉を専用の道具もなしにミンチにする作業は、結構な重労働であった。

 そうして完成したところで、クラマは部屋の外に向かって言う。

 

「ごはんだよー」

 

 壁の影からイクスがひょこっと顔を出した。

 

 

 

 そうして5人揃って楽しい食事の時間。

 ソースは卵に香味野菜と植物油を混ぜ合わせたニニオソースと、納骨亭秘伝のタレを薄めたものの二種類を用意した。

 パフィーはニニオソースをかけ、レイフは両方のソースを混ぜるという新しい試み。

 イクスはハンバーグを2つに分けて、それぞれに別のソースを使用した。

 そしてイエニアはソースをかけずに、そのまま食べた。

 

 「失敗した~!」とかいうレイフの悲鳴を聞きながら、クラマも食べる。まずはソースをかけずに。

 口に入れるとウォイブの粉を入れたせいで、普通のハンバーグよりも食感がもっちもっちしていた。

 

「……うん。これはなかなか」

 

 独特だが悪くない。香辛料のおかげで臭みも気にならない程度に抑えられていた。

 次に秘伝のタレをかける。

 

「おっ、これは……!」

 

 すると臭みがほぼなくなって、非常に食べやすくなった。ピリリと辛みもあって、食が進む。

 最後はニニオソースをかける。

 

「うん、うん。なるほどなるほど……」

 

 こちらはソース自体の香りが強く、かなり誤魔化している感はあったが、それだけに普通の美味しさがあった。

 仕込みの段階でしっかり臭みを取れば、もっと良くなりそうだとクラマは思った。

 

「……ん?」

 

 ふと、イクスにじっと見られていることにクラマは気がついた。

 その手にある皿は空になっている。

 

「イクス、まだ食べる?」

 

「……ん」

 

 イクスは小さくコクリと首を縦に振った。

 そこにすかさず、横から追従する者が現れる!

 

「ええ、育ち盛りの人達には、これだけでは少ないでしょう。しかし安心してください。挽肉は私が作りますので、クラマは料理に専念してください!」

 

 クラマの返事も聞かずに、意気揚々と挽肉作りを始めるイエニア。

 どうやらイエニアにも足りなかったようであった。

 

「じゃあ、今度はつみれ汁にしてみようかな」

 

 こうしてゆっくり食事に時間を取って、クラマも体と心を休めることができた。

 

 

> クラマ 運量:6617 → 6719/10000(+102)

> クラマ 心量:59 → 67(+8)

> イエニア心量:481 → 476/500(-5)

> パフィー心量:405 → 401/500(-4)

> レイフ 心量:485 → 480/500(-5)

> イクス 心量:433 → 430/500(-3)

 

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